著者
矢崎 貴紀 小林 慎一 後藤 芳文 森 研堂 今井 航 渡辺 康孝 中村 大輝
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.669-675, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
16

平成14年度より文部科学省が推進しているスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業では,学習者が主体的に探究活動に取り組むことが期待されている。本研究では,SSHにおける主体的な探究活動に影響する要因を明らかにすることを目的とした調査を実施した。中学3年生と高校生の計714名を対象とした質問紙調査を分析した結果,SSHにおける主体的な探究活動に影響する要因として「他者からの受容」「達成経験」「自己効力感」の3点が明らかになった。本研究の結果を踏まえれば,受容的な他者に支えられて達成経験を重ねる中で自己効力感を高めていくことが,SSHにおける生徒の主体的な探究活動の生起につながると考えられる。
著者
山野井 貴浩 横内 健太
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.485-495, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
32

カブトムシは人気のある昆虫であるが,児童,教員志望学生,小学校教員の多くはその体のつくりを正しく理解できていないことが報告されている。そこで,本研究は昆虫の体節構造の進化を扱うことで,カブトムシの体のつくりを理解させる授業を開発した。また,本授業の副次的な効果として,節足動物の体のつくりや進化についての理解も深められることを期待した。中学生対象の授業実践の結果,授業後にはカブトムシの体のつくりに関して適切なイラストを選択する生徒の割合が有意に増加した。また,節足動物の体のつくりの特徴に関して,授業を通して「1つの節から1対のあしが生えていること」や「(進化の過程で)体節が融合したものがいること」の理解が深まったことが示唆された。一方で,授業後には「頭・胸・腹に分かれた体」や「胸からあし」などの昆虫の特徴を,節足動物の特徴として記述する生徒が増加した。地球上の既知種の約半分を占める節足動物を題材とした進化や分類に関する教材の開発が今後も期待される。
著者
中村 麻利子 南条 真佐人
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.621-630, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
22

温泉水中に放射性のラドンガスが含まれていれば簡単に取り出すことができるため,そのような温泉水は放射線教育の教材として容易に活用可能である。しかし,どの温泉水に教材として利用可能なラドンガスが含まれているかを調査研究した例はない。本研究では,全国に点在している温泉の源泉を入手し,霧箱の線源として利用可能かどうかを確認した。霧箱の線源として容易に採取できる温泉の所在マップはこれまでになく,放射線教育の普及のためその作成は重要である。温泉水は採水後ただちに霧箱に活用するのが良いが,採水後数週間経ても利用可能なものも存在するため,教員にとっても取り扱いやすい線源であることが示唆される。
著者
丹沢 哲郎 熊野 善介 土田 理 片平 克弘 今村 哲史 長洲 南海男
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-12, 2003-09-01 (Released:2022-06-30)
参考文献数
20
被引用文献数
7 1

本研究では, 日本人の科学観・技術観の特徴を明らかにすると同時に,子どもたちの科学観・技術観に直接的な影響をもつ理科教師の科学観・技術観の特徴を示し,理科授業と子どもの科学観・技術観との関連について考察を行った。したがって調査対象は高校生,大学生,中・高の教師,そして一般社会人とし,調査の結果以下の7点が明らかになった。1) 科学知識の発展プロセスの連続性と転換性について,多くの一般社会人が両者を併存的に捉えていたが,科学知識の転換を肯定する理科教師の割合は低かった。2) 観察の理論負荷性については,回答者の半数以上が認めているが,同時に,分析方法や実験方法など方法に関する要因によって異なる結論が得られるとするものが多く見られた。3) 多くの回答者は,たとえ思いつきであっても,論理的に正しければ科学理論の正当性を認めた。4) 回答者の全体的な傾向としては,理論の一形態であるモデルの役割に関しての理解度は低いが,理科教師の理解度は高かった。5) 科学を没価値的で真理追究の学問であるとするものが,理科教師の約7割はこの考えを肯定した。6) 科学と技術の密接な関連性を認識している者は回答者全体に多く見られたが, この点に関する高校生の認識割合は圧倒的に低かった。7) 理科教師の科学観・技術観と,高校生のそれとの間には大きな違いが何点か見られた。すなわち,理科教師の捉え方が授業を通して高校生に直接影響を与えているとは考えにくかった。
著者
宮城 利佳子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.645-656, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
16

本研究では,植物栽培に関する保育者と子どものやり取りを6ヶ月観察し,子どもが他者との関わりの中で,植物に親しみ,植物に関する知識を学習する中で,擬人化がどのように機能しているかを明らかにすることを目的とした。その結果,年長児と保育者の使用する擬人化の機能は4つあり,①植物に対して,感情移入的な親しみや思いやりを持つ事を促す機能,②人間についての知識を類推する事を促す機能,③他の植物の知識を類推する事を促す機能,④植物の状態を説明する機能がある事が明らかになった。このような擬人化を用いたやり取りの中で,子どもは,栽培対象の植物に親しみ,栽培方法を類推する事を学習すると考えられる。また,保育者の信念や経験による影響で,保育者により擬人化の使用する機能が異なる可能性がある。
著者
長谷川 隼也 小倉 康
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.603-612, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
20

本研究では,中学校における理科と総合的な学習の時間との共同により,理科や科学技術と職業との関係を認識させる指導法を開発した。その方法は,理科の学習内容と様々な職業との関連づけを行い(手立てⅠ),その後,総合的な学習の時間で様々な職種の企業による理科や科学技術を活用した取組について生徒が調べたり発表したりする活動を行う(手立てⅡ)ものである。この方法により,理科や科学技術に関係する職業 1)の認識を深めさせることができるとの仮説を設定した。中学校第1学年で検証授業を行った結果,この仮説が支持された。これにより,本研究は,理科や科学技術に関係する職業の認識を深めさせるための指導法として有効であることが示唆された。
著者
金井 大季 小倉 康
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.527-536, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
17

本研究では,理科における「学びに向かう力・人間性等」を科学的リテラシーに関わる意識に主体性・協調性を加えた7項目の意識で捉え,それらが全体的に高まるように,児童自身に行動目標を自己決定させた上で問題解決の過程に取り組ませると共に,学習内容と日常生活との関連を活用として扱う指導法を設計し,その有効性を実践的に検証することを目的とした。手立てⅠとして,学習者にその授業で達成する目標を自己決定させることで主体性,協調性を喚起し自己効力感を高める指導,手立てⅡとして,学習内容の日常生活への有用性,重要性,職業との関連性を意識させ興味・関心を高める指導を設計した。小学校第6学年「てこ」の単元で指導法を検証した結果,開発した指導法を用いた実験群が,従来の指導法による統制群に比較して,7項目中6項目で学びに向かう力・人間性等の意識が有意に高く,学習理解度についても有意差が確認された。このことから,本指導法は理科における「学びに向かう力・人間性等」を育むために有効であることが示唆された。
著者
大貫 麻美 鈴木 誠
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.513-526, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
27

自然科学に関する幼児期からの継続的なコンピテンス基盤型教育の重要性は近年,国際的に周知されている。一方で,日本では,生命科学を科目として扱う幼児教育はなされていない。本論文では,日本の幼児教育において実施可能な生命科学に関するコンピテンス基盤型教育の検討のために,幼児期に育成が期待される生命科学に関する資質・能力の整理を試みた。まず,幼児期の生命科学教育が設定されている米国,オーストラリア,フィリピンの幼児教育スタンダードを調査し,先行研究に依拠しながら整理した。また,日本と同様に生命科学に関する科目設置のないフィンランドのコンピテンス基盤型幼児教育についても調査,分析を行った。これらの知見を基に,幼児期に育成が期待される生命科学に関する資質・能力について,日本の幼稚園教育要領を参照しながら考察を行った結果,日本の幼児教育で扱われる5領域全体を横断する形での学びが期待されることが分かった。
著者
福井 智紀 鶴岡 義彦
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-12, 2001-10-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
35
被引用文献数
1

Darwin の自然選択説やLamarck の用不用・獲得形質遺伝説などの主要な進化学説が提示された際に,それを生徒がどのように捉えるかを調査した。調査は,中学生・高校生・大学生に対して実施した。捉え方について,学校段階による差異が見られるかにも着目した。調査は質問紙法で行った。まず,ある進化事象の例を提示した。次に, この進化事象がどのように説明されるべきかについて, 4つの主要な進化学説(自然選択説,用不用・獲得形質遺伝説,定向進化説,大突然変異説)に基づく4人の答えを提示した。被験者に, この4人の説それぞれに対する賛成・反対を, 4段階尺度で回答させた(賛否得点として得点化した)。さらに問題毎に,誰に一番賛成できるかも回答させた。問題は3題で, 1題は退化の事象を提示した。調査の結果,以下の点が明らかになった。1) 現在科学的に妥当とされる自然選択説は,学校段階の上昇とともに支持が増加している。特に,大学生ではこの説の支持が高い。ただし退化の事象についてのみは(実際にはこれも進化の事象であるにも関わらず)学校段階による差異が見られず,大学生による支持も高くない。2) 用不用・獲得形質遺伝説は,現在は科学的に妥当とはされていないにも関わらず,支持は比較的高い。特に,高校生における支持が中学生・大学生と比べて高い。3) 定向進化説は,中学生の支持か高校生・大学生と比べて高い。4) 大突然変異説については,中学生・高校生・大学生の全てで,支持は非常に低い。5) 一番賛成できる説について,およそ3~4割の者は3問題に一貫した回答をした。自然選択説を一貫して選択した者は,大学生では24.1 %と比較的多数存在した。一方で,用不用・獲得形質遺伝説を一貫して選択した者は,中学生・高校生・大学生いずれにおいても1割以上いた。
著者
中島 雅子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.411-421, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿の目的は,理科教育における授業改善のための教師の自己評価に必要な要素とその構造を明らかにすることにある。自己評価に注目したのは次の理由による。学習・授業の改善が適切に行われるためには,学習者や教師が自身の問題点を自覚する,つまり,自己評価が行われなければ,真の意味での改善は難しいと考えられるからである。さらに,それはどこにどのような問題があるのかが,具体的に把握できなければ日々の実践に生かすのは難しい。本稿では,先行研究を基に,次の3点を中心に議論した。1つは,適切な自己評価が行われるための教師の評価観の問題である。2つめは,育成が難しいとされる自己評価能力の問題である。3つめは,教育評価で資質・能力を育成するという考え方である。これらについて,形成的評価において自己評価を重視する「一枚ポートフォリオ評価(OPPA:One Page Portfolio Assessment)論,以下OPPA論と記す」を提案した堀哲夫の言説を基に検証した。その結果,要素として次の4点を抽出した。第一に,メタ認知を促すための自己評価における問いである。これまで自己評価の問いについてはほとんど議論されてこなかった。第二に,その問いに対する学習者の記述への教師のコメントによるフィードバックの効果である。第三に,その前提としての「学習や指導の機能を持つ評価」という考え方である。第四に,これらの前提にある概念やその形成過程の自覚化という視点である。構造は次の通りである。学習者が「問い」により自身の概念や考え方の形成・変容過程を自覚することで,メタ認知といった資質・能力の育成が促される。それと同時にそれらを教師が確認し,フィードバックすることで授業の何が問題だったのかを具体的に把握できることになることが教師の授業改善,さらには,教育観の変容を促すことになる。学習者の自己評価と教師の自己評価は,この概念形成の自覚化という視点により結びつくことが可能になる。
著者
河本 康介 山田 健人 小林 辰至 山田 貴之
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.585-598, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
41
被引用文献数
1 1

本研究の第一の目的は,「理科と数学の教科等横断的な学習」が「理数の関連性の意識化」,「学習方略」および「自己効力感」を媒介し,「理数学習の有用性」に影響を及ぼすと仮定した因果モデルに基づいた質問紙を作成し,「理科と数学の教科等横断的な学習の意義」を構成している諸要因の因果モデルを明らかにすることであった。さらに,理科と数学の好き嫌いと各要因の関連性を明らかにすることが第二の目的であった。質問紙調査を行った結果,第一の目的については,「問題解決への意識」,「関数的な見方・考え方」,「理数学習の有用性」,「理科における学習方略」,「理科学習での数学の必要性」,「数式化・数値化の意識」の6つの因子が理科と数学の教科等横断的な学習の意義として抽出された。また,重回帰分析とパス解析を行った結果,「関数的な見方・考え方」が,4因子(「問題解決への意識」,「理科における学習方略」,「理科学習での数学の必要性」,「数式化・数値化の意識」)を経由しながら「理数学習の有用性」に間接的に影響を及ぼしていることが明らかになった。さらに,第二の目的については,理科と数学の好き嫌いと各因子得点の比較検討から,「数式化・数値化の意識」において,Ⅱ群(数学は好きだが,理科はあまり好きではない)とⅢ群(理科は好きだが,数学はあまり好きではない)との間で有意な差が見られた。理科学習において,「数式化・数値化の意識」を高めるために,自然の事物・現象や実験結果を数学的な知識・技能を活用しながら定量的に分析・解釈し,グラフ化したり公式や規則性を導いたりする活動の必要性が示唆された。
著者
中村 大輝
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.197-204, 2018-11-30 (Released:2018-12-05)
参考文献数
39
被引用文献数
5

問題発見から仮説設定に至るまでの過程は発見の文脈と呼ばれ, 従来, その指導や評価があまり重視されてこなかった。そこで本研究は, 理科教育の「発見の文脈」における評価の必要性や, 当該過程における評価方法の問題点を明らかにすることを目的とし, 先行研究における評価方法を分析した。その結果, 発見の文脈においても評価の必要性が主張できること, 先行研究における発見の文脈の評価は, ①想起数の評価, ②論理性の評価, ③検証可能性の評価, ④能力の評価の4種類に分類できることが明らかになった。また, 各評価方法には, 指導方法に還元されない評価である(①), 思考過程を考慮していない(②), 正当化の文脈へ方向付けられた評価方法を発見の文脈に適用している(②③), 学習者が検証可能性を判断することが困難である(③), 発見の文脈において必要となる能力が明らかになっていない(④), 能力と実際のパフォーマンスの関係性が明らかになっていない(④)といった問題が存在することが明らかになった。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.53-60, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1

自然科学においては,実際に実験ができないような状況ではシミュレーションが行われる。観察結果がよく一致するシミュレーションを選択することで「どのようになっているか」を理解しようとする。本研究は,「月は日光を受けて輝き,私たちの周りを公転しているので日光の当たる角度が変わり,形が変化して見える」という理論からなる理論モデルに基づくシミュレーションを行い,実際の観察事実と理論モデルとの一致によって,この理論モデルを成立させた理論にコミットさせることを試みた,小学校第6学年における実践的研究である。児童は,観察事実がこの理論モデルによく一致することから,上述した理論に対するコミットメントを形成できた。実際の観察と中心に地球をおいた一般的な月の公転モデルの間では,視点移動・空間認識の困難性が生じることが報告されているが,公転する月の中心に地球ではなく,観察者である「私」を直接に置くことで,その困難性から逃れることができた。また,このモデルでは,太陽を我々の周りを回る24時間時計として認識すると夜間の太陽の方位を推定できるので,夜間でも「太陽と月の関係」を知ることができた。さらに,月齢がわかれば,月の観察が可能な「時刻と方位」を決定できるので,月の観察を計画的・予測的に行うことが可能になった。
著者
畑 宗平
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.457-465, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
10

高校化学の授業で加熱操作を必要とする有機化学反応をマイクロスケール実験で行うことは有意義である。しかし,マイクロスケール実験専用のガラス器具と加熱器具の配備は経済的に困難である。そこで,教員がハサミとペンチを用いて短時間で作成できる,液体の加熱を伴うマイクロスケール実験等で使用が可能な,「簡易加熱器具」の開発を検討した。開発に当たっては,①加熱動作が安全で製作費が安価であること。②多種多様な市販のガラス器具に対応できること。③製作工程が簡略であることの3点に留意した。その結果,市販の小型ガラス実験器具を用いた溶液等の加熱実験を安全に行うことができて多様な小型ガラス器具の形状に対応が可能な簡易加熱器具を安価で容易に作製できる方法を開発した。
著者
中山 雅茂
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.533-542, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
27

小学校理科第4学年で学習する「水の三態変化」では,水を加熱する実験を行い,水は温度によって水蒸気に変わることを捉える。実際に水を加熱しその温度変化を捉え記録する実験を通して,水の温度と状態の変化を関係付けることによって水の性質を理解する。水の沸点は気圧や不純物の混入によって変化するが,広く一般的に100°Cという値で捉えられている。一方,教科書で紹介される実験方法の中でも,水を入れる容器としてビーカーを使用した場合は,この温度が97~98°Cになることが示されている。これは,使用する棒温度計の仕様上の問題によるが,十分に小学校教員には理解されていない状況にある。そこで本研究では,このビーカーと棒温度計を使った実験について,棒温度計の仕様上の特性を踏まえ次の2点の改善を行い,実際に小学校における授業実践を通して児童実験で100±1°Cの測定結果が得られることを確認した。1)ビーカーをアルミニウム箔の蓋で覆う際,あらかじめ棒温度計の太さよりも大きな穴をアルミニウム箔にあける。2)測定範囲0~200°Cの棒温度計を使用する。また,授業実践の際に,実験によって温められた空気が実験室にある換気口から廊下に流れ出したことに起因すると考えられる実験室内の空気の流れによって,換気口近くの実験台で実施した実験が空調環境の影響を受けている可能性が示唆された。
著者
荒川 悦雄 フォグリ ヴォルフガング 小杉 聡 小林 晋平 鴨川 仁
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.107-117, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
47

重さ,重量,重力の大きさ,及び質量についての最近の法的な単位規制を紹介し,重力単位系時代からの慣例も踏まえて,現行の小学校の理科及び算数で取り扱われている重さの意味及び単位について調べた。義務教育諸学校は計量法に則した計量単位及びその記号に国際単位系(SI)を教科書採用している。小学校第3学年の理科及び算数に於いては重さを質量の意味とともに重力の大きさの意味で導入し,定量の際の単位には質量のグラムあるいはキログラムを使用している。小学校第6学年の算数では重さという用語はそのままで,質量という用語は導入されず国際キログラム原器による質量の定義の説明がなされている。学習指導要領によって小学校の重さという用語にグラムあるいはキログラムという単位を使用することは,教育上の観点から教育段階に配慮した対応と考え,発達段階に応じた概念の分化とされている。この状況はSIに代わる前の重力単位系による記述に似る。中学校以降ではSIの定義の通りに重さは単位をニュートンに変更して重力の大きさの意味に限定するとともに,新たに単位をキログラムとする質量の概念が導入され,重さと質量の違いを概念の違いとして区別する。現行カリキュラムでは重さの意味と単位は小学校から中学校に進学すると変わる。これらが変わる事は科学的な知識を連続的に積み上げていく学習の観点からは改善の余地がある。これに対して本稿は二通りの解決策を提案する。解決策の一案は,小学校にて重さを計測するための感覚表現と学術用語とを分けることにし,質量の用語を導入することである。解決策の別案は,小学校卒業以降も重さは質量の意味に留め,現在は重さと同義語とされる重量の方を重力の大きさの意味に限定することである。これらいずれかの提案によって,義務教育諸学校にて一貫した用語と単位を使い続けることができる。
著者
大黒 孝文 稲垣 成哲
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.1-12, 2006-11-30
参考文献数
18
被引用文献数
6

近年,理科教育において,生徒の学びの場に生じる対話が注目されており,そこで生起する相互作用や概念の変容を協同学習の中で実現しようとする研究がなされている。しかし学習効果としての生徒たちの実験技能の習熟や理解度に関する研究は,ほとんどなされていない。そこで本研究では,ジョンソンら(1998)の提唱する協同学習の基本的構成要素を取り入れた実験授業を計画し,その学習効果を検討することにした。実験授業は,中学校2年生を対象にして,化学分野と気象分野の2つの単元において,協同学習の基本的構成要素を導入した実験群とそれを導大していない対照群を設定して実施した。その結果,実験群においては,対照群に比べて,次のような学習効果を確認することができた。(1)実験操作上の誤操作や器具の破損が減った。(2)学習内容の単元直後の理解度は対照群と変わらなかったが,1ヵ月後の定着が高まった。(3)実験に取り組む姿勢として,対話やアドバイスが重要であると認めるなどの変容が見られた。以上の結果から,ジョンソンら(1998)の提唱する協同学習の基本的構成要素を取り入れた授業の有効性が示唆された。
著者
沖野 信一 山岡 武邦 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.389-401, 2021-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究は,質量の科学的概念の構築を試みた授業において,沖野・松本(2011)の3段階のメタ認知的支援(方略1「素朴概念の明確化」,方略2「素朴概念の獲得過程の明確化」,方略3「素朴概念と科学概念の接続・照合」)のすべてを講じるクラス(実験群:2クラス,N=52)と方略1だけを講じるクラス(対照群:2クラス,N=43)を比較し,方略2と方略3の有無によって,どのように生徒の理解に影響を及ぼすのかについて検討することを目的とした。その結果,質量の科学的概念の構築に対して,対照群よりも実験群の方が,有効性が高まることが示された。本研究により,方略2と方略3を講じることによって,方略1で生じた素朴概念と科学的概念の間の認定的葛藤が解消され,力および質量が運動に与える影響に関して,正しく考察できるようになったことが示唆された。
著者
柚木 朋也 伊藤 雄一 浜田 康司
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.155-168, 2016-11-18 (Released:2016-12-03)
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

この研究の目的は, 中学校においてS霧箱を使用することにより放射線の飛跡を容易に観察できることを実証することである。霧箱を使用する実践については, 様々な霧箱で多くの実践が行われてきた。しかし, これまでの霧箱での実験では, ドライアイスや液体窒素が必要であった。そのため, ドライアイスの入手が難しい学校では, 霧箱の実験は難しかった。そこで, S霧箱を使用することにした。S霧箱は, ドライアイスなどの代わりに融雪剤(MgCl2∙6H2O)などの化学的な寒剤を使用する高性能の霧箱であり, 生徒が作ることも可能である。また, 線源は採取したホコリを使用した。北海道教育大学の部屋で集めたホコリは, 主にウラン系列の222Rnやその娘核種であることが明らかになった。また, 採取後1時間以内であれば十分に線源として使用可能であることも明らかになった。本研究では, S霧箱を実際に中学校で製作し, ホコリの放射線の飛跡を観察した。その結果, 身近にある材料だけで, 放射線の飛跡を観察することができた。そして, それまで観察が比較的困難であったβ線の飛跡を生徒が容易に観察できることが明らかになった。また, 授業前と授業後で生徒の放射線に対する認識の変容が見られた。これらのことから, ドライアイスが無くても, S霧箱と寒剤を使用した授業が中学生にとって有効であることが明らかになった。
著者
後藤 勝洋 五関 俊太郎
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.97-106, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究では,理科学習での実験計画の検討時に,クリティカル・シンキング能力を引き出すために,フローチャート型の実験計画表を作成して,互いに検討しあう活動を取り入れた指導法を考案した。この指導法の効果を検証するために,小学校6年生96名を対象に,「水溶液の性質」の単元で授業実践を行った。実践では,初めに,実験の手順や,実験の安全性,実験器具を明記したフローチャート型実験計画表を作成させ,次に,実験計画をグループで合意形成した後,その妥当性を,他のグループと検討する活動を行った。フローチャート型実験計画表の記述や話し合い時の批判的記述を分析した結果,実験計画力とクリティカル・シンキングが引出されることが見出された。さらに,質問紙分析により,クリティカル・シンキングの態度的側面の向上も見出された。