著者
大島 光昭 長友 武志 窪田 拓男 田野 仁 岡島 毅 佳山 良正
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.396-401, 1988-03-20
被引用文献数
2

1986年4月17日刈り取りの生育期のイタリアンライグラスから天日乾草およびサイレージを調製するとともに,これを破砕後,生重の50%を脱汁して得た搾汁粕(プレスケーキ)からも同様の方法で乾草およびサイレージを調製し,それらの栄養価をヤギによる4×4のラテン方格法で比較した。天候不順により,乾燥に5日を要した。サイレージ品質は,いずれも優れていた。プレスケーキの一般成分組成は原料草に比し粗繊維が多く,他の成分が少なかった。粗蛋白質,粗脂肪およびNFEの消化率は,サイレージよりも乾草で,また原料草よりもプレスケーキで低かった。そしてこれらの差が,乾物および有機物の消化率やTDNおよび可消化エネルギー含量に反映された。粗繊維の消化率は,飼料間に有意差が認められなかった。ヤギの窒素蓄積率は,原料草の乾草およびサイレージとプレスケーキサイレージの間に差がなく,プレスケーキ乾草のみが劣った。以上の結果は,プレスケーキを貯蔵する場合,悪条件下で天日乾燥すると著しい栄養価の低下を招くが,サイレージではその程度が低く,プレスケーキサイレージの消化性は原料草乾草と等しく,その窒素のヤギによる利用性は原料草乾草のみならず,消化率でやや優る原料草サイレージとも変わらぬことを示している。よって,プレスケーキと原料草の栄養価を比較する場合,貯蔵法をも考慮に入れる必要があろう。
著者
田中 治 大桃 定洋
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.55-59, 1995-04-30
被引用文献数
15

簡便で労力のかからない小規模サイレージ発酵試験法の確立を目的として,従来から使用されてきたガラスビンサイロの代わりに,ガスバリヤー性の高い食品包装用フィルムで成形した袋(パウチ)を用いる方法(パウチ法)を検討した。さらに,このパウチを用いて,先に開発したサイレージモデル発酵系の改良を試み,以下の結果を得た。1.同じロットのアルファルファを材料草として,パウチ法とビンサイロ法とでサイレージを調製し,両サイレージの発酵品質を比較した結果,両者の間に大差はなく,パウチ法は,小規模サイレージ発酵試験に使用可能であると考えられた。2.パウチ法を用いたサイレージモデル発酵系の反復試験においては,有機酸生成量の変動範囲は±9%以下であった。また,培地の水分含有率を85%から70%へ低下させると,酪酸発酵が抑制された。3.本サイレージモデル発酵系(水分含有率85%)において,培地の糖濃度0.5〜0.6%を境に乳酸/酪酸の発酵転換が認められた。なお,この発酵転換は,乳酸菌とColi型細菌との接種菌数の比及び密封前の好気条件下での培養時間によって影響を受けた。4.本サイレージモデル発酵系(水分含有率85%)においては,酪酸発酵を起こす条件下ではColi型細菌が増殖し,乳酸の生成が進まず,培養48時間後には酪酸の生成が認められた。一方,酪酸発酵を起こさない条件下では,Coli型細菌の増殖が抑えられ,乳酸の速やかな生成が認められた。
著者
小倉 振一郎 佐藤 衆介 田中 繁史 菅原 英俊 松本 伸 阿部 國博 清水 俊郎 小寺 文
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.153-159, 2008-07-15

近年、わが国の養蚕業の衰退にともない遊休桑園が急速に増加している。その対策の一つとして、肉用牛による桑園の放牧利用が注目されている。桑は草食家畜に対して高蛋白かつ高消化性であることに加え、生産力が高いことから、飼料資源としてきわめて有用である。また、牛放牧による遊休桑園利用は、省力的に荒廃地の植生管理ができるほか、未利用資源が家畜生産に貢献するというメリットがある。電気牧柵による小規模放牧方式の導入により、省力的にかつ低コストで桑園の畜産的利用が可能である。すでに福島県では、電気牧柵による黒毛和種の放牧とマクロシードペレットを組み合わせることにより遊休桑園を牧草地化できることを実証している。宮城県においては、気仙沼・本吉地域一帯が、かつて東北地方の中でも福島県阿武隈地域、宮城県丸森地域と並んで養蚕業が盛んな地域であったことが知られている。しかし近年、遊休桑園が急速に増加し、荒廃化が急速に進行しているため、その対策が喫緊の課題となっている。こうした背景から、地域環境の保全および農林業の活性化を図るため、2005年秋に同地域内の南三陸町の遊休桑園において、黒毛和種の放牧が開始された。桑園放牧の普及にあたっては、桑の生産性と化学成分、ならびに放牧牛の行動、健全性といった基礎的知見の集積が不可欠であるが、こうした知見はこれまでにほとんど得られていない。そこで、南三陸町の遊休桑園における桑葉の現存量および化学成分、ならびに放牧牛の行動と血液性状からみた健全性について実証試験を行ったので報告する。
著者
田瀬 和浩 佐藤 尚親 田村 健一 眞田 康治 小松 敏憲
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.249-256, 2008-10-15
被引用文献数
1

海外で育成されたフェストロリウム13品種の越冬性を,多雪・非土壌凍結の北農研と寡雪・上壌凍結の根釧農試で2か年評価したところ,「Prior」はメドウフェスクの「ハルサカエ」と同程度に,「Felina」はペレニアルライグラスの「ポコロ」と同程度に越冬性に優れた。それ以外の品種は「ポコロ」よりも越冬性が劣った。また越冬性に関与する耐凍性と雪腐病抵抗性について自然および人為環境条件下で評価したところ,「Prior」は耐凍性よりも雪腐病抵抗性に優れ,逆に「Felina」は雪腐病抵抗性よりも耐凍性に優れることが明らかになった。既存フェストロリウム品種の中にメドウフェスクと同程度に越冬性あるいは耐凍性に優れる品種が認められたことから,冬期気象条件の厳しい道東でも利用可能なフェストロリウム品種の育成は可能と考えられる。
著者
金子 幸司 村上 馨 西村 格 杉信 賢一 小島 昌也
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.179-188, 1967-10-20

本試験は場所および草令を異にした採種によりアカクローバ品種の諸形質がどのように変化するかを調査した試験であるが,その結果を要約すると次のとおりである。1.アメリカ,カリフォルニア州で冬,(1月)播き2年目採種したものは道内春播き2年目採種のものに比べて早生化し,播種初年目および2年目における草勢,草丈および収量などは大であったが,3年目以降になるとその関係はむしろ逆となった。2.アメリカ,オレゴン州およびアイダホ州で春播き2年目採種したものは道内採種のものに比べて生育型構成割合がnon-flowering typeのほうに移動する傾向がみられ,それに応じて開花が若干晩生化したが,収量などについては上記のカリフォリニア州採種のものほど顕著な差は認められなかった。3.道内各地域採種の場合,札幌と上川北部地方で数世代採種しても両者間には諸形質に大きな差異を生じなかったが,日高地方で1世代選抜操作を加えることによってその集団は早生化し,原品種と諸形質を異にする集団を生じた。4.札幌地方で早生種を播種1,2および3年目と異なる草令別に採種をした場合,それらの種子区間にはほとんど形質の変化は認められなかった。本試験の実施にあたりハミドリ種子の御提供を賜わった雪印種苗株式会社上野幌育種場長三浦梧楼氏に深く謝意を表します。
著者
中村 徹 郷 孝子 鳥 云娜 林 一六
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.342-350, 2000-01-31
被引用文献数
16

内蒙古バイインシル草原において24の立地で枠法による群落調査を行い,103種の植物を記録した。そのうち30種は50%以上の調査地点に出現した。それらの種類は,放牧の強さによって群落内での重要度を変化させた。この30種と文献による14種を加え43種を用いて,放牧圧に対する各種の反応を検討した。弱い放牧圧の立地で高い重要度を示す種はAneurolepidium chinense, Stipagrandis, Achnathelum sibiricumであった。これらの種類をタイプIとした。逆に,放牧圧の強い立地で高い重要度を占める種類はCarex Korshinskyi, Cleistogenes squarrosa, Artemisia frigidaなどであった。これらの種類をタイプIIとした。Kochia prostrateやPotentilla bifurcaなど,放牧圧の強さにかかわりなくある程度の量を維持していた種類をタイプIIIとした。それらの群落構成種をもって立地の状態を判定する指数を工夫した。そのために,これらタイプI,II,IIIにそれぞれ4,0.25,1という評点を与え,この評点と各群落構成種の重要度指数の積の合計をもって立地の状態指数(Stand Quality Index:SQI)とした。すなわちSOI=Σ(rl・s)rl:それぞれの種の相対重要度,s:50%以上の出現頻度を持つ種を含む44種のそれぞれの種の評点。この立地状態指数は,1979年から16年間放牧を中止した草原では975,現在放牧を続けている草原で300前後となった。へクタールあたり8頭を越える放牧を行うと,この指数は100以下となった。草原の構成種の生育型組成は,放牧圧が強くなると匍匐型(p型)が増し,放牧圧の弱い立地では分枝型(b型)が増えた。群落の種多様性は,放牧圧が弱い立地では高くなる傾向を示したが,立地の状態指数とは直接関係がみられなかった。
著者
兼松 満造 木部 久衛 関川 堅 野村 晋一 沢崎 坦 清水 吉平 大神田 昭雄 瀬野尾 有司
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.56-75, 1968-04-20

山岳の多いわが国では,新たな草地開発はこれらの山岳地帯にその多くを求めなければならない。古くからの慣習の牧野でも標高2,000mぐらいまでは利用されてきている。長野・山梨県下では近年標高1,000〜2,000mの高海抜山岳地帯に近代的な草地の開発・改良が,国の奨励助長策の下に逐次進められつつある。米国ではコロラド州など7,000feet前後の高地もひろく家畜が放牧され,南米アンデスの高地帯やスイスの山岳放牧はより一層の高海抜地で行なわれている。とくに夏季に集中する降雨と急傾斜地の多いことなど外国とそれとは異なった自然条件下にあるわが国の山岳地帯でも,古くからの経験の上に森林の撫育とも併せて,土壌と水の保全に十分留意すれば,標高2,000mぐらいまでの草地の開発と利用は,積極的に推進すべきであろう。わが国の高海抜地帯とみられるこれらの山岳地帯は,冬期間の長さと凛烈な寒気を除けば,むしろ寒さによく耐えるわが国の乳牛,肉牛,緬羊にとって,夏季の高温の強い感作から免れることと,その多くが北方系に属する既導入牧草類の春から秋へかけての生育の季節変動が低暖地に比べて小さいことからも有利な点が多く,このような背景から高層草地は高く評価されるべきであると考える。そこでこれらの高海抜山岳地帯の草地とそこでの放牧家畜について,野外の生態学的ならびに生理学的調査を行なうこととし,草地と放牧家畜との対応関係についての基礎的知見を求め,この種地帯における草地の利用と放牧家畜の管理技術の改善に役立つことを目的としてこの研究を行なった。調査研究の対象草地の概要は表1のとおりである。これら3草地のほか,心拍数の計測と気象要因と泌乳量の変動に関する調査のため信州大学附属農場(標高770m)および東京大学附属牧場繋養のホルスタイン種の泌乳牛,心拍数の計測と行動調査のため扉牧場の牛群が夏季放牧される鉢伏牧場(標高1,800〜1,900m)も調査の対象とした。1.上記3草地は豪雪地帯を除くわが国の中部山岳地帯の気象を代表するhomo-climatic zoneにあるということができよう。すなわち調査の結果では年平均気温6〜8℃,年降雨量1,400〜1,600mm,気圧823〜890mbで,夏季最高気温が28℃を越えることは稀であり,一方冬期の最低気温は往々-15℃以下となる。気温較差が年間を通じて大きく,相対湿度は年間を通じて高く65%以上で,降雨量は5,6,7および9月に多く,11〜4月の間に少ない。8月はやや乾燥気味で草の生長がやや停滞する。冬期の寒気はきびしいが,積雪量が1mを越えることは稀であった。なお年間を通じて晴天の日は紫外線量が大きく,6,7および8月に濃霧や驟雨が多い。2.このような気象環境のもとで,草地植生の質と量の季節的変動は,低暖地にみられるような夏季の高温障害の度合は著しく軽減され,適切な放牧管理のもとでは,放牧期間を通じてとくに質的に高い水準を維持している。このことは牧草草地で一層顕著であるが,自然草地でも秋の後半の急激な質的低下を除けば同じような傾向であった。冬期における扉牧場の笹葉は夏季に比べてやや劣るが,なお比較的高い質的水準(C.P.10%以上)を示した。3.霧ケ峯牧場野草と扉牧場の笹葉刈取り試料の分析の結果,微量元素はいずれも低い値(Co-0.16,Cu-1.4〜7.6,Zn-18.1〜30.8ppm)を示した。しかし霧ケ峯牧場で隣接した同じ土壌で石灰および燐酸を多投し,かつN,PおよびK肥料を施用して造成した牧草地の刈取り試料は前者の約倍量(Co-0.33〜0.39,Cu-11.9〜14.0,Zn-47.8〜68.8ppm)の微量元素を含むことが明らかとなった。なおこの傾向はMoについても同様であった。4.標示物質法による扉牧場およびキープ農場での7回の放牧採食量の調査で,前者の昼間放牧では充分採食されていないこと,一方優良な牧草草地であるキープ農場の全放牧では満足すべき採食量を示した。5.なお放牧採食量と草の質と行動形の調査から算出したrt/gt値の間には,草生密度がとくに低くない限り,明らかに相関関係のあることが認められた。6.放牧行動形の連続調査の結果,乳牛群のそれぞれ異なる行動形の遷移は,それぞれの草地ごとにおおむね一定のパターンを示し,個体調査の成績もこれと同調した。いずれの場合でも,盛夏の候ですら放牧採食形は昼間に強く反覆していること,夜間に強い反芻形が集中することが観察された。なお放牧乳牛群の日間の遷移は律動的であったが,気候条件の急変とくに降雨,降雪が,このリズムを撹乱する要因であることが明らかとなった。7.上に述べた採食量と放牧行動形の調査成績から,放牧用諸施設のうち牧柵,門扉および牧道の整備が,管理労力の節減とも関連し,放牧草地のより効率的な利用のための制御を容易かつ確実ならしめるため極めて重要であることが示唆された。8.放牧草地の植生の質と量ならびに草地土壌の性質に対応する放牧牛の血液性状の季節的調査の結果,とくに自然草地である霧ケ峯牧場と扉牧場では,主として冬期の良質粗飼料の不足に基因すると考えられる血糖値の低下(平均値霧ケ峯-5頭-26.5mg/dl,扉牧場-12頭-28.0mg/dl)が認められ,さらに前者では血中βカロチン含量の著しい低下(平均207μg/dl,最低値60μg/dl)が冬の末期にみられたことは,両牧場の冬期間の良質粗飼料確保の重要性を示すものであろう。なお笹の純植生地たる扉牧場の放牧牛群は蛋白質,カロリー源の摂取不足は霧ケ峯牧場の場合と同様であるが,冬期にも積雪下でなお緑色を保つ笹葉の摂取が,血中のβカロチン含量のかなり高い水準(14頭の平均413μg/dl)を示していることから,わが国に多い笹の冬期飼料としての価値は高く評価されるべきであろう。9.放牧飼育牛の心機能についての一部の基礎知見を得るため,野村が創案したビート・メーターを牛体に装着して,放牧行動形別のできるだけ多くの個体について数多くの計測を行なったが,その結果,心拍数の個体差が大きいこと,しかし行動形別の心拍数は,個体ごとに休息形から放牧採食形へと(より大きい運動量の行動形へと)規則正しい増加を示すこと,各放牧行動形間の心拍数の変動の幅がジヤージー種牛がホルスタイン種牛に比べて狭かったことが認められた。これらの知見は牛の放牧飼育(育成-とくに高海抜草地)の意義と,放牧のため余分に必要とするカロリー推計への道を招くものであろう。10.低地から上記の高海抜草地に移動した乳牛は,ジャージー種牛,ホルスタイン種牛ともに高地到達時から数か月の間,赤血球数の明らかな増加を示したが,おおむね8〜12か月後には正常値となることが認められた。このことはこの程度の高地には乳牛は生理的によく適応し得ることを示唆するものと考えられる。11.同じく心機能に関して,高層草地に馴化したとみられるキープ農場のジャージー種泌乳牛32頭および信州大学附属農場のホルスタイン種泌乳牛12頭について行なった心電図検査の結果,注目すべき所見として,より高層のキープ農場の牛が信州大学附属農場の牛に比べ一般に高電位であり,とくに心電図のT波の電位がより高くQ-T間隔が長いことである。このような心電図所見の解釈についてはなお,今後の研究に待たなければならない。
著者
嶋田 徹 新発田 修治
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.283-289, 1984-01-31
被引用文献数
1

育成地や収集地を異にするオーチャードグラスの多数の品種および自生集団について耐凍性を比較し,北海道で栽培されるオーチャードグラス品種に必要とされる耐凍性の程度を検討した。北海道産の品種系統および導入品種からなる24集団間の比較では,耐凍性は育成地の1月の平均気温と密接な相関関係を示した。北海道産の品種系統のうち,帯広産の2系統は,最も耐凍性が大きかったカナダ産品種と同程度の耐凍性であったが,札幌産の5品種は耐凍性が中位で,一部の北欧・アメリカ産品種と同程度の耐凍性であった。また,北海道各地から収集した27自生集団間の比較では,耐凍性は,1月の平均気温より,15cm以上の積雪が生ずるまでにオーチャードグラスが受ける寒さの程度と関係していた。したがって,多雪な日本海側地域からの集団で耐凍性は小さく,寒冷少雪な太平洋側東部やオホーツク海側地域からの集団で耐凍性は大きかった。また,寒冷少雪地帯にある大規模草地の異なる標高から収集された9集団の比較では,播種されたアメリカ産品種マスハーディの耐凍性が自然選択により増大していることが認められた。これらの結果から,北海道で栽培されるオーチャードグラス品種には,耐凍性で品種の栽培地域区分を行うことが望ましいこと,その際,多雪地帯ではキタミドリ程度の中位な耐凍性で十分であるが,寒冷少雪地帯では,世界的にみても最高程度の耐凍性が必要であることがわかった。
著者
岩崎 薫 名久井 忠 早川 政市
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.418-423, 0000
被引用文献数
1

トウモロコシサイレージの原料が被霜した場合,サイレージの発酵品質,飼料価値,圃場損失にどのような影響を及ぼすかについて検討した。供試品種は交8号,ホクユウ,P3715で,被霜の程度は軽微なものは2〜3回,強いものは5〜14回であった。軽微な霜を被ると植物体の上部1/3程度が脱色し,強霜を被ると全体が脱色した。また,被霜により,サイレージの水分,粗蛋白質,単少糖が減少した。サイレージの発酵品質は,強霜を被ると総酸が顕著に減少し,その結果pHが4.5〜5.3に上昇した。粗蛋白質消化率は被霜回数が増加すると共に低下し,DCP含量も同様に低下した。一方,乾物消化率,TDN含量は被霜しないものと同等か,やや低い値を示した。ハーベスター収穫による圃場損失は被霜により増加した。以上の結果,良質なサイレージ原料を得るためには,2〜3回の降霜後にすみやかに収穫することが望ましいと推察された。
著者
新井 重光 菊地 正武
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.189-196, 1971-10-29

草地の不耕起簡易造成への易溶性カルシウム塩の利用の可能性につき圃場試験で検討した。試験地は愛知県北設楽郡設楽町の名古屋大学草地研究施設内の雑木林地で土壌は腐植に富む「黒ボク」である。得られた結果は次のように要約される。1)酢酸カルシウム施用によって,牧草収量,牧草率および荳科率が高まった。しかし,2年目には炭酸カルシウム区の収量および牧草率は酢酸カルシウム区のそれらに近くなった。2)土壌分析の結果では酢酸カルシウムあるいは炭酸カルシウム施用のいずれによっても表層5cmまでのpH (H_2O,KCI),y_1に影響がみられたが,より下層では明らかではなかった。しかし,下層の置換性カルシウム含量は酢酸カルシウム施用によって明らかに増大した。このことから易溶性カカシウム塩による草地化促進の効果の原因を推定した。3)これらの結果から易溶性カルシウム塩の利用の可能性が結論された。
著者
阿部 二朗
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.279-284, 1980-01-31
被引用文献数
2

寒地型牧草5草種(チモシー・メドーフェスク・オーチャードグラス・トールフェスク・ペレニアルライグラス)について,北海道奨励品種を中心に各草種6-11品種供試して,耐寒性幼苗検定を実施した。オーチャードグラスには-10℃・16時間処理,それ以外の草種に対しては-12℃・16時間処理を加えた。メドーフェスクとオーチャードグラスには好適な方法であったが,他の3草種に対しては改良すべきであることが認められた。全草種を通じて育成地または母材の育成地の冬の寒さが耐寒性に最も影響を及ぼしていることが判明した。若干の例外はあるが,北欧・カナダ産品種が強,本邦産品種は中,英国・南欧産品種は弱と分類された。ペレニアルライグラスおよびその他草種で最低ランクに含まれた品種の厳寒地への導入には問題があると考えられる。
著者
小山 信明 小川 恭男
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.264-270, 1994-10-31
被引用文献数
3

ネザサの全面開花が生育に及ぼす影響を,阿蘇北外輪山域のネザサ型放牧草地(標高920m)を対象に,1991-1992年にかけて調査した。(1)1991年の出穂稈数は0本/m^2であったが,1992年の出穂稈数は1420-2204本/m^2で全面開花した。(2)最大地上部重は,1991年には274.4-297.5gDM/m^2であったが,1992年は64.5-69.8gDM/m^2で前年の約23%にすぎなかった。(3)地下部重は,1991年の4月には1823-1909gDM/m^2であったが,8月には1776-1897gDM/m^2と少なく,11月には2173-2536gDM/m^2と再び増加した。一万1992年では4-11月にかけて減少し,特に8-11月にかけて多量の枯死がみられた。このため1992年4月21日には地下部生存部分重は1609-2093gDM/m^2あったが,11月13日には24-60gDM/m^2と約2%に減少した。(4)窒素年間吸収量は,1991年では4.40-5.15gN/m^2であった。しかし,1992年は-8.30--10.67gN/m^2で,多量の窒素がネザサから失われた。以上の結果から,全面開花するとネザサの生育は地上部・地下部ともに低下し,更に夏-秋にかけて地下部が多量に枯死し,それに伴ってネザサから多量の貯蔵窒素が失われた。
著者
目谷 義大
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.275-278, 0000
被引用文献数
2

サイレージ発酵を経時的に追求し,各種要因解析の基礎資料を得るためにオーチャードグラス(水分含量85.5%),アカクローバー(水分含量87.2%)を用いて実験した。その結果,オーチャードグラスにおいてはGOUET^<2)>,GREENHILL^<3)>の得た結果とほぼ同様な経時的変化が認められたのに対し,アカクローバーではplant juiceが非常に早く流出し,さらにplant juice流出から活発な乳酸発酵開始までにオーチャードグラスよりは30時間以上も遅れることがわかり,さらにその後も引きつずき,オーチャードグラスよりはかなり高い乳酸含量で経過したことなど草種別サイレージ発酵には大きな相違のあることが認められた。
著者
冨永 達 小林 央往 植木 邦和
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.164-171, 1989-10-31
被引用文献数
9

チガヤ(Imperata cylindrica (L.) BEAUV.)は,世界の熱帯から温帯にかけて広く分布するイネ科の多年生草本で,家畜の飼料として利用されている。本研究はチガヤの日本列島における形態および生活史に関する地理的変異を明らかにしようとしたものである。北海道から沖縄県に至る各地で1983年までに採集し,系統維持していた402クローンを1985年から同一条件下で栽培し,稈の節毛の有無および生活史について調査した。このうちの52クローンについては,1クローンにつき5ラミートを8号素焼鉢(直径20cm,深さ19cm,容積約6000cm^3)に移植し,乾物生産量を調査した。栽培実験は京都大学農学部附属亜熱帯植物実験所(和歌山県串本町)において行った。調査した402クローンは,稈の節毛の有無により,2変種に分類された。無毛のvar.genuinaに属するクローンの分布は,北海道,東北北部および福島,群馬,長野各県の高地に限定され,紀伊大島での出穂は極めて早く,草型は小型であった。一方,有毛のvar.hoenigiiに属するクローンは,東北南部以南に分布し,生活史に基づいてさらに2群に類別された。すなわち,奄美大島以南から採集したクローンは5月から10月にかけて断続的に出穂し,冬期も枯死しなかったのに対し,東北南部から九州にかけて採集したクローンは年に一度だけ5月に出穂し,冬期には休眠状態に入った。また,一般に植物体の大きさや生活史に関して採集地の緯度に伴うクラインが認められ,北方産のクローンほど植物体が小型で遅く出芽し,出穂は早く,地上部が早く枯死した。これらの結果は主として採集地の気候要因,特に冬期の温度の差異に起因するものと推定された。
著者
黒崎 順二 園田 立信 小野 茂 松山 宏 山中 将弘
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.324-329, 1982-10-28
被引用文献数
4

牛を高温環境で放牧する場合の管理法を究明する一環として,高温時における放牧行動の実態並びに高温時の放牧と呼吸数との関係を調査した。調査には宮崎大学住吉牧場のホルスタイン種の搾乳牛を用い,草地はバヒアグラスの優占草地で,10時30分から16時30分まで放牧し,調査を行なった。主要な調査結果は以下のとおりであった。1.6月下旬,7月および8月には,気温がそれぞれ27.0〜30.5℃,31.5〜35.0℃および29.5〜31.0℃の高温となり,このため牛は牧草地における採食と庇蔭林内における休息とを頻繁に繰り返し,放牧時間内における採食時間の割合が非常に少なくなった。これに対し,6月上旬,9月および10月の気温は,それぞれ24.5〜27.0℃,24.5〜27.0℃および21.0〜26.0℃で,採食と休息との繰り返しはほとんどみられず,また放牧時間の大部分が採食時間で占められるなど,高温時とは著しく異なった行動を示した。2.休息時の呼吸数は高温時期の6月下旬,7月および8月が6月上旬および9月よりも多くなり,10月はそれらよりも少なかった。その高温時には休息時間の経過に伴って呼吸数が著しく少なくなった。また,採食から休息に変るときは呼吸数が増加し,休息から採食に変るときは減少していたが,それらの呼吸数の変異は大きく,一定していなかった。このことは呼吸数自体が採食を阻害していないことを示す例証と考えられた。採食中の呼吸数は,季節的および個体的差異がみられるが,同一季節で同一個体の呼吸数はほぼ一定で大きくは変動しなかった。
著者
木曽 誠二 菊地 晃二
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.293-301, 1990-01-31
被引用文献数
1

窒素(N)施肥配分が,数種チモシー品種の年間および各番草の乾物収量に及ぼす影響を検討し,各品種の年間収量を最も高める配分法を明らかにした。チモシー品種として,年3回刈取りのクンプウ(極早生),および年2回刈取りのノサップ(早生),ホクシュウ(晩生)を用いた。1)N施肥量の増加により,各番草収量は高まった。しかし,その増収程度は1番草で大きく,2,3番草で小さかった。そのため,年間収量は,1番草に対して多く,2番草以降では順次少なくする配分が,各番草に対して均等配分する場合,あるいは1番草以降に順次多く配分する場合より高かった。これらの傾向は3品種とも同様であった。2)各番草に対して同量のNが施肥されたときの収量は,クンプウでは1,2番草が3番草より,ノサップ・ホクシュウでは1番草が2番草よりも高かった。また,牧草が吸収したN1kg当たりの乾物生産量は,どの品種でも,1番草が2,3番草よりも多かった。3)各番章収量に影響を与える再生茎の種類は,品種により異なり,クンプウの1,2番草およびノサップの1番草では有穂茎数の確保が,またホクシュウの1,2番草では無穂茎数の確保が重要であった。4)ノサップ,ホクシュウでは秋分施により,越冬前および翌春の茎数と茎葉重は増大したが,出穂期刈りの1番草収量は高まらなかった。5)以上より,年間のN施肥量が同一の場合,年間収量を最も高めるN施肥配分は,クンプウでは早春:1番草刈取り後:2番草刈取り後=3:2:1,ノサップ,ホクシュウでは早春:1番草刈取り後=2:1が適当であった。
著者
松田 義信 窪田 文武 縣 和一 伊藤 浩司
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.150-156, 1991-04-30
被引用文献数
7

トウモロコシを対照作物に用いて,ネピアグラス個体群における超多収性要因を解明した。1.ネピアグラスは,生育初期段階(植え付け-6月)では,茎数の増加が顕著であり,植え付け後23日には茎数密度は約100本/m^2に達した。茎葉は水平方向に伸長し,LAIが低い生育段階における光利用効率を高める受光態勢となった。2.生育中期段階(7月-8月)になると,自己間引きにより茎数が急激に減少し,約25本/m^2となったが,夏季高温下で葉の展開速度が速まり,高い葉面積指数(LAI=13.3)の個体群が形成された。この間,茎葉の伸長が水平方向から垂直方向に変わるため,吸光係数(K)が低下する等,群落構造に変化が起こり,個体群は長期間,高NAR(純同化率)を維持した。CGR(個体群生長速度)の最大値は,53.3g/m^2/dayであった。3.生育後期段階(9月-11月)では,群落下層部葉の枯死が増加するが,1茎当りの出葉数が多いためLAIは高い状態に維持された。4.トウモロコシに比較して,ネピアグラスの群落構造は極めて柔軟性に富み,いずれの各生育段階での光利用効率が高いため,物質生産能力が高まり,最終収量ではトウモロコシの2倍の値(4.4kg/m^2)となった。
著者
古賀 照章 阿部 亮
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.8-15, 1994-04-30
被引用文献数
10

現行の酵素分析法ではデンプン含有試料の細胞壁物質(CW)を定量する場合,α-アミラーゼ(デンプン分解)とアクチナーゼ(蛋白質分解)を別々に2段階処理で実施しているが,これを両酵素の混合液による1段階処理にすることによって,時間と手間の短縮・省力を計った。最初に緩衝液とpHの選択を行った。デンプンと蛋白質の標準物質としてジャガイモデンプン,大豆粕及びそれらの等量混合物を供試し,リン酸緩衝液(pH 5.4, 5.8, 6.4, 7.0, 7.4)と酢酸緩衝液(pH 4.4, 5.0, 5.4, 5.8)で酵素液を調製し40℃,16時間の分解における乾物と蛋白質分解率を測定した。pH 5.8酢酸緩衝液を利用した場合,混合酵素処理による乾物と蛋白質の分解率が最も高かったことから,この条件を採用してトウモロコシサイレージ,ソルガムサイレージ,大麦及びフスマのCW音量を測定し現行法での値と比較した。その結果,混合酵素処理法による定量値と現行法定量値との間には統計的な有意差がないか,またあったとしてもその差は非常に小さなものであることから,酵素分析の改良法として1段階処理法を提案することができた。これによって,分析時間を約1日短縮することが可能となった。次に,α-アミラーゼとプロテアーゼの両活性を持つ酵素「バンチダーゼ」のCW定量への利用を試みた。この酵素が持つキシラン分解作用のため結果としては目的を果たせなかった,が,逆にこの性質を牧草の栄養価評価のための人工消化法の開発に応用した。つまり,パンチダーゼとセルラーゼを混合した酵素液(pH 4.4酢酸緩衝液)に試料を加え40℃で16時間分解し,そこで得られた消化率をDPC(digestibility by panchdase and cellulase)とした。牧乾草・牧草サイレージのin vivo TDNとDPCとの間には高い値の相関係数が得られた。
著者
杉本 安寛 武藤 動 豊満 幸雄
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.175-181, 2000-07-31

牛尿施用によって生成されたN0_3-Nの土壌中における移動の様相, N0_3-N移動と降雨に伴う土壌の水分状態との関係および溶脱により損失する窒素量について検討した。バヒアグラス優占草地に,牛尿(60gN/m^2)をそれぞれ, 1991年8月8日および1991年10月15日に施用した(以下, 8月区, 10月区)。土壌は約1〜2週間ごとに150cmの深さまで, 15cm間隔で採取し, 採取土壌のNH_4-NおよびN0_3-Nを測定した。また, 地表から10cm間隔毎に, 150cm深さまでの土壌水の圧力ポテンシャルをテンシオメータで求め, 降水量を転倒升型雨量計により測定した。尿窒素の大部分が8月区では2週間, 10月区では5週間でNO_3-Nへと変化した。NO_3-Nの土壌下層への移動速度は, 降雨に伴う季節的な土壌水分状態の影響を受けた。土壌水の圧力ポテンシャル勾配から, 土壌水が下降移動する上部境界面を求めた。その結果, 上部境界面は実験期間の大部分において, 約60cmの深さにあった。上部境界面と150cm深さに含まれるN0_3-N量の最大値を地下浸透によって系外へ損夫する窒素量(溶脱量)とみなした。その結果, 8月区では21.5g(施用尿窒素の35.8%), 10月区では, 34.9g(施用尿窒素の58.2%)が, 溶脱量と推定された。
著者
奥 俊夫 千葉 武勝 土岐 昭男 小林 尚
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.206-210, 1976-10-25
被引用文献数
1

東北地方における1971年初夏のアワヨトウの多発が,外部からの成虫群の侵入に起因することはすでに推測されているが,飛来期について再検討の余地があった。奥山・富岡の飼育実験値に基く蛹化期からの逆算,風向風速の観測値による南西風が優勢な日の検出,天気図による広域の気流条件の検討及び東北地方における成虫誘殺結果から判断して,中国大陸の河南省方面に起源する成虫群が低気圧の移動に伴う連続風によって6月4日夜に東北地方に飛来した可能性が大きいと考えられた。また,奥羽山脈の東側への侵入絡路についても若干の考察を行った。