著者
瀬戸 寿一 関本 義秀
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1515-1522, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
15

本研究の目的は、日本における様々なシビックテック活動の実態を明らかにし、特にシビックテック活動とアプリケーション制作課程の背景を明らかにするために「アーバンデータチャレンジ(UDC)」における取り組みに着目し分析することである。日本のアプリケーション開発コンテスト等で行われてきたアイデアソンやハッカソンと行った一過性のイベントに限らず、地域の取り組み状況や体制に応じた幅広い活動が行われていることが明らかとなり,同時に幾つかの地域では活動の持続可能性に向けた工夫もされていることが明らかになった。さらに、活動の最終成果としてコンテストにおいて高い評価を受けた作品は、継続的な横断的発展と翌年の賞につながる特徴や側面を持っていることが明らかとなった.
著者
武澤 潤 中出 文平 松川 寿也 樋口 秀
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.661-666, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
8

本研究は、地方都市の現在の公共交通と市街地変遷、都市政策等の関係から現在の市街地構造の特徴と問題点を明らかにし、公共交通が持続可能となる市街地整備に向けた、人口密度設定や土地利用の提言を目的とする。公共交通と市街地の関係について、公共交通の状況とDID、市街化区域、住宅立地動向等を用いて、全国と北信越地域の2つの視点で分析した。また、公共交通の水準別に事例都市を選定し、公共交通を支える密度という視点での市街地の特徴と今後の整備方針を分析した。その結果、指向する公共交通によって市街地変遷や都市政策に差異が生じ、市街地整備に影響を与える要因となっていた。そのため沿線人口密度の高密化を目指す為には魅力向上による誘導だけでなく、用途地域見直し等の規制強化手法も併せて検討する事が必要である。
著者
藤岡 麻理子 中西 正彦 鈴木 伸治
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.552-559, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
11

近年、都市計画分野の国際協力の新たな傾向として、都市のソフト面にも重きをおいた自治体レベルでの都市づくりの技術移転が行われるようになってきており、さらにその件数と重要性は今後増していく可能性がある。固有の社会的、文化的背景や自然環境等への配慮が求められる都市づくりの技術移転は、従来型の都市開発協力事業とは手法や配慮事項等において多くの点で異なると考えられる。本研究では、そうした技術移転の実践上の課題を明らかにすることを目的として、1980年代から都市デザインのノウハウを活かし、マレーシアにおいて都市づくりの都市間協力を行っている横浜市の事業の概要・成果・課題の整理・分析を行った。その結果、横浜側が計画を提案し、地元自治体が実施を担った事業においては、事業に長期的に関わることのできる地元自治体の人材や地元住民の組織化が実現に至る鍵となっていたことが明らかとなった。一方、2つの市が都市づくりに協働して取り組む技術移転事業においては、社会文化的な相違や都市づくりへの意識差が一つの課題としてあり、さらにそうした差異を補いうる事業システム構築も重要課題として見出された。
著者
山田 あすか 佐藤 栄治 讃岐 亮
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.3, pp.175-180, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
6
被引用文献数
3

これからの子育てと就労の両立を支える都市環境のあり方を考える上で、職住構造が就労と子育ての両立にどのように影響するかの実態を把握することは、今後の都市環境整備に資する知見として有用であると考えられる。そこで本稿では、東京郊外の多摩市と大都市圏に近接する地方都市、宇都宮市の保育所利用世帯へのアンケート調査によって、世帯の就労の状況、父母の送迎分担、就労と子育てへの両立に関する意識などを把握した。両市での結果を比較しながら、各市での就労・子育ての状況の特徴の明確化を試みたところ、通勤時間の差異が世帯の就労状況や分担状況に影響を及ぼしている様子や、地域ごとの交通手段の相違が望ましい保育サービスの立地や提供のされ方に差異をもたらしている可能性などを示した。また、各市で子の幼少期からの就労や家庭外保育への賛否には意識差が見られ、就労や送迎分担の状況が類似した世帯でも、市ごとに保育や子育てと就労の両立に関する意識に差異があることもわかった。今後の保育サービスや子育てと就労の両立のための政策展開には、こうした地域差を加味する必要がある。
著者
小林 里瑳 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.251-258, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
28

本研究は,土地所有履歴を時間と空間両スケールで集約化し分析することによる,地域における新陳代謝メカニズムと空間変容の相互作用への理解を目的としている.研究を通じて以下の点を明らかにした.1)土地の所有形態分布はランクサイズルールに従い,寡占地主は分散して所有していた土地を取引を通じて集約する一方で,多くの地主が短期的所有を行なっている.2)寡占地主の土地再配分が地域の公共事業と関連し,地域の特徴的な空間を形成している.3)地割の変化しない街区がある一方で地割の大きく変化した街区が以降の土地利用に影響を与えている.
著者
甘粕 裕明 姥浦 道生 苅谷 智大 小地沢 将之
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.400-407, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1

本研究では立適の都市機能誘導区域を都市MPの将来都市構造図の拠点と比較し、類型化を行い関係性を把握し、両計画間における実態と課題を明らかにすることを目的とする。結論として、両計画に関して半数以上の自治体で両者が一致または準拠する形で区域設定が行われていることが分かった。一方で、半数近くの自治体が、都市MPと整合しない区域設定を行っていることも明らかになった。これらの自治体は、拠点指定されていない場所に区域設定を行っている新設型と、同じ位置づけの拠点のうち一部に区域設定を行っている戦略的選定型に分けることができる。このような不整合は、計画制度論的に立適は「都市MPの一部」であり「都市MPに内包される計画」とされている両者の関係性に鑑みると、問題であるといえる。したがって、立適を都市MPと整合する形で定めるか、または都市MPを立適に整合するように改定することが求められる。新設型、選定型それぞれが新設、選定している拠点をその機能に応じて、「都心拠点新設型」「生活拠点新・増設型」「生活拠点選定型」「特定機能拠点新設型」「特定機能拠点選定型」の5つに分類する事で、これらの自治体の実態と課題を明らかにした。
著者
渋川 剛史 浅野 周平 十河 孝介 森本 章倫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.408-415, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
17
被引用文献数
2

人口減少時代に突入した我が国では、少子高齢化の進展も著しく、持続可能な都市構造への転換が急がれており、各自治体で「立地適正化計画」の策定及び、本計画に基づく都市構造の転換に取り組んでいる。また、本計画では、およそ5年毎に計画の進捗を評価・見直しが要請されているが、施設誘導や公共交通サービスの改善に対する面的な評価は、把握できるデータの制約などから、十分な評価ができていない。一方で近年、携帯電話基地局データなどにより、施策実施前後の中心市街地などに滞在する属性別人数の変化を把握することが可能となっている。そこで本研究では、立地適正化計画の適切な進捗管理の実践に向け、既存指標の課題を整理し、課題に対応する評価指標として携帯電話基地局データの活用方法についてケーススタディを通じて検討を行った。
著者
高取 千佳
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.392-399, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
10
被引用文献数
3

低出生率と高齢化による人口縮退社会において、コンパクトシティ政策は持続可能な都市経営や生活環境の向上において重要として注目されている。コンパクトシティの目標を達成するには、どういったターゲット(主体)が、どのような要因を基にどういった場所へ社会移動するかに関する知見が必要である。本研究では、(1)年齢階層別の人口社会増減の実態分析、(2)人口社会増減に有意に影響する空間指標の解明による多様な主体の居住選択の要因の考察を行った。結果、子育て世帯、高齢者、若者の3因子別に、異なる空間指標との相関が高いことが分かり、居住誘導政策への基礎的知見が得られた。
著者
杉本 容子 鳴海 邦碩
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.505-510, 2001

In the beginning of Meji Era, 'old village' was independently located on the periphery of urban area. The existence of old village has been closely related to the expansion of central urban area. Some old villages have lost their form, however some others have retained. We aim to clarify the real condition and the sustainability of urban village. Firstly, we investigated main facts that caused the disappearance of village form, and identified the urban villages that endure their form. Secondly, we analyzed the characteristics of block pattern, and considered the alteration of form. As a result, we could grasp some useful views in reconstructing urban areas.
著者
坪原 紳二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.19-30, 2013-04-25 (Released:2013-04-25)
参考文献数
59

オランダ・フローニンゲン市の中心市街地北に接する北部公園は、今日、緑豊かな市民の憩いの場として、また主要自転車ルートとして機能している。しかし同公園はかつて、自動車の通過交通路として使われており、同市の労働党は、ここから車を排除することを1970年代から政策に掲げてきた。本論文は1990年代に同公園からの車の排除、そして結果としての主要自転車ルートの整備が実現するまでの経過を、その間の参加の結果、及び政党の動向の観点から分析したものである。車の排除に対しては経済団体はもとより周辺住民も強く反発し、参加の結果は圧倒的に車の排除に反対であった。しかし労働党内からの圧力によって、同党リーダーは最終的に車を公園から排除することを選択し、市議会は1票差で排除を可決した。このことは、環境に負荷を与えない交通政策を導入していくうえでの、政党を媒介としたリベラル・デモクラシーの有効性を示唆している。
著者
松本 英里 姥浦 道生
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.627-632, 2013-10-25 (Released:2013-10-25)
参考文献数
4
被引用文献数
3 2

本研究は郊外立地型の新幹線駅周辺における市街地形成過程、及び駅周辺の土地利用問題を立地特性や土地利用コントロール手法等に着目して、明らかにすることを目的としている。新幹線駅の立地に関しては、速達性が最優先され、既存の都市構造への配慮が不十分であると考えられるものもある。そのため新幹線開業にともなって駅周辺の区画整理事業を行っても、市街地が形成されなかったり、形成されても区画整理周辺部の幹線道路沿いに開発が集中したりと、計画的な市街地形成が図られていないのが現状である。駅周辺地区の都市の中での位置付けを明確にし、中心市街地と適切な機能分担のもと、いかに両市街地のバランスをとっていくかが今後の課題である。
著者
伊藤 彰良 有田 智一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.831-836, 2014

本研究では、同業種の店舗が特定エリアに集積している専門店街に着目し、その形成過程、現在の空間特性、またどのような主体が業種集積に影響を与えたのかについて明らかにすることを目的とする。事例として都内で最も特徴的なアパレル小売店の集積地でありながら、一般的な商業集積の特徴(巨大ターミナル駅、大規模百貨店等の立地等)を有していない原宿を対象とする。本研究の結果として以下の項目が明らかとなった。 1)時代ごとにアパレル小売店の集積したエリアが異なる 2)エリア毎に扱う価格帯が異なる店舗集積となっている 3)新規起業の企業を育てる地元企業・組織の役割や、地域に相応しくない業種の参入を抑制する地域活動の役割が重要であった
著者
阿部 宏史
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.79-84, 1996

WITH THE PROGRESS IN URBANIZATION AND THE TREND TOWARDS A SOFTWARE- AND SERVICE-ORIENTED ECONOMY, THE VITALIZATION OF REGIONAL AND PREFECTURE CENTER CITIES IS NOW A MAJOR OBJECTIVE IN THE REGIONAL DEVELOPMENT PLANNING IN JAPAN. THIS PAPER AIMS TO IDENTIFY THE RECENT POLICY ISSUES ON THE DEVELOPMENT OF LOCAL CENTER CITIES IN JAPAN WITHIN THE CONTEXT OF INDUSTRIAL STRUCTURE. THE INDUSTRIAL STRUCTURE AND THE GROWTH DISPARITIES IN TWENTY-SIX JAPANESE CITIES WITH POPULATIONS OF MORE THAN 300,000 ARE EXAMINED BY APPLYING THE RATE-SHARE ANALYSIS AND THE MULTIPLE REGRESSION ANALYSIS FOR THE YEARS 1980-90.
著者
荒木 英昭 宮下 清栄 木村 卓靖
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.211-216, 1997

The objectives of this paper are to clarify the effect of land readjustment to the growth of cities, for instance, to the extension of the urban area. We analyzed 28 provincial cities. As a result, we obtained several typical project patterns of land readjustment and the relation to the extension of the urban area.
著者
福島 富士子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.55-60, 1997-10-25 (Released:2018-05-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

Den'enchofu is famous as a planning example of suburban residential developments by Den'en-toshi Co. It has the radial-circular road system, but its original idea plan was changed for many reasons. First, the road system failed to make an axis clear because of the unsuccessful land purchases. Second, Tokyo City planned a new road (Kanpachi-dori), and it seems to have caused the division of the area. Moreover, the difference in administrative areas has had much more effect on the residents. Third, the land use agreements in the original contact between the company and the purchasers were violated by the succeeding company. Den'enchofu-kai, a self-governing residential organization made much effort to save the environment. On the whole, the idea of Den'en-toshi Co. has been half realized.
著者
今村 洋一 西村 幸夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.42.3, pp.427-432, 2007-10-25 (Released:2017-02-01)
参考文献数
5

本研究では、『国有財産地方審議会の審議経過』を用い、高度経済成長期前半における旧軍用地の転用と都市施設整備との関係を明らかにしている。旧軍用地の大部分は自衛隊用地や農地へと転用されたが、それでも5,081haという大量の旧軍用地が、工場、官公庁施設、公園、学校、公営住宅などに転用されることとなった。旧軍用地の都市的用途への転用には、高度経済成長下の都市化に伴う都市問題への対応という、変わりゆく都市の在り様に柔軟に対応するための予備資源としての役割と、戦後の制度改革や政策の実現に貢献するという、時代あるいは都市を変えてゆく推進装置としての役割の2側面があった。また、転用上の特徴としては、公的利用という基本的方向が見出せる一方で、地域や各施設に固有の条件との関係も見られた。
著者
大場 亨
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.133-138, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
16

複数の候補地がある、住民にとって魅力度に相違がない施設を想定し、施設の増設または移転による、自宅から目的の施設までの時間短縮と移動経費の減少を貨幣評価する方法を本稿は定式化する。まず、ネットワークボロノイエリア図を用いて、同じ施設を選択する住民の領域を求める。次に、自宅から最寄りの施設までの最短経路距離の総計を定式化する。さらに、施設の新設または移転の前後のその比較から、移動時間短縮と移動経費減少の現在価値を予測する。河川に架かる橋梁が少数であるなどの場合にネットワークボロノイエリア図の領域界とボロノイ図の領域界が異なることがあることを示した上で事例分析を行い、直線距離による場合と経路距離による場合の便益評価の結果を比較する。
著者
住田 和則 渡辺 貴介 羽生 冬佳
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.355-360, 2001

This paper aims to find out the characteristics of UI-turn needs and countermeasures implemented by local government in Japan. Based on survey of interview news of UI-turn people and questionnaire survey local government, comparative analysis was conducted. Finding are as follows. 1) The UI-turn people are classified into four groups of the characteristics. 2) The local government that has implemented them in proportion to needs in very few. 3) They are not so much effective on increase and decrease of the incorporation population, when regional characteristics are made correspondent with them. 4) These are some mismatches betwwn UI-turn needs and countermeasures implemented by them.
著者
飯塚 智哉 畔柳 昭雄 菅原 遼
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.108-115, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
62

近年、我が国では想定外と揶揄される洪水被害が全国各地で頻発しており、国においてその抜本的な対策が講じられている。しかし、治水整備や文明の発達によって行政と住民の双方で危機意識の希薄化が進行しており、被害拡大に起因していることが指摘されている。その一方で、今日、言い伝え・災害伝承は今後の大規模災害に対して、効果を発揮し得る対策として再認識されつつあり、蓄積や検討の必要性を有すると考える。以上から、本研究では、古来からの洪水常襲地域に根付く言い伝え・災害伝承に着目し、自治体史や行政資料から地域特性・構成要素を把握し、その特徴を捉えた。その結果、(1)全国の洪水常襲地域では洪水発生前の言い伝え・災害伝承が多く語られ、日頃の準備に重点が置かれていた。(2)埼玉県では、言い伝え・災害伝承と地域特性に関連性がみられ、着目物体の変化を捉えることで言い伝え・災害伝承を語っていたことが明らかになった。
著者
古山 周太郎 和田 浩明
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.621-626, 2014-10-25 (Released:2014-10-25)
参考文献数
7
被引用文献数
3 2

本研究の目的は、実際に被災した山間地域を対象に、複数の集落における避難行動や災害対応の実態を把握することである。また、被災体験に基づく集落住民の防災意識をまとめている。研究対象地紀伊半島大水害で被災した五條市大塔町地区の集落とし、集落住民へのアンケート調査と、集落単位での防災地区懇談会で出された意見を分析した。その結果、被災地域の集落は、被災集落、避難集落、孤立集落、通常集落にわけられ、避難時には、行政や消防の支援の下、状況に対応しながら行動しており、避難しない集落でも、集落単位での安否確認や情報取得などに取り組んでおり、集落同士の協力関係もみられた。また、被災経験により災害に対する不安は高まり、早めの避難を意識する傾向がみられるが、孤立した経験をしていても自宅待機を望む住民もおり、体験の仕方によって防災意識に差が見られた。集落ごとの課題と対策においても、被災時の経験が影響しており、特に被災体験した集落では、直面した課題を現実的に捉えそれに対して実行的な対策を求めている。