著者
廣木 義久 山崎 聡 平田 豊誠
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-56, 2011-07

砂の形成に関する小・中・大学生の理解を調査し,小・中学校における岩石の風化作用に関する学習の問題点を議論した。小学5学年の単元「流れる水のはたらき」の学習前の児童においては,砂の形成メカニズムに関する考えは極めて多様であるが,「流れる水のはたらき」の学習後は,侵食モデル(砂は川で石や岩が水流によって削れてできる)で説明する児童と,衝突モデル(砂は川で礫同士がぶつかり合って砕けてできる)で説明する児童が増加する(それぞれ29.9%,25.6%)。そして,中学校における単元「活きている地球」の学習後は,侵食モデルが52.5%と増加する一方,風化モデルで説明する生徒の割合は8.8%にとどまった。これらの結果から,侵食モデルと衝突モデルは小学5学年の「流れる水のはたらき」の学習で獲得され,侵食モデルは中学1年の風化・侵食作用の学習後に強化されていることがわかる。岩石の風化作用による砂の形成を理解させるための方策としては,中学校における岩石の風化作用の授業に土の学習を取り入れることが有効であると考えられる。
著者
山下 修一
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.125-132, 2007-07-31

千葉県長期研修生の研究報告書の特徴を探るために,過去20年間の資料を5年ごとに4ブロックに分けて分析した。その際に,千葉県教育研究集会(理科)の研究レポート,学会誌である理科教育学研究と比較した。長期研修生研修報告はタイトル・仮説の記述・研究方法,千葉県教育研究集会での研究レポートはタイトルと仮説の記述,理科教育学研究はタイトルについて,データベース化して比較分析した。その結果,長期研修生研修報告の特徴として以下の4点が明らかになった。(1)タイトル末表現は,1986-1990年度では「教材化」と「検討」が多く用いられていたが,2001-2005年度には「在り方」が増加して57.1%のタイトルに用いられていた(2)タイトルに含まれるキーワードは,1986-1990年度では「調査」が多く含まれていたが,2001-2005年度には「学習」が増加して75.0%のタイトルに含まれていた(3)仮説については,千葉県教育研究集会での研究レポートには1987年度当初から記述があったが,長期研修生研修報告には1994年度から記述されるようになった(4)研究方法については,事前・事後調査によって授業を検証しているものが,1986-1990年度から2001-2005年度にかけて増加していた
著者
榊原 保志 小高 正寛
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.35-44, 2007-11-30

本論はペットボトル簡易気圧計を用いた気象観測実習の新しい方法を提案した.階段を上り下りすることにより,ペットボトルに剌したストロー内の水面の変化から気圧の変化を読み取る実習である。気圧が減少/増大するとストロー内の水面は上昇/下降する。校舎の各階で気圧を観測した結果,各々の階と1階の気圧差には比例の関係があり,4階と1階には1 hPa以上の気圧差が認められた。階を上り下りする際に生じる気圧の変化量でも,水面の変化は十分読み取ることができた。気温の変化がなく,1 hPaの気圧の変化があったときの水面の変化について理論的に考察を行ったところ,ストローの半径が小さいほど,ペットボトルに入っている空気の体積が大きいほど,ペットボトルに入れる液体の密度が小さいほど水面の変位は大きくなることが分かった。エレベーターによって1階と4階を移動する実験でもおおむね同様な結果が得られた。この簡易気圧計を用いた授業を琉球大学教育学部附属中学校において実施した結果,多くの生徒が水面の変化を確認できたこと,この教具は役立ち実習が楽しいと感じたこと,そしてこの実習は天気の学習に意欲を高めることなどが分かった。
著者
杉尾 幸司 吉田 安規良 本多 正尚 松田 伸也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.115-122, 2008-11-30
参考文献数
3
被引用文献数
1

児童生徒の理科に対する興味・関心等を育成することを目的として合宿形式の学習活動「中学生サイエンスサマーキャンプ」を実施した。実施内容として,森林内部の動植物の夜間生態観察やマングローブ林の生物観察,天の川と星座の観察,小型天体望遠鏡での木星・星雲の観察,地層の観察,タンパク質と脂肪の消化実験を計画した。沖縄県のように豊かで特色のある自然環境を持つ地域においては,生物観察などの野外活動は大変魅力あるプログラムであるが,日程の変更が容易でない宿泊型体験学習において,野外活動を主体とした計画は,天候に依存するリスクが大きくなる。今回の取り組みにおいても,実施当日は台風接近による悪天候にみまわれたため,夜間生態観察の代わりに室内でのスライドを使った講義を,星座観察の代わりに天体望遠鏡の構造や天球儀を用いた天体のみかけの運動についての講義を行うなど,実施内容の一部を代替プログラムに変更した。天候の影響を受けやすい内容に関しては,効果的な代替プログラムについても十分に検討する必要がある。全日程終了後のアンケート結果からは,取り組み内容の「おもしろさ」「わかりやすさ」に関して高い評価が得られた。また,「全体の印象」「来年の参加」などの項目についても高い評価が得られるなど,実施内容は参加者に高く評価された。大学が今回のような取り組みを通して地域社会への貢献により積極的に取り組むためには,現実に即した支援体制の充実が強く望まれる。
著者
佐藤 寛之 森本 信也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.29-36, 2004-09-17
被引用文献数
1

Head,J.O.,Sutton,C.R.は,「科学概念におけるメタファー表現は,個人の認知・情意・レトリックが融合したものである。」としている。つまり丿情意的なこだわりを持ち,類推することで新しい概念の構築がなされていることを示している。子どもにおける自然事象の概念を表現する能力を養うため,理科授業においてはこうした視点に立つ類推のような論理の構築方法を学ぶ学習場面が必要である。同時に このことは情意と認知が融合した「温かい認知(warm cognition)」の有用性を示すものであり,理科の授業デザインにおける必須条件と考える。
著者
小林 丈芳 跡部 紘三 松川 徳雄 福岡 登
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.21-30, 2001-03-31

原子力・放射線教育の在り方を考えていくために,地域の生活環境が青少年の原子力等の知識やイメージにどのような影響をもたらすかを明らかにする目的で,徳島県と原子力発電所のある福井県敦賀市の中学生・高校生を対象に「エネルギー・原子力等に関するアンケート調査」を行なった。その結果,彼らの原子力・放射能・放射線に対する知識やイメージ等に関して次の点が明らかになった。現代社会において,徳島県の生徒は「火力」,敦賀市の生徒は「原子力」を最も重要なエネルギー資源と考えているのに対し,21世紀の社会では両地域の生徒共に「太陽熱・太陽光」を重要であると考えている。(2)同地域の生徒の多数が原子力・放射能・放射線についての知識をマスメディアから得ている。徳島県の生徒は「中学校」,敦賀市の生徒は「博物館・展示会」「家庭」から得たと回答した割合が高い。(3)原子力・放射能・放射線の知識に関して,徳島県の生徒は「原子爆弾」,敦賀市の生徒は「原子力関連施設」や「核燃料」に関連した用語や知識の回答が多い。また,敦賀市の生徒は,原子力等に対して「危険」とイメージする傾向にある。(4)エネルギー資源として女子は「太陽熱・太陽光」を重要であると考えている。また,原子力等の知識やイメージにおいて,男子は「危険」,女子は「原子爆弾」「有害」「恐い」「レントゲン」などを回答する傾向にある。これらの要因として,男女の知識量や感性の違い,胎児への悪影響に対する意識の違いなど教科教育以外の要因が考えられる。(5)(2)(3)より,知識の習得に関して,徳島県の生徒は中学校における平和学習,敦賀市の生徒は自治体や企業による啓発活動の影響を強く受けているものと考えられる。
著者
鐙 孝裕
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.113-124, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
11

本研究では,理科学習におけるグループ内での対話の特徴と役割を明らかにするために,3つの分析方法を用いて量と質の両面から検証することを試みた。その方法として,行動ビッグデータを収集分析するシステムの「ビジネス顕微鏡」を用いて,グループ内でのコミュニケーションの状態を可視化し,その様相と量を明らかにした。コミュニケーション量を基に,グループを2つの群に整理し,予想とまとめに記述された内容を,それぞれ大量の文章データをクラウド上で定量的・定性的に分析・可視化するテキストマイニングツールの「User Local AIテキストマイニング」を用いて分析したところ,グループ内でのコミュニケーション量が,個人の意味生成に影響を与えることが明らかになった。さらに,コミュニケーション量高位群と低位群のプロトコル分析を行なったところ,意味生成につながる発話の特徴を整理することができた。以上のように3つの分析方法を用いて明らかになった子どもの様相を基に,意味生成につながる他者との関わりを検討した。以上の研究成果は,理科学習におけるグループ内での対話の意義を高めることに貢献する。
著者
山田 貴之 松本 隆行
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.663-673, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では,初等教員養成課程学生を対象とした質問紙調査の結果に基づいて,「理科に対する興味」が「媒介要因」を経由し,「主体的・対話的で深い学び」に影響を及ぼすという因果モデルを仮定し,その妥当性について検討することを目的とした。その結果,「理科に対する興味」(「因子4:思考活性型」,「因子5:驚き発見型」)が,「媒介要因」(「因子7:批判的思考」,「因子8:学習行動」)を経由し,「主体的・対話的で深い学び」(「因子13:深い学び」,「因子14:対話的な学び」,「因子15:主体的な学び」)に直接的,間接的な影響を及ぼしていることが明らかとなった。これは,理科授業において,教師が驚きと発見のある事象や,思考を活性化させる事象の提示を工夫することで,学習者の興味が喚起されるとともに,「批判的思考」と「学習行動」が向上し,結果的に「主体的・対話的で深い学び」の実現につながることを示唆するものである。本研究により得られた知見は,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業の工夫や指導法などを充実させていく必要があるという学習指導要領の方向性と一致し,理科授業において,「主体的・対話的で深い学び」を成立させるためには,「理科に対する興味」を喚起するとともに,「批判的思考」と「学習行動」の向上を促す指導の可能性を裏付ける根拠と示唆を得ることができた。
著者
原田 勇希 久坂 哲也 草場 実 鈴木 誠
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.627-641, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

学校教育においてメタ認知能力の育成は重要視されており,理科教育学においても個人のメタ認知能力を測定するための質問紙が開発されてきた。一方,近年の研究によると,質問紙法などの自己報告による測定方法(off-lineメソッド)では,メタ認知の測定は難しいことが指摘されている。本研究ではこれまでに開発された理科教育用メタ認知測定尺度が,真にメタ認知を測定できているかを確かめるため,その収束的妥当性と弁別的妥当性を検討することを目的とした。研究の結果,メタ認知測定尺度と理科の学業成績(全国学力・学習状況調査)との間に実質有意味な正の相関が確認できなかったことから,収束的妥当性は認められないと結論づけた。また自己愛傾向や社会的望ましさ反応バイアスとの確かな正の相関が確認されたことから,弁別的妥当性は認められないと結論づけた。以上の結果をもとに,現在の理科教育学におけるメタ認知の測定方法の限界と今後の方策について考察した。
著者
平田 豊誠 多賀 優 吉川 武憲 小川 博士
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.383-389, 2020-11-30 (Released:2020-11-26)
参考文献数
10

深成岩が「ゆっくり冷えて固まる」とは一体どれくらいの時間なのか?という問いかけを小学校教員・中学校理科教員を対象に行った。本研究の目的は,深成岩の冷却固結の時間についての認識調査を小学校教員および中学校理科教員に行い,認識の比較検討を行い,冷却固結の時間に関する時間的スケールを獲得している状況を考察することである。調査は小学校教員41名,中学校理科教員155名を対象に認識調査・分析を行った。その結果,深成岩の冷却固結の時間の地質学的時間スケールにおいて,妥当な回答を行った小学校教員は7.3%,中学校理科教員は11.6%だった。中学校理科教員と小学校教員間での比較検討を行った結果,妥当な回答について有意差は認められなかった。また,中学校理科教員間での比較分析の結果,学生時代における地学専門だったかそれ以外だったか,および教員の使用している教科書会社の違いそれぞれについての有意差は認められなかった。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.321-328, 2020-11-30 (Released:2020-11-26)
参考文献数
15

学習者が明確な目的を持ち,仮説を立てて観察・実験が行われるには,その実験で確かめようとする理論だけでなく,その理論が含まれる理論体系全体が観察・実験に先だって概観されている必要がある(遠西・福田・佐野,2018)。本研究はこの視点に立って,このような「先行的了解」を保証し,明確な目的を持ち仮説を設定して実験に臨ませる小学校第5学年「電流がつくる磁力」の実践的研究である。本実践では,短文や教科書の先読みによる「テクストの通読」とより基本的な「基礎実験」の導入による「先行的了解」の形成によって,探究活動過程全体と探究活動を構成する個々の観察・実験を見通すことができた。その結果,児童は解決すべき問題を科学的な文脈の中に発見して目的を明確にし,さらに実験に方法的根拠を与えている理論を生成して仮説を設定することができた。仮説は実験を有意味なものにし,児童自身による実験の成否の評価を可能にして理解を確かなものにした。この確かな理解はそれを可能にした基礎実験に対するコミットメントを強化し,「短文」や教科書の記述の理解をさらに深めるという循環的理解を生じて,電磁石理論の体系全体への深い理解を可能にした。
著者
向井 大喜 村上 忠幸 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.455-464, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本研究では,高校生の探索的な科学的問題解決における,仮説形成の到達段階を評価する指標の開発を目指した。そこで,仮説形成プロセスのモデルを設定して評価指標を作成し,高校生に実践された探索的な科学的問題解決を実際に評価した。その結果,活動が進展している学習グループには以下の(1)~(3)が認められた。(1)実験素材への「操作」を通して「要素の抽出」が生じた。(2)要素に説明付けすることで「説明仮説の生成」が生じた。(3)説明仮説から演繹することで「作業仮説の生成」が生じた。しかし,停滞している学習グループでは,「要素の抽出」が繰り返され「説明仮説の形成」へ進まず,演繹的探究への移行が起こらなかった。このことより,本研究で提案する指標には,仮説形成の段階を評価できる可能性があることが明らかになった。
著者
志田 正訓 野添 生 磯﨑 哲夫
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.133-142, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
33
被引用文献数
2 1

本研究では,わが国の小学校理科カリキュラムに,新しい科学観を学習内容とする「科学の本質」を取り入れる際の具体的な手立てや示唆について明らかにすることを目的とした。まず,イギリスの先行研究から,「科学の本質」に関する検討を行い,本研究における「科学の本質」の概念を規定した。次に,その概念を踏まえ,イギリスのナショナル・カリキュラム科学に「科学の本質」が具体的にどのように取り入れられているのかを分析した。最後に,わが国の理科教育が抱える問題を踏まえ,「科学の本質」を導入するための具体的な手立てについて論究した。分析の結果,わが国の小学校理科に対して以下のような提案ができた。①西洋諸国とは異なる文脈を有するわが国の理科教育の性格を熟慮した上で,「科学の本質」に関する概念領域を明確に規定・分類し,カリキュラム編成においては,それらの異なる領域に合わせながら,記述の仕方に違いをもたせる必要があること。②わが国の小学生でも理解可能な科学者の業績を取り扱うといった科学史の視座に基づく新たな授業方略を導入することにより,「科学の本質」,とりわけ,社会的な営為としての科学(科学と社会との関係や科学・技術が発展してきた経緯)について,より深く学ぶことが期待できること。
著者
佐伯 英人 今村 大志 松永 武 水野 晃秀
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.27-36, 2013-07-17 (Released:2013-08-09)
参考文献数
14

チリメンモンスターとはチリメンジャコの混獲物のことである。これまで,中学校の理科の授業においてチリメンモンスターを教材として用い,授業実践を通して,その教育効果を検証した事例はみあたらなかった。そこで,本研究では,中学校理科第2学年の単元「動物の仲間」にチリメンモンスターを教材とした分類活動を単元の導入時と単元末に取り入れ,実践をそれぞれ行い,生徒の意識の変容と理解の程度を調べ,その教育効果を検証した。その結果,明らかになったことは次の①~⑤である。① 単元の導入時に行った分類活動は,生徒の興味を高めるのに有効であった。② 単元末に行った分類活動は,「脊椎動物の特徴を知っている」という意識を高めるのに有効であった。③ 単元末に行った分類活動を通して,「無脊椎動物の特徴を知っている」という意識に天井効果がみられた。④ 単元を通して,「生物を大切にしたい」という意識をもち続けていた。⑤ 単元末に行った分類活動の方が,単元の導入時に行った分類活動よりも,分類に関する理解が高いことが分かった。これらのことは,単元の導入時の分類活動は,生徒の興味を高めるのに有効であり,一方,単元末に行う分類活動は,生徒の理解を深めることに有効であることを示唆している。
著者
遠西 昭寿 福田 恒康 佐野 嘉昭
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.79-86, 2018-07-31 (Released:2018-08-22)
参考文献数
27
被引用文献数
4

「主体的な学習」においては, 行為や具体的操作よりも心的・認知的な意味での主体性が問われなければならない。本研究の目的は, 観察・実験における主体的探究者としての科学者と授業における学習者の認知的活動を比較して, その差異から授業を改善することである。その結果, 観察や実験の結果の考察においては, 観察・実験が確証をめざす当該の理論のみならず, その理論を含む理論体系の全体が学習に先行して概観されていなければならないことを示した。さらにアプリオリな理論体系の存在は, 問題の発見から仮説設定, 観察・実験の方法の決定といった一連の過程においても必然であることを示した。すなわち, 観察や実験で演繹されるべき理論(仮説)のみならず, 学習の成果として期待される理論の体系的全体の概観が, 当の学習の前提であるという循環論である。本論文ではこの問題を解決する具体策として, 教科書記述の改善と現在の教科書を使用した対応の方法を提案した。
著者
西内 舞 川崎 弘作 雲財 寛 稲田 結美 角屋 重樹
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.615-626, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
25

本研究では,学習者の理科学習の動機づけ向上のために「科学的能力」から「理科学習の意義」を認識する学習指導法を考案し,その効果を検証することを目的とした。そして,「科学的能力」について直接教授する学習と,普段の理科の学習の中で科学的能力を身に付けていると学習者自身に意識させる学習の二つからなる学習指導法を考案し,高校1年生を対象に,その効果を検証した。その結果,学習者が「科学的能力」を「理科学習の意義の認識」として認識すると,自律性の高い動機づけのうち「内発的調整」,「同一化・将来」,「同一化・成長」を向上させる指導法として有効であった。
著者
齋藤 惠介 原田 勇希 草場 実
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.107-117, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1

近年,興味をポジティブ感情(強度)と価値の認知(深さ)から捉える理論的枠組みが提唱されており,強度と深さを望ましい状態に導くことが重要である。また,これまでの大規模調査より,我が国の生徒は理科全般に対する興味の強度に課題があることが示唆されているが,観察・実験に対する興味の強度は比較的良好に保たれていることが明らかになっている。そのため興味に介入する場合,観察・実験を足掛かりにすることが考えられるが,強度と深さのどちらを先行して育成すべきであるかについて未検討な点が多い。そこで,本研究では観察・実験に対する興味の強度と深さに注目し,理科全般に対する興味の強度との関連を検討することを目的とした。結果より,“理科学習に対するポジティブ感情”と“観察・実験に対するポジティブ感情”は別因子として抽出できたため,両興味は並存しえる構成概念であるといえる。また,生徒の観察・実験に対するポジティブ感情が低い状態で深い価値の認知に介入することは,理科全般に対するポジティブ感情をより低減させてしまう可能性が示唆された。このことから,教師は生徒の観察・実験に対するポジティブ感情の強度に応じて,興味の深さに介入していく必要があるだろう。
著者
猪口 達也 後藤 大二郎 和田 一郎
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.229-242, 2018-11-30 (Released:2018-12-05)
参考文献数
12

本研究では, 主体的な学習を高める鍵となり得るメタ認知概念について, 社会性を加味した概念へと拡張し, それらの機能によって理科における資質・能力の育成に関わる問題解決活動の充実を図ることを目指した。具体的には, メタ認知概念の拡張に関して, Chiu & Kuo(2009)が提起した「社会的メタ認知(social metacognition)」の機能によってもたらされる5つの利益を援用し, 理科学習における問題解決活動の質の向上に関わる利益として捉え直した。その上で, それらの機能が問題解決活動にもたらす利益と併せて促進すると考えられる, 個人内メタ認知の活性化と科学概念構築の成立過程について, 小学校理科を事例に検討した。事例的分析の結果から, 社会的メタ認知の機能によってもたらされる5つの利益から, 問題解決活動の質の向上を捉えることが可能になった。さらに, 社会的メタ認知を通じた個人内メタ認知の機能の活性化が, 科学概念構築に寄与することが明らかになった。
著者
西内 舞 川崎 弘作 後藤 顕一
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.113-123, 2018-07-31 (Released:2018-08-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究では, 自己決定理論から動機づけを捉え「理科学習の意義の認識」が「相互評価表を活用する学習活動(以下, 相互評価活動と略す)への動機づけ」にどのような影響を与えているかについて明らかにすることを目的とした。本目的を達成するために, まず, 学習者が認識している「理科学習の意義の認識」と「相互評価活動への動機づけ」を測定するための質問紙を検討, 作成した。次に, 高校生を対象にこれらの質問紙による調査を実施し, 調査結果を基に「理科学習の意義の認識」が「相互評価活動への動機づけ」にどのような影響を与えているかについて共分散構造分析により明らかにした。その結果, 理科学習を通して, 学習者自身が, 「理科学習の意義の認識」を「科学的能力」が身に付くと捉えると, 「相互評価活動への動機づけ」のうち, 自律性の高い「同一化・成長」の動機づけに正の影響を与え, 自律性の低い「外的調整」には負の影響を与えていることが明かになった。また, 「理科学習の意義の認識」を「科学と身近な自然や日常生活の理解」と捉えると, 「相互評価活動への動機づけ」のうち, 自律性の高い「内発的調整」, 「同一化・成長」, 「同一化・将来」の動機づけに加え, 自律性の低い動機づけである「取り入れ・他者」にも正の影響を与えていることが明らかになった。つまり, 「理科学習の意義の認識」を「科学と身近な自然や日常生活の理解」と捉えると, 自律性の低い動機づけまで高めてしまう危険性が示唆されたと考えられる。
著者
原田 勇希 中尾 友紀 鈴木 達也 草場 実
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.409-424, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
27
被引用文献数
5

本研究は,中学生の観察・実験に対する興味の構造を明らかにすることと,興味と学習方略との関連性について検討することを目的とした。確証的因子分析の結果,興味の構造として階層因子モデルが採択された。すなわち,観察・実験に対する興味は,“ポジティブな感情”の程度と,“観察・実験に対する価値の認知”の直交する2つの次元から捉えられることが示されたといえる。また,ポジティブな感情の程度と“思考活性志向”には観察・実験における深い学習方略(関連付け方略など)の使用を促進する効果が見出された。一方,“体験志向”は深い学習方略の使用を抑制する効果が見出された。さらに,本尺度の因子構造を反映した尺度得点の算出方法が検証され,分析用プログラムが作成された。