著者
堀内 謙二
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.3-23, 1994-01-17
被引用文献数
1 1

抽象解釈は,プログラムの様々な特性を解析するための手法を統一するものとして提案された理論的な枠組である.1977年にCousot達によって提案されて以来,様々な言語に対する解析の応用例が研究されている.論理プログラムに限ってみても,そのバックグラウンドにあたる意味論や抽象化される領域などによって様々な分類ができる.しかし,ほとんどすべてのアプローチを「プログラムの意味を不動点で与え,それを抽象化する」という同じ範疇に入るものと見ることができる. 本稿では,論理プログラムを対象とした様々な抽象解釈の手法について,簡単な例をまじえて解説する.なお,論理プログラムの基礎的な用語に関しても,unificationなどのような基本的操作を除いて,簡単に説明してある.
著者
松本 裕治 杉村 領一
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.308-315, 1986-10-15
被引用文献数
8 1

構文解析システムSAXは,DCG (Definite Clause Grammars)で記述された文法を対象とする自然言語処理用のシステムで,DCGをPrologのプログラムに変換するトランスレータより成る.変換の手法自体は,DCGで記述された文法規則から並列論理型言語への変換を目的として考えられたものであるが,逐次型言語の上で実現されても効率のよい構文解析システムとして利用することができる.SAX (Sequential Analyzer for syntaX and semantiCS)は,特に逐次型言語の上で開発されたシステムの呼び名である.並列論理型言語の上で実現されたシステムは,PAX (Parallel AX)と呼ばれる.変換によって得られたPrologプログラムは,Prologに完全にコンパイルされたものになっており,副作用を用いないことやプログラムの動作が決定的になっていることなどの特徴がある.本システムは,特に,コンパイラを有するPrologに向いた構文解析システムである.
著者
赤間 清 野村 祐士 宮本 衛市
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.447-464, 1995-09-18
被引用文献数
25

文の意味は,それが発話された状況や,話題の領域の背景知識などを柔軟に用いて適切に解釈する必要がある.しかし,多様な状況を適切に分類して,正しいアルゴリズムを書き下すことは多くの場合非常にコストがかかる.また,文の意味を解釈する場合に,あらかじめ定めた計算順序にしたがって処理を進めると,無駄な計算をたくさん行なうことになり高速な処理が期待できない.これらの問題を解決するために本論文では,いろいろな場合にわけてアルゴリズムを書くことを避け,対象領域の基本的な知識や状況を宣言的なプログラムとしてモジュール性高く記述し,正当性の証明された変換ルール群を用いてプログラム変換によって意味解釈を行なう方法を提案する.この方法は,計算の正当性,対象とルールの表現力,計算順序の柔軟性などの点で著しい特長を備えており,自然言語の意味解釈を正当性を保証しながら効率的に実現するために有用であると考えられる.
著者
中嶋 辰成 青戸 等人 外山 芳人
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_294-3_306, 2014-07-25 (Released:2014-09-10)

等式論理において,自然数やリストなどのデータ構造上で成立する等式を帰納的定理とよぶ.与えられた等式が等式論理の帰納的定理であるか否かは一般に決定不能であるが,いくつかの部分クラスに対する決定手続きが知られている.FalkeとKapur (2006)が与えた決定手続きは書き換え帰納法に基づく.一方,外山(2002)は,帰納的定理判定問題を2つの抽象リダクションシステムの等価性判定問題としてとらえることで,書き換え帰納法が帰納的定理の決定手続きとなるための十分条件を示した.しかし,この両者が保証している決定可能な帰納的定理のクラス間には包含関係がない.そこで,本論文ではこれら2つのアプローチを組み合わせることにより,従来保証されていた決定可能な帰納的定理のクラスを拡張する.
著者
浜田穂積
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.241-249, 1984
被引用文献数
3

電子計算機の内部で実数値を表現するための新しい表現法URR (Universal Representation of Real numbers)を先に提案した.これは実数値の区間に適用する2分法に共づいており,1から∞に向って,あるいは0に向って分割点が二重指数的に増大あるいは減少するように選ぶものである.ここではそのURRについて更に広い視野からの位置づけをし,かつより詳しく検討した. URRの特徴は次のものである.(i)オーバフロー,アンダフローが事実上起こらない.(ii)データ形式はデータの長さに依存しない.(iii)同じ長さの固定小数点表現と比べて,分解能に関して1ビットの不利に止まる.これらの点から,ディジタル装置に用いる数値表現として最適のものといえよう. 高次代数方程式のGraeffeの解法に適用して妥当な結果を得た.URRの演算論理は特に複雑ではなく,容易に構成可能である.
著者
角田 雅照 戸田 航史 伏田 享平 亀井 靖高 ナガッパン メイヤッパン 鵜林 尚靖
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.2_129-2_143, 2014-04-24 (Released:2014-05-22)

本研究では,上流工程の活動実績に基づく工数見積もりに着目し,その見積もり精度を定量的に評価する.具体的には,上流工程での実績工数を説明変数とする開発総工数見積もりモデルを作成し,ソフトウェア規模に基づく工数見積もりモデルと精度を比較する.さらに,実績工数とソフトウェア規模の両方を説明変数とした場合のモデルとも比較する.実験ではISBSGデータセットを用い,計画工程と要求分析工程を上流工程とみなしてモデルを構築した.実験の結果,計画・要求分析の合計工数とソフトウェア規模の両方を説明変数として用いることにより,見積もり精度が最も改善する(BRE(Balanced Relative Error)平均値が148.4%から75.4%に改善する)ことがわかった.
著者
栗原 一貴 五十嵐 健夫 伊東 乾
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.14-25, 2006-10-26
被引用文献数
10

本論文では,資料の作成から発表までを電子ペンによって統一的に行うことのできるプレゼンテーションツールを提案し,実用システムの開発と教育現場における長期ユーザスタディによりその有効性を検証する.まず事前調査を行い,従来のツールでは満たせないプレゼンテーションに対する現場ニーズを分析した.その結果,資料の作成・編集をIT初心者でも簡便に行うことができる機能と,発表中であっても資料を動的に編集できる機能が重要であるという知見が得られた.これに基づき,電子ペンの持つ直感的操作が可能な特性と,絵画的表現および言語的表現を自由に空間に配置・操作できる特性を活かした電子プレゼンテーションツール「ことだま」を開発した.そして小中高校の教員を被験者とする2年間にわたる長期のユーザスタディを行った.その結果ことだまの有効性が実証され,教育現場への応用で必要となるプレゼンテーションツールデザインのための知見が得られた.
著者
原尾 政輝 岩沼 宏治
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.41-53, 1991-01-14
被引用文献数
6

ある言語におけるユニフィケーション問題とは,その言語の任意の項t_1,t_2が与えられたとき,σ(t_1)=σ(t_2)となる置換(ユニファイア)σが存在するか判定する問題である.ユニフィケーションは,定理証明の機械化や記号処理等と関連して重要である.本稿では,高階論理における項のユニフィケーションについてアルゴリズム論的立場から考察する.一般に,2階以上の項のユニフィケーション問題は決定不能であるが,いくつかの制限付き導出規則の下でユニフィケーション問題が可解となることを示す.また,実用上有用な2階のクラスについて,計算の複雑さがNP-完全となるものが存在することを示す.
著者
鄭 顕志 清水 遼 高橋 竜一 石川 冬樹
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1_49-1_59, 2014-01-27 (Released:2014-03-27)

実行時に起こる変化を検知し,要求を満たし続けるようソフトウェアの構造・振る舞いを自身で変更するソフトウェアは,自己適応ソフトウェアとして,その有用性が認知されている.自己適応ソフトウェア開発では,従来のアプリケーションロジックに加え,自己適応性のためのロジックを設計する必要がある.本論文では,近年特にソフトウェア工学の分野で議論されている,自己適応ソフトウェアのための自己適応性設計に関する研究動向を調査する.本論文では,自己適応性のロジックをモデル化する手法として広く用いられている,Monitor-Analyze-Plan-Execute-Knowledgeループの観点から,各要素の概要,研究課題,既存研究のアプローチを紹介し,今後の研究課題について議論する.
著者
新屋 良磨
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.3_163-3_179, 2013-07-25 (Released:2013-08-31)

Abstract Numeration System (ANS)は自然数と言語を一対一に対応づける記数法(Numeration System)である.本論文では,正規言語Lについて,Lに属する文字列wのL上のANSでの数 – wのL内での順番の計算によって圧縮を定義する.さらに,ANSによる圧縮では: (1) (無限集合である)正規言語Lから平均圧縮率を計算可能.(2) 圧縮対象の文字列長に対し準線形時間で圧縮可能.(3) 圧縮対象文字列wを分割して並列に圧縮可能等の良い性質を持つことを示す.本論文において,特に断らない限り任意長整数の乗算が定数時間で計算可能な一様コストモデルを仮定するが,乗算にコストがかかる場合での議論や解決策の提案も行う.
著者
丸山 宏
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.262-271, 1990-07-16

自然言語における組合せ的な数の構文的曖昧さを一つの制約充足問題として表現するため,我々は制約依存文法を開発した.本論文では,制約依存文法の定義と,その弱生成力について論じる.我々は,arity=2,degree=2の制約依存文法が,その弱生成力において文脈自由文法を真に含むことを示す.
著者
竹内 広宜 中村 大賀 荻野 紫穂 水野 謙 岩間 太 鎌田 真由美
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1_53-1_64, 2013-01-25 (Released:2013-03-25)

ソフトウェア開発プロジェクトにおいて文書成果物は重要な役割を担っている.一方,大規模なシステム構築プロジェクトでは様々な文書成果物が大量に作られ,人手による品質分析には限界がある.近年,開発プロジェクトで作成される文書成果物に対して,文書構造分析,文字列解析,自然言語処理といった技術を適用する研究が行われている.本論文では,これらの技術によって実現される文書成果物の分析と活用方法について概観する.
著者
千葉 滋
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.438-443, 1993-09-16

私は初めて海外の学会に参加した際,親切な先輩から,入国審査のときに入国目的は"business"ではなく"sight seeing"と答えた方がよいと教わった.学生風の格好で"business"と答えると,あれこれ聞かれるから,というのが理由である。そういうわけで今回カナダのバンクーバーで開催された1992年度のOOPSLAに参加した際も,私はバンクーバーの入国審査で"sight seeing"と答えた.すると入国審査官はじろりと私を見て,「00PSLAじゃないの?」と言ってきた.仕方がないので,そうだ,と答えると,その女性の審査官はぴしゃりと「OOPSLAはbusinessよ」と言ってスタンプを押してくれた.
著者
前岡 淳 田辺 良則 石川 冬樹
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.3_109-3_122, 2013-07-25 (Released:2013-08-31)

Java PathFinder (JPF)に代表されるソフトウェアモデル検査技術は,テスト工程における不具合検出に有効であるが,状態爆発への対応が課題となる.この課題を解決する手法として優先度に基づくヒューリスティック探索手法が提案されている.プログラムによって適する探索手法や優先度の付け方が異なるため,有効なヒューリスティック探索手法が多数存在することがのぞましい.本論文では,「範囲限定探索」に基づくヒューリスティック探索手法を提案する.従来手法は,ヒューリスティック関数によって各状態から不具合に早く到達できるかを見積もり,これに基づいて探索順序を決定する.これに対して提案手法では,「探索打ち切りポリシー関数」によって各状態から不具合に早く到達できるかを判断し,見込みが低い場合にはその状態からの探索を打ち切る.提案手法の有効性を検証するためにJPFに実装し,検証ツール評価用に作成されたテストプログラムを用いて既存手法との比較実験を行った.Javaによるテストプログラムを用いた実験の結果,提案手法が状態数比で2倍以上優位となるケースを確認し,ヒューリスティック探索の適用の幅が広がることを示した.
著者
倉橋 節也
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.4_252-4_260, 2008-10-28 (Released:2008-11-30)
被引用文献数
1

本研究では,中国の家系記録「族譜」をもとに,科挙合格者を多く輩出したひとつの家系を約500年に渡ってエージェント技術を用いて分析を行った.家系ネットワークと個人のプロファイルデータをそれぞれ隣接行列と属性行列として表現し,実プロファイルデータを目的関数とする,マルチエージェントモデルによる逆シミュレーションを実施した.その結果,家庭内において子供への文化資本の伝達には,祖父と母が大きな影響を持つことがわかり,家族が維持する規範システムの一部を発見できた.本モデルによって,逆シミュレーション手法を用いたエージェントベースモデルが歴史学や人類学の分野において,新たな知識の発見に貢献できることを示した.
著者
伊藤 孝行
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.20-32, 2008-10-28
参考文献数
63
被引用文献数
3

計算論的メカニズムデザインは,分散された個人情報を持つ自律的意思決定主体(エージェント)の社会的決定と,計算量や通信コストといった計算機科学の概念を同時に扱う新しい分野である.ミクロ経済学やゲーム理論の概念及び知識と,マルチエージェントシステムや計算機科学の概念及び知識が必要となる.さらに,計算論的メカニズムデザインは,理論からダイレクトに応用が可能な分野の一つである.本解説では,古典的メカニズムデザインの基本概念を概説した後,組合せオークションなどの計算論的メカニズムデザインの基本問題を解説する.その後,現在,計算論的メカニズムデザインの分野で注目されている課題やテーマについて紹介する.
著者
鄭 顕志 中川 博之 川俣 洋次郎 吉岡 信和 深澤 良彰 本位田 真一
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.4_121-4_132, 2008-10-28 (Released:2008-11-30)
被引用文献数
1

ユビキタスコンピューティングにおけるアプリケーションは,実世界の状態を把握し,ユーザに対してより積極的なサポートを行わなければならない.このようなアプリケーションを効率良く開発するためには,従来とは異なる新たなアプリケーション開発手法が必要となり,数多くの研究が行われている.本論文では,ユビキタスコンピューティングにおける,アプリケーション開発手法に関する研究動向を調査し,傾向と問題点を整理する.