著者
蔵下 はづき 平片 悠河 高木 素紀 幡本 将史 牧 慎也 山口 隆司 青井 透 黒田 恭平
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.III_255-III_264, 2018 (Released:2019-03-29)
参考文献数
46
被引用文献数
1

本研究では,連作障害が発生したレンコン栽培実圃場を対象とし, 線虫被害の程度の違いにおける微生物群集比較解析,寄生性線虫の定量PCR,有用微生物優占化土壌改良資材を用いたレンコン栽培土壌の回分培養を行うことで,化学農薬に依らない防除方法の確立を目指した.被害程度の差における優占種の同定を行った結果,被害の大きい圃場においてAcidobacteria門,Chloroflexi門の未培養グループに属する微生物が優占して検出された.被害の生じたレンコン細根中の寄生性線虫の定量PCRを行った結果,Hirschmanniella diversa及びH. imamuriの2種の寄生が確認された.土壌改良資材の施用効果を評価した結果,Bacillus属がレンコン栽培土壌で増殖可能なことが分かった.
著者
堀内 将人 小林 剛志 近藤 利洋
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.III_175-III_183, 2017 (Released:2018-04-01)
参考文献数
17

名古屋市の平和公園射撃場跡地の中で,高濃度の鉛汚染が明らかとなっている地点において,10 m×10 mの区域を25メッシュに分割し,各メッシュの中心で深さ0~5 cmと5~10 cm,区域の中心で深さ90 cmまでを10層に分けて土壌を採取した.土壌中鉛濃度の平面・鉛直分布を得ることで平面的な濃度のばらつきや深さ方向への鉛の動態を評価した.平面分布については,5地点混合法が射撃場のような鉛弾を原因とする汚染土壌で地点代表値を得るための方法として妥当かどうかを評価した.鉛直分布では,全量鉛濃度,溶出量,含有量の分布について比較考察するとともに,土壌への保持形態別鉛濃度比の深さ方向変化から,鉛弾を起源とする鉛の下方移動の動態について考察した.さらには,平和公園散策道利用者の健康リスクについても言及した.
著者
伊藤 寿宏 押木 守 小林 直央 加藤 毅 瀬川 高弘 幡本 将史 山口 隆司 原田 秀樹 北島 正章 岡部 聡 佐野 大輔
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.III_305-III_313, 2016 (Released:2017-04-03)
参考文献数
25

本研究では、流入下水中のヒト腸管系ウイルス濃度分布、及びWHOが推奨する許容年間疾病負荷(10-6 disability-adjusted life years per person per year)に基づいて、定量的微生物リスク評価(quantitative microbial risk assessment: QMRA)の手法を用いて下水再生水の利用用途ごとにウイルス除去効率の目標値を算出する手法を構築・提案する。代表的なヒト腸管系ウイルスとしてノロウイルスに着目し、流入下水中のノロウイルス濃度モニタリングデータを使用することで、6種類の下水再生水利用シナリオにおけるノロウイルスの下水再生水中許容濃度及び除去効率の目標値を試算した。本研究で提案した方法により算出したヒト腸管系ウイルス除去効率目標値を使用する際には、下水再生システム稼動後においても未処理下水中のヒト腸管系ウイルス濃度をモニタリングすることが求められる。また、用量反応モデル情報の更新と、下水再生利用が行われる地域の状況に基づいた曝露シナリオとパラメータの更新についても継続して取り組むことが重要である。
著者
鈴木 元彬 POOPIPATTANA Chomphunut 春日 郁朗 古米 弘明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.III_169-III_179, 2018
被引用文献数
1

東京港内にあるお台場海浜公園などの親水空間において,合流式下水道雨天時越流水(CSO)に起因した糞便汚染が問題視されている.本研究では2017年の10-11月の降雨を対象に隅田川上流部から台場周辺海域に至る水域で経日的な表層水の採水を行い,指標細菌類4種類(大腸菌,大腸菌群,糞便性大腸菌群,腸球菌),ウィルス指標2種類(F特異大腸菌ファージ,体表面吸着ファージ)の分析を行った.降雨直後に細菌類は2桁程度,大腸菌ファージは1桁程度濃度が増加した.また沿岸域においては,大腸菌の消長が高い塩分濃度の影響を受けていることが示唆された.指標微生物間の相関性は細菌類の間で非常に高く,指標微生物の消長に着目したクラスター分析の結果,指標微生物は細菌類と2種の大腸菌ファージの3グループに類型化された.
著者
細谷 和範 森元 純一 野口 司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.213-223, 2012 (Released:2012-10-19)
参考文献数
20

本研究では中国山地を流れる吉井川において,かつて高瀬舟が補助動力として風を利用していたことを手がかりに,風力利用の可能性を調べた.はじめに高瀬舟に関する文献や資料の中から風力に関する情報を収集し,高瀬舟が帆走可能であった区間を調べたところ,中流域の和気町では帆走に適した風が得やすいものと推測された.続いて和気町周辺の風況観測を実施し,風況の特徴を整理するとともに,簡単な風系推定モデルを用いて風場を推算した.この結果,和気町では年間を通じて昼間に2m/s~3m/s程度の風が得られる他,和気町を流れる吉井川は平地からの風が流入しやすい地形条件を有していることが見いだされた.この地域の風速は概して小さく,風力発電には適さないが,過去に利用された自然エネルギーを学ぶ環境教育への活用が期待できる.
著者
中村 怜奈 小橋川 直哉 小坂 浩司 久本 祐資 越後 信哉 浅見 真理 秋葉 道宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.III_641-III_650, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
23
被引用文献数
2

カルキ臭の主要な原因物質の一つであるトリクロラミンについて,原水中での生成能を評価するとともに,トリクロラミン生成への共存物質の影響について評価した.15原水のトリクロラミン生成能は6~140μg Cl2/Lの範囲であった.一般水質項目との関係について検討したところ,アンモニア態窒素濃度と関連性が認められた.また,アンモニア態窒素濃度が同じ場合,アンモニウム水溶液中のトリクロラミン生成能の方が原水中よりも大きい値であった.アンモニウム水溶液,グリシン水溶液に天然有機物(NOM)が共存した場合,トリクロラミン生成能は低下したことから,NOMにはトリクロラミンの生成を低下させる影響があることがわかった.対象としたNOMのうち,ポニー湖フルボ酸はトリクロラミン前駆物質でもあった.アンモニウム水溶液,グリシン水溶液に臭化物イオンが共存した場合,トリクロラミン生成能は低下した.一方,NOM共存下で臭化物イオンを添加した場合,アンモニウム水溶液ではその影響は認められなかった.グリシン水溶液の場合,50 μg/Lまでは影響しなかったが,200 μg/Lではトリクロラミン生成能が若干低下した.原水に臭化物イオンを添加した場合,トリクロラミン生成能は影響を受けなかった.
著者
夏 吾太 田中 勝也
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.110-116, 2018 (Released:2018-07-20)
参考文献数
16

本研究の目的は,日本の農業分野における環境直接支払制度を対象として,その普及に関する決定要因を明らかにすることである.この目的のため,現在の支払制度である環境保全型農業直接支払交付金が開始された2011(平成23)年からデータが利用可能な2014(平成26)年までの期間について,都道府県レベルのパネルデータを構築し,経済・社会的な諸要因が,普及に与える影響を定量的に分析した.分析では,都道府県ごとの観測されない異質性を考慮するため,Pooled OLSに加えて固定効果モデルおよび差分モデルによる推計をおこなった.分析の結果,環境直接支払の普及水準は,面積あたり交付金額や営農状況,高齢化の度合いなどの諸要因により,複合的に規定されることが示された.
著者
三島 一仁 山本 祐吾
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.II_245-II_253, 2012 (Released:2013-02-13)
参考文献数
27
被引用文献数
4

本研究では,和歌山市をケーススタディの対象地として,清掃工場の焼却排熱を活用した下水汚泥のバイオオイル化システムを検討し,エネルギー消費量および温室効果ガス(GHG)排出量を定量的に評価した.その結果,清掃工場と下水処理場の両施設が余剰排熱(電力換算)を介して連携し,さらに下水処理場にバイオオイル化技術を導入するケースでは,それぞれの施設でのエネルギー消費量を上回る焼却排熱とバイオオイルが回収可能であり,エネルギー自立しうるポテンシャルを有することが明らかになった.また,同ケースでは,施設間の連携や新技術の導入を実施しないケースと比較して,GHG排出量が37.3%削減されることがわかった.
著者
浅利 裕伸 洲鎌 有里
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.30-33, 2019 (Released:2019-02-20)
参考文献数
14

帯広広尾自動車道建設による野生動物の生息地分断化を解消するため,野生動物用オーバーパスが設置された.この効果を検証するため,自動撮影カメラを用いて2017年5月~11月に利用種のモニタリングを実施した.野生動物用オーバーパス周辺の森林に生息する種とオーバーパスの利用種に大きな違いはなく,撮影頻度も有意に異ならなかったことから,周辺に生息する哺乳類が構造物を十分に認識および利用していることが明らかになった.また,ニホンジカとアカギツネでは継続的に多数の利用がみられた.特にニホンジカでは,定着個体による利用のほか,季節移動による利用もみられた.これらのことから,帯広広尾自動車道の野生動物用オーバーパスは,中大型哺乳類にとっては有効に機能していると考えられた.
著者
木口 雅司 井芹 慶彦 鼎 信次郎 沖 大幹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.I_241-I_246, 2016 (Released:2017-02-20)
参考文献数
8

本研究では、地球温暖化に伴う気候変動が進行して、ある臨界点(ティッピングポイント)を過ぎた時点で不連続のような急激な変化が生じて、大きなインパクトをもたらすような気候変動の要素(ティッピングエレメント)の発現可能性について解析した。先行研究で述べられたティッピングポイントを用いて、4つの排出シナリオや緩和目標としての戦略シナリオと、ティッピングエレメントのうち北極海の夏の海氷の喪失とグリーンランド氷床の融解について関連性を導いた。その結果、ティッピングポイントの不確実性があるものの、各排出シナリオでのティッピングエレメントの発現可能性が示された。一方戦略シナリオでは、複数気候シナリオを用いて検討した結果、気候シナリオとティッピングエレメントの両方の不確実性を組み合わせて議論する可能性が示された。
著者
簡 梅芳 小畑 和貴 黄 毅 宮内 啓介 遠藤 銀朗
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.III_9-III_15, 2013 (Released:2014-03-03)
参考文献数
15

モエジマシダ(Pteris vittata)等のヒ素高蓄積植物はヒ素土壌汚染の浄化に適用可能と考えられている.本研究では, モエジマシダを用いたヒ素のファイトエクストラクション法による浄化技術に着目し, それによるヒ素吸収における微生物の関与の度合いを明らかにすることを目的として行った. 微生物植種の添加に伴うシダの栽培実験と土壌ヒ素の酸化試験を行い, ヒ素の土壌からシダへの移行特徴および形態変化を解析した. その結果, 土壌中の亜ヒ酸はヒ酸に酸化されたのち, その多くはシダにより吸収されることと, このヒ素酸化は微生物による作用であることが強く示された. さらに, シダ根圏試料に対して亜ヒ酸酸化酵素遺伝子aroAをターゲットとしたT-RFLP解析より, シダによるヒ素吸収に先立つヒ素形態の変化には, 土壌中のaroAを有する微生物が関与していると示唆された.
著者
風間 しのぶ 真砂 佳史 沼澤 聡 大村 達夫
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.III_339-III_349, 2015 (Released:2016-06-01)
参考文献数
33

流入下水中の病原微生物の存在は地域における感染性胃腸炎の流行状況の指標として有用である.しかしながら,下水に存在するウイルスの多くがバクテリオファージでヒト病原ウイルスの相対的存在量は極めて少ないことから,下水中の全ウイルスを対象としたメタゲノム解析にてヒト病原ウイルスを検出することは非効率的である.本研究では,多くのヒト消化器系ウイルスが属する1本鎖(+)RNAウイルスのみを対象としたメタゲノム解析手法を考案し,流入下水試料に適用した.その結果,下水中のウイルスの多くを占めるバクテリオファージの排除と植物ウイルス由来の配列数の減少に成功し,下水中の全ウイルスを対象としたメタゲノム解析より10倍の効率でヒトに感染するウイルス(3科5属)を検出することができた.
著者
横田 樹広 中村 早耶香 味岡 ゆい 南 基泰 那須 守 米村 惣太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.II_45-II_55, 2011 (Released:2012-03-16)
参考文献数
25

土岐川・庄内川流域圏を対象として,景観,生態系,ハビタットの3つのスケール間で生物多様性の特徴を評価した.小流域の類型化により流域圏の環境特性を把握したうえで,種多様性と固有種ヒメタイコウチの潜在的生息適地の分布予測を行い,それらの空間的関係性を把握した.その結果,流域圏中~上流域の里山地域において,流域の環境構造は植生条件よりも地史的な環境条件により特徴づけられ,とくにヒメタイコウチの生息適地の分布に影響する古い地層を伴った土岐砂礫層の分布が,種多様性と固有種生息適地の空間的な重複と不一致にも影響していることが明らかになった.これらをもとに,生態系の地域固有性に配慮した,流域圏の生物多様性マネージメントの空間指針について検討した.
著者
今岡 亮 藤井 学 吉村 千洋
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.III_525-III_533, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
29
被引用文献数
1

植物プランクトンへの鉄供給プロセスの観点から,本研究では腐植物質の化学的性質が鉄との錯形成に及ぼす影響について調べた.pH 8において競合リガンド法により,様々な起源をもつ標準腐植物質と鉄の錯形成を調べ,錯化容量と条件付き安定度定数について多様な値が得られた.これら錯形成パラメータと元素分析・13C-NMR・酸塩基滴定から得られた腐植物質の構成元素比・炭素種割合・官能基量との関係を調べた結果,芳香族炭素割合と錯化容量には有意な正の相関がみられ,芳香族領域にある官能基が主な鉄結合部位であることが推測された.さらに,安定度定数は硫黄や窒素含有量と弱いが有意な正の相関があり,スルホン基やアミノ基を含む腐植物質は鉄と高い親和性を有する可能性が示唆された.
著者
石内 鉄平 小柳 武和 桑原 祐史 大橋 健一
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.I_111-I_119, 2012
被引用文献数
1

本研究は,茨城県を代表する観光資源である袋田の滝に着目して,気象の変化と滝の凍結度,観光客数,観光客の満足度の関係を分析した.その結果,気温および降水量と滝の凍結度,特に平成17年度以降の観光客数と滝の凍結度の間に相関関係が確認された.加えて,袋田の滝における利用実態調査から,冬期に訪れる観光客の多くが滝の凍結状況に対して高い関心を持っていることが確認された.また,約半数の観光客が滝の凍結情報を得た上で訪れており,活用した情報媒体はテレビとインターネットで9割以上を占める.結論として,今後12~2月の気温上昇により氷瀑する日数および観光客の満足度の減少が予測されるとともに,テレビやインターネットを介した滝の凍結状況に関する更なる情報発信の必要性が確認された.
著者
箕浦 一哉
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.II_267-II_278, 2014
被引用文献数
1

本研究では山梨県北杜市で活動する「八ヶ岳南麓風景街道の会」における市民と行政の協働を事例として,協働の経験を通じて地方自治体職員がどのように認識と行動を変化させたのかを,聞き取り調査に基づき定性的に分析した.その結果,行政職員は市民との協働への参加を通じ,敵対的認識の解消からメリットの認識,主体的な貢献へと進み,業務への活用に至るというプロセスで認識と行動を変容させていた.そこには,協働への参加経験の肯定的評価が参加意識を強化するという正のフィードバックループが存在していた.その評価の要因としては,目的意識に対する共感,知識・経験への尊重,行動に対する尊敬が見いだされた.また,本事例での行政職員への影響には,本会の継続的で固定的な協働形態も要因となっていると考えられた.
著者
五味 馨 金 再奎 松岡 譲
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.II_225-II_234, 2011 (Released:2012-03-16)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究では地方自体において長期的な低炭素社会へのロードマップ(行程表)を構築する手法を開発する.行程表を推計するためのツールとして施策の実施主体の費用負担を考慮して施策実施スケジュールを推計するバックキャスティングツール(BCT)を開発する.これを滋賀県に適用しておよそ240の施策からなる行程表を構築した.滋賀県はすでに2030年の低炭素目標及びその時点で導入されているべき施策を策定しており,本研究ではそれらの施策を2030年までに全て実施するための行程表を2010年から2030年の期間で推計した.その結果,期間全体で必要とされる累積費用は7.3兆円となり,そのうち約17%が公的部門の費用となった.累積排出削減量は101MtCO2で平均削減費用は7.3万円/tCO2となった.これらの費用をどのようにして調達するか,また,国,県,市町のそれぞれがどれだけを負担するか,といった議論が必要であると考えられる.
著者
山崎 宏史 馬 榕 蛯江 美孝 稲村 成昭 西村 修
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.III_235-III_242, 2020 (Released:2021-03-17)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

我が国の小型浄化槽における処理水質は季節により変化するが,必ずしも処理水採水時の水温に比例して処理水質は変化しないことがわかってきている.そこで本研究では,浄化槽の処理性能に及ぼす水温の影響を調べるために,処理水採水時の水温の他,過去の水温(水温履歴)も考慮に入れることにより,その影響を解析した.その結果,汚泥貯留部のスカム量変化と共に,処理水BOD,T-N濃度等は,処理水採水時の水温だけでなく,過去4~6ヵ月の水温履歴にも影響を受けていると考えらえた.これらの現象から,小型浄化槽は槽内に汚泥を貯留する機能を有するために,水温履歴に応じた貯留汚泥の可溶化により,後段への負荷量が変化し,処理水質にも影響を及ぼしていると考えられた.そのため,小型浄化槽では,各水温における汚泥可溶化量と浄化量の差が処理水質に影響を及ぼすと考えられた.
著者
三崎 岳郎 池本 良子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.III_461-III_470, 2020 (Released:2021-03-17)
参考文献数
30

固形バイオマスのメタン発酵処理の導入を検討するためには,各バイオマスのメタン転換率の評価が重要である.本研究では,肥料等試験法に準拠した簡易CODCr分析方法を提案し,142種類の様々なバイオマスのCODCr値を本方法で求めて,JIS方法で求めたCODCr値と比較した.その結果,提案した方法は,特に高固形分バイオマスにおいて,JIS法よりも高い値を示した.回分試験によりメタンポテンシャル(BMP)を測定し,CODCr値に基づくメタン転換率および,炭素含有量に基づくメタン転換率を評価した結果,提案した方法で求めたメタン転換率と炭素ベースのメタン転換率の間には高い相関が認められた.これらの結果から,提案した方法により,メタン発酵の導入のための固形バイオマスのメタン生成の評価に適用可能であると考えられた.
著者
八十島 誠 友野 卓哉 醍醐 ふみ 嶽盛 公昭 井原 賢 本多 了 端 昭彦 田中 宏明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.III_179-III_190, 2021 (Released:2022-03-10)
参考文献数
37

本研究では,感染者の排泄物に由来する陽性反応の利用が容易な個別施設を対象に,トイレ排水を排除するマンホールでの下水疫学調査でSARS-CoV-2の回収・検出を通じて感染者の早期発見を目的としたパッシブサンプラー(PoP-CoVサンプラー)を開発し,有効性を検証した.SARS-CoV-2中等症感染者が入院する病院施設と軽症者等宿泊療養施設での検証実験の結果,PoP-CoVサンプラーにはSARS-CoV-2が残存しており,マンホール調査での有効性が確認された.またPoP-CoVサンプラーでのCt値はグラブサンプルより最大7.0低かった.本法の社会実装を想定し,111名が勤務する事業場施設で調査を行ったところ,下水から陽性反応が得られた.陽性反応の原因として無症候性感染者からの排泄は否定出来ないものの,下水疫学によって1名の症候性感染者を陽性確定日の4~5日前に発見できる可能性が示唆された.