著者
渡邉 英徳
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.138-142, 2022-08-01 (Released:2022-10-05)
参考文献数
6

ここまでに解説してきた「Beyond Book」は、2017年から2021年に掛けて活動した、東京大学大学院情報学環における「DNP学術電子コンテンツ研究寄付講座」の成果である。この講座は、2022年度より「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」としてリブートした。新講座では、これまでに得られた成果を活かしつつ、未来社会における“新たな読書体験”を提供する「新しい本」を開発し、社会実装することを目指す。そこで、「SFプロトタイピング」「アート思考」「デザイン思考」「ロジックモデル」「センスメイキング」など、ボトムアップかつバックキャスティング的な手法を取り入れた活動を開始している。本稿では「新しい本」プロジェクトの狙いと取り入れる手法・現在の状況について説明する。
著者
大井 将生 渡邉 英徳
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.352-359, 2020-10-01 (Released:2020-11-16)
参考文献数
12

情報化の進展を背景に、学習指導要領では調査や諸資料から様々な情報を調べてまとめる技能や、多面的・多角的に考察する力の育成が教育目標として記されている。この実現のためにMLA資料の活用が推奨されているが、その学習デザインについては十分に議論されていない。そこで本研究では、ジャパンサーチを活用した探究的キュレーション授業を開発し、小学校・中学校・高等学校で授業実践を行なった。これにより、児童生徒が自ら立てた問いに基づいて学びを展開することで多面的・多角的な視座を育む契機を創出する学習デザインの一例を示すことができた。一方で実践を通して、ジャパンサーチの教育活用を進展する上での課題も明らかになった。
著者
菊池 信彦 内田 慶市 岡田 忠克 林 武文 藤田 高夫 二ノ宮 聡 宮川 創
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.32-37, 2021-01-12 (Released:2021-02-24)
参考文献数
11

本稿は、筆者を含め、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター(以下、KU-ORCAS)の研究者を中心とした学内の共同プロジェクトとして実施している「コロナアーカイブ@関西大学」について論じている。コロナアーカイブ@関西大学は、ユーザ参加型のコミュニティアーカイブの手法を用いて、COVID-19の流行という歴史的転換期における関西大学の関係者の記録と記憶を収集している、デジタルパブリックヒストリーの実践プロジェクトである。本稿では、パブリックヒストリーという研究動向の紹介を踏まえたうえで、世界的な動向におけるコロナアーカイブ@関西大学の位置付けやその特徴、そして収集している資料の性格等について論じる。
著者
佐藤 洋一
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.120-123, 2020 (Released:2020-04-25)
参考文献数
12

本稿では、まず占領期に日本で撮影され、米国に所在する写真史料の全般的状況を現地調査に基づいて整理した。写真素材をオフィシャル写真、パーソナル写真、プレス写真の3つに、還元する主体を公的機関、研究者・コミュニティ、出版社等営利団体の3つに区分した上で、還元のあり方を分類した。さらに今後の還元の方向として、①公開度を高める、②コレクションを横断する、③地域に戻すという3つを提示した。具体的には、①研究者が保持しているオフィシャル写真を共有すること、②研究コミュニティが研究ツールとしている複数のパーソナル写真を共有すること、③撮影された場所や地点に写真を持ち込み、写真を囲む場を作ることを提示した。
著者
大橋 正司 五十嵐 佳奈
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.213-216, 2019-03-15 (Released:2019-06-01)
参考文献数
9

デジタルアーカイブを市民へと開いていく中では、研究者などの「すでにそこにいる」利用者ではない人々の眼差しを共感的に理解し、新たな利用者が使い続けたいと感じるサービスの提供や、多様な使い方を保証するのに必要な機能やインタフェースの有効性を検証するデザイン手法の成熟が鍵を握る。そこで本発表では、デジタルアーカイブの設計における課題とデザイン手法の必要性を整理し、現場の必要に応じて導入できるデジタルアーカイブのデザインプロセスの標準化について検討する。デジタルアーカイブアセスメントツール[1]を機械的に達成すべき「チェックリスト」ではなく、適切なデザインプロセスの結果、必然的に達成される「アウトプット」として、具体的に分かりやすく導き出せることを示し、デジタルアーカイブの設計者が、サービスの多様性と利活用の可能性を大きく広げられる素地をつくることを目指す。
著者
中川 源洋 笹垣 信明
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.103-106, 2019-03-15 (Released:2019-06-01)
参考文献数
6

無形の民俗芸能の保存は、そのままの形で保存させることが困難であるため、映像記録が広く用いられている。しかしながら目的ごとに求められる映像コンテンツが異なるため、予算や撮影条件が限られている場合は目的が限定され、必ずしも有効に活用されないことがあった。そこで様々な目的に適用が可能な記録を得るために、数台の測距カメラを組み合わせて民俗芸能を3次元(3D)的に記録・データ化する技術を開発した。本技術を郷土芸能保存会のような団体自身により、公演や練習の様子をデータ化/アーカイブ化していくこと想定している。取得データは演技空間そのものを記録しているので、目的に合わせた形態への加工が可能となる。例えば再生視点を自由に選べることから、行事全体を理解するための広角の映像、演者の動きや部位に注視した映像、更には広報用の極端なアングルやクローズアップ映像などに再構成させることができる。また取得した3Dデータを解析し、熟達者と初心者間の動きを定量的に比較し継承支援につなげたり、取得データを利用した芸能体験アプリなどによる観光目的への展開なども可能となる。本稿では岩手県で継承されている鹿踊りや神楽の3Dデータ化実験と、取得データを活用した訪日外国人向け芸能体験アプリの実験の結果を報告する。
著者
田村 賢哉 秦 那実 井上 洋希 渡邉 英徳
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.370-375, 2018-10-01 (Released:2018-11-20)
参考文献数
14

「デジタルアーカイブ」の多様化により、これまで利用側であった非専門家である市民が積極的にアーカイブズに取り組む可能性を有している。そうした背景から本稿では、デジタルアーカイブにおける市民参加の新しいアプローチとして、ヒロシマ・アーカイブなどの「多元的デジタルアーカイブズ」の複数の活動の特徴を述べ、それらの有機的な制作環境の実態について言及した。そうした実践からデジタルアーカイブの社会に及ぼす影響について考察を行い、デジタルアーカイブの新しい研究領域として「参加型デジタルアーカイブズ」を述べている。
著者
岡本 佳子 坂部 裕美子 神竹 喜重子 荒又 雄介 辻 昌宏 大河内 文恵 平野 恵美子 小石 かつら
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.e25-e30, 2023 (Released:2023-09-25)
参考文献数
22

本稿は18〜20世紀ヨーロッパ歌劇場における上演傾向研究の一環として、フィールドワークと文献による興行情報の調査結果をデータ化・蓄積するにあたっての諸問題を提示する。具体的には、ポスターや年鑑からデータを抽出・統合する際、資料の選択、視覚的側面の配慮、項目や備考欄情報の取捨選択、上演言語の特定、作品の改変による紐付けが困難な場合がある。とりわけ、各資料の掲載項目自体が、地域や時代固有の価値観を色濃く反映していることから、それらの価値観の保持は統一的なフォーム作成の意図と相反することがある。様々な資料の比較から得られたこれらの知見を共有することは、データベース作成への新たな視座を提供するものであろう。
著者
星 泉 岩田 啓介 平田 昌弘 別所 裕介 山口 哲由 海老原 志穂
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.5, no.s2, pp.s164-s167, 2021 (Released:2021-12-10)
参考文献数
5

チベット・ヒマラヤ地域の人々は、様々な文化圏の影響を受けながら、冷涼かつ乾燥した高地という環境を活かした伝統的な生業を発達させてきた。周辺地域との影響関係については平田がユーラシア各地の乳製品の加工プロセスを広く調査し、説得力のある説を提示している。本研究では、乳加工プロセスの比較研究の手法をその他の資源にも応用し、周辺地域との影響関係や地域ごとの独自発展の様相を、より多層的に考察することを目的とし、チベット・ヒマラヤ牧畜農耕資源データベースを共同で構築中である。様々な言語の文献から当該地域における各種牧畜農耕資源の加工プロセスに関して収集したデータを共有し、地理情報や年代情報、コメントとともに入力し、地域間比較研究のために活用している。本発表では、このデータベースを活用した、乳加工・乳製品の地域間比較研究の事例紹介と、今後のフィールド調査に向けた調査票の準備状況について報告する。
著者
西山 絵里子
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.15-25, 2019-01-07 (Released:2019-02-18)
参考文献数
65

本稿は、沖縄戦以降の米国統治下において、沖縄に存在した統治機構である、琉球政府及びその前身組織により作成・取得された資料群(琉球政府文書)が、施政権返還、保存環境、保存場所等の課題を乗り越え、沖縄県公文書館で永久保存に至った経緯と、その後の資料を巡る動向について概観を試みるものである。当時の実務担当者の論考や記録等を中心に、①復帰前、②復帰後~沖縄県公文書館設置前、③沖縄県公文書館設置後の3つの時期における、琉球政府文書の保存・利用に係る経緯及び動向を整理した。これらの結果から、今後の可能性として、デジタルアーカイブ構築後の継続的な運用及び利活用推進に向けた取り組みの重要性や、次世代へのアプローチの視点を示唆した。
著者
井上 佐知子
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.155-158, 2022-11-01 (Released:2023-01-05)
参考文献数
12

東日本大震災を契機に、震災記録を収集保存するために多様な組織により多くの震災アーカイブが立ち上げられ、国立国会図書館はそれらのポータルとなる東日本大震災アーカイブを公開した。しかし、これらの震災アーカイブの維持運営には様々な課題があり、震災から10年以上が経過した現在、維持困難となって閉鎖された事例も出てきている。国立国会図書館は、閉鎖された一部の震災アーカイブの資料を承継して公開を続けており、承継に伴う権利処理など様々な課題に取り組んでいる。本稿ではその経験に基づきアーカイブの閉鎖とそれに伴う課題について述べる。
著者
柴山 明寛
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.151-154, 2022-11-01 (Released:2023-01-05)
参考文献数
5

1990年頃から国内外でデジタルアーカイブ構想が活発化しはじめ、現在、博物館や図書館、教育機関などで数多くのデジタルアーカイブが構築されている。その一方で様々な理由によりデジタルアーカイブが消滅している現状がある。デジタルアーカイブが消滅する理由としては、デジタルアーカイブを運営する組織的な課題とデジタルアーカイブのシステム的な課題があると考える。そこで本総論では、デジタルアーカイブが消滅する理由について「組織的な課題」と「システム的な課題」を概説するとともに、救済方法についても概説する。
著者
福島 幸宏
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.42-44, 2021-01-12 (Released:2021-02-24)
参考文献数
10

コロナ禍は図書館や博物館にも、他の分野と同様に大きな打撃を与えた。その影響をどのように対処し、さらにそれをどのように受け止め、また次の段階にどのようにつなげていくか、デジタルアーカイブの観点からその動向を紹介した。コロナ禍への直接の対処、日常活動をコロナ状況下でどのように行うか、このコロナ禍事態をどう記録するか、という諸段階を設定して検討した結果、この状況に即座に対応できたのは、地域資料・情報の収集に日常から積極的であった文化施設である、という推論に到達した。一方で、この間に収集した資料や作成したコンテンツを今後どのように扱うのか、今後の大きな課題となる。
著者
松本 篤
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.92-95, 2022-05-06 (Released:2022-07-04)

誰かが残した「私」の記録。その価値に着目したアーカイブづくりに取り組むプロジェクト・AHA!は、大地震から10年目の節目に開催される展覧会の企画を依頼される。筆者は準備の過程で、仙台市の沿岸部に暮らすかおりさん(仮名)と出会う。彼女は、初めての出産を経験した2010年6月11日から育児日記をつけ続けていた。1000年に一度といわれる大災害の経験を、たった1人の育児の記録と記憶から捉え直す。そんな展覧会『わたしは思い出す』は、どのように企画されたのか。本展の着想から開催に至るまでのプロセスをたどりながら、メモリアルとは何か、記憶の継承とは何か、忘却とは何かを問い直す。