著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.177-188, 2009-06-10 (Released:2017-07-27)

本研究では,サンタクロースのリアリティに対する幼児の認識を調べた。研究1と2では,私たちは"昼間に保育園のクリスマス会で出会う大人が扮装したサンタ"(直接的経験)と"夜中に子どもの寝室にプレゼントを届けてくれるサンタ"(間接的経験)について子どもにインタビューした。その結果,4歳児は大人が扮装したサンタを"本物"と判断する傾向があるのに対し,6歳児は"偽物"と判断する傾向があることが示された。他方,6歳児は夜中にプレゼントを届けてくれるサンタを"本物"と判断していることが示唆された。研究3では,研究1と2の2種類のサンタに加えて,"デパートで出会うサンタ","昼に子どもの家を訪問するサンタ","夜に空を飛んでいるサンタ","夜にサンタ国に子どもを招待するサンタ"について,本物か偽物かの判断を求め,その根拠も求めた。その結果,5歳児は外見の類似をもとにサンタを「本物」と判断する傾向があるのに対し,6歳児は伝承されているサンタクロース物語と登場文脈との一致をもとに,"寝室","空の上","サンタの国"サンタを「本物」,"デパート","保育園","玄関"サンタを「偽物」と判断する傾向があった.以上の結果は,サンタクロースのリアリティ判断の発達における直接的経験と登場文脈の影響という点で議論された。
著者
瀬戸 淳子 秦野 悦子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.53-64, 1997-04-30 (Released:2017-07-20)

乳幼児健康診査で把握された精神遅滞児の就学までの追跡資料をもとに, 研究1では幼児期における精神遅滞児のDQ推移について分析した。その結果, 幼児期のDQ推移は「上昇型」「平坦型」「起伏型」「下降型」の4つの型に分類された。その中で「平坦型」の子どもは41%で, それ以外の59%の子どもはDQが15以上変動していた。また, DQの変動は2歳から5歳にかけてみられ, 下降は2歳以降, 上昇については3歳以降顕著であった。研究2では研究1で明らかにされたDQの急激な変動に注目し, DQ急上昇や急下降の要因について検討した。その結果, 発達が停滞しやすい発達年齢(DA)水準, 逆に急速な発達がみられやすい発達年齢(DA)水準の存在が指摘された。また, 養育環境の改善もDQの変動と関連している可能性が指摘された。
著者
瓜生 淑子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.13-24, 2007-04-20

本研究では,70人の幼児に対して,人気のキャラクター(アンパンマン)を登場させた課題場面を構成し,アンパンマンを救うために対決場面で敵(ばいきんまん)に嘘の在処(アンパンマンを救うための大事なものが入っていない空の箱)を教えられるかを検討した。その結果,年中児は80%が,年長児は100%が正答した。誤信念課題(位置移動課題)の結果とも比較したところ,誤信念課題正答より1年以上先んじた成績であることから,年中児以上になると,「心の理論」獲得に先立って嘘をつくことが可能になってきていることがわかった。しかし,年少児では,嘘をつく課題の方が逆に正答率が30%程度と低く,嘘をつく反応への葛藤がうかがえた。回帰分析の結果,この課題では,「男児」優位が示されたことから,認知的課題である誤信念課題と違って,パーソナリティ要因の影響も示唆された。しかし,嘘をつく課題では,正答率の低い年少児も含めて良い回帰モデルが作られたことなどから,年少児の正答率の低さは,そもそも嘘をつく行為がこの時期,まだ萌芽的であることを示していると解釈され,「心の理論」獲得の時期は欧米の子どもに比べてやや遅く,年中児以降と考えられるのではないかと考えられた。
著者
山内 星子 伊藤 大幸
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.294-304, 2008

両親の夫婦関係が青年の結婚観に影響を与える過程として,連合学習のようなシンプルなメカニズムによって直接的に影響する「直接ルート」と,青年自身の恋愛関係を媒介して間接的に影響する「モデリングルート」とを想定し,実証的に検討した。さらに,モデリングルートのうち,親の夫婦関係から青年の恋愛関係への影響については,親の夫婦関係に対する青年の主観的評価が調整変数として機能するという仮説を立て,検証を行った。大学生213名(男性95名,女性112名,不明6名)から得られたデータに対して共分散構造分析を行った結果,親の夫婦関係に対する青年の主観的評価が高い群においては,親の夫婦関係が直接に青年の結婚観に影響を与え,また,青年自身の恋愛関係を媒介して間接的にも影響を及ぼしていた。一方,親の夫婦関係への評価が低い群では,親の夫婦関係から青年の恋愛関係への影響は見られず,親の夫婦関係と青年の恋愛関係が独立に青年の結婚観に影響を与えていた。これらの結果は,直接ルートが親の夫婦関係への青年の評価にかかわらず成立するのに対し,モデリングルートは評価が高いときにのみ成立することを示している。
著者
中垣 啓
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.369-380, 2011-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

本論文の目的は,ピアジェの発達段階論の紹介と解説を通して,認知発達において発達段階を設定することの意義と射程とを明らかにすることであった。まず,ピアジェの知能の発達段階は主体の判断,推論を規定する実在的枠組みである知的操作の発達に基づいて設定されたものであり,知的操作は順序性,統合性,全体構造,構造化,均衡化という5つの段階基準を満たす,認知機能の中でも特権的な領域であることを指摘した。次に,形式的操作期の知的新しさがこの時期の知的操作の全体構造から如何に説明されるか,具体的操作期の全体構造から形式的操作期の全体構造が如何に構築されるかを明らかにすることを通して,形式的操作の全体構造がもつ心理的意味を探った。最後に,ピアジェ発達段階論の意義と射程を理解する一助として,発達心理学の古典的問題である発達の連続性・不連続性の問題,最近の認知発達理論の一大潮流である理論説が提起する認知発達の領域固有性・領域普遍性の問題,そしてこの特集号の編集責任者から提起された形式的操作期の一般性・普遍性の問題を議論した。
著者
仲村 照子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.61-71, 1994-06-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

この研究の目的は子どもの死の概念の発達を調べるものである。3歳から13歳までの男女205名の子どもたちに個別に面接し, 死に関する9の質問に答えてもらった。結果は, 幼児期の子どもは大人がもつような死の意味とは違ったものとして理解している。生と死は未分化であり, 現実と非現実の死の区別がなされておらず, その子ども独自の自由な死の概念を形成していると思われる。そして自分は死なないと思っている。児童期あたりから死の現実的意味である普遍性, 体の機能の停止, 非可逆性を理解するようになる。彼らは誰でもいつかは死ぬし, 死によって体の機能は停止するし, 再び生き返ることは出来ないことを理解する。これらの自覚から死は自分にも起こり得ると考えるようになり, それはやがて死後の世界ヘの想像, 願望, 希望が膨らみはじめると思われる。特に年齢が高くなるにつれて人間は死んだらまた生まれかわるという「生まれかわり思想」の増加が目立った。全年齢を通して変化のないものは死はいやな感じであるという感情であった。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.122-135, 2002-08-10

空想の存在に対する幼児・児童の認識を調べるために2つの研究を行った。研究1では,4歳児30名,6歳児32名,8歳児29名に対して,4つの空想の存在(サンタクロース,おばけ,セーラームーン,オーレンジャー)について「会ったことがあるか」「会ったとすればそれは本物だったか」「どうしたら会うことができるか」を尋ねた。研究2では,その親91名に対して質問紙調査を行い,「子どもはこれまでに空想の存在の扮装物と会ったことがあるか」「まだ信じていると思うか」などを尋ねた。主な結果は次の通りである。(1)空想の存在の扮装物を"本物-偽物"の次元によって認識し,本物と偽物が未分化な状態から分化した状態へと移行するようになるのは4歳から6歳の間であることが示唆された。(2)空想の存在を"実在-非実在"の次元によって認識し,実在と非実在が未分化な状態から分化した状態へと移行するようになるのは6歳から8歳の間であることが示唆された。
著者
矢吹 理恵
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.215-224, 2005-12-20

日本人が国際結婚をする場合, 結婚後の戸籍上の氏を夫婦同姓, 別姓のうちから選択することが民法上可能である。さらに, 同一人物が日本にいる時とアメリカにいる時で名のりを一致させる必要がない。このような選択的な状況のもとでは, 名のりは個人の文化的アイデンティティを表す指標の一つであると考えられる。本研究では, 日米間の国際結婚の夫婦の日本人妻が結婚後に選択する名のりの形態とそれにかかわる要因, そして名のりに付与された「意味」を, 対象者のライフヒストリーの文脈において明らかにするために, 在日の夫アメリカ人・妻日本人夫婦20組に対して質問紙および面接調査を行った。その結果, 妻の名のりには自分の「日本姓」, 夫の「アメリカ姓」, 両方をつなげた「混合姓」の三つの形態が見られることがわかった。妻の名のりの選択は, 日本とアメリカにおいて各自が置かれた状況によって自己の社会的な利益を最大化するための「戦略」(Bourdieu, 1979/1990)として機能していた。名のりの使い分けに見られるアイデンティティの選択は, 個人や集団の文化的アイデンティティは永続的なものとして存在しているのではなく, 変異するものであるというHall (1997/1998)の「位置取り(positioning)」として位置付けられた。
著者
髙坂 康雅
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.284-294, 2013

本研究の目的は,"恋人を欲しいと思わない"青年(恋愛不要群)がもつ"恋人を欲しいと思わない"理由(恋愛不要理由)を分析し,その理由によって恋愛不要群を分類し,さらに,恋愛不要理由による分類によって自我発達の違いを検討することであった。大学生1532名を対象に,現在の恋愛状況を尋ねたところ,307名が恋人を欲しいと思っていなかった。次に,恋愛不要理由項目45項目について因子分析を行ったところ,「恋愛による負担の回避」,「恋愛に対する自信のなさ」,「充実した現実生活」,「恋愛の意義のわからなさ」,「過去の恋愛のひきずり」,「楽観的恋愛予期」の6因子が抽出された。さらに,恋愛不要理由6得点によるクラスター分析を行ったところ,恋愛不要群は恋愛拒否群,理由なし群,ひきずり群,自信なし群,楽観予期群に分類された。5つの群について自我発達を比較したところ,恋愛拒否群や自信なし群は自我発達の程度が低く,楽観予期群は自我発達の程度が高いことが明らかとなった。
著者
武居 渡 鳥越 隆士
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.12-22, 2000-06-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
1

本研究は手話言語環境にある聾児の非指示ジェスチャーの特徴について明らかにし, 手話の初語との関連について検討することを目的とした。ろうの両親を持つ聾児2名 (5カ月〜15カ月) のコミュニケーション場面がピデオに収録され, 子どもの手の運動を記述し, 分析した。その結果, 非指示ジェスチヤーに関して以下の4点が明らかになった。第一に, 手がコミュニケーション手段として使用される前に, 非指示ジェスチヤーが出現した。第二に, 非指示ジェスチヤーの多くはシラブルを構成し, リズミカルな繰り返しがみられた。第三に, 非指示ジェスチヤーは, 6カ月前後では「記述の困難な単なる手の動き」として観察されたが, 10カ月前後にはそれが「リズミカルな繰り返し運動」ヘと変化し, 1歳を過ぎると「一見サインのようなジエスチャー」が多く見られ, 発達に伴い質的に変化していった。第四に, 非指示ジェスチャーと初語との間に, 連続性が確認された。これらの結果から, 非指示ジェスチヤーは, 音声哺語の特徴と多くの点で類似していることが明らかになり, 手話言語獲得において, 非指示ジェスチャーが手話の音韻体系を作りあげ, 哺語の役割を果たしていることが考えられた。
著者
小野寺 敦子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-25, 2005-04-20
被引用文献数
7

68組の夫婦に縦断研究(子どもの誕生前, 親になって2年後, 3年後)をおこない親になることによって夫婦関係がどのように変化していくかについて検討した。夫婦関係は「親密性」「頑固」「我慢」「冷静」の4因子からなる尺度によって明らかにした。その結果, 親密性は親になって2年後に男女ともに顕著に低くなるが, 2年後と3年後の間には大きな変化はなかった。このことから, 夫婦間の親密な感情は親になって2年の間に下がるが, 3年を経過するとその下がったレベルのまま安定し推移していくことが明らかになった。しかし妻の「頑固」得点は母親になると著しく高くなっており, 妻は母親になると夫に頑固になる傾向が認められた。さらに夫の「我慢」得点は3期にわたって常に妻よりも高かった。これは夫が妻の顔色をうかがって妻に不快なことがあっても我慢してしまう傾向があることを示している。最後に「親密性」が低下するのに関連する要因について重回帰分析を用いて検討した。その結果, 夫の場合は妻自身のイライラ度合いが強いことと夫の労働時間が長いことが親密さを低下させていた。一方の妻の場合は夫の育児参加が少ないことや子どもが育てにくいことが夫への親密性を低める要因としてかかわっていた。
著者
藤井 貴之 高岸 治人
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.181-188, 2018 (Released:2020-12-20)
参考文献数
32

近年,日本国内における発達研究の国際化が進んでおり,国際誌に日本発の英語論文が掲載されることも多くなってきた。しかし,学術論文を国際誌へ投稿することは,現在の心理学業界において最も優先される選択肢であるとは必ずしもいえないのが現状である。そのような中で,著者らは従来の発達心理学の枠を越えた,学際的なアプローチによってその成果を国際的な場で発表し続けてきた。本稿では,著者らがこれまで行ってきた,子どもを対象にした利他行動における他者の監視の効果に関する発達研究をまず紹介するとともに,日本発の発達研究をするにあたり,著者らが何故このテーマを選んだかについて述べる。最後に研究を国際的に発信する意義と今後の日本における発達心理学の展望について著者らの考えを記す。
著者
田中 善大 伊藤 大幸 村山 恭朗 野田 航 中島 俊思 浜田 恵 片桐 正敏 髙柳 伸哉 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.332-343, 2015 (Released:2017-12-20)
参考文献数
26
被引用文献数
2

本研究では,単一市内の全保育所・公立小中学校の児童生徒の保護者を対象に調査を実施し,ASD傾向及びADHD傾向といじめ被害及び加害との関連を検討した。ASSQによってASD傾向を,ADHD-RSによってADHD傾向を測定した。いじめ被害及び加害は,関係的いじめ,言語的いじめ,身体的いじめのそれぞれのいじめについて測定した。保育所年少から中学3年生までの計8396名の幼児児童生徒のデータに対する順序ロジスティック回帰分析の結果,他の独立変数の効果を調整しない場合には,いじめ被害及び加害ともに,いずれのいじめに対してもASD傾向とADHD傾向の効果が示された。これに対して,他の独立変数の効果を調整した場合には,2つの発達障害傾向のいじめに対する影響は異なるものであった。いじめ被害では,全てのいじめでASD傾向の主効果が確認されたが,ADHD傾向の主効果が確認されたのは関係的いじめと言語的いじめのみであり,オッズ比もASD傾向より小さかった。いじめ加害では,全てのいじめでADHD傾向の主効果が確認されたが,ASD傾向ではいずれのいじめにおいても主効果は確認されなかった。これに加えて,学年段階や性別との交互作用についてもASD傾向とADHD傾向で違いが見られた。
著者
石本 雄真
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.278-286, 2010-09-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
11

本研究は,教育臨床や心理臨床の領域での視点から捉えた居場所感が青年期の学校適応,心理的適応に対してどのような影響を与えるのかについて検討することを目的とした。「ありのままでいられる」ことと「役に立っていると思える」ことから居場所感を捉える尺度を作成し,家族関係・友人関係・クラス関係・恋人関係といった対人関係の種類ごとに居場所感と学校適応,心理的適応との関連を検討した。大学生188名,中学生384名を対象に関係ごとの居場所感,学校生活享受感,自己肯定意識について測定した。その結果,対人関係の種類ごとに自己肯定意識や学校生活享受感に影響を与える居場所感の因子が異なっていることが分かった。中学生では,自己肯定意識に対して家族関係での居場所感が概ね促進的な影響を与えていたが,大学生では家族関係での居場所感はほとんど影響を与えていなかった。また中学生では,学校生活享受感に対して複数の対人関係における居場所感が促進的な影響を示していたが,大学生ではいずれの対人関係における居場所感についても学校生活享受感に対しての影響がみられなかった。中学生においては,男子はクラス関係での自己有用感の他に家族関係での本来感が学校生活享受感に促進的な影響を示していたが,女子は友人関係での本来感が影響を示していた。これらのことから,年齢,性別ごとに居場所として重要となる対人関係の種類が異なるということが明らかになった。
著者
大谷 多加志 清水 里美 郷間 英世 大久保 純一郎 清水 寛之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.12-23, 2017 (Released:2019-03-20)
参考文献数
33

本研究の目的は,発達評価における絵並べ課題の有用性を検討することである。44月(3歳8ヵ月)から107月(8歳11ヵ月)の幼児および学童児349人を対象に,独自に作成した4種類の絵並べ課題を実施し,各課題の年齢区分別正答率を調べた。本研究では絵並べ課題のストーリーの内容に注目し,Baron-Cohen, Leslie, and Frith(1986)が用いた課題を参考に,4種類の絵並べ課題を作成した。課題は,ストーリーの内容によって「機械的系列」,「行動的系列」,「意図的系列」の3つのカテゴリーに分類され,最も容易な「機械的系列」の課題によって絵並べ課題の課題要求が理解可能になる年齢を調べ,次に,人の行為や意図に関する理解が必要な「行動的系列」や「意図的系列」がそれぞれ何歳頃に達成可能になるのかを調べた。本研究の結果,全ての課題において3歳から7歳までに正答率が0%から100%近くまで推移し,機械的系列は4歳半頃,行動的系列は5歳後半,意図的系列は6歳半頃に達成可能になることがわかった。また課題間には明確な難易度の差があり,絵並べ課題のストーリーの内容によって課題を解決するために必要とされる知的能力が異なることが示唆され,適切なカテゴリー設定を行うことで絵並べ課題を発達評価に利用できる可能性が示された。
著者
藤崎 春代
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.99-111, 1995-12-10

本研究では, 3・4・5歳児に対して園生活の流れについて個別面接調査を行い, 一般的出来事表象 (GER) の形成と発達的変化について検討した。すべての子どもに, 登園から降園までの園生活全体の流れを聞く質問 (上位レベルについての質問) を行うとともに, 一部の子どもには, 給食時および昼寝時の流れを問う質問 (下位レベルについての質問) を重ねて行った。分析の結果, まず, 3歳児でも行為を述べる際に主語なしで現在形表現をしており, また時間的順序も一定であるなど, GERを形成していることが確認された。しかしながら, 3歳児においては, 報告行為数は4・5歳児より少なく, 遊びのようにルーティン化の程度の低い活動については, 具体的な遊びの内容や遊び仲間の名前をともなって述べることが多い。また, 上位レベルで述べられなかった行為が下位レベルで報告されるようになるのも, 4歳以降であった。なお, おやつをそのメニュー内容からごはんと呼ぶ子どもがいることからは, 子どもが園以外の場で獲得した知識を汎用していることが示唆された。多くの5歳児は, 日常活動を階層的に報告していたが, そうでない児もいた。報告行為数と構造において個人差がありそうである。
著者
中道 圭人
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.228-239, 2011-09

幼児の反事実的推論に因果関係の領域が及ぼす影響を検討した。実験1では3-5歳児(N=74)を対象に反事実課題を実施した。反事実課題では,幼児に初期状態⇒原因事象⇒結果状態からなる因果関係を含んだ物語を提示し,その因果関係の原因事象が異なっていたら結果状態がどのように変化するかを尋ねた。因果関係には3つの領域(物理・心理・生物)があった。その結果,年少児より年中児・年長児で,物理的領域より生物的領域で,その2領域より心理的領域で推論遂行が良いことが示された。実験2では3-5歳児(N=30)を対象に結果選択課題を実施した。結果選択課題では,3領域それぞれに関して,ある原因事象を提示し,その結果状態がどのようになるかを尋ねた。その結果,結果選択に関して領域による遂行差は見られず,反事実的推論の領域による遂行の違いが実験1で用いた因果関係に対する理解の違いに起因するのではないことが示された。これらの結果は,反事実的推論能力が4-5歳頃に向上すること,その能力には領域に関する何らかの制約が影響している可能性を示唆している。
著者
稲田 尚子 黒田 美保 小山 智典 宇野 洋太 井口 英子 神尾 陽子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.123-133, 2012-06-20 (Released:2017-07-27)

反復的行動尺度修正版(Repetitive Behavior Scale-Revised: RBS-R)は,自閉症スペクトラム障害(ASD)児者の反復的行動の種類の多さとその問題の程度を評価する尺度であり,6下位尺度43項目から成る。本研究は,日本語版反復的行動尺度(RBS-R)の信頼性と妥当性の検討を目的として行われた。対象者は,ASD群53名(男性:女性=42:11;平均年齢=11.2±10.5歳)と,対照群40名(知的障害児者23名,定型発達児者17名)とした。養育者の報告に基づき,専門家が日本語版RBS-Rを評価した。Cronbachのα係数は0.91であり,良好な内部一貫信頼性を示した。各43項目における評定者間一致度(級内相関係数)は0.79から1.00の範囲であり,評定者間信頼性は高かった。日本語版RBS-Rの該当項目数および合計得点はいずれもASD群で対照群よりも有意に高く,十分な弁別的妥当性を示した。また,合計得点は,小児自閉症評価尺度東京版に含まれる反復的行動に関連する3項目の合計得点と有意な正の相関(r=0.65)があり,併存的妥当性が確認された。今後,さらなる検討が必要であるが,日本語版RBS-Rの信頼院と妥当性が示された。
著者
坂本 美紀
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.117-125, 1993-11-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
1

本研究は, 算数の文章題解決における誤りの原因を調査したものである。研究の目的は, lつの文章題の解決過程を下位過程に分け, 誤りが各過程のどの部分で生じるか, またそれに問題の種類による違いがあるか, という点を検討することである。課題は, 加減乗除のうち2種類を扱う文章題で, 過剰情報および単位変換の要因が操作された。調査対象は小学校4年生であった。実験1では, 問題は5つの下位過程に分けられ, 各過程ともパーソナルコンピュータによって, 教示・問題文・選択肢の提示および児童の反応の記録が行われた。その結果, 単位変換を含む問題では, 単位変換がつまずきの原因になることが多いことがわかった。また, 単位変換を含まない間題でのつまずきの原因は, 問題の状況を理解する過程にあると考えられた。実験2では紙筆検査によって, 過剰情報が, 問題状況を理解する過程での, 解決に必要な数値の選択に与える影響を中心に調べた。実験の結果, 通常問題では演算を選択する下位過程で正答数が減ったが, 過剰問題では問題文中の過剰な情報が数値を選択する下位過程を困難にし, 誤答の原因となっていた。これより, 文章題特有の難しさの原因の多くは問題理解過程にあり, 特に問題文から抽出した必要な数字の関係づけが, つまずきの要因になっていることがわかった。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.182-191, 2010-06-20

本研究の目的は,大学生のアイデンティティの確立の程度及び推測された恋人のアイデンティティの確立の程度と,恋愛関係の影響との関連を検討することである。現在恋人のいる大学生212名を対象に,高坂(2009)の恋愛関係の影響項目40項目,加藤(1983)の同一性地位判別尺度18項目,恋人のアイデンティティの確立の程度を推測できるように修正した同一性地位判別尺度18項目への回答を求めた。その結果,回答者本人のアイデンティティについて達成型やフォークロージャー型に分類された者は「時間的制約」得点が低かった。また推測された恋人のアイデンティティについて達成型やフォークロージャー型に分類された者は「自己拡大」得点や「充足的気分」得点が高く,「他者交流の制限」得点が低かった。これらの結果から,恋人のアイデンティティが達成型やフォークロージャー型であると,恋愛関係をもつことが青年の人格発達に有益にはたらくことが示唆された。