著者
小泉 祐貴子
出版者
Japanese Institute of Landscape Architecture
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.439-444, 2008

This is a basic research reflecting upon the structure of the fragrance experienced in the traditional Japanese gardens. The author calls the landscape experienced through fragrance "the Scent-scape". The structure of the Scent-scape was investigated through the studies of all the sceneries described in "the Tale of Genji". Although the incense from inside the house has often been the subject for the former studies, the Scent-scape is the unique aspect of this study. It deals not only with the subjective (sensory) aspects of the fragrance, but also with the objective (physical) aspects and the integration of the two. From this research, it was clarified firstly that the nobles in the Heian era already appreciated the fragrance of the currently popular garden plants such as Ume (Prunus mume), Tachibana (Citrus tachibana), Fuji (Wisteria floribuda), and five other species. Secondly, they appreciated the scent of garden plants together with their physical aspects such as colors, shapes. These plants are placed in close distances from the buildings. Lastly, wind played an important role to integrate the two aspects by often maximizing the experience through embracing the scent of plants that is often strongly associated with their special memories of the past.
著者
下村 泰彦 増田 昇 山本 聡 安部 大就 酒井 毅
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.173-176, 1996-03-29
被引用文献数
2 1

本研究では,都市河川空間をシークエンシャルな景観として捉えるために,CGによるアニメーションモデル画像を橋上,水上,水際の3視点場について作成した。これらの画像を刺激媒体とした心理実験を通じて,今後のスーパー堤防化を想定した空間整備に関する課題と方向性を探ることを目的とした。その結果,視点場の違いにより景観性の評価は異なり,橋上景観ではマクロな,水上景観ではシークエンシャルな,水際景観ではミクロな景観構造が重要であること。都市の魅力や活気性といった観点からは階段護岸形態が望ましいこと。安らぎや潤い性といった観点からは緩傾斜護岸形態に低木等の自然要素の導入が望ましいこと等が明らかとなった。
著者
高橋 理喜男
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.413-416, 1997-03-28
被引用文献数
3

明治初年に計画された札幌は,格子状の街区パターンをもち,その中に広幅員の大通(火防線)を設定した。それが現在の大通公園である。この大通計画の目的は二つあった。市街地を大きく官地と民地に分け,両者の空間的分離を図ること。同時に,民地から頻発する火災による官地への延焼防止の役割を担わせることにあった。この大通火防縮の計画は,都市火災の予防という観点から,近代的都市計画としての評価を受けてきたけれども,支配,被支配の構造が色濃くあらわれている近世城下町的な都市計画の論理を踏襲していることは,角館や大野の事例からも明らかである。
著者
中尾 裕介
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.379-384, 2001-03-30
被引用文献数
1

東アジア原産のツタは現在では西洋に広く普及している為,西洋的なイメージを持つに至り,日本的なイメージはやや希薄になっている。本稿では,ツタが日本では古来がどのように観賞されてきたのかを明らかにすることにより,その来歴に応じた重層的な,豊かなイメージの形成に資することを目的として,古典和歌に詠まれたツタが,どの様な視点から観賞されているかを分析した。その結果,植物自体の特性を観賞する視点,他の植物と対比して観賞する視点,植物の繁茂している場に関連した観賞の視点,特定の土地と関連した観賞の視点という4つの類型について,観賞の視点を明らかにすることが出来た。
著者
長友 大幸 丸田 頼一 近江 慶光 柳井 重人 松原 秀也
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.265-268, 1995-03-31
被引用文献数
7 3

都市における巨樹の保護のあり方を検討することを目的に,個人所有の巨樹を取り上げ,研究を行った。調査地は,東京都区部にあり,住居系の土地利用が多く,個人所有の巨樹が残存する民有地数が多いということから,世田谷,杉並,練馬および板橋区を選定した。巨樹の所有者にアンケートにより,その意識を調べた結果,所有者は落葉による季節感や木陰を巨樹の利点としてとらえ,先祖代々受け継がれてきた地域の共有財産として保護していきたいと考えていた。しかし,落葉の処理および枝の剪定などの維持管理上の負担が問題点となっており,これらの問題点に対する実際的な労力の提供を,区が積極的に行っていく必要があるものと考えられた。
著者
中間 大維 熊谷 洋一
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.771-774, 2003-03-31
被引用文献数
1

This study aims at clarifying how the plunder of marine resources occurs in the Galapagos Islands, where recently, the plunder by local fishermen has become a big problem. It also tries to gain knowledge of what sustainable ecotourism should be like, for the benefit of future development of this type of tourism. The result from the questionnaire and interviews to the local and selected people show that, even though a large number of people immigrated to the Islands expecting to get a job in the tourism industry, in reality they only found the weak linkage between the tourism and the local, which does not supply them with much opportunity to work in the tourism industry. Thus, they had no choice but to become fishermen, which causes the plunder of marine resources. In contrast, other 3 sites chosen for comparison show the strong social and economical relationships between the sites and the locals and no signs of plunder. From this study, it is clear that in order to make ecotourism sustainable, it is essential not only to control the environment and nature strictly, but also to build strong social and economical linkage between the local and the tourism industry.
著者
小野 佐和子
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.361-366, 2000-03-30
被引用文献数
1

大和郡山藩主柳沢信鴻が致仕の後記した『宴遊日記』をもとに,安永・天明期の六義園での庭見物の様相を明らかにする。六義園では,家臣とその家族,奉公人とその親族,信鴻と交友関係にある者,さらには信鴻と直接関係のない部外者の庭見物が認められる。部外者は,藩の関係者を仲介に庭を見物し,その数は,安永9年(1780)以降著しく増加する。その理由としては信鴻が菊花壇を設けて見物を誘ったことと,当時の郊外の遊覧の盛況が考えられる。様々な人が見物に訪れる庭は,外部に閉じた構造をもつ大名屋敷が,外部の人々を導きいれ,外部社会と交わる装置の役割を果たしたと考えられる。
著者
飛田 範夫
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.427-430, 2001-03-30

江戸時代の庭園に使われている庭石の販売経路,燈籠・蹲踞などの石造品の製作と販売経路については,不明な点が多い。大坂について史料を調べてみると,石材の運搬に便利なように西横堀と長堀,東横堀(松屋町筋)の堀割り沿いに,多くの石屋が分布していたことがわかる。庭石は各地の名石,石材としては御影石・竜山石・和泉石などが搬入され,原石あるいは加工品が再び各地に販売されている。高野山などに残存する石造品の刻銘からも,大坂の石屋の活動を知ることができる。賃金・労働時間・販売などについても問題は多かったが,既得の権利を守るために明和7年(1770)には,石問屋株仲間と切石屋株仲間が形成されている。
著者
養父 志乃夫 中島 敦司
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.324-328, 1997-03-28
被引用文献数
4 3

ハッチョウトンボの生息が認められた栃木県茂木町の丘陵地谷戸部の水田跡地において,成虫発生期の植生,地象構造,相対照度及び水質を調査した。また,成虫の飛翔,採餌,休息等の行動がみられた植生のタイプを調べた。この結果,成虫の縄張りはヤノネグサ・イボクサ群落及びイ・ヒメジソ群落で形成されることが明らかになった。これらの群落はいずれも浅く小さな開放水面をともなっており,地表面の相対照度は85%前後であった。また,採餌や休息は,縄張りの周囲のイ・ススキ群落で行われていた。一方,成虫の集中した地点における7〜8月の水位の変動は小さく,水深1〜3cm前後で推移した。そして,同時期の水質は貧栄養状態にあった。
著者
中島 敦司 養父 志乃夫 山田 宏之 駒走 裕之
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.505-510, 1998-03-30
被引用文献数
9 12

本論では,潜在自然植生の構成種等を植栽した「エコロジー緑化」施工地での樹林の形成状況を解明するため,湾岸発電所にある施工後18年目の試験地において林分調査を行った.この結果,試験地の林分では,最上層にトウネズミモチ,ヤマモモ等の階層が形成され,地表付近では多数のシャリンバイやトウネズミモチの生育を認めた。このように,試験地では階層構造が形成されつつあり,この要因はギャップ形成の影響によると考えられる。また,土壌中では炭素,窒素の蓄積が深部にまで進み,セミの定着や森林性昆虫の生息が確認される等,森林化への傾向が認められた。しかし,林分の構成植物種は植栽時とほとんど変わらず,種組成は地域の自然植生であるカナメモチーコジイ群集等とは異なるものであった。
著者
山田 宏之
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.253-256, 1995-03-31
被引用文献数
4 3

本論では現在までに実施してきた6都市(杉並区,長野市,幸手市,栗橋町,庄和町、野田市)における気温分布と緑地分布との関連についての総括的な解析を行った。気温分布については市街域での高温,緑地域での低温が全都市,全時刻の結果について認められ,最も気温差の大きかったのは14時であった。これは一般的なヒートアイランド特性とは異なるが,測定方法に起因するものであると考えられた。緑地の気温低減率の比較の結果,都市規模が大きいほど気温低減率が大きくなる傾向が認められた。そこで,都市の総人□との関連について解析したところ,14時,4時については総人口の対数値と気温低減率が直線関係にあることが分かった。
著者
田中 章 大澤 啓志 吉沢 麻衣子
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.543-548, 2008-03-31 (Released:2009-05-08)
参考文献数
12
被引用文献数
4 3

Japan's Environmental Impact Assessment Law was enacted in 1997. However, there are still many problems in Japan's ecological impact assessments. Among these problems, we turned our attention to problems stemming from 1. The system of Japan's EIA ; 2. The team of EIAs ; and 3. Technical methodologies. We applied the Habitat Evaluation Procedure for the first time to an EIA in Japan. Through this experience, we reviewed effectiveness of HEP as a solution to the above problems in Japan's EIAs. The proposed project was a residential development in Yokohama. The site was located in one of the largest remaining natural suburban areas in the city,consisting of densely vegetated hills and creeks which provide quality habitats to wildlife including fireflies and brown frogs, selected as evaluation species in this HEP. Some modifications of original HEP were introduced, including technical revision for the fragmented natural area which has a peculiar land use in Japan. As a result, HEP contributed to formation of substantial mitigation measures for habitats conservation through analyses and discussions among HEP team members.
著者
山瀬 敬太郎
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.567-570, 1998-03-30
被引用文献数
10 4

兵庫県内の2箇所のアカマツ二次林において,下層木の伐採程度が異なる植生管理を実施し,その後の植生変化を種多様性保全の観点から比較した。100m^2あたりの出現種数は,強度に伐採した区の管理後5年目までの増減種数が+20種と+21種,弱度に伐採した区が+11種と+17種であった。これは放置した区の種数が-1種と+2種であったのに対して大きく増加しており,管理に伴う種多様性の増加がみられた。さらに管理度合の強弱に着目すると,強度に伐採した区では,本来はアカマツ二次林を生育最適域としないススキクラスやクサギーアカメガシワ群団の種が出現し,萌芽再生由来である特定の樹種が優占する傾向があった。
著者
関岡 裕明 下田 路子 中本 学 水澤 智 森本 幸裕
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.491-494, 2000-03-30
被引用文献数
20 23

筆者らは,中池見(福井県敦賀市)の耕作放棄水田において,デンジソウ,ミズアオイ等の希少な水生植物および湿生植物を本来の生育状態で保全する手法を確立するための研究をおこなった。上記の種は,かつて,耕地整備がおこなわれる以前の水田や水路などに広く生育する普通種であったため,保全事例が少なかった。そこで,本研究では上記の種の保全に有効な手法を確立することを目的として保全計画を立案・実施し,モニタリンクをおこなった。本研究により,上記の種の保全には,田起こしや水管理・草刈りなど,生育地における従来の営農作業に準じた維持管理作業の実施が有効であることが明らかになった。
著者
浜田 拓 倉本 宣
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.76-82, 1994-08-31
被引用文献数
34 42

コナラ林から採集した土壌をプランターにまきだして埋土種子の発芽試験を約1年間行った。試験開始初期に総発芽個体数の約半数が発芽し,その後は季節ごとに特徴のある発芽がみられた。発芽した個体には耕作地等に生育する草本が多く含まれていたが,同時に管理されたコナラ林に生育する種も含まれていた。また,埋土種子は,同一調査区の試料の間でも不均一な分布をした。これらの結果をもとに,コナラ林の植生管理における埋土種子の役割を検討した。
著者
庄子 康
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.685-690, 2001-03-30
参考文献数
23
被引用文献数
3 3

近年,自然公園の様々な問題を考える上で,環境の持つ価値を経済的に評価する環境価値評価が利用され始めている。これら手法にはトラベルコスト法(TCM)や仮想評価法(CVM)等があるが,信頼性の点からTCMとCVMの評価額を比較することは有用である。本研究で北海道雨竜沼湿原における野外レクリエーションの価値をゾーントラベルコスト法(ZTCM),個人トラベルコスト法(ITCM), CVMによって評価を行った。ZTCMの評価額は訪問あたりの平均値で1214.9円,ITCMの評価額は1552.6円,同じくCVMの評価額は1687.7円と推定された。これらの推定値を直接比較することはできないが,真の評価額はこれらの値と近い値であると推測できる。
著者
赤坂 信
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.59-65, 2005-08-12
参考文献数
27
被引用文献数
4 5

昭和初期の10年(1930年代)は郷土風景の保存について盛んに議論されていた時代である。当時の造園関連の機関誌,専門誌を中心に議論の流れを整理しつつ考察した。1930年代後半からは郷土風景喪失の危機感を背景に保存の指針や法的な整備に関する論考も現れた。凍結的保存論もあるなかで,郷土風景は人の生活するところであるが故の「進化」のダイナミズムを認め,制御しながらより良いものにしていこうという提言もみられた。一方,こうした高所から,あるいは計画主体からの議論の他に,自らがすむ具体的な東京の「郊外」をとりあげて地元の郷土人による保存論の試みもあった。「都市化」と「昔のまま」の間に宙づりにされた郊外を「郷土風景」としてどのように意味づけ(解釈)するかが保存論の共通の課題であったが,具体策に結実することなく,予想をはるかに超えるスピードで到来した市街化の圧力の前にはほとんど無力であった。社会的な関心がありながら郷土風景が消滅する理由に,第二次世界大戦が後に控えてはいたが,保存論自体が社会的に直接影響を与える(適用が可能な)文化運動になり得なかったことが-因と考える。