著者
吉岡 学 中川 浩文 諸菱 正典 保髙 拓哉
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.114-122, 2022-06-15 (Released:2022-08-16)
参考文献数
16

視覚障害者の鉄道利用者は単独で移動する際に様々な困難や危険に遭遇する.本研究では,重大な危険性がある駅ホームへの転落を軽減するためのシステムについて述べる.本方式では,通常の白杖の先端にRFIDリーダを装着し,RFIDリーダとスマートフォンのアラーム音を連動させ,白杖先端部がRFIDタグの取り付けてあるホーム端に近づくとRFIDデバイスが作動するシステムを提案する.本システムを試行した結果,RFIDタグから横方向に150 mmの距離,RFIDタグから100 mmの高さ,駅ホームに対する白杖先端部の振り速度が1.5 m/sまでであれば,いずれの使用状況においても白杖先端部に取り付けられたRFIDリーダの動作が確認された.しかし,環境音がない場合,検出率は低下した.アンケートでは,91.7%の人がスマート白杖の重量が増加したことを指摘し,72.8%の人が本システム搭載のスマート白杖の購入を希望していた.この結果から,本システムが視覚障害者の駅ホーム転落防止システムとして社会実装の可能性があることを示した.
著者
簑下 成子 佐藤 親次 森田 展彰 中村 俊規 松崎 一葉 菊地 正 小田 晋
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.79-86, 1997-04-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
41
被引用文献数
5 6

本研究は精神障害者の表情認知特性を明らかにするためのテストツールを開発することを目的とする. 対人感情を含んだ微妙な感情を表現し, 同時に信頼性のある実験モデルとして有効と思われる能面を表情刺激画像として用いた. まず, 31名の被験者に, いろいろな向きの能面画像18枚のスライド写真を呈示し, その表情が表していると思われる感情について自由記述させた. 得られた感情表現をもとにして, 39の感情表現を尺度として抽出した. 次に, 被験者26名に, 得られた感情表現を尺度として, 能面を上下方向に変化させた8枚のスライド写真について, 4段階評定させた. 因子分析の結果, 能面の角度を変化させることによって表情認知の測定ができることが明らかになり, 能面から知覚される感情は8因子からなることが明らかになつた.
著者
平川 公義 中村 紀夫 益沢 秀明 橋爪 敬三 佐野 圭司
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.71-80, 1970-04-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
14
被引用文献数
1

頭部衝撃による脳, 頭蓋骨の傷害は, 人頭皮によって緩和される. 人頭皮の衝撃に対する緩衝能ならびに物理的特性を知るとともに, 市販の材料中より, 等価の緩衝材料を見出す目的で, ゴム類, 土, 発泡スチロールについて実験を行なった.屍頭頭頂部より採取した人頭皮の試験片を鉄台上に置き, その上へ, 加速度計を内臓した重量5kgの頭蓋モデルを, 高さを変えて落下せしめ, 衝撃加速度を記録すると同時に, 傷害の程度を組織学的に検討した.人頭皮は, 落下距離が30cmより高くなると組織破壊が始まり, 40cmで組織は断裂し, 衝撃加速度曲線は bottoming をおこし, 緩衝能を失う. このさいの衝撃加速度値は100gを示した.加速度曲線の類似性より検討すると, 厚さ7mmの Viskol A-30® (チオコールゴム) は, 100gまでの範囲内では人頭皮の緩衝能とよく一致することがわかった. ただしゴム類では弾性限界は高い. 土, 発泡スチロールについても同様に実験を行ない, 人頭皮の simulation に関して若干の検討を加えた.
著者
浦谷 裕樹 大須賀 美恵子
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.428-434, 2015-12-20 (Released:2016-09-28)
参考文献数
16
被引用文献数
4 4

自然災害や事故・事件等の影響により,その後心の病である心的外傷後ストレス障害(PTSD:posttraumatic stress disorder)を発症する子どもたちがいる.心身を落ち着ける呼吸法の習得によりPTSDの症状を改善できるといわれている.そこで,子どもたちがリラックスできるように,2つのエアバッグを用いて呼吸計測をしながら,腹部を上下させて呼吸誘導ができる呼吸誘導ぬいぐるみを開発した.7 ~10歳の健康な女児12名を対象に評価実験を実施した結果,エアバッグのセンサで呼吸計測ができ,ぬいぐるみの腹部の動きによる呼吸誘導が可能であることが示された.開発した呼吸誘導ぬいぐるみによるリラクセーション効果の検証は今後の課題である.
著者
田中 宏子 植松 奈美 梁瀬 度子
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.347-356, 1989-12-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
14

空間の心理評価における実験方法の検討である. まず, 実大模型, 縮尺模型およびスライドの3つの評価対象における心理量の関連をSD法により検討した. 取り上げた要因は居間に置かれた家具の量と配置である. 因子分析の結果, いずれの評価対象も2つの共通因子が析出され, 価値因子と活動性因子と意味づけた. 活動性因子においては3者の感覚は非常に似通っていたが, 価値因子については在室感・臨場感といった空間と人間との相互作用が影響しており, 空間の価値判断と深い関わりがあると考えられる. ついでSD法の評価の妥当性を確認するために, ME法, 一対比較法の比較検討も試みた. その結果, かなりの整合性が認められた.
著者
田口 英郎 藤井 克彦
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.59-70, 1973-04-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
10

比例式操作部 (ハンドル輪) を用いて人間に目標値追跡作業をおこなわせると, その過程には送りハンドルおよび急ハンドルとみなせる操作モードがあらわれる. 本稿では, 急ハンドル操作, 換言すればハンドルの回転方向をバンバン的に反転操作しながら習熟する過程に着目し, 解析をおこなった. すなわち制御対象の出力とその微分値からなる位相平面を人間がハンドル切換を行なうのに必要な特徴平面と考えた. つぎにこの平面上での予測軌道が反復試行によって変化することによりバンバン・モードの学習過程を明らかにした. この解析結果をもとにしてバンバン形式モデルを提案し, 実測データとの比較検討を行なった.
著者
織田 弥生 中村 実 龍田 周 小泉 祐貴子 阿部 恒之
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.287-297, 2000-12-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
27
被引用文献数
4 5

ストレスの指標として使用されることの多い, 唾液中・尿中コルチゾールの値の標準値を作成することを目的とした. 20代から50代の就労している男性85名, 女性81名について, 勤務日と休日の2日間にわたり1日5ポイント (起床時, 10:00, 11:40, 14:00, 16:00) 尿と唾液を採取し, HPLC法でコルチゾールの定量を行い, 性・時刻・測定日別の平均値と標準偏差を示した標準値表を完成した. また, 全検体中の唾液299検体・尿155検体についてはRIA法でも分析を実施して分析定量値の相互換算式を算出し, 異なる分析法間の値の比較が可能となるようにした. 一過性ストレス時の唾液中コルチゾール値を標準値表と比較したところ, 標準値から大きく逸脱することが確認されたことから, ストレス測定においてこの標準値が有用であると考えられた. 最後に, この標準値表の活用範囲について検討した.
著者
増山 英太郎 勝見 正彦
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.37-45, 1992-02-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

被験者に漫才, CM, 落語の5演目ずつをビデオでみせ, その印象を28対の形容詞対により評定させ, 結果を主成分分析法および重回帰分析法によって解析した. 主成分分析の結果, (1) 直感的↔論理的因子, (2) きらい↔好き因子, (3) 攻撃的↔平和的因子, (4) リズミカルでなさ↔リズミカル因子, (5) しぶさ↔若々しさ因子, (6) あっさり↔しつこい因子が得られ, 累積寄与率は83%となった.落語は論理的で平和的であり, 漫才は攻撃的, CMは直感的といえる. 次に, これらの6主成分得点を独立変数に,“おかしくなさ”を従属変数とする重回帰式を導いてみたところ, 落語では直感的で, 好きで, 平和的であるほどおかしく, CMでは直感的で, 好きで, 攻撃的あるほどおかしいとなり, 寄与率は94~99%であった.
著者
山田 晋平 三宅 晋司 大須賀 美恵子
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.295-303, 2012-12-15 (Released:2013-03-02)
参考文献数
33
被引用文献数
7 6

精神疲労を評価し得る指標の探索を目的として,文書によるインフォームドコンセントを得た15名の男子大学生に,暗算(20分間5試行計100分間)を課した.暗算の前後には安静(5分間)を取らせ,さらに疲労を回復させるための休息(約20分間)後にも安静(5分間)を取らせた.また,暗算の各試行と安静の後に,主観指標と視覚探索課題の作業成績を計測した.暗算中と安静中は、後述の生理指標を測定した.解析においては,精神疲労を対象とするため,安静時と暗算時の比較ではなく,暗算の前後と休息の後の3時点の安静時の比較を行った.その結果,疲労に関する訴え,視覚探索課題の探索時間,心拍数,鼻部血流量,心電図R-R間隔変動係数,心拍変動指標の低周波成分と総パワー値に有意な変化が確認された.これらの変化は,精神疲労によって生じたと考えられ,これらの指標で精神疲労を評価できる可能性が示唆された.
著者
堀尾 強 河村 洋二郎
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.143-150, 1998-06-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

本研究では健康な男女大学生15名を対象に, 体脂肪率の変動に平素の栄養摂取と運動トレーニングがどのように関与するかを調べた. 栄養摂取状況は食事調査により行い, 運動は自転車エルゴメーターを用いて1日20分, 週2~5回, 5カ月間行った. あわせて血漿中コレステロール, 中性脂肪, 最大酸素摂取量, 歩数計を用いた1日の生活活動量およびアンケートによる体調の自覚についても分析した.トレーニング前の体脂肪率の平均値は男子22.0%, 女子28.2%と肥満と正常の境界域であったが, 運動トレーニング開始後男子で2カ月目, 女子で4カ月目から体脂肪率は有意に減少し始め, トレーニング5カ月目で男子19.3%, 女子23.8%と正常範囲になった.食事調査の結果, 女子では1日の摂取エネルギー量が多いものほど, 運動による体脂肪率の減少率が低かった. 三大栄養素の中の割合では, 脂肪の摂取率が高く糖質の摂取率が低かった. 安静時の収縮時血圧, 拡張時血圧, 心拍数, 血漿中の空腹時血糖値, 総コレステロール値, HDLコレステロール値, 中性脂肪値には大きな変化はみられなかった.以上より, 体脂肪率の減少には, 運動トレーニングとともに, 栄養摂取の仕方が関与することが示唆された.
著者
横地 義照 藤本 浩志 木塚 朝博 横井 孝志
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.54-62, 2002-02-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
7 4

下肢の筋力が衰えると (とりわけ高齢者では), 手を大腿部について起立動作を行うことが多い. その場合膝関節から上方では, 大腿部・体幹部・上肢が閉じたリンクを構成するため, 関節点の位置情報からだけでは股関節モーメントを逆問題として解けなくなる. そこで本研究では, 床反力と併せて, 手をつくことにより大腿部へ作用する力ベクトルを計測することで, 下肢関節モーメントの逆動力学解析を行うことを試みた. 実験は健康な成年男子10名を被験者として, 椅子の高さ2条件と, 大腿部に手をつくかつかないか2条件の組み合わせ4条件にて行い, 下肢関節モーメントの解析を行った. その結果, 起立動作中に大腿部に手をつくことで, 上体の前傾動作の制御が可能となり, 特に水平方向への移動の安定性が保たれ, 上体を前方移動するための下肢による協調作業が軽減された. さらに膝関節最大モーメントの減少により, 動作時の膝関節負担が低減されたことを確認した.
著者
斎藤 綾乃 鈴木 浩明 白戸 宏明 藤浪 浩平 遠藤 広晴 松岡 茂樹 平井 俊江 斎藤 和彦
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.9-21, 2006-02-15 (Released:2010-03-15)
参考文献数
19
被引用文献数
4 3

振動環境下で通勤近郊列車の支持具の使いやすさを検討した. 列車の走行振動を模擬できるシミュレータ内に, 車内設備を取り付け, 幅広い身長の利用者に, 様々な寸法のつり革や手すりを評価させた. つり革全体の長さは275mm, 375mm, 475mmの3水準, 床からのつり革高さは靴を履いた身長に対する比 (以降, 身長比) 80~120%まで5%間隔とした. つり革長さ275mmの場合, 身長比99%が最適であり, 90~105%が推奨範囲であった. つり革が長くなると推奨範囲が狭まった. 推奨範囲外となる人の割合を最少にする観点から, いくつかの推奨値の組合せを提案した. 手すりについては, 座面前縁から150mmの距離をとったものが, 現行 (座面前縁からの距離0mm) と比較して, 姿勢維持の有効性や立ち上がりやすさが向上することを確認した. 乗降性は悪化しなかった.