著者
奥田 均 市ノ木山 浩道 須崎 徳高 平塚 伸 松葉 捷也
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.129-133, 2008-01-15

シートマルチ栽培したウンシュウミカン園などで発生するキク形状を有する果実に対する消費者の嗜好性を評価するため,マルチ栽培で生産されるキク形状を有さない果実(マルチタイプI)とキク形状の果実(マルチタイプII),および露地栽培で生産される果実(露地タイプ)について,16歳以上の309名を対象にアンケートを実施し302名(男127名,女175名)の有効回答を得た.その結果,マルチタイプIIの支持が64.5%で最も高く,マルチタイプI (19.9%),露地タイプ(15.6%)と続いた.選んだ理由には甘み,糖酸のバランスがあげられた.各タイプの支持者を年齢・男女別に分けて支持の特性を分析したところ年齢が高くなるほど女性を中心にマルチタイプを好むことが明らかになった.甘みに対する評価はタイプ支持者間で異なったが,いずれのタイプ支持者も酸に対する評価では差はなかった.形状・外観では露地タイプ,マルチタイプIを支持したグループはマルチタイプIIを劣ると判断したもののマルチタイプIIを支持したグループはタイプ間の差は小さいと判断した.剥皮性についてはいずれのタイプ支持者もマルチタイプIIが劣るとした.本アンケートの結果から供試した3タイプの果実の中ではマルチ栽培により発生したキク形状を有するウンシュウミカン果実の嗜好性が総合的に見て高いことが示唆された.
著者
小泉 丈晴 山崎 博子 大和 陽一 濱野 惠 高橋 邦芳 三浦 周行
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.205-208, 2002
被引用文献数
17

アスパラガス促成栽培における若茎の生育に及ぼす品種,低温遭遇量,株養成年数および性別の影響を検討した.<br> 曲がり症は,低温遭遇にともない発生率が低下し,曲がり症を発生した若茎に立枯病の病徴である導管褐変がみられなかったことから,促成栽培における曲がり症は休眠覚醒が十分でないことにより発生すると推定された.2年生株の供試品種のいずれにおいても,販売可能若茎重および若茎収穫本数は低温遭遇量が多い区で増加した.'バイトル'および'ウェルカム'は,低温遭遇量が少なくても曲がり症発生率が低下し,販売可能若茎重および若茎収穫本数が増加し,'グリーンタワー'および'スーパーウェルカム'より休眠が浅いと考えられた.'グリーンタワー'の1年生株の雄株および雌株並びに2年生株の雄株では,曲がり症発生率および販売可能若茎重から判断すると,伏せ込み開始時期は2年生株を用いた従来の栽培よりも約2週間の前進が可能であることが示された.<br>
著者
壇 和弘 大和 陽一 今田 成雄
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.323-328, 2005-09-15
被引用文献数
4 7

光強度および赤色光(R)/遠赤色光(FR)比を変えた光環境がコマツナ(Brassica campestris品種'はるみ小松菜', '楽天')の硝酸イオン濃度および硝酸還元酵素(NR)活性に及ぼす影響について調査した.コマツナは, 異なる光強度(PPFD 165, 290, 350, 510μmol・m^<-2>・sec^<-1>)あるいは異なるR/FR比(1.01: 対照区, 0.66: R抑制区, 1.50: FR抑制区)の光環境下で1/2単位および1単位の培養液を用いて養液栽培した.異なる光強度でコマツナを生育させたところ, 'はるみ小松菜'の硝酸イオン濃度は光強度の増加とともに低下し, 非リン酸化NR活性は光強度の増加とともに高まった.'楽天'では, 1/2単位の培養液を用いた試験区において, 光強度の増加とともに硝酸シオン濃度は低下し, 非リン酸化NR活性は高まったが, 1単位の培養液を用いた試験区では, 光強度が増加しても硝酸イオン濃度はほとんど低下せず, 非リン酸化NR活性も変化しなかった.R/FR比を変えてコマツナを生育させたところ, 1/2単位の培養液を用いたR抑制区でのみ硝酸イオン濃度の低下が認められた.
著者
金好 純子 古田 貴音 蔵尾 公紀 山口 聡
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.5-10, 2008-01-15

カンキツにおいて三倍体育成の交配親となる単胚性四倍体を作出するため,コルヒチン処理した腋芽を接ぎ木する方法により染色体倍数化を行った.その結果,8品種・系統で19個体の四倍体を得た.四倍体が得られた品種・系統は,'大橘','水晶ブンタン','農間紅ハッサク','清見','安芸タンゴール','西之香','ありあけ'および'広島果研11号'であった.作出した四倍体'清見'を種子親として二倍体'大橘'を交配すると,一果実当たりの三倍体獲得数は7.68であり,二倍体'清見'×二倍体'大橘'の0.05,二倍体'清見'×四倍体'大橘'の0.16に比べて,極めて効率よく三倍体が得られた.また,他の単胚性四倍体を種子親とした二倍体との10組み合わせの交配においても,三倍体が効率的に得られ,一果実当たりの三倍体獲得数は,四倍体'ありあけ'では0.47〜0.91,四倍体'日向夏'では2.13〜2.86,四倍体'クレメンティン'では4.25〜6.00,四倍体'清見'では6.79〜11.33であった.この10組み合わせの交配では,主に小粒の完全種子を形成したが,培養すると79.1%が植物体に再生して,そのうち99.8%(487個体)が三倍体であった.
著者
伴 琢也
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.185-191, 2014 (Released:2014-09-30)
参考文献数
41
被引用文献数
1 1
著者
西尾 聡悟 寺上 伸吾 竹内 由季恵 松本 辰也 髙田 教臣
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.137-147, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
43
被引用文献数
1

ニホンナシの育種は農研機構および全国の県の試験場で行われている.育種において最も重要な形質は黒星病抵抗性であり,生理障害の発生少,収量性,早生性,高糖度,自家和合性なども重要な育種目標となっている.近年温暖地においてナシの発芽不良が問題となっているため,温暖地でも安定栽培可能な品種の開発が求められている.そのような中で,黒星病抵抗性,自家和合性,黒斑病抵抗性,早生性,果皮色についてはDNAマーカーが開発され現場の育種に利用可能となっている.しかしながら, これらの形質は遺伝の顕性と潜性 (優性と劣性),質的形質と量的形質,対立遺伝子に異なる複数の効果があるなどの特徴があるため,効率的な選抜のためにはそれぞれの形質の遺伝様式を十分に理解したうえでDNAマーカーを使う必要がある.本総説ではニホンナシの育種に重要な59品種のこれらの形質の表現型と遺伝子型データベースを公開し,それぞれの形質の遺伝様式と利用技術についてとりまとめ解説する.
著者
藤井 雄一郎 大塚 雅子 岡本 五郎 日原 誠介 各務 裕史
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.307-311, 2007 (Released:2007-04-23)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

放射線育種により作出されたモモ‘清水白桃RS’は,原品種の‘清水白桃’と比較して果実品質は同等であるが,結実率が低い.開花30日後の結実率を調査したところ,‘清水白桃’が平年では50~70%であるのに対し,‘清水白桃RS’は20~30%と著しく低かった.花器の形態的観察を行ったところ,‘清水白桃RS’には胚珠や胚のうの未発達や退化など形態的異常の花が多く存在しており,これが結実率の低下を引き起こしていると考えられた.また,‘清水白桃RS’は葯当たりの正常花粉数が少なく,このことが受粉の効率を低下させ受精率を低下させているとも考えられた.しかし,結実率の低さが生産性の低下につながることはなく,3~5月にかけての摘蕾・摘果労力の大幅な低減につながる省力品種であることが確認された.
著者
寺本 さゆり 二宮 隆徳 山本 雅史
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.239-248, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

‘シークー’(Citrus sp.)は,奄美群島に位置する喜界島で栽培されているベルガモット香を備える在来カンキツ品種であり,同様のカンキツは奄美群島北部のみに見いだされる.この‘シークー’果皮から抽出できるベルガモット香について,同様の香りを備える‘ベルガモット’(C. bergamia Risso et Piet.)および‘田中ベルガモット’(C. balotina Poit. et Turp.)を対照として香気成分を分析した.その結果,主要香気成分である酢酸リナリル,リナロールおよびリモネンが,すべての供試材料で77%から91%を占め,成分構成が相似であることが判明した.また,‘シークー’には‘ベルガモット’において光感作作用を起こすフロクマリン類がほとんど含有されていなかった.‘シークー’は果実が小さくフラベド部分が薄いことから,水蒸気蒸留法による精油製造に適していることが示唆された.Sequence-related amplified polymorphism(SRAP)分析の結果,‘ベルガモット’と‘シークー’は直接の遺伝的関係はなく,‘シークー’は奄美群島北部で偶発実生として発生した在来カンキツであると推察された.
著者
伊東 明子 阪本 大輔 杉浦 俊彦 森口 卓哉
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.207-215, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
29

ニホンナシにおける耐凍性の簡便な評価法の開発を目的に,茨城県つくば市(農研機構果樹茶部門),鳥取県東伯郡北栄町(鳥取園試),福岡県筑紫野市(福岡農林総試),熊本県宇城市(熊本農研セ果研),熊本県八代郡氷川町(現地圃場),および鹿児島県薩摩川内市(鹿児島農開総セ果樹北薩:当時)に植栽の ‘幸水’,‘新高’ および ‘二十世紀’ 成木を用い,道管液糖含量と耐凍性(半数致死温度:LT50 (°C))の関係を2011~2017年度の12月から2月(‘二十世紀’ は12月から1月)のサンプルを用いて調査したところ,両者の間には品種ごとに異なる負の相関があることが明らかとなった(‘幸水’:LT50 (°C) = –0.516A–0.417,‘新高’ LT50 (°C) = –0.342A–4.55,‘二十世紀’:LT50 (°C) = –0.268A–9.84,ここでAは道管液糖含量(mg・mL–1)を示す).またその相関から外れたサンプルの一部については,ポット樹を用いた温度制御実験により,急激な温度変化が起こると道管液糖含量は温度変化に反応して比較的速やか(1~2日)に変化するのに対し,LT50 (°C)の反応は遅い(10日以上)ことが示され,両者の温度変化に対する反応の早さの違いが要因である可能性が示された.また,道管液の糖含量は果実糖度計など簡易的な示差屈折計を用いてもおおよそ把握できることが示された.本手法は,品種ごとに異なる検量線の作成を要すること,また糖含量はLT50 (°C)を決定する重要な要因の一つではあるが唯一の要因ではないことから,使用場面に一定の限界はあるが,たとえば耐凍性が問題となる地域において,当該期間中に定期的に道管液を測定することで,耐凍性の脆弱な園地や年次を把握するツールとして使用できるものと考えられた.
著者
瀬戸 花香 笹木 悟 本多 和茂 小森 貞男 立澤 文見
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.413-423, 2022 (Released:2022-12-31)
参考文献数
13

サルビア・スプレンデンス(S. splendens Sellow ex Schult.)とサルビア・コクシネア(S. coccinea Buc’hoz ex Etl.)の園芸品種の合計9品種の花色と花弁に含まれるアントシアニンを調査した.‘フラメンコレッド’ と ‘アカプルコ’ は,花色の値が近い赤色系であり,主要花色素がいずれもペラルゴニジン3-カフェオイルグルコシド-5-マロニルグルコシド,ペラルゴニジン3-カフェオイルグルコシド-5-ジマロニルグルコシド,ペラルゴニジン3-p-クマロイルグルコシド-5-マロニルグルコシドおよびペラルゴニジン3-p-クマロイルグルコシド-5-ジマロニルグルコシドであった.‘フラメンコレッド’,‘フラメンコローズ’ および ‘フラメンコサーモン’ におけるアントシアニンの化学構造を比較したところ,‘フラメンコローズ’ では ‘フラメンコレッド’ の主要アントシアニンのうちマロン酸2分子が結合したアシル化アントシアニン,‘フラメンコサーモン’ ではp-クマル酸が結合したアシル化アントシアニンが含まれておらず,また,含有アントシアニン濃度の低下も確認され,これらの要因が色調に影響している可能性が考えられた.‘フラメンコパープル’ と ‘フジプルコ’ では,花色の値はどちらも紫色系であったが,主要アントシアニンは異なっていた.‘フジプルコ’ の主要アントシアニンは,シアニジン3,5-ジグルコシド,ペラルゴニジン3,5-ジグルコシド,シアニジン3-グルコシド-5-マロニルグルコシドおよびペラルゴニジン3-グルコシド-5-マロニルグルコシドと同定され,これら4種のアントシアニンは,サルビア・コクシネアの園芸品種の花弁に含まれるアントシアニンでは新たな報告となった.
著者
片岡 園 本城 正憲 高畑 義人 由比 進
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.199-210, 2018 (Released:2018-06-30)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ホウレンソウの加熱後の光照射による葉色変化に関する知見を得るため,48品種を用い栽培条件を変え,外観形質および品質成分について調査を行った.伸長性,Brix糖度,総ビタミンC含量について大きな品種間差異があったが,これらの形質と葉色との間には密接な関係は見られなかった.葉色とクロロフィル含量とはすべてではないが複数の栽培条件で有意な正の相関が見られた.品種の葉色は異なる栽培条件においても安定しており,栽培条件による葉色の変動は少なかった.寒締め栽培では秋播きよりも葉色が濃くなったが,クロロフィル含量には有意差がなく,葉は有意に厚くなったため,濃さは葉の厚みによる単位面積当たりのクロロフィル含量の増加と推察された.加熱・光照射後の葉色と生鮮葉の葉色との関係を調査したところ有意な正の相関が見られた.生鮮葉,加熱・光照射下ともに明度および彩度が低く,色相角度が大きい品種を官能で葉色が濃いと評価することが多く,生鮮葉で濃い品種は加熱・光照射下においても濃いと評価された.生鮮時に葉色が濃い品種を選択することで加熱後も良好な葉色を保持することが可能である.寒締めによりBrix糖度,総ビタミンC含量は増加したことから,寒締め栽培により葉色が濃くかつ内容成分が優れるホウレンソウを得ることが可能である.
著者
井上 栄一 寧 林 山本 俊哉 阮 樹安 松木 裕美 安西 弘行 原 弘道
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.475-480, 2008 (Released:2008-10-25)
参考文献数
18

ニホングリで開発された7対のSSRプライマーを用いて,朝鮮半島由来のクリ品種のSSR遺伝子型を解析し,チュウゴクグリ17品種,ニホングリ32品種,およびニホングリとチュウゴクグリの種間雑種1品種の遺伝子型と比較した.用いたニホングリのプライマーのうち,KT006a座のみチュウゴクグリ3品種において検出されなかったが,それ以外の遺伝子座では,用いた全品種のSSR対立遺伝子型を決定できた.その結果,チュウゴクグリにおいて合計26種類,ニホングリにおいて合計37種類の種特異的な対立遺伝子が得られた.一方,朝鮮半島由来のクリ7品種においても全7遺伝子座の遺伝子型を明らかにすることに成功し,座あたり2~9種類の対立遺伝子(平均5.14種類)が検出された.種特異的な対立遺伝子に着目して両者を比較した結果,‘兎山9’,‘兎山13’,‘兎山60’,‘仁興王栗’および‘韓6’はニホングリ,‘咸従3号’はチュウゴクグリ,そして‘大城’はチュウゴクグリとニホングリの種間雑種品種であると推察された.一方,‘韓6’と‘丹沢’および‘大城’と‘利平ぐり’の間で,それぞれ7遺伝子座のSSR対立遺伝子型がすべて一致したことから,これらはそれぞれ異名同一品種の関係にあるか,枝変わり品種とその原品種の関係にある可能性が示唆された.
著者
平 夏樹 岡田 留伊 寒川 萌香 Mitalo W. Oscar 矢野 親良 赤木 剛士 牛島 幸一郎 久保 康隆
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.359-366, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
34

スダチ果実の貯蔵・流通中の品質には緑色保持が重要な課題である.エディブルコーティングと1-MCPによる処理が10,15および20°C下でスダチ果実の品質保持にどのような影響を与えるのかを検討した.エディブルコーティングにはアニオン性材料とカチオン性材料を交互に積層したLBLコーティングとアニオン性材料とカチオン性材料を混合したイオンコンプレックス型(IC)コーティングを適用した.10°C貯蔵ではいずれの処理区でも15日までは緑色がよく保持された.15°Cおよび20°Cでは,LBLコーティング,ICコーティング(3層)処理は対照区よりエチレン生成と呼吸活性を抑制し,果皮の黄色化が進行したのはそれぞれ15,19日目以降でありICコーティング処理の方がより有効に寄与した.15°Cでは,1層ICコーティングでは7日目,2層では11日目から黄化が進行したが,3層コーティングはより効果的であった.一方,1-MCP処理はスダチ果実の黄化抑制にはほとんど効果がなくエチレン生成と呼吸活性を促進し,むしろ害作用を示す場合もあった.以上から,エディブルコーティングはガス透過性の制限によるエチレン生成と呼吸活性の抑制が密接に関与しスダチ果実の黄化を抑制すると考えられる.以上から,スダチの品質保持技術として,エディブルコーティングの実用化への可能性が示唆された.
著者
山根 崇嘉 加藤 淳子 柴山 勝利
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.441-447, 2007 (Released:2007-07-24)
参考文献数
29
被引用文献数
4 3

広島県内各地における‘安芸クイーン’の着色実態と気温との関係を明らかにするため,栽培条件の異なる7園について,ブドウ‘安芸クイーン’の着色実態を2001年に調査した.また,2005年に栽培条件の異なる着色不良園3園において環状はく皮処理および着果量の軽減による着色改善を試みた.着色は園地により大きく異なり,カラーチャート値(0~5段階)で0.2~4.5となった.樹齢や栽培方法が異なったにもかかわらず,着色と糖度および着色開始後8~21日における20~25℃に遭遇した時間との間に有意な正の相関が認められた.また,高温条件下でも着果量を減らし,環状はく皮処理することにより,着色および糖度が向上したが,新梢生育の旺盛な園では,着色改善効果が小さく,気温や糖度以外にも着色阻害要因があることが示唆された.
著者
上藤 満宏 川口 岳芳
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.259-267, 2019 (Released:2019-09-30)
参考文献数
27

ミニトマト夏秋栽培におけるつやなし果の発生を抑制するため,着果促進剤(4-CPA)および遮光がつやなし果の発生に及ぼす影響について調査した.4-CPA処理におけるつやなし果発生率は,5~12%であり,無処理の22~39%と比較して有意に低かったことから,4-CPA処理は,つやなし果の発生抑制技術として有効と考えられた.また,遮光処理によって施設内の昇温を抑制した遮光区および調光区のつやなし果の発生率は7および9%であり,無遮光区の15%と比較して有意に低く,つやなし果の発生が最も多い9月の可販果収量は遮光処理した遮光区および調光区が株当たり0.8および1.0 kgであり,無遮光区の0.4 kgと比較して有意に多かった.これらのことから,遮光による昇温抑制は,つやなし果の発生抑制技術として有効と考えられた.遮光処理の方法について,強日射時のみ遮光する方法は,つやなし果の発生抑制効果に加えて,常時遮光する方法と比較して可販果収量が一時的に増加したことから,つやなし果の発生を抑制しつつ常時遮光による減収を回避する方法として有効であると考えられた.
著者
守谷(田中) 友紀 岩波 宏 花田 俊男 本多 親子 和田 雅人
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.283-289, 2016 (Released:2016-09-30)
参考文献数
15
被引用文献数
2

リンゴの主要4品種において,摘果期間早期の落果量を増加させる摘花剤がもたらす摘果期間全体での省力効果および果実肥大促進効果を検証し,各品種における効率的な薬剤摘花・摘果の方法を検討した.頂芽果落果率や腋芽の結実花そう率の違いから,薬剤摘花・摘果の効果は品種により異なった.‘つがる’および‘ジョナゴールド’では,摘花剤単用は腋芽の結実花そう率が高いために腋芽果の摘果に時間を要し,省力につながらなかった.果実肥大を考慮すると,両品種においては摘花剤と摘果剤の併用が最も効果的であった.‘シナノスイート’では,薬剤摘花・摘果による摘果作業の省力効果はなかったが,果実肥大が促進されることから摘花剤散布が有効であった.‘ふじ’では,人工受粉によって果実重と種子数が増加するため,人工受粉をしたうえで摘花剤と摘果剤を併用することにより,摘果作業を大幅に省力しつつ果実肥大を期待できる.摘花剤単用は摘果剤単用より省力効果があった.
著者
山本 雅史 福田 麻由子 古賀 孝徳 久保 達也 冨永 茂人
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.7-12, 2010 (Released:2010-01-26)
参考文献数
28
被引用文献数
8 9

奄美大島の東側に位置する喜界島特産の在来カンキツであるケラジミカン(C. keraji hort. ex Tanaka)の来歴について検討した.Inter Simple Sequence Repeat(ISSR)分析において,多型が認められたバンドを用いて共有バンド率を算出した.ケラジミカンはクネンボ(C. nobilis Lour.)と最も共有バンド率が高く(0.823),次いでキカイミカン(C. keraji hort. ex Tanaka)との共有バンド率が高かった(0.688).ケラジミカンに認められた16本のバンドはすべてキカイミカンまたはクネンボにも出現した.この3者間でケラジミカンのみに出現する独自のバンドは無かった.この結果から,ケラジミカンがクネンボとキカイミカンとの交雑種である可能性は否定できなかった.葉緑体DNA分析においてはケラジミカン,クネンボおよびキカイミカンは常に同一のバンドパターンを示し,識別できなかった.いずれも自家不和合性であるケラジミカン,キカイミカンおよびクネンボ間の交雑では,ケラジミカンとキカイミカンの正逆交雑において不和合関係が認められ,両者の不和合性に関する遺伝子型が一致することが確認できた.この両者はクネンボとは交雑和合性であった.クネンボとキカイミカンがケラジミカンの親であると仮定した場合,キカイミカンが花粉親の場合に,ケラジミカンはキカイミカンと不和合性になる.以上から,ケラジミカンはクネンボを種子親,キカイミカンを花粉親として発生した可能性があることがわかった.
著者
白山 竜次 郡山 啓作
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.357-363, 2014
被引用文献数
6

夏秋ギク5品種および秋ギク5品種を用いて,それぞれの品種の限界日長と効果の高い暗期中断時間帯の関係について調査した.夏秋ギク'フローラル優香','岩の白扇','サザングレープ','サザンチェルシー'および'サザンペガサス'の8月開花における限界日長(暗期長)は,15(9)~16(8)時間で,暗期開始(Dusk)から花芽分化抑制効果の高い時間(NBmax)までの時間(Dusk-NBmax)は,電照時間1時間を加えると6.5~8.5時間であった.一方,秋ギク'神馬','山陽黄金','雪姫','白粋'および'秀芳の力'の12月開花における限界日長(暗期長)は,5品種ともに13(11)時間で,秋ギク5品種のDusk-NBmaxは,電照時間40分を加えると概ね9~10.5時間であった.秋ギクに比較して限界暗期長の短い夏秋ギクはDusk-NBmaxも秋ギクに比較して短かった.これらの結果は,各品種のDusk-NBmaxはそれぞれの限界暗期の長さと連動しており,限界暗期長付近の暗期中断が最も花芽分化に影響を及ぼしていることを示し,個々の品種の限界日長が確認できれば,効果の高い電照時間帯を推定できる可能性を示唆する.
著者
井上 栄一 本間 貴司 佐々木 道康 郷内 武 霞 正一
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.199-203, 2012 (Released:2012-07-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1

クリの自家不結実性は,他の果樹のようには完全でないと報告されているが,その自家結実性の程度については明らかになっていない.そこで本論文では,花粉遮断試験とSSR遺伝子座の遺伝解析によって,品種間における自家結実性の変異を明らかにした.花粉遮断試験の結果,調査した51品種・系統の約47%にあたる24種類において結実が確認された.そのうちの5品種とその自家結実実生13個体について,SSR遺伝子座の遺伝を確認したところ‘伊吹’,‘大峰’および‘豊多摩早生’由来の8個体が自殖実生であると推察された.特に,‘豊多摩早生’に関しては着毬率(62.5%)と結果率(33.3%)も他の品種・系統と比較して極めて高く,調査した6個体すべてが自殖実生であることが確認された.一方,‘笠原早生’,‘丹沢’および‘大峰’に由来する5個体は,他家受粉に由来すると考えられた.以上の結果より,クリにおいては品種によっては自家結実が可能であるが,それはごく低頻度であり,基本的には自家不結実であると結論した.しかし,今回用いた品種・系統のうち,‘豊多摩早生’だけは自家結実性と判断した.
著者
花田 惇史 吉田 裕一 佐藤 卓也 後藤 丹十郎 安場 健一郎 田中 義行
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.161-169, 2016 (Released:2016-06-30)
参考文献数
27
被引用文献数
3 4

近年,受粉用ミツバチがしばしば不足し,果実を中心に園芸作物の生産コスト増大や品質低下を引き起こしている.その解決策の一つとして,医療用の無菌ウジ増殖技術を応用して生産したヒロズキンバエについて,施設栽培作物の花粉媒介昆虫としての実用化の可能性を検討した.イチゴ,トマト,ナスおよびメロンを対象として,開花期にヒロズキンバエをハウス内に放飼し,着果率や果実形態の比較によって,各作物への受粉効果を調査した.トマト,ナスおよびメロンにおいては,明確な着果促進効果は得られなかった.一方,イチゴでは,ハエは羽化直後から盛んに花に飛来する姿が観察され,ハエ搬入前と比較して受精不良果発生率は大きく低下した.ただし,90 m2当たり400頭の搬入では品種によって効果が不十分であった.しかし,1000頭搬入した場合は,ミツバチと同等の効果が得られたことから,ヒロズキンバエはミツバチの代替ポリネーターとして十分利用可能であると考えられた.