著者
藍谷 鋼一郎 有馬 隆文 高山 達也 松山 加菜古
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.589-594, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
11

阿波踊りは、もともとは徳島に伝わる盆踊りであったが、今では徳島市から徳島県全域に広がるだけでなく、関東圏を中心に商店街の振興イベントや町おこしの起爆剤として全国的に拡がっている。祭りは一時的な賑わいを生み出し、都市の重要な要素となっている。徳島市においては開催期間の4日間に、延べ130万人もの来訪者があるという。来訪者の数においては本場徳島を凌ぐ勢いのものが関東の三都市における阿波踊り、高円寺阿波踊り、南越谷阿波踊り、神奈川大和阿波踊りである。本研究では、四都市における阿波踊りの運営組織や運営方法を比較分析し、それぞれの運営方法と祭りの空間特性や持続性について明らかにし、継続的なイベントとして成功させる知見を見いだす。
著者
西川 亮 中島 直人 中林 浩 西村 幸夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.365-372, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
28

本研究は西山夘三の観光計画論を明らかにするものである。具体的には、1) 西山の観光論を西山の意識の変化と共に詳細に捉えること、2) 計画者としての立場から見た西山の計画論を明らかにすること、3) 西山の関わった計画を通じて理論と計画の関係性を見ることである。戦前から西山夘三はレクリエーションの延長として観光に関心を寄せていたが、戦災復興期は、観光施設の建設による観光地整備を考えており、それは建築家としての一面を示すものであった。しかし、戦災復興期から高度経済成長期に移行し国民の消費を促す観光開発による自然破壊が目立つようになると、生活リズムを高めるための観光を主張し、国土スケールで観光資源の保存と開発を両立する計画論を提示するようになっていく。その理論を計画に適用させたのが京都計画や奈良計画等の構想計画であった。西山の、生活リズムを高めるものとして観光を捉える視点は、現代において1)地域が観光客から得る利益だけでなく、観光客が地域から得る利益を考える視点、2) レクリエーションと観光の総合的な空間計画の必要性、3) 適正な観光地創出に行政関与の必要性を提起する。
著者
李 召熙 鈴木 勉
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
発表会論文 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.217-222, 2018-06-26
被引用文献数
1

本論文の目的は,1965-2000年の35年間の日本大都市圏を対象として通勤距離の変化動向とその要因を把握することである.結果は以下の通りである.(1)1965-1975年には,全大都市圏における就業者数が急速に増加し,通勤距離の変化率も大きく増加した.特に,三大都市圏においての増加が顕著であった.これは,就業者数の増加による通勤距離が長くなり,大都市圏の通勤圏域が広がったこと,ニュータウン等の住宅団地の計画や開発が要因として考えられる.(2)1975-1985年には通勤距離の増加の伸び率が小さくなったが,引き続き住宅団地の開発,空港等の雇用拠点の開発等による通勤距離の増加が見られた.(3)1985-1990年はバブル期であり,全大都市圏で就業者数の変化率が大きく,常住・従業距離の変化率も増加した.特に,京浜葉,京阪神,中京,北九州・福岡大都市圏での通勤距離の変化率が急増した.(4)1990-2000年は景気が減退し,全ての大都市圏で就業者数と通勤距離の増加率が小さくなり,1995-2000年では,札幌大都市圏以外の大都市圏で就業者数は減少傾向であった.特に,京浜葉,京阪神大都市圏では通勤距離の減少傾向とともに,都心部での常住距離の増加も見られた.
著者
栗田 治
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.145-150, 1997-10-25 (Released:2018-05-01)
参考文献数
9

The formulae to estimate the length of roads in an arbitrary region are to be concerned in this paper. First, we introduce the formula which Koshizuka derived by use of integral geometry. It implies that the length is proportional to the square root of the area of the region multiplied by the number of crossings. Koshizuka's formula is theoretically elegant and easy to use. However, it has been considered to be applicable only if the region is convex. The objective of this study is to argue that Koshizuka's formula is applicable even if the region is non-convex and non-connected. To do so, we introduce the thickness function in geometric probability.
著者
内海 麻利
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.535-540, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
22

近年、日本では、地方分権を背景として、地域の実情に即して、資源、人材や組織を活かしながら観光政策や都市マネジメントを推進していくことが重要になってきている。とりわけ、基礎自治体を重視した公共団体間の役割分担の明確化や、公共団体と民間主体が協調し、民間が力を発揮できるために、各主体の法制度上の位置づけが課題とされている。一方、フランスでは、1980年代以降の地方分権改革に伴い、制度・機構改革が行われてきており、これまで地域振興や観光政策を担ってきた非営利団体等やその活動を、基礎自治体が公認する「公定化」の仕組みが制度上整えられてきている。そこで、本研究では、フランスの観光政策の主体に着目し、観光政策にかかわる法制と政策主体の活動実態を「地方分権」「公定化」という観点から考察することで、各主体の役割や制度上の位置づけを明らかにし、都市マネジメント主体のあり方を示唆する。
著者
岩下 和弘 鶴田 佳子 坂本 淳
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.435-442, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
25

本研究の目的は郡上市の107集落について中山間地域での居住地としての持続可能性の検討を試みるものである。人口統計、アクセシビリティ、土地利用、財政のデータを用いた。107集落についてクラスター分析を行った結果、“中心市街地区”、“住宅団地区”、“中心市街地周辺地区”、“居住基盤良好地区”、“多雪地区”、“土砂災害危険地区”、“過疎地区”の7つに分類された。今後は雇用の場としての産業振興と地域活動の場という視点からも拠点の設定を重視する予定である。
著者
福井 のり子 力石 真 藤原 章正
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.209-219, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
35
被引用文献数
1

多くの農村地域のコミュニティでは,持続可能なコミュニティに向けた取り組みへの一歩が踏み出せない地域住民とそれを後押ししようとする行政の在り方の模索が続いている.本研究では,地域の活性化に向けた初動期において,地域や個人がどのような課題に直面し,またそれをどのように乗り越えていったか,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)と複線経路・倒至性アプローチ(TEA)を活用して,その成長プロセスを記述した.具体的には,住民と行政が協働して住民ボランティアによる自治会輸送活動を行うプロジェクトを立ち上げ,2ヵ年に渡り交通の視点から地域活性化に取り組んだ事例を取り上げ,複数回にわたる住民代表者と行政職員との討議録をもとに分析を行った.GTAの分析では,2回の社会実験を通じて,1)行政からの提案,2)組織の課題の浮上,3)将来に向けた地域ビジョンの作成のように,循環型の成長プロセスが存在することが確認できた.さらにTEAの分析では,同様の成長プロセスの過程においても,個人によって異なる社会的ガイドや方向付けが存在することが確認された.
著者
鶴田 一 十代田 朗 津々見 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.723-730, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
33
被引用文献数
1

国内ではカジノ政策の成功例としてシンガポールが取り上げられる事が多いが、同国における合法化検討の歴史とそれに伴う観光政策、都市計画の歴史が同時に考察される事は少ない。同国では2005年にIRという概念の下、カジノが合法化されたが、本研究はその際に具体的な証拠を基に議論がなされたかを検証し、カジノ合法化過程を観光政策、都市計画の歴史と併せて分析することで、3つの要素が各時代にどのような関連性を持つのかを考察する。さらに2005年のリー・シェンロン首相の声明文との整合性を検証し、最終的にIRに関して、観光政策との関連を踏まえながら、都市計画上の知見を得ることを目的とする。分析の結果、シンガポールでは1965年の建国時から合法化を4回否決してきたが、第4回目以降の合法化検討過程において、シンガポールの都市計画、観光政策は類似した内容を打ち出し、実施していくという関連性が見られた。また声明文での、IRにより大型の都市開発を海外からの投資を得て自国の経済的リスクを負うことなく短期間で行えるとの言及は、観光政策と都市計画とを関連させて新しい観光資源を生み出していくという点で有益と考えられる。
著者
堀 龍一 小林 隆史 高原 勇 大澤 義明
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.1335-1340, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
8

本研究の第一の目的はクロフトンの微分方程式を適用して,扇形領域内に一様かつ独立して分布する二点間の直線距離の平均と分散を導出することにある.既存研究では円盤内や円周間でランダムに分布する二点間の平均距離の解析表示が求められているが,これを拡張した.加えて,二つの扇形間直線距離の平均値と標準偏差も解析的に導出した.第二の目的は,災害への備えが必要な我が国において,平時では循環バス,被災時では電源支援の役割を果たす燃料電池バスの移動施設としての効率性について論じることにある.理論的に導いた扇形平均距離の結果を用いて,固定場所からの派遣距離との比較などを通して,被災時における移動施設による電源供給の効率性を求めた.
著者
森 傑
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.187-192, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
4

本研究は、北海道の過疎地域の郵便局を対象とし、郵便業務以外での地域貢献や地域交流といったボランティアサービスが民営化前後においてどのように変化しているのか、そのような取り組みへの郵政民営化の影響を郵便局側がどのように認識しているのかについて把握し、地域住民の利用実態と郵便局への期待と評価についても詳細に分析することで、郵便局が地域におけるコミュニケーションの接点としてどれほど人々の日常生活に浸透しているのかについて考察し、過疎地域のソーシャル・キャピタルの核としての郵便局の今後のあり方を探求するための基礎的知見を得ることを目的とした。その結果、郵便局員と地域住民が郵便サービスを授受するだけの関係にとどまらず日常の生活においても密接に交流を持っていること、郵便局が地域の公共資産として保持されることが期待されていること、郵便局のあり方は、他の公共施設と公共サービスとの関係の中で郵便局の徒歩圏域の立地特性が重要な意味を持っていること、が明らかとなった。
著者
中道 久美子 中村 文彦
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.867-872, 2014

南米コロンビアの中規模都市であるメデジン市では、所得格差とスラム街形成、自家用車やオートバイの増加といった都市交通問題を抱えていたが、約20年間で都市再生と都市交通システムの戦略的整備に取り組み、革新的な成長を遂げた。本論文では、メデジン市の現代都市交通システムの動向について、現地ヒアリング調査に基づいてとりまとめ、今後の都市交通戦略のあり方について示唆を得ることを目的とする。具体的には、高架鉄道、ロープウェイ、BRT、LRT、自転車シェアリング、エスカレータ等の現代的な都市交通システムに関して、現地自治体へのヒアリングや利用者へのインタビューを通して、動向をまとめるとともに、南米のその他の都市との体系的比較も行った。それらの結果から、機動力のある実働的な自治体組織、低費用かつ論理的に矛盾のない導入順序、市民が誇りを持つよう重視していることなどの特徴が見られ、途上国の交通戦略やわが国の地方都市の交通問題解決に際しての知見を得た。
著者
増山 篤
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.2, pp.41-49, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
8

都市計画で用いられるデータのうち、ポイントデータは少なからぬ割合を占める。また、ポイントの空間分布パターンを判別する代表的な分析方法としては、最近隣距離法と方格法がある。この論文は、最近隣距離法および方格法による判別結果が、一般的にどの程度まで一致し、相互に従属な関係にあるのか明らかにすることを目的とする。まず、第一に、二つの分析方法による判別結果が完全に一致するための条件を示す。第二に、モンテカルロシミュレーションによって、この条件が満たされることがあるかどうかを検討する。第三に、二つの分析方法による判別結果は、いくらかは相互に従属な関係にあるが、しばしば異なる判別結果を与えることを示す。第四に、二つの分析方法による判別結果が相互に従属である程度を計量化する指標を考え、この指標は非常に低いものであることを示す。最後に、この論文をまとめ、今後の課題を述べる。
著者
垣内 恵美子 奥山 忠裕 寺田 鮎美
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.44.3, pp.403-408, 2009-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
8

社会的便益を過小評価されがちな美術館活動について、その受益者及び社会的便益をある程度客観的に推計することにより、その社会的便益にふさわしい適切な支援のあり方を検討することを目的として、岡山県倉敷市にある大原美術館を事例として取り上げ、CVM(仮想評価法)を用いた市民調査を実施した。結果として、大原美術館が、近隣地域(倉敷市及び岡山市)の市民に与える総便益は年間約6億円と推計され、将来世代のためといった遺贈価値、他の人が利用しているからといった代位価値、誇りに思うといった威信価値、都市の魅力を高めるなどの非利用価値が大きいことがわかった。また、WTP(支払意志額)に影響する変数は、大学院レベルの学歴及び所得、大原美術館への総訪問回数となった。また半数を超える市民が支払意志を有することから地方自治体による一定程度の支援は正当性を有すると考えられるが、同時に、相対的に高いWTPを有する一部の市民が存在することから、別途これらの人々の支援を得るスキームを考えることも必要であろう。
著者
井上 芳恵 中山 徹
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.739-744, 2002-10-25 (Released:2017-11-07)
参考文献数
2

本研究は、大型店撤退の特徴を分析すること、及び大型店撤退への行政の対応策を把握することを目的とする。本研究より得られた結果は以下の通りである。1.半数以上の自治体で大型店の撤退が見られ、半数以上の事例では撤退により消費者の買物行動や周辺の小売業に影響を及ぼしている。大型店撤退後の跡地の利用状況は約3割はまだ未定である。2.大型店撤退に対する行政の対応策は今のところ情報収集が中心であり、法的な対応策はほとんど取られていない。
著者
加嶋 章博
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.219-224, 2013-10-25 (Released:2013-10-25)
参考文献数
14

スペイン植民都市の空間構成には強い共通性が指摘されるが、スペイン植民地法であるインディアス法には、都市の具体的な計画尺度に関する法規範は意外に数少ない。しかし「都市計画」に言及した1573年の「フェリーペ2世の勅令」のように、都市核となる広場の計画に関して具体的な尺度を示した計画規範も見られる。本稿は、都市計画という用語が用いられることがなかったスペイン植民初期(16世紀)において、土地区画に関する植民地の規範に着目し、土地の区画に対する考え方がどのように規範化され、どのような尺度で都市計画が捉えられて行ったのかを明らかにしようとするものである。結果として、スペイン国家は都市の全体像を誘導することはなかったが、「整然とした(orden)」都市空間の秩序ある計画を早期から強く主張したことや土地区画の単位の統一化といった規範の整備がなされたことが読み取れた。また、140~150バラ程度の街区の区画が都市計画の具体的な尺度であった傾向が窺えた。こうしたことが、本国とは異なるスケールによるグリッド・パターンという植民都市の共通性を創出する要因となったことが示唆された。
著者
渡部 大輔 鳥海 重喜 田口 東
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.1341-1348, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
15

本研究では,東京オリンピック・メインスタジアムへの観戦客の入場に際し,新宿御苑を活用した動線計画の提案を行い,時間拡大ネットワークに基づいた徒歩流動モデルにより計画の妥当性について評価した.まず,既存研究や先行事例から動線計画と入場管理の調査を行った.そして,徒歩流動モデルとして,新宿駅の各路線のホームから御苑を経由し,メイン会場までの平面ネットワークを設定し,所要時間と待機時間をコストとして表現した時間拡大ネットワークを構築した上で,容量制約付き最小費用流問題により観戦客の配分を行うモデルを構築した.そして,本モデルにより,駅構内や御苑内に滞留する人数を把握することで,セキュリティチェックのゲート数やゲート通過時間等の影響を分析し,御苑内のセキュリティチェックに必要な設備や面積の検討を行った.その結果,今回想定した観戦客の移動需要(約25,000人)と条件設定に対して,円滑な入場を行うために必要なゲートの数と面積を見積もることができた.
著者
明石 達生
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.525-530, 2013-10-25 (Released:2013-10-25)
参考文献数
8

本稿は、通勤鉄道の混雑緩和という現象を題材に、東京大都市圏の1990年代から2010年に至る都市構造の大局的な変化を明らかにしたものである。通勤鉄道の最混雑区間の混雑率は、近年大部分の路線で200%を十分に下回っている。東京大都市圏の従業者の分布は、この20年間において、0-20km圏で約80万人減少し、20-40km圏で約100万人増加するという量で、都心部から郊外部へシフトした。この結果、周辺地域から特別区部への流入通勤人口が約30万人減少したが、通勤混雑の緩和にはそれ以上に鉄道輸送力の増強が寄与している。一方、東京都心部では、再開発により膨大な面積の事務所床供給が行われたが、事務所で働く従業者の人数は逆に減少した。従来、事務所床の増大は通勤交通の負荷を増大させると解釈されてきたが、この事実から、近年の事務所床の大量供給は、通勤ラッシュの悪化にはつながらず、大局的には従業者1人当たり床面積の大幅な拡大を意味している。
著者
金森 亮 森川 高行 倉内 慎也
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.853-858, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
22

LRTは自動車依存からの脱却、環境負荷低減、中心市街地活性化、都市景観向上などの導入効果が期待されるが、客観的計測が困難な要素も多いことから、合意形成が難航することが多い。本研究では、統合型交通需要予測モデルを適用することで、LRT導入による交通状況変化に加えて、中心市街地活性化への貢献を定量的に把握する。名古屋市を対象とした複数のLRT計画を評価したところ、中心市街地内での自動車利用減少と自転車・徒歩による移動増加、来訪者の滞在時間や立ち寄り箇所数の増加が確認でき、LRT導入による中心市街地活性化の観点からも定量的指標を基に議論できることを示した。
著者
村山 健二 石川 幹子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.403-408, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
40
被引用文献数
2

本論文は、海苔養殖で栄えた大森の地先海面利用を歴史的に分析することを通じ、地先海面の地域的な共同利用がどのように成立していたのかを「空間」・「人(組織)」・「法」の観点から明らかにする。その方法として、大森の地先海面の歴史を概観した後、さらに詳細に、漁家分布、漁場の位置、河岸の分布と使われ方、地先海面を共同利用するための組織、の分析を行った。結論として、大森の海苔養殖における地先海面利用では、利権の私的な独占に対し、共同性と持続性を目的とした利用システムの調整が、1.堀・河岸などのインターフェース空間の創出、2.漁業組合における公平性を旨とする分配の仕組みの導入、3.有限な資源を管理する法の運用等により、持続的に行われてきたことを明らかにした。
著者
川崎 興太 大村 謙二郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.3, pp.271-276, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
23

本研究は、長期間未整備の都市計画道路をめぐる都市計画訴訟、具体的には都市計画制限に基づく建築不許可処分の取消訴訟及び都市計画制限に対する損失補償訴訟の判例について考察することを目的とするものである。都市計画の存立基盤は、原理的には、長期的安定性・継続性と可変性・柔軟性との緊張関係の上にありながらも、実際には建築自由の原則を尊重する観念の反対論理として、ひとたび都市計画決定を行って財産権に制限を課したならば、その後の都市計画の運用は慎重に行うべきだとの思考に固執するあまりに時間の観念が稀薄になり、いかに社会経済情勢や環境諸条件等が変化しようとも、既決のものは所与不変の事実として自明視され、適切に見直しが行われなかった場合が少なくなかったように思われる。これは、本質的には都市計画の効力が持続することについての実体的かつ手続的な合理性の問題だと考えられる。本研究では、こうした観点から、今後の都市計画道路の整備及び見直しを進める上での検討課題として、都市計画変更義務の的確な遂行と事業期間明示型都市計画制度の導入、都市計画基礎調査の内容の充実、都市計画提案制度の活用要件の拡充を提起している。