著者
三枝 俊哉 西道 由紀子 大塚 省吾 須藤 賢司
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.10-19, 2014

放牧によって草地から減少する肥料養分量を肥料換算養分の減少量と定義し,道東でこれを測定した結果,その値は既往の集約放牧草地における施肥適量にほぼ等しかった。また,これを用いて算出した放牧草地の養分収支は,放牧期間の前後における土壌中有効態養分含量の変化を概ね良好に説明した。そこで,北海道内延べ48牧区において,放牧による肥料換算養分の減少量を測定した結果,その値は地域性や草種特性によらず,被食量に規定されていた。そこで,48牧区全体の平均値と標準偏差を用い,道内全域に対応する乳牛集約放牧草地における窒素の施肥適量を,掃除刈りによる養分搬出のない条件で,マメ科牧草混生草地では年間4±2g/m<sup>2</sup>,イネ科牧草主体草地では8±2g/m<sup>2</sup>,リン酸およびカリウムのそれは草種構成によらず,年間3±1g/m<sup>2</sup>および5±1g/m<sup>2</sup>と提案した。
著者
上出 純
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.411-415, 1991-01-31

アルファルファ(品種:ソア)とオーチャードグラス(品種:キタミドリ)の混播草地を1978年以降毎年造成し,それぞれの草地の収量と草種構成の変化を造成後6年間にわたり継続調査してきた。1986年にそれらの草地の一部にアルファルファバーティシリウム萎ちよう病が発生し,その後の収量と草種構成に大きな変化がみられた。すなわち,1982年,1983年および1984年造成の利用5,4および3年目の草地に本病が発生し,アルファルファの割合が急激に低下した。1986年と1987年に造成した草地でも,利用2年目に本病が発生し,アルファルファの割合が低下した。本病の発生しなかった1981年にも,8月の大雨の影響でアルファルファの割合が低下した例があるが,本病の影響に比較して小さく,一過性の様相が強かった。1983年と1984年に造成した草地では,病害によりアルファルファの割合が低下しただけでなく,オーチャードグラスとの合計収量の低下も認められた。
著者
中川 仁
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.274-283, 2009
参考文献数
36

植物は光合成によって太陽エネルギーを最も効率よく利用している生物である。すなわち、大気中の二酸化炭素(CO2)と大地の水(H2O)を原料にし、太陽エネルギーによって炭水化物(CH2O)と酸素(O2)を作り出すことができる。ここで生産された炭水化物を燃料として燃焼しても、原料として用いたCO2が大気中に放出されるため、基本的に大気中のCO2量は増加しない計算になり、これをカーボンニュートラルと呼ぶ。これが、化石燃料をバイオマス燃料で代替することによる大気中CO2の削減が期待されている理由である。しかし、ここで植物を栽培するプロセスが重要であり、植林なしに単に山の木を伐採して燃料利用するだけであれば化石燃料を浪費する行為と大差はない。バイオマス生産を行うことそのものがカーボンニュートラルであることを忘れてはならない。ここ1、2年のバイオマス燃料に対する関心の高まりは目を見張るものがある。農林水産省においても2007年度から「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発」プロジェクト研究が開始した。このプロジェクトは、国産バイオ燃料の利用促進を図るために、サトウキビ、テンサイ(甜菜)、バレイショ(馬鈴薯)、カンショ(甘藷)およびソルガムを原料にしたバイオエタノール生産コストを大幅に削減する技術を開発し、実用化することが目的であり、政策目標として、国産バイオエタノールの生産コストを10年で現在の半分以下に削減することを目指している。この中で草本系イネ科植物として対象作物に選ばれているのが熱帯イネ科作物(C4植物)のサトウキビと高糖性ソルガム、すなわちスイートソルガムである。
著者
上田 弘則 小山 信明
出版者
日本草地学会
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.255-260, 2007 (Released:2011-03-05)

放牧地のワラビ防除のためにアシュラム剤を散布すると、イノシシに掘り起こされることがある。このような掘り起こしは家畜の餌量を減少させ、雑草の侵入や定着を助長してしまうという問題がある。そこで、アシュラム剤散布と掘り起こしの因果関係を明らかにすると同時に、掘り起こしがワラビの根茎を目的としているのか、また根茎の貯蔵炭水化物含有量と関係があるのかについて野外試験を行った。2003年7月に野草地内のワラビが優占している場所にアシュラム剤散布区と無散布区を設定した。ワラビの地上部が枯死した9月にイノシシの掘り起こしが確認され、散布区で対照区よりも掘り起こし割合が高かった。また、イノシシはワラビの根茎を選択的に掘り起こしていたが、ワラビの根茎の貯蔵炭水化物含量率は散布区と対照区で差はみとめられなかった。
著者
岩波 悠紀 佐藤 庚
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.168-177, 1970
被引用文献数
1

ヨード染色および化学分析法により,ススキ体内の炭水化物(全糖・澱粉)の分布およびその季節的消長を火入れとの関係において調査した。1.越冬直後の地下茎は多量の澱粉粒を含有し,この場合形成年次の古い地下茎ほどその量が多く,また澱粉粒の大きさは大きかった。2.地下茎内炭水化物は地上部の伸長に伴ない,形成の新しい部位から順次消費され,6月の節間伸長開始期に最低となった。その時期には約3年前に形成された地下茎内に僅かに澱粉粒を認めたが,その他の部位にはほとんど存在しなかった。同時に地上茎内の炭水化物の蓄積も最低であった。3.その後再び蓄積の過程に転じ,地下部は10月末から11月には最高に達した。蓄積の過程では,消費の場合とは逆に形成の古い部位ほど早くから蓄積しまた量が多かった。4.地上茎については,主としてその中・下部に澱粉が蓄積され,出穂完了後にその量は最高に達した。それらは葉身が枯れる時期に急速に地下部へ移行した。5.火入れ時期が早い区では,体内炭水化物の季節的消長はU区とほぼ同様に経過した。しかし火入れ時期が遅い区では,地上器官の枯死に伴ない,地下部に蓄積した炭水化物を急速に消費し,再生および炭水化物の蓄積が遅れた。6.6月の地下茎内炭水化物がほぼ最低になる時期に火入れした場合でも,晩秋には体内炭水化物含有率はU区とほぼ同じレベルに回復した。
著者
モンティーンーアート パンヤット 中薗 孝裕 岡本 智伸 小田原 健 菊地 正武 椛田 聖孝
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.115-121, 1998-07-31
被引用文献数
2

日本において動物園は, 有害物質による汚染のない排水の制御や飼料コストの増加などいくつかの問題をかかえている。本研究では, 生物的浄化や飼料としての水生植物の利用を熊本市動植物園内で行った。 3種類の水生植物(ホテイアオイ, ボンテデリア, マコモ)を汚水の流入する池で栽培したとき, 水中における全リンの濃度は, 植物の成長に伴い有意に減少した。 収穫した3種の植物は,湿地帯に生息する草食動物の嗜好性において良い結果がえられた。さらに, 飼料としての植物の利用は本動物園において1ヶ月当たり少なくとも約8万円の飼料費削減をもたらした。サイレージ調製について検討した結果, 添加物の必要性が認められた。 この研究から, マコモ, ポンテデリア, ホテイアオイのような水生植物による富栄養池の生物的浄化とその飼料としての利用は動物園において有効であることが示唆された。
著者
正岡 淑邦 高野 信雄
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.p110-116, 1985-04

暖地型飼料作物の細胞壁消化率をセルラーゼを用いて測定し,消化率と細胞壁中の化学成分含有率の関係について草種間で比較した。供試草種はトウモロコシ,ソルガム,グリーンパニック,バヒアグラス,オオクサキビ,シコクビエ,ローズグラスであり,トウモロコシとソルガムは2回,他は3回,生育時朝をかえて刈取った。1)生育相が比較的若い場合でも細胞壁構成物質(CWC)の含有率が高いとCWC消化率(CWCD)やin vitro乾物消化率(IVDMD)が低く,生育相が進んだ場合でもCWC含有率が低いとCWCDやIVDMDは高い値を示した。2)オオクサキビのCWCDは調査朝間を通じて他の草種より高く,逆にローズグラスは低い値を示した。3)CWC中のリグニン含有率は生育がすすむといずれの草種も増加し,CWCDは低下する傾向を示した。但しその増加率又は低下率は草種によって異なった。CWC中のリグニン含有率の増加はオオクサキビが最高の52.9%を示した。一方,最低はバヒアグラスの1.2%でほとんど変化しなかった。4)CWCDの草種間差異はリグニン含有率が近似した材料間でも認められ,必ずしもリグニン含有率に影響されなかった。またCWC中のリグニン以外の成立であるヘミセルロース又はセルロースの各含有率とも関連性が明らかでなかった。以上より,暖地型飼料作物のCWCDに関する草種間差異は細胞壁諸成分の含有率とは異なる要因が影響すると考えられる。
著者
劉 翔 高山 耕二 山下 研人 中西 良孝 萬田 正治 稲永 厚一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.266-271, 1998-10-31
被引用文献数
1

南九州における水生シダ植物アゾラ(Azolla, 日本名アカウキクサ)の飼料化を確立するため, pH, 生育時期およびアイガモ放飼がアゾラの生育に及ぼす影響を検討するとともに, 化学成分, 家鴨による嗜好性およびその給与が家鴨の産肉性に及ぼす影響を検討した。 pH2.8〜9.2の各培養液による生育について, pH5.5〜8.5でのA. japonicaの生育には差がみられなかった。4月上旬および5月下旬にそれぞれ室外環境で接種した A. pinnata 103, A. filiculoides 1006, A. caroliniana 3004, A. microphylla 4018, A. japonicaの生育については, 接種後1〜2週月の生育はいずれの種においても5月(平均気温21.4℃)に比べ4月(平均気温14.6℃)で遅かった。接種後5週間の増殖量についてアゾラ種間で差がみられなかったものの(p>0.05), A. filicloides 1006と在来種のA. japonicaの生育がやや速い傾向を示した。田植え後の水田に接種したアゾラはアイガモ放飼区および無放飼区とも生育が遮光により低下し, 接種後40日間の新鮮物収量は約2.000kg/10aであったが, アイガモ放飼区では虫害, 赤変, 過繁茂あるいはカビなどが発生しなかった。 上述5種アソラ混合物の粗タンパク質舎量は乾物当たり25.1%であり, 家鴨による嗜好性については, ヨモギ(Arzemisia vulgaris L.), シロクローバー(Trifolium repens L.), カラスノエンドウ(Vicia angustifolia L.), エゾノギシギシ(Rumex obtusifolius L.), イタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)およびキャベツ(Brassica oleracea var.)に比べ, アゾラの新鮮物摂取量が有意に高かった(p<0.01)。アゾラと配合飼料を家鴨雛に給与した場合, 2〜8週齢の体重は対照区に比べ有意に大きかった(p<0.05)。飼料要求率は4適齢まで対照区よりも低かったが, その後, 増大する傾向が認められた。以上から, アソラ新鮮物は家鴨による嗜好性が高く, その給与が発育を促進するとともに, 産肉性にも良好な成績をもたらすことが示唆された。
著者
井村 治
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.45-56, 2008-04-15
参考文献数
67
被引用文献数
4

各都道府県別のチョウのレッドリストとチョウの生態的特性を定量的に分析することにより,草地性チョウ類の保全すべき種とその特性を明らかにした。またこれらのチョウの保全とその生息地となる草地の維持・管理について議論した。日本産チョウ類の65.4%の種がいずれかの都道府県で絶滅の恐れがある種とされていた。レッドリストの種数では,草地性種が森林性種に比べて生息が脅かされるとは言えなかった。レッドリストカテゴリーに基づく絶滅リスク指数(ERI)でチョウを評価したところ,最上位の種はいずれも草地性の種であった。ERIとチョウの生態的特性の関連を一般化線形モデルで解析したところ,分布面積が狭く,単食性の草地性である種の絶滅のリスクが高かった。ERIは保全すべきチョウを評価するだけでなく,チョウの住む草地の環境的価値を評価するためにも利用できると考えられる。
著者
渡辺 也恭 八谷 絢 西脇 亜也
出版者
日本草地学会
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.611-615, 2004 (Released:2011-12-19)

放牧利用人工草地に侵入するハルガヤおよびミノボロスゲの出現と、腐植土層の厚さ、土壌硬度、傾斜角度、土壌水分含量および土壌pHとの関係を判別分析により解析した。また、その被度と土壌pH、土壌全窒素濃度(土壌N)および土壌可給態リン酸濃度(土壌P)との相関分析を行った。ハルガヤの出現は土壌水分含量および傾斜角度と正の、土壌硬度と負の関係にあった。また、その被度が高い地点ほど土壌Nと土壌Pが小さかった。一方、ミノボロスゲの出現は腐植土層の厚さと正の、土壌pHと負の関係にあった。その被度が高い地点ほど土壌pHが低かった。ハルガヤは乾燥ストレスに弱いものの急傾斜地などの低養分条件下で優占が起こりやすいと推察され、その防除には施肥により牧草の競争力を高めることが重要と考えられた。また、ミノボロスゲは富栄養条件下を好み酸性ストレス耐性を持つといえ、その防除のためには土壌酸性の矯正が有効と判断された。
著者
山根 一郎 飯泉 茂 黒崎 順二 佐藤 和夫 菅原 亀悦
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.90-96, 1962-09-30

(1)強酸性の石灰,燐酸の欠乏のはげしい腐植質火山灰土壌の山地草原において羊を用いた牧草地造成を小規模に1961年に試みた。(2)野草の不足,群れからの孤立,年令の若すぎたことなどから羊の体重は40日間に増加を示さなかつた。(3)羊の放牧によつて牧草地を造成することに成功した。
著者
東山 雅一 下田 勝久 池田 堅太郎
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.215-220, 2013-01-15

北上山地の高標高地域に位置し,利用休止後,再放牧されたスゲとシバが混在する半自然草地において,樹木の侵入と定着に対する放牧の抑制効果を明らかにするために,樹木の当年生実生の動態を2003-2010年に調査した。実生数の上位3樹種,ダケカンバ,ハウチワカエデおよびイタヤカエデを対象として,当年生実生数,生存率および樹高を放牧区と禁牧区とで比較した。放牧は,草地の立枯れと草本の草高を低くした。その結果,放牧は,ダケカンバの当年生実生数を増加させ,両カエデ種を減少させた。そして,放牧は3種の当年生実生の翌年以降の死亡率を高くし,生存個体の樹高を低くすることが明らかとなった。以上から,北上山地の高標高地域の半自然草地では,放牧は,樹木の個体数増加と生長を抑制し,植生遷移の進行を遅らせると考えられる。
著者
須賀 丈
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.225-230, 2010-10-15

全国的な半自然草地の消滅にともない、近年多くの草原性の動植物が絶滅のおそれのある状況に追い込まれている。たとえばチョウ類では、国のレッドデータブック(環境省自然保護局野生生物課)に掲載されている種の多くが採草・放牧・火入れなどの人間活動によって維持されてきた半自然草地または疎林的な環境に依存する種であり、絶滅の危険度の高いランクほどそのような種の占める割合が大きい。このような草原性の絶滅危惧種が温暖・湿潤な完新世の日本列島をどのようにして生き延びてきたのかをあきらかにするため、主に長野県(旧信濃国)をフィールドとして、土壌学・考古学・歴史学などの知見をふまえ、近年および現在の草原性チョウ類の分布データをこれらと照らし合わせることによりその実態を検討した。ここでは特に、近世よりも古い時代に火入れや放牧が半自然草地の維持に果たしていた役割にも焦点をあてることを試みる。またそうした古い時代からつづいてきた半自然草地の利用が、絶滅危惧種となっている草原性チョウ類の現在の分布にも影響を及ぼしている可能性があることを示す。
著者
佐々木 雄大 大澤 雅彦
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.251-256, 2005-10 (Released:2011-03-05)

草原全体として種組成の単純化が認められる兵庫県東お多福山草原であるが、登山道周辺においては草原内部よりも多様で特異な群落構造が見受けられる。そこで、本研究では登山道周辺の群落構造および種多様性に着目し、これらに特異性を与える主要因を利用客による踏みつけによるものと推定し、定量的に分析した。結果から、種組成の単純化が認められる本草原登山道周辺において、踏みつけの影響は必ずしも負の影響をもつとはいえないことがわかった。特に中程度の踏圧(土壌硬度で3.0-7.5kg/cm2)は、多様性を増加させた。整備された登山道を増やすことによって、適度な踏圧のもとで登山道が利用されるように促すことは、本草原登山道周辺における多様な草本植生の生育の場を提供することにつながると示唆される。
著者
Devine T.E. 鈴木 信治
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.7-12, 1976-04-25
被引用文献数
1

本研究は,炭そ(疽)病抵抗性がアルファルファの生産力改良に寄与している機作を明らかにしようとしたものである。炭そ病の影響をみるための植物指標として,炭そ病抗抵性を目標に育成した4系統と,それらの母材4品種を供試した。メリーランドの2地点における炭そ病害と秋の霜害の調査結果によると,炭そ病抗抵性と耐霜性は全く一致した関係を示した。これは,炭そ病害のストレスの影響で罹病個体の霜害感受性が増大したためであろう。メリーランドの1地点では,炭そ罹病性が葉を著しく変色させる結果を示した。3地点の成績によると,抵抗性系統は単位区面積当りの株数や茎数が多かった。株当り茎数に対する炭そ病の負の影響は,春,秋いずれの場合も見られなかった。草丈は,抵抗性系統が高い傾向にあった。結論として,抵抗性系統は,炭そ病が発生した後において,単位区面積当りの生存個体数と茎数が多く,草丈が高く,耐霜性が増大する点で優れていた。
著者
高橋 佳孝 大谷 一郎 魚住 順 余田 康郎 五十嵐 良造
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.338-344, 1988-03-20
被引用文献数
2

寒地型牧草における根滲出物の生長抑制作用の草種間差異を明らかにするため,9種の牧草を砂耕栽培している"ドナーポット"(対照区は砂のみ)からの流出液を,"レシーバポット"に砂耕栽培している牧草に定期的に灌注し,それらの生育反応を地上部乾物重によって比較した。得られた結果の概要は以下のとおりである。1. 各ドナー牧草の滲出物は同種または異種のレシーバ牧草の生育を抑制あるいは促進したが,全レシーバ草種を平均してみるといずれも抑制的で,この平均的抑制作用はペレニアルライグラスが最も高く,ルーサンが最も低かった。一方,個々のレシーバ牧草の反応をみると,オーチャードグラス,ペレニアルライグラス,レッドトップ,リードカナリーグラスおよびアルサイククローバの5草種はすべてのドナー牧草の滲出物によって生育が抑制され,また,ルーサンを除くすべての草種では,ドナー牧草9処理区の平均乾物重が対照区よりも劣った。2. マメ科牧草の滲出物を受けたレシーバ牧草の乾物重は概してイネ科牧草滲出物の処理区に比べて高く,この傾向はルーサンとシロクローバでとくに顕著に認められた。3. アルサイククローバ,シロクローバ,ペレニアルライグラスの3草種は異学種の滲出物より同一草種の滲出物によって生育をより強く阻害され,その他の草種では異なる草種の滲出物による抑制度の方がむしろ大きかった。また,異草種の滲出物に対する感受性の大きい草種ほど同一草種の滲出物に対する感受性も高いという一般的傾向が認められた。
著者
艾比布拉伊爪木 伊馬木 花田 正明 岡本 明治
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.623-628, 2004-02-15

放牧飼養している去勢牛への併給飼料としてビートパルプを給与し,ルーメン内におけるN化合物の利用および小腸への非アンモニア態Nやアミノ酸供給量に及ぼす影響について検討した。ルーメンと十二指腸にカニューレを装着した3頭の去勢牛をオーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)草地に昼夜放牧させ,併給飼料としてビートパルプを供試牛の代謝体重あたり0,15,30g/日給与する3処理区(BP0,BP15,BP30)において,3×3のラテン方格法により試験を行った。草地をパドックに分け,滞牧日数が1日の輪換放牧をした。草地からのOM摂取量はビートパルプの給与により減少したが,全飼料からのOM摂取量は処理間に差はみられなかった。Nとアミノ酸の摂取量はビートパルプの給与により減少した。ルーメン内容液中のアンモニア濃度はBP0区に比べBP30区で有意に減少した(P<0.05)。十二指腸への非アンモニア態Nやアミノ酸の移行量は処理間に差はなかったが,ビートパルプの給与によりルーメン壁からのN消失量が減少し,摂取量に対する十二指腸への非アンモニア態Nおよびアミノ酸移行量の割合は高くなった。
著者
日本草地学会 [編]
出版者
日本草地学会
巻号頁・発行日
1961