著者
渡辺 理絵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.248-269, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

本稿は,近世の農村社会における天然痘の伝播過程について,村落間・村落内・世帯内の三つの空間スケールを設定し,伝播が起きる人々の社会的なつながりや行動様式,習俗などを加味して考察した.1795~1796年,出羽国中津川郷で起きた天然痘流行は罹患者の大半が10歳以下の子どもであった.子どものモビリティの低さから,周囲の村へ急速に天然痘が伝播することはなく,最近隣村への伝播に1ヵ月を要するほど,村落間における伝播速度は緩慢であった.また積雪などの気象条件や農閑期の副業労働は,子どものモビリティに影響を及ぼす伝播の障壁効果となり,農閑期,降雪期の村落間の伝播は一層緩慢であった.村落内の伝播は,子どもの異年齢集団による行動様式を反映し,集団感染に近い特徴を有している.同世帯における兄弟間の発症率も高い.患児を隔離するような天然痘対策を採らなかった当該地域において,収束までに流行開始前における未罹患者の8割以上が罹患し,次の流行を迎えることとなった.
著者
森川 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.421-441, 2011-09-01 (Released:2015-10-15)
参考文献数
46
被引用文献数
4 2

「平成の大合併」を通勤圏(日常生活圏)や国土集落システムとの関係から考察した結果,「昭和の大合併」では中心地システムへ適合するかたちの合併が多かったが,高度経済成長期を経て大きく変化した国土の中で実施された「平成の大合併」では,国土集落システムへの適合が基本的条件となった.過疎地域が広い面積を占める地方圏では小規模町村の多くが合併したが,市町の規模が大きく財政的にも豊かな大都市圏内の市町村では合併は比較的少ないままにとどまったので,住民生活における地域格差をむしろ拡大することとなった.通勤圏の未発達な山間僻地や離島には未合併町村が多く残されているが,通勤圏や日常生活圏を全く無視した市町村合併は少ない.
著者
矢部 直人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.301-323, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
27
被引用文献数
6 3

本研究は,裏原宿における小売店集積が形成された要因を検討した上で,集積内部の小売店におけるアパレル生産体制の特徴を明らかにすることを目的とする.裏原宿に小売店の集積が形成された要因は,店舗の供給側から見ると,1980年代後半のバブル経済期に,不動産開発が住宅地の内部まで進んだことが大きい.一方,店舗に出店するテナント側では,友人の紹介など人脈に頼った出店が小売店集積のきっかけとなっていた.小売店のアパレル生産体制の特徴は二つあった.一つは,消費者の情報を商品企画に生かす姿勢が強まったことであった.もう一つは,小売店が企画機能のウェートを高め,生産を海外に依存するようになったことである.小売店が生産機能を海外に外注するにあたっては,原宿の近隣に立地する商社が果たす,海外企業との仲介機能の役割が大きいことが明らかになった.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.151-175, 2010-03-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
37
被引用文献数
2 1

本稿は,都市内部の居住者特性に関する入力変数の情報を最大限に活用した類型化および可視化手法としての自己組織化マップ(Self-Organizing Map: SOM)の有効性や網羅性を示すことを目的としている.SOMでは「マップ」と呼ばれる2次元空間を利用して,居住者特性の時空間的な変化を示すこともできる.そこで本稿では,SOMを用いて,阪神・淡路大震災前後の神戸市の既成市街地における時空間的な居住者特性の変化を明らかにする.SOMおよび「マップ」による分析の結果,被害が大きく,利便性の高い地域における若年層の増加や,製造業中心の地域における失業率の悪化や高齢化といった,従来の個別の事例研究において得られた成果と同様の結果が確認された.また,「マップ」によって,震災直後の居住者特性が従前よりも多様化したことが示された.こうしたことから,SOMは,都市内部における居住者特性の分析に対して非常に有効であり,網羅的に検討できる手法であることが示された.
著者
羽佐田 紘大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.118-137, 2015-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
53
被引用文献数
4 5

濃尾平野で得られた合計2,701本のボーリング柱状図の土質区分とN値によって,沖積層を基底礫層,下部砂層,中部泥層,上部砂層,沖積陸成層,人工改変層に区分した.この層序区分と218点の14C年代値によって,地層境界面および等時間面標高データベースを作成した.これらのデータベースを基に,GISを用いた空間解析を行い,沖積層の3次元構造と堆積土砂量を復原した.その結果,中部泥層よりも下位面には谷地形が認められること,その谷地形はデルタの前進に伴う中部泥層や上部砂層の堆積によって埋積されていったことが明らかになった.また,1,000calBP以降は,沖積陸成層の堆積域が現在の三角州まで達し,陸上デルタが広範囲に拡大した.過去6,000年間の堆積土砂量は約211015gと推定される.特に,1,000calBP以降に急激な増加が認められる.これは,流域における農耕や森林伐採といった人為的影響によって土砂生産量が増加したことに起因すると考えられる.
著者
網島 聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.38-59, 2014-01-01 (Released:2018-03-22)
参考文献数
50

近代日本の大都市内部では,工業と商業が密接に結びついた同一産業集積が展開したが,そこでは同業者の相互関係に基づく「調整」が集積の維持発展に重要な役割を担ったと考えられる.本稿は,大阪道修町の医薬品産業同業者町に着目し,近代日本の経済システムが変化した戦間期において,取引関係の変化が「調整」と集積のあり方にどう影響したかを検討する.第一次世界大戦による輸入医薬品の途絶により,国内医薬品業界は国産製薬業を本格化させる必要性に直面した.大阪の医薬品業界では,製薬業に進出した問屋を頂点とする流通系列化の構造的変化が起こった.これは,大阪道修町における問屋・卸売業者間の「調整」に影響を与え,同業者の協調的で水平的な関係に依拠した利害対立の「調整」が,系列ごとの垂直的で対立的な関係を踏まえたものへと変化した.戦間期において,道修町の見かけの集積は維持されたが,内実は製薬業の営業拠点集積へと変質した.
著者
栗林 賢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.436-450, 2013-09-01 (Released:2017-12-08)
参考文献数
13

本稿は,青森県における集出荷業者を経由したリンゴ流通の特性を,集出荷業者の集出荷戦略の視点から検討した.集出荷業者は出荷するリンゴの品質を最重視する一方で,集荷基準を提示すると農家が出荷を中止する可能性があることから,集荷基準を提示せずに農家からリンゴを集荷している.この集荷・出荷間の矛盾を解消するために,集荷では仲買人を雇用して農家の選別をしたり,意図した品質のものを買付けできる産地市場を利用している.また,出荷では長期的な関係を築くことで取引先にリンゴの特質を理解してもらうなどの方策をとっていることが明らかになった.また,集出荷業者は農家から集荷する中で,運搬労働力や資材の提供をすることで有袋栽培を行う小規模農家群の経営を支え,4月以降の出荷を安定したものとしている.このように,集出荷業者が出荷・集荷間の矛盾を解決した結果として,現在の集出荷業者を介したリンゴ流通は成り立っている.
著者
梶田 真
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.108-127, 2014-03-01 (Released:2019-07-12)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿では,福島第2原子力発電所が立地する福島県富岡町を事例に,原子力発電所の経済効果の世代間の差異に焦点を当て,原子力発電所の建設・稼働による地域社会・経済の再編および経済効果の変化の受容について検討した.主に文献・統計資料を検討した分析の結果,経済面では原子力発電所関連産業を中心とした構成に再編され,社会面では①在来住民,②原子力発電所の建設以降に流入・定着した住民,③流動性の高い短期在住者,の三つのグループに再編され,地方圏一般とは異なり,②や③の人口が大きな構成比率を占めていることが明らかになった.また,原子力発電所依存経済の時期限定性の問題は,このようなかたちで再編された地域社会の下で出現し,②のグループ,特に原子力発電所建設期に青年層として流入し,人口規模のピークを構成している1951~1955年生とその周辺のコーホートに最も大きな影響を与えていることも示された.
著者
遠藤 匡俊 土井 宣夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.505-521, 2013-11-01 (Released:2017-12-08)
参考文献数
77
被引用文献数
2

1822(文政5)年の有珠山噴火の火砕流・火砕サージにより南麓のアブタ集落が被災したが,死亡者数は明確ではなかった.本研究では,史料を用いて災害の発生過程および被災状況の詳細を復元することで,アイヌの死亡者数を確定し,アブタ集落のアイヌの居住者数と災害時の滞在者数を明らかにした.滞在者数に対する死亡率は非常に高く,火砕流・火砕サージに遭遇した際には生存の可能性が低いことを示した.一方,居住者数に対する死亡率は低かった.当時のアブタ集落は和人の社会経済活動に深く組み込まれた強制部落(強制コタン)として知られてきたが,10月から翌年3月ころにかけて行われていた季節的移動は主体的・自律的な行動であった可能性が高い.被災を免れたのは,多くのアイヌの人々が自らの食糧となるサケ(鮭)を漁獲するためにシリベツ川上流域へ季節的移動をしており不在であったことが一因という解釈を提示した.
著者
髙根 雄也 日下 博幸 髙木 美彩 岡田 牧 阿部 紫織 永井 徹 冨士 友紀乃 飯塚 悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.14-37, 2013-01-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
52
被引用文献数
1

これまで調査されてこなかった岐阜県多治見市と愛知県春日井市の暑熱環境の実態を明らかにするため,2010年8月の晴天日に,両市の15地点に気温計を,2地点にアスマン通風乾湿計と黒球温度計をそれぞれ設置し,両市の気温と湿球黒球温度WBGTの実態を調査した.次に,領域気象モデルWRFを用いて気温とWBGTの予測実験を行い,これらの予測に対するWRFモデルの有用性を確認した.最後に,WRFモデルの物理モデルと水平解像度の選択に伴うWBGT予測結果の不確実性の大きさを相互比較するために,物理モデルと水平解像度の感度実験を行った.その結果,選択した物理モデルによって予測値が日中平均で最大8.4°C異なること,特に地表面モデルSLABは観測値の過大評価(6.8°C)をもたらすことが確認された.一方,水平解像度が3 km以下の場合,WBGTの予測値の解像度依存性は日中平均で最大0.5°Cと非常に小さいことが確認された.
著者
鎌倉 夏来
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.138-156, 2012-03-01 (Released:2017-02-21)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

本稿の目的は,首都圏近郊の東海道線沿線における大規模工場用地の利用変化と存続工場における研究開発機能の新展開を分析することである.首都圏に古くから立地してきた大規模工場は,特に都心に近接している場合,その多くがすでに閉鎖し,オフィスビルやマンション,商業施設に変化していた.しかしながら,マザー工場として生産機能を維持することで,あるいはまた研究開発機能を強化することで,存続している拠点も存在している.特に2000年代以降の研究開発機能の変化としては,1)製造機能と研究開発機能との近接性を重視した研究開発機能の強化,2)顧客志向の研究開発拠点の増設,3)シナジー効果の創出を目的とした集約型研究開発拠点の新設といった点があげられる.
著者
池田 真利子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.4, pp.281-310, 2018 (Released:2022-09-28)
参考文献数
82
被引用文献数
1

本研究の目的は旧西ベルリン市インナーシティ,ノイケルン区ロイター街区におけるジェントリフィケーションの複合的過程を明らかにすることである.まず,ジェントリフィケーション指標モデルを援用し,機能・社会・構造・シンボルの各価値上昇を検証した.次に2000年代後半から増加した新利用(アート関連利用・新しい小売業・新しいサービス業)の地理的特徴や建造年代との関係性を明らかにした.また,新利用の事業主に対する聞取り調査からは,対象地域の商業環境の変化と要因を明らかにした.その結果,対象地域は初期に再活性化の様相を呈していたがジェントリフィケーションへと変容した点,シンボル的価値上昇がそのほかの価値上昇を誘発する点,中でもカフェ・バー,レストランのシーンガストロノミーがナイトライフ街区形成を促す点,それらが商業環境の変容に寄与する点から,ジェントリフィケーションにおいて文化・消費の役割が大きいことを示した.
著者
松宮 邑子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.47-71, 2019 (Released:2022-09-28)
参考文献数
53
被引用文献数
6 1

本稿では,体制移行後のウランバートルで転入人口の増加とともに拡大した居住地「ゲル地区」を対象に,ゲル地区という住まい空間が形成され拡大していくマクロな過程を,居住者個々の移住・移動・定着というミクロな実践から描き出す.ゲル地区の形成は,遊牧生活に由来する住居「ゲル」,所有権を付与された広い土地,親族関係の紐帯に基づく居住地移動によって担われてきた.これを象徴するのが,移住や移動において活発に実践される親族のハシャー(居住区画)での一時的なゲル居住である.ゲル地区は,居住者が自らのハシャーを取得していく過程で外縁部へと拡大すると同時に,内部において固定的な家屋が建設されることで恒久化が進む.さらに居住者は,自らが定着を進める過程で新たなゲル居住者を受け入れていく.ハシャーという個々の空間につねに定住性と遊動性を有しながら,居住地としての恒常性を獲得してきた点に,ゲル地区という住まい空間の固有性が見出せる.
著者
羽佐田 紘大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.187-210, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
121
被引用文献数
1

濃尾平野,矢作川下流低地の堆積土砂量を基に,木曽三川・庄内川および矢作川流域における完新世中期以降の侵食速度を1,000年ごとに求めた.過去6,000年間の侵食速度は,木曽三川・庄内川流域で0.29~0.55mm/yr,矢作川流域で0.15~0.29mm/yrと算出された.流域の平均傾斜から推定した侵食速度は,それぞれ0.45,0.16mm/yr,また,体積計算範囲外側の土砂堆積を考慮した侵食速度は,それぞれ0.37~0.64,0.26~0.48mm/yrとなった.これらの値には桁が異なるほどの違いはないことから,低地の堆積土砂量から流域の長期的な侵食速度の傾向をある程度見出すことが可能であると指摘できる.ただし,矢作川流域の各侵食速度の差については,三河湾の土砂堆積の過大評価や山地に分布する花崗岩類の崩壊のしやすさが影響した可能性がある.体積計算範囲外側における土砂堆積の考慮の有無にかかわらず,両流域の侵食速度は1,000年前以降が最大であった.これは流域での森林伐採などの影響によると考えられる.
著者
坂本 優紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.229-248, 2018-05-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
48

本稿は,長野県松川村におけるスズムシの鳴き声の地域資源化に着目し,サウンドスケープの持つ地域資源としての有用性を明らかにしたものである.観光資源の少ない松川村では,居住地の異なる住民主体の二団体により,スズムシの鳴き声という聴覚的地域資源を活用した取組みが行われてきた.スズムシの鳴き声は,古くから住民に親しまれており,地域資源としての活用が問題なく受け入れられた.しかし二団体の活用方法は異なっており,その要因として音を聞いてきた環境の違いによる,サウンドスケープの差異が指摘できる.また松川村においてスズムシの鳴き声は,地域アイデンティティ醸成の機能を果たしたが,特に注目すべきは,地域資源化の過程において,地域に対する再理解と新たな視点の獲得が行われたことである.本稿における考察の結果は,視覚的景観を重要視してきた日本の地理学において,聴覚を用いた地域理解の可能性を広げる点で重要な意義を持つ.
著者
荒井 良雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.279-299, 2017-07-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
55
被引用文献数
3

本稿では,国際交通・通信インフラの変遷を検討することによって,近代日本のグローバル化の過程を論じた.日本のグローバル化は19世紀末に最初の国際定期航路・電信線が整備された段階で,英国の植民地統治を支える交通・通信システム(「英国グローバルシステム」)に組み込まれる形で始まった.産業革命後の英国はインドや中国への交通・通信ルートを拡大していったが,「極東」日本はその延長上に位置し,日本から見た西廻りルートが成立した.一方,太平洋を渡る東廻りルートは米国主導で整備され,日本は新興の「米国グローバルシステム」に否応なく組み込まれた.日本は,国策として定期航路や通信網を維持し,両ルートを確保し続けたが,第二次大戦後は航空輸送や衛星通信の発達,さらには20世紀末のインターネットと光ケーブル網の発達によって米国のプレゼンスが拡大すると,「米国グローバルシステム」へ急速に傾斜することになった.
著者
崎田 誠志郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.300-323, 2017 (Released:2022-03-02)
参考文献数
45
被引用文献数
4 1

本研究では,第1種共同漁業であるイセエビ刺網の自主的管理を共同体基盤型管理(CBM)ととらえ,和歌山県串本町の11地区を事例として,同一地域内におけるCBMのミクロな多様性とその形成要因を検討した.イセエビ刺網のCBMを構成する手法は,空間管理,時間管理,漁具漁法管理,参入管理の4類型に分類される.イセエビ刺網の実態や傾向がある程度地理的なまとまりを伴いつつも地区間で異なっていたように,CBMのあり方もまた,地区間・手法間でさまざまな異同がみられた.これらの事例の比較検討から,CBMのミクロな多様性は,地区の自然的・社会的諸条件とその変動に対する漁家集団の応答の積み重ねによって形成されてきたことが明らかとなった.また,CBMが改変・維持される目的にも地区間・手法間で多様性がみられ,漁家集団の性質や意向を反映しながら,CBMの多様化を方向づけていた.
著者
杉山 武志 元野 雄一 長尾 謙吉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.159-176, 2015-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
29

本稿は,電気街として知られる大阪の日本橋地区の「趣味」の場所性を考察した.近年の電気街には,ゲームやアニメなど新たな「趣味」に関わる消費者や供給者の集積が顕著であり,こうした集積を日本橋地区の店舗の分布ならびに人が集まる場所の特性から分析した.日本橋では近年,「オタロード」と呼ばれる地区への店舗集積が顕著となっており,地域の活力の拠点も「オタロード」へ移行しているようにみえる.しかし,実際には「日本橋筋商店街」から生じた新たな業種が「オタロード」へ広がる傾向がみられた.その上で,サブカルチャーを趣味にもつ消費者や供給者が集積する要因として,1)日本橋ストリートフェスタにみられるような開放的な場所性がサブカルチャーという趣味的活動の支えになっている,2)サブカルチャーに対する経営者の意識変化,すなわち,集団的学習の経験による「寛容性」の醸成が開放的な場所の生成につながっている,ことを指摘した.
著者
秋元 菜摘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.314-327, 2014-07-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

地方都市郊外では,高齢化に伴い自動車に依存しない生活環境を実現する必要性が高まっている.富山市のクラスター型コンパクトシティ政策は,郊外拠点と都心を結ぶ公共交通の運行頻度の向上と,公共交通沿線に設定された居住推進地区への人口の集約化を軸として,日常生活におけるアクセシビリティ問題の解決を図るものである.本研究では同政策の内容に即した条件を設定し,富山市婦中地域において生活関連施設へのアクセシビリティをシミュレーションすることで政策の効果を定量的に示した.その結果,周辺部の50%以上の人口が居住推進地区に移住した場合にアクセシビリティが最も改善されることが明らかになった.また,高齢者は周辺部での居住比率が高いためにアクセシビリティが改善されやすいことも判明した.中長期的視点から高齢者を中心として居住推進地区への移住を促進しつつも,短期的には公共交通の運行頻度を高めることがアクセシビリティの改善に効果的である.