著者
佐藤 洋一 衣川 太一
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.5, no.s1, pp.s9-s12, 2021 (Released:2021-04-20)
参考文献数
7

占領期のパーソナル写真は、アメリカ人など外国人が撮影された写真がデジタルアーカイブとして紹介されているが、撮影場所などの明確なキャプションがないものが大半である。また戦災による被災箇所を写した都市部の写真も一定数存在し、都市史的にも貴重だが、撮影地点が同定されず、写真史料としての限界を作っている。こうした限界を打開する方法はないか。本稿では占領期のパーソナル写真を事例として、写真撮影地点の同定作業を進めるための一般的な方法的枠組みを提示することを試みる。
著者
福島 幸宏
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.95-98, 2021-04-01 (Released:2021-06-01)
参考文献数
9

歴史資料、特に紙資料のデジタルデータ作成とデジタルアーカイブ構築について、筆者が直接関わった、京都府行政文書と東寺百合文書の事例を紹介しつつ、その課題を述べる。京都府行政文書は修理事業にともなってデジタルデータを作成し、東寺百合文書は従来の蓄積を活かしてデジタルデータとデジタルアーカイブを構築した。さらに、被災資料レスキューの議論や博物館・文化財保護・歴史学で論じられている、文化財修理の現在の動向も紹介し、それらからデジタルアーカイブが学ぶことが多いことを論じる。
著者
木戸 崇之
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.181-184, 2020 (Released:2020-04-25)
参考文献数
2

2020年1月、朝日放送グループは阪神淡路大震災の取材映像、約38時間分1970クリップを公開した。1995年の発生から四半世紀が経過し、中心被災地の神戸市ですら、震災を経験していない住民が半数近くにのぼっており、被災経験や教訓の伝承が課題となっている。公開映像には被災者の顔が映り込んだものやインタビューも多数盛り込んだが、被取材者本人や近親者からの公開取りやめの要望は寄せられていない。アーカイブ公開においてしばしば課題となる肖像権の問題をどのように検討したか、公開に向け掲げたポリシーと具体的な作業内容を報告する。
著者
渡邉 英徳 小林 正明
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.250-255, 2020-07-01 (Released:2020-08-24)
参考文献数
6

私たちは、社会に“ストック”されている1964年大会の資料を“フロー”化するコンテンツ「東京五輪アーカイブ1964~2020」を制作した。デジタルアースを用いて過去と現在の風景を重ね合わせることによって、ばらばらの粒子のように“ストック”され、固化していたデータが結び付けられ、液体のように一体となって流れる“フロー”となる。この“フロー”をさまざまなデバイスを通して生み出すことにより、資料についてのコミュニケーションが創発し、情報の価値が高まる。その結果として、56年前・1年後の五輪が、ひとつの流れのなかに位置付けられ、過去に学び・未来に活かす「継承」の機運を生み出せると、私たちは考えている。
著者
稲葉 あや香
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.e11-e15, 2022 (Released:2022-04-04)
参考文献数
20

本稿は日系カナダ人財産没収を主題とする「不正義の景観(LoI)」アーカイブを事例に、デジタルアーカイブが日系カナダ人の想起に与える影響を考察する。LoIアーカイブは学術資料、日系カナダ人の集合的記憶、家族の記憶という3つの側面を持つ。日系カナダ人ユーザーが書いた記事の分析から、ユーザーにとってLoIの資料が家族史として重要である事が示された。ユーザーは感情に着目することで、財産没収が持つ行政の不正義と家族の過去という側面を、共に個別的な家族の記憶として理解する。このような理解は、より大きな集団の物語と個別的な記憶を競合なく並存させることができるデジタルアーカイブの表現の可能性を示唆している。
著者
坂部 裕美子
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.199-202, 2020 (Released:2020-04-25)
参考文献数
3

宝塚歌劇団から、「虹の橋 渡りつづけて」という過去の在団者および主催公演のデータを完全網羅したアーカイブ本が発行されている。これの「人物編」掲載データのうち、1961年以降の入団者について、デジタルデータ化を行った上で、在団期間や各年次の退団者数の推移を集計した。2014年時点の既退団者の平均在団期間は7.92年だが、在団年数のヒストグラムを描くと最頻値は5である。歌劇団には入団後5~7年頃に退団を考えさせるような各種施策があり、実際にこの時期までに退団する者が多い。また、退団は自己判断で決められるため、各年次別の退団者総数にも多寡がある。この年次推移を見ると、ブームの到来や記念行事の開催といった歌劇団全体の動向が、各々の退団の判断に影響を及ぼしている、と考えられるような数値変動もある。このような、宝塚歌劇団の公演データ分析の、今後のさらなる進展を希望している。
著者
原 翔子
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.s1, pp.s33-s36, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
14

近年ではデジタルアーカイブの拡充によって世界中の博物館や美術館がオンラインでコレクションを展示するようになった。そこで,博物館における展覧会と鑑賞者との間には、物理的な空間における鑑賞だけでなくオンライン展示の利用という場面においても相互作用があるべきだとされている。オンライン展示が抱える現状の問題点は、個人へのパーソナライズと鑑賞前後体験の補助という場面から認識することができる。特に前者について、高木(2019)によるデフレーミング戦略は親和性が高く、経済学の概念でありながら展覧会への応用可能性が大きい。本稿ではデフレーミングを援用し、オンライン展示に留まらない展覧会デザインを提案する。
著者
山﨑 康平
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.e33-e38, 2023 (Released:2023-07-18)
参考文献数
18

近年、公立図書館ではサービスの多様化に伴い、デジタルアーカイブへの取組みが加速している。公立図書館では、既に体系的に整理されたコレクションをデジタル化することが一般的である。筆者が所属する静岡県立中央図書館では1998年にデジタル化資料を初めてウェブサイトで公開し、2010年からデジタルアーカイブを提供した。当該デジタルアーカイブの変遷を振り返り、事例報告を行う。また当該事例をもとに、静岡県立中央図書館がデジタルアーカイブを継続した理由を検討する。
著者
日下 九八
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.120-123, 2018-09-03 (Released:2018-05-18)

初回の企画立ち上げから、各地のウィキペディアタウンをサポートし、またファシリテーター養成講座や甲州エディットソンなど関連イベントにも関わってきた経験から、各事例を報告し、ウィキペディアタウンに期待されるもの、得られるものを、デジタルアーカイビングの観点から整理する。
著者
福井 健策 田島 佑規
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.28-31, 2023-02-01 (Released:2023-03-28)
参考文献数
5

劇作家、演出家、舞台美術・衣装・照明・音響スタッフ、音楽家、振付家、俳優(実演家)など実に多くの者が制作に関与する舞台芸術公演の収録・アーカイブ・利活用においては、その権利関係を整理することは欠かせない。ここではEPAD事業や実務の経験を踏まえ、観客が劇場で体験した「なま」の公演そのものを保存することはできないという特徴を有する舞台芸術のアーカイヴィングにとって、最も重要な資料の一つと考えられる公演映像の保存・利活用のための権利処理を念頭におき、「権利の固まり」ともいえる公演映像に特有の権利の壁と、それを乗り越える上で有益と思われる視点を示したい。
著者
原田 健一 数藤 雅彦
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.360-366, 2020-10-01 (Released:2020-10-01)
参考文献数
11

デジタルアーカイブ学会法制度部会は2019年9月に「肖像権ガイドライン(案)」を公にした。今回、新潟大学地域映像アーカイブ研究センター「にいがた 地域映像アーカイブデータベース」の写真を用いて、新潟大学の学生にガイドラインにもとづいた採点とコメントをする調査を実施した。本報告は、学生の採点とコメント等から得られたガイドラインへの示唆について、まず、報告する。その上で、ガイドラインを人びとが映像にどういう社会的意味や価値を付与しているのかを計る尺度として用いることで、デジタル以降の若年層における意識の変容が、自らの意識や行動を規定し、肖像権の問題をも浮かび上がらせていることを明らかにする。
著者
時実 象一
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.287-293, 2018 (Released:2018-07-17)
参考文献数
22

フランスの国立デジタルアーカイブ機関のうち、フランス国立図書館(BnF)とフランス国立視聴覚研究所(INA)に訪問調査をおこなった。BnFのGallicaプロジェクトでは年約10億円の予算で蔵書のデジタル化を進めており、すでに新聞・雑誌210万号、画像120万点、書籍55万冊を公開している。BnFはEuropeanaの創設メンバーであり、今も強力に推進している。INAはテレビ・ラジオ番組の法定納入機関として、1400万時間の番組を収集し、INAthèque を通じて学術研究者に公開している。また、商業利用できる番組200 万時間分をINAmediaproを通じて世界に販売している。その一部はina.frから一般公開している。
著者
大向 一輝
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.329-332, 2020-10-01 (Released:2020-11-16)
参考文献数
12

国内に存在するあらゆる種類の文化資源を対象とするジャパンサーチは、日本のデジタルアーカイブの系譜におけるひとつの到達点である一方、「すべての資料が集まるデジタルアーカイブ」が2019年にはじめて実現された理由、ならびに国立国会図書館を中心とした体制が構築された理由は自明ではない。本稿では、ジャパンサーチ誕生の経緯に関する公開情報を整理するとともに、社会的な文脈を含めた議論を通じて本特集の各論を補足する。
著者
有本 昂平 渡邉 英徳
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.2-7, 2018-01-31 (Released:2018-04-27)
参考文献数
12

本論文では3次元デジタルアース上に取引クラスタをグラフを用いて可視化し、描画するエッジの始点と終点の高度を変化させることで階層を表現した。またタイムスライダを用いて時系列で存在する取引クラスタの可視化を動的なアプリケーションとして構築し、各エッジの取引量の変化に応じて描画するエッジの色を変化させた。本提案手法によって取引クラスタにおける始点と終点のノードの位置情報、各ノードの階層、時系列の4つの要素を同時に把握することが可能となり、同一条件で抽出した取引クラスタは時系列で変化することを把握できたことから、頂点企業の戦略により企業の取引が刻一刻と変化していることがわかった。したがって、本提案手法はデータ分析スキルの高低に関わらず企業間取引ネットワークから取引構造や時系列変化についての知見を得ることが可能な手法である。
著者
佐野 智也 外山 勝彦 駒水 孝裕 増田 知子
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.7, no.s2, pp.s142-s145, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
9

国家・社会制度に関する政策は、法令を通して制度化されるため、日本社会の動きは、法令情報を介して捉えることができる。本研究は、制定・改正などを通じた法令の連続的変遷を把握し、日本の国家・社会運営の長期的変化を調査するための研究基盤の確立を目指すものである。その最初の目標として、明治以降の全法令を検索可能なオープンデータベースシステムの構築を進めているが、現在、明治 19(1886)年から平成 29(2017)年までに公布された法律と勅令のXML文書化を完了し、それらの全文検索が可能なデータベースの構築を終えた。本報告では、既存のデータベースの問題点について述べた上で、構築したデータベースを説明する。
著者
佐久間 大輔 石田 惣 石井 陽子 釋 知恵子 山中 亜希子 北村 美香
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.e1-e10, 2022 (Released:2022-04-04)
参考文献数
21

COVID-19 状況下で、博物館活動もネット上で゙の活動が多様性、量ともに大幅に増加した。デジ゙タルアーカイブ゙の活用も、各博物館で゙主に研究成果や所蔵品の公開を中心に進んで゙いる。ここでは、教育活動へのライブ配信の活用とそのアーカイブについて、大阪市立自然史博物館の活動を検討する。教育活動の類型に応じて、様々な配信手法を選択しているが、それぞれにオンライン上の活動に利点と限界があった。細かな工夫で魅力を補うことも試みた。また、教育映像コンテンツのアーカイブの効果についても言及した。