著者
北村 勝哉 吉田 仁 池上 覚俊 佐藤 悦基 田中 滋城 井廻 道夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.565-569, 2009-05-31 (Released:2009-07-07)
参考文献数
10

本邦の急性膵炎診療ガイドラインでは,急性胆石性膵炎における緊急内視鏡治療は,胆道通過障害や胆管炎合併例に推奨されているが,治療時期や方法は施設間で相違がある。当施設において,入院72時間以内に内視鏡的逆行性膵胆管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)を施行した急性胆石性膵炎25例を対象に治療成績を検討した。年齢は,30歳から89歳,男性が14例,女性が11例であり,厚生労働省急性膵炎旧重症度判定基準における軽症・中等症が11例,重症が14例であった。胆道通過障害や胆管炎合併を有する急性胆石性膵炎に対し,早期にERCPを用いた内視鏡治療を施行することで,膵炎の病態は改善した。しかし,内視鏡的胆管ドレナージ術(endoscopic biliary drainage:EBD)単独と内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)併用EBD,および早期結石除去術と待機的結石除去術において,入院期間,結石除去率,偶発症発生率に有意差を認めなかった。偶発症として,EST後出血,およびEBD後胆嚢炎に注意する必要がある。
著者
鯉沼 潤吉 加藤 航平 黒田 晶 山村 喜之 村川 力彦 大野 耕一
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.1065-1067, 2014-07-31 (Released:2015-01-23)
参考文献数
16

症例は86歳女性。腹痛を主訴に近医受診しイレウスの診断で当院紹介された。受診時腹部CTで腹水を認め,S状結腸付近に異物を思わせる高濃度の構造物を認めた。腹部所見が軽度であり当院内科に経過観察入院となったが,翌日腹部所見の増悪を認め,腹部CTで腹水の増加,遊離ガスを認めたことから消化管穿孔を疑い緊急手術を施行した。腹腔内には汚染腹水がみられ,全腸管を検索したところS状結腸に3mm大の穿孔部を認め,ピンク色の異物が穿孔部から突出していた。穿孔部を含むS状結腸を切除し,人工肛門造設術を施行した。術後経過は特に問題なく第31病日に退院した。発症の数日前に歯科医院で義歯を作製したエピソードがあり,歯科医に異物の照合を依頼したところ義歯作製時の印象材であることが判明した。歯科用印象材が穿孔をきたした例は報告が無く,非常にまれな症例であり報告する。
著者
大屋 久晴 永田 二郎 西 鉄生 森岡 祐貴
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 = Journal of abdominal emergency medicine (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.1021-1023, 2009-11-30
参考文献数
7
被引用文献数
2

症例は65歳の男性で,腹痛・発熱で発症し近医を受診。回盲部周囲の炎症を指摘され当院を紹介された。腹部では,臍部・右下腹部に圧痛を認めた。CTでは回盲部付近回腸側に34×28mm大のlow density areaを認め,内部にbone densityが確認され周囲fatの炎症所見を示した。発症前にぶり大根を食べていたことから魚骨穿孔による腹腔内膿瘍と診断した。抗生剤・絶飲食のみでは改善が得られないため,最終的には手術を行った。開腹所見では虫垂先端に穿孔部を認め,同部位に骨片が確認され,これを中心に周囲膿瘍が形成されていた。虫垂切除術・洗浄ドレナージを施行した。誤嚥魚骨による消化管損傷は特異的な症状がないが本症例では詳しい食事歴の聴取とmulti detector-row computed tomography(MD-CT)により診断が可能であった。
著者
水村 直人 奥村 哲 豊田 翔 小川 雅生 川崎 誠康
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.783-785, 2018-05-31 (Released:2019-12-07)
参考文献数
10

経肛門異物では患者から正確な情報が得られない場合がある。十二指腸潰瘍の既往がある50歳代の男性が,食後からの心窩部痛で救急搬送された。CT検査では十二指腸周囲に遊離ガスと大量腹水を認めた。十二指腸潰瘍穿孔と初期診断したが,直腸診での鮮血,高い腹水CT値より外傷性下部消化管穿孔の可能性を考えた。最終的にプライバシーに配慮した問診を行い,肛門から同性パートナーの前腕を挿入したことが判明した。開腹所見では,直腸Rsが穿孔,S状結腸に漿膜筋層断裂を認め,ハルトマン手術を施行した。本症例は十二指腸潰瘍穿孔に極めて類似していたが,伏せられた受傷機転が穿孔部位の術前診断に重要であった。
著者
蒲田 敏文
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.603-606, 2012-03-31 (Released:2012-06-11)
参考文献数
6

急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン初版では,胆管炎による炎症そのものは画像(CT,US,MRI)では診断できないので,画像診断の意義は胆道閉塞の有無やその成因を診断することであると記載されている。しかしながら,造影ダイナミックCTを施行することで,胆管炎に特徴的な所見を得ることができる。すなわち,胆管炎ではダイナミックCTの動脈相で肝実質に一過性の不均一濃染が高率に認められる。この濃染は門脈相~平衡相では消失する。この不均一濃染の成因は,胆管炎に伴う炎症の肝内グリソン鞘への波及により末梢門脈血流が低下し,代償性に末梢肝動脈血流が増加するためと考えられている。胆管炎の治療により炎症が改善すれば,この不均一濃染も改善ないし消失する。臨床的に胆管炎が疑われる場合には,迅速な診断と治療を行うためにもダイナミックCTの施行が勧められる。
著者
古川 浩一 神田 達夫 舟岡 宏幸
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.1039-1043, 2011-11-30 (Released:2012-01-27)
参考文献数
15

非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI)は,腹部の動脈の攣縮・狭小化による血流低下で,広範囲の腸間膜虚血や腸管壊死が惹起されことが知られている。しかし,この腸間膜虚血症を従来の検査方法で,早期に選択的に簡便に評価することは困難と言える。一方,重症急性膵炎においてもNOMIはしばしば発生し,その病態や予後への関与が報告されている。今回,膵炎に発生するNOMIに対し,小腸粘膜に特異的に分布する腸管由来の脂肪酸結合蛋白(I-FABP)を測定し,NOMI診断への臨床的意義につき検討した。IFABPは急性膵炎の重症度に関連する病態を示し,腸間膜血流に関連する造影CT検査におけるグレードの膵外進展度に相応した数値上昇を認めた。潰瘍性大腸炎例での計測とI-FABPの小腸粘膜への特異的な分布を考慮すると,急性膵炎に併発する小腸粘膜傷害を直接的に反映していると言える。以上より,I-FABPは急性膵炎時のNOMIの早期診断や病態評価に有用な指標と考えられる。
著者
大石 康介 小泉 貴弘 諏訪 大八郎 井田 勝也 石原 康守 大貫 義則 鈴木 章男 中島 昭人 神谷 隆
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 = Journal of abdominal emergency medicine (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.525-528, 2007-03-31
参考文献数
13
被引用文献数
2

腹部緊急手術後の, 感染による腹壁欠損症例を2例経験した。症例1 : 26歳, 男性。交通事故による左側腹部広範囲挫滅創, 腹腔内臓器損傷に対し緊急手術を施行した。術後, 創周辺に感染, 壊死を起こし, 15&times;10cmの腹壁全層欠損が生じ, Bard Composix Mesh<sup>&reg;</sup> (以下, メッシュ) で欠損部を充填し, 腹壁を閉鎖した。創部感染の収束を待ち, 腹直筋皮弁を用いた腹壁再建術を行い得た。症例2 : 77歳, 男性。閉塞性大腸炎による大腸穿孔をきたし, 横行結腸部分切除, 人工肛門造設を行った。術後, 空腸皮膚瘻による人工肛門周囲の感染を併発し, 同部周囲に腹壁欠損を生じた。人工肛門閉鎖時, 欠損部は5&times;10cmとなり, メッシュで欠損部を覆った。感染収束後メッシュを除去, 閉創を行った。高度感染を伴う腹壁欠損の2症例において, メッシュを用いた二期的再建が有効であった。
著者
坂谷 彰彦 今村 綱男 田村 哲男 小泉 優子 小山 里香子 木村 宗芳 荒岡 秀樹 竹内 和男
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.1023-1026, 2013-09-30 (Released:2014-01-10)
参考文献数
22

要旨:症例は30歳女性。当院受診9日前に強い右季肋部痛が出現し近医を受診。血液検査では炎症所見の上昇がみられたのみで腹部単純CT検査と腹部超音波検査で異常がみられなかったため経過観察とされた。その後,痛みの範囲が腹部全体に拡大したため他院胃腸科を受診し上部内視鏡検査を施行され,婦人科も受診したが痛みの原因は不明であったことから精査目的に当院紹介となった。造影CT検査施行した結果,動脈早期相で肝表面に層状の濃染像を認めたため肝周囲炎を疑い,クラミジアを標的とした抗菌薬投与したところ症状は速やかに改善した。後に膣分泌物クラミジアトラコマチスPCRの結果が陽性と確認されたことからFitz-Hugh-Curtis症候群と確定した。今回われわれは造影CTが診断に有用であったFitz-Hugh-Curtis症候群の1例を経験したことから若干の文献的考察を交えて報告する。
著者
田中 肖吾 石原 寛治 倉島 夕紀子 大野 耕一 山本 隆嗣
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.99-103, 2013-01-31 (Released:2013-04-17)
参考文献数
41

患者は86歳,女性。以前から左鼠径ヘルニアを自覚していたが放置していた。また認知症があり食べ物を飲み込む習慣があった。平成23年10月発熱を主訴に来院。触診上,腹部全体に圧痛および筋性防御を伴っていた。左鼠径ヘルニアは疼痛もなく用手還納は可能であった。血液検査上著明な炎症所見の亢進を認めた。腹部CT像上,わずかな遊離ガスおよび左鼠径ヘルニアを認めたが,穿孔部位は同定できなかった。また異物の描出も認めなかった。汎発性腹膜炎の診断で緊急開腹したところ,Douglas窩膿瘍の中に爪楊枝を認め,左鼠径部に陥入していた小腸に穿孔部位を認めたために小腸部分切除を施行した。術後経過は良好で,術後6日後に鼠径ヘルニア修復術を施行した。その後家人より受診2日前に作った串揚げにつかった爪楊枝と串が数本無くなっていたとの報告をうけ,術後8日後にCTを撮影したところ,盲腸に線状の高吸収域を認めたため遺残異物と診断した。線状高吸収域は術後13日後には横行結腸に移動していた。術後15日後に大腸内視鏡を施行したところ横行結腸に串を認め,摘出した。経過良好で術後22日後に退院となった。異物誤飲に対しては詳細な病歴聴取と術後症状がなくても遺残がないかCT検査を行うことが重要と思われた。
著者
藤原 聡史 福井 康雄 伊達 慶一 齋坂 雄一 上月 章史 尾崎 和秀 中村 敏夫 志摩 泰生 西岡 豊
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.679-682, 2015-07-31 (Released:2015-10-31)
参考文献数
19

症例は84歳女性で高血圧症,関節リウマチ,逆流性食道炎がありcelecoxib,lansoprazoleなど内服中であった。発熱,下痢,血便が出現し,発症から17時間後に前医で腹膜刺激症状を指摘された。腹部単純CTで穿孔性腹膜炎が疑われ,当科に紹介された。腹部CTで結腸脾弯曲部からS状結腸にかけて壁外にair densityを伴う全周性の壁肥厚を認めた。虚血性腸炎による後腹膜穿通と診断し緊急手術を施行した。手術所見では下行結腸壁が菲薄化,穿孔しており,穿通部位を切除しハルトマン手術を施行した。病理組織学的検査でcollagenous colitisと診断された。celecoxib,lansoprazoleの内服を中止し,術後12ヵ月以後再燃なく外来経過観察中である。
著者
大島 稔 赤本 伸太郎 柿木 啓太郎 萩池 昌信 岡野 圭一 鈴木 康之
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.589-592, 2011-03-31 (Released:2011-05-10)
参考文献数
16

症例は30代,男性。刺身を食べた2日後より突然の腹痛を自覚し近医を受診し,加療目的で翌日当院に紹介,入院となった。来院時,激しい腹痛と反跳痛を認めたが筋性防御は認めず,単純撮影でイレウス像を呈していた。CTで腹水の貯留および小腸に限局した壁肥厚と炎症所見を認め,その部位より口側の小腸の拡張を認めた。内ヘルニアなどによる小腸の絞扼性イレウスの他に,画像所見より小腸アニサキス症を疑い,緊急手術を施行した。開腹所見で中等量の腹水を認め,回盲部から100cm口側の小腸壁に点状の発赤と浮腫,肥厚を認めた。同部をイレウスの原因と判断し,小腸部分切除術を施行した。切除腸管の粘膜内に刺入した線虫を認め,小腸アニサキス症と診断した。小腸アニサキス症はまれな疾患であり,一般的に術前診断は困難である。しかし,腸閉塞の鑑別疾患として絞扼性イレウスなどが考えられる場合は時期を逸することなく手術を検討することが重要である。
著者
小林 慎二郎 瀬上 航平 三浦 和裕 四万村 司 櫻井 丈 小泉 哲 牧角 良二 月川 賢 宮島 伸宜 大坪 毅人
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.595-598, 2011-05-31 (Released:2011-07-12)
参考文献数
21
被引用文献数
5

膿瘍形成性虫垂炎に対する緊急手術では拡大手術移行の可能性や合併症発生率が高い。当院では2008年から膿瘍形成性虫垂炎に対して保存的治療で膿瘍を沈静化させ手術希望があれば約3ヵ月後に虫垂切除を行うinterval appendectomy(以下,IA)を行っている。膿瘍形成性虫垂炎32例について検討した。32例中29例(91%)が平均17.2日の入院期間で保存的治療に成功した。29例のうち,手術希望のあった16例に対してIAを施行した。16例のうち14例(87.5%)が腹腔鏡下虫垂切除術を完遂した。手術症例16例における平均手術時間は96分で,手術時平均入院期間は9.4日であった。また手術症例において合併症の発生は1例も認めなかった。総入院日数が長いことが課題であるが,拡大手術移行が少なく,合併症もない本治療方針は膿瘍形成性虫垂炎に対して有効であると考えられた。
著者
箕輪 啓太 高階 謙一郎 下村 克己 亀井 武志
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.723-726, 2016-05-31 (Released:2016-11-30)
参考文献数
15

腹痛・嘔吐を主訴に当院を受診し,胆石イレウスと診断された3例を経験したので報告する。症例1は78歳,男性。腹痛を主訴に他院を受診し,CTにて回腸に最大径4.0cmの結石を指摘された。手術目的に当院転院搬送され,胆石除去術を施行した。症例2は69歳,男性。消化器内科にて胆囊十二指腸瘻で通院中。嘔吐・腹痛を主訴に救急外来を受診し,CTにて最大径4.0cmの結石を指摘され,胆石除去術を施行。症例3は57歳,女性。嘔吐と間欠的な腹痛を主訴に救急外来を受診した。CTにて胆囊内に胆石1個,回腸内に落石胆石1個認めた。胆石イレウスに対して胆石除去術を施行した。第6病日に再び胆囊内の胆石が落石し,再び胆石イレウスが出現したために同日緊急手術を施行した。3症例ともに,胆石除去術のみで胆囊十二指腸瘻の根治術はせず外来通院にて経過観察となった。
著者
山田 秀久
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.767-771, 2013-05-31 (Released:2013-07-26)
参考文献数
29

要旨:症例は84歳男性で脳梗塞,心筋梗塞後のためワルファリンカリウムとアスピリンの抗凝固療法を受けていた。2日前から腹痛,血便を認め近医を受診し,前月までPT─INRは1.59と管理されていたが,16.11と異常高値を認め当院紹介となった。腹部CTでは小腸壁と腸間膜の肥厚,腹腔内液体貯留を認め,急激な凝固能低下によって発症した小腸壁内および腸間膜内血腫と診断した。凝固能改善目的にビタミンK投与,新鮮凍結血漿,赤血球,血小板輸血を行いPT─INRは3.43に低下したが,腹痛増強と血圧低下を認め入院6時間後に緊急開腹術を行った。小腸全体にわたって散在性に壁内出血を認め,血腫により血流不全になっていた部分のみ切除した。抗凝固療法中の消化管壁内血腫に対しては凝固能改善の後,全身状態が安定していれば保存的治療が第一選択となるが,改善がみられない場合は迅速に外科的治療を判断すべきと考える。
著者
蒔田 覚 加藤 済仁
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.713-718, 2006-09-30 (Released:2010-09-24)
参考文献数
7
被引用文献数
1

救急医療の特徴として, (1) 説明のための時間的余裕がないこと, (2) 患者が意識障害を伴っている場合も多いこと, (3) 患者との間に基礎となる信頼が構築されていないこと, などがあげられる。インフォームドコンセントの重要性は論を待たないが, 救急医療において最も重視されるべきは「患者の生命」である。紛争を恐れるあまり, 適切な治療の機会を失うことがあってはならない。医師として判断に迷う場合には, 医療水準に則った治療を心がけることが肝心である。
著者
亀田 徹 高橋 功
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.587-593, 2012-03-31 (Released:2012-06-11)
参考文献数
14

【目的】付属器疾患に対する携帯型装置を用いた経腹超音波検査(携帯経腹超音波)の有用性の検討。【対象と方法】下腹部痛を主訴に救急外来を受診した15~50歳の女性患者で携帯経腹超音波を施行された46例のうち,救急外来で確定診断がなされたか,後に専門外来を受診した32例について検討した。【結果】32例中付属器疾患は15例でその内訳は,出血性卵巣嚢胞5例,卵巣腫瘍4例,内膜症性嚢胞3例,卵管妊娠1例,卵管留膿腫1例,付属器炎1例であった。婦人科手術は9例に行われたが,そのうち8例(89%)は携帯経腹超音波で付属器病変,もしくは腹腔内出血を指摘できた。付属器疾患に対する携帯経腹超音波の精度は,感度87%,特異度94%,正確度91%であった。【結語】救急外来において携帯経腹超音波は付属器疾患の存在診断に有用で,婦人科以外の医師が利用する価値のある検査と考えられるが,その確証を得るにはさらなる検討が必要である。
著者
里村 仁志 佐々木 欣郎 室井 大人 高橋 雅一 勝又 大輔 山口 悟 中島 政信 加藤 広行
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.837-840, 2014-05-31 (Released:2014-12-19)
参考文献数
14

2010年4月から2013年3月までにシートベルトに起因する鈍的腸管・腸間膜損傷を6例経験した。損傷部位は十二指腸が2例,小腸間膜損傷に小腸損傷を伴うものが2例,小腸間膜損傷のみのものが2例であった。十二指腸穿孔の2例はいずれもBMIが低いため,シートベルトと脊椎に十二指腸水平脚が圧迫されて,内圧が急激に上昇したため穿孔したものと考えられた。腸間膜のみの損傷であった2例はシートベルトに直接圧挫されて間膜が裂傷を負ったものと思われた。腸間膜損傷に腸管の離断や穿孔が伴っていた2例は前述したメカニズムの複合による受傷と類推された。3例に開腹歴を認め腹腔内での癒着,組織の硬化が腸管・腸間膜損傷に影響した可能性が示唆された。シートベルト損傷はベルト痕を含めた腹部の視触診やFAST,CTなどの画像診断に加えて,開腹歴やBMI等も考慮して慎重に診断する必要があると思われる。
著者
吉川 健治 外山 和隆 戸口 啓介 山口 拓也 平林 邦昭
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.713-716, 2011-07-31 (Released:2011-09-14)
参考文献数
14
被引用文献数
1

絞扼性イレウスでは,高率に腹水が出現する。今回,絞扼性イレウスにおける腹水が腸管虚血がどの程度進行した段階で生じるのかを明らかにする。対象と方法:緊急開腹手術が施行された絞扼性イレウス20例を6例の壊死群,14例の非壊死群に分け,以下の項目を比較検討した。1.両群の初診時の腹水の出現率 2.SIRS陽性率 3.血液生化学的検査値(CRP,PK,LDH)異常の出現率。結果:SIRS陽性率,血液生化学的検査値の異常値出現率のいずれも壊死群,非壊死群で有意差は認めなかった。SIRS陽性率は壊死群33% 非壊死例21%であった。一方,腹水出現率は壊死群100%,非壊死群で86%であった。結語:絞扼性イレウスにおける腹水の出現は,腸管壊死前でさらにSIRS項目,血液生化学的異常値が出現する以前に出現すると考えられる。
著者
山本 博崇 高橋 善明 渡部 広明 松岡 哲也
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.661-665, 2013-03-31 (Released:2013-06-07)
参考文献数
11

症例は60歳代,男性。塩酸を内服し,救急搬送となった。精査にて腐食性食道・胃・十二指腸炎,重症急性膵炎,溶血性貧血と診断し,ICUにて集中治療を行った。膵炎と溶血性貧血は大量輸液,ハプトグロビン,膵酵素阻害剤,抗潰瘍薬の投与を行い改善したが,食道と幽門の瘢痕狭窄が徐々に進行した。第149病日には幽門の完全閉鎖を認めたが,経過中に重度の肺線維症を併発したため根治術を断念し,胃空腸吻合術を施行した。しかし,その後も瘢痕狭窄は進行し,第302病日には食道の完全閉鎖を認めた。塩酸内服後の消化管瘢痕狭窄に対する手術や内視鏡治療は6ヵ月後以降に行うべきとされているが,本症例のように10ヵ月まで狭窄が進行する症例も存在するため,瘢痕狭窄に対する治療も10ヵ月以降まで延期すべきである。また,手術術式は消化管障害の範囲と程度,および全身状態に左右されるため,初期の全身管理も重要である。