著者
川井 祐美子 吉本 真純 坂田 佳成 天野 喜崇 金子 貴俊 宮本 梓
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.F-058, 2020 (Released:2020-01-01)

【背景】先行研究において,足関節背屈運動に伴い遠位脛腓関節(以下,DTFJ)が離開することや足関節内反捻挫による不安定性がDTFJの離開と関係すると報告されているが,足関節背屈に伴うDTFJの離開距離については明らかになっていない.本研究の目的は,足関節の前方不安定性がDTFJ離開距離に与える影響を明らかにすることである.【方法】対象者は大学生30名(左右合計60肢)とした.評価項目は,足関節背屈可動域,背屈0°のDTFJ離開距離,最大背屈位のDTFJ離開距離,前方引き出しテスト(以下,ADT)とした.DTFJ離開距離の測定は超音波断層撮影装置(TOSHIBA社製Nemio XG SSA-580A)を使用した.計測後,最大背屈離開距離と0°離開距離の差(以下,開大距離)を算出した.統計処理は足関節背屈0°のDTFJ離開距離および最大背屈位のDTFJ離開距離と足関節背屈可動域との関係性についてピアソンの積率相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮】所属施設の倫理委員会にて承認を得た.参加者に十分な説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】ADTは陰性48脚(以下,陽性群),陽性12脚(以下,陰性群)であった.陽性群,陰性群ともに背屈0°離開距離と開大距離の間に有意な負の相関を認めた(陰性群:r=-.34.p<.05,陽性群:r=-.73,p<.05).陰性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な正の相関を認めた(陰性群:r=.47,p<.05)が,陽性群最大背屈離開距離と開大距離の間に相関を認めなかった.また両群とも開大距離と背屈可動域の間に有意な相関を認めなかった.【考察】陰性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な正の相関を認めたが陽性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な相関を認めなかった.この要因として足関節前方不安定性による距腿関節のマルアライメントが背屈に伴うDTFJの開大に影響していると考えられる.よって陽性群においてDTFJ開大制限が生じていること示唆された.
著者
朝倉 彩 小出 慧
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.F-002, 2020 (Released:2020-01-01)

【目的】90度側臥位では臀部体圧が上昇するとされ、褥瘡予防の姿勢には適さないが、臨床上必要となることがある。先行研究において股関節や膝関節角度により背臥位や30度側臥位の体圧が変化することが報告されており、90度側臥位においても股関節角度を変化させることで体圧は増減するか検討した。【方法】対象は健常成人男性10名(24.1±1.5歳)を対象とし、測定体位は右90度側臥位、計測項目は右大転子部の体圧および全身接地面積とした。両側股関節屈曲位(以下、両側屈曲位)と、クッションを用い左股関節内外転中間位とし、右股関節屈曲0から20度とした肢位(以下、左下肢除圧位)に設定し、股関節屈曲角度を30度、60度、90度に設定した。体圧測定には、体圧検知センサSRソフトビジョン全身版(住友理工株式会社)を使用した。 統計処理は、3回の測定の平均値を代表値とし、同じ角度での両側屈曲位と左下肢除圧位のそれぞれの差を対応のあるt検定を用い検討した。解析には統計ソフトウェアSPSS(IBM社製)を使用し、有意水準はそれぞれ5% 未満とした。本研究はヘルシンキ宣言に則り実施した。【結果】大転子部の圧は、左下肢除圧位は両側屈曲位と比較し屈曲90度でのみ、有意に減少した(p<0.05)。【考察】90度側臥位にて非接地側の股関節屈曲角度を増加させると、下肢の質量中心が体幹質量中心から離れることで骨盤の接地側への回旋モーメントが生じ、下肢にかかる荷重量が増加したと考えられる。両側屈曲位では左下肢の荷重を右下肢で支えるため、大転子部の体圧が増加したと考えられる。左下肢除圧位では、右下肢にかかる荷重はクッションにかかる。そのため体圧が減少したと考えられる。以上から、90度側臥位を行う際は、非接地側の股関節を屈曲させるほど対側下肢に荷重が移り、それをクッション等で支える事で大転子部の体圧が軽減できることが示唆された。
著者
大関 勇人
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.338, 2011

【はじめに】<BR>今回,当訪問リハにて脳出血重度左片麻痺,高次脳機能障害を呈した症例を担当する機会を得た.本症例では基本動作,移乗動作獲得と共に生活範囲の拡大を目指した.その経過について若干の考察を加えて報告する.<BR><BR>【症例紹介】<BR>58歳男性 脳出血後遺症(左片麻痺) 要介護3 高次脳機能障害像(左半側空間失認,易疲労性,易怒性,注意障害等)が認められる.キーパーソン.妻 2009年10月発症. 2010年6月自宅退院後,訪問リハ開始.<BR><BR>【初期評価】<BR>左片麻痺(Br.Stage上肢・手指I下肢II)感覚は表在・深部覚ともに重度鈍麻.机上テストは異常なし.動作時の左上下肢の忘れ著明.注意の持続困難や易怒性等が見られる.Barthel Index35点.<BR><BR>【経過】<BR>2010年6月,訪問リハ開始(週2回).ポータブルトイレ・ベッド等の移乗時転倒頻回.基本動作も介助量多い.基本動作,移乗練習中心にアプローチ開始.妻にも介助方法を指導した.<BR>易疲労性や注意持続困難のため,こまめな休憩や動作の反復練習を行った.動作時の左上下肢の管理や車椅子のブレーキのかけ忘れが見られたため,簡単な言葉で口頭指示するよう工夫した.その結果徐々にブレーキのかけ忘れが軽減,転倒の頻度減少.移乗動作が監視レベルに改善し,活動範囲も拡大した.<BR>2010年8月,ケアプランの見直しを行ない訪問リハの頻度を減らし1時間以上2時間未満の通所リハを導入した.<BR>2011年1月,車椅子ブレーキのかけ忘れはほぼ改善.左上下肢の管理も良好となる.その後再度ケアプランの見直しを行ない現在は週1回の訪問リハビリ.週4回のデイサービスを利用中である.四点杖歩行軽介助で10m可能.Barthel Indexは60点に向上.<BR><BR>【考察】<BR>本症例は重度の麻痺,高次脳機能障害の影響もあり動作獲得に時間を要した.具体的には,動作の反復練習や声かけなど中心にアプローチを行なった.また,同時に家族指導も行ないコミュニケーションを図った.この取り組みが移乗動作の改善・左側への注意力向上及び在宅生活の安定につながったのではないかと考える.<BR>生活の安定と共に,ケアプランの見直しを行い活動範囲の拡大を目的に通所リハを導入した.その結果,定期的な外出の機会増加や一定のリズムで生活を送ることにつながった.高次脳機能障害に対しては身体機能面のみでなく生活環境についてもアプローチを行う事が大切であると考える.<BR> 本症例は50代と年齢も若いため在宅生活の拡大を図るとともに社会参加の拡大も今後の課題である.今後も生活動作のアドバイスや家族指導などを継続して行ない生活をサポートする必要があると考える.
著者
斎藤 広志 小尾 尚貴 山田 祐子 竹内 大樹 兼岩 淳平 多田 智顕
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.F-025, 2020 (Released:2020-01-01)

【はじめに】超音波検査は体表から触知できない深層を可視化でき、患者へ与える負担が少ない検査法である。 今回肩挙上時に疼痛を訴える肩関節周囲炎患者に対して、理学療法評価に超音波診断装置を用いて機能評価、治療介入を行った症例を経験したので報告する。【症例】40代女性。2018年12月更衣動作で受傷し、右肩関節周囲炎と診断。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に沿い発表目的を説明し同意を得た。【初期評価】右肩ROM自動屈曲100°他動屈曲160°外転90°であった。整形外科的テストはNeer Test陽性。上腕骨頭の超音波動態評価で、肩関節外転時に肩峰と大結節の衝突を認めた。結帯肢位内旋動作の上腕骨頭前方移動量は左右差を認めなかった。Horizontal Flexion Test 陰性であった。肩甲胸郭機能はElbow Push Test陽性。 MMTは肩甲骨外転・上方回旋3肩甲骨下制・内転3であった。JOAスコア67点であった。【理学療法経過】超音波動態評価で肩関節外転時に肩峰と大結節の衝突を認めた。また、結帯肢位内旋動作の上腕骨頭前方移動量は左右差を認めなかった。評価上から肩甲胸郭関節機能障害を認めた。以上評価結果から肩甲胸郭関節機能障害から肩峰下インピンジメントが生じていると判断して、肩甲胸郭関節機能に対し理学療法を実施した。理学療法プログラムは前鋸筋トレーニング、小胸筋ストレッチ、側臥位で肩関節外転運動を実施した。 4週間理学療法を実施し、右肩ROM自動屈曲175°外転170°に改善した。Neer Test陰性、超音波動態評価の肩関節外転時の肩峰と大結節の衝突も消失した。MMTは全項目で改善を認めた。肩挙上時痛消失し、JOAスコア97点と改善した。【考察】超音波動態評価から上腕骨頭の動態を可視化することで、肩甲胸郭機能に対しての治療を立案でき、疼痛と可動域が改善したと考える。
著者
齋藤 里美 齋藤 幸広 濱野 俊明 高関 じゅん 畠中 佳代子(OT) 加藤 理恵(ST) 友井 貴子 内田 賢一
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.23, 2006 (Released:2006-08-02)

【はじめに】膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者における経過と機能の変化を把握する目的で、調査検討を行ったので報告する。【対象と方法】対象は2002年4月以降、当院にて外傷性の膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者28例(男18女10、平均年齢54.7歳)である。 診療録より、各症例の骨折型、手術日、理学療法(PT)開始日、膝関節可動開始日、荷重開始日、退院日、退院時膝関節可動域、退院時移動能力を調査した。【結果】骨接合術後、PT実施計画に大幅な変更無く退院した例は28例中24例だった。骨折型は腰野の分類で、単純横骨折型8例、第3骨片型が9例、第4骨片以上多骨片型(多骨片型)が7例であった。手術日~PT開始日までは平均1.9日、退院日までは平均24.0日であった。 PT開始日より術側膝関節伸展位での股・膝関節周囲筋の筋力増強、非荷重での立位・歩行を行った。膝関節可動域の回復に合わせて術側下肢の自動介助運動を追加したが、関節運動を伴う積極的な筋力増強は退院時まで行わなかった。 膝関節可動域については、単純横骨折型と第3骨片型では全例で術後1週以内に開始したが、多骨片型では術後1週以内が4例、残りの3例は術後2週以降の開始となった。 部分荷重負荷での歩行は単純横骨折型と第3骨片型では1例を除く16例で2週以内に開始した。多骨片型では4例は2週以内に開始、2例はギプス固定後早期に開始し、残りの1例は5週の安静となった。 24例のうち3例は、手術後ギプス固定が必要となった。うち2例が多骨片型の骨折であり、バイク乗車中の受傷であった。 退院時にギプス固定をしていなかった22例の膝関節屈曲角は平均120°であった。120°に達しなかったものは第3骨片型で9例中3例が100°~120°、多骨片型では6例中2例が90°未満であった。 退院時移動能力は、独歩が9例、T字杖歩行が4例、片松葉杖歩行が6例、両松葉杖歩行が3例、その他2例であった。 一方、28例中4例は在院中に再手術の適応となった。1例は術後10日で転倒し再骨折となった80歳男性で、再手術後2週で部分荷重負荷を開始し、30日後膝関節屈曲角130°でT字杖歩行退院となった。3例は術後早期の画像所見にて骨片脱転が認められ、うち2例は当院で再手術を施行した。術後15・28日後にギプスシーネ下にて部分荷重負荷・関節可動を開始し、43・44日後にそれぞれ片松葉・T字杖歩行にて自宅退院となった。尚、退院時膝関節屈曲角は70・90度であった。【まとめ】膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者について調査検討を行った。再骨折や骨片脱転などで再手術となる例もあった。
著者
林 友則 保木本 崇弘 樋口 謙次 中村 高良 木山 厚 堀 順 来住野 健二 中山 恭秀
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-9, 2020

<p>【目的】急性期の脳卒中診療において、早期から退院の可否や転院の必要性などに関しての転帰予測が求められる機会は多い。現在までの脳卒中転帰予測に関する報告の中で、急性期の転帰予測をフローチャート形式にて示した報告は少ない。そこで本研究では、決定木分析を用いて初回理学療法評価から転帰予測モデルを作成することを目的とした。</p><p>【方法】対象は2012年7月から2015年4月までに当大学附属4病院に入院し理学療法が開始された脳梗塞,脳内出血患者496名とした。開始日が発症当日または発症後1週間以上経過している対象59例を除いた438例(男性315 例,女性123例,年齢69.3±13.0歳)を対象とし、退院群163名と転院群275名の2群に分類した。理学療法開始日数、NIHSS、GCS、上田式12段階片麻痺機能検査(以下、12グレード法)、ABMS各項目、年齢、病態(脳梗塞、脳出血)、性別、就労の有無、キーパーソンの有無、同居家族の有無、家屋環境をカルテおよび評価表より収集した。それらを独立変数として、退院、転院を従属変数とした決定木分析を実施した。統計解析ソフトはRを使用した。</p><p>【倫理的配慮】本研究は当大学倫理委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言に遵守して行った。</p><p>【結果】退院に関しては、NIHSSが3未満である場合(85 %)、そして、NIHSSが3以上であっても、12グレード法が9以上かつABMSの立ち上がりが2以上の場合(69 %)が退院となる決定木が得られた。転院に関してはNIHSSが3以上、12グレード法が9未満の場合(81%)と、NIHSSが3以上、12グレード法が9未満かつABMSの立ち上がりが2未満の場合(64%)が転院となる決定木が得られた。</p><p>【考察】退院の転帰予測には、NIHSSの点数に加え、分離運動の可否、立ち上がりの安静度が影響していると考える。今回の決定木による転帰予測モデルは、急性期の脳卒中診療において臨床的な判断基準を示すことが可能であり、転帰予測に有効であると考えられる。</p>
著者
大高 知世 野口 涼太
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.88, 2011

【目的】<BR> H22年度の診療報酬改訂により、回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期病棟)における「休日リハビリテーション提供体制加算」が新設された。それに伴い、回復期病棟で365日体制をとる病院が増えてきている。当院でも、H22年4月より導入しているが、365日体制によるリハビリテーション(以下、リハ)の効果判定はまだ少ない。そこで今回、365日体制前後の単位数・在院日数・Functional Independence Measure(以下FIM)・転帰を比較し、今後の365日体制における課題検討に役立てたい。<BR>【方法】<BR> 対象はH21.4.1~12.31(53例:男性27名,女性26名,平均年齢74±12.1歳)及びH22.4.1~12.31(59例:男性27名,女性32名、平均年齢76±11.3歳)の期間中に当院回復期病棟に在院していた脳血管障害患者である。なお、前者がリハ日数5.5日/週である365日体制前群(以下、前群)、後者がリハ日数7日/週である365日体制後群(以下、後群)とする。両群について、1人1日当たりの単位数(総単位数/在院日数)・在院日数・各月毎のFIM増加数(運動・認知・総得点)・入院時から退院時までのFIM増加数(運動・認知・総得点)・転帰をカルテより後方視的に情報収集した。それぞれウェルチのt検定、もしくはマン・ホイットニ検定による統計学的処理により365日体制前後群での2群間比較を行なった。<BR>【結果】<BR> 1人1日当たりの平均単位数(前群3.0±1.1,後群3.9±0.9)では前群より後群が有意に多く(p<0.05)、平均在院日数(前群136±34.8,後群123±35.6)では前群より後群は有意に少なかった(p<0.05)。また、1ヶ月毎のFIM増加数において前群より後群で比較的大きい値を示す傾向にあるが、統計学的な有意差は認められなかった。入院時から退院時までのFIM増加数(前群18.1±17.1,後群31.6±21.6)においてのみ、後群で有意に大きい値を示した(p<0.05)。転帰は前群(自宅67.9%,老健18.9%,療養11.3%,他1.9%)と後群(自宅57.6%,老健23.7%,療養11.9%,他6.8%)で有意差はなかった。<BR>【考察】<BR> 今回、提供単位数の増加や在院日数の短縮、FIM増加数の向上がみられ、365日体制下でのリハ提供における有用性が示唆された。今後、在宅復帰率の向上を図るため、実用的なADL能力の獲得に向け、リハ提供体制だけでなく技術・知識等における更なる質の向上が課題であると考える。
著者
久保田 悦章 市川 遥 杉山 矩美 吉野 涼太 法山 徹
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.O-19, 2020

<p>【目的】脳卒中患者の歩行自立可否は転帰先を検討する上で重要であり、患者本人や家族も自立を望んでいる事が多い.先行研究では回復期病棟入棟時の運動機能から,歩行自立に関連する要因を検討しているものは多いが認知機能を含めて検討したものは少ない.本研究では,回復期病棟入棟時の基本属性や運動及び認知機能から歩行自立に関連する要因を検討した.</p><p>【方法】当院回復期病棟に入棟した脳卒中患者84名を対象とした.調査項目は年齢,性別,病型,麻痺側,発症後日数,入棟時NIHSS,mRS,Br.Stage,基本動作能力,FIM総得点,運動得点(mFIM),認知得点,及び下位項目,退院時移動とした.退院時移動(歩行)が6点以上を自立群,5点以下を非自立群とし単変量解析を行った.その後従属変数を歩行自立可否,単変量解析で有意差を認めた項目を独立変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った.採択された変数はROC曲線を用いcut off 値を求めた.単変量解析はt検定,Mann-whitneyのU検定,χ<sup>2</sup>検定で実施し,有意水準はp=0.05とした.本研究は当院企画運営委員会の承認を得て行った.</p><p>【結果】自立群は43名(男28,女15),非自立群は41名(男14,女27)であった.歩行自立群と非自立群の単変量解析において,年齢,麻痺側,発症後日数を除く項目に有意差がみられた.多重ロジスティック回帰分析では,性別,mFIMが採択された(判別的中率81.0%).有意な独立変数は性別(OR3.46.95%CI1.19-10.04, p<0.05),mFIM(OR0.94.95%CI0.91-0.96, p<0.01)であった.歩行自立のcut off値はmFIM46点(感度81.4%,特異度75.6%, AUC0.88)となった.</p><p>【考察】脳卒中患者の歩行自立には性別,入棟時mFIM が関連していることが示唆された.性別は,平均年齢が女性で高かったことが影響したと思われた.mFIMはADL全般を反映しており,歩行の自立においても重要な因子であることが考えられた.また,cut off値の精度については比較的良好であり,歩行の自立において臨床上の指標となり得る可能性が示唆された.</p>
著者
板場 一訓 今井 正義
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.307, 2011

【目的】<BR>スポーツにはスポーツ特有の姿勢(フォーム)があり競技中の姿勢制御の熟達は精巧なパフォーマンスを決定する。本研究ではスポーツの中でも特に野球の重心制御の特徴を足圧中心の変化から検討することである。<BR>【方法】<BR>対象は、野球選手(以下:B群)、運動習慣のない男性(以下:C群)の10名とした。また、利き脚は右脚である。課題は、重心動揺計(GS-11・アニマ社製)を使用し、裸足で開眼と閉眼で1分間の両脚立位・左右片脚立位保持をそれぞれ3回施行し、単位時間軌跡長、単位面積軌跡長、左右方向・前後方向の最大振幅を算出した。統計処理は、One-way ANOVAを適用し多重比較検定にTukey Kramer法を適用し有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】<BR>B群、C群の左右の片脚立位において、単位面積軌跡長、左右方向最大振幅、前後方向最大振幅は、それぞれ閉眼時に比べ開眼時は有意に短かった。B群・C群間の比較では、C群に比べ、B群が有意に短かった。単位時間総軌跡長は、B群は、左右片脚立位において、開眼時、閉眼時共に有意差はなかった。しかし、C群は、右片脚立位では有意差はなかったが、左片脚立位で開眼に比べ閉眼が有意に短かった。<BR>【考察】<BR>B群は利き脚に比べ非利き脚関係なく足圧中心がコントロールされ、C群は利き足での開眼・閉眼は左右差なく重心動揺をコントロール行っているが、非利き脚では重心動揺が増加している。野球は投球動作やバッティング動作など不安定な状況でのパフォーマンスが求められ、足底からのフィードバック制御、フィードフォワード制御がより必要になる。また、足底からのフィードバックに加え、足部周囲や他関節からの体性感覚・固有感覚からのフィードバックが必要であるため、競技の特性上、体性感覚系をより活性化させていることが考えられる。野球に限らず直接地面と接する競技では足部が安定することで身体運動軸が安定し、運動の伝達効率が改善され重心位置のコントロールが行いやすくなり、下肢、骨盤、体幹、頸部の筋が効率よく反応し、高いパフォーマンスを発揮しやすい状態になっているものと考える。<BR>【まとめ】<BR>野球選手は高いパフォーマンスを発揮するために運動習慣のないものに比べ、高度な姿勢制御を行っている。
著者
久喜 絵理 桑垣 佳苗 吉野 恭正
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.239, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】うつ病があるとリハビリテーション(以下,リハ)は滞り,予測通りにはADLが向上しにくい.また,うつ病には波があり躁期と増悪期がある.今回,うつ病を有する右膝蓋骨骨折の患者を担当し,入院中にそれぞれの時期を経験したので,以下に報告する. 【方法】カルテ記録より経過を追い考察をする.本症例には発表の了承を得ている. 【結果】2010年4月4日自宅の庭で転倒,右膝蓋骨骨折を受傷,同日入院.翌日より術前リハ開始.4月15日観血的整復固定術施行,翌日より術後リハ開始.4月22日骨折部の転位あり,4月27日再度観血的整復固定術施行.翌日より右膝関節運動禁忌にて術後リハ再開.5月6日骨折部の再転位あり.右膝関節伸展位でのギプス固定にてリハ介入継続.この頃から消極的な発言が聞かれ始めた為,リハ介入時間を統一した.5月17日よりルジオミール投薬開始.この頃から他者依存や危険行動が目立ち始めた.7月1日ギプス固定からニーブレースへ変更.大声,暴言も著明となり明らかなうつ病の増悪と意欲・発動性の低下が認められた. 7月14日精神科受診にて炭酸リチウムが減薬となった.病棟での問題行動は続いていたが,言動や表情がやや改善されてきた.7月30日主治医より,自宅退院かそれ以外か決めるよう説明がされた.8月5日自宅への試験外出以降,リハ意欲の向上を認め,病棟生活の質も向上した為,リハ介入時間を再度統一した.9月4日介護サービス導入にて自宅退院となった. 【考察】うつ病患者は意欲を持ちにくく,意欲が安定して継続しない為,リハは難渋しやすい.生活の中にパターン化・習慣化された行動を取り入れることが効果的とされている為,介入時間と訓練内容を一定化させた.生活範囲の狭小化に伴う流入刺激の減少にて,うつ病が増悪するとされている為,病棟での安静度や歩行練習量を増減させた.更に本患者は他者依存が強かった為,口頭指示のもと監視下でのADL動作練習を行い,病棟へ伝達した.うつ病治療薬の効果は,投与後1~2週間で発現する.本患者はうつ病増悪後,専門医により抗躁薬が減薬された.リハ意欲が伺え始めたのは減薬9日後であり,病棟生活も含め快方を認めたのは減薬23日後であった.薬効が現れ始めた頃に自宅への試験外出を行ったことで, 今後の見通しが定まり,心理的相乗効果が精神状態を安定させたと考える. 【まとめ】うつ病には波がある為,投薬状況と患者の言動や精神状態の観察と照合が必要と考える.また,身体能力と精神状態に応じて,運動負荷や課題の難度調整が必要である.
著者
渡部 幸司 稲垣 麻以 澤端 秀久
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第36回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.135, 2017 (Released:2019-04-03)

【目的】随意運動に伴う予測的姿勢制御については多く報告されている。それらは主に四肢の運動に関する報告であり、口腔の運動に関する報告はみられない。そこで本研究は、挺舌運動に予測的姿勢制御が伴うかを調査する目的で、健常成人の足圧中心軌跡を測定した。【方法】実験協力者は33.5 ± 6.0 歳( 平均±標準偏差) の健常成人12 名であった。課題は、開口位での挺舌運動20 回とした(メトロノームを使用して50 回/ 分の速さ)。測定肢位は足幅が第2 中足骨間15cm となる立位。重心動揺計(ANIMA 社製)を使用して足圧中心軌跡を計測し(サンプリング周期33msec)、その映像をビデオカメラにて録画した。静止立位時の前後足圧中心位置を基準とし、録画映像より挺舌のタイミングを計り、挺舌の前後500msec の前後足圧中心軌跡の平均値を算出した。なお、協力者には本研究の概要を説明し、書面にて同意を得て行った。【結果】12 名の足圧中心軌跡平均値の波形は、挺舌開始の165msec 前に最も後方重心となり、231msec 後に最も前方重心となった。【考察】四肢の運動時の足圧中心軌跡は、運動前100 ~200msec に運動方向と反対側へ移動すると言われている。舌の重さと移動距離は非常に小さいが、挺舌運動でも四肢と同様の足圧中心軌跡をたどることが示唆された。【理学療法研究としての意義】本研究により、舌の運動時に予測的姿勢制御が伴うことが示唆された。立位等におけるバランス障害の評価や治療の際には、四肢体幹の他に舌の運動も考慮する必要があるだろう。
著者
山室 慎太郎 田島 泰裕 雫田 研輔 荻無里 亜希 高橋 友明 畑 幸彦(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.22, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】腱板断裂手術例において肩関節周囲筋群の筋スパズムが原因で術後早期の後療法がスムーズに進まない例をしばしば経験する.しかし筋スパズムの臨床成績に及ぼす影響について言及した報告はほとんど無い.今回,われわれは術後に筋スパズムが出現しやすい大胸筋に注目し,大胸筋のスパズムが臨床成績及ぼす影響について調査したので報告する.【対象と方法】対象は腱板修復術後に大胸筋のスパズムを認めた22 例22肩とした.術前と術後2週で大胸筋の筋活動量と筋硬度および肩関節の運動時痛と可動域を測定した.大胸筋の筋活動量は背臥位で術側手関節を前額部にのせた状態で表面筋電計Noraxon社製Myosystem1400Aを用いて10秒間測定し,積分値(μV×秒)を算出した.大胸筋の筋硬度は前述の測定肢位でTRY ALL社製NEUTONE TDM-NI/NAIを用いて同一点を3回計測し,平均値を求めた.肩関節の運動時痛はVisual Analog Scaleを用いて測定した.肩関節可動域は屈曲,外転,水平屈曲,水平伸展および90°外転位外旋方向の各角度を測定した.なお、大胸筋の筋活動量と筋硬度の術前と術後2週との間の比較はウィルコクソン符号順位和検定を用いて行い,大胸筋の筋硬度と肩関節の運動時痛または可動域の間の相関はスピアマン順位相関係数を用いて行い,危険率0.05未満を有意差ありとした. 【説明と同意】本研究の趣旨を十分に説明して同意を得られた患者を対象とした.【結果】大胸筋の筋活動量と筋硬度はともに術後2週時が術前より有意に高かった(P<0.01,P<0.01).また,術後2週においてのみ,大胸筋の筋硬度と肩関節の運動時痛との間に中等度の正の相関を認め(r=0.43,P<0.05),大胸筋の筋硬度と屈曲角度との間に強い負の相関を認め(r=-0.63,P<0.05),大胸筋の筋硬度と90°外転位外旋角度との間にとの間に中等度の負の相関を認めた(r=-0.48,P<0.05). 【考察】大胸筋の筋活動量と筋硬度は術後早期に高くなっており,筋硬度と運動時痛は正の相関をしており,さらに筋硬度と屈曲角度および筋硬度と90°外転位外旋角度は負の相関をしていた.したがって,術後早期の運動時痛が肩関節周囲筋群のスパズムを引き起こし、結果的に関節可動域制限につながると考えられるので,腱板断裂術後早期の後療法は疼痛を誘発しないように軟部組織の伸張を図ることが重要であると思われた.【まとめ】術後2週の運動時痛が大胸筋の筋スパズムを引き起こし筋活動量や筋硬度を増加させ,結果として関節可動域を制限すると思われた.
著者
平田 史哉 稲垣 郁哉 小関 博久 財前 知典 関口 剛 大屋 隆章 多米 一矢 松田 俊彦 平山 哲郎 川崎 智子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>臨床において明らかな外傷がないにも関わらず手関節痛をきたし,日常生活を大きく制限されている症例を多く見受ける.これらの症例の特徴として安静時に尺屈位を呈していることが多い.尺屈の主動作筋である尺側手根屈筋は豆状骨を介し小指外転筋との連結が確認でき,双方の筋が機能的に協調することは既知である.小指外転筋は小指外転運動や対立機能,手指巧緻動作に関与し,筋出力低下に伴い手関節周囲筋群の筋バランスの破綻に繋がると考える.そこで尺側手根屈筋との連結がみられる小指外転筋の筋出力低下を,尺屈位で補償し小指外転筋機能を代償しているのではないかと仮説を立てた.そこで本研究では手関節を中間位,尺屈位の二条件にて,各肢位の小指外転運動(以下AD)時における小指外転筋及び手関節尺側筋活動の違いについて表面筋電図を用いて比較検討した.<BR>【方法】<BR>対象はヘルシンキ宣言に沿った説明と同意を得た健常成人6名12手であった(男性5名,女性1名:平均年齢28.6&plusmn;3.77歳).測定肢位は端座位とし,上肢下垂,肘関節90度屈曲,前腕回外位にて計測した.前腕を台に置き,他動的に中間位,尺屈位を設定し各肢位でADを行った.尺屈位は手関節掌背屈が出現しない最大尺屈位と規定した.被検筋は小指外転筋(以下ADM),尺側手根伸筋(以下ECU),尺側手根屈筋(以下FCU)とした.各被検筋に対して5秒間の最大等尺性随意収縮を行い,安定した2秒間の筋電積分値(以下IEMG)を基準として各筋におけるAD時の%IEMGを算出した. 統計処理には,対応のあるt検定を用い,中間位,尺屈位における各筋のAD時の%IEMGに対して比較検討を行った. なお有意確率は5%とした.<BR>【結果】<BR>尺屈位においてADM,ECUの活動に有意な増加を認めた(ADM:p<0.01 ECU :p<0.01).しかし,同肢位ではFCUの活動に有意な増加は認められなかった.<BR>【考察】<BR>本研究によりFCUの活動増加を伴わない手関節尺屈位においてADMの活動が有意に増加することが示唆された.ADMは豆状骨から起始し,近位手根骨列と機能的に協調する.手関節尺屈位において,豆状骨は三角骨と共に橈側へ滑り,かつ尺側近位へひかれる.これにより豆状骨の腹側部に起始するADMは中枢へ牽引され筋張力により豆状骨が安定し,ADMの筋活動が向上したと考える.これらのことから日常生活を尺屈位で過ごすことでADMの筋出力を補償しうる可能性があるのではないか.<BR>【まとめ】<BR>手関節尺屈位が手関節筋群に影響を与えることが示唆された.ADM筋出力低下は,代償的な手関節尺屈位をもたらし,手関節構成体にメカニカルストレスを与える可能性が示唆された.また肘関節,肩関節への影響も考慮した追加研究を行う.
著者
北村 望美 鍋島 雅美 君塚 実和子 平井 竜二 山北 令子 鈴木 康仁 木村 黎史
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第36回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.2, 2017 (Released:2019-04-03)

【目的】上腕骨外側上顆炎( 以下上顆炎) は, 短橈側手根伸筋を主体とする上腕骨外側上顆の伸筋付着部障害とされている.しかし病態は不明確な点が多く, 長期化する症例や再発する症例を多く経験する. この経験から, 上顆炎患者と健常者の間に身体特性の違いが影響していると考え, 両者の関節可動域の比較, 検討を行った.【方法】対象は上顆炎患者11 名22 肢( 男7 名, 女4 名, 平均年齢58.8 ± 11.5 歳) の上顆炎群及び, 上肢に既往の無い健常者11名22肢(男7名,女4名,平均年齢53.5±15.2歳)のControl群(以下C群)とした.上顆炎群患側(右9肢,左2肢),健側(右2肢,左9 肢)に合わせ,C群患側(右9肢,左2肢),C群健側(右2肢,左9 肢)を比較対象とした.関節可動域の測定項目は肘(屈曲,伸展),前腕(回外,回内),手(掌屈,背屈,橈屈,尺屈)とし,自動と他動をそれぞれ測定した.上顆炎群とC 群の患側・健側可動域をMann-Whitney のU 検定を用いて有意差を求めた( 有意水準5%未満).【倫理的配慮, 説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準じ, 事前に対象者に研究の目的と方法, 個人情報の取り扱いについて説明し, 同意を得た.【結果】患側自動回外では上顆炎群(85 ±10°),C 群(92.7±17.3°)と上顆炎群が有意に低値を示した(p <0.05). 患側他動回内では上顆炎群(87.3 ±12.3°),C 群(92.3 ± 7.7°)と上顆炎群が有意に低値を示した(p <0.05). 健側自動回外では上顆炎群(82.7± 27.7°),C 群(92.7± 17.3°) と上顆炎群が有意に低値を示した(p <0.05).【考察】上顆炎群は患側自動回外・他動回内, 健側自動回外に有意差を認めた. 自動回外で制限がみられた事から, 上顆炎群は回外筋等の主動作筋の機能低下により, 補助筋である手根伸筋の負荷が増大している可能性が考えられる. また, 回内の制限因子である輪状靭帯, 外側側副靭帯には上顆炎の要因である短橈側手根伸筋が起始し, 更に回外筋等と共同腱となり付着している事から, 上顆炎に関与する筋や靭帯の影響を受けている可能性が示唆された.
著者
長坂 脩平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.191, 2017

<p>【はじめに】</p><p>結帯動作から肩関節下垂位に戻る際に生じる疼痛を主症状とした左肩関節周囲炎と診断された患者に対し、肩甲胸郭関節機能改善に着目してアプローチした結果、疼痛の軽減を認めたためここに報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>40 歳代女性。平成28 年10 月頃誘因なく発症。様子を見ていたが疼痛改善せず、平成28 年11 月下旬に当院を受診されリハビリ開始となる。</p><p>【説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に則り本人へ十分な説明を行い、同意を得て実施した。</p><p>【理学所見】</p><p>疼痛は結帯動作から左肩関節下垂位へ戻る際に左肩関節前方に生じていた。左肩関節屈曲・外転の可動域制限、疼痛は認めず、肩甲上腕関節の副運動も制限は認めなかった。鑑別検査として腱板機能、前方不安定検査を実施したが陰性であった。静止立位では左肩甲骨外転・上方回旋を認め、疼痛出現動作時は外転・上方回旋を生じ、これを徒手的に修正することで疼痛は消失した。またTh3,4,5 レベルでの左胸椎椎間関節、左胸肋関節、左肋椎関節の可動制限を認めた。</p><p>【介入・結果】</p><p>肩甲胸郭関節機能改善を目的に左胸椎椎間関節、左胸肋関節・左肋椎関節の可動制限改善に介入した。介入後、左胸椎椎間関節・左胸肋関節・左肋椎関節の可動性は向上し、静止立位での肩甲骨位置の左右差は消失した。結帯動作から下垂位に戻る動作時に認めた肩甲骨の外転は消失し、肩甲骨への徒手的誘導を加えなくても疼痛は消失した。</p><p>【考察】</p><p>結帯動作時に生じる疼痛は肩関節2nd 内旋可動域低下との相関が報告されているが、本症例の特徴とは一致しなかった。理学所見から本症例の疼痛は肩甲上腕関節の可動性低下・不安定性に由来するものではなく、肩甲骨の機能異常の結果、結帯動作から下垂位に戻る際に肩甲骨に過度の外転が生じていることが原因と考えた。介入として、肩甲骨機能異常に関連する胸郭・胸椎の可動性を改善することで、結帯動作から下垂位へ戻る際の疼痛の消失につながったと考える。</p>
著者
佐久間 孝志 平尾 利行 妹尾 賢和 岡田 亨 白土 英明 老沼 和弘 阿戸 章吾
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第27回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.15, 2008 (Released:2008-08-01)

【はじめに】 股関節の安定化機構として、解剖学的・力学的知見から、股関節深層筋は力学的支持という役割だけでなく、関節運動の誘導を担っている可能性があることが推測される。その中で股関節深層筋のトレーニングはいくつか紹介されているが、いずれも実際に股関節深層筋の収縮を検証している報告は少ない。そこで今回は股関節深層筋である小殿筋に着目し、小殿筋が収縮しやすい股関節肢位および負荷量について検討した。 【対象】 対象は本研究に同意を得た股関節に既往のない健常男性10名とした。 平均年齢25.3歳、平均体重63.8kg、BMI21.8であった。 【方法】 被検者に側臥位をとらせ、膝関節伸展位、股関節内外転・内外旋中間位にて、屈曲30度、0度、伸展10度の3肢位にて等尺性股関節外転運動を行った。それぞれにおいて低負荷運動と高負荷運動を行わせ、各肢位での小殿筋の収縮を測定した。測定には超音波画像診断装置 GE横河メディカルシステム LOGIQ BOOK を用い、MRI画像より大転子と腸骨稜を結んだ線上の近位1/3、および上前腸骨棘と後上腸骨棘を結んだ前方1/3を小殿筋の測定箇所として固定した。また検者は同一としプローブを固定する者1名、抵抗を加える者1名として測定を行った。 得られた画像から安静時と収縮時における小殿筋の厚みを計測し、収縮時の厚みを安静時の厚みで除すことで収縮率を算出した。統計処理はTukeyの多重比較および対応のあるT検定を用い、有意水準5%未満とした。 【結果】 低負荷運動時においては伸展10度での収縮率が屈曲30度、屈曲0度のときよりも有意に高値を示した。高負荷運動時では、股関節屈曲角度の違いによる収縮率の変化はみられなかった。各股関節屈曲角度における低負荷運動と高負荷運動時における収縮率を比較すると、伸展10度のときのみ低負荷運動で有意に高値を示した。 【考察】 今回の結果から、股関節伸展位および低負荷運動にて有意に高い収縮率を認めた。これは小殿筋の走行から股関節伸展位では股関節軸より後方に位置するため、股関節屈曲位よりも股関節伸展位で外転筋として作用しやすくなり高い収縮率を認めたものと考える。また、股関節深層筋には遅筋線維の割合が高いことが報告されていることから、低負荷運動の方が有意に高い収縮率を認めたものと考える。今後、さらに本研究を踏まえ股関節深層筋トレーニングの有効性を検討していきたい。
著者
石谷 勇人 室井 聖史 望月 良輔 石垣 直輝 黒川 純
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.67, 2017

<p>【目的】</p><p>成長期腰椎分離症に対する治療は骨癒合を目的とした装具療法が主に選択され,装具期間中の運動は中止されることが多い.しかし近年では,長期間の運動中止により骨癒合後も競技復帰に期間を要するため,装具期間中に早期理学療法の併用が行われている.本研究の目的は, ジュニアスポーツ選手の腰椎分離症に対する治療として,装具療法と早期理学療法の併用が競技復帰に与える影響を検討することである.</p><p>【方法】</p><p>対象は2012 年から2015 年に腰痛にて当院を受診し,片側L5 分離症と診断され,骨癒合を目的として装具装着を指示されたジュニアスポーツ選手37 名とした.装具期間中に安静にしていた17 名( 装具群) と,早期理学療法として股関節ストレッチ等の運動療法を併用した20 名( 併用群) の2 群に分類した.検討項目は,装具期間,装具療法終了から競技復帰までの期間(復帰期間)を装具群と併用群を比較検討し,各群の癒合率も算出した.競技復帰の定義は,全体練習に参加した日とした.統計処理はMann-Whitney U 検定,χ<sup>2 </sup>検定を用い,有意水準は5%とした.本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施し,対象者に本研究の趣旨,目的等を説明し,同意の上で行った.</p><p>【結果】</p><p>装具期間は装具群96.5日,併用群87.2 日であり,両群間に有意な差はみられなかった.復帰期間は装具群29.3 日,併</p><p>用群19.9 日であり,併用群は装具群よりも有意に短かった(p=0.034).癒合率は装具群76%,併用群75%であり,有意差な差はみられなかった.</p><p>【考察】</p><p>両群とも装具期間に有意差がなく,同等な骨癒合率がみられたことから,早期理学療法の介入は分離部への骨癒合に影響を与えないものと考える.復帰期間において,併用群は装具群に比べて有意に早く練習に復帰していたことから,装具療法と早期理学療法の併用は,柔軟性・筋力が維持でき,装具療法終了後にスムーズなスポーツ動作の獲得が図れることで早期の練習復帰が可能であると考えられる.</p>
著者
仲島 佑紀 小林 雄也 高村 隆 岡田 亨 戸野塚 久紘 高橋 憲正 菅谷 啓之
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.78, 2011

【目的】<BR>少年期の野球肘内側障害(以下、内側型野球肘)において、一般に画像上の異常所見により長期の投球禁止となる場合が少なくない。当院では早期より理学療法を施行することで安静期間の短縮を図ってきた。本研究の目的は少年期の内側型野球肘における、画像所見の違いによる競技復帰への影響を調査することである。<BR>【対象】<BR>2005年1月から2010年8月までに当院を受診した小中学生野球選手で内側型野球肘と診断され、競技復帰までの経過観察が可能であった症例のうち、明らかな画像上の異常所見を認めなかった144例をN群、内側上顆骨端核の裂離を有していた248例をS群とした。画像所見における分類は、当院放射線技師により撮影された初診時X線所見を主治医が診断したものを用いた。医師の指示の下、全例初診時より投球禁止と共に理学療法を直ちに施行した。なお、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の合併例は除外した。<BR>【方法】<BR>N群、S群における競技完全復帰率を算出した。さらに両群を完全復帰群(C群)、不完全復帰群(I群)に分類し、N-C群・N-I群・S-C群・S-I群の初診時と復帰時における身体機能の群内比較を行った。、次に復帰時の身体機能、ならびに復帰までの期間N-C群とN-I群、S-C群とS-I群で比較した。身体機能は肘関節可動域、肩甲帯機能(CAT・HFT)、股関節機能(SLR・HIR・HBD)評価を用いた。統計学的処理にはMann-Whitney U検定、Wilcoxon符号順位検定を用いた。なお本研究には当院倫理委員会の承認を得て行った。<BR>【結果】<BR>完全復帰率はN群82%、S群87%であった。N-C群、S-C群においてCAT・HFT・SLR・HIRが初診時よりも有意に改善していた(p<0.01)。N、S群ともにC群がI群に比しCAT・HFT・SLR・HIRが有意に大きかった(p<0.05)。復帰までの期間はN-C群:7.0±4.4週、N-I群:3.1±2.7週、S-C群:7.8±4.5週、S-I群:3.8±4.7週であった。<BR>【考察】<BR>今回の調査では画像所見にかかわらず競技完全復帰は7~8週で80%以上が可能であった。内側型野球肘の投球禁止期間は緒家により様々だが、安静期間における身体機能改善を目的とした理学療法アプローチは、競技復帰への重要な要素であるといえる。I群は機能改善が不十分かつ復帰までの期間が短く、コンプライアンスの悪い例であったと考えられる。競技復帰において画像所見は必ずしも影響するとは言えず、身体機能も含めた包括的な評価により投球再開を医師とともに協議し、症例に呈示していく必要があると思われる。
著者
佐々木 和優 長 正則 大石 健太 山岸 辰也 今村 仁
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.F-21, 2020

<p>【はじめに】精神疾患を合併した術後症例に関与する機会が増えてきており、精神疾患のリハビリテーション(以下リハ)の知識が必要な場面を多く経験する。しかし、術後リハの報告は精神疾患の合併で除外されやすく報告数が少ない。今回、TKA術後の統合失調症患者のリハを行い、精神的安定と共に機能改善し自宅復帰した一例を経験したため報告する。</p><p>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿って対象者に発表の主旨を説明し同意を得ている。</p><p>【症例紹介】60歳代女性、既往歴は脊髄性小児麻痺(小児期に右肩関節固定術)。現病歴は統合失調症(5年前)。 左変形性膝関節症(2年前)。本年、左TKA目的で入院。</p><p>【経過及び結果】入院時評価は、歩行は独歩自立。主訴は左膝荷重時痛でNRS8/10。全体像は通常の会話可能も内向的。従命反応緩慢であった。TKA翌日リハ再開。 全荷重下での立位訓練時に強い左膝折れを起こし、膝関節展開縫合部皮下断裂の診断。術後14日目に断裂部再縫合術施行。術後は筋力強化練習や慎重な荷重練習と歩行練習を実施。術後38日目から段差昇降練習を実施。術後47日目に自宅退院。退院時評価は、歩行はT字杖自立。 荷重時痛なし。全体像は笑顔が多くなり自らの発言増加。 従命反応良好。自主練習が増えた。</p><p>【考察】本症例は術後、膝折れを起こし、関節展開縫合部皮下断裂を生じた。断裂部再縫合術後は、患者にわかりやすく丁寧に注意点や練習の目的などのオリエンテーションを行い、理解の向上で安全性を高める様に努めた。 統合失調症患者の多くは病識の欠如や理解力の低下を認めるが、症例はリハへの理解が深まり、指導した自主練習が増える等、ポジティブな行動変容が得られたことが、ADLの再獲得、自宅復帰に繋がったと考える。精神疾患合併症例の術後リハは、疾患特有の精神症状の理解とそれに応じた個々の対応をリハ計画に加えプログラムを安全に進めることが重要であると考えられた。</p>