著者
遠藤(飛川) みのり 曽根 一純
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.131-139, 2020 (Released:2020-06-30)
参考文献数
25

関東,四国および九州沖縄地域の観光農園を対象に質問紙を配布し,面積などの農園の特性を踏まえたイチゴ品種の利用実態を調査した.その結果,関東地域に比べ都市的地域が少ない四国,九州沖縄地域の農園では,果実を摘み取りや直売以外にも多用途に利用している傾向があったものの,いずれの地域においても農園当たり約4品種の併用が認められた.また,品種別では, ‘紅ほっぺ’ や ‘かおり野’に代表される,草勢が強く高設栽培適性が高い,早生,多収品種の利用率が高かったほか,晩生や少収傾向の品種の利用も多く認められた.品種選定において重視する事項の調査結果から,農園が異なる早晩生の品種を複数利用する動機は,収穫時期の拡大よりも,収穫時期や果実品質の平準化にあると推察された.なお,いずれの地域においても,観光農園が利用品種を選定するうえでは,連続開花,収穫性の他に,果実品質や病害抵抗性を重視する傾向が認められた.今後は,多品種の併用に関する技術開発とともに,上述の特性を併せ持つ観光農園向け品種の開発が期待される.
著者
古賀 武 下村 克己 末吉 孝行 三井 寿一 浜地 勇次
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.91-95, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
16

近紫外線除去(UVA)フィルム被覆下でも果皮の着色が優れる単為結果性ナス品種育成の可能性を判断する目的で,へた下の着色が濃い半数体倍加(DH)系統(濃系統),へた下の着色が淡いDH系統(淡系統)およびこれらのF1を供試して,へた下の着色程度とUVAフィルム被覆下における果皮色との関係について検討した.一般農業用ビニルフィルム被覆下(農ビ区)とUVAフィルム被覆下(UVA区)における果皮色の色差値は,濃系統の方が淡系統より有意に小さかった.また,濃系統を両親としたF1系統では,淡系統を片親あるいは両親としたF1系統より,農ビ区とUVA区間における果皮色の色差値が有意に小さかった.このことから,へた下の着色程度とUVAフィルム被覆下における果皮色には遺伝的な関連が認められ,UVAフィルム被覆下でも果皮の着色が低下しにくい単為結果性ナス品種育成の可能性が示唆された.また,果皮色の選抜に当たっては,一般農業用ビニル被覆下におけるへた下の着色程度を指標とすることによって,UVAフィルム被覆下でも果皮の着色が優れる系統を選抜できるものと考えられた.
著者
井手 治 龍 勝利 森山 友幸
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.35-42, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
24

慣行の軒高が2 mのハウスにおける新たなトマト多収栽培技術として,トマト連続栽培システムを開発した.開発したシステムは6段果房または8段果房摘心栽培を,それぞれ年間2,3回のインタープランティングを行うことにより,盛夏期を休耕し周年栽培することなく累計24段果房を収穫できることが明らかとなった.また,作付回数の違いでは,年4作区が年3作区より,寡日照時期に果実肥大する果房上葉の受光量が多く,平均果重と可販果率が向上することから,単位面積当たりの可販果収量が増加し,30 t・10 a–1以上が得られることが明らかとなった.
著者
元木 悟 西原 英治 北澤 裕明 平舘 俊太郎 篠原 温
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.431-436, 2006-12-15
被引用文献数
2

アスパラガスでは改植後,新植圃場に比べて減収し,若年株から欠株が発生するなどの原因不明の生育障害が多く見受けられる.本研究では,アスパラガスの連作障害における要因の一つであると考えられるアレロパシーの関与について検討した.アスパラガスの根圏土壌では,アスパラガスおよびレタスに対して強い生育阻害活性が認められた.その活性は,根圏土壌の塩類の集積やpHの変動,無機養分の異常によるものではなかった.また,アスパラガスの茎葉の生育阻害活性を検討したところ,茎葉をそのまま土壌中にすき込んでもアスパラガスの生育阻害や減収の大きな原因にはならないと考えられた.一方,アスパラガスの貯蔵根には強い生育阻害活性が認められ,その貯蔵根から惨出するアレロパシー物質がアスパラガスの連作障害の一つの要因であると推察された.
著者
小泉 丈晴 剣持 伊佐男 町田 安雄
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.275-278, 2003-12-15

アスパラガス'グリーンタワー'の1年生株を用いた養成時の生育と促成栽培における若茎の収穫量および品質の雌雄間差を検討した.1.アスパラガスの養成株における雌雄間の形態的な差異として,雌株は雄株に比べて草丈および第1側枝の位置が高い傾向がみられた.雌の1年生株は,果実の着生が少なく,雌雄間での発生茎数の差がなく,雌株は雄株に比べて茎経が太く生育が旺盛であった.2.1年生株の促成栽培では,若茎発生数には雌雄間差はなく,雌株は1本重が重いL規格の発生数が多く,若茎重の合計で雄株より優った.3.雌株が雄株に比べ若茎頭部のしまりが良く,りん片葉のアントシアニン発生が少なかった.4.以上のことから,1年生株を用いた促成栽培では,雌株を判別して用いた方が有利であると判断された.
著者
福地,信彦
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, 2004-09-15

The effects of fruit thinning, defoliation, and training methods, using lateral shoots for increasing leaf areas, on fruit soluble solids content and yields of tomatoes were investigated. Restricted fruit load per fruit truss by fruit thinning did not result in increment of total yields, marketable yields or fruit soluble solids content. Defoliation and training methods for increasing leaf areas did not influence total yields or marketable yields. Fruit soluble solids content was lowered by defoliation and increased with increasing leaf areas by leaving the lateral shoot just below the fruit truss.
著者
元木 悟 西原 英治 高橋 直志 Hermann Limbers 篠原 温
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.603-609, 2007 (Released:2007-10-24)
参考文献数
26
被引用文献数
1 3

アスパラガスのアレロパシー物質に対して吸着性能が優れた活性炭を,育苗培養土に混合し,その影響を調べた.その結果,育苗時の根から滲出されるアレロパシー物質を活性炭が吸着し,生育が早まり,育苗期間を短縮させる可能性があることが示唆された.本手法を8科30種の園芸作物に適用した結果,トマト,トルコギキョウ,レタス,キュウリ,キャベツ,ブロッコリーおよびアスパラガスなどで対照区に比べて育苗培養土に活性炭を混合あるいは添加した効果が認められた.なお,育苗培養土への活性炭添加の効果には品種間差異が認められたが,アレロパシー活性が高いと報告されている園芸作物に対しては生育を早めさせたことから大いに利用できる技術であると考えられた.
著者
村山,徹
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, 2007-04-15

コシアブラ若芽の抗酸化活性をβ-カロテン退色法とDPPHラジカル消去活性で評価したところ,高い活性を示した.主たる抗酸化成分は,クロロゲン酸と同定された.グロースチャンバー試験で,その成分含量に影響する要因を検討したところ,光が強く,穂木が良いと含量が高まることが示された.その結果に基づいて,好適な促成栽培技術を確立するため,ガラス室内で栽培条件が収量と抗酸化成分含量に及ぼす影響を検討した.促成栽培では, 10〜15℃の木に30〜40cmの穂木を挿すことによって,クロロゲン酸含量の多い若芽を収穫できた.
著者
松本 和浩 加藤 正浩 竹村 圭弘 田辺 賢二 田村 文男
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.339-344, 2010 (Released:2010-07-28)
参考文献数
21
被引用文献数
6 8

秋季の窒素施肥量の違いがニホンナシ‘二十世紀’と‘豊水’の耐寒性と脂質含量に及ぼす影響を調査した.‘豊水’は‘二十世紀’に比べ,多肥による影響を受けやすく,施肥後,樹体内窒素の増加が著しく,耐寒性の上昇が抑制され,春季の生長も阻害された.脂質およびPC含量は‘二十世紀’に比べ‘豊水’で少なかった.両品種とも多肥処理により,脂質およびPC含量の増加が抑制され,脂質の不飽和度の上昇も抑制された.このように,窒素多肥による脂質含量や脂質不飽和度の低下が,耐寒性の低下に影響を及ぼしていると考えられた.
著者
葛西 智 工藤 智 荒川 修
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.69-74, 2011 (Released:2011-02-02)
参考文献数
18

2007,2008および2009年の3か年,果実細胞分裂期のNAA 14.7 ppmの1回処理によるリンゴ‘ふじ’の裂果抑制効果試験を行った.満開2週間後処理は,3か年中2か年で裂果抑制効果が認められたが,同時に収穫果の果重の低下が認められ,新梢伸長が抑制される場合もあった.一方,満開3または4週間後処理では,試験を実施したいずれの年においても裂果抑制効果が認められ,果実品質や新梢伸長に及ぼす影響はみられなかった.また,NAA処理による裂果抑制は,細胞数の減少に由来した果実肥大盛期における果実肥大量の低下が関与する可能性が考えられた.
著者
岩波 宏 守谷 友紀 花田 俊男 阪本 大輔 馬場 隆士
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.79-85, 2021 (Released:2021-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

NAC水和剤による摘果効果は年次間差が大きい.そこで,樹体の状態と気象条件から効果に影響を及ぼす要因を抽出し,その要因を用いて,摘果効果(落果率)を予測するモデルを作成するとともに,そのモデルから,年次変動の原因およびその程度を推定した.NAC水和剤処理による‘ふじ’の落下する果実の肥大停止時期は,NAC水和剤を早くに処理しても遅くに処理しても,無処理樹で生理落果する果実が肥大停止する時期と同じ時期であった.NAC水和剤処理による落果率は,処理時の果そう内平均着果数,平均果そう葉数,処理後3日間の平均最高気温,満開後3~4週の平均日射量の4つの要因で概ね推定できた.果そう内着果数と果そう葉数は果そうの栄養状態を表し,果そう内の着果数が多く,果そう葉数が少ないリンゴ樹の果実は落下しやすかった.気象要因である処理後の気温と日射量については,日射量の方が落果率に及ぼす影響は大きく,年次による落果率の違いは,満開後3~4週の平均日射量の年次による違いが主な原因であった.近年はこの時期の日射量が高いため,NAC水和剤の摘果効果が不十分な年が多く,NAC水和剤単独処理では省力化の期待できる落果率80%を安定して達成するのは困難であると推定された.
著者
林田 達也 柴戸 靖志 浜地 勇次
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.197-201, 2010 (Released:2010-04-25)
参考文献数
30

結球アブラナ科作物であるハクサイおよびキャベツの結球葉と収穫残さである外葉のCa供給源としての有用性を明らかにする目的で,化学形態別Ca含量を部位別に分析し,その特性について明らかにした.ハクサイ‘無双’,キャベツ‘金系201’における総Caおよび水溶性Ca含量は収穫残さである外葉のほうが,可食部である結球葉,主茎より高かった.両作物の結球葉における水溶性Ca含量はツケナの40%以下であった.しかし,ハクサイおよびキャベツの外葉における総Caに占める水溶性Ca含量の比率は,結球葉より高く,キャベツの外葉における総Ca含量および水溶性Ca含量はそれぞれツケナの2.1および2.9倍であり,ハクサイの外葉の総Ca含量および水溶性Ca含量はツケナと同等であった.以上のことから,ハクサイおよびキャベツの収穫残さである外葉はCa供給源として有望であることが示唆された.
著者
登島 早紀 岡本(中村) 理恵 阿部 健一 坂嵜 潮 小松 春喜 國武 久登
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.345-352, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
32
被引用文献数
2 3

温暖な日本の気候に適し,健康機能性を有するラズベリー品種の作出のため,環境適応性の高い在来野生種ナワシロイチゴ(Rubus parvifolius L.)とラズベリー‘インディアンサマー’(R. idaeus L.)の種間交雑を行った.葉,花および果実の形態的調査において,‘07RUBIXP01’は両親の中間的な値を示し,RAPD分析によるDNA評価でも雑種性が確認された.‘07RUBIXP01’は小さな刺が見られるものの,暖地環境下でも旺盛な生育を示し,両親に比べ果実重が有意に高いことが確認された.総ポリフェノール,アントシアニンおよびエラジタンニン含量測定において,‘07RUBIXP01’は両親の中間的な値を示した.特にエラジタンニン含量において‘インディアンサマー’と比べ約4倍高い値を示した.さらに,糖と有機酸含量の測定では,両親に比べ糖酸比が高く,食味に優れていた.2012年に‘07RUBIXP01’として品種登録し(農林水産省品種登録第21801号),今後日本の温暖地域において有望なラズベリー品種として期待できる.
著者
小野崎 隆 池田 広 山口 隆 姫野 正己 天野 正之 柴田 道夫
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.13-16, 2002-04-01
被引用文献数
2 14

Burkholderia caryophylliにより発生するカーネーション萎凋細菌病は, 日本でのカーネーション栽培上最も重要で問題となっている病害である.カーネーション品種'スーパーゴールド'×強抵抗性野生種D. capitatusの種間雑種系統の中から, 強度の萎凋細菌病抵抗性を有する系統91B04-2を選抜し, 中間母本'カーネーション農1号'として品種登録した.'農1号'は定植から約3か月で開花する極早生性を示し, 調査期間中の全収量は11.5本/株と対照として供試したカーネーション3品種をいずれも上回る多収性を示した.フローサイトメトリーによる相対的な核DNA量の測定により, '農1号'は'スーパーゴールド'とD. capitatusの雑種であることが確認され, 二倍体と推定された.本系統は, 抵抗性育種素材として, カーネーションおよびダイアンサスの実用品種の育成に利用できる.
著者
名徳 倫明
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.237-242, 2018 (Released:2018-06-30)
参考文献数
14

ラン科植物の中のPaphiopedilum属 (Paph) は,様々な品種改良が行われ,現在では,花型が大きく丸く,色彩の鮮やかな整形交配種が多く誕生している.そこで今回はPaphの白色整形花の評価をJOGAのメダル審査にて入賞した1981年から2015年までの入賞個体を対象として,花形や大きさを調査した.また,白色整形花の改良に大きく貢献した2種のPaph. F. C. PuddleおよびPaph. Skip Bartlett交配系統に分類して集計した.30年の経過とともに,花径幅,花弁幅では15 mm程度大きくなり,花弁幅/花径幅では0.1程度上昇した.これらの値からも,白色整形花はより大きく丸く品種改良されていることが伺えた.さらに2000年前後から改良が大きく進み,特にPaph. Skip Bartlettの血統を引くS系交配が品種改良に非常に貢献し,今後もこれらの系統を使った交配親を用いることにより,大きく品種改良が進むであろうと考える.
著者
小泉 丈晴 工藤 暢宏 立石 亮 野村 和成 井上 弘明
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.11-16, 2008 (Released:2008-01-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

‘愛知早生ブキ’などの三倍体品種の雌株に花粉稔性のある群馬県在来‘水ブキ’(雄株)を交配し,実生作出の可能性について明らかにした.さらに,‘愛知早生ブキ’と群馬県在来‘水ブキ’(雄株)との交配により,得られた実生の特性を明らかにした. 1. フキの三倍体品種である‘愛知早生ブキ’,徳島県在来‘水ブキ’および‘吉備路’の雌株に群馬県在来‘水ブキ’(雄株)を交配することにより稔実種子が得られた.‘愛知早生ブキ’では採取した種子の2.0%,徳島県在来‘水ブキ’と‘吉備路’の種子では0.4%の出芽がみられた. 2. ‘愛知早生ブキ’と群馬県在来‘水ブキ’(雄株)の交配により得られた実生は,交配親に比べて,葉柄の生育が旺盛なものや葉柄部にアントシアニンの発生が無いものがみられた. 3. フローサイトメトリーによる相対的核DNA量の測定から‘愛知早生ブキ’と群馬県在来‘水ブキ’(雄株)の交配により得られた実生について倍数性を推定すると,‘AM-35’は二倍体,‘AM-1’と‘AM-51’は異数体と考えられた. 4. ‘愛知早生ブキ’と群馬県在来‘水ブキ’(雄株)の交配により得られた実生から選抜した‘AM-1’は,早生性で葉柄部のアントシアニンの発生は少なく,収量も多いことから,育種目標に適した有望な系統であった.この組み合わせ交配から得られた実生個体の選抜により,新たな葉柄収穫用品種が育成できる可能性があると考えられた.
著者
伊藤 弘顕 西川 久仁子 粟野 達也 細川 宗孝 矢澤 進
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.19-23, 2010

乾膜質な花葉をもつ7種の植物種を用いて,細胞壁の形態を電子顕微鏡および偏光顕微鏡を用いて観察した.通常,花葉は一次細胞壁だけの柔細胞で構成される.しかし,少なくとも7種の植物種における乾膜質な花葉では,共通して組織すべての細胞がセルロース配向のある二次細胞壁を発達させていることが明らかとなった.また,二次細胞壁の肥厚形態は植物種によって様々であった.すなわちヘリクリサムなどキク科の植物は管状要素あるいは転送細胞のように網目状あるいは縞状に,センニチコウなどヒユ科の植物は繊維のように層状に,イソマツ科の植物であるスターチスは種皮の厚壁異型細胞のようにひだ状に,細胞壁を発達させていた.<br>
著者
山根 健治 猪爪 亜希 和田 義春 林 万喜子 清水 明
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.115-121, 2008-01-15
参考文献数
17
被引用文献数
5

鉢花カーネーションの流通・消費段階での収穫後品質向上のために低照度下での生理および品質の変化について調査した.個葉の光補償点は'マイフェアレディ'ではPPFD 10.3 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>,'スカーレット'12.9 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>と算出された.Fv/Fm,&Phi;PSIIおよび葉のクロロフィル含量は120 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>では維持されたが,10 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>(16時間日長)においては著しく低下した.10 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>において花弁の糖含量とアントシアニン含量の低下が認められた.10 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>では120 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>の鉢と比較して開花数が減少し,鉢花の日持ちも短かった.これらのことから,光補償点前後の弱光下ではクロロフィルの分解と葉の黄化が進行し,光合成量が著しく低下して糖含量が低下した結果,個々の小花と鉢花全体の日持ちが短縮されたものと推察された.10 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>条件下の'スカーレット'では30 ppm 5-アミノレブリン酸(ALA)処理により葉の&phi;PSII値およびクロロフィル含量の低下と黄化が緩和され,開花数,小花および鉢花の日持ちが改善される傾向にあった.PPFD 5 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>(24時間日長)条件下の'マイフェアレディ'では30 ppmおよび150 ppm ALA単独処理で鉢花の日持ちが有意に延長された.PPFD 15 &mu;mol・m<sup>&minus;</sup><sup>2</sup>・s<sup>&minus;</sup><sup>1</sup>(12時間日長)条件下の'マイフェアレディ'において,30 ppm ALA処理はクロロフィル含量の低下を緩和したが,光合成速度や光補償点には影響しなかった.<br>
著者
楊 学虎 冨永 茂人 平井 孝宜 久保 達也 山本 雅史
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.227-234, 2009-04-15
参考文献数
18

タンカン果実の連年安定生産技術改善のための基礎的知見を得るために、'垂水1号'を供試して、果実発育、着色、果汁成分、砂じょうの発育および呼吸活性の時期別変化を調査した。果実は7〜12月にかけて旺盛に肥大し、それには7〜11月にかけての砂じょう重の増加が大きく寄与していた。12月以降、果実肥大は低下した。じょうのう当たりの砂じょう数は7月には収穫時とほぼ同数であった。砂じょう長は8〜2月まで緩やかに増加した。砂じょうの呼吸活性は7〜11月にかけて急速に減少し、11月以降はほぼ一定であった。果皮の着色は10月から始まったが、果肉の着色より遅れた。糖度(Brix)は10月から増加し、それは主要糖であるスクロースの増加によるものであった。グルコースとフルクトースの含量は低かったが、収穫直前にわずかに増加した。滴定酸含量は8月に最高値を示した後、12月まで急激に減少した。12月以降は1%前後で推移した。滴定酸含量は果汁中で90%以上を占めるクエン酸の変化と一致した。クエン酸以外にリンゴ酸が検出されたが、リンゴ酸含量は終始低かった。
著者
神尾 真司 宮本 善秋 川部 満紀 浅野 雄二
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.447-452, 2006 (Released:2006-12-27)
参考文献数
17
被引用文献数
3 5

数種のモモ台木品種と岐阜県飛騨地域在来のハナモモに‘白鳳’,‘昭和白桃’を接ぎ木して凍害による主幹部障害,枯死樹発生に及ぼす影響を検討した.‘おはつもも’台は3年生時から穂木部を中心に障害が発生し,4年生時にはすべて枯死した.これに対し‘モモ台木筑波1号’台,‘ハローブラッド’台および‘国府HM-1’台は3~4年生時に穂木部,台木・接ぎ木部ともに障害が発生したが,枯死には至らなかった.中でも‘国府HM-1’台は,障害程度が最も軽症であり,障害発生抑制に有効な台木であると考えられた.一方,台木品種による穂木品種の発芽期,開花始期,展葉期に差は認められなかった.また,樹体生育量には差は認められたが,障害発生との関係は明らかでなかった.