著者
鈴木 慎二郎 高野 信雄 山下 良弘
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.103-113, 1972-07-25

1)8回の輪換の平均草量は重,中,軽放牧それぞれ631,970,1251kg/10aで,利用率は72.9,56.8,46.6%であった。成分的には重放牧の草が栄養価高く,また放牧後の草はDCPで2.6〜4.2%,TDNで2.7〜3.8%低下した。草の栄養価は夏に低下し,この時期に育成牛の発育も停滞した。草種についてはオーチャードグラスの割合は軽放牧で高く維持され,重放牧ではペレニアルライグラスが増加した。2)期間中における育成牛の平均日増体は重,中,軽放牧それぞれ,434,653,617g,採食量は乾物で体重の1.94,2.02,2.48%であったが,これは季節がすすむに従い低下した。3)重放牧と中放牧では採食時間が長くなったが,採食量と発育からみて,重放牧の場合は草量不足を補うには不十分であった。一方,草量が一定限度以下になると採食時間は再び短くなり,また草量が1番少ない滞牧最終日においても採食時間は短くなった。放牧強度の影響は反芻に強くあらわれ,重放牧の反芻時間は軽放牧の半分程度であった。行動の季節的変化も大きく,夏,秋では採食時間が増え,反芻時間が激減した。また季節が同じであれば放牧強度が異なっても似たような行動パターンがみられた。採食時間には1日に3回のピークがみられたが,毎回の移牧時刻である9時以降の採食が盛んであった。1日18mm程度の降雨では横臥の割合が著るしく減ったが,行動の基本形には影響なかった。4)体重は朝から夕方まで増加するが,その最大値はいずれも滞牧1日目にあらわれ,その後最終日まで減少する。従って期間中の増体重は1日毎ではなく,輪換毎の増体重の積算として示された。体重の時刻変化からは,滞牧1日目における採食量が2日目以降にくらべて著るしく多いこと,また採食のピークは量的にみると9時〜12時の間の1回だけであると言える。以上の行動と体重変化の結果から,牛は輪換の周期だけではなく,移牧の時刻も学習したのではないかと考えられた。5)期間中の増体重と反芻時間との間には正の相関がみられたが,採食時間とはむしろ負の相関であった。また飲水回数は採食時間との間には正,増体重との間には負の相関を有した。
著者
井出 保行 林 治雄 下田 勝久 坂上 清一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.163-169, 1999-07-31
被引用文献数
4

ケンタッキーブルーグラスが優占する放牧草地(草地試験場山地支場)において,ケンタッキーブルーグラスの開花,結実および糞中種子の季節的な動態を調査した。また,菅平牧場では,ケンタッキーブルーグラスの糞中種子による既存群落(ササ型草地)内への侵入実態を調査した。草地試験場山地支場内の調査放牧草地では,ケンタッキーブルーグラスの開花は6月の中旬に始まり,6月下旬にはその大半が結実した。糞中種子は,7月上旬から8月中旬にかけて検出され,7月中句にはその数および発芽率がピークに達した。これらの結果より,牛糞による種子散布が可能な期間は,開花から4週目以降の約1ヶ月間と推察された。菅平牧場における調査牧区では糞塊中にシバ種子が最も多く含まれていたが,糞中種子によってササ型草地内に侵入した植物の中ではケンタッキ-ブルーグラスの平均被度および出現頻度が最も高かった。また,シバを除く侵入植物の被度と糞塊の被度との間には有意な正の相関関係が認められた。これらの結果より,糞中種子による植物の侵入および定着には,糞の分布や糞中種子数だけではなく,侵入後に起こる既存植生や他の侵入草種との競合過程が問題になると考えられた。
著者
増田 泰久 川本 康博
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.64-68, 1991-04-30
被引用文献数
1

ファジービーン(Macroptilium lathyroides L. URB.)の採種方法を確立するための基礎的資料として,開花習性,種子成熟及び裂莢過程並びに種子収量を明らかにする実験を行った。1989年5月15日に畦幅60cmで条播きし,1m畦長当たり25個体で生育させた。7月24日から5日毎にその日に開花した花の萼に印を付けながら,8月3,8,13及び19日の4時期に刈取り,着莢を開花日別に分別採種し,莢数及び種子重を測定した。開花は採種後65日目の7月18日に始まり,開花盛期は8月1日をピークとする7月29日から8月4日までであった。1個体当たりの花房数は平均5.1個で1花房に約8-10個の着花がみられた。各採種日における全着莢数に対する開花盛期に開花着生した莢数の割合は56-68%であった。開花後の日数経過に伴う種子の成熟過程については,開花後9日で発芽率が90%以上となり,開花後8-11日で莢色が黒化し,開花後12日目には成熟種子重の平均1,000粒重が7.86gに達することがそれぞれ認められた。また,開花後16-17日が経過すると裂莢が始まることが観察された。全種子収量,発芽可能な種子収量及び黒色莢中の種子収量はいずれも開花盛期種子が79%を占めた8月19日採種において最も高くなった。以上の結果より,ファジービーンの採種のための収穫適期は,開花盛期に開花着生した莢が全て黒色となる時期(本実験条件では開花盛期終了から10日目の8月14日)から開花ピーク目に開花着生した莢の開裂が始まるまで(開花ピーク日から16日日の8月17日)であると考えられた。
著者
中嶋 芳也 小形 恵一 宍戸 寿雄 柴 伸弥 中川原 克彦 安保 佳一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.278-286, 1992-10-30

異なる蒸煮条件下で処理したカラマツの第一胃内分解性(試験1),蒸煮処理カラマツ給与による第一胃内性状(試験2),第一胃内流出速度および消化管内滞留時間(試験3)をめん羊を用いて調べることによって蒸煮処理カラマツのもつ粗飼料効果をより明らかにしようとした。分解性の測定は,セルラーゼによるin vitro法とポリエチレン・バッグを用いたin situ法によった。in situ法では,得られた各培養時間の分解率をp = a + b (l-e^<-ct>)のモデルに当てはめて最大可能分解率(a + b)と分解速度(c)を測定した。測定試料には,蒸気圧3水準(10,12.5, 15kg/cm2,蒸煮時間20分),蒸煮時間4水準(5,10,15,20分,蒸気圧10kg/cm^2)で処理したカラマツと,対照として蒸気圧10kg/cm^2,蒸煮時間20分で処理したシラカンパを用いた。第一胃内性状は,15ks-/cm^2-15分で処理したカラマツ10%(W-10),20%(W-20)および30%(W-30)給与区と,対照として乾草30%(H-30)および70%(H-70)給与区を設けて調べた。また,第一胃内流出速度および消化管内滞留時間は,W-10,W-20およびW-30区と,対照としてH-70区について調べた。(1)処理条件の差異にかかわらず蒸煮カラマツの分解率はin vitroおよびin situのいずれにおいても未処理カラマツと比べて明らかな上昇は認められなかった。これとは対照的に,蒸煮シラカンパは,in vitro分解率46.6%,in situ最大可能分解率(a + b)80.6%および分解速度(c)1.5%/hを示し,著しい処理効果が認められた。(2)第一胃内性状では,飼料給与後6時間までの平均値で表したpHはW-30区で最も高い6.55で,H-30およびH-70のいずれの乾草区よりも高い値を示した。酢酸・プロピオン酸比はカラマツ区で2.03(W-20)-2.75(W-30)の範囲となり,W-30区はH-30区とH-70区の中間の値を示した。(3)カラマツ給与区の第一胃内滞留時間は,乾草H-70区の26時間よりも著しく長かった.カラマツの給与割合が増すにつれ滞留時間な短縮されたが,最も短い時間をを示したW-30でも約42時間であった。これとは逆に下部消化管内滞留時間は,給与割合の増加に伴って延長した。全消化管内平均滞留時間では,W-20区とW-30区が約103時間でW-10区よりも短く,しかし,乾草区の約55時間と比較すると約2倍の値を示した。(4)以上のことから,蒸煮処理カラマツは,現段階では,反芻家畜飼料の有効炭水化物源となり得ないが,30%程度の給与割合で粗飼料因子として十分な物理的効果を現わすことができるものと推察された。
著者
西村 格 安達 篤
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.213-222, 1975-10-25

日本の亜寒帯に属する代表的な放牧草地である北海道の野付崎で1972年から1974年にかけて年次変化と季節変化の植生調査をおこなった。1)野付崎の放牧草地植生の種類組成は,オオウシノケグサ,センダイハギ,チャシバスゲ,エゾヌカボなどを主体とし,北海道の海岸草原にみられるハマナス,ハマフウロ,エゾツルキンバイ,エゾカワラマツバ,イワノガリヤスなどのほか北海道の放牧草地に常在するナガバグサ,シロツメクサなど約50草種で構成されていた。2)7月10日前後の定期調査時期には,最も多くの種類の植物がみられ,年間を通じてオオウシノケグサ,センダイハギが優占する。春の5月には,ヒメイズイ,クロユリ,ザラバナソモソモ,などが他の時期よりも増加し,夏には,センダイハギ,エゾヌカボ,エゾキンポウゲ,ハマフウロ,ツマトリソウなどが他の時期よりも高い割合を示し,秋にはナガバグサ,イヌゴマ,ナミキソウ,シロツメクサ,テンキグサ(ハマニンニク)などが割合の増加する草種としてあげられた。3)植生の年次変化は,オオウシノケグサ,センダイハギ,チャシスバゲなど基幹となるものは大きな変化がなかった。しかし,センダイハギ,イワノガリヤスなどは減少の傾向にあり,チャシバスゲ,シロツメクサ,スズメノヤリなどは増加する傾向を示した。4)野付崎の海岸砂丘草原の植生は,長草型のセンダイハギーイワノガリヤス群落から短草型のオオウシノケグサ群落へと遷移していると考えられた。家畜や車め踏圧によってシロツメクサ,オオバコ,スズメノカタビラなどは増加する傾向がみられた。5)遷移度は3年間の年次的変化はみられなかったが,放牧草地では,ケージ内に比較して明らかに減少した。
著者
前田 敏 松田 弘行 中島 興一 岸 信夫
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.87-92, 1967-08-28

西南暖地における牧草の夏枯れ対策の一環として,ローズグラスを牧草地に追播し,年間飼料生産の均衡化を検討した。更新後2年めのオーチャードグラス,ラジノクローバー,レッドクローバーの混播草地に昭和40年7月3日,3番刈り時に1.5kg/10aのローズグラスを追播した。追播前の草地処理は無処理,ハロー掛け,耕起の3通りとし,無処理区はさらに堆厩肥施用区と生鶏糞施用区とに分けた。これら各区に対照区を加えて全部で5区を設けた。年間の刈取り回数は6回で,ローズグラスは5番刈り以後は枯死したので,同グラスの混在は4,5番刈りに限られた。対照区の年間収量は5,000kg/10aであったが,その収量の季節分布は1〜3番刈りまでの春季の刈取りで年間総収量の8割近い収量を認め,それ以後,夏,秋の4,5,6番刈りでは2割を得たにすぎない。これに対し,ローズグラス追播区では,対照区における収量減退期に約2,000から5,000kg/10aの増収を認め,年間総収量は7,000〜10,000kg/10aに達した。なお,このローズグラス追播による収量増加は追播下の草地攪拌処理が強いほど著るしい。他方,北方型牧草はこれに応じて圧倒され減少する傾向がみられ,特にマメ科牧草の損失はいちじるしく,完全に消失する区もみられたが,オーチャードグラスはかなり残存することがわかった。ローズグラス枯死後,裸地が出現したが,その面積は最大8割にも達した。なお,ローズグラスによる収量増加の程度と同グラス枯死後の裸地歩合との間には相関がみられ,収量増加が多いほど裸地歩合は加速的に増大することがわかった。この裸地面積は冬期間ほとんど変化せず,4月下旬に至って裸地歩合の小さい区では,裸地のほとんどが残存個体によって再び埋められた。他方,裸地歩合の大きい区では残存個体の密度が小さく,しかも,それら個体の生理的衰弱もはげしく,春の生育も貧弱で,それに乗じて雑草が旺盛に繁茂し,急速な草地の荒廃が認められた。
著者
大野 脇弥 田中 明
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.37-41, 1966-05-30

1963年6月30日から10月18日の間に5回にわたり,放牧牛と行動を共にして,牛群の動線および牧区内の地形別による草地利用回数について調査した。また1960年から1963年までに茶臼山放牧場において,放牧育成した496頭の乳用育成牛にみられた放牧牛の一般習性について調査した結果は次のとおりである。(1)放牧牛の動線から牛の移動についてみると,その移動には一定のきまった方向はなく,牧区内のすべての所を2回以上通っている。しかも放牧牛はおおむね各季節とも午後に飲水のため谷間におりているのが観察された。また牛は各牧区ともほぼ同じ場所で就寝するようである。(2)草地の使用回数は,牧区の使用日数が多くなるにつれて増加する傾向がみられ,その要因に草生が関係していることが考えられた。(3)放牧牛の一般習性として,月齢別に編成した放牧牛群は,放牧日数の経過とともに自治統率的集団を構成することが観察された。その他,牛の脱柵の原因に,悪癖,災害の発生,飲水,草生状況,牧柵の破損,他からの影響などが見うけられたが,いずれの場合でも脱柵牛に強い帰群性があること,採食および横臥休息中の群は移動し難く,その反対に佇立休息中のものは捕獲ならびに移動し易いこと,群をなした牛は,群からはなれた牛が群をさがすときや,水のほしい時をのぞき,あまりなかないなどが観察された。
著者
小関 純一 高橋 達児
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.308-316, 1975-12-25

寒地型牧草6草種を6年間にわたって,一応放牧条件を想定した刈取管理のもとで多・少肥の2段階の施肥処理を設けて栽培した。その結果について草生の変化を,主として夏がれ現象の点から解析し,つぎの知見が得られた。1)夏期前回再生期間中の平均気温上昇および梅雨期雨量の増大と夏がれ発生との間に密接な関係が認められた。2)多肥区の場合に各草種とも,上記の関係はとくに明らかであり,これら二つの要因の影響の度合は,オーチャードグラス>ペレニアルライグラス>レッドトップ>トールフエスク>ケンタッキーブルーグラスの順に小さくなった。少肥区では,夏がれに弱いペレニァルライグラスとオーチャードグラスのみ同様な関係はみられたが,その影響度合は多肥区に比して,著しく小さかった。3)これら気温と雨量の各要因別の影響度合はそれぞれ草種により異なる。たとえば,ペレニァルライグラスは両者とも大きく影響するが,レッドトップは気温により大きい影響をうけ,雨量の多少はあまり関係しない。4)以上のように,従来から夏がれ発生の原因として挙げられていた気温,干ばつ,病虫害などに,本邦においてはモンスーン地帯の特徴である梅雨の影響を加える必要が認められた。
著者
渡辺 潔 高橋 佳孝
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.291-296, 1981-10-30
被引用文献数
1

刈取りの早晩が牧草無機成分の含有率と吸収量に及ぼす影響を明らかにするため,オーチャードグラスの2,3番草の再生に伴う無機成分含有率の推移を,追肥量を変えて週1回の間隔で各8週間追跡調査した。2番草と3番草への追肥量は,それぞれ多肥区ではN 0.8,P_2O_5 0.4,K_2O 0.7kg/a,中,少肥区ではその1/2と1/4にした。無機成分含有率は,刈取り追肥後の経時的変動が大きいが,3番草のP含有率を例外にすれば,追肥量による差は比較的小さく再生に伴って各区ともほぼ平行に変化した。すなわち,2,3番草のN,K,Mg含有率と2番草のP含有率は刈取追肥後1〜2週で高くその後は徐々に低下して約6週で最低になり,2,3番草のCa含有率は3〜4週で高い中高の推移になったが,3番草のP含有率だけは追肥量により異なる推移を示した。再生に伴う無機成分含有率の変化は,N(1.6〜5.1%)で大きく,K(2.2〜4.2%)でやや大きく,P(0.38〜0.51%)Ca(0.34〜0.47%)で小さく,Mg(0.23〜0.28%)でとくに小さくなった(数値は2番草と中肥区の例)。枯死部では,生体部より,N,P,K含有率は低いがCa含有率は高く,Mg含有率も高い場合が多くなった。生体部のN吸収量は平均生産力(乾物収量/再生期間)最大期すなわち刈取追肥後4〜5週で最大になり,生体部のP,K,Ca,Mg吸収量は約6週で最大になった。生体部のN含有率がほぼ最低になる刈取追肥後6週では平均生産力最大期に比較し,乾物収量は多いがN含有率が低いのでN吸収量はほとんど変らず,Nの乾物生産効率(乾物収量/N吸収量)は大巾に高まった。したがって,過繁茂になりにくい少,中肥条件では,平均生産力よりNの乾物生産効率を重視し,刈取追肥後約6週で刈り取るのが適切と考えられる。
著者
山下 雅幸 阿部 純 島本 義也
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.459-468, 1993-03-31
被引用文献数
2

ペレニアルライグラスの2倍体品種の遺伝的分化を明かにするために,8アイソザイム遺伝子座(Aco1,Aco2,Aph1,Got3,Pgi2,Pgm1,Poxおよび6Pgd1)の対立遺伝子頻度の変異を解析した。ペレニアルライグラスにおける8アイソザイム遺伝子座の遺伝子多様度は81%が品種内,19%が品種間であることが示された。いくつかの遺伝子座において,対立遺伝子頻度が育成国を異にする品種群の間で異なり,これらの品種群の間に遺伝的分化が生じていることが示唆された。さらに,対立遺伝子頻度に基づいて主成分分析を行った結果,オランダ,ドイツおよびU.S.A.で育成された品種の散布図に特徴が観察された。オランダ,ドイツおよびデンマークの品種群は互いに遺伝的距離が近く,1つのクラスターを形成した。U.S.A.の品種群は異なるクラスターを形成したが,これら2つのクラスターの遺伝的距離は近かった。オセアニアで育成された品種群は,ヨーロッパ諸国の品種群から遺伝的距離が最も遠かった。
著者
川鍋 祐夫 Neal-Smith Cedric A.
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.216-221, 1979-10-31
被引用文献数
2

東アフリカの1,170mから2,270mまで異なる標高の地域に起源をもつローズグラスの四品種と,南アフリカに原産した市販種とを,15/10から36/31℃まで五段階の昼/夜温で三週間処理して生育量を調査し,RGR,NAR,LWRを求め,品種間比較を行った。各品種はほぼ同じような温度生育関係を示し次のように結論された。生育の最低温度は15/10℃とみられ,これより27/22℃ぐらいまで温度が高まれば高まるほど旺盛な生育をする。生育適温は27/22℃またはこれより高い所にあり,36/31℃では乾物生産量は最大であったが,ほふく茎の発生などには高過ぎる温度である。高標高地起源のNzoiaおよびMassaba,ならびにPioneerは,低標高地起源のSerereおよびMpwapwaより15/10℃の低温における生育が優れ,NAR,出葉数などが大であり低温適応性を有するものと認められた。この結果から原産地の気象条件と品種の温度反応との間には,密接な関係があると指摘された。
著者
杉信 賢一 鈴木 信治 小松 敏憲
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.300-308, 1989-03-31
被引用文献数
3

採種栽培時におけるイタリアンライグラスの耐倒伏性を高めるため,この選抜に必要な個体レベルでの耐倒伏性と,関連形質の変異及び相互関係を明らかにしようとした。耐倒伏性が強く直立型のワセアオバと,耐倒伏性が弱くて中間型のワセヒカリの2品種を供試し,検討を行った。1981年8月下旬に播種,10月中旬に圃場に個体植えした材料について,翌年,耐倒伏性,種子収量及び関連形質の調査を行った。両品種とも出穂始めころから倒伏が始まり,登熟が進むにしたがい倒伏が著しくなったが,常にワセアオバがワセヒカリより倒伏の程度が低かった。一方,種子収量はワセヒカリがワセアオバより42.5%高かった。ワセアオバでは耐倒伏性の優れた個体は,出穂日が晩く,出穂から開花までの日数が少なく,草型は直立型で,最上位節間が長く,最太節間径が太く,茎数,二次分げつ茎数・穂数及び頴果数が少なくて,曲げ抵抗が強い傾向が認められた。ワセヒカリで耐倒伏性の優れた個体は,葉の下垂度が大きく,最太節間径が太く,茎数及び二次分げつ茎数とも少なく,穂重/稈重比が小さく,1穂当たりの小穂数が多く,穂重及び1穂当たりの種子重が重い傾向が認められた。ワセヒカリで種子収量の優れた個体は,穂数は多いが,二次分げつ茎数が少なく,穂重/稈重比が大きく,1穂当たりの種子重が重い傾向が認められた。耐倒伏性と重相関の高い形質として,ワセアオバでは最上位節間長,出穂時の草丈,出穂日,草型及び曲げ抵抗の5形質が選択され,ワセヒカリでは曲げ抵抗,出穂時の草丈,最上位節間長,二次分げつ茎数,最太節間径,穂重/稈重比及び葉長の7形質が選択された。種子収量と重相関の高い形質として,両品種とも1穂当たりの種子重と穂数が選択され,これに加えて,ワセヒカリでは,出穂時の草丈,主茎分枝数,最上位節間長及び主茎節数が選択された。耐倒伏性と種子収量との複合形質と関連の強い形質として,両品種とも耐倒伏性及び種子収量自体が選択され,これに加えて,ワセアオバで小穂数,最上位節間長,葉型,出穂日及び上第二位節間長,ワセヒカリで二次分げつ茎数が選択された。以上の結果から,採種栽培において高種子重を保ちつつ耐倒伏性を高めるには,1穂当たりの種子重を高めるとともに,これを支える茎基部の節間径を太くして,曲げ抵抗力の大きい強健な茎を持つ植物を選抜することが有効と結論された。
著者
田村 良文 石田 良作 星野 正生
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-9, 1981-04-30

本研究では秋季自然条件下に生長した栄養生長期のイタリアンライグラスにおける非構造性炭水化物(NSC)の含有率およびそれに関連する特性の品種,あるいは個体間差異を究明し,育種への基礎的な資料を提供することを目的とし,本報では4倍体イタリアンライグラス28品種を用い,品種間差異を検討した。1)茎のNSC含有率については,Lolium multiflorumがL. westerwoldicumに比較して,また,L. multiflorumの中ではヨーロッパ原産の品種が日本およびウルグアイ原産の品種に比較して,あるいは晩生が早生に比較して高い値を示す傾向が認められた。また,この傾向は11月21日に比較して,より低温,低日射量条件であった12月12日においてより顕著であった。2)茎と葉身のNSC含有率間には高い有意な正の相関が認められた。3)アルコール溶性区分法により分画された単・少糖類およびフラクトサンのいずれの含有率にも明確な品種間差異が認められた。4)NSC含有率の品種間差異は主としてフラクトサン含有率の,とくに80%および70%エタノールにより抽出される相対的に低分子のフラクトサン含有率の品種間差異に起因しており,単・少糖類含有率の品種間差異とは明確な関係を示さなかった。5)草種あるいは原産地により分別された各品種群内では,NSC含有率が高いほどフラクトサンの平均的な重合度も高い傾向を示すものと推察された。6)NSC含有率と茎の乾物率間には,全品種を込みにした条件下で,極めて高い有意な相関が認められた。茎の乾物率はNSC含有率の品種間相対差を表わす指標になりうるものと考えられる。
著者
斎藤 道雄
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, 1967-05
著者
楊 中〓 菅原 和夫 伊藤 厳 丸山 純孝 福永 和男
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.102-108, 1987-07-31

待機利用条件下におけるオーチャードグラスの種子登熟歩合と自然落下率の変化および春の刈取りが種子生産に及ぼす影響を検討するため,帯広と川渡において実験を行った.主要な結果は以下のとおりである.1)出穂開始の約70日後に約50%の種子が自然落下し,この時点ではすでに種子の大部分が発芽能力を有していた.したがって,利用の待機期間をこの時期までとしれば,確実に自然落下種子量を確保することができるものと考えられる.2)5月28日から6月10日(出穂開始日)までに帯広で行った刈取り実験では,早い時期の低刈りおよびやや遅い時期の高刈り処理によって,出穂茎の形成がある程度促進され,出穂1週間前までの刈取り処理のほとんどが種子の生産に大きな影響を及ぼさないことが認められた.しかし,出穂の3日前以降の刈取り処理におけるオーチャードグラスの出穂率,種子の千粒重および発芽率は著しく低下した.3)オーチャードグラスの春の刈取りによる地上部除去量と幼穂の被害率との間にS字曲線を示す関係が認められた.地上部除去量が40cm以上になると,幼穂の被害率が急激に増加した.したがって,春の利用量がこれ以下であれば,種子生産に及ぼす影響がほとんどないものと考えられる.4)帯広と川渡のいずれにおいても出穂の10日前までの刈取り処理では,オーチャードグラスの出穂に及ぼす被害はほとんど認められなかった.以上の結果から,オーチャードグラスの春における利用は,適切であれば,種子生産に及ぼす影響がほとんどないことが明らかになった.自然下種による植生回復を効率よく行うための種子量を確保するためには,出穂の10日前から70日後までの休牧期間が必要である.
著者
土田 茂一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.170-173, 1966-11-30

青刈類の省力・多収をはかり圃場の合理的利用の面から青刈トウモロコシとニューソルゴーの混播を取り上げ,とくに初回刈りの時期と生草収量の関係を検討し1た。1.混播はそれぞれの単播に比較して概して多収となり,青刈トウモロコシを2回作付した合計収量に対して約3.0%,ニューソルゴー単播に対して約20.0%の増収となった。2.初回の生草量は青刈トウモロコシが主で,刈取りが遅くなるにしたがって増加の傾向を示したが,7月下旬以後は停滞した。そしてこのことが混播の生草収量に関係深いことを認めた。3.混植中のニューソルゴーは生育が劣り,混植期間が長くても生草量の増加は少ない。初回刈り後のニューソルゴーは,初回の刈取りが遅くなるほど少なく,とくに7月下旬以降に刈った場合は再生がいちじるしく劣るようであった。再生に最もよい初回刈りの時期は7月上旬であり,刈取ごとの収量も平均していた。4.混播の総生草収量は6月24日刈りが少ない以外,各区間に大差はなかった。しかし7月下旬以降の初回刈りでは,青刈トウモロコシの硬化が進むため青刈り給与の利用率は低下する。したがって青刈りの場合は生草量および利用の面やニューソルゴーの再生などからみて7月上旬頃の初回刈りがよく,サイレージ材料としては7月下旬に初回刈りし,ニューソルゴーは1回,刈りするのが適当と考える。
著者
山名 伸樹 亀井 雅浩 平田 晃 竹内 愛国 広兼 信夫
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.30-37, 1998-04-30
被引用文献数
3

収量が低下した草地の収量回復や草種構成の改善などの作業を省力的かつ低コストに行うため, ロータリ耕転装置をベースにして細幅作溝を行い, シードペレットあるいは種子, の追播, 施肥, 鎮圧を1行程で行うペレット種子用と通常の種子用作溝型簡易草地更新機を開発した。 ペレット用更新機は, 作業幅2.2mで, ホッパ容量, 機体質量等の改善点はあるが, 良好な作業精度は確保できた。また, 作溝条数8条, 作業幅2.16mで作溝部を2枚の直刃とL刃で構成した種子用の更新機(2号機)での更新作業は, 植生改善, 草地の収量増に効果的であることが実証できた。なお, 種子用2号機の適応トラクタの大きさは44kW以上と判断された。