著者
仲野 純章
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.299-307, 2020-11-30 (Released:2020-11-26)
参考文献数
31

磁界が存在する状態の下,電解質溶液中の電極で電気化学反応を起こすと溶液流が生起する。当該現象は電気化学反応に関与するイオンにローレンツ力が作用して起こるものであり,その特性から,ローレンツ力可視化教材への転用を狙った種々の教材化研究がなされてきた。しかしながら,汎用性や簡便性の面で課題も多く,教材として確立・普及するに至っていない。今回,汎用性と簡便性を重視した新教材を検討し,予備実験と検証授業を通じて教材としての可能性を検証した。その結果,電極にアルミニウム,電解質溶液に塩化ナトリウム水溶液を採用することで汎用性と簡便性に優れた新教材が成立し,これを用いることで,ローレンツ力に関する理解を深めさせる授業を効果的に展開できることが確認された。
著者
吉田 安規良 吉田 はるか
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-30, 2020

<p>平成時代の理科を教える教師教育を振り返り,その中で得た気づきを新しい―令和―時代の理科教育の創造へとつなげる一助とするために,本報では,日本理科教育学会の学術雑誌『日本理科教育学会研究紀要』・『理科教育学研究』で"平成"時代に報告された理科を教える教師教育に関する研究を整理した。その結果,理科を教える教師教育に関する研究報告は,発行年別に見ると,1997(平成9)年,1998(平成10)年,1999(平成11)年以外で,巻別に見ると,第38巻,第39巻,第41巻以外に,総計111編掲載されていた。この111編は,①日本理科教育学会教育課程委員会報告(5編),②教員志望学生の現状に関する調査研究(28編),③現職教員の現状や要望,授業の実態を把握する調査研究(39編),④教員志望学生を対象とした理論的,実践的研究(20編),⑤現職教員を対象とした理論的,実践的研究(8編),⑥諸外国の教師教育に関する研究(8編),⑦その他(3編)に大別された。そのほとんどが,教職志向の学生と現職教員に関する事例的な報告であり,理科を教える教師教育者の専門性開発を扱ったものやコア・サイエンス・ティーチャーに関するものは無かった。対象校種は小学校に関するものが多く,科目内容的には天文学に関するものが地学で目立った。平成時代の日本理科教育学会における理科を教える教師教育に関する研究成果には,様々な背景をもった理科を教える教員志望学生や現職教員に対する教育や自らの経験だけに依拠しない形で対応できる理科を教える教師教育者の専門性開発に繋がる,令和時代の理科を教える教師教育の礎となるものが数多くあり,その深化と発展,さらには社会への提案と還元が期待される。</p>
著者
西村 一洋
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.489-497, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
15

星座早見の地平線は,緯度によって大きく形が異なる。先行研究においては,球面三角法をもとに,天球座標に応用し,任意の緯度による星座早見の地平線の各数値を求めていた。そして,その数値を線で結ぶ手作業が,必要であった。また球面三角法は,授業に利用しにくいという課題があった。それを克服するために,できるだけ簡単に内容を見通せるように資料として示した。そこで,本研究の目的を「緯度によって異なる星座早見の地平線の軌跡を,表計算ソフトによって描く資料を示す。」とした。本稿では,先行研究から,地平線の軌跡を描ける過程を示している。
著者
福田 恒康 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.45-52, 2016-07-12 (Released:2016-08-09)
参考文献数
8
被引用文献数
3 3

概念転換は, 新しい理論を受容し古い理論を放棄することであるが, 古い理論の放棄は忘却ではなく, 保持する理論に対するコミットメントの順位の入れ替わりである(ストライク・ポスナー, 1994)。理解は, 理論に対するコミットメントの形成であり(ヘッド・サットン, 1994), 概念や理論に対して自信や信念を持つことである。概念転換は, 理論の切り換えと新しい理論に対するコミットメントの強化からなる(遠西・久保田, 2004)。本研究では授業をとおして概念転換の詳細な過程を, 運勢ライン法(White and Gunstone, 1992; ホワイト・ガンストン, 1995)を用いて調査した。授業では, 高等学校物理における「力のモーメント」の課題が実施された。その結果, 学習者によって概念転換が極めて多様な認知的過程を経て生じるにもかかわらず, 既有の理論に対するコミットメントの弱化, 理論切り換えによる新しい理論の受容, 新しい理論へのコミットメントの強化という共通のパターンが存在することが明らかになった。さらにこの過程は「既有の理論に対するコミットメントの弱化とそれに続く理論切り換えによる新しい理論の受容」と「新しい理論へのコミットメントの強化」という独立した2段階の構造を持つことが明らかになった。理論切り換えは, 理論の競合とコミットメントの弱化を前提とするので, 生徒どうし・生徒と教師による社会的相互過程において生じる。これに対して実験は, 理論からの予測と結果との一致・不一致によってコミットメントを変化させる。実験は, 理論を創造したり理論を変えることはないが, コミットメントを変える。これらは, 遠西・久保田(2004)が中学校において行った概念(理論)転換の実践的研究の正当性を強く支持するものであった。
著者
猪口 達也 後藤 大二郎 和田 一郎
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.3-13, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
11

本研究では,社会的文脈を考慮した科学概念構築に関わるメタ認知概念と,応答的教授(responsive teaching)との関連について検討した。具体的には,猪口・後藤・和田(2018)が指摘する,理科学習における社会的文脈を考慮した,個人内および社会的メタ認知の機能とその相互作用に着目した。加えて,Wood(2018)が提起する「応答的教授」を援用して,2つのメタ認知機能よって生起する動的な学習過程をアセスメントする視点と,それに呼応した教授としてのフィードバック機能を具体的に構想した。その上で,応答的教授と個人内および社会的メタ認知の機能の連関過程について,小学校理科を事例に検討した。結果として,応答的教授は,個人内および社会的メタ認知の機能を促進し,その連関過程を通じて,電磁石に関わる科学概念が構築されることが明らかとなった。それと連動して,根拠に基づき,より妥当な考えへと矛盾点を解消し,自己や教室全体の認知の再調整を繰り返す様態を捉えることが可能となった。
著者
雲財 寛 山根 悠平 西内 舞 中村 大輝
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.545-556, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
23

本研究は,理科における批判的思考が知的好奇心に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。公立小学校の児童346名,公立中学校の生徒971名を対象に,五件法の質問紙調査を実施した。調査の結果,下記に示す3点を示唆する結果となった。熟慮的な思考を促すことによって,知的好奇心が高まること。熟慮的な思考を促すことによる知的好奇心への影響の大きさは,校種間で違いはないこと。中学生の場合,健全な懐疑を促すことで,知的好奇心が高まること。
著者
後藤 大二郎 和田 一郎
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.367-377, 2019

<p>本研究では,対話的な学びの在り方として,子どもが協働的により妥当な考えを構築し,それを学級の文化として定着させ,自らのものとして活用していく様態を明らかにすることを目的とした。Stahl(2000)の協働的知識構築モデルを小学校理科授業に援用し,理科授業を計画・実践した。Stahlの「協働的知識構築(Collaborative Knowledge-Building)」のモデルは,個人の理解と協働的知識構築の2つの分別可能な段階からなる循環的な過程である。このモデルは,それぞれの場面と活動を11のフェーズに分けて示している。実践した授業は,小学校第3学年「かげと太陽」の単元である。このモデルを援用した授業を分析した結果,子どもが協働的知識構築を行い,学級としての「文化的人工物(cultural artifacts)」を生成し,さらにそれを活用して「文化的人工物」を更新していた。また,授業者の支援により各フェーズの移行を促したり,個人の理解と協働的知識構築の過程を往復したりしながら,協働的知識構築モデルが成立していることが明らかになった。 </p>
著者
佐藤 寛之 松尾 健一 小野瀬 倫也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.361-374, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
17

理科学習場面におけるメタ認知的コントロールが子どもにとって難しいことであることが,これまでの理科教育に関する研究や国内の学習状況調査から明らかにされている。この理科学習における課題を改善し,理科学習で子どもが受容すべきと考えた情報とその選択の根拠を明らかにしていくために,本研究では,子ども自身によるメタ認知的活動の顕在化と学びのなかでの「気づき」の自覚化を促すための学習シート(理科学習プロセスシート)の開発を試みた。この理科学習プロセスシートを理科授業で活用した結果,次のことが明らかとなった。1)学習問題に対する予想場面での子どもの5つの思考過程の内実を見出すことができた。また,思考過程を顕在化し他者との対話を促すことで実験結果を基にした子どもの考えの更新が生じた。2)子どもが受容すべき情報の選択をする際には,まず,学習のキーワードに関連した生活経験を想起し,生活経験と学習問題との関連の有無をふまえて,以前の学習により理解したことや生活経験を付け加え,子どもは自分なりの予想の根拠を補足していた。3)考察を記述する際には,実験結果(現象)が生じた要因についての表現の「自由度」の高低が表現方法の差異となって現れる。この表現の「自由度」は,子ども自身の解釈で説明可能か否かで決定されており,説明に対する確信により変化する。
著者
佐伯 英人 木村 ひろみ
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.231-238, 2018-03-19 (Released:2018-04-06)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究の目的は, 市販の洗濯用合成洗剤を使って教材研究を行い, また, 授業実践を通して, 水の温まり方を調べる実験の有効性を議論することであった。研究の結果, 明らかになったことは次の①~④の4点である。①多くの児童が実験をして(観察をして), 水の温まり方の正しい概念を身に付けることができた。②多くの児童が授業を受けて「よく分かった」という意識をもつことができた。その要因の1つとして実験があった。③多くの児童が実験をして(観察をして)「よく分かった」という意識をもつことができた。④教員の授業に対する意識は「良好」であった。その要因の1つとして実験があった。
著者
川上 昭吾 渡邉 康一郎
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1-14, 2010-03-03
参考文献数
57
被引用文献数
1

1985年から現在までのわが国における有意味受容学習の研究のまとめをおこなった。有意味受容学習はオーズベルによって提唱された先行オーガナイザ(Advance Organizer AO)を使う演繹的思考過程を重視する学習理論である。先行オーガナイザは,学習の始まりに使うものであり,それ以降の学習に見通しをもたせるような一般的で抽象的な概念である。私達研究グループは,図やモデルも先行オーガナイザとして使うことができることを明らかした。先行オーガナイザを使うポイントは,学習者に「わからないな。どうしてだろう」という疑問をもたせた状態にして(これを私達は「モヤモヤを作る」と呼んでいる)おくことである。本報告ではモヤモヤ作りと先行オーガナイザを「資料」として整理した。なお,「先行オーガナイザ」は研究上使っている言葉であり,授業では「ヒント」を主に使い,「これからの学習の核となる見方」という言い方もしている。同様に,有意味受容学習を今後は簡潔に「受容学習」として使っていきたい。受容学習の効果は,「学習者がわかる」こと,特に「理科を不得意とする子もよくわかる」こと,「発展学習をスムーズに導入することができる」こと,「わかるから,理科の授業が面白く感じる」ことなどである。受容学習は,発見学習に置き替わるものでない。受容学習も発見学習と同様,問題解決学習に含まれる。受容学習は演繹的な思考過程をとり,学習内容が抽象的な場合適している。その意味で,中学校では適した単元が多い。
著者
仲野 純章
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.143-152, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
27

構成主義的学習観に立つと,教授者には,学習者が有する既有概念を把握することが求められる。物理分野においても,これまで様々な既有概念が調査されてきたが,摩擦角に関する報告例は見られない。そこで,本研究では,摩擦角について学習する直前段階の学習者が,どのような既有概念を持ち合せて当該学習に向かうのかを調査した。具体的には,粗い板の上に置かれた木片がある傾斜角で滑り出す時,その木片上におもりを固定して質量を増加させると滑り出す傾斜角は変化するかを問う概念調査を実施した。その結果,科学的に誤った回答をする者は過半数に上り,その回答根拠には経験由来の素朴概念は少なく,教育現場で学習したことに関連した誤った科学的理論が目立つという特徴が見られた。また,こうした学習者にメタ認知的活動を促す事実確認実験や班内討議を組み込んだ指導を施したところ,大幅な概念変容とその効果持続が確認され,摩擦角に関する概念の再構成にもメタ認知的支援が有効であることが示唆された。
著者
木下 博義 山中 真悟 中山 貴司
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.181-188, 2013-11-27 (Released:2013-12-12)
参考文献数
13
被引用文献数
5 2

本研究では,理科における小学生の批判的思考に焦点を当て,その実態を明らかにすることを第一の目的とした。さらに,小学生の批判的思考に影響を及ぼす要因構造を分析し,指導法考案へ向けての示唆を導出することを第二の目的とした。これらの目的を達成するため,小学校5,6 年生429 名を対象に,35 項目からなる質問紙調査を実施した。その結果,一つ目の目的に対して,児童の探究的・合理的な思考に比べて,反省的な思考や根拠を重視しようとする意識が低いことが明らかになった。また,二つ目の目的に対して,探究的・合理的に思考している児童ほど,反省的に思考したり,意見の根拠を重視したりしていることが明らかになった。これらの結果を踏まえ,児童の反省的な思考や根拠を重視しようとする意識を高めるためには,探究的・合理的な思考を培うような指導をすべきであるという示唆を得た。
著者
山田 貴之 寺田 光宏 長谷川 敦司 稲田 結美 小林 辰至
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.219-229, 2014-07-08 (Released:2014-08-22)
参考文献数
18
被引用文献数
2

本研究の目的は, 児童自らに変数の同定と仮説設定を行わせる指導が, 燃焼の仕組みに関する科学的知識の理解と, 燃焼現象を科学的に説明する能力の育成に与える効果について明らかにすることである。この目的を達成するために, 第6学年「ものの燃え方と空気」において, “The Four Question Strategy”に基づく「仮説設定シート」(4QS)を用いた実験群37人と, 用いなかった統制群37人を対象とした授業実践及び学習前後の質問紙調査の分析を行った。その結果, 実験群の方が, 燃焼の仕組みに関する科学的知識を高い水準で理解し維持できることが明らかとなった。また, 燃焼現象を科学的に説明する能力の育成にも有効であることが示唆された。
著者
栗原 淳一 益田 裕充 濤崎 智佳 小林 辰至
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.19-34, 2016-07-12 (Released:2016-08-09)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

本研究は, 中学校第3学年の「月の満ち欠け」と「金星の満ち欠け」の学習において, 地球と天体の位置関係を作図によって位相角でとらえさせる指導が, 満ち欠けの空間認識的な理解と満ち欠けを科学的に説明する能力の育成に与える効果について明らかにすることを目的とした。そこで, 実験群では地球と天体の位置関係を作図によって位相角でとらえた後に, 満ち欠けの現象を説明する仮説を立てさせて, モデル実験で検証させた。一方, 統制群では作図を行わせないで, 同様の学習に取り組ませた。そして, それぞれの群の満ち欠けの空間認識的な理解度と科学的に説明する能力を質問紙調査によって比較検討した。その結果, 統制群に比べ, 実験群の方が満ち欠けの空間認識的な理解度が有意に高かった。また, 満ち欠けを科学的に説明できる生徒も有意に多かった。このことから, 作図によって地球と天体の位置関係を位相角でとらえさせる指導は, 満ち欠けの現象を空間認識的に理解させたり科学的に説明したりする能力の育成に有効であることが示唆された。
著者
野原 博人 田代 晴子 森本 信也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.443-455, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
16

本研究では,発達の最近接領域によって実現に向かう協働的な問題解決を念頭におき,科学概念構築を促す対話的な理科授業デザインについて検討した。対話を社会的相互作用の過程と捉え,その視点として,Alexander(2005)が示した「対話的な教授の原理」の指摘に着目した。また,対話的な教授の原理を促進する視点として,先行研究における形成的アセスメントに関する論考を援用し,「対話的な教授をアセスメントする視点」を措定した。分析の結果,以下の諸点が明らかとなった。(1)Alexanderの指摘する「対話的教授」に基づく授業デザインは,対話的な授業に有効に機能した。(2)評価する視点として措定した「対話的な教授をアセスメントする視点」は,「対話的な教授の5つの原理」を具現化することへ寄与した。これらの知見は,対話的な理科授業に基づく科学概念構築を促進する視点として援用できる可能があると考えられる。
著者
谷津 潤 山野井 貴浩
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.63-70, 2016-07-12 (Released:2016-08-09)
参考文献数
18
被引用文献数
1

近年, 生物の授業において, DNA抽出実験が, 頻繁に実施されるようになった. しかし, 現在実施されている実験形式では, 抽出物がDNAである(DNAを含んでいる)ことを納得できない生徒がいると指摘されており, 試薬を用いて抽出物がDNAであることを確かめる過程を導入することが必要と言える. そこで, 本研究では, 従来のDNA抽出実験の操作に, 対照実験を伴う検証過程を導入し, その導入が抽出物はDNAであると納得することに繋がるかどうかを明らかにすることを目的とした. 質問紙調査の結果, 検証前では抽出物がDNAであると納得できなかった生徒が全体の約1/3を占めたが, 検証後では, それらの生徒も, 抽出物がDNAであると納得したことから, DNA抽出実験における試薬を用いた検出の重要性が明らかになった. その際, 特に対照実験を伴う方がより生徒の納得につながることが明らかになった.
著者
杉本 剛
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-11, 2013-07-17 (Released:2013-08-09)
参考文献数
39
被引用文献数
1

人間の脳のメカニズムを参考とした認知モデルに,コネクショニストモデルがある。本研究は,理科教育学の研究にコネクショニストモデルの理論・手法の導入を必要とする背景・利点を示し,これまで理科教育学で行われてきたコネクショニストモデルの理論・手法を導入した研究をまとめた。人間の脳は,並列分散処理の情報処理機構である。コネクショニストモデルは,並列分散処理の情報処理の方式を取り入れている。理科教育学の研究にコネクショニストモデルの理論・手法を導入することは,これまで研究が進んでいない観点・手法の研究を可能にする。そしてそれは,理科教育学の研究の進展に貢献すると考えられる。
著者
山谷 洋樹 鈴木 誠
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.359-368, 2012-11

本研究は,男女や地域による生命観の違いを明らかにすることを目的とする。筆者らが開発及び改良した生命観測定尺度を用いて,小学校6年生,中学校2年生を対象に,生命観を構成する生物概念及び生命概念の各下位概念に含まれる項目平均値を下位尺度得点として求めた。その結果,次のことが明らかとなった。1 生命観には男女間で,両学年の「アニミズム」「命」の数値は女子の方が男子に比べて有意に高く,都市部に住む中学校2年生並びに農村部に住む両学年で女子の方が男子に比べて「命」の数値は有意に高くなるという差がみられた。また,中学校2年生では,女子の方が男子に比べて有意に高い得点を示す下位概念の数が多くなるという差がみられた。2 生命観には地域間で,都市部の方が農村部に比べて有意に高い得点を示した下位概念を含む上位概念は,小学校6年生では生命概念であり,中学校2年生では生物概念であるという差が見られた。両学年の男子では,都市部の方が農村部に比べて「機械論」の数値が有意に高いという差がみられ,地域を取り巻く環境の差が要因になっていると考えられる。
著者
田中 謙介
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.39-47, 2006-01-31
参考文献数
9
被引用文献数
2

観察・実験を重視し,体験的な学習を推進していくことが求められているなか,環境学習をはじめとして様々な化学種の定量分析をする機会が増している。微量分析には通常,高価な分析機器が必要となるが,教材として簡易比色計など自作装最も数々報告されている。今回は比色計よりも感度に優れる蛍光光度計を自作開発し,リボフラビン(ビタミンB_2),フルオレセインの濃度測定を行った。同一試料3回ずつの測定値は安定しており,2種の化合物ではいずれも良好な検量線が作成できた。以上の実験の後,本装置を用いた授業実践を行った。生物を選択する生徒16名を対象とし,一人一実験の形態でビタミン剤に含まれるリボフラビン含有量を測定させることを目的とした。授業の後,生徒の測定結果と質問紙調査から本装置の教材としての有効性を評価したが,(1)測定精度,(2)生徒の意欲・関心,(3)分析法への理解,(4)装置の操作性,いずれも良好な結果を得た。リボフラビンは栄養素としての位置づけから,理科のみならず家庭や保健においても重要な学習内容となっており,今回の教材には教科横断的活用が期待できる。