著者
野中 聡 高橋 正雄 高野 智央 和地 秀章(OTR) 弓削 幸子 高木 有希
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.94, 2006

【背景および目的】住環境整備の効果に関するこれまでの報告では,整備内容や使用状況に関する調査が多い。しかし,これまでに効果の検証に加えて,利用者側とサービス提供者側との問題意識の相違について検討した報告は見当たらない。そこで,本研究では利用者と提案者であるPT・OTとの問題意識の相違について明らかにし,望ましい住環境整備について検討するための資料を得ることを目的とした。<BR>【方法】対象は,平成15年1月から平成17年3月までに当院リハビリテーション科スタッフが訪問家屋調査を実施して,外出,入浴,排泄のいずれか1つ以上を対象とした住環境整備に対する助言をおこなった介護保険利用者の中で,在宅生活の継続が確認できた14名のうち,本調査への協力が得られた9名とした。主な調査内容は(1)整備の提案内容,(2)実際の整備状況,(3)住環境整備の効果(動作自立度,介護負担感,使用状況,満足度)とし,事前の訪問家屋調査報告書からの情報収集,利用者宅への訪問による整備箇所および実演動作の目視確認をおこなった。住環境整備の効果については,社団法人シルバーサービス振興会(2004)の方法を参考にした。<BR>【結果および考察】対象者は男性3例,女性6例,平均年齢71.4歳,事前調査時の要介護度は要支援および要介護1が半数以上を占めていた。外出(9例23箇所)では提案内容との一致は11箇所(47.8%)であり,上がり框や玄関外側の整地や手摺りの設置等の過少整備が多く,乖離の理由は本人や家族の希望によるものが多かった。入浴(7例33箇所)では提案内容との一致は26箇所(78.8%)であり,シャワー椅子や浴槽内マット,バスボードや手摺りの設置等の過少整備が多く,乖離の理由は本人の判断によるものが多かった。排泄(8例14箇所)では提案内容との一致は11箇所(78.6%)であり,トイレまでの移動や出入り,立ち上がりに使用する手摺り等の過剰整備が多く,乖離の理由は本人の希望によるものが多かった。各行為により整備や乖離の状況が異なっており,過少整備では問題が未解決であることが多く,特に外出に関する玄関周辺の整備においてその傾向が強かった。また過剰整備にはPT・OTの目から見て不要と判断される整備が多く,その大部分が本人の不安感の訴えにより整備されており,経過により不使用となっていた箇所が多かった。いずれの乖離も利用者側のデマンズと提案者側が判断したニーズの不一致が主な原因と考えられた。また,使用状況や満足度は重要な評価項目ではあるが,今回の調査では動作自立度や介護負担感と関連が見られないことがあり,効果の検証には複数の指標を用いた多角的な評価が必要と思われた。
著者
渡邊 雅恵 須永 康代 石渡 睦子 荒木 智子 伯耆田 聡子 井上 和久 柳田 千絵 吉岡 明美 清宮 清美
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.112, 2009

【目的】 近年女性の理学療法士(以下、PT)が増えており、埼玉県理学療法士会(以下、県士会)でも会員の約半数が女性である。その中で出産・育児の関係で離職するPTが多いのが現状である。また、女性に限らず労働条件等で転職・離職するPTも少なくない。<BR> 復職支援システム検討委員会は、離職率の低減および離職をした会員が復職できるようシステムを検討していくことを目的にアンケート調査を実施した。<BR>【対象と方法】 2008年10月における、県士会に登録されている会員2168名を対象に郵送調査法アンケートを実施した。内容は基本属性(経験年数、年齢、家庭環境、就労状況)、職場環境(職場形態、人数、収入、残業、制度利用状況)等を多選択方式および自由記載での回答とした。<BR> なお、対象者には、依頼文書にアンケートの目的を提示した上で、無記名調査、データの統計的処理、個人情報の保護等の説明を記載し、調査に同意していただける方のみアンケートを返送していただいた。 【結果】 回答数は960名、回収率は44.3%であった。男女比はほぼ同数。平均年齢は30.5歳で58%が30歳以下であった。就業しているPTは943名(98.2%)、離職中は17名(男1、女16、1.8%)であり、離職中の女性に注目した。16名の平均年齢は30歳でそのうち子ども有りは11名であった。離職の理由は、転居が多く次に結婚・出産・育児・健康上の理由であった。復職希望は、有りが8名、条件付きが4名であった。復職が困難な理由として、託児所の問題が最も多く70%をしめていた。その他に、労働条件、育児の問題、通勤条件があった。託児所に関しては、職場に職員専用託児所はあるがPTは利用できないという回答もあった。県士会に対するアンケートの自由記載として、保育施設の確保、パート・非常勤の求人情報の提供、出産育児に理解のある職場環境づくりがあった。また、それ以外にも職場を長期間休むことにより最新の情報入手困難、次々に変わるシステムを理解するのが困難、知識や技術の低下などがあり、それらに対するフォロー体制を作ってほしいという要望が見受けられた。<BR>【考察】 今回アンケートに回答して下さった離職者PTが少なく実態は把握できていない。しかし、就業を継続することや復職するために出産・育児、特に託児所の有無に関する影響が大きいことが再確認できた。<BR> 今回のアンケートの結果を基に、今後県士会としてフォロー体制を作るための研修会など復職支援の検討をすすめていく。
著者
大熊 仁美 鈴木 修 村山 幸照
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.97, 2007

【目的】当会では約1年毎に各部門のセラピストの異動があり、毎年4~6月に各部門で技術的な新人教育が実施されている。しかし、訪問業務内では技術的な部分以外でも様々な問題を経験する事が少なくない。今回、過去2年間に報告された訪問業務におけるトラブル・事故を分析し、今後の教育内容について検討した。<BR>【方法】平成17年1月~平成18年12月に当院の訪問リハビリテーション(以下リハ)センター松本地区で発生したヒヤリハット・事故・苦情を、報告書をもとに後方視的に調査した。平成18年12月現在、当センター松本地区のセラピストは理学療法士11名、作業療法士6名、言語聴覚士2名で、職種経験年数1~3年13名、4~6年3名、7~9年3名、訪問経験年数1年12名、2年4名、3年3名である。<BR>【結果】2年間の総訪問件数34292件のうち報告のあったケースは48件であった。内訳は、車両関連が21件(交通事故16件、交通違反2件、交通被害3件)、情報共有(連携)に関する苦情が22件(訪問予定の確認ミス16件、連携不足5件、その他1件)、リハ実施時の事故が5件(歩行時の転倒2件、移乗時の転倒1件、床上動作時の転倒1件、その他1件)であった。交通事故は、82%が午後の時間帯、69%が利用者駐車場、56%がバック時に発生していた。訪問予定の確認ミスは、50%が介入1ヶ月以内の新規の利用者で発生しており、転倒事故は全て介入開始4ヶ月以内に発生していた。また、セラピストの部署異動が行われる12月~3月頃にトラブル・事故が多発する傾向にあり、セラピストの訪問経験が4ヶ月以内の期間で49%、1年以内の期間で82%のトラブル・事故が発生していた。さらに、一人当たり平均14 時間以上の超過勤務となった月にトラブル・事故が多発している傾向を認めた。<BR>【考察】調査結果より、訪問業務に関するトラブル・事故は、職種経験よりも訪問経験の浅さが強く影響していることが示唆され、利用者側のフィールドで実施するという訪問業務の特殊性を考慮した教育を、訪問経験の少ない時期にセラピスト行う必要性が確認された。内容としては、1)過去のトラブル・事故の傾向の把握、2)緊急時の対応(リハ中の事故・急変、車両トラブル、苦情等)、3)接遇、4)在宅でのリスク管理と指導、5)介護保険制度、などの実践に即した教育研修を実施し、周知徹底することが課題であると考える。また、少人数によるグループ管理体制の確立とともに、グループ内でのon the job trainingの内容を具体化し業務の効率化を図り、適切な業務量を維持していく必要性が示唆された。
著者
町 雅史 萩原 礼紀 唐牛 大吾
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.17, 2008

【はじめに】超高齢社会となった本邦は、変形性膝関節症(以下膝OA)の患者も増加する傾向にあり、その治療法の一つとして人工膝関節全置換術(以下TKA)が選択され件数が増加している。当院整形外科のTKAの手術件数は3000関節を超えているが、90歳以上の手術患者は比較的稀である。本症例は心疾患や腎不全を合併した超高齢であったが、両側同時人工膝単顆置換術(以下Bil UKA)を施行し、その後順調に経過し22病日で自宅退院となった一症例を経験したので、ここに報告する。<BR>【症例紹介】症例:93歳女性、身長143cm、体重41kg、BMI 20 診断名:両側膝OA 主訴:両側の膝関節痛、歩行困難、ADL動作困難 既往歴:白内障、慢性腎不全(Stage2)、大動脈弁狭窄症(中等症) 現病歴:昭和63年頃より特に誘引なく両側膝痛が出現、近医にて保存的加療。平成19年9月14日の入院時に、術前検査にて大動脈弁狭窄、慢性腎不全を認め手術延期となり一時退院した。同年11月14日に再入院し、同月21日にBil UKAを施行した。 手術情報:セメントUKA、使用機種はOxford Phase3(BIOMET社製)、アプローチ方法は皮切5cmの内側最小侵襲(以下内側MIS)、手術時間は2時間45分、出血量は術中20cc、術後100ccであった。<BR>【理学療法評価(術前/退院時)】ROM‐t:膝関節屈曲右130°/130°左130°/120°、伸展右-10°/0°、左-15°/-5° MMT:膝関節屈曲右4/4左4/4、伸展右3/3左3/3 疼痛:両側内側裂隙の動作時痛両側ともNRS5/0、創部痛NRS右10/1左10/1 10m歩行テスト:平均時間13.8秒/13.6秒、歩数21歩/22歩 ADL(BIにて):90点/100点 OA grade:右4左4 FTA:右188°/175°、左188°/175° JOA:右65/85点、左65/85点<BR>【経過及び治療プログラム】術前にオリエンテーション、初期評価、動作指導を行った。3病日より車椅子乗車、関節可動域訓練を行い、5病日より訓練室にて関節可動域訓練、筋力増強訓練、平行棒内立位・歩行練習を開始した。6病日にサークル歩行を開始し、9病日にT字杖歩行を開始した。10病日より階段昇降を開始した。19病日にノロウィルス疑いのため一時中止、その後床上動作・ADL指導を経て、22病日に自宅退院となった。治療法は当科TKA術後プロトコルを用いた。40分2単位を20回実施した。<BR>【考察】本症例は93歳という超高齢において、他のTKA患者と遜色無く22病日という期間で後療法を順調に進めることが出来た。それは当科プロトコルに基づき後療法を進め、患者自身にもセルフケアの励行を徹底し疼痛コントロールを良好に出来た事が成因であると推察された。本症例の治療経験から、厳重なリスク管理の下に適切な運動負荷をかけ、他職種との連絡を密にし、術後早期に疼痛自制内で可及的に歩行訓練を行い、活動量を維持向上させることが重要であると考察された。今後も更なる症例集積と検討が必要であると思われる。
著者
唐澤 俊一 青木 啓成 村上 成道
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第28回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.123, 2009 (Released:2009-08-11)

【目的】上腕骨近位端骨折に対する骨接合術は、プレートや髄内釘などを用いて施行されるが、臨床上、関節可動域が十分に確保されないまま理学療法(以下、PT)を終了する症例が散見される。また、骨接合術後のPTに関する報告は少なく、その要点は明らかにされていない。今回、骨接合術後症例の経過からPTプログラムについて検討する。 【方法】対象は、2003年4月から2008年9月までに当院整形外科にて手術を施行された15例(男性7例、女性8例)、プレート固定8例(LHSP2例、PHILOS6例)、髄内釘固定7例、平均年齢60.9±13.5歳。術後PTは2日以内に開始された。退院後は外来リハビリへ移行した。PT終了時の他動屈曲角度(以下、屈曲)120°以下を成績不良群として、成績良好群との比較を行なった。調査項目は、術式、年齢、術前待機期間、PT内容、骨癒合と転位やスクリューの緩みの有無、屈曲の経時的変化および改善率(各時期の前回の値を基準値として、各時期の値/基準値×100-100)、PT終了時の平均屈曲として調査し、屈曲の経時的変化と改善率は、術後1週、2週、3週、6週、3ヶ月、6ヶ月の値から算出した。 【結果】成績良好群11例、不良群4例。術式は、良好群プレート6例、髄内釘5例、不良群プレート2例、髄内釘2例。平均年齢は、良好群57±12.3歳、不良群71.8±11.6歳。平均術前待機期間は良好群5.8±2.7日、不良群12.5±10.1日。PT内容は、翌日から振り子、他動運動開始、3週より積極的な自動運動を開始。良好群1例に大結節の上方転位を認めたがほぼ全例骨癒合した。スクリューの緩みは両群1例ずつであった。屈曲の変化は、良好群では術後6週までに終了時屈曲の約90%が確保されていたが、不良群では2週から6週の可動域は停滞する傾向にあった。改善率は、良好群1週~2週12.4%、2~3週5.7%、3~6週8.4%、6週~3ヶ月4.6%、3~6ヶ月2.7%。不良群1~2週14.4%、2~3週-0.5%、3~6週4.2%。終了時平均屈曲は良好群159.1±8.6°、不良群112.5±8.6°であった。 【考察】術後成績においては、高齢、術前待機期間の長期化による関節内の瘢痕組織形成、早期のスクリューの緩みによる疼痛などが影響を与えると考えられた。肩甲胸郭関節の柔軟性低下、創部や関節内の炎症に伴う肩甲帯の緊張は、肩甲上腕関節の運動を阻害するため、安易に振り子運動や他動運動を進めるべきではないと考える。術後2週までの期間では、過度な緊張を抑え、肩甲胸郭関節の動きの獲得に重点を置く必要がある。特に可動域拡大の難渋が予測される症例では、2週以降に生じる関節内の組織間の癒着や軟部組織の連結障害を重視し、肩甲上腕関節の運動性の低下を最小限に抑える必要がある。
著者
宗村明子 藤崎公達 成田雄一 鈴木拓也 馬場玲子 毛利悦子 西井優瑠
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.35, 2016

<p>【はじめに】症例は夜勤業務に就労しており,治療継続に問題が山積していた.症例に対し多職種が関わることで,身体機能や治療へのモチベーションの向上と治療効果の一助となったので報告する.</p><p>【症例・経過】50 歳代男性.健康診断で高血糖を指摘され当院受診,血糖コントロール不良にて糖尿病と診断され,初めての糖尿病教育入院となる.症例は夜勤業務に就労しており,昼夜逆転の生活を約20 年続けていた.入院初期より運動や治療に対するモチベーションが低く受動的であった.理学療法介入,多職種との情報共有,各職種による個別指導を行った.なお,症例に対し主旨を文章にて説明し記名による同意を得た.</p><p>【方法】運動指導,生活スタイルの聴取により退院後の運動プランの作成を行った.また,看護師によるインスリン自己注射指導,栄養士による栄養指導,薬剤師による薬剤指導,作業療法士による精神・心理面への介入,カンファレンスで多職種と情報共有を行った.そして,退院後は外来受診時に経過確認を行った.</p><p>【結果】入院時体重:63kg から60kg へ減量,入院時HbA1c:9%から6.6%へ改善し,3kg の減量,血糖コントロールの改善の一助となった.また,作業療法士の介入により,精神・心理面の変化があり,治療へのモチベーションの向上がみられ,運動介入においても自らプランを立て,退院後継続することが出来た.</p><p>【考察】理学療法介入に加えて,多職種との情報共有,各職種による個別指導を行った.結果,治療へのモチベーションの向上が確認され,自ら夜勤帯から昼間の仕事へ変更するなど,治療に前向きに取り組む姿勢が見られた.多職種協同で関わることで,専門的視点から,患者の異なる生活スタイルに合わせたアプローチが可能となる.そして,身体機能の変化や血糖コントロールの改善,治療へのモチベーションの向上により,患者自身も生活スタイルの変更を行い,治療へ前向きに取り組むことが出来,多職種協同で関わる重要性を再確認する一例となった.</p>
著者
宇佐美 太一 加藤 宗規
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.257, 2017

<p>【目的】</p><p>発症3 ヶ月時点で,トイレの動作と移乗が全介助でオムツを使用していた重度右片麻痺患者に対して行った,課題指向型の立位訓練による効果を検討した.</p><p>【方法】</p><p>80 代男性,左内頚動脈閉塞による重度片麻痺と全失語.Brunnstrom recovery stage(以下,BRS)は右側上下肢,手指全てI.</p><p>97 病日の基本動作は寝返り・起き上がり:中等度介助,座位:見守り,移乗:重度~中等度介助,立ち上がり:中等度介助,歩行:重度介助であった.トイレ介助を目標に縦手すりを用いた立位保持90 秒を目標として介入を追加した.縦手すりを用いた立位保持をベースライン期として,介入1 期は左肩を壁に寄りかかりながら縦手すり使用,介入2 期は左肩を壁に寄りかかることを除去し,縦手すりのみ使用した.いずれも顔の前方にタイマーを配置した.介入は1 日3 回とし,成功した場合には即時に称賛するとともに,3 回終了後はグラフを提示しながら結果のフィードバックを行い,前回よりも改善した場合も称賛を行った.1 日の3 回連続成功により段階達成と判断した.</p><p>【説明と同意】</p><p>本報告はヘルシンキ宣言に基づき、家族に書面にて説明を行い、同意を得た.【結果】</p><p>95 ~98 病日のベースライン期では30 秒の立位保持も困難,介助数は平均10 回を超していた.99 病日の介入1 期初日より改善がみられ徐々に介助数が減少し,介入15 日目には3 回とも成功,介入2 期初日の介入16 日目には縦手すりのみで3 回とも成功した.これらの期間において,機能的自立度評価法(97 →122 病日)は、トイレ動作1 →2 点,トイレ移乗1 点→3 点となった.その間に失語・BRS の結果に変化はなかった.</p><p>【考察】</p><p>発症後3 ヶ月が経過した重度片麻痺と全失語の患者に対して用いた壁に肩をつけるプロンプト・フェイディング法を用いた立位保持訓練は課題指向型の練習として有効であったと考えられた.</p>
著者
上村 朋美 加藤 宗規
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-13, 2020

<p>【目的】段階的難易度調整による麻痺側への移乗練習の効果を検討した.</p><p>【方法】80歳代,男性.診断名は,両側大脳梗塞,右慢性硬膜下血腫,肺炎であり,障害名は右片麻痺,失語症,構音障害,嚥下障害であった.入院後のADLは全介助であり,基本動作も介助を要した。立位は右へ傾き,7病日の立位の荷重率(正中位)は右50%,左43%,最大荷重率は評価困難であった.42病日の立位も荷重率は変化を認めなかった.また,移乗の介助量も変化なく,非麻痺側への方向転換は軽介助であったが,麻痺側への方向転換は全く行なうことができなかった.そこで,非麻痺側への移乗練習を介入1,麻痺側への移乗練習を介入2として練習を開始した.環境は,縦手すりを使用した.そして,車いすに対し椅子を30°に配置し,方向転換開始と終了の足の位置をビニールテープで示した.最終目標は非麻痺側・麻痺側共に90°の方向転換見守りとし,30°,45°,90°の順に実施した.角度の変更は,3日連続成功後に行った.評価は,介助量の変化を身体的ガイダンス0点,タッピング+口頭指示1点,口頭指示2点,見守り3点とし,3回の合計点数を記録した.介入2は,介入1の90°方向転換が実施可能となった後に開始した.</p><p>【倫理的配慮】本研究は,ヘルシンキ宣言に則り行われ,症例の家族から承諾を得た.当院研究倫理委員会の承諾を得た(倫理番号1572).</p><p>【結果】42病日目から非麻痺側への方向転換を開始し,90°の方向転換が50病日目で行見守りとなった.同日に麻痺側への方向転換練習を開始し,90°の方向転換が64 病日目で見守りとなった.なお,この期間に認知機能,運動麻痺は不変であった.</p><p>【考察】今回の移乗練習は,難易度の低くい非麻痺側から再構築したため,無誤学習として有効に機能したと考えられた.</p><p>【まとめ】今後の課題は,難易度調整によって,非麻痺側への移乗練習がより早期に開始できる可能性を検討する必要がある.</p>
著者
井出 友洋
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1, 2006

【はじめに】 変形性股関節症に対しての保存療法の希望者に対しての装具などの選択に難渋する経験もあると思います。今回、末期変形性股関節症の症例について、既存の股関節サポーター以外の工夫による除痛の効果を得た2症例について報告する。<BR>【症例1】 70歳女性、平成16年12月7日初診、右変形性股関節症と診断、平成17年10月13日装具採型、股関節機能判定(以下JOA)右44/100点、X線像の評価判定0・20/100点、末期股関節症、同年12月6日痛みの軽減、平成18年2月7日(装具装着117日目)JOA60/100点で、+16点。<BR>【症例2】 75歳女性、平成16年1月28日初診、左変形性股関節症と診断、平成17年10月27日装具採型、JOA35/100点、X線像の評価判定0・20/100点、末期股関節症、同年11月26日痛みの軽減、平成18年2月18日(装具装着114日)JOA左36/100点で、+1点。<BR>【結果】 症例1のJOA変化は疼痛10→20点、立ち上がり・しゃがみこみ・車バス乗り降りが2→4点、計16点増加、症例2のJOA変化は可動域80→50度でー3点、腰掛2→4点、しゃがみこみ0→2点、計1点増加。<BR>【装具内容】 既存の関節サポーターにプラスチックにて股関節前面から後面まで包み、臼蓋への求心力を高められるものをつくり、サポーターに付属させた。<BR>【考察】 JOA判定基準やX線像評価において本2症例は末期股関節症であり、手術適応例であるが、本人希望により、保存療法を試み、痛みの軽減目的で装具療法となった。X線より、大腿骨骨頭変形も著明であり、股関節周囲筋力低下による歩行時痛が有り、歩行時の大腿骨骨頭求心力低下が痛みの原因と考え、これを補助するよう装具を考慮し、股関節の不安定性の減少により、痛みの軽減につながったと考えられる。また、症例1については可動域等の変化はないが、疼痛とADL面の改善が高く、これによる効果は高いと思われる。しかし、症例2においてはJOA変化は少なく、股関節屈曲可動域の減少はあったが、ADL面での改善があることから、今回の装具考案については良好な結果が得られたと思われる。<BR>【まとめ】1.末期変形性股関節症の2症例の装具検討による工夫について。2.装具内容において既存の股関節サポーターにプラスチックを付属させ、 大腿骨骨頭の求心力を高め、股関節の不安定性軽減により痛みの軽減とJOA変化につながったと考えられる。3.今後も既存の装具による工夫により、痛みやADLの改善を図りたい。
著者
北野 守人 吉部 亮 野間 靖弘 平塚 哲晃 望月 武
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.216, 2011

【はじめに】<BR>平成21年 全国高等学校野球選手権大会 東・西東京大会(以下夏季大会)からメディカルサポートチームは東京都高等学校野球連盟(以下都高野連)の依頼により「大会期間中の高校野球選手のコンディショニング、スポーツ障害予防の啓発を図る」ことを目的に発足した。そこで、東京都での高校野球メディカルサポートの活動内容と結果を報告し、今後の課題を考察する。<BR><BR>【対象と内容】<BR>夏季大会は準々決勝以降の14試合(2会場)、春季東京都高等学校野球大会(以下春季大会)・秋季東京都高等学校野球大会(以下秋季大会)は準決勝以降の3試合(1会場)に出場した選手を対象に実施した。理学療法士4名はベンチ裏で待機しチームからの依頼や傷害発生時等の必要と判断した場合にサポートを行なった。その内容は、アイシング・コンディショニング・テーピング・今後の指導・急性外傷への応急処置等であった。平成22年 夏季大会準決勝から看護師1名が参加し、救護室で主に観客に対し熱中症や傷害発生時等にサポートを行なった。また、後進育成のため理学療法養成校から学生助手を採用している。実際に行なったサポート内容は全て記録用紙に記載し、大会ごとにメディカルサポート報告書を作成し都高野連に提出した。<BR><BR>【結果】<BR>2年間における理学療法士の総サポート件数は、36試合で167件(平成21年 夏季大会 16試合 36件、平成22年 春季大会 12件、平成22年 夏季大会 88件、平成22年 秋季大会 31件)であった。サポートで多い順は、アイシング80件、コンディショニング42件、テーピング・今後の指導17件。1試合平均は約5件であった。部位別のサポートでは上肢が約47%、下肢が約44%、頭部・頚部・体幹が約9%であった。また、看護師の対応件数は熱中症35件、外傷7件、救急搬送7件であった。<BR><BR>【考察と今後の課題】<BR>夏季大会において、メディカルサポート実施件数が前年の2.4倍に増加した。これは、都高野連の広報活動や前年度の実績に加え、夏季大会の抽選会前に実施した理学療法士による公演活動などがメディカルサポートの認知向上に寄与したと考えられる。今後更にメディカルサポートを浸透させるため、大会期間中だけではなく大会に向けたコンディショニング・障害予防へ、より深く関われるよう年間を通じて啓蒙活動を行うことが重要である。また、部位別のサポート結果から上肢へのサポートが多く、今後も競技特性に沿ったスポーツ障害への研鑽継続のためメディカルサポートチーム内での情報交換・講習会を行なっていく。よって、高校野球選手のコンディショニング・スポーツ障害予防のため都高野連・指導者・審判団・メディカルサポートチームが更に協議し、組織的な医療連携を構築し協動で選手のサポートをしていくことが重要である。
著者
岡山 知世 高村 隆 小野寺 萌 岡田 亨
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.81, 2008

【目的】<BR>肩関節周囲炎いわゆる五十肩は、中高年に多くみられる肩関節疾患である。三木らは「明らかな起因を証明しにくい特発性の初老期の有痛性肩関節制動症」と定義している。臨床においては患者に詳細な問診を行うと何らかの動作が誘因となり発症しているケースを多く経験する。肩関節周囲炎における疼痛を引き起こしたと思われる自覚動作(以下、発症誘因動作)の実態についてアンケート調査を施行し、若干の知見を得たので以下に報告する。<BR>【対象・方法】<BR>2007年10月~2008年2月までに当院を受診した肩関節周囲炎患者40歳以上65歳以下の男性10名、女性22名、合計32名(平均年齢56.6歳)を対象とした。対象の除外項目は、中枢・内科・精神・循環器・呼吸器疾患の既往のあるもの。肩関節術後。外傷とした。調査方法は、自己記入形式でアンケートした。調査項目は、1誘因動作の自覚の有無、2発症誘因動作内容、3痛みの発生状況、4発症後の対応、5原因となる動作の作業時間(連続作業時間・1日作業時間)6作業姿勢の6項目とし、同時にJOAスコアも調査した。<BR>【結果】<BR>1、発症誘因動作、ありと回答した患者は18名(65.6%)、なし、5名(12.5%)、わからない、と回答したものは7名(21.8%)であった。2、発症誘因動作の内容は、パソコン作業、重いものを持つ動作、拭き掃除、寝ながらゲームをした等の回答を得た。3、痛みの発生状況は、徐々に痛くなった20名(62.5%)、急に痛くなった5名(15%)。4、発症時の対応は、病院受診18名、病院でない治療機関4名、湿布17名、冷やした2名、温めた2名、何もしない4名、その他4名であった。5、連続作業時間の平均は30分以内4名(12.5%)、1時間以内が3名(0.9%)、1~3時間が8名(25%)、その他7名(21.8%)。1日作業時間は4.12時間であった。6、作業姿勢は坐位12名(48%)、立位12名(48%)、その他1名(4%)。平均JOAスコア67.9点であった。<BR>【考察】<BR>諸家の報告から、「肩関節周囲炎は特別な誘因なく発症する」という文献が多く散見されるが、今回の結果では、65.6%以上に本人が自覚する誘因動作を認める結果が得られた。痛みの発生状況では、発症誘因動作の有無にかかわらず、62.5%が徐々に痛みが生じてきたと回答しており、誘因動作を本人が自覚できないケースが含まれていると考えられた。日常生活動作での肩関節周筋の筋緊張の増加や筋疲労をひき起こす動作は、手関節や上肢の動作を安定させるために肩関節周囲筋群に持続的収縮が強いられる動作が多く、さらに作業への集中などが加わり、長時間の実施による筋疲労の蓄積や作業姿勢への自覚ができず、具体的な誘因動作の特定を阻害しているものと考える。
著者
奥山 直己 伊東 優多 井上 彰
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.F-027, 2020 (Released:2020-01-01)

【目的】オーバーヘッドアスリートにおけるTOSは稀な病態ではないが、多彩な症状を呈するため診断が困難である。TOSはリハビリテーションなどの保存療法が第一選択であるが、罹病期間が長ければ長いほど手術成績は劣ることが報告されているため、早期発見・治療が望ましい。一般的にTOSの診断に徒手検査が行われるが、偽陽性率が高いことが報告されている。高校野球選手におけるTOS検診の報告は散見されるが、問診や徒手検査のみの評価である。我々は野球選手に対するメディカルチェック(MC)を超音波検査機器を用いて斜角筋三角底辺間距離、腋窩動脈血流速度を評価している。今回、MCの調査結果を報告する。【方法】対象は中学野球選手111名とした。理学所見はRoos、Wright、Morleyの各誘発テスト、問診は肘肩痛の有無、エコー評価は腋窩動脈1st partの血流速度(上肢下垂位、ABER位、挙上位)、斜角筋三角底辺間距離とした。現在肘肩痛を有し、Roos testが60秒以上継続不可、wright testが陽性、腋窩動脈血流速度がABER・挙上位いずれかで途絶、斜角筋三角底辺間距離8mm以下の5つの項目全て当てはまる者をTOS疑いとして受診を促した。【結果】肩肘痛を有していた者は4名(3.6%)、Roos test 陽性者は21名(18.9%)、Wright test陽性者は16名(14.4%)であった。腋窩動脈血流速度が0cm/secとなった選手はABER位で4名(3.6%)、挙上位で11名(9.9%)であった。 斜角筋三角底辺間距離8mm以下は48名(43.3%)であった。5つの項目に当てはまる者は111名中2名(1.8%)でありTOSが疑われ受診を促した。1名は保存加療にて競技復帰し1名は手術を要した。【結論】中学生野球選手のTOS有症率は1.8%であり、エコー評価が有用であった。今後はTOS検診においてTOS発症を予測できるか前向きに調査を行う必要がある。
著者
山本 尚史 中村 学 中崎 秀徳 吉田 昂広 杉ノ原 春花 美崎 定也 加藤 敦夫
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.39, 2010

【目的】 当法人は2008年より高校アメリカンフットボール(アメフト)部のメディカルサポートを行っている。高校のアメフト選手は技術、知識、身体機能の未熟さから傷害発生の危険性は高い。今回、高校アメフト選手の身体特性と傷害発生との関連を明らかにすることを目的に、メディカルチェックとアンケートを実施した。【方法】 2009年度秋季公式戦前のA高校2・3年生アメフト部員(平均年齢±標準偏差:16.9±0.7歳、身長172.3±6.3cm、体重78.7±16.2kg)40名を対象に調査した。事前に顧問・監督・選手に本調査の趣旨を十分に説明し同意を得た。メディカルチェックは柔軟性「指床間距離(FFD)、踵殿間距離(HBD)、下肢伸展挙上(SLR)、股関節内旋(HIP IR)、全身関節弛緩性(GJL)」、瞬発力「プロアジリティテスト(PAT)、立ち幅跳び(SBJ)」を実施した。SLRとHIP IRは4段階で簡易的に測定した。アンケートは受傷部位(上肢、下肢、頸部・体幹)について自己記入させた。統計解析は柔軟性と瞬発力の計7項目を変数としてクラスター分析を行い、3群(A群、B群、C群)に分類した後、3群間において7項目で一元配置分散分析またはKruskal-Wallis検定(有意水準5%未満)を行った。さらに3群間の身体部位別受傷人数をまとめた。【結果】 分類された3群はA群11名、B群10名、C群18名となった。FFDはB群が有意に長く、HBDはC群が有意に長かった。SLRはB群がA群およびC群と比較して有意に大きく、HIP IRはC群がA群およびB群と比較して有意に小さかった。GJLは各群間に有意差を認めた。PATはB群がC群より有意に速く、SBJはC群が有意に短かった。身体部位別の受傷者数は上肢:A群5名、B群4名、C群6名、下肢:A群6名、B群3名、C群6名、頸部・体幹:A群1名、B群2名、C群5名であった。【考察】 FFD、SLRが乏しく瞬発力が良好な群(A群)、柔軟性、瞬発力ともに良好な群(B群)、柔軟性、瞬発力ともに乏しい群(C群)に分類された。A群はハムストリングス、背筋群の柔軟性の乏しさが傷害発生と関連していると考えられる。C群では頸部・体幹の傷害発生が多く、柔軟性と瞬発力との関連が強いことが予想される。B群では他群と比較し傷害発生は少ないが、コリジョンスポーツの特性を軽視できない結果となった。しかしA群、C群のような特徴的な身体特性が傷害発生と関連することが明らかとなり、今後の理学療法介入の手がかりになると考えられる。【まとめ】 身体特性をグループ化して理学療法介入を効率よく行うことは傷害予防に繋がると考える。今回の調査の限界は短期間であること、対象者数が少ないことが挙げられ、今後も引き続き調査が必要である。
著者
小野沢 浩 加藤 仁志 鳥海 亮
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.302, 2011 (Released:2011-08-03)

【はじめに】 一般的に変形性膝関節症に対する杖処方は、膝関節面の保護や疼痛緩和を目的に行われる。今回、当施設に通所する両側変形性膝関節症(内側型)を呈した症例に対して、歩行時の痛みの評価からT字杖の免荷効果に着目した理学療法を展開した。その結果、動作指導後、T字杖歩行にて痛みの軽減を図ることができた症例であった。 【症例】 88歳女性。診断名は両側変形性膝関節症。介護区分は要支援1。通所回数は週1回。主訴は歩行時両膝が痛い、自信をもって歩きたい。膝痛は数十年前から出現、ここ数年間で痛みが増悪。杖歩行の経験はなく、屋内・屋外はつたい歩き、又は休憩を取りながら歩行していた。なお、発表にあたり口頭にて同意を得た。 【評価】 日常会話から、認知機能問題なし。リハ意欲強く、学習機能良好。歩行時荷重時痛あり(右>左)。痛みは、踵接地直後から立脚中期に両膝関節裂隙部に出現し、刺すような、重いような痛みであった。FTA右195°左190°、FBS 50点。握力右11kg左10kg。上肢・体幹・下肢MMT4~5。ROMは両股関節伸展-5°、両膝関節屈曲110°/伸展-5°。立位姿勢は骨盤軽度前傾、股関節軽度屈曲、膝関節軽度屈曲、大腿骨に対して頸骨が軽度内旋位。立位にて両大腿四頭筋・大腿筋膜張筋の筋緊張高い。痛みにより連続歩行時間5分程度。 【経過】 免荷効果による両膝関節の荷重時痛緩和を目的にT字杖歩行練習開始。どちらの手で杖を把持した方が良いかわからず、杖先接地面が定まらない歩行。FTAの結果から左把持と杖の長さを調節。杖先が吸盤型のT字杖では杖先接地良好。痛みの評価から、痛みの発生時期と正常歩行の鉛直床反力の変化に着目し、右踵接地に合わせた杖接地のタイミングを口頭と模範的に指導。2ヶ月後には連続歩行時間10分以上可能(施設内)。本症例より、「安心して歩けるような気がする。」という発言を頻回に聴取。 【考察】 T字杖の免荷作用に着目すると、19%の免荷効果が可能であると報告されている。しかし、この効果を発揮する場合、利用者がT杖歩行動作を十分に習得することが条件であり、杖処方時に十分な動作指導が必要であると考える。本症例の場合、歩行時の垂直分力が最も大きくなる踵接地時に免荷効果を発揮するため、右踵接地と同時に杖を接地するよう徹底して指導を行った。その結果、1歩あたりの荷重時間が延長できるようになり、T字杖の免荷効果によって、膝関節内側面にかかる踵接地時の垂直方向の分力が減少し、歩行時の荷重時痛が軽減されたと考えられた。また、そのことにより歩行距離が延長したと考えられた。
著者
藤井 稜二 加藤 宗規
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-16, 2020

<p>【目的】重度左片麻痺を呈した脳幹梗塞患者に行ったビニールテープの足型を用いたプロンプト・フェイディングによる移乗動作学習の有効性について検討した.</p><p>【方法】90歳代男性.右橋底部の梗塞,前頭葉の萎縮.3 病日に理学療法開始.7病日目で寝返りと起き上がりは中等度介助,端座位は後方へ転倒,起立は手すりにつかまれば可能,移乗は健側への移乗は見守りで可能だが,麻痺側への移乗は方向転換時に膝折れ,あるいはステップが困難なため中等度介助を要した.麻痺側下肢への荷重練習を重ねても,移乗の状態は同様であった.9病日時点でSIAS運動機能は上肢:2/1,下肢:1/0/0.体幹失調を認める.下肢触覚中等度低下,下肢位置覚軽度鈍麻,等尺性膝伸展筋力体重率:非麻痺側42.9%/麻痺側0 %,下肢最大荷重率:非麻痺側95%/麻痺側43.2%,FIM:25/126点であった.そこで10病日から,移乗開始地点と到達地点にビニールテープで足型を示して成功させ,段階的にテープを除去するプロンプト・フェイディングによる3段階の学習を行った.3段階の練習は,段階 ①:足型プロンプトを使用(非麻痺側:赤,麻痺側:青),段階②:足型プロンプトを麻痺側のみ使用,段階③:声掛けのみで実施とした.初日は段階①から3回行い,3回連続の成功した場合には段階を引き上げた.段階と成功回数,成功率を記録し,成功や改善には称賛と身体接触をした.翌日からは,前回の最高段階から実施した.</p><p>【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被検者に本研究の趣旨を説明し同意を得た.当院研究倫理審査委員会の承認を得た(番号1574).</p><p>【結果】介入初日に段階①,②を達成,その後2日連続で段階③が可能であり,介入は終了した.この期間における麻痺,下肢最大荷重率,感覚に改善は認めなかった.</p><p>【考察】介入は移乗動作の獲得に有効であり,難易度としても適切であったと考えられた.</p>
著者
堀江 直樹 小山 夕美 山本 典子 大竹 朗
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.176, 2011

【目的】<BR>当地域では平成20年11月より脳卒中地域連携パスが導入され,当院は回復期病院としての役割を担っている.パス導入以前に比べ在院日数は短くなっているが,諸般の理由により長期入院となる症例がある.今回,入院長期化した群と短期群とで比較検討し,若干の考察を加えたので報告する.<BR>【方法】<BR>平成20年11月から平成22年11月までに当院に入院した脳卒中パス患者135例(平均在院日数72±29.4日)の中から,在院日数100日以上の患者21例(以下長期群:121.1±15.7日)と在院日数40日以内22例(以下短期群:33.5±5.1日)について以下の項目を検討した.<BR>検討項目:年齢,NIHSS(入院時,退院時),下肢Br.Stage(入院時,退院時),B-ADL(入院時,退院時),退院時Barthel Index(以下BI),家族構成,復職及び家事復帰.<BR>【結果】<BR>年齢は長期群65.6±10.7歳,短期群75.5±11.7歳で差があった.NIHSSは,入院時は長期群8.0±5.0点,短期群2.3±1.9点.退院時は長期群5.6±4.4点,短期群1.5±2.2点であり,脳卒中は長期群が短期群に比較し重症であった.下肢Br.stageは長期群では入院時にstageIII以下の割合が62%,退院時は38%であった.短期群では入院時・退院時共に5%と変わらず,長期群は短期群に比較し麻痺が重度であった.<BR>ADL評価のB-ADL(退院時)は,長期群4.0±4.1点,短期群2.0±3.3点で差があったが,BIは長期群68.1±29.4点,短期群が81.6±24.1点と短期群に軽症の傾向があった.家族構成については老老介護,一人暮らし,二人暮らし,三人暮らし以上について検討したが両群で特徴は見られなかった.復職及び家事復帰に関しては両群共に3例ずつあり,差は無かった.<BR>【考察とまとめ】<BR>入院長期化した症例は,年齢が若く,機能面,ADL面ともに重症であった.家族構成に関しては介護力の不足などが影響するかと考えられたが,両群間で差は無かった. 当院では入院時に長期入院を防止するためにハイリスクスクリーニングシートを使用し,早期からMSWの介入を行っている.しかしそのような対策を行っていても,入院長期化してしまう症例がある.当地域は山間部で多雪の地域を有し,雪の影響により退院時期が延長することもあり,地域的な特色も影響していると考えられた.
著者
大塚 貴司 伊藤 貴史 石井 健史 寺島 優
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.O-024, 2020 (Released:2020-01-01)

【背景】回復期病棟の脳卒中片麻痺者(以下,片麻痺者)は,車椅子での生活を余儀なくされている.そのため入院中の片麻痺者は活動量が低下することが予測される.廃用症候群の予防という観点からも,片麻痺者自身が車椅子を駆動し移動することが重要である.しかし,片麻痺者の車椅子駆動は非麻痺側のみで行われ,麻痺側の運動が得られにくいことに加え,非対称性の姿勢を助長するデメリットがある.関矢らは,麻痺側の下肢も使用する足漕ぎ車椅子を用い,歩行速度の改善,下肢交互運動獲得が可能であることを示唆している.そこで,今回,足漕ぎ車椅子を使用し麻痺側の筋活動を向上させることにより,麻痺側の下肢機能へどのような影響を及ぼすか一症例にて検討することとした.【方法】本症例は,被殻出血により右片麻痺を呈した60 代男性であった.Brs:上肢Ⅱ・下肢Ⅲの運動麻痺を認めていた.運動性失語を認めるが指示理解良好であった.入院時の移動能力は,モジュラー型車椅子を使用していた.研究デザインをABA法とし,通常の運動療法前に自主練習として,病棟にて方向転換を含む車椅子自操を10分間,A期はモジュラー型車椅子,B期は足漕ぎ車椅子とし,各期間7日間施行した.アウトカムとして,車椅子走行距離,下肢荷重率,FACTを施行した.本研究はヘルシンキ宣言に沿って対象者の倫理的配慮を行った.【結果】結果は,走行距離(7日間の平均):A期52.9m,B期300m,A’期116.3mであった.下肢荷重率(Kgf/Kg)とFACT(点)(初期/ A期後/ B期後/ A’期後)は, 0.26/0.27/0.33/0.27および7/8/13/13であった.【考察】今回,足漕ぎ車椅子駆動を行った結果,下肢荷重率・FACTの上昇を認めた.ペダリングにより座位での麻痺側足底への荷重率が増大し静的座位バランスが安定したと考えた.これにより座位における支持基底面内の重心移動が可能になったと考えた.病棟における足漕ぎ車椅子駆動は麻痺側下肢の筋収縮を促し廃用症候群の予防,座位でのADL拡大に寄与すると考えた.
著者
北郷 仁彦 戸坂 友也 村山 尊司
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.10, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】 今回、左視床出血で反対側の右上下肢に小脳性の運動失調を呈した症例を経験したのでその症候を分析し報告する。 【症例】 70代、男性、右利き。診断名:左視床出血。現病歴:仕事中に右片麻痺出現にて救急搬送。保存的加療を行い麻痺は徐々に改善。発症から1カ月後、当センター転院。なお本症例には発表について文書にて説明し同意を得た。 【結果】 <発症2ヵ月後>画像所見:左視床外側部および左放線冠に低吸収域。神経学的所見:意識清明。コミュニケーションは日常会話レベル可能。錐体路徴候;深部腱反射は右上下肢亢進。運動麻痺はBr-stage右上下肢V。体性感覚は表在覚、深部覚とも左右差なし。協調性検査は右上肢は鼻指鼻試験、Arm stopping testで陽性、リーチ動作全般に企図振戦が見られた。右下肢は足趾手指試験、踵膝試験で陽性。体幹はRomberg sign陰性で、動作時の動揺も認められなかった。神経心理学的所見: MMSE 16/30点。病識あり。動作所見:移乗動作では右上肢で支持物を把握するときに振戦が見られた。食事場面ではスプーンが口唇に近づくにつれ振戦が大きくなり食物のこぼれが見られた。歩行は右下肢の振り出し時に運動失調が認められT字杖軽介助レベルであった。 【考察】 視床損傷による運動失調は視床外側部に位置する後外側腹側核(以下VPL)や外側腹側核(以下VL)に起因すると言われている。VPL損傷では感覚性の運動失調、VL損傷では小脳性の運動失調を呈する。視床損傷による小脳性の運動失調は視床性運動失調と言われ、さらに運動失調と同側に運動麻痺を伴うとAtaxic hemiparesis(以下AH)とされる。しかしVPLとVLは隣接するため視床損傷で小脳性の運動失調のみ出現することは極めて少ない。 本症例は左視床出血を発症し右上下肢に企図振戦などの運動失調が見られたが、感覚障害を伴わなかった。このことからVL損傷に起因する視床性運動失調と推察された。また右上下肢に運動麻痺も見られることからAHであると推察された。本症例はVL損傷により小脳性の運動失調が生じるという諸家の報告を裏付ける結果となった。また退院時の屋内移動手段は下肢の運動失調により杖歩行が自立に至らず、歩行器歩行であった。 【まとめ】 運動麻痺と同側肢に運動失調を呈すると運動麻痺に重複され運動失調が見逃されやすい。運動麻痺と運動失調の重複は予後に影響する可能性がある。画像所見や臨床症状から運動失調の存在を見逃さないことが重要で今後症例を積み重ね予後予測や治療方法について検討していく必要がある。
著者
井所 拓哉 山鹿 隆義 栗原 秀行 篠原 純史 秋山 淳二 石黒 幸司
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.272, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】 National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)はt-PAの適応判断に用いられ,また在院日数や転帰,ADLとの関連性が報告されており急性期脳卒中リハビリテーションにおいて有用な包括的評価尺度である.しかし,ADL予後予測への応用を検討した報告は少なく,NIHSSからどのように判断するかは定かではない.本研究の目的はNIHSSを用いた急性期評価からADLの中でも重要な歩行自立の予後予測精度,判別基準について検討することである.【方法】 対象は2010年1月から10月に入院した脳卒中患者69例(平均年齢69.9±12.1歳,男性45例,女性24例,脳梗塞39例,脳出血30例).脳卒中病変がテント上以外,病前ADLがmodified Rankin Scale≧3,リハビリテーション治療継続に影響を与える重篤な合併症を有する者は対象から除外した.発症3日以内のNIHSSと急性期または回復期病院の最終退院時のFunctional Independence Measure(FIM)移動項目(歩行)の得点を後方視的に調査した.データの取り扱いについては,当院における個人情報管理の指針を遵守した. 統計学的解析として,歩行自立度はFIM歩行6点以上を自立群,5点以下を非自立群に分け,これら2群を従属変数,NIHSSおよび属性データ(年齢,性別,脳卒中病型,麻痺側)を独立変数としてロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った.またNIHSSによる歩行自立の予測能を調べるためにROC曲線(Receiver Operating Characteristic Curve)を作成し,予測精度の指標であるROC曲線下面積(Area Under the Curve:AUC),カットオフ値を求めた.【結果】 対象者の急性期,回復期病院を合わせた入院期間は平均71.9±50.8日,NIHSSは中央値5(範囲1-39),歩行自立群は46例(66.7%)であった.ロジスティック回帰分析の結果,NIHSSのみが歩行自立の可否に関連する有意な独立変数であった(P = 0.0001).ROC曲線から求められたAUCは0.854(P = 0.009),Youden indexで算出した歩行自立のNIHSSカットオフ値は≦9(感度91.3%,特異度78.3%)であった.【結論】 脳卒中患者における発症早期NIHSSからの歩行能力の予後予測について検討した.ROC曲線解析より得られたカットオフ値から歩行自立可否を判別することで,概ね良好な予測精度を有することが示された.NIHSSは発症早期からの予後予測として歩行自立を判断するための評価尺度として有用と考えられた.