著者
富永 哲郎 和田 英雄 古川 克郎 黨 和夫 柴崎 信一 岡 忠之
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.1087-1091, 2011-11-30 (Released:2012-01-27)
参考文献数
26

症例は71歳,男性。腹痛を主訴に当院を受診した。腹部CT検査で腹腔内出血と上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:以下,SMA)の閉塞を認め,腹部血管撮影検査を施行した。右結腸動脈からの出血がみられ,コイル塞栓術にて止血した。また,SMAは回結腸動脈(iliocecal artery:以下,ICA)の起始部で閉塞していた。形状からSMAの解離が疑われ,血行再建術が必要と判断し手術を施行した。開腹所見では,回腸末端から上行結腸にかけての色調が不良であった。ICA内腔を確認すると塞栓を認めたため,塞栓除去術を施行した。その後,ICA末梢の血流は再開し腸管の色調が改善したため,腸管切除術を行わずに手術を終了した。術後は,大きな合併症を認めず退院した。しかし,3ヵ月後に腸閉塞症で再入院し,右半結腸切除術を施行した。回腸末端から上行結腸は,瘢痕化し狭窄していた。腸間膜動脈塞栓症に対する塞栓除去術後は,虚血に伴う腸管狭窄を念頭に置いた厳重な経過観察が重要である。
著者
村岡 孝幸 大橋 龍一郎 徳毛 誠樹 岡 智
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.885-889, 2009-09-30 (Released:2009-11-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

包丁の自傷行為による胃前後壁刺創の2例を経験した。2例とも受傷直後に搬入され,dynamic CT動脈相で胃損傷部位からの造影剤血管外漏出を認めた。緊急開腹術を施行したところ,胃前後壁を貫通した全層性刺創で,損傷部を修復した。術後経過は良好であった。刺創症例の開腹基準に関して種々の検討がなされてきたが,近年ではCTの有用性を示す報告が目立つ。自験例では造影剤の血管外漏出の他にも網嚢内に液体の貯留を認めたことが損傷部位同定の一助となった。また2例とも腹壁創と臓器損傷部位が近接していなかったが,これは受傷時とCT撮影時の体位の相違によるものと考えられた。体位による臓器の移動を念頭におくことでより正確な術前診断が可能になる。
著者
斎藤 人志 田中 弓子 吉谷 新一郎 小坂 健夫 喜多 一郎 高島 茂樹
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.1015-1021, 2004-09-30 (Released:2010-09-24)
参考文献数
13
被引用文献数
4

絞拒性イレウスに対する術前診断は必ずしも容易ではないが, 最近の腹部超音波検査 (US) やCT, およびMRIなど種々の画像診断法の進歩, 普及により術前の正診率が著しく向上してきている。なかでもUSの診断上の利点としては, (1) 前処置なしに簡便に行えること, (2) 非侵襲的であること, (3) 繰り返し行えること, (4) 腸管の壁や内容および蠕動運動など腸管の情報とともに, 腹水の有無など腹腔内の情報がリアルタイムに得られること, (5) 任意の断面で観察できること, などがあげられる。とくにリアルタイムで情報が得られることから絞拒性イレウスと単純性イレウスの鑑別診断には極めて有用である。絞拒性イレウスのUS診断上の所見としては, 腸管壁の肥厚, 腸管の蠕動運動の消失, 高エコーを示す腸管内容, 腹水, 腸管壁内ガス像, およびpseudotumor signなどがあげられる。しかし, 施行者の技量や腸管内ガスの量により得られる情報量が大きく左右されることも事実である。したがって, より正確な診断のためには理学的所見はもとより, CTなど他の画像診断との併用による総合的な判断が重要になることはいうまでもない。本検査法を積極的に活用し, 経験を重ねていくことが重要であることを強調したい。
著者
宇野 能子 中島 紳太郎 阿南 匡 衛藤 謙 小村 伸朗 矢永 勝彦
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.127-132, 2014-01-31 (Released:2014-07-30)
参考文献数
52

症例は48歳の女性で急激な腹痛を主訴に発症から2時間後に当院に搬送された。来院時,全腹部で腹膜刺激症状を認め,腹部造影CTで十二指腸水平脚の欠如と,右上腹部の前腎傍腔へ脱出する拡張腸管を有する囊状構造と上腸間膜静脈の左方移動を認めた。造影効果不良な小腸の広範な拡張も伴っており,右傍十二指腸ヘルニア嵌頓に合併した小腸軸捻転による絞扼性イレウスと診断して発症より5時間で緊急開腹術を行った。術中所見で下十二指腸窩をヘルニア門として空腸起始部より約50cm肛門側から90cmにわたる空腸が脱出しており,さらに小腸は約270度捻転していた。虚血に陥った範囲は嵌頓した小腸より肛門側190cmまでの全長260cmにわたっていた。壊死腸管を切除・吻合し,ヘルニア門を吸収糸で閉鎖して手術を終了した。以上,右傍十二指腸ヘルニア嵌頓と小腸軸捻転よる絞扼性イレウスの1手術例を経験したので報告する。
著者
境 雄大 須藤 泰裕
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.903-906, 2007-09-30 (Released:2008-08-29)
参考文献数
8
被引用文献数
4

極めてまれな胆汁漏出による腹膜炎の1例を報告する。症例は89歳, 男性で, 汎発性腹膜炎の診断で入院した。腹部CTで肝右葉から胆嚢周囲の液体貯留と胆嚢の虚脱を認めた。超音波ガイド下の腹腔穿刺で胆汁性腹水が採取され, 胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎と診断し, 緊急開腹術を行った。右上腹部に胆汁性腹水が貯留していた。胆嚢底部に壁の菲薄な部位を認めたが, 穿孔は不明であった。胆嚢以外に胆汁漏出の原因はなく, 胆嚢摘出術を行った。胆嚢底部に径1.3cm大の類円形の粘膜欠損があり, 病理組織学的に全層性の出血と壊死がみられた。胆嚢内に結石を認めなかった。採取した胆汁から細菌は検出されなかった。術後は多臓器不全に陥ったが, 第35病日に退院した。病理組織学的所見より胆嚢壁壊死部からの胆汁漏出が原因となった胆汁性腹膜炎と診断した。胆嚢壁壊死の原因として動脈硬化による循環障害が考えられた。
著者
箸方 紘子 島田 謙 山本 公一 朝隈 禎隆 片岡 祐一 相馬 一亥
出版者
Japanese Society for Abdominal Emergency Medicine
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.1251-1254, 2012

患者は61歳,男性。大量飲酒後自宅屋外階段から転落し近医に搬送された。同院での腹部CTで腹腔内出血が疑われ,当院救命救急センターに転送された。検査上,胆嚢損傷,contusionと診断,保存的治療を選択した。第5病日に腹膜刺激症状が出現し,腹部造影CTで遅発性胆嚢穿孔(laceration)を疑い緊急開腹手術を施行した。開腹所見では胆汁性腹水がみられ胆嚢摘出術と術中胆道造影を施行したが胆嚢穿孔や胆管損傷はみられずいわゆるtraumatic BPWORと診断した。胆汁性腹膜炎は胆嚢粘膜剥離による胆汁の浸み出しが原因と考えられた。胆嚢は解剖学的位置関係から損傷を受け難いとされている。本症例では泥酔状態による腹壁緊張の低下に加え,転落時に十分な防御姿勢がとられなかったことが推測され,さらに飲酒後で胆嚢の緊満やOddi括約筋緊張亢進により胆嚢・胆管内圧上昇が胆嚢損傷に影響したものと考えられた。
著者
山川 一馬 相原 守夫 小倉 裕司
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.787-793, 2014-05-31 (Released:2014-12-19)
参考文献数
8

近年,日本初の敗血症診療に関するガイドライン『日本版敗血症診療ガイドライン』が報告されたが,世界的な敗血症診療のスタンダードであるSurviving Sepsis Campaign Guideline(以下,SSCG)とはいくつかの項目において異なる推奨を提示している。ガイドライン間における推奨の乖離は,推奨の策定方法に起因するものであると考えられる。SSCGではGRADEシステムに準拠してエビデンスの質評価と推奨度を設定している。一方,日本版敗血症診療ガイドラインでは推奨の表記方法は,推奨度とエビデンスの質からなり,一見GRADEシステムに類似しているものの,その設定基準は大きく異なっている。本稿では,日本版敗血症診療ガイドラインについてIOM基準に従って評価するとともに,曖昧な推奨作成プロセスがガイドライン利用者の混乱をもたらす可能性がある具体例をあげ,その解決策について検討した。
著者
樋口 裕介 谷川 祐二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.1159-1165, 2016-11-30 (Released:2017-03-18)
参考文献数
19

大腸憩室出血に対する内視鏡的止血術として,Endoscopic Band Ligation(EBL)の有用性を後方視的にクリップ法と比較検討した。対象は内視鏡下に活動性出血または露出血管を同定し,EBLを施行した37例とクリップ法を施行した11例。入院期間はEBL6.6日,クリップ法11.5日。輸血はEBL群37.8%に平均2.2単位,クリップ法群54.5%に平均3.6単位投与した。EBL後81%で憩室は消失した。再出血率はEBL後5.4%,クリップ法後36.4%で,入院医療費はEBL375,570円,クリップ法617,060円と有意差を認めた。EBLは憩室の消失により再出血率が低く,短い入院期間による医療費削減効果があり,有用である。
著者
山崎 洋次
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.873-881, 2008-11-30 (Released:2009-01-06)
参考文献数
26

高木兼寛は,脚気の撲滅で名高いが,脚気予防策として麦飯を推奨したことと,男爵を授爵されたことから「麦飯男爵」と呼ばれた。高木兼寛は嘉永2年(1849年)日向国東諸県郡穆佐村(現在の宮崎市高岡町合併特例区)で生まれた。明治5年,海軍軍医となり,明治8年ロンドンのセント・トーマス医学校に留学した。帰国して間もない明治14年,成医会講習所を設立した。この成医会講習所はいくつかの変遷を経て,大正10年,大学令による東京慈恵会医科大学へと発展した。高木は明治17年から海軍の食料改善(窒素:炭素比の改善)に乗り出し,明治18年から海軍においては脚気をほぼ駆逐した。明治27年,日清戦争が始まったが,麦飯を堅持した海軍では一人の脚気患者も出なかったが,陸軍からは多数の脚気患者が出た。明治18年,高木は軍医の最高位である海軍軍医総監に任命された。その年,高木は看護婦教育所を開設しているが,これはわが国最初の看護学校である。明治25年,貴族院議員に勅選された。明治34年には東京市会議員に当選,明治38年,華族に列せられ男爵を賜り,大正9年,72歳の生涯を閉じた。
著者
宗本 義則
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.965-970, 2013-09-30 (Released:2014-01-10)
参考文献数
20

要旨:大腸穿孔は予後不良の疾患である。1991年1月から2013年4月までに当科で経験した大腸穿孔症例143例に対し患者背景,病態,予後などを検討し当院での治療戦略が妥当か,予後不良群の特定ができるか検討した。術後28日までの死亡例は22例(15.2%)であった。男性8例,女性14例,平均年齢は79歳(44歳~96歳)であり,既往並存疾患が20例(90.5%)であった。生存群と比較して,女性,高齢者(80歳以上),何らかの既往歴があり,穿孔原因が特発性,虚血性,穿孔部位が右側結腸,ショックをともなっている,および術後に人工呼吸器が必要になるような肺合併症がある症例の予後が不良であることが分かった。多変量解析では年齢,ショックの有無,穿孔部位,既往歴,虚血性の項目に有意差がみられ,なかでもショックの有無が予後に最も関与していた。予後不良群に対しては,今後抗ショック療法やPMX-DHPなどのさらなる集中治療が必要である。
著者
丹羽 浩一郎 佐藤 浩一 杉本 起一 伊藤 智彰 折田 創 櫛田 知志 櫻田 睦 前川 博 坂本 一博
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.1005-1011, 2013-09-30 (Released:2014-01-10)
参考文献数
14

要旨:大腸穿孔の成因と治療成績,および予後予測因子について検討を行った。過去17年間に当院で緊急手術を施行した大腸穿孔182例を対象とした。死亡例は38例(死亡率:20.8%)であった。穿孔原因別に救命群と死亡群の2群に分けて検討した。大腸穿孔の原因として憩室(44.0%),大腸癌(30.2%),特発性(8.2%)の順に多かった。憩室,大腸癌を原因とする大腸穿孔では,多変量解析でAPACHIIscoreが独立した予後予測因子であった(それぞれp=0.002,p=0.038)。憩室を原因とする大腸穿孔では,APACHIIscoreが20点以上で死亡率85.7%と有意に高く(p<0.0001),また大腸癌を原因とする大腸穿孔では,APACHIIscoreが18点以上で死亡率75.0%と有意に高くなった(p<0.0001)。各症例の重症度を評価し,治療戦略を立てる際には,APACHEIIscoreが指標になる可能性が示唆された。
著者
寺井 恵美 佐々木 愼
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.757-760, 2014-03-31 (Released:2014-09-29)
参考文献数
28

症例は65歳,男性。下腹部痛を主訴に当院を受診した。腹部CT検査で虫垂の腫大と壁肥厚を認めたほか,ぶどうの房状の形態を呈し憩室の多発が疑われた。周囲脂肪濃度は上昇しており,虫垂憩室炎の診断のもと緊急手術を施行した。虫垂は腫大し,多発した憩室の一部が穿孔していた。検体を用いた造影検査により穿孔を伴う複数の憩室を同定した。病理組織学的にも虫垂憩室炎と診断され,穿孔した憩室も含め全て仮性憩室であった。虫垂憩室炎は穿孔率が高く,有症状で虫垂憩室を伴う虫垂炎あるいは虫垂憩室炎は症状の程度にかかわらず保存的治療ではなく手術を検討すべきであると考えられているが,その一方で術前に虫垂憩室を診断するのは困難である。今回われわれは術前に診断しえた虫垂仮性憩室炎穿孔の1症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
著者
佐々木 妙子 亀山 哲章 冨田 眞人 三橋 宏章 松本 伸明 大渕 徹 吉川 祐輔
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.1227-1230, 2012-11-30 (Released:2013-03-08)
参考文献数
9

鼠径部ヘルニアは比較的頻度の高い良性疾患だが,嵌頓し絞扼すると生命に関わることがある。今回当院で手術を施行した鼠径部ヘルニア嵌頓例を検討し,嵌頓例への対応を考察したので報告する。2007年1月から2011年6月までの当院で手術を施行した鼠径部ヘルニアは586例であり,このうち嵌頓例は37例(6.3%)であった。診断内訳は外鼠径ヘルニア23例(62.2%),内鼠径ヘルニア2例(5.4%),大腿ヘルニア11例(29.7%),不明1例(2.7%)であった。緊急手術を要した例は31例(83.8%)で,このうち臓器切除を要した例は11例(35.5%)で,腸管切除が7例,大網切除が4例であった。嵌頓例37例のなかで自覚症状発現から来院まで1日以上経過している例が17例(46.0%)存在した。医療者は急性腹症の原因にヘルニア嵌頓がないかを確認すること,また嵌頓時には速やかに受診するように啓蒙していく必要がある。
著者
三浦 弘志 堂脇 昌一 菊永 裕行 熊井 浩一郎
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.161-165, 2015-01-31 (Released:2015-05-13)
参考文献数
19

症例:82歳,女性。腹痛持続で当院緊急搬送され,ショック状態・貧血を認め,腹部CTで肝外側区域の肝細胞癌破裂と血性腹水貯留の診断でTranscatheter Arterial Embolization(以下,TAE)施行し止血を行った。高齢と本人が二期的治療を望まない理由で保存的観察となった。その後肝細胞癌は縮小傾向で腫瘍マーカーも低下し,当院での経過観察上4年4ヵ月再発なく5年7ヵ月生存している。肝細胞癌破裂においてはTAEでの初回止血と二期的手術との併用により生存率向上が得られるという報告が多いが,今回TAEのみで止血に成功し二期的治療を行わず腫瘍退縮が得られている1例を経験した。
著者
清水 哲也 水口 義昭 吉岡 正人 松下 晃 金子 恵子 川野 陽一 勝野 暁 神田 知洋 高田 英志 中村 慶春 谷合 信彦 真々田 裕宏 横室 茂樹 内田 英二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.79-85, 2016-01-31 (Released:2016-04-26)
参考文献数
19

ERCPは胆膵疾患の診断に不可欠な手技となり,ERCPを応用したさまざまな手技が活用されている一方,ERCPの偶発症は重篤化しやすく慎重を要す手技である。ERCP合併症の中でも後腹膜穿孔は死亡率が高く,その診断と対処が重要である。1999年1月から2015年5月までのERCP自験例 4,076例のうちERCPの後腹膜穿孔を10例(0.25%)に認め,その原因と対応を検討した。穿孔部位は,乳頭部3例,胆管3例,膵管2例,十二指腸2例であり,原因は,乳頭部穿孔ではEST,胆管穿孔では砕石処置具の挿入,膵管穿孔ではカテーテル操作,十二指腸穿孔では内視鏡の挿入による損傷であった。後腹膜穿孔を疑う際にはENBDや胃管で減圧しCTで後腹膜穿孔の重症度を確認する。CTで後腹膜に液体貯留を認め,かつ発熱や疼痛のある症例は緊急手術を行う。後腹膜気腫のみ,もしくは少量の液体貯留のみで無症状の症例は保存的加療を行い経時的に疼痛や液体貯留をフォローし,所見の悪化がある際は緊急手術を考慮する。
著者
佐藤 篤司 桑原 義之 篠田 憲幸 木村 昌弘 石黒 秀行 春木 伸裕 杉浦 弘典 田中 直 藤井 義敬
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.607-612, 2004-03-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
20

1992年1月から2002年12月までのステロイド投与患者に対する腹部救急手術18例を対象とした。ステロイド投与適応疾患は関節リウマチ7例, 進行性全身性硬化症+皮膚筋炎1例, 全身性紅斑性狼瘡1例, 悪性リンパ腫2例, 骨髄性白血病2例, 再生不良性貧血1例, 潰瘍性大腸炎2例, 急性呼吸循環不全1例, 脳外科手術後1例であった。1日平均ステロイド投与量はprednisoloneに換算して54.5mg, 平均投与期間は41.9ヵ月, 平均総投与量は10.9gであった。術後合併症は, 14例 (77.8%) にみられ, 創部感染, 縫合不全, MOF, DICなどであった。在院死亡を6例 (33.3%) に認めた。ステロイド投与患者では合併症を起こしやすいことから, 原疾患の活動性, ステロイド投与歴を十分把握した上で腹部救急疾患の治療を行うことが重要と思われた。
著者
和久 利彦
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.169-172, 2016

症例は26歳,女性。自転車同士の衝突の際,ハンドル先端で上腹部を強打した。増強する上腹部痛で受傷4時間後に救急搬送された。腹部全体の圧痛,上腹部の腹膜刺激症状,血中アミラーゼ高値,腹部CTでの液体貯留,膵体部の30mm大の高吸収域から主膵管損傷を疑い,受傷6時間後に緊急手術を施行した。膵体部でⅢb型の膵損傷を呈していたが,他臓器に損傷は認めなかった。術式は,膵脾機能温存を図るためBracey法を選択した。術後は,縫合不全や膵液瘻もなく経過し,第28病日目に退院した。術後8年目の現在,膵内外分泌能に異常はなく,尾側膵管の開存性は保たれていると考えられた。バイタルが安定したⅢb型膵体部損傷の術式として,Bracey法も安全な術式であると考えられる。
著者
山下 貴司 卜部 憲和
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.1441-1444, 2014-12-31 (Released:2015-04-02)
参考文献数
9

34歳男性が左前胸部上部刺創で救急搬送された。諸検査で左血気胸,左横隔膜損傷ならびに横隔膜ヘルニアの診断となり,腹腔内臓器損傷は否定的であった。循環動態は安定しており,準緊急手術で対応可能と判断され,搬入後17時間で手術が行われた。手術所見では肺損傷は存在せず,胃穿孔が認められた。横隔膜は経胸的に縫合され,経腹的に胃損傷を修復した。十分に洗浄して閉創とし,術後に膿胸,腹腔内感染の発症はなく軽快退院した。昨今系統的な外傷診療が普及しても,体表の損傷状況から,ある程度の範囲の損傷が想定される場合は,体表受傷部位を中心とした診療となり,遠隔部位の損傷判断は疎かになりがちである。胸部穿通性外傷において横隔膜ヘルニアが存在する場合には,腹腔内臓器損傷は高率に起こり得て,消化管内容物が胸腔内へ漏出すると重症化する可能性が十分あるため,緊急手術に踏み切るべきであった。
著者
松田 真輝 澤野 誠 大河原 健人
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.321-323, 2015-03-31 (Released:2015-06-11)
参考文献数
9

劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症は,敗血症から死亡することも多い重篤な疾患である。今回,骨盤内炎症性疾患 (以下,PID)を呈した本疾患例を経験した。症例は58歳女性で,敗血症性ショックを伴うPIDの診断で当院転院となった。WBC 18,800/μL,CRP 51.5mg/dLと顕著な炎症所見を認め,急性腎不全も併発していた。造影CTでは子宮附属器の炎症所見ならびに少量の腹水を認めた。開腹所見では,骨盤内臓器および後腹膜の著明な炎症を認めた。その後もショック状態の改善はなく,劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症の可能性が高いと判断した。後腹膜開放ドレナージ術を追加し持続的血液濾過透析も開始したが,入院後43時間で死亡した。後に腹水および膣培養からStreptcoccus pyogenesが検出された。PIDと判断した症例でも,敗血症など重篤な経過を辿る場合は本疾患を考慮する必要があると考えられた。
著者
吉松 軍平 坂田 直昭 山内 聡 赤石 敏 藤田 基生 久志本 成樹 海野 倫明
出版者
Japanese Society for Abdominal Emergency Medicine
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 = Journal of abdominal emergency medicine (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.989-992, 2012-07-31

70歳代,男性。35%過酸化水素水100mLを誤飲し,頻回の嘔吐と腹部膨満が出現。30分後,当院に搬送。右下腹部の圧痛を認めたが腹膜刺激症状は認めなかった。腹部CT検査で胃結腸間膜内と肝内門脈に気腫像を認め,上部消化管内視鏡検査で下部食道から胃大弯側全体に著明な発赤腫脹とびらんを認めた。過酸化水素水誤飲による上部消化管粘膜障害と門脈ガス血症が考えられたが,腹膜炎の所見はなく,意識障害や神経症状などの脳塞栓の症状を疑わせる所見も認めなかったため,絶飲食下で,プロトンポンプインヒビターとアルギン酸ナトリウムの投与を行った。腹部症状は速やかに改善し,誤飲24時間後のCTで門脈ガスは消失していた。水分/食事摂取を開始したが症状悪化はなく,入院後5日目に退院となった。過酸化水素水誤飲による門脈ガス血症は消化管穿孔を認めなければ保存的治療が可能であるが,脳塞栓などの塞栓症の前段階であり十分に注意して観察する必要がある。