著者
Pongthorn JITTACHALOTHORN
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.129-142, 1998-06-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
28
被引用文献数
3 2

本研究では情報の記憶過程の特徴と個人特性を調べる方法を提案するために, コンピュータから与えられる作業手順情報をもとに有効な取付場所記憶方法と“取付場所-部品-部品置場所”の記憶順序で情報を記憶し, 部品箱に配置された単純な部品を所定の位置に取り置く作業を対象にした実験を行った. 記憶境界線モデルと記憶境界線パターンを用いて取付点数が記憶過程に与える影響を動作レベルで分析することによって, 作業手順情報の記憶過程には中間先行型と周囲先行型記憶過程があることと, 取付点数の変化による記憶境界線を把握することができた. さらに実験と基準の記憶境界線を比較することによって, 個人特性を分析・評価することが可能になり,“要素作業を前半・後半に分割したうえで, 先に前半の要素作業を中間先行型記憶過程で, 次に後半の要素作業を周囲先行型記憶過程で記憶する”という作業ガイドラインを提案することができた.
著者
川口 孝泰 鵜山 治 西山 忠博 小河 幸次 飯田 健夫
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.261-270, 1998
被引用文献数
2

本研究は, head-up を伴う体位変換介助時において, 被介護者に変換を"事前予告"しておくことが循環調節にどのような影響をもたらすかを, 自律神経機能および脳循環の測定により検討した. 実験は, 健康成人12人 (男性6人, 女性6人) に対して, head-up と同時に声をかけながら70°head-up tilt (仰臥位から座位) を他動的に実施【事前予告なし】と, 5分前から1分ごとに体位変換を予告して70°head-up tilt を実施【事前予告あり】の2条件で行った. その結果,<br>1) head-up 後の平均RR間隔は"事前予告あり"のほうが短くなった (p<0.05).<br>2) head-up 前のLF/HF値は, 3分前頃から"事前予告あり"のほうが有意に高くなった (p<0.01).<br>3) 脳循環は head-up により, oxy-Hb および total-Hb が低下した. 特に"事前予告あり"では, head-up 前に oxy-Hb に上昇がみられた.<br>本研究により, head-up を伴う体位変換の前に"事前予告"を行うことで, head-up 後の循環調節の準備状態に入ることが明らかとなった.
著者
岩宮 眞一郎 関 学 吉川 景子 高田 正幸
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.292-299, 2003
被引用文献数
2

テレビ番組や映画などで, ある映像シーンから別の映像シーンへ場面を転換するとき, 様々な切り替えパターンが用いられる. 本研究では, 効果音が各種の切り替えパターンの印象に与える影響を, 印象評定実験によって明らかにした. 一般に,「明るい」印象の連続的なスケール状の効果音が, 各種の切り替えパターンと調和する. とりわけ, 上昇系列の音列と拡大系の切り替えパターン, 下降系列の音列と縮小系の切り替えパターンの調和度が高い. 本研究で認められた音と映像の調和感は, 音と映像の変化パターンの一致に基づく構造的調和によるものと考えられる. さらに, 音と映像の調和度が高い視聴覚刺激は映像作品としての評価も高い. これは, 音と映像が一体となって互いの効果を高め合う協合現象によるものと考えられる. 音と映像の構造的な変化パターンの一致が調和感をもたらし, 視聴覚情報が一体のものとして理解されることで, 評価が高まるのであろう.
著者
佐藤 陽彦 佐々木 司 杉本 洋介
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.223-229, 1992-08-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
3

“いらいら”の実態と構造を明らかにするために, 2種類の質問紙調査を行った. その結果, イライラの頻度では週2~3回が, イライラの対象では人間関係が, イライラの状況としては時間因子が関与しているときが最も多かった. イライラの構成要素は自分と状況である. イライラを生じさせる状況は, 自分がある目標に向かって計画に沿って行動している過程で, 自分の思いどおりにならないときである. しかも, その状況がある程度持続し, 自分の努力によってその状況を変えることができず, 目標が達成できるかどうかまだ不明なときである. そして, イライラの感じ方は本人の身体的・精神的状態によって大きく左右される.
著者
牧下 寛 松永 勝也
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.324-332, 2002-12-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
6 5

公道において走行実験を行い, 自動車運転中の危険発生に対し制動で回避するための反応時間を調べるとともに, 視線移動の頻度を計測した. 被験者は, 20代, 40~50代, 60代の3グループの一般運転者である. 単独走行と追従走行の2通りの形態で被験者車両を走行させ, 物陰から人が飛び出して来た場合と, 前を走る車両が制動した場合の2通りの危険を発生させた. 人が飛び出してきた場合の反応時間は高齢者と他の年齢層で有意差が見られたが, 前を走る車両の制動灯に対する反応では, 年齢層による差は見出されなかった. しかし, どちらの危険に対しても, 60歳代の被験者の大部分は, 異常に長い反応時間を示す遅れ反応になる場合が見られた. 運転中の視線移動の頻度は, 加齢とともに低下することが示されたが, 60歳代の被験者に遅れ反応を示す人が多いのは, 視線移動の頻度が低いためであると考えられた.
著者
月坂 紀一 清澤 文彌太
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.23, no.Supplement, pp.88-89, 1987-05-20 (Released:2010-03-11)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1
著者
倉前 正志 豊島 悠輝 前田 享史 横山 真太郎
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.260-267, 2008-10-15 (Released:2010-03-15)
参考文献数
14

CELSS (閉鎖生態系生命維持システム) とは系外と物質の授受を行わない閉鎖空間内を, 系内での物質循環により人間が生活できる環境に保つシステムである。本研究ではCELSSの物質循環を解析する第一段階として, (財) 環境科学技術研究所・閉鎖型生態系実験施設 (CEEF) の実際の設定を参考に, CELSSの数理モデル化に必要な構成要素の検討とそれに基づくモデル化を行った。今回の検討ではO2およびCO2に着目し, 食物生産は植物栽培により賄うこととした。居住区, 植物区, O2タンク, CO2タンク, 湿式酸化装置, 酸素再生装置の6要素でモデルを構成し検討を行った結果, 適切に属性値を設定することで各区画のO2・CO2濃度が長期間で安定し, 閉鎖系内で安定した物質循環を行ううえで少なくともこの6要素が有効であると示唆された。また, CEEFの属性値を用いて検討を行った結果, 時刻により変動する人間および植物の代謝量にも, 設定を変更することで応用可能性があることが示された。
著者
神保 有紀 福田 忠彦
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.281-288, 1997-10-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
16

近年, 日本の多くの駅で発車予告の合図に音楽を用いている (以下「ベル音楽」と称す). 本研究は, ベル音楽とそれのもたらす心理的効果との関係について分析し, 併せてその利用環境についての考察を行い, 発車予告にふさわしいベル音楽のあり方を提案することを目的とした. 発車認知に関するアンケート調査の結果から, 駅利用者が急いでいるときほど聴覚的情報を手がかりとし, なかでもベル音楽を望む人が多数を占めることがわかった. そして, フレーズパターンの試聴実験により, そのベル音楽は, 人の歩く速さよりやや速めのテンポ, 上行形のメロディーライン, ドミナントを経由しトニックで終わる和声進行などの音楽的構造を備えていることが好ましいこと, さらにリズムの刻み方によりふさわしいテンポが異なること, 年齢によりテンポの感じ方が異なることなどが明らかになった.
著者
小松原 明哲 横溝 克巳
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.277-286, 1989-10-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
16
被引用文献数
2 3

ユーザインターフェイス設計の基礎研究として, 人間の短期記憶保持による負担をパーソナルコンピュータを用いた実験により検討した. まず短期記憶の保持方略と負担との関係について検討した. 計算偶奇判定作業を被験者に行わせた結果, 課題内容を積極的に解釈しつつ保持する場合のほうが, 課題を単にリハーサルしている場合より, 心理的負担が少なく, パフォーマンスも良好であった. 次に短期記憶の保持量と負担との関係について, 数列の短期記憶保持実験を行った結果, 完全な短期記憶再生を期待できるのは5チャンクまでであり, 5チャンクを超えると完全な再生が期待できないばかりでなく, 心理的・精神的負担が高まることが明らかとなった. 5チャンク以下でも負担は均一ではなく, チャンク数の増加とともに負担が高まることも明らかとなった.
著者
土肥 麻佐子 持丸 正明 河内 まき子
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.228-237, 2001
被引用文献数
6

高齢者への靴の適合性の向上には, 高齢者独自の足部形態特性を把握することが重要と考え, 形態特性と靴の履き心地との関連を検討した. 高齢者女子50名 (60~81歳) を対象にアンケート調査を実施し, 靴に対する意識および靴の不適合部位を調べた. 次に, 高齢者90名 (60~81歳) と若年者148名 (18~27歳) の足長・足囲分布の世代差を検討した. さらに, 高齢者50名 (60~81歳) と若年者166名 (18~27歳) の足長サイズ別形態特性の世代差について, 寸法・角度等20項目の計測値と2示数および3次元形態特徴の推定得点より検討した. この結果, 高齢者の足は同一足長の若年者より足囲が大きく (JIS足囲サイズのEEEを中心に分布), つま先形状が第1指がまっすぐ伸び第5指が内反した先広の傾向である. 足部前方は分厚く, 足首より後方が長いことがわかった. これらは, 第1指や外果下方に不適合が多いことと関連があり, 履き心地の不満を裏付けるものである. 靴設計に高齢者の形態特性を反映することで適合性の向上が期待できる.