著者
土屋垣内 晶 黒宮 健一 五十嵐 透子 堀内 聡 安藤 孟梓 鄧 科 吉良 晴子 津田 彰 坂野 雄二
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.72-85, 2015-03-31 (Released:2015-05-29)
参考文献数
23
被引用文献数
9 5

本研究の目的は,Saving Inventory-Revised(SI-R)日本語版を開発し,ためこみ傾向を有する日本の青年の臨床的特徴について検討することであった。調査対象は365名の大学生・専門学校生であった。確認的因子分析の結果,SI-R日本語版は3因子構造であることが示された。内的整合性,再検査信頼性,妥当性ともに十分な値が示された。SI-R日本語版の合計得点について,欧米のカットオフ値である41点を基準としてためこみ傾向群と非傾向群に分け群間比較を行った結果,写真評価による自宅の散らかりの程度,強迫症状,特性不安,抑うつ,および機能障害において,ためこみ傾向群のほうが非傾向群よりも有意に高い得点を示した。以上のことから,ためこみ傾向を有する日本の青年の臨床的特徴が示された。
著者
富田 望 熊野 宏昭
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-28, 2022-11-30 (Released:2022-12-26)
参考文献数
37

社交不安においては,自己注目と他者注目が症状の維持要因とされているが,社会的場面において2つの注意の偏りがどのような関係にあるのかを示した実証的研究は少ない。本稿では,自己注目や他者注目を視線や脳活動によって可視化することで,両者を比較可能な形で捉えることを目的とした,Tomita et al.(2020)とTomita & Kumano(2021;第2回日本不安症学会学術賞受賞論文)の2つの研究を紹介した。研究の結果,右前頭極と左上側頭回の過活動は対人場面で生じる自己注目や他者注目それぞれの客観的指標となることが示唆された。対人場面でこれらの脳活動をリアルタイムに測定することで,社交不安者の自己注目と他者注目の程度を,本人が自覚していない場合でも予測できることが期待される。また,自己注目と他者注目は独立した構成概念であることが脳の観点から示唆された。
著者
松本 一記 吉野 晃平 清水 栄司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.46-51, 2021-11-30 (Released:2022-01-14)
参考文献数
19

「ママ友」との付き合いがストレスになる人もおり,場合によっては社交不安症の発症につながることもある。本症例では,ひきこもり状態の女性に認知行動療法を提供した際の治療経過を報告する。
著者
山口 智史 西田 明日香 小川 佐代子 東郷 史治 佐々木 司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.45-53, 2018-10-31 (Released:2018-12-28)
参考文献数
36

精神疾患の発症は思春期に急増する。精神不調を抱える若者は援助を求めにくく,周りの大人がそれに気づき適切に援助する必要がある。若者は多くの時間を学校で過ごすため,教員はこの役割を担うのに適した立場にある。本研究は,教員が生徒の精神不調,特に不安・抑うつ症状に気づく力をどれ位有するかを明らかにすることを目的に,生徒の不安・抑うつ症状についての生徒本人と教員による報告の一致率を調べた研究の系統的レビューを行った。PubMed, ERIC, CINAHL, PsycInfo, Web of Science, CiNii, 医中誌で検索しヒットした13,442件のうち,上記一致率を調べた8件の論文を検討した。教員は抑うつ症状のある生徒の38~75%に気づいたのに対し,不安症状のある生徒への気づきは19%と41%であった。教員研修では不安症状についてもきちんと教育する必要があると考えられる。
著者
伊藤 大輔
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.33-41, 2017-10-31 (Released:2017-11-14)
参考文献数
26

本研究の目的は,思考内容が行動を制御するための他の有用な資源を抑えて支配的になる傾向を示す認知的フュージョンが,否定的認知を媒介して,外傷後ストレス症状に悪影響をもたらすというモデルを検証することであった。大学生557名を対象に,外傷体験調査票,認知的フュージョン,トラウマに対する否定的認知,外傷後ストレス症状に対する否定的認知,外傷後ストレス症状に関する測定尺度を実施した。広義のトラウマ体験者281名を対象に,共分散構造分析を実施した結果,想定したモデルの適合度について十分な値が得られた。つまり,認知的フュージョンは,トラウマや外傷後ストレス症状に対する否定的認知に正の影響を及ぼし,トラウマや外傷後ストレス症状に対する否定的認知は外傷後ストレス症状に正の影響を及ぼすというプロセスが示された。今後は,認知的フュージョンをターゲットとした介入法の有効性やその改善プロセスの検証が求められる。
著者
金井 嘉宏
出版者
Japanese Society of Anxiety Disorder
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.40-51, 2015
被引用文献数
1

近年のメタ分析の結果から,社交不安症に対するさまざまな薬物療法と精神療法の効果を比較した場合,Clark & WellsやHeimbergのモデルに基づく個人対象の認知行動療法が最も有効であることが示されている。一方,そのメタ分析において十分な治療効果が得られない患者の存在も指摘されており,さらなる治療の改善が求められている。社交不安症の認知行動療法では,恐れている社交場面への曝露が共通して含まれているが,その基礎理論となる恐怖条件づけと消去に関する認知神経科学の発展が著しい。本稿では,この認知神経科学の発展に基づいてエクスポージャーの改善を提唱しているCraskeのinhibitory learningや,不安症の治療法としても注目されているアクセプタンス&コミットメント・セラピーの観点から,社交不安症の認知行動療法の治療効果を高めるためのエッセンスをまとめることを目的とした。
著者
中前 貴
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.50-56, 2017-10-31 (Released:2017-11-14)
参考文献数
16
被引用文献数
1

薬物療法や行動療法に反応しない強迫症(OCD)患者に対して様々な治療戦略が提案されているが,近年ニューロモデュレーションに注目が集まっている。OCDに対する研究が進んでいる治療法には,外科手術を伴い侵襲性の高い脳深部刺激療法(DBS)や,けいれんを伴う電気けいれん療法(ECT),侵襲性の低い経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)や反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)などがあり,本稿では,各治療法の有効性や有害事象について概説する。DBSは侵襲性が高い一方で重症難治例の半数程度に有効であり,ECTは無作為割付比較試験がないが6割程度の患者に何らかの良い効果を期待できる。tDCSは侵襲性が低いがまだ十分な研究が行われておらず,rTMSはメタアナリシスで有効性が示されているがまだ最適な刺激設定が明らかになっていないなど,それぞれの治療法にメリット,デメリットがあるため,今後のさらなる研究が期待される。
著者
前田 駿太 増田 悠斗 佐藤 友哉 嶋田 洋徳
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.46-57, 2016-12-31 (Released:2016-12-31)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究の目的は,社交不安症における心理的ストレッサーに対するコルチゾール反応についてメタ分析を用いて検討することであった。文献検索の結果,社交不安症の診断基準を満たす者と健常者の間で心理的ストレッサーに対するコルチゾール反応を比較している9報の文献が抽出された(社交不安症群:N=265;健常群:N=199)。そして,ベースライン期,ストレス期(ストレス負荷後25分まで),回復期(ストレス負荷後25分経過以降)の3つの時期それぞれにおいて,社交不安症群と健常群のコルチゾール値の差分値に基づく効果量を算出した。メタ分析の結果,いずれの時期においても社交不安症群は健常群よりも高いコルチゾール値を示すことが明らかになった。このことから,社交不安症においては直接的なストレッサーの呈示に対してのみならず,ストレッサー呈示前後の認知的処理によってもコルチゾール反応が亢進していることが示唆された。
著者
貝谷 久宣
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.52-58, 2019-11-30 (Released:2020-01-04)
参考文献数
27
被引用文献数
1

ADAは,明白な心理的原因なしで突然激しい陰性情動が生じ,それに引き続き主に過去の無念な思いが侵入反芻する発作である。ADAでも,CPTSDの症状である再体験症状,認知面の変化(無力感など),パーソナリティの変化(孤立など),感情制御上の困難(自傷行為など)が程度の差はあるが認められる。ただ,後三者の状態はADAの根底にある社交不安と拒絶過敏性により説明される。また,以下の点でADAはCPTSDから区別される:発症から終末まで一定の経過を取る;過去の不幸な出来事は心的外傷というほど激しくなく,その記憶のテーマは多岐にわたる;パニック症ではパニック発作と不安・抑うつ発作が交互に出現する;不安・抑うつ発作の不安・焦燥は侵入思考の内容への反応以上の激しさ(不安発作)が認められる。以上より,ADAはCPTSDに近似ではあるが区別されうる病態と考えられる。
著者
前田 香 関口 真有 堀内 聡 Justin W. Weeks 坂野 雄二
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.113-120, 2015-03-31 (Released:2015-05-29)
参考文献数
17
被引用文献数
5 6

他者からの肯定的評価への恐れは,社交不安症の認知的特徴である。本研究の目的はFear of Positive Evaluation Scale(FPES)日本語版の信頼性と妥当性を検討することであった。対象者は324名の大学生であった。確認的因子分析の結果,原版と同様に8項目1因子構造が確認された。また,内的整合性と5週間の再検査信頼性は原版と同様に高いことが示された。妥当性を確認するために,他者からの否定的評価への恐れ,および対人交流への不安との関連性を検討した。その結果,予測された関連性が確認された。第一に,対人交流への不安,他者からの否定的評価への恐れとの間に正の相関が認められた。第二に,他者からの否定的評価への恐れを統制した場合に対人交流への不安を予測した。したがって,FPES日本語版の信頼性と妥当性が確認され,その有用性が議論された。
著者
関口 正幸
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.2-9, 2018-10-31 (Released:2018-12-28)
参考文献数
44

近年,条件付けにより獲得される連合学習型の恐怖記憶(条件性恐怖記憶)に関する神経科学的研究が盛んであり,その結果として,いわゆる「恐怖神経回路(Fear circuit)」について理解が進みつつある。Fear circuitの制御不全は不安症に関係している可能性が考えられており,この観点から,このcircuitとこれを制御する生体システムの理解についての重要性は高まりつつある。本稿では,Fear circuit研究に関する最近の進歩を紹介した後,我々が最近見出したFear circuitを修飾する生体システムである栄養素脂肪酸についてその概要を紹介したい。
著者
寺澤 悠理
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.76-79, 2017-10-31 (Released:2017-11-14)
参考文献数
16
著者
塩入 俊樹
出版者
Japanese Society of Anxiety Disorder
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.29-39, 2015

社交不安症(障害)(SAD)は,社会的状況に対する過度でコントロールできない恐怖または不安が生じ,そのためそのような状況を回避し,著しい社会機能障害を呈する不安症である。本稿では,SADの薬物療法について,最近の知見を中心に述べる。メタ解析やRCTによるエビデンスによると,SADの薬物療法としては,SSRIとSNRI, そしてRIMAがプラセボに比し有意に効果があるとされている。しかしながらわが国ではRIMAは使用できない。また最近承認され,SADに最もエビデンスがあるSNRIであるベンラファキシンもSADへの保険適応がないことから,わが国でのSADの薬物療法の中心は,現時点ではSSRIとなろう。
著者
塩入 俊樹
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.29-39, 2015-11-30 (Released:2015-12-10)
参考文献数
20

社交不安症(障害)(SAD)は,社会的状況に対する過度でコントロールできない恐怖または不安が生じ,そのためそのような状況を回避し,著しい社会機能障害を呈する不安症である。本稿では,SADの薬物療法について,最近の知見を中心に述べる。メタ解析やRCTによるエビデンスによると,SADの薬物療法としては,SSRIとSNRI, そしてRIMAがプラセボに比し有意に効果があるとされている。しかしながらわが国ではRIMAは使用できない。また最近承認され,SADに最もエビデンスがあるSNRIであるベンラファキシンもSADへの保険適応がないことから,わが国でのSADの薬物療法の中心は,現時点ではSSRIとなろう。
著者
西田 明日香 山口 智史 東郷 史治 佐々木 司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.16-26, 2020-11-30 (Released:2021-01-09)
参考文献数
44

精神不調を予防・緩和するためにはソーシャルサポートが重要であることが知られている。中でも相談相手から受けるサポートは,ストレスを緩和し困難への対処を助けることからも,特に重要性が高いとされている。本研究は,相談相手の有無や数が精神不調と関連するかを明らかにすることを目的に,相談相手の有無や多寡と不安・抑うつ症状との関連を調べた先行研究に関するレビューを行った。PubMed, PsycInfo, CINAHL, CiNii,医中誌Webで検索しヒットした341編のうち,14編が採用基準を満たしていた。抑うつ症状を調査した研究では,相談相手がいない・少ないと,抑うつ症状を有するリスクや症状の程度が高いことが認められた。不安症状を調査した研究2編でも抑うつ症状と同様の関連がみられた。相談相手がいない・少ない人は精神不調のリスクが高いため,周囲からのサポートを増やす工夫を一層考えていく必要がある。
著者
河上 雄紀 沼田 恵太郎 大野 裕史
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.38-45, 2021-11-30 (Released:2022-01-14)
参考文献数
17

本研究では,他者の視線検出に関する注意バイアスについて,社交不安の観点から検証を行った。社交不安の高い者は,他者の視線方向への注意バイアスを示すと仮定した。社交不安:高群(n = 30)および社交不安:低群(n=29)に対し,多数の妨害刺激の中から直視またはよそ見の視線刺激を検出することを求めた(stare-in-the-crowdパラダイム)。その結果,直視視線の検出速度が両群で類似していることが示された。ただし,社交不安:高群は,よそ見視線の速やかな検出を示した。これらの知見は,社交不安が,よそ見よりも直視を優先的に検出するという注意バイアスを弱めることを示唆している。最後に,社交不安の機能と今後の研究の方向性について議論した。
著者
本田 由美 貝谷 久宣 境 洋二郎 坂元 薫 佐々木 司 高橋 美保
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.24-37, 2021-11-30 (Released:2022-01-14)
参考文献数
32

社交不安症(SAD)の患者が専門的支援に繋がることを阻害あるいは促進する要因,および専門的支援を受けることが患者にとってどのような体験であるかを調査した。SAD患者5名に対し実施したインタビュー内容についてKJ法を援用した質的分析を行った結果,促進要因としては症状悪化が挙げられ,SAD認知度の更なる向上が必要であることが示唆された。阻害要因としては「病気ではなく性格」と考えたことや周囲の無理解,心理的・物理的ハードルが挙げられ,阻害要因の低減のためにはインターネット情報の活用が有効と考えられた。専門的支援を受ける体験においては,支援先を変更する患者が多く見られ,適切なSAD対処や丁寧な説明姿勢など,支援を受け続けるモチベーション維持の必要性が窺われた。また,適切な心理教育により,自らの症状を性格とは捉えなくなるなど,症状との向き合い方が変容する様子が見られた。
著者
松永 寿人
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.13-23, 2021-11-30 (Released:2022-01-14)
参考文献数
40

ICD-11に新設された「強迫症および関連症群(obsessive-compulsive and related disorders ; OCRD)」について,強迫症を主とした強迫スペクトラムの導入,あるいは他の不安障害からの分離といったDSM-5でこの領域になされた改訂との連続性を中心に概説した。OCRDは1990年ごろに提唱された強迫スペクトラム概念を基盤としており,これに分類される精神疾患は,「とらわれ」と「繰り返し行為」を中核的病理として共有し,また不安症との差異として,病的不安を必ずしも伴わないこと,妄想的な場合など洞察水準が多様であること,などが特徴的である。さらにはプライマリケアに加え,内科や外科,皮膚科といった一般診療科,美容整形外科など,多彩な臨床場面で遭遇しやすい点もOCRD内で共通している。このため今回の改変は,ICD-11が目指す臨床的有用性を大いに配慮したものであるが,これが実臨床にもたらすメリット・デメリットに関して,その妥当性あるいは信頼性を含め,さらに検討を要するであろう。