著者
藤田 和史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.1-19, 2007-01-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
24
被引用文献数
4 2 4

近年, 日本の製造業は, 技術集約・知識集約型の生産システムへと変化しており, この傾向は大都市圏外に立地する中小製造業へも波及しつつある. 本稿は, 長野県諏訪地域を事例に, 変化の先進事例である試作開発型中小企業について,「知識・学習」に着目しながら, その生産および技術的存立基盤を明らかにすることを目的とした. その結果, 知識・情報の収集と習得・創造によって構成される技術学習が, 試作開発型中小企業に対して, 技術的な陶冶をもたらすと同時に, 成長の基盤を与えたことが明らかとなった. また, 技術学習に関する知識は, 機械加工に関わる暗黙知が中心であり, それらめ知識は諏訪地域内の同業者からもたらされる. これらの暗黙知が, 域内に立地する関係主体間に共有されることで, 知識を基盤とした生産体系が構築されている.
著者
桐村 喬
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.154-171, 2006-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本研究は,人口分布の変化による公立小学校通学区域の再編に焦点を当て,通学区域の最適化モデルを提示するとともに,その効率的解法として,遺伝的アルゴリズム(GA)に基づいた新たな解法を提案する.モデルでは総通学距離の最小化を目的関数とし,最大通学距離,児童数による適正規模,飛び地発生の抑制,公共施設との対応維持を制約条件とし,それらに時間軸を設けて,長期的に通学区域を維持できるようにした.また,GAを区割り問題に適応させたアルゴリズムを開発し,従来の同問題に対する解法と性能を比較した.その結果,従来の解法よりも効率よく問題を解くことができることがわかった.このアルゴリズムを用いて,児童数の変動の激しい大阪府吹田市立小学校の通学区域に対してモデルの適用を行い,その結果,(1)吹田市全域に対しては適正規模を維持して通学距離を減少させることができ,(2)市による通学区域再編案にっいてはこれがおおよそ最適解と一致することが明らかとなった.
著者
荒又 美陽
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.435-449, 2003-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26

本稿は,現代パリの景観が形成され,受容される背後にある理念をとらえることを目的としている.ルーヴル美術館のガラスのピラミッドは,激しい論争を経て完成した.この景観が,さまざまな思想の交錯の中でコンセンサスを得ていく過程を分析することにより,パリにおける景観形成の特質を明らかにし得る.ここでは,景観の象徴性と調和をめぐる議論について分析した.結果として,論争にはある種の排他性がつきまとっており,新景観には「フランス文化」を侵害しないものであることが理念的に求められていたことが明らかになった.これは,1980年代のフランスが,世界におけるプレゼンスの低下を強く意識していたことを反映するものといえよう.論争の中で,賛否双方は,既存の「フランス文化」に多くを参照しつつ議論を繰り広げた.ガラスのピラミッドは,論争を通じ,まさにフランスの景観として読み込まれることによって受容されたのである.
著者
村田 陽平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.463-482, 2004-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

今日の空間論においてジェンダーという視点は注目されつつある一方,男性という主体がその意味を的確に認識しているかは疑問の余地がある.そこで本稿では,男性によってジェンダーの視点を導入して設計されたといわれる岐阜県営住宅「ハイタウン北方・南ブロック」を事例に,この問題を検討した.具体的には,総合プロデューサーの男性建築家,南ブロックの居住者,男性建築家に選定された7名の女性設計者,施工主の岐阜県,という四つのアクターから,この居住空間の実態を分析した.その結果,この居住空間は,ジェンダーの視点を踏まえたものというより,むしろその視点が問題にしてきた男性中心的な発想で生産されたものであることが判明した.このことは,空間論においてジェンダー概念に伴うポジショナリティの意味が,男性という主体に十分に把握されていない表れであると考えられる.
著者
松本 太 三上 岳彦 福岡 義隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.322-334, 2006-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
6 7 3

本研究では東京都区部において2004年春のソメイヨシノの開花日を調査し,気温分布との関係を考察した.その結果,開花日の分布は2004年3月の平均気温の分布とよい対応を示しており,都心部の高温域で開花が早く,郊外部の低温域で遅い傾向がみられた.よって,ヒ-トアイランド現象が開花日に影響を与えていることが明らかとなった。また,開花日と3月の平均気温との関係は,温度変換日数(積算気温のモデル)を用いて,開花日に至るプロセスを評価することによって裏付けられた.各観測地点における開花日から2004年3月の平均気温を推定し,その精度を実測値との比較により評価した.その結果,推定値と実測値との誤差はほとんどの地点で±0.3°C以内で,二乗平均平方根誤差(RMSE)は0.2°Cであった.よって開花日がヒ-トアイランドなどロ-カルスケ-ルの気候環境を表す指標となり得ると考えられる.
著者
土屋 純 伊藤 健司 海野 由理
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.595-616, 2002-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

愛知県の書籍小売業は1980年代後半から急激に再編成が進んでいる.1990年代における大規模小売店舗法の運用緩和の中で,郊外のロードサイドを中心として,書籍チェーンによる大型店の立地が進んでいる.そうした大型店では,CD販売やレンタル業などの兼業化が進んでおり,大きな駐車場が設置されている場合が多い.加えて,名古屋市の都心部では都心再開発の進展とともに超大型店のテナント入居も進んでいる.このような大型店の店舗展開と雑誌を取り扱うコンビニェンスストアの発展によって,商店街や住宅地内に立地する中小型店の淘汰が進んでいる.そこで,売場面積100坪 (330m2) 以上の大型書店を事例として, GIS (地理情報システム)を用いて商圏の時空間変化(日変化)を分析した.その結果,名古屋市内では21時までには多くの店舗が閉店するために大型店がカバーする商圏範囲が縮小するのに対して,それ以外の地域では大型店の商圏がくまなく地域をカバーし,深夜になっても競争が激しいことが明らかになった.さらにロードサイド店に右ける深夜営業の実態を分析したところ,レンタル業などを併設する複合店が深夜の新たな市場を開拓していることが明らかになった.
著者
林 琢也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.635-659, 2007-10-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
39
被引用文献数
8 8 4

本研究は, 遠隔地農村において農業と地域の振興を図るために進められた観光農業の発展要因を, 青森県南部町名川地域 (旧名川町) を事例に考察した. 旧名川町は青森県最大のサクランボ産地であり, 町は1986年からサクランボ狩りを核とした観光事業を進めてきた. こうした活動の推進に際しては, 観光農業における先駆的農家と周囲の農家の組織化を促すほか, 補助事業を積極的に活用することで, 観光農業の充実を目指した地域リーダーの功績が大きかった. また, 集落レベルでの観光農業の普及においては, 専業的な果樹栽培農家に加え, 農外就業経験を有する帰農者の参加や, 集落内とその近隣地域から供給される労働力の存在も重要であった. このように, 多くの住民の協力体制の確立が, 遠隔地における観光農業の発展にとって不可欠であることが明らかとなった.
著者
波江 彰彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.178-191, 2007-04-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
40
被引用文献数
2 1

本稿では, 地域分析に従来適用されてきた重回帰 (MLR) に代わる手法としてPLS回帰 (PLSR) を提示し, その有用性と課題について検討する. PLSRはMLR適用の制約となる多重共線性やオーバーフィッティングの問題を回避でき, 複雑な構造を持つ事象の分析と予測精度の高いモデル化を可能にする. 本稿では, 福井県の市町村間にみられる1人当たりごみ排出量の地域差についてMLRとPLSRを適用して分析し, 両者の結果を比較した. PLSRの結果, 説明変数群は二つの潜在変数に要約され, これらの潜在変数が表す地域特性によって1人当たりごみ排出量の地域差は効率よく説明された. また, MLRで有意と認められた3変数に加え, 新たに11変数が1人当たりごみ排出量に有意に影響を及ぼしていることが示された. 一方, PLSRの課題としては, 回帰係数の有意性検定の改良, 空間的従属性や空間的異質性を持つデータへの対応などが挙げられる.
著者
佐野 静代
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.19-43, 2003-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
8 2 2

本研究では,歴史地理学的手法による環境問題研究の可能性を再検討することを目的とし,琵琶湖沿岸域の淡水性潟湖である入江内湖を対象に,主に近世以降の景観を分析することから地域住民の生業活動と内湖の環境変化を論じることを試みた.内湖の生態的条件に応じて形成された環境利用システムの実態を,近世以来の文書・絵図資料から検証し,人間を含めた生態系としての水陸漸移帯の全体像と,その崩壊メカニズムを解明した. 入江内湖の生態的環境とその伝統的環境利用システムの崩壊は,昭和初期の水位低下に伴う生物資源の減少と,同時期に生起した農・漁複合生業形態から専業的活動への生業変化を契機としていたことが明らかになった.漁携・藻取り・ヨシ刈りなど多様な価値を含んでいた内湖=水陸漸移帯の「空間の多義性」が捨象され,「農地への転換可能地」という単一の価値観へと収斂されていったことが,干拓促進の要因となったことを指摘した.
著者
Hiroyuki KUSAKA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.361-374, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
139
被引用文献数
14 18

A review of urban climate studies in Japan since 1980 is presented. First, we describe recent research on an urban heat island. In this section, we focus on the heat island with a scale larger than a single city, heterogeneous temperature distribution in an urban district, and quantitative analysis of the formation mechanism of the heat island using numerical models. We then summarize the interaction between a sea breeze and a heat island. Cloud formation and precipitation over the urban area are also summarized. Furthermore, recent studies on the estimation of urban surface parameters and anthropogenic heat maps are briefly described. Observational studies on the urban canopy layer are also introduced. Some recent studies on urban planning are introduced, focusing on the cooling effect of parks and rivers on the urban temperature. Finally, we conclude the review by describing ongoing work.
著者
島津 俊之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.14, pp.887-906, 2007-12-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
137
被引用文献数
1 1

近年の英語圏地理学史研究では, 地理的知識の生産・流通・消費における空間の意義を問題化する知の空間論の視点が勢いを増している. 本稿では, 京都帝国大学教授として日本で最初の地理学教室を主宰した小川琢治が, 紀州を中心とする多様な空間的コンテクストの中で, 地理学に関わる思想・実践をどのように育んでいったのかを検討した. 少年期に紀州で育まれ, 後年の中国歴史地理研究に活かされた漢学の素養は, 不眠症に陥った青年期の小川を熊野旅行へと導いた. 熊野の物質的景観との遭遇は小川の地学への志向性を呼び覚まし, そこでは地表の外形や地表諸現象の相互関連への関心が表明された. 慶応義塾で地理学を教えた紀州出身の養父の理解は小川の理科大学地質学科入学を可能にし, 地学への志向を標榜する地質学教室は彼の地理学的想像力の内的進展を促した. 知の空間としての東京地学協会は, 小川に地理学を新たな専門分野として明視させる契機を与えた.
著者
大呂 興平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.10, pp.547-566, 2007-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
40
被引用文献数
2 6 2

北海道では1950年代後半以降, 肉用牛繁殖部門が急成長してきた. この成長は, 異なるタイプの経営が複雑に展開することにより実現されたものである. そこで本研究では, 北海道の代表的な子牛産地である大樹町を事例に, 肉用牛繁殖部門の成長過程を, 経営群の進化という概念により考察した. 経営群の進化とは, 地域の経営群において特定のタイプの経営が増減し, 経営群の構成が変化する過程をいう. 本研究ではこの過程を, 個々の農家が経営タイプを変化させる際の, 資本装備の導入, 適応的な技術習得過程, 維持という三つの局面に注目して説明を試みた. 大樹町の肉用牛繁殖経営群では, 時間の経過とともに小規模経営, 中規模経営, 大規模経営という異なる技術的特徴を持つ経営が現れ, それらが地域の基幹農業部門の動向や補助事業の実施などと関連して複雑な展開を示した. 小規模経営は, 農家の副収入源として, 他部門の動向に規定されながら広範に展開した. 中規模経営は, 他部門に対して所得が劣るため, 主に畑作の冷害や子牛価格の高騰時に一時的に成立した. 大規模経営は, 酪農や畑作に生計を依存できない少数の農家が, 大型補助事業を利用することで成立し, 技術力の違いによる収益格差を伴いながら展開した.
著者
富田 啓介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.335-346, 2006-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

都市近郊のため池密集地域である愛知県知多半島中部を事例にして,1998年から2002年の期間におけるため池の減少率を,それぞれのため池周辺に卓越する土地利用別に検討した.調査の結果,ため池は,圃場整備の行われていない農地や,農地に宅地が無秩序に進出しているような用途混在地に多く分布していた.そこでは受益面積のない貯水量の小さいため池が多くを占め,減少率が高かった.一方で,宅地や圃場整備の行われた農地ではため池の分布数は少なかった.そこに存在するため池は,受益面積が比較的保持され,貯水量が相対的に大きいという特徴を持ち,減少率は低かった.以上のことから,土地造成が行われていない地域において,利用価値の低下を理由として小規模なため池が放棄され消滅が進んでいること,宅地や農地のための土地造成が行われている地域においては,利用価値のある大規模なため池が選択的に残されていることが確認された.
著者
木村 オリエ
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.111-123, 2006-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
40
被引用文献数
4 9

本稿は大都市圏郊外地域を対象とし,地域社会において新たな社会関係作りを試みようとする男性退職者の郊外コミュニティへの参加を考察し,これを通して明らかになった彼らの社会関係再構築の可能性と課題を検討した.近年,郊外地域に住む多くの勤労者が定年退職を迎え始め,居住地で過ごす時間が多くなった.しかしながら,郊外コミュニティとの接点を持てない孤独な男性退職者の存在が社会問題となっている.だがその一方で,郊外コミュニティで自発的に社会関係を築こうとする男性退職者たちの存在も見逃せない.そこで本稿は,男性退職者が郊外コミュニティに向き合う一つの手段としてコミュニティ活動に着目し,活動への参加状況を把握するためにアンケート調査,および彼らがこれらの活動に参加するプロセスを検討するために聞取り調査を行った.その結果,男性退職者のコミュニティ活動では,「自己の生活の充実」を目的とした活動への参加が,またこれに至る過程では妻など仲介者に依存する側面が大きいことがわかった.しかし活動に参加する退職者の中には,「コミュニティの充実を図る」という目的で活動を行う一面もみられた.彼らは,勤め人として培ってきた知識や経験を活かすかたちで新たに郊外コミュニティへの参加を可能にしているのである.
著者
高橋 健太郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.14, pp.987-999, 2005-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29

本研究において,中国寧夏回族自治区を事例として,回族のイスラームの聖者廟(ゴンベイ)への参詣の実態と特徴,およびその宗教活動が教坊(モスクを中心とする地域社会)へ与える影響について検討した.調査地域においては,聖者廟は,スーフィー教団のものとそれに属さない教宣者を祭ったものとに大別され,回族住民は教坊ごとにそれらへの集団参詣を行っている.参詣の主な目的は,現世利益の獲得,聖者の霊への接近,死後の平安の祈念と多様であり,レクリエーションも兼ねている.聖者廟参詣の際には,交通手段の確保や廟への施しの取りまとめ,儀礼の遂行などで教坊が重要な役割を果たしており,集団参詣を通して,人々の間で教坊の存在意義が再確認されている.また,特に男性にとって,聖者廟参詣は自身の宗教知識や敬虔さ,経済力を示す機会となっており,この宗教活動を通して,教坊内における社会的地位を向上させている人もいることが明らかになった.
著者
吉田 雄介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.8, pp.491-513, 2005-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
43

本稿では,イラン・ヤズド州メイボド地域における1980年代以降のズィールー(綿絨毯)の衰退過程を,現役生産者32名への聞取り調査とメイボド・ズィールー生産者協同組合所蔵の資料調査に基いて検討した.生産量・生産者数ともに激減する中で,ズィールーの生産構造は,少数の主力生産者と多数の兼業者という二極分化が生じた.近年のズィールー生産の特徴の一つは,専業の生産者数がきわめて少なくなったということであり,もう一つの特徴は多くの生産者は日雇労働などと兼業でズィールーを生産するという多就業化である.このように,メイボド地域のズィールー生産は,本業から多就業の一選択肢へと位置づけが変化した.それは,ズィールー生産は単体では存在し得ず,多就業の一環として存続し得るにすぎなくなったことを意味する.そして,こうした多就業的なズィールー生産を可能としているのは,外的な要因としては,イランの経済構造の変化による臨時・日雇の就労機会の増加であり,内的な要因としては,ズィールー製織の柔軟性と産地の集積の利益としての組合の存在にある.
著者
富永 隆 貞広 幸雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.743-758, 2003-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1 4

本研究では,学区を構成するさまざまな物理的環境に焦点を当て,GIS上の空間データを用いた学区再編案の導出手順を提示し,東京都北区の小中学校統廃合問題に適用した.特に各中学校区が複数の小学校区を包含する学区形態(スクールファミリー)に注目し,学区再編におけるスクールファミリーの導入を検討した.実証分析ではいくつかの通学条件を目的変数として区割りを最適化することで具体的な学区案を導出し,得られた学区案における通学環境を定量的に測定,比較評価した.分析の結果,スクールファミリー導入により通学距離は増大するが,最大通学距離を制約条件とすることで現実的な通学距離に抑えることが可能であることがわかった.また,現状および学校統廃合時のいずれの学校配置においても,学区再編時にスク-ルファミリーの導入は物理的に可能であることが確認できた.したがって,スクールファミリーは学区再編の議論における一つの現実的な選択肢であるといえる.
著者
関根 智子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.725-742, 2003-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
4 4

本研究では,千葉県松戸市における眼科医院を事例として,都市施設への近接性の安定度を時空間的に分析した.GISを利用して町丁・字の中心から眼科医院への最短道路距離を測定し,近接性の測度とした.この近接性を,測定対象数の変更(第2近隣施設の考慮),測定地域単位の細分化(100メートル・メッシュ),診療時間の考慮,の三つの側面から分析し,安定度を考察した.その結果,測定対象数の変更では,近接性の良い地区でも,施設の分布密度が下がると,安定度も急激に低下することが明らかになった.居住地の地域単位を100メートル・メッシュに細分化すると,20%の町丁・字では,その地区面積の半分以上で100メートル・メッシュの近接性と異なり,安定度が低かった.診療時間を考慮すると,市内の第1の中心地周辺では近接性は安定している一方,第2,第3の中心地周辺では大きく低下していることがわかった.
著者
廣内 大助
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.119-141, 2003-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

北陸地方南部に位置する福井平野には,平野東縁山麓部の活断層と,1948年の福井地震の震源断層とされる伏在断層(福井地震断層)が分布する.本研究では,これら活断層の活動と,福井平野の地形形成との関係を考察した.福井平野東縁地域には, M1~M3の3面の海成段丘面と, Mf・Lf1~Lf3面の4面の河成段丘面が分布する.平野東縁に分布する活断層は段丘面に累積的な変位を与え,その上下平均変位速度は約0.1~0.3m/ky程度である.これら活断層の変位によって,平野東縁での,山地と丘陵,丘陵と平野の分化が進んだ.左横ずれ活断層であると考えられる福井地震断層は,沖積低地に分布するため,変位地形は不明瞭である.しかし,断層に沿った地下の基盤高度は断層を挟んで北東と南西で高く,北西と南東で低いという特徴がある.また,地震断層北部東側ではM2面は分布高度が高く,北北西方向へ傾動している.これらの特徴は,左横ずれに伴う上下変位が累積していることを示しており,計算から求められた福井地震時の上下変位量分布とも矛盾しない.
著者
有留 順子 石川 義孝
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.44-55, 2003-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
55
被引用文献数
1 1

本稿では,東京大都市圏の事例企業を対象に,テレワークの代表的な形態である分散型オフィスでの業務内容とオフィス立地の特色を明らかにした.データは,主に企業のテレワーク推進者への聞取り調査から得た.情報・通信技術の進展により,分散型オフィスでは,文書作成など個人単位の業務がより効率化されただけでなく,従来は対面接触が不可欠であった会議などのグループ単位での業務形態も変わりつつある.分散型オフィスは,東京大都市圏の南西部,都心から約30kmの圏内に多く立地している.調査事例では,分散型オフィスへ勤務地を変更した就業者は,全般的に通勤時間を大幅に短縮していた.