著者
平賀 正樹
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.170-178, 1989-04-14
被引用文献数
1

近年,情報処理分野で日本語プログラミング言語が話題になっているが,その中の代表的なものにMindがある.Mindは,もともとForthから派生したパソコン用コンパイラ言語である.そして,その日本語記述能力による初心者用言語というイメージに反して,最近では開発用言語として使用されている場合が増えてきている. 本稿では,このMindの概要を述べるとともにそのプログラム記述能力などについても言及する.またMindによるアプリケーションの開発事例を紹介し,今後の課題も含めて考察する.
著者
村山 敬 工藤 晋太郎 櫻井 健 水野 謙 加藤 紀夫 上田 和紀
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.2_47-2_77, 2008 (Released:2008-06-30)

LMNtalは階層グラフ書換えに基づく言語モデルであり,リンク構造による接続構造と膜による階層構造の表現・操作機能によって,動的データ構造や多重集合書換えを扱うプログラムを簡潔に記述することができる.LMNtalは書換え規則の適用を単位とする細粒度の並行性をもっており,正しく効率的な実装方式は自明でない.そこで言語処理系をJavaを用いて開発し,効率をできるだけ犠牲にせずに正しく動作する実装方式を確立した.処理系は中間命令列へのコンパイラ,その解釈実行系及びJavaソースへのトランスレータからなり,他言語インタフェースをはじめとするさまざまな有用な機能を備えている.複数の膜を貫くリンク構造を正しくつなぎかえるための処理や,複数の膜にある書換え規則を正しく非同期実行させるための工夫も行っている.本論文では,処理系開発において主要な技術的課題となった階層グラフ構造の保持方法,中間命令体系,安全な非同期実行方式等を中心として,公開中のLMNtal処理系の設計と実装について論じる.
著者
中村 美惠子 宮下 芳明
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1_118-1_129, 2012-01-26 (Released:2012-02-26)

人間の知的創造活動を支援することは,情報科学の分野でも大きなテーマの一つである.本論文では知的創造活動を支援する認知ツールの設計に欠かせない,認知科学,社会心理学,行動経済学など様々な分野での新しい知見を紹介する.また,人間の知覚や認知に基づいた認知ツールの試みも紹介しながら,認知ツールひいては人間と計算機のインタラクションの展開について予測する.
著者
横田 隆夫
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.412-419, 1996-09-17

今年の2月21日の朝日新聞夕刊に「2000年,コンピュータが迷う,ソフト修正1兆円の特需」という記事が第1面に載った.コンピュータのソフトウェアが西暦の年数を下2桁でしか持っていないために,西暦2000年になると多くのシステムが故障をするという.その対応策を2000年到来前に立てなければならないが,それを多くの企業がここ数年のうちに実施するために情報処理業界は特需になるということである.また,「日経コンピュータ」の今年の5月27日号にも「2000年問題待ったなし」という見出しで特集された.ユーザーの動きに呼応して,メインフレーマを中心にベンダー側も2000年対応のサービスとツールを整備しつつある,と最近の状況を伝えていた.他にも,昨年から今年にかけて新聞や週刊誌にまで,2000年問題の大きさや喚起に関する記事が数多く掲載された.果たして2000年問題の実態はどうなのであろうか.最近では,インターネットのニュースグループを通じて,この2000年問題に関する議論が学者や企業の専門家の間で活発に行われているが,この内容などを参考にして2000年問題の起こった必然性とその大きさ,対応策などについて論じ,日本ソフトウェア科学会員の皆様のお役に立てばと思う次第である. 以下,アプリケーション,特に業務システムを中心に論じる.
著者
山本 哲男 松下 誠 井上 克郎
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.250-260, 2001-05-15
被引用文献数
1

近年,ハードディスクの容量は飛躍的に大きくなり,その値段は急速に低下してきている.ディスク容量が十分に大きければ,不要なファイルを消す必要がなく,変化する全てのバージョンを保存できると考えられる.本論分では,まず自動的に全てのファイルの変更を保存する堆積型ファイルシステムMoraineを提案する.Moraineでは常に最新のバージョンが透過的に操作可能であり,記録されたバージョンを容易に取り出すことが可能である,また,Moraineを用いたソフトウェアメトリクス環境であるMAME(Moraine As a Metrics Environment)を提案する.MAMEはソフトウェア開発に用いることにより,開発の途中あるいは終了時にさまざまなメトリクスデータを収集し分析することを可能にする.
著者
阿萬 裕久
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.3_115-3_120, 2012-07-25 (Released:2012-08-20)

コードレビューは重要な品質保証活動であるが,現実には予算や納期の都合により網羅的な実施が難しい場合も多い.そこで本論文では,限られた予算内で“どのモジュールを重点的にレビューすれば最も高い費用対効果を期待できるか”という問題に着目し,各モジュールでのフォールト潜在の可能性,レビューコスト及び他のモジュールとの結合関係を総合的に考慮した0-1計画問題として定式化する手法を提案している.そして,六種類のオープンソースソフトウェアに対するシミュレーション実験を行い,提案法の有効性について論じている.
著者
原田 康徳 Yasunori Harada NTT基礎研究所 NTT Basic Research Laboratories
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.271-274, 1996-05-15
参考文献数
3

3回目となったWISS (Workshop on Interactive Software and Systems)は広島県加計町温井スプリングスで開催された.プログラム委員長は,2年間続いたSony CSLの竹内影一氏に代わり,筑波大学の田中二郎先生である.今回の参加者は約90名と,年々増加の傾向にある.古くて新しいテーマであるインタラクティブシステムも,ハードウェアの進歩に伴い,次々と新しいアイデアが産まれているようである.
著者
花田 良子 佐藤 史隆 廣安 知之 三木 光範 鈴木 泰博
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1_91-1_100, 2007 (Released:2007-06-11)
被引用文献数
3

本研究では,ネットワークの特性量を目的関数とした最適化問題として定式化し,ネットワークを設計する.設計されたネットワークの持つ特性と複雑ネットワークの持つ特性とを調査,比較して検証することで,一般的に複雑ネットワークが有する特性は何に起因しているかを探求するアプローチを提案する.本論文では,その基礎的な検討として,最適化手法に遺伝的アルゴリズム (Genetic Algorithms: GA) を用いた場合のネットワーク生成の検討と,設計したネットワークを複雑ネットワークの視点から検討する.本論文で,目的とした特徴は,平均パス長やクラスター係数である.設計したネットワークを検討した結果,これらの目的には一部トレードオフの関係が存在することが明らかとなり,単一目的のGAよりも多目的GAの適用により検討することが適当であることが明らかとなった.
著者
河邊 昌彦 二村 良彦
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.363-368, 2003-07-25

頂点にラベルの付いた連結グラフのランダム生成は,グラフアルゴリズムの評価のために重要である.本稿では,グラフのランダム生成に必要な構成比を近似する方法を提案し,それによって高速な生成が可能であることを示す.グラフアルゴリズムの評価には,特定の性質を有してランダムに生成されたグラフが多量に必要である.また,ネットワークのシミュレーション等に関しても,テストデータとしてランダムに生成されたグラフを必要とすることがある.その際,グラフ生成が高速であることと同時に,生成されるグラフのランダムネスに関しても高精度であることが要求される.例えば,[1]において最小全域木問題を線形時間で解く確率的アルゴリズムが示されているが,このアルゴリズムの検証を実際に行うためには,テストデータとしてランダムに生成された重み付き連結無向グラフが必要となる.このようなグラフは,ランダムに生成されたラベル付き連結無向グラフから生成可能である[6].指定された頂点数nと辺数mを持ち,頂点にラベルの付いた連結無向グラフをランダムに生成する既存の方法として,以下のものが挙げられる.頂点数nの木をランダムに生成し,これにm-m+1本の辺をランダムに付け加えることによって連結グラフを生成できる(全域木法).また,m本の辺をランダムに決定して生成されたグラフが連結となるまで繰り返して,連結グラフを生成する方法もある(生成検査法).或いは,構成比というグラフ総数に関する指標を用いて,ランダムにグラフを生成することができる(構成比法).しかし,全域木法に関してはランダムネスの精度に,生成検査法と構成比法に関しては生成時間に問題があり,必ずしも実用可能ではない.また,これら以外で効率的なグラフ生成を可能とする方法は,我々の調査では見出せなかった.本稿では,構成比を高い精度で近似する単純な近似式を提案する.それにより,構成比法によるグラフ生成の時間を改善し,大規模なグラフに関しても現実的な時間で生成できることを示す.
著者
大澤 一郎
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.147-156, 1996-03-15
被引用文献数
1

人間との円滑なコミュニケーションが実行可能な知能エージェントのモデルを提案し,そのモデルの有効性を検証するために実装した知能エージェントシステム「ラスカル」を紹介する.知能エージェントのアーキテクチャとしては,即応(reactive)システムをベースにして,センサ系と動作選択系の間に「因果シミュレータ」と呼ぶ新しい系を導入している.因果シミュレータは,センサ系から得た情報と直前の状況情報に基づく因果の拡散伝搬計算を,因果ネットワークによる超並列協調計算により行なう.そして,センサ系だけからは得られない有用な動作選択用の情報を短時間で求めている.例えば,人間と自然言語でコミュニケーションする場合には,対話相手の意図および信念に関する情報などを適切に管理する.このような知能エージェントモデルに基づいて実装した知能エージェントシステム「ラスカル」は,自分の発話をセンサ系からフィードバックさせて他人の発話同様に解釈するなどして,流れる時間の中で動的に状況の変化を捉え,状況に応じた適切な動作系列を創発的に選択し実行していく.
著者
油谷 曉 垣内 正年 香取 啓志 尾久土 正己 猪俣 敦夫 藤川 和利 砂原 秀樹 眞鍋 佳嗣 千原 國宏
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.4_318-4_332, 2011-10-25 (Released:2011-11-30)

2009年7月22日に日本で皆既日食という天体ショーが起こり,様々な組織が皆既日食映像の伝送実験や多彩なイベントを行った.4K超高精細映像の伝送方法について共同研究を行っている朝日放送株式会社(ABC)では大規模なIPネットワークを使用した全天4K超高精細映像の伝送実験を企画し,奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)も参加協力を行った.この伝送実験では,世界初の試みとして,皆既日食が起こっている場所の臨場感を全天4K超高精細映像を使用して可能な限り伝送するという目的で行われ,無事に実験の目的を達成することができた.本論文では,NAIST独自で非圧縮全天4K超高精細映像のLayer 3ネットワークを用いた伝送実証実験を行い,有効な伝送手法として実験を成功させたことについて報告し考察を与えることとする.
著者
徃住 彰文 Akifumi Tokosumi 聖心女子大学文学部心理学科
雑誌
コンピュータソフトウェア = Computer software (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.273-279, 1988-07-15

1988年12月の日本認知科学シンポジウムにおける,カナダ,ウェスタン・オンタリオ大ゼノン・ピリシン教授の講演要約を中心に,認知を記号表現の上での計算とみなす古典的計算主義の立場からのコネクショニズム批判の現況を紹介した.
著者
伊藤 純一郎 横手 靖彦 所 真理雄
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.30-34, 1997-01-16

インターネットで現在利用されているIPv4プロトコルは,インターネットの爆発的成長に耐えられない,という指摘がある.このため,IPv6プロトコルが提案され,現在移行へ向けた考察が行われている.しかしながら,現在のルータソフトウェア構成法では,今後行われるプロトコル策定やプロトコルの仕様変更などに柔軟に対処することが困難である.本論文では,Apertosオペレーティングシステム上にIPv6ルータのプロトコル処理部を実装することで,これらの問題の解決を目指している.本方法では,並行オブジェクトによるソフトウェア構成によりプロトコル処理部のモジュール間の独立性を確保し,自己反映計算に基づくOSアーキテクチャの利用によりプログラマに最適なプログラミング環境を提供することができる.
著者
西田 健志 五十嵐 健夫 Takeshi Nishida Takeo Igarashi 東京大学大学院情報理工学系研究科 東京大学大学院情報理工学系研究科:科学技術振興機構さきがけ Graduate School of Information Science and Technology the University of Tokyo Graduate School of Information Science and Technology the University of Tokyo:JST PRESTO
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.69-75, 2006-10-26
参考文献数
7
被引用文献数
3

本論文では,参加者間で画像を共有し,それら画像の特定部分に会話を結びつけることのできるチャットシステムLock-on-Chatとその運用により得られた様々な知見をまとめる.文書や画像と会話を結びつけるほかのシステムが,ひとつの文書について深く議論するのに適しているのに対して,我々のシステムは複数の画像に分散した会話をしやすくすることに重きを置いてデザインされている.Lock-on-Chatは学術会議において発表中に聴衆が会話するためのシステムとして運用された.Lock-on-Chatが局面に応じてさまざまな使われ方がされる様子,多くの参加者が活発に議論する様子が観察された.
著者
佐藤 健 井上 克巳 岩沼 宏治 坂間 千秋
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.27-35, 2003-01-24
被引用文献数
1

現在のマルチエージェントシステムでは,エージェントが他エージェントに質問を与えた場合に, 質問を受けたエージェントが答を返すまでは, 質問したエージェントの処理は中断されることが普通である. インターネットのような通信が必ずしも保証されていないような環境下においては, このような中断がデッドロックを引き起こすことがありうる.また, たとえ通信が完全であっても, 他エージェントの処理に時間がかかっていれば、通信が不完全な状態と同じような状態になることがありうる. 本論文は、このような通信が必ずしも保証されていないマルチエージェントシステムにおける分散問題解決の手法を与える. 本手法は, 質問に対するデフォルトの回答を用意しておき, 回答が戻らなくても, デフォルトを用いて計算を進め, その後, 送られてきた真の回答がデフォルトと異なるときのみ, 計算をやり直すというものである. 本論文では, マスタースレーブマルチエージェントシステムにおいて,副作用が存在しない処理での投機的計算手法を仮説論理プログラミングの枠組みで実現し, 手法の健全性を示す.
著者
二木 厚吉 緒方 和博 中村 正樹
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.2_1-2_13, 2008 (Released:2008-06-30)

CafeOBJ言語システムを用いた形式手法,すなわち形式仕様の作成法と検証法,を全6回にわたり解説する.CafeOBJ言語はOBJ言語を拡張した代数仕様言語であり,振舞仕様,書換仕様,パラメータ化仕様などが記述できる最先端の形式仕様言語である.CafeOBJ言語システムは,等式を書換規則として実行することで等式推論を健全にシミュレートすることができ,対話型検証システムとして利用出来る.第1回の今回は,「待ち行列を用いる相互排除プロトコル」を例題として,言語や検証法の細部に立ち入ることなく,CafeOBJ仕様の作成と検証が全体としてどのように行われるかを説明する.第2回以降では,言語の構文と意味(第2回),等式推論と項書換システム(第3回)について説明し,証明譜を用いた簡約のみに基づくCafeOBJの検証法(第4回)を解説する.さらに,認証プロトコル(第5回)と通信プロトコル(第6回)の2つの典型的な検証例も示すことで検証の技法についても解説する.