著者
山岸 明彦
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.108-116, 2011-06-25
被引用文献数
3

火星の環境は過酷であるが,地球の微生物の中には火星環境で生存可能な物も存在する.火星での大気中メタンの発見は,火星においてメタンを酸化する菌の存在可能性を検討課題として提起してきた.著者ら(MELOS生命探査サブグループ)はメタン発生地域やその近傍では,火星表面下数cmで微生物が現在も存在しているのではないかという可能性を提起している.我々は蛍光顕微鏡とアミノ酸分析による火星生命探査を提案している.蛍光顕微鏡を用いることによって,DNAやRNAを持たない生物の細胞を極めて高感度で検出できる.アミノ酸の種類と鏡像異性(DL)を解析することによって,その生物の由来に関する情報を得ることができる.
著者
野口 高明 平田 成 土山 明 出村 裕英 中村 良介 宮本 英明 矢野 創 中村 智樹 齋藤 潤 佐々木 晶 橋本 樹明 久保田 孝 石黒 正晃 ゾレンスキー マイケル・E
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.12-22, 2010-03-25

はやぶさ探査機による小惑星イトカワ表面の画像から小惑星表面の巨礫の組織観察を行うことができた.イトカワ表面の巨礫は,大まかにいって不均質な破壊強度を持つものと,均質な破壊強度をもつものに分けられる.前者は角礫岩と考えても矛盾はない.一方,後者の組織は一般的なLLコンドライトには見られない.衝撃によってかなり溶融した普通コンドライト隕石は,そうでないものよりも均質でより高い破壊強度を持つことを考慮すると,後者の巨礫はそのような隕石と類似の岩質をもつかもしれない.これらの巨礫はイトカワの祖先天体で形成されたと考えられる.高解像度画像は小惑星の地史を検討する手段として非常に有効である.
著者
中村 昭子 阿部 新助 平田 成
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.216-225, 2007-09-25

小惑星の多くが衝突破壊・再集積したラブルパイル天体であることは予想されていたが,平均直径320mの小惑星25143イトカワがラブルパイル天体であったことは新鮮な驚きと興奮をもたらし,小天体の内部構造や表面の進化に関わる衝突現象について,新たな疑問と興味を喚起している,本稿では,イトカワの内部・表面構造について改めて振り返り,また,関連する最近の実験的研究にっいて触れ,小天体の衝突過程に関する我々の知見に対して投げかけられたいくつかの間題について報告する.
著者
小松 吾郎
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.12-14, 1993-03-25
著者
桑原 歩 黒川 宏之 谷川 享行 井田 茂
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.176-185, 2023-09-25 (Released:2023-10-05)

近年の観測から,多くの原始惑星系円盤においてダストの空間分布にリング・ギャップ構造が見つかっている.ダストのリング・ギャップ構造の惑星による起源として,従来研究の多くは海王星質量以上の惑星 (≳ 15 地球質量) によるガスギャップ形成の影響を議論してきた.本研究は,∼ 1–20 地球質量程度の小質量惑星に着目する.円盤内に埋もれた小質量惑星は,自身の重力によって周囲のガスの流れを乱す.円盤内に存在する小さなダストはガスの流れの影響を強く受ける.本稿では,小質量惑星が駆動するガス流れ場がダストの動力学に及ぼす影響に関する我々の研究について解説し,ガス流れ場によるダストのリング・ギャップ構造形成シナリオを新たに提案する.そして,本稿が提案するシナリオの観測的検証に向けた議論を行い,ガス流れ場が惑星成長率に及ぼす影響と系外惑星の質量-軌道半径分布への示唆についても議論する.
著者
堀 安範
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.42-49, 2022-03-25 (Released:2022-04-15)

探査機CassiniおよびJunoのその場観測によって,木星および土星の大気構造や組成,内部 構造に関する理解が深化した.短周期ガス惑星の存在や直接撮像による遠方ガス惑星の発見とともに,TypeII型惑星移動,そして円盤不安定シナリオの再考と小石集積モデルの台頭に見られるように,木星および土星の形成および軌道進化に対する理論も急速に進展している.そこで,本稿では,最新の観測結果から明らかになった木星および土星の姿を紹介しながら,太陽系のガス惑星形成の現状および未解決な諸問題を整理する.
著者
倉本 圭
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.123-127, 2023-06-25 (Released:2023-07-07)

火星衛星探査計画MMX (Martian Moons eXploration) の探査機開発が,来年の打ち上げに向け佳境に入っています.今号から,MMX計画について紹介する連載を開始することにしました.色々な切り口から,MMXの魅力,奥行き,面白さを,お届けしたいと思います.第一弾の今回は,MMXの目的地である火星の月と,MMX計画の狙いと概要について,紹介します.
著者
高橋 典嗣 吉川 真
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.228-233, 2013-12-25 (Released:2017-08-25)

ロシア,ウラル地域チェリャビンスク州に隕石が落下し,天体衝突による自然災害が発生した.隕石落下から43日後の3月30日に出発し,現地に赴いた.チェバルクリ湖の氷上には隕石落下の傷跡が,市街地には被害状況が残されていた.現地では,隕石爆発地点の計測,隕石落下地域の推定と隕石が採集された場所の確認,市街地の被害状況等を視察した.調査の過程で隕石を含む貴重な関連資料を収集することができた.本稿では調査全般について,及び調査で得られた知見について報告する.
著者
平田 直之 宮本 英昭
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.271-280, 2011-12-25 (Released:2017-08-25)
参考文献数
22

土星系の魅力的な衛星は,タイタンやエンセラダスだけではない.カッシーニ探査機の活躍によって得られたさまざまな知見は,その他大勢の小型衛星も,太陽系科学において極めて興味深い対象であることを示している.小型衛星は,その小さな重力場や弱い熱的変成履歴という意味で小惑星と対比できるだけでなく,その特徴的な形態や表層の状態が,ほかの衛星や周囲の環と複雑な相互作用の結果であることから,土星系における衛星や環の形成や進化の鍵を握っていると考えられる.本稿では,こうした多様性に富む土星系小型衛星の姿と推定される内部構造,さらには進化史について概説するとともに,今後の探査で期待される観測について議論する.
著者
山岸 明彦
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.117-124, 2011-06-25 (Released:2017-08-25)
参考文献数
22

「たんぽぽ計画」では国際宇宙ステーション(ISS)曝露部で微生物を採集することによって,この高度での微生物の存在可能性を検討する.また,微生物が宇宙空間で,どの程度の時間生存できるのかを,微生物を宇宙環境に曝露する事によって調べる.生命の起原以前に,宇宙空間で合成された有機物が宇宙塵とともに地球に飛来した可能性がある.そこで,ISS上で宇宙塵の採集を行い,有機物を解析する.地球周辺には,スペースデブリが多量に蓄積している.本計画ではそのモニターも行う.これらの実験のために0.01g/cm^3という超低密度のエアロゲルを開発した.これは今後の宇宙における様々な微粒子採集に利用可能である.
著者
脇田 茂 瀧 哲朗 伊藤 孝士
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.124-139, 2019-06-25 (Released:2020-01-24)

太陽系内に存在する小天体を活動的な天体とそれ以外に分ける時,前者の代表は彗星であり,後者の代表は小惑星と言えよう.ところが昨今,小惑星に分類されるものの彗星で見られるダストテイルが観測されるような天体が続々と発見されている.こうした天体は活動的小惑星と総称され,それらの実態や活動の原因を知ることは太陽系内の物質輸送や力学進化・衝突進化を理解することに繋がる.本稿では活動的小惑星を通して太陽系の歴史を読み解くことを目指して私達が開催した一連の勉強会で得られた知見のまとめを記し,更には活動的小惑星の今後の研究の方向についていくつかの考察を行う.
著者
戸叶 哲也
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.287-293, 2011
参考文献数
25

土星の衛星タイタンの成層圏には,秒速200メートルにも達するスーパーローテーションが存在する.一方,対流圏には地衡風平衡の領域が存在し,顕著な季節変動と合わせて,地球大気と似た側面もある.本稿では観測データと複数の数値モデルの結果を踏まえながら,タイタン大気のスーパーローテーションの特徴および生成メカニズムに関する研究を金星大気と比較しながらレビューする.ハドレー循環・順圧乱流・プラネタリー波によってスーパーローテーションを再現できる大気大循環モデルもある.しかし,弱風しか予報しないモデルもあり,熱潮汐・重力潮汐・重力波などが成層圏の強風とどのように相互作用し,対流圏の力学とどのように共存しているのかが今後の大きな課題である.
著者
中村 良介 山本 聡 松永 恒雄 小川 佳子 横田 康宏 石原 吉明 廣井 孝弘
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.15-24, 2014

我々は月探査機「かぐや」に搭載されたスペクトルプロファイラ(SP)データの全量解析を行い,月表面に露出しているカンラン石・低カルシウム輝石に富む岩相の全球分布を調べた.その結果,(1)カンラン石はモスクワの海・危難の海といった地殻が薄く比較的小さい衝突盆地周辺に(2)低カルシウム輝石は月の三大衝突盆地,すなわち南極=エイトケン盆地・雨の海・プロセラルム盆地の周囲に,それぞれ局在することが明らかとなった.表層の斜長岩地殻が完全に吹き飛ばされた衝突盆地の内部では,その下にあるマントルが大規模に溶融して「マグマの海」が形成される.原始地球への巨大衝突によって形成された月は,当初数百km以上の厚さのマグマオーシャン(マグマの大洋)によって覆われていた.「マグマの海」は,このマグマオーシャンのミニチュアであり,SPが捉えたカンラン石・低カルシウム輝石の分布は,その分別結晶化過程を反映していると考えられる.今後「かぐや」分光データの詳細な解析をすすめ,「マグマの海」の組成およびその分化過程を読み解いていけば,同じ手法を用いてマグマオーシャンの分化過程や月の内部構造・バルク組成にも強い制約を加えることができるだろう.同様に月の「マグマの海」の研究は,ほぼ同規模の小惑星ベスタ上のマグマオーシャンや,月よりもさらに規模の大きい地球のマグマオーシャンの分化過程についても,新たな知見をもたらすことが期待される.
著者
荒井 朋子 川勝 康弘 中村 圭子 小松 睦美 千秋 博紀 和田 浩二 亀田 真吾 大野 宗佑 石橋 高 石丸 亮 中宮 賢樹 春日 敏測 大塚 勝仁 中村 智樹 中藤 亜衣子 中村 良介 伊藤 孝士 渡部 潤一 小林 正規
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.239-246, 2012
参考文献数
54

地球近傍小惑星(3200)Phaethonは,ふたご座流星群の母天体であるが,彗星活動は乏しく,彗星と小惑星の中間的特徴を持つ活動的小惑星(あるいは枯渇彗星)と考えられている.また,ふたご座流星群のスペクトル観測から報告されているナトリウムの枯渇及び不均質は,太陽加熱の影響よりも局所的部分溶融を経た母天体の組成不均質を反映している可能性が高い.部分溶融の痕跡を残す原始的分化隕石中に見られる薄片規模(mm-cmスケール)でのナトリウム不均質は,上記の可能性を支持する.従って, Phaethonでは局所的な加熱溶融・分別を経験した物質と,始原的な彗星物質が共存することが期待される. Phaethonは,太陽系固体天体形成の最初期プロセスを解明するための貴重な探査標的である.また,天文学,天体力学,小惑星・彗星科学,隕石学,実験岩石学などの惑星科学の多分野に横断的な本質的課題解明の鍵を握る理想的な天体である.本稿では,小惑星Phaethon及び関連小惑星の科学的意義と探査提案について述べる.
著者
杉山 耕一朗 小高 正嗣 佐野 康男 大石 憲且 馬場 聡 高井 昌彰 大石 尊久 林 祥介 倉本 圭 渡部 重十
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.123-129, 2008-06-25

北海道大学と名寄市立木原天文台とを接続する広帯域ネットワークを構築し,研究と教育の連携のための実験を行った.広帯域ネットワークを用いる最大の利点は,地理的に離れた両拠点の既存の機材とソフトウェア環境を現地まで移動することなく相互に利用できるようになり,両拠点が一体の遠隔天文台として機能できることである.実際に,北海道大学から木原天文台の望遠鏡を遠隔操作して天体の操像観測を試み,遠隔天文台としての機能の検証を行った.また,両拠点の観望映像のどちらか条件の良い映像をインターネット中継映像として配信する実験を行い,今回我々の構築したネットワーク環境が天文現象のインターネット中継の成功率向上に資することを確認した.