著者
中村 正人 山崎 敦 田口 真 岩上 直幹 佐藤 毅彦 高橋 幸弘 今村 剛
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.4-7, 2016

金星探査機「あかつき」は2015年12月に金星周回軌道に入った.日本初の惑星周回機の誕生である.観測機器の初期チェックは順調に進んでいる.中村プロジェクトマネージャーと観測機器担当者が所感を記す.
著者
吉田 辰哉 倉本 圭
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.52-63, 2021-06-25 (Released:2021-07-16)

近年の宇宙化学的研究により,地球マントル物質の同位体組成は始原的隕⽯の中で最も還元的なエンスタタイトコンドライトに酷似していることが⽰されている.このことは形成期の地球に,⾦属鉄の還元作⽤によってH2やCH4に富む還元型原始大気が形成されたことを強く⽰唆する.これまで富⽔素原始大気は流体力学的散逸によって速やかに失われたとみられてきたが,これは放射活性分子種による放射冷却過程やXUV吸収に付随する光化学過程を著しく簡略化したモデル計算に基づいており,⽔素残留期間については不確定性が大きい.そこで本研究では,これらの過程を陽に組み込んだ流体力学的散逸モデルを原始地球大気に適⽤することで,大気組成に依存した大気散逸率を求め,その結果を適⽤して,現表層揮発性元素の貯蔵量や同位体組成と整合的な原始大気の進化経路を推定した.CH4や⾚外活性光化学生成物(H3+,CH,CH3等)の混合⽐が⼩さい場合でもそれらの放射冷却の影響は著しく,CH4/H2>0.01の場合,CH4はほとんど散逸せずH2のみが散逸する.散逸が抑制された結果,集積期に獲得したH2の残留期間は>4億年にも達しうる.これは,地球上に生命が誕生したと推定される時期に重なり,初期地球において還元的大気種の温室効果によって温暖環境が保たれ,当時の大気が生命につながる有機物の生成場として重要な役割を果たした可能性があることを⽰唆する.
著者
中澤 清
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.177-184, 2011-06-25 (Released:2017-08-25)
参考文献数
11

前前回[1]は「研究室での林先生」と題し,また,前回[2]は「林先生の教育・研究指導」と題して,日本物理学会誌[3]や天文月報[4]とは違った視点から,林先生の人となりを紹介してきた.今回は,先生のいくつかの太陽系起源の研究を話題としながら,「京都モデル」構築までの裏話のほんの一部を紹介したい.内容が研究に深く関わることから,専門的な用語を用いた記述とならざるを得ず,分野外の読者にはかなりの負担となることをご容赦願いたい.
著者
瀧川 晶
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.4-13, 2020-03-25 (Released:2020-05-22)

先太陽系粒子は,太陽より一世代前の晩期星で形成し,星間空間を経て太陽系原材料物質の一つになった,星周ダストの生き残りである.星周ダストやダスト形成場の観測,先太陽系粒子の分析,ダスト形成実験を組み合わせることによって,先太陽系粒子固有の形成・変質履歴と,星周ダストの一般的特徴や形成過程という,相補的な情報を得ることが可能となる.本稿では,アルミナ(Al2O3)を鍵として,晩期星から太陽系形成に至るまでの,物質の形成と進化を紐解く試みを紹介する.
著者
安部 正真 橘 省吾 小林 桂 伊藤 元雄 渡邊 誠一郎
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.28-37, 2020-03-25 (Released:2020-05-22)

探査機「はやぶさ2」は小惑星リュウグウ表面での試料採取のための二回の着陸運用を成功させ,現在,地球帰還に向けて,飛行中である.2020年末に地球に届けられるリュウグウ試料は,地球帰還から6ヶ月の期間,JAXAキュレーション施設内に設置された専用のクリーンチャンバーの中で,地球大気にさらされず,窒素ガス中で初期記載される.その後,一部試料に対し,外部機関でのJAXA主導の高次キュレーションならびに「はやぶさ2」科学チームによる初期分析がおこなわれる.地球帰還から18ヶ月後には,それらの分析結果はカタログ化され,国際公募による分析に試料が配布される.本稿では,初期記載,高次キュレーション,初期分析に関し,それぞれの目的や実施内容,計画について示し,国際公募開始以前にJAXAならびに「はやぶさ2」プロジェクトが主導しておこなうリュウグウ試料分析の全体像を紹介する.
著者
磯部 洋明
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.169-173, 2017-12-25 (Released:2018-02-09)

京都大学宇宙総合学研究ユニットの歴史文献天文学研究会では,太陽-地球環境に関心を持つ自然科学者と,様々な地域,時代を専門とする歴史研究者との共同研究により,歴史文献中の太陽黒点や中低緯度オーロラの記録を用いた過去の太陽活動の研究を2014年頃から行っている.本稿では太陽活動に関するいくつかの成果とともに,8世紀のシリア語の文献から,彗星にイオンテイルとダストテイルと思われる二つの尾あることを記述した例についても紹介する.また,自然科学系と人文系の学際的共同研究の難しさと魅力についても述べる.
著者
東 真太郎 片山 郁夫
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.318-325, 2015-12-25 (Released:2017-08-25)

アポロ計画で設置された地震計によって月にも地震(月震)が起きることがわかっている.月震は発生領域や発生メカニズムによって,浅発月震,深発月震,熱月震,インパクトによる月震に分類されており,我々はこの月震の中でも深さ約800-1200km付近で起きる深発月震について,月内部のレオロジー構造とともに考察した.月内部の温度構造から考察されるレオロジー構造から,深発月震は明らかに塑性変形領域で発生していることがわかった.通常は破壊や滑りが起こらない塑性変形領域で深発月震が起こるメカニズムを,地球で起きる地震の発生メカニズムのモデルを参考に考察した.
著者
中村 良介 山本 聡 松永 恒雄 小川 佳子 横田 康宏 石原 吉明 廣井 孝弘
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.15-24, 2014-03-25 (Released:2017-08-25)

我々は月探査機「かぐや」に搭載されたスペクトルプロファイラ(SP)データの全量解析を行い,月表面に露出しているカンラン石・低カルシウム輝石に富む岩相の全球分布を調べた.その結果,(1)カンラン石はモスクワの海・危難の海といった地殻が薄く比較的小さい衝突盆地周辺に(2)低カルシウム輝石は月の三大衝突盆地,すなわち南極=エイトケン盆地・雨の海・プロセラルム盆地の周囲に,それぞれ局在することが明らかとなった.表層の斜長岩地殻が完全に吹き飛ばされた衝突盆地の内部では,その下にあるマントルが大規模に溶融して「マグマの海」が形成される.原始地球への巨大衝突によって形成された月は,当初数百km以上の厚さのマグマオーシャン(マグマの大洋)によって覆われていた.「マグマの海」は,このマグマオーシャンのミニチュアであり,SPが捉えたカンラン石・低カルシウム輝石の分布は,その分別結晶化過程を反映していると考えられる.今後「かぐや」分光データの詳細な解析をすすめ,「マグマの海」の組成およびその分化過程を読み解いていけば,同じ手法を用いてマグマオーシャンの分化過程や月の内部構造・バルク組成にも強い制約を加えることができるだろう.同様に月の「マグマの海」の研究は,ほぼ同規模の小惑星ベスタ上のマグマオーシャンや,月よりもさらに規模の大きい地球のマグマオーシャンの分化過程についても,新たな知見をもたらすことが期待される.
著者
藤谷 渉
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.90-93, 2016-09-25 (Released:2017-02-01)

タギシュ・レイク隕石は,反射スペクトルのデータからD型小惑星を起源としている可能性が高い.物理的,岩石鉱物学的および地球化学的な特徴はこの隕石が既存の化学グループには属さず,非常に始原的で特異な炭素質コンドライトであることを示す.その特徴は,小惑星帯の外縁部に多く存在するD型小惑星に予想されるものと調和的である.
著者
大竹 真紀子 荒井 朋子 武田 弘 唐牛 譲 佐伯 和人 諸田 智克 小林 進悟 大槻 真嗣 國井 康晴
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.217-223, 2012
参考文献数
16

従来,月の地殻組成は月採取帰還試料や月隕石の分析値を基に推定されてきたが,最近になって,月周回衛星"かぐや"データを用いた研究などにより,既存の月採取帰還試料とは異なる組成の,より早い分化段階で形成した始原的な地殻物質が,月裏側に存在する事が指摘されている.これら未採取の月裏側地殻物質を入手し,詳細な化学組成等の情報を得る事は,月高地地殻の組成,月マグマオーシャンの固化過程や熱履歴を知ることに加え,月・地球系の形成過程を考える上でも重要な課題である.本提案では,来る10年の惑星探査計画として,月裏側の高地地域から未採取地殻物質の採取帰還を行い,詳細な組成分析,同位体分析,組織分析,既存のリモートセンシングデータと比較するための分光測定,風化度測定など,さまざまな分析を行うことにより,これら科学目標達成を目指すミッションを提案する.
著者
荒川 政彦 和田 浩二 はやぶさ2 SCI/DCAM3 チーム
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.152-158, 2013

はやぶさ2には小型の衝突装置(SCI)が搭載されており,これは秒速2kmで小惑星表面に衝突してクレーターを形成する.このクレーターは小惑星内部を覗くための小窓であり,リモートセンシング観測やサンプル回収から,小惑星表面の宇宙風化や浅内部構造に関する知見を得る.一方, SCIが衝突する様子は分離カメラ(DCAM3)により撮影され,イジェクタカーテンの拡大する様子や小惑星周囲を飛び交うダストを観察する. SCIによる小惑星への衝突は宇宙衝突実験ともいえる.我々はこの世界で最初の小惑星における宇宙衝突実験の機会を利用して,微小重力下における「本物の小惑星物質」のクレーター形成過程を明らかにする.
著者
諸田 智克 はやぶさ2ONCチーム 杉田 精司 澤田 弘崇 本田 理恵 亀田 真吾 山田 学 本田 親寿 鈴木 秀彦 安藤 滉祐
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.48-53, 2015

はやぶさ2に搭載された光学航法カメラ(ONC:Optical Navigation Camera)はその名の通り探査機のナビゲーションの役目を担うカメラであるが,科学観測においても中心的な役割を果たす.本稿では特に小惑星の力学進化過程の復元に向けた,ONC地形観測の戦略について紹介する.
著者
山下 直之
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.326-331, 2015

NASAのDawnミッションは,惑星誕生の鍵を探るべく小惑星ベスタと準惑星ケレスを周回して元素,鉱物の分布調査や地質学的,地球物理学的観測を行っている.Dawn衛星に搭載されたガンマ線及び中性子検出器(GRaND)はベスタ赤道域において,炭素質コンドライト起源と考えられる水素が濃集する領域を発見した.南極域ではダイオジェナイト的な下部地殻が露出していることが確認された.またベスタの平均元素組成から,HED限石のベスタ起源説を強く支持する結果が得られた.
著者
中村 智樹 イ ジョンイク パク チャンクン 長尾 敬介
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.13-18, 2016

探査機による小惑星からのサンプルリターンと並行して,南極大陸からの小惑星や彗星由来の物質の回収も続けられている.本稿では南極において,どのように隕石や宇宙塵が回収されているかについて簡潔に紹介する.
著者
北里 宏平 はやぶさ2 NIRS3チーム
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.288-292, 2014

はやぶさ2に搭載する近赤外分光計(NIRS3)は,水酸基や水分子の赤外吸収が見られる3μm帯の反射スペクトルを測るリモートセンシング機器である.我々はNIRS3を使って,近地球C型小惑星1999JU_3の近接観測を行い,その表面の含水鉱物分布の特徴を明らかにする.近年,C型小惑星の内部に氷の存在を示唆する観測結果が報告されており,地球の海洋形成におけるC型小惑星の寄与が従来の想定よりも大きくなる可能性が出てきた.内部氷の存在を検証するには水質変成が起きたときの水の挙動を理解することが必要であり,NIRS3では衝突装置が作り出す人工クレーターの観測から加熱脱水や宇宙風化による二次的な変成の影響を識別し,母天体上で起きた水質変成の情報を抽出することをめざす.
著者
平田 成 はやぶさ2 形状モデルチーム
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.97-104, 2017

<p> 小惑星探査では,探査機の到着後に対象天体の形状を,画像を元に推定する必要がある.本稿では,まず2005年のはやぶさによる小惑星Itokawa観測の際に用いられた小惑星形状の推定の手法について述べる.さらに,来年2018年のはやぶさ2の小惑星Ryuguへの到着に備えた,はやぶさ2形状モデルチームの準備状況についても解説する.はやぶさ2形状モデルチームでは,はやぶさでも用いられた手法と,新規の手法を組み合わせて,確実な形状モデル作成を行う計画である.現在,はやぶさ2プロジェクトで実施されている着陸地点選定運用訓練を通じて,作業手順のバグ出しや,得られる形状モデルの精度評価などを進めている.</p>