著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.137-149, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
42
被引用文献数
3 6

本論文は,災害心理学の領域における重要概念の一つとされてきた「正常化の偏見」(normalcy bias)について,社会構成主義の視点にたって再検討し,その上で,同概念が防災実践に対してもたらす意義と問題点について理論的に検討したものである。「正常化の偏見」については,実際には,事後(災害後)のsense-makingが大きく関与して生じる事象であるにもかかわらず,事前(災害前)のdecision-makingのメカニズムを説明する概念として転用する混乱が生じていたと考えられる。そこで,まず,このような転用が生じるのは,「こころの前提」,「危険評価の前提」,「役割分担の前提」という3つの前提の上に立ってわれわれが事態を認識するからであることを指摘する。その上で,転用によって,現実に展開されている防災実践にどのような影響が出ているかについて,功罪両面にわたって分析する。最後に,「正常化の偏見」に代わるsense-makingのあり方として,「リアリティの共同構築」を提起し,それが防災実践をどのように変革しうるのかについて具体的な事例をあげながら考察する。
著者
樂木 章子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.146-165, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

本研究では, 乳児院や児童養護施設で生活する乳幼児が, 血がつながらない育て親 (養親) に養子として引き取られるに至る過程において, その重要な前提である, 育て親となる夫婦が養子を迎える決断をなす過程に着目した。具体的には, ある養子斡旋団体が養子を迎えようとする夫婦を対象に実施している養親講座の現場でのフィールドワークに基づき, そこで用いられている言説戦略を分析した。この養親講座においては, 養子の子育ての困難さ, とりわけ, 施設で生活する子どもとの縁組によって直面する問題が生々しく語られ, 夫婦がこれまで築いてきた生活を根底から揺るがされるものであることが強調された上で, 夫婦に養子を迎える決断を迫る。このようなプロセスを通して, 夫婦がそれまで無自覚に依拠していた諸前提が明確化され, 無意識のうちに抱いていた親子関係のイメージが否定されていく。養親講座の言説戦略は, いわば, 養子を迎えるという決断が, その後の人生における「公理」として機能しうるような状況を構成していることが示唆された。言い換えれば, 養親講座の言説戦略は, 血縁という先験性を持たない養親子において, 血縁に代替しうるような先験性を構築する試みであることが考察された。
著者
三浦 麻子 飛田 操
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.124-136, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
24
被引用文献数
6 4

本研究では, 集団創造性に影響を与える要因として成員アイディアの多様性を取り上げ, その効果を実証的に検討した。多様性の高い集団による相互作用過程においては, 集団が創造性パフォーマンスを発揮する可能性が高まり, 集団の創発性が生まれることが期待される。しかしその一方で, コミュニケーションにおいては葛藤を生じやすくさせる方向で機能することが考えられる。実験1では, 集団成員の個人レベルのアイディア創出結果にもとづいてアイディアの多様性を分類し, 集団の創発性と成員の心理的変数に対する効果を検討した。しかし, 予測したような多様性の効果は見られず, 成員アイディアの多様性が十分な効果を持つためには, より円滑なコミュニケーションを促進するような, 類似性や共通性を有することが必要となることが示唆された。そこで, 実験2では, 成員のアイディアの多様性に加えて類似性についても検討し, この2つの基準にもとづいて集団を分類した検討をおこなった。その結果, 多様性と類似性の相乗効果によって, 集団の創発性が高められる可能性が示された。以上の研究結果から, 集団が創造的となるためには, 成員相互の多様性と類似性がともに必要となることが示唆された。
著者
清水 裕士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.142-152, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
15

本論文の目的は,二者関係データをマルチレベル分析に適用した場合に生じるいくつかの問題点についてとりあげ,その問題がなぜ生じるのか,そしてどのようにそれを解決するかについて提案することである。1つは,ペアデータの平均値を階層線形モデル(HLM)のレベル2の説明変数として用いるときに生じるバイアスの問題をとりあげた。シミュレーションの結果,HLMでは深刻なバイアスが生じる一方,マルチレベルSEMではそのバイアスが生じないことを示した。次に,ペアデータに対してマルチレベルSEMを適用した場合に生じる不適解の問題を取り上げた。ペアデータはペアレベルの推定が不安定になりやすいため,分散が負に推定される不適解が頻繁に生じる。この問題について,いくつかのサンプルデータからベイズ推定を行うことで回避できることを示した。最後に,マルチレベルSEMの個人レベル効果の解釈の難しさについて議論した。
著者
和田 実
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.38-49, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

本研究は, 大学生が恋愛関係崩壊に際してどのような対処行動をとり, 崩壊時にどのような感情を抱くのか, さらに崩壊後にどのような行動的反応をとるのかを性差と崩壊時の恋愛関係進展度の観点から調べた。被験者は大学生239 (男性116, 女性123) 名であった。いずれも, 異性としばらく付き合った後に, その関係が崩壊した経験のある者のみである。恋愛関係崩壊への対処行動として“説得・話し合い”, “消極的受容”, および“回避・逃避”, 崩壊時の感情として“苦悩”, 崩壊後の行動的反応として“後悔・悲痛”と“未練”が見いだされた。恋愛関係が進展していた者ほど, 崩壊時に説得・話し合い行動がより多くとられ, 崩壊時の苦悩が強く, 崩壊後の後悔・悲痛行動と未練行動が多かった。女性は, 関係が進展していた者ほど回避・逃避行動をとらなかった。関係進展度に関わらず, 男性は女性よりも消極的受容行動を多くとった。さらに, もっとも進展した関係が崩壊した場合のみで, 男性よりも女性の方が多くの説得・話し合い行動をとる一方, 回避・逃避行動をあまりとらなかった。
著者
Rina Tanaka Hiroki Takehashi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2113, (Released:2022-08-19)
参考文献数
14

This study examined the psychological effects of disaster prevention nudges. The participants (total N=1,330) read a scenario describing approaching danger with either a loss-framed evacuation advisory or a non-framed control one and reported their intentions to evacuate, feelings of guilt, and perceived external pressure (Study 1) and rated extrinsic motivational regulation (Study 2). Moreover, in Study 3 the participants were presented with the same scenario and one of three evacuation advisories (loss-framed, gain-framed, and control advisories) and indicated their behavioral intentions, feeling of guilt, perceived external pressure, and extrinsic motivation as in Studies 1 and 2. Both frames increased the participants’ intentions to evacuate, feelings of guilt, and perceived external pressure. However, their effects on extrinsic motivation differed: the loss-framed advisory enhanced all three types of extrinsic motivation, whereas the gain-frame advisory increased only identified regulation. The implications for future work on nudges are discussed.
著者
山田 順子 鬼頭 美江 結城 雅樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.18-27, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
40
被引用文献数
1 11

本研究の目的は,友人関係および恋人関係における親密性の文化差の原因の検討である.近年の国際比較研究は,北米人の方が東アジア人よりも,対人関係のパートナーに対して感じる親密性が高いことを示してきた.本研究は,社会生態学的視点に基づき,この文化差をもたらす原因を,北米社会における対人関係選択の自由度,すなわち関係流動性の高さに求めた.この仮説を検討するため,日本人とカナダ人参加者を対象に,親友・恋人および最も親しい家族に対する親密性,また参加者を取り巻く身近な社会環境における関係流動性の認知を尋ねた.その結果,まず先行研究と一貫して,日本人よりもカナダ人の方が,親友や恋人に対してより強い親密性を感じていた.さらに,理論仮説と一貫して,親友に対する親密性の日加差は,対人関係選択の自由度によって有意に媒介され,自由度が高いほど親密性が高いことが示された.
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.58-71, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

本研究では,存在論的恐怖と愛着不安・回避傾向が成功・失敗についての自己の帰属と親友からの帰属の推測に及ぼす影響について検討した。近年,対人関係が存在論的恐怖を緩衝する効果を持つことが明らかにされている。そして,Wakimoto(2006)は存在論的恐怖が顕現化すると日本人は関係維持のため謙遜的態度を強めることを報告している。これに,日本人が他者による謙遜の打消しや肯定的言及など支援的反応を期待するという知見を併せて考えると,存在論的恐怖は自己卑下と共に他者からの支援的反応の期待を高めると考えられる。また,このような影響は愛着不安・回避傾向により調節されると考えられる。これら予測を現実の成功・失敗についての原因帰属を用いて検討した。大学生52名が実験操作の後に過去の実際の成功・失敗について自分自身の帰属と親友がどのように帰属してくれるかの推測について回答した。その結果,MS操作により自己卑下的帰属が強まる条件では,親友からの支援的な帰属の期待も強まることが示された。一方,親友からの支援的な帰属の期待が必ずしも自己卑下的帰属の高まりを伴わないことも示された。これら結果を近しい他者を通した関係による存在論的恐怖管理の様態及び互恵的関係の形成における存在論的恐怖の影響という点から論じた。
著者
沼崎 誠 松崎 圭佑 埴田 健司
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.119-129, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
38
被引用文献数
1

身体感覚が社会的知覚や行動に影響を与えることが近年多くの研究で示されている。本研究では,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が対人認知と自己認知に及ぼす効果を検討した。身体的温かさが性格的温かさと連合して表象していることを示す研究とHarlow(1958)の研究から,柔らかさ-硬さ感覚が性格的温かさ-冷たさと連合して表象されていると予測した。女性的ポジティブ特性,女性的ネガティブ特性,男性的ポジティブ特性,男性的ネガティブ特性の自己評定をあらかじめしていた21名の女子大学生が実験に参加した。参加者は,対人認知課題及び自己認知課題を行う間,柔らかい軟式テニスボールか硬い針金のボールを握り続けるように教示された。結果として,他者認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べ,刺激人物が女性的ポジティブ特性を持っていると評定し,刺激人物に好意を示した。一方,自己認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べて,男性的ネガティブ特性を持っていると評定するようになることが示された。これらの結果は,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が,対人認知と自己認知に対して,それぞれ異なった影響を与えることを示唆する。
著者
Keiko Ishii
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1909, (Released:2019-10-02)
参考文献数
13

Previous research has demonstrated that when people have to choose a product for which they do not have a preference and can observe their partners’ choices in advance, they are more likely to imitate their partners’ choices when choosing privately, whereas they are likely to choose differently when they are with their partners. The present study extends this evidence by testing Japanese participants and examining individual differences in the need for uniqueness. Despite the Japanese cultural norm of interdependence, which is positively associated with conformity, less than half of the participants imitated their partners’ choices, whether they chose privately or publicly. Moreover, people with a high need for uniqueness tended to choose a different option when choosing in front of their partners. Implications for the consequences of social influence are discussed.
著者
Mei Yamagata Asako Miura
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.234-239, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
10
被引用文献数
2

Humans tend to distort past events, leading to a gap between experience and retrospective experience—the retrospective bias. This study clarified the characteristics of retrospective bias in the ongoing COVID-19 pandemic. Longitudinal data from 597 Japanese individuals were gathered during the COVID-19 pandemic from January 2020 to January 2021. Analysis revealed that cognition regarding COVID-19 one year ago was retrospectively underestimated. In addition, within-person variation among the responses of the 11 waves consistently showed a negative association with bias. These findings suggest that retrospective methods of describing long-lasting and fluctuating events will lead to inaccurate conclusions.
著者
鈴木 啓太 村本 由紀子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2017, (Released:2022-11-25)
参考文献数
21

指導者の暗黙理論(能力の可変性に関する信念)が課題に失敗した学習者への助言に与える影響を検討した。参加者に先生の立場から成績不振な生徒に対し助言させるというシナリオ実験を,サンプルを変えて二度実施した。(能力の固定性を信じる)実体理論的信念を強く持つ参加者ほど,努力量の多い生徒に対しては失敗の原因を能力不足に帰属して科目の変更を促す一方で,努力量の少ない生徒に対しては努力の継続を促すことが明らかになった。この結果から,実体理論的傾向の強い指導者は,学習者の努力とその結果を観察し,適性評価に基づいて助言を変えるというように,努力の持つ適性評価のための情報的側面を重視する可能性が示唆された。他方,(能力を可変的に捉える)増加理論的信念を強く持つ参加者ほど,生徒の努力量の多寡によらず科目の変更を促す程度が低く,努力の持つ成長の資源としての側面を重視することを示唆する結果が得られた。しかし間接効果は弱いものの,実体理論的信念が強い参加者と同様,能力に対する推論の媒介効果も見られ,増加理論的傾向の強い指導者が,適性評価のための努力の情報的側面についても考慮している可能性が示唆された。
著者
村山 綾 三浦 麻子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.81-92, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本研究では,集団討議で生じる葛藤と対処行動,およびメンバーの主観的パフォーマンスの関連について検討した。4名からなる合計17集団(68名)にランダムに配置された大学生が,18分間の集団課題を遂行した。その際,討議開始前,中間,終了時に,メンバーの意見のずれから算出される実質的葛藤を測定した。また討議終了時には,中間から終了にかけて認知された2種類の葛藤の程度,および葛藤対処行動について回答を求めた。分析の結果,集団内の実質的葛藤は相互作用を通して変遷すること,また,中間時点の実質的葛藤は主観的パフォーマンスと関連が見られないものの,終了時点の葛藤の高さは主観的パフォーマンスを低下させることが示された。関係葛藤の高さと回避的対処行動は主観的パフォーマンスの低さと関連し,統合的対処行動は主観的パフォーマンスの高さと関連していた。関係葛藤と課題葛藤の交互作用効果も示され,課題葛藤の程度が低い場合は,関係葛藤が低い方が高い方よりも主観的パフォーマンスが高くなる一方で,課題葛藤の程度が高い場合にはそのような差はみられなかった。葛藤の測定時点の重要性,および多層的な検討の必要性について議論した。
著者
宮島 健 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.62-72, 2018 (Released:2018-07-31)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

集団や社会において,集団成員の多くが受け入れていない不支持規範が維持・再生産される心理的メカニズムとして,多元的無知のプロセスによるはたらきが示唆されている。その集団内過程において,偽りの実効化は不支持規範の安定的再生産へと導く社会的機能を有することが示唆されている。しかしながら,偽りの実効化を引き起こす心理的メカニズムは明らかにされていない。本研究では,日本における男性の育児休業を題材として,他者に対する印象管理動機が偽りの実効化を誘発するという仮説について検証した。本研究の結果,多元的無知状態の人々では印象管理動機が喚起され,その結果として,逸脱者に対する規範の強要(i.e., 実効化)が誘発されることが明らかとなった。これは,多元的無知状況下において,他者信念を誤って推測した人々による逸脱者への規範の強要は,不支持規範を維持・再生産させようと意図しているのではなく,自己呈示的な動機に基づいて行動しているに過ぎないという印象管理戦略仮説の妥当性を示している。
著者
須山 巨基 山田 順子 瀧本 彩加
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si4-3, (Released:2018-11-07)
参考文献数
66

集団力学研究とは,実験・調査・モデリングを通じて,個体が集合的に作り出す複雑な社会現象を定量的に検証する研究群の総称である。社会心理学における集団力学研究は,1940年代から隆盛するも徐々に研究の主流から外れていった。一方,生物学では,近年の新しいデータ収集法や分析方法の発達により集団力学研究が盛んに行われるようになり,再び集団力学研究が脚光を浴び始めている。本稿ではまず,社会心理学と生物学のそれぞれにおける集団力学研究の歴史を概観する。続いて,社会心理学において高い関心が寄せられてきた同調と文化拡散に注目し,これらのトピックに関して生物学が新たな集団力学的な手法を用いてどのような知見を見出したのか紹介する。最後に,生物学における集団力学研究の社会心理学への援用可能性とその便益性を示し,社会心理学と生物学の融合による集団力学研究の展望を論じる。
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.66-82, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
64
被引用文献数
4 2 2

本研究は, 災害・事故が集合的に風化するプロセス-社会的な現実感が特定の災害・事故から消失していく長期的かつ社会的な過程-を測定・表現する方法について検討したものである。まず, 風化の長期的なトレンドを, マスメディアの報道量の長期変化を通して近似的に測定・表現した先行研究の成果を踏まえ, それを撹乱する2つの個別的な要因について実証的に検討した。具体的には, 第1に, 相次いで発生した複数の事象が相互に影響し, 後続事象の発生によって先行事象に関する報道量が低下する現象 (相互干渉現象) をとりあげた。第2に, 事象の発生期日をピークとして, 周期的かつ一時的に報道量が増加する現象 (周期変動現象) について検証した。その結果, これらの現象は, 一面では, マスメディア報道による風化現象の測定にとっての撹乱要因であるが, 他面では, むしろ, 災害・事故の風化現象に固有の社会過程を明示し, 記述するために利用可能であることが示された。次に, マスメディア分析を補完する新たな方法として, 災害・事故の発生後, 人々が実際に示す行動 (変数) を長期的に追尾する方法をいくつか提起し, その有効性を確認するとともに, こうした行動変数とマスメディア報道との関連性についても検討した。さらに, 共同想起の概念に依拠して, 本稿で検討した集合的な記憶と個人的な記憶との相互連関についても論じた。
著者
石盛 真徳 小杉 考司 清水 裕士 藤澤 隆史 渡邊 太 武藤 杏里
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.153-164, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
36
被引用文献数
5

高校生以上の子どもを2人もつ223組の中年期の夫婦を対象に調査を行い,夫婦間のコミュニケーション,共行動,夫婦間の葛藤解決方略といった夫婦関係のあり方が夫婦関係満足度,家族の安定性,および主観的幸福感にどのような影響を及ぼしているのかをマルチレベル構造方程式モデリングによって検討した。夫婦関係満足度への影響要因の分析では,夫と妻が別個に夫婦共行動の頻度が高いと認識しているだけでは個人レベルでの夫婦関係満足度の認知にしかつながらず,夫婦のコミュニケーションが充実していると夫と妻の双方がともに認知してはじめて2者関係レベルでの夫婦関係満足度を高める効果をもつことが示された。家族の安定性への影響要因の分析では,個人レベルで葛藤解決において夫婦関係外アプローチに積極的であることは,個人レベルでの家族の安定性を高く認知することにつながるが,2者関係レベルで,夫婦が一致して夫婦関係外アプローチに積極的であることは,家族の安定性を低く認知することにつながるという結果が得られた。主観的幸福感への影響要因の分析では,夫婦関係満足度の高いことは,個人レベルにおいて正の関連性を有していた。また,夫婦間の解決において夫婦関係外アプローチに積極的であることは個人レベルでのみ主観的幸福感を高めることが示された。
著者
法理 樹里 牧野 光琢 堀井 豊充
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1610, (Released:2017-06-07)
参考文献数
37
被引用文献数
3

2011年3月11日に発生した,東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害は水産物にも及んでいる。福島県産農産物に対する消費者意識調査で用いられた手法を援用し,二重過程理論に基づき震災後の福島県産水産物の購買意図へ影響をおよぼす消費者意識を調査した。本研究で用いた,二重過程理論のシステム1には,「放射線・原発不安」意識および「被災地支援」意識,システム2には,「知識による判断」意識および「合理的判断」意識が含まれていた。共分散構造分析の結果,「放射線・原発不安」は購買意図を抑制することが示された。一方,「被災地支援」は,購買意図を促進することが示された。さらに,先行研究とは異なり,福島県産水産物の購買においては,「被災地支援」は「放射線・原発不安」を抑制する効果があることが明らかとなった。消費者は不安を抱えながらも復興支援の意識を持ち,福島県産水産物の「購買意図」を培っていることが示唆された。
著者
出口 拓彦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1705, (Released:2017-09-08)
参考文献数
38
被引用文献数
2

授業中の私語を規定する要因について,個人レベル・集団レベルの変数に着目して検討した。中学生を対象とした質問紙調査を実施し,439名から有効回答を得た。質問紙では,自分および他者の「規範意識」と,自分および他者の「私語の頻度」などについて測定した。自分自身の私語の頻度を従属変数とした重回帰分析を行ったところ,自分の規範意識には負,他者の私語の頻度には正の関連が示された。さらに,行動基準(「遵守」「逸脱」等と態度をタイプ分けしたもの)の影響についても検討した。個々人が持つ行動基準(個人レベル)および各クラスにおける行動基準の割合(集団レベル)を投入した階層線形モデリングによる分析を実施した。その結果,個人レベルでは,「遵守」に負の関連,「逸脱」に正の関連が示された。一方,集団レベルにおいては,「遵守」の行動基準を持つ生徒の割合(31%)は比較的低かったにもかかわらず,クラス全体の私語の頻度を規定している可能性が示された。また,「同調」の割合(47%)は「遵守」に比べて高かったにもかかわらず,顕著な関連は見られなかった。これらのことから,教室内の一部の成員が,クラス全体における私語の頻度を規定しうることが示唆された。