著者
久保 昇三 守分 巧
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.4, pp.345-351, 1994-08

日本における災害被害は年々減少してきているが、全国的規模で見れば、未だに毎年のように、何件かの中規模災害に見舞われている。また、関東大震災で代表される大規模災害も10年に一度程度の頻度で発生するものとしなければならない。大・中規模災害では、罹災者の救援が重要である。現状では、罹災者に3日間程度の自助能力を想定しているが、ガス、電気、水道等の普及、食生活の変化、スーパーマーケット等の流通機構の変化等々によって食料や飲料水の定常的備蓄の減少、核家族化、都会化による住民意識の変化、特に、地域連帯感の希薄化等によって、より早期の救難が必要となってきている。救援において重要な問題の一つが緊急輸送である。一般に道路、鉄道、港湾等に相当の被害を受けた状況における緊急輸送は極めて困難である。特に、都市近郊を水田が取り囲む我が国の状況では、通常の交通手段による輸送は難しい。そこで、伊勢湾台風の被害および救難の経験に基づき、ヘリコプターによる緊急輸送能力の飛躍的向上が計られ、一定の成果を上げてきている。しかし、同時にこのシステムの限界もほぼ明らかになってきており、例えば、北海道南西沖地震の場合には目覚ましい活躍をすることはできなかった。水陸両用性の不整地走行に適する輸送機関としてホバークラフトが注目される。ホバークラフトの特徴を列記すれば、1)時速100km程度の高速走行が可能、2)高低差1m未満の不整地走行が可能、3)水陸両用性、4)積載貨物量0.1-200t程度の範囲内で各種のサイズのものが使用できる、5)乗員養成が簡単、6)初期価格、維持管理価格、運行費共に極めて安価等が上げられる。欠点としては、1)騒音が基準内ながら相対的に大きい、2)振動が相対的に大きく旅客の快適性に欠ける、3)旅客船として使用した場合に収益率が他形式高速船より数%程度低い、とされている。このホバークラフトを大・中規模災害の救難輸送に利用する可能性を調べた。全国規模でホバークラフトによる災害救難システムを計画すれば、災害日翌朝から防災・救難活動を開始でき、その効果は極めて大きい。世界各国における救助用ホバークラフトの実態についても報告する。また、近年需要が増大しつつある大規模災害時の国際救援についても考える。
著者
杉浦 正美 山崎 文雄
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.6, pp.147-154, 1996-11

兵庫県宝塚市は、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震の被災中心地の中では最も西方に位置しているが、犠牲者106名を出し、全壊3,800棟,半壊8,881棟(いずれも被災証明発行に基づく数字)の大きな被害を受けた。筆者らは、震災直後より宝塚市が実施した被害建物の全数調査の結果を用いて、被害データベースを構築した。本報告では、建物被害の概要を建物構造や建築年などの観点から整理するとともに、建物被害の地理的分布の特徴を考察した。上記の検討結果より、本震災における宝塚市の建物被害について、以下のことが明らかとなった。[建物構造](1)木質系プレハプ構造の被害は木造建物に比べ、明らかに少ない。 (2)非木造系ではRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造を含む),S-P(鉄骨造プレハプ),軽量S-P(軽量鉄骨造プレハプ)の全半壊率が20%前後なのに比べ、S造(鉄骨造),軽量S造全半壊率はその約倍の40%程度である。[建築年代](1)いずれの構造でも、建築年代が古いほど被害率が高くなる傾向を示す。 (2)木造系の建物は、建築年代による無被害率に大きな変化はないが、非木造系では、建築年代が新しいほど無被害率が増加する傾向がある。[被害分布]建物の建築年代による被害率の地域分布は、建築年が古い建物ほど、被害率が高い傾向が出ている。特に、阪急宝塚線とJR福知山線に沿って東西方向の連続した被害地域は、建築年や構造に関わらず周辺に比べ、被害が集中する傾向が認められる。また、建物被害と地形条件及び活断層位置の関係を見たところ、被害率の高い地域は、一部地域を除き、山麓の中小規模の扇状地面に分布する傾向にある。さらに、活断層との関係では、本地域を東西に横断する有馬-高槻構造線と被害率の商い地域が、一定距離を置きながらも平行して分布している特徴を示している。
著者
林 春男 重川 希志依
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.7, pp.376-379, 1997-11
被引用文献数
11

In this paper, the necessity and importance to have a series of scientific descriptions of the experiences by those who went through disasters as victims and/or disaster workers to find out the basic facts for the future disaster management. We names such scientific descriptions as "Disaster Ethnography" which has been one of the basic research methods used in the filed of cultural anthropology for the study of various subculture. We briefly described disaster ethnography in terms of the goals to be achieved, the method used for the understanding of different cultures, the evaluation as a scientific method, and the audience who may use this information. The idea of disaster ethnography was expanded for the multi-disciplinary collaboration for the development of an integrated disaster science.
著者
大野 茂樹 亀田 弘行 角本 繁 岩井 哲 谷口 時寛
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.6, pp.279-284, 1996-11

研究の目的 阪神・淡路大震災直後に、神戸市長田区役所で行った倒壊家屋解体撤去申請の受付業務のパソコンによる支援活動の内容を説明し、その受付から解体発注・完了までのデータ分析にもとづいて、防災GIS(地理情報システム)利用による行政活動への効果・問題点を示す。 研究の方法 震災直後の平成7年1月29日に区役所の窓口で受付開始した倒壊家屋解体撤去の申請に関する翌平成8年4月までのデータをもとに、申請の受付件数、パソコンに入力した件数、倒壊家屋の解体撤去を発注した件数、倒壊家屋の解体撤去が完了した件数を月ごとの推移で示し、防災GISの利用による効果を示す。データ分析に加え、実際の長田区役所での活動からわかった行政データの管理・情報処理のあり方に関する知見も示す。 結論 申請の受付、倒壊家屋の解体撤去の発注のそれぞれの段階において、パソコン・GISを用いた効果が示された。(1)パソコンでデータ管理を行ったため、書類のファイルを1冊ずつ調べるよりデータ検索が速くなった。(2)地区ごとにまとめた倒壊家屋撤去の発注が、住所表記だけでは実質的に不可能だったが、GISによる倒壊家屋の建物位置での管理によりできるようになった。(3)パソコンでデータ管理を行ったため、申請関係のデータが全体的に把握しやすくなった。
著者
矢部 五郎
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.4, pp.355-360, 1994-08

地震危険度は各種の要因について分析され既にゾーニング(zonation)が行われている。津波の危険度についても研究が行われている。しかし、問題がない訳ではない。すなわち、昔の津波対策は次のようであった。我が国の津波対策は明治29年(1896)6月15日の明治三陸地震津波と昭和8年(1933)3月3日の三陸地震津波を教訓としている。したがって、次のことが常識となっていた。(1)津波被害は三陸海岸で発生する(2)津波はいわゆるリアス式海岸すなわち河口や狭い湾で増幅される(3)津波対策は津波堤防や防波堤を建設して浸水を防ぐ(4)津波警報を聞いてから水門を閉めるしかし、昭和58年(1983)5月26日の日本海中部地震と平成5年7月12日の北海道南西沖地震による津波はこの常識とは違う被害を発生した。(1)日本海海岸でも津波被害が発生する(2)遠浅の海岸でも津波被害が発生する(3)津波堤防が流された(4)津波警報を聞いてから津波が来襲するまでの時間が短いこれらの事実に基づいて、津波対策を再検討する必要が生じた。著者は津波対策を再検討して津波危険度を評価する新しいコンセプトを提案し、危険度によるマイクロゾーニング(ゾーネーション)を試みた。この試案は津波危険度を再検討する研究を刺激するためのもので、多くの研究者が関心を持つことを期待している。
著者
一ノ瀬 友美 松元 奈保 金 泰煥 佐土原 聡 村上 處直
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.5, pp.403-410, 1995-11

【はじめに】 大地震などの災害時、都市において、特に木造住宅の密集地や商・住・工の混在地域では、市街地大火の危険性が非常に高い。市街地大火のために避難を強いられた人々に、防災拠点がどのような役割を果たせるかは、大きな課題であるというのは、今回の兵庫県南部地震でも浮き彫りとされた。そこで、本報では、防災拠点が、どれだけ災害時に対応できるかを事例として白鬚鬚東防災拠点のハードの面およびソフトの面から評価し考察した。 【研究目的と方法】 墨田区の白鬚東地区は、隅田川と荒川放水路に囲まれて、地盤が軟弱なうえ、商・住\・工の混在地域の木造密集地である。白鬚東防災拠点は大地震発生時に予想される市街地火災に対する防火壁として機能させるため、高さ40m連続住棟(18棟)を約1.2kmにわたって配置させ、その内側に約10万人の区民を収容する避難広場を設けている。また、防火壁となっている防災団地の防災設備(放水銃、防災シャッターなど)は24時間体制で管理されている。白鬚東防災拠点は建設されてから20年。機材は老朽化が進むばかり、一度として使用されていない。現場からは防災設備のあり方を問い直す声が上がった。そこでもう一度、防災拠点の有用性を確認する。本報では、拠点内の各施設を詳しく調べ、避難生活場所としての機能を評価すると同時に、防災拠点となっている団地の住民を中心にソフトの面で拠点がどれだけ対応できるかを住民の防災意識・防災対策を踏まえ、平常時・災害時における拠点の位置付け、および避難生活時に被災者への対応を防災拠点団地住民のボランティア意識を基に、今後の防災拠点の指標とする。 【結論と考察】 阪神大震災で家を失った市民は公共施設へ逃げ込んだ。この事実を見ても、広域避難場所である白鬚東防災拠点に公共施設を置いたことは理にかなっている。また、防災壁として設けた防災団地の存在が被災者の絶対数を減らし、避難生活者に十分な面積を用意している。このように広域避難場所に普段から利用できる施設を置いたことが、災害発生後に思わぬ利を生みそうである。一方、防災拠点内に住む団地住民は防災意識が高められる環境にあるという結果が明かとなり、防災訓練の参加にも積極的であった。災害時における団地住民の協力意識もかなり高い結果であり、防災拠点は即対応が可能でソフトの面で協力体制が組めそうである。
著者
柴田 碧 神保 努 水谷 淳
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.4, pp.3-11, 1994-08

本論文は昨1993年11月のSTECH'93において,その手法の概要を,そして本年1994年7月に日本機械学会D&D Conferenceにおいて,その中核をなす脱線車両の動力学についての発表予定の2論文をまとめたものである。最近,新幹線の速度向上は目ざましいものがある。また在来線についても160Km/h程度までの高速化が考えられている。しかし,東海道新幹線をはじめ,在来線では築堤上をはじめ,支持基盤の弱い線路区間が多くある。これらが強震程度以上の地震時にどのような状態になるかは,過去の多くの地震の事例で明きらかである。これについては,京大亀田のリポートもあり,高い密度で運転されている列車がこのような区間に突入する可能性は高い。一方,整備されたが高架区間でも,地震動はかなり激しくなると考えられ。たとえ線路支持構造物は健全であっても,高速の列車が脱線する可能性は大きい。本論文,前半では上述のような事象の多様性に対し,確率論的立場からどのような解析を行ったらよいかを,地震発生から,死傷発生の全過程について述べ,後半では脱線後の列車(車両列)の挙動に関する実験的研究について述べる。結果の一つの特徴としては,同一条件で脱線しても,車体の挙動はある単一の統計的分布をなすのではなく,複数の正規分布などで表わされる状況になり,理想化した条件下でも,その結果は非常にばらつき,いわゆるカオス的状況になる。このことはさらに,線路周辺の状況が千差万別の実路線における,事故の確率論的予測にはかなり特別の手法の導入を必要とするということを意味している。
著者
鈴木 有 青野 文江 後藤 正美
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.5, pp.185-192, 1995-11

本論では、1994年12月28日に発生した三陸はるか沖地震地震で主要な被災地となった青森県八戸市を対象に、市の健康福祉部と八戸市域消防本部がまとめた負傷者の資料に基づいて、若干の統計分析を行い、1993年釧路沖地震の場合と比較しながら、人身被害の発生状況と発生原因、建物被害の地域分布との関連等を、特に高齢者の被害に注目しながら考察した。本論での検討結果をまとめると、次のようになる。(1) 本地震は、2年前に発生した釧路沖地震と発震の季節や日時、主要被災地の環境条件が似通っており、人身被害の発生にも共通する傾向が認められた。(2) 女性の被災率が男性を上回ること、災害弱者となる高齢者(特に女性)に負傷の発生率が高いこと、がまず指摘できる。(3) 最近の地震による人身被害の発生過程と同様に、重量のある家具や設備機器の転倒や落下で身体の各部位に挫傷・打撲・捻挫等が、散乱した落下物の割れ物で下肢や手部に切傷が、被震中や直後の対処行動時の転倒・転落・衝突で各部位に打撲・捻挫・骨折等が、そして石油ストーブ上の熱湯による下肢の熱傷が著しかった。釧路沖地震の場合と比べると、熱傷の発生比率が半減し、挫傷系列の占める割合が多いこと、ガス中毒の発生が少なかったことが今回の特徴である。(4) 今回の地震は本震の10日後に強い余震を伴った。両者の震源が異なるため、地動分布に差を生じ、負傷者発生の地域分布も相当に変わったが、余震時の人身被害の発生は本震の体験を経て抑制されたと評価できよう。(5) 高齢者は心因性による内科性や神経性の発症割合が他の年代よりも多く、非常時の精神的ダメージの影響が大きいことが現れている。また外傷性では、骨折・捻挫が多くを占め、特に女性に目立っている。これは高齢に伴う身体全体の老化に加えて、骨粗鬆症など骨の老化が起こりやすい女性の特性を反映していると考えられる。(6) 釧路沖地震の場合も含めて、重傷は骨折・捻挫と熱傷から多く発症している。また年代別では、高齢者に重傷の発生割合が高く、身体機能の低下により、軽傷で防ぎ切れない場合が多いことをうかがわせる。(7) 震度6程度の揺れでは、建物の大きな被害が起こる以前に、生活空間中の多様な存在物が危険物と化し、在室者の対処行動の混乱も加わって、負傷発生の原因となる。寒冷地における熱傷防止には、暖房用火器への作用度の高い対震自動消火装置の装備普及に加えて、湯沸かしや加湿のための容器を直上に置かないこと、本体の転倒抑制を工夫することが必要となる。打撲や挫傷の防止には重い家具の転倒・落下対策が、切傷の防止には割れ物の破損対策が基本で、安全空間の事前確保が肝要である,特に高齢者を含めて弱者への配慮を心がけたい。こうした一連の備えが重度の被害防止に役立つはずである。
著者
糸井川 栄一 岩田 司 寺木 彰浩
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.6, pp.269-277, 1996-11
被引用文献数
3

1.研究の背景 兵庫県南部地震では、特に、被災状況の適時適切な把握が非常に困難な状況が見られ、的確な即時対応の点での難点や、広範な被災市街地を対象としているため、将来を見据えた都市の復興計画策定を立案する上で効果的に被災情報を整理することの困難性が指摘されており、今後の都市・建築防災対策の推進に際して教訓とすべきことが多く見られた。 2.研究の目的 地理情報システム(GIS)等の情報処理技術を活用して、大規模地震発生時にスムーズな被災状況把握と被災情報の的確な活用を図り、被災情報把握・提供・活用システムとして整備を行うことは、社会資本としての建築物の機能維持・強化や被災後の早期復旧を図るために早急に進めていかなければならない大きな課題である。そこで、本研究は"大規模地震発生時にスムーズな被災状況把握と被災情報の的確な活用を図るために必要なGISデータベース等の情報処理技術を活用した被災情報把握・提供・活用システム"を開発していくことにより、社会資本としての建築物の機能維持・強化や被災後の早期復旧を図るために必要なシステムの基礎的資料を得ることを目的としている。 3.研究の概要 前年度紹介した「阪神・淡路大震災復興計画策定支援システム」の構築に当たって遭遇した様々な顕著な問題点として、「建築物の被災度判定の調査は、たとえば応急危険度判定においては調査員が判定シートと住宅地図を携行し、判定シートで応急危険度判定を行い、その判定シートの番号を住宅地図に書き込むといった方法が採られ、この方法の後で地理情報システムに入力する際に、(1)判定シート番号は個人毎につけるので重複がある。(2)調査員は全国から来るので、土地勘がなく、住宅地図上での位置同定が不正確である。(3)調査現場が混乱しているので住宅地図の汚損が多い、(4)そのため、その後のディジタル化に当たって障害が多い。」等を指摘した。この問題点の多くを打開すべく、建築物の被災状況に関する情報を効率的に収集するために開発した「電子野帳」のプロタイプについて、その概念と機能について紹介する。
著者
岡村 精二
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.5, pp.97-104, 1995-11

【提言の背景、目的】 阪神・淡路大震災直後、体育館などの避難所で暖房はもちろん、プライバシーすらない生活を余儀なくされた被災者は約30万人もいた。しかし、緊急に必要とされた仮設住宅5万戸に対して、震災後1か月で完成した仮設住宅は、わずか1250戸だった。敷地の確保のむずかしさなどもあり、現在も当初の予定戸数を確保できていない。阪神大地震と同規模の災害が再び起こったとき、今回と同じように何十万人もの被災者が何か月も体育館での避難生活を余儀なくされるのだろうか。もっと簡単に短時間に建設できる仮設住宅を開発し、運搬、建設(設置)ができるシステムを構築する必要があるのではないだろうか。 【神戸で建設された仮設住宅の大きな問題点】 ・多くの部材と専門家しかも労力を必要とし、1棟建設するために20日間も掛かる。・1戸あたり大工手間が10人掛かっており、解体再利用は不可能に近い。(解体処分となれば、350万円×5万戸=1750億円の税金が無駄になる)・設備、内装が公団住宅と同等仕様のため、仮設住宅の撤去時期が来ても退去に応じる人が少なく、社会問題となる可能性がある。 【緊急仮設住宅(仮称:防災ハウス)の開発、設計コンセプト】 ・1戸当たりの建設(設)を素人でも30分で行うことができる構造。・災害発生から、1週間以内に5万戸の建設(設置)ができるシステムの構築。・設置場所を選ばない。(斜面や瓦礫の上にも建設でき、基礎を必要としない)・輸送、設置時の天候に左右されない。(現状の現地組み立て方式は不可)・構造が簡単で安価であり、再利用でき、保管、点検が容易である。以上を大きなコンセプトに防災ハウスの開発を行った。広さは床面積10m^2以内とした。私が単独太平洋横断に使用したヨットの構造を考慮すれば、浴室、トイレ、台所、4人掛けテーブル、独立した寝室(4ベット)を配置でき、4人家族が十分に生活できる。平均的家族が3人とすれば、十分な空間といえる。「狭い」という意見もあるだろうが「1日も早く出たい」と思わせる程度の住宅が仮設住宅である。(是非、試作品をご覧下さい。意外な広さに驚かれるはずです) 【運用面での提言】 予算的には、大量生産すれば、10m^2サイズの防災ハウスで1個当たり300万円程度で仕上がる。仮に、県ごとに約1000個、常時保管しておいたとしたらどうだろう。各県が協力して被災地に輸送すれば、1週間で4万7千戸の防災ハウスが建つことになり、体育館での避難生活を1週間で終えることができる。避難生活を短期間に抑えることにより精神的、体力的消耗による病気の発生を抑制でき、なにより被災者の精神的立ち直りを早めることができる。備蓄という思想が必要であるが、各県で30億円の予算を確保できれば、倉庫も含め十分可能な対策である。
著者
林 春男 福永 弘樹
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-10, 1992-05

平成3年9月27日夕刻広島地方を襲った台風9119号による停電を中心としたライフライン災害を事例として、ライフライン間の相互連関と、それが社会生活に及ぼす影響について、台風災害に関する新聞記事から抽出した136件の現象についてISMの手法を用いて現象間の因果関係を構造化した。その結果、今回の災害が、停電、強風、高潮、交通機関の混乱の4種類の比較的独立した現象群に分かれることが明らかになった。とくに、停電による波及効果は広い範囲に及んでおり、ハイテク社会の脆弱性をあらわにし、停電による断水の発生というライフラインシステム相互の被害の連関を生み、生鮮食料品の物流システムにおける冷蔵庫の重要性を明らかにした。強風による高潮も広範な波及効果を持っており、水産物被害や塩害だけでなく、浸水による交通機関の混乱や家屋被害を引き起こした。強風、停電、高潮のいずれの場合にもその結果として、交通機関の混乱と学校での臨時措置の必要性という2つの問題が発生していた。このため、この2つは都市域での大規模災害に共通する問題点として、十分な対応策を考慮すべきであるといえる。ライフライン間の相互連関の事例として今回の災害を見ると、ライフライン間の機能障害波及が見られ、そのなかでも電力途絶による断水がもっとも深刻な問題になっていた。とくに傾斜地の高所部や屋上揚水タンクを持つビルでは深刻な問題だった。高層化がすすむ大都市における地震防災を考える上でも貴重な事例であるといえる。
著者
福永 弘樹 林 春男
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.2, pp.11-20, 1992-05

1991年9月27日の午後4時過ぎ長崎県に上陸した台風9119号は強風による多大な被害を全国にもたらし、広島市内では最長5日間の停電被害を受けた。このような長期停電はわが国の政令都市においては初めての体験であり、都市型災害の特徴であるライフライン災害の典型的な事例である。本研究は広島市民を対象とした意識調査を通して、都市化社会におけるライフラインの機能障害の影響とそれに対する住民の対応の実態を明らかにすることを目的にしている。本報告では、広島市民の不安を中心に、その規定因と災害対応の特徴について速報する。今回の台風9119号災害時の住民の不安は2種類の不安に分類することができた。1つは個人的な生活に関する不安で、もう1つは社会サービスの提供に関する不安であった。どちらの不安が住民にとって高かったかといえば、個人的な生活に関する不安であった。このことは住民が社会サービスの提供に信頼を抱いているからだと考えることができる。その理由は、広島市の中心部での停電が短く「文明の島」として機能していたためではないかと推測される。この地域は電線の地中化により塩害停電の影響を受けなかったため、各種の社会サービスの提供に支障がなかった。このような地域が居住地域内に存在することで、住民は「文明の島」に行けばサービスが受けられるため、それが社会サービスの不安が低かった原因と考えられる。またこれらの不安を規定する要因には、被災体験と被害がみられたが、個人的な生活に関する不安は性別・年齢・居住形態といった他の規定要因も存在することが確かめられた。そしてこのような個人的な生活に関する不安が高い人は、災害に対する備えといった対応行動が遅く、また隣近所通しのローカルなコミュニケーションを中心に情報を伝達していることが特徴的にみられた。
著者
重川 希志依
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.6, pp.285-290, 1996-11

本報告は、阪神・淡路大震災の被災地の社会福祉施設が経験した震災の被害状況、地震発生後の生活確保状況、さらに地域社会で果たした役割等に関する調査研究をとりまとめたものである。これまでの「災害弱者」の捉え方は、発災時の緊密対応期において、生命を守るというフェーズに弱い部分のある人を対象としてきた。したがって、身体的・精神的なハンディキャップを持つ人たちが生活する社会福祉施設は、緊急対応期における災害弱者が集まった、災害に対して非常に弱い施設として位置づけられてきた。しかし、阪神・淡路大震災で被災した社会福祉施設の被害並びに対応状況を調査すると、社会福祉施設=災害弱者施設と、一概に決めつけることができないことが明らかとなった。それどころか、阪神・淡路大震災の際には、社会福祉施設が地域住民の拠点として、様々な役割を果たしている。都市から社会福祉施設を隔離してしまうことのないよう、さらに、災害時のみならず日常的にも、地域社会の中で重要な社会資源として社会福祉施設が機能するよう、「弱者」と「健常者と思い込んでいる人たち」との共存できる都市を取り戻すことが大切である。
著者
朱牟田 善治 大友 敬三 山崎 文雄 石田 勝彦
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.4, pp.161-170, 1994-08

1994年1月17日、ロスアンジェルス北方のサンフェルナンドバレー一帯をマグニチュード6.8のノースリッジ(Northridge)地震が襲い、一般建築物やライフライン等に大きな被害が生じた。本文では、その中でも被害の大きかった電力施設に焦点をあて、その被害と復旧について調査、考察した内容について報告する。特に、今回の電力施設の被害を1971年サンフェルナンド地震による設備被害と比較して、耐震設計基準の改訂による効果を確認するとともに、日本の耐震設計基準で設計された電力施設が、今回の地震でもっとも被害を受けたシルマー交直変換所と同程度の地震力を受けた場合、米国の基準で設計された電力施設に比べ、被害が少ないであろうことを示した。
著者
小坂 俊吉 塩野 計司 宮野 道雄 中林 一樹 高野 公男
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.5, pp.275-282, 1995-11

近年の地震災害の調査から、高齢者は健常者と比べて被災しやすく、今回の阪神・淡路大震災でもこの傾向が明らかとなった。一方、わが国の高齢化速度は早く、現在、高齢化社会から高齢社会へと移行しつつある状況にある。したがって高齢者の地震時安全性の確保や地震後の応急生活における良好な環境保持は、今後の防災対策のなかで早急に取り組むべき課題の一つとなってきている。本論は、二つの現地調査報告から高齢化社会における地震防災課題の抽出したものである。第一は、阪神・淡路大震災における高齢者の被災実態報告である。これは、地震によって新たに発生する要介護者の把握と収容の問題、および被災地の老人ホームにおける介護老人の生活確保の問題について検討を試みたものである。第二は、東京に隣接する人口40万都市でおこなった、独居老人と高齢者利用施設における地震防災対策についてのアンケート調査報告である。高齢社会における地震防災の課題を以下のように抽出した。 1) 高齢者が死傷しやすいのは、身体機能の低下によるものだけでなく、居住する住宅の地震に対ずる脆弱性による影響がある。したがって高齢者向け住宅の早急の耐震的改善・公的な高齢者住宅の提供が求められる。 2) 今回の地震では、避難所における生活の質の低下が問題となった。とくにその被害を大きな影響を受けたのは高齢者・障害者といった災害弱者であった。また、防災対策調査からも高齢者の孤独な姿が浮き彫りにされた。災害時の近隣住民の支援は日常生活における相互の交流が不可欠である。 3) 高齢者の救援を的確かつ迅速に行うためには、被災情報の早期収集の重要性が指摘される。さらに高齢者の受け入れを可能にする支援ネットワーク作りが重要な課題となる。
著者
村上 處直 佐土原 聡 岡西 靖
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.7, pp.390-393, 1997-11

In earthquake, we must rescue person buried alive form collapse buildings as soon as posible. Rescuing person buried alive quikly connects high suvival rate. But firemen were very short of hands in great HANSIN earthquake. It is necessary to adjust the pan between neighborhoods and firemen for rescuring person buried alive quickly. Rescue instrument must be developed to assume the environment in colapse buildings.
著者
高橋 章弘 南 慎一
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.6, pp.115-120, 1996-11

平成5年7月12日の夜間に発生した北海道南西沖地震は、奥尻島を中心に渡島・桧山地方に大きな被害を与えた。特に、奥尻町青苗地区では、地震直後の大津波と延焼火災により、人的被害、住宅・都市施設被害、水産漁業被害、商工観光産業被害など広範囲かつ甚大な被害がみられた。本調査研究は、種々の復興事業が進行する中、居住する住民が現在どのような実態にあるのか、住宅の再建状況や防災対策、居住地環境評価等について把握を行い、今後の震災復興の在り方を検討するための基礎的資料とすることを目的としている。本調査は地域安全学会震災調査研究会が実施した震災後第3回目のアンケート調査で、本報では被害が最も大きかった育苗地区の居住者を対象に、「地震再発への不安」「日常生活での防災対策」「居住地まわりの安全性」「防災情報の入手」等について考察を行った。調査の結果、住民の防災意識に関する実態をまとめると、以下のように整理される。(1)大地震再発に対する不安は、住民意識に依然として高く、長期化している (2)日常生活での防災対策は、十分と考えている住民は少なく、その具体的な備えについては、容易に備えられものから取り組まれている。 (3)居住地まわりの安全性は、津波に対しては概ね安心感を抱いているが、地震や火災に対して多くの住民が不安感を抱いている。 (4)冬期間の災害発生における住民避難の不安要因は、低温や降雪などの気象条件が大きな部分を占め、災害の種類によっては避難により生命の危険が増すこともあると住民は捉えている。 (5)防災情報の入手方法は、メディアを利用し短時間で入手できるものを多くの住民が望んでいるが、巡回等による直接的な伝達方法を望む住民も一方でみられる。
著者
大西 一嘉 宮野 道雄
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.6, pp.167-174, 1996-11

1995年兵庫県南部地震では、震災による直接的な死者数だけでも5504人にのぼり、その約9割は建物倒壊によりもたらされたものと考えられている。特に耐震性の低い木造住宅に倒壊が集中し未曾有の人的被害を生んだ。本報告では、まず、神戸市における死者(3410人)について、被災場所となった建物側の要因との関係を整理した結果の概要を示し、地震による人的被害の状況を概観した。その結果、戸建てでの死者が多い東灘区と、木賃、文化、長屋などの共同建てでの死者が多い灘区との違いが明確に示されている。また、中高層共同住宅でも283人の死者が出ている点、無被害建物での死者(95人)の多くが共同住宅で発生している点なども、今後詳細に解明していくべき課題として残されていることを指摘した。ついで、建物全壊率、死者発生率ともに高かった東灘区を対象として、建物被害と人的被害の関連性についての、典型地区アンケートを実施した結果を報告した。東灘区全体の建物被害の特徴は、既存調査(都市計画学会関西支部+建築学会近畿支部都市計画部会の合同建物被災度実態調査にもとづいて、都市住宅学会住宅復興チームが行った戸数単位集計結果)によれば戸建と高層共同住宅の全壊率が高い点にある。また東灘区の南部-帯には木賃、長屋の老朽密集地区が拡がっており、被害の激しかった深江地区ではこれら老朽低層共同住宅の全壊率は85%以上にのぼると言われている。対象とした調査地区では、震災直後に木造住宅に関する詳細な現地調査が実施されており、今後、人的被害研究会(太田裕(山口大学)氏を代表とする、学際的な研究組織)における協力体制のもとで、一連の調査資料の照合を進めることで人的被害に関する予測モデルの構築を目指している。ただ、現段階ではこれらを重ね合わせた詳細な分析にはいたっておらず、本報告ではアンケート調査による集計結果をもとにした人的被害構造の概括的分析にとどまっている。結果を要点は以下のとおりである。死者の出た世帯では、当日の在宅者の3人に1人が亡くなっている反面、同じ家にいた人で、重傷、軽傷者は少なく、負傷者発生率は、死者発生率の半分以下であった。この事は、生き残った人の3分の2は大した怪我もなく救出されている事を示している。地区全域での人的被害でも、近年のわが国における地震被害と比較しても死者発生率の高さが顕著であり、脆弱な家屋構造による人的被害の発生は、発展途上国型災害の様相をみせていると考えられる。地域全体としてみた時、死者から軽傷者にいたる人的被害総数を、地域災害医療ニーズとして考えると、今回の調査によれば住民の2割を占めることとなる。
著者
須田 久美子 宮村 正光 田上 淳 中村 雅彦
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.4, pp.89-97, 1994-08

都市における地震被害の低減に関する研究の一環として、北海道南西沖地震がその被災地に及ぼした社会経済的影響を把握するために、復旧プロセスに着目した新聞情報の整理及び地震発生3カ月後の現地調査を実施した。現地調査は、津波及び火災被害の著しかった奥尻町と、液状化被害のあった長万部町を中心に行った。調査の結果を連関図にまとめ、主として地震による間接的な影響(被害)や復旧プロセスの経時的な推移を整理した。また、地震被害の社会的要因を分析し、被害を抑制した要因と拡大した要因に分類し考察した。その結果、地震被害の間接的な影響として、「生活基盤の喪失に伴う産業の衰退及び人口の流失」「長い避難生活や被災による精神的なダメージ」「仮設住宅のスペース不足や設置場所などへの不満」「見舞金分配に絡む各住戸の被災度評価の問題」「復旧速度に与える行政手続きの影響」などが問題になっていることが明らかになった。こうした問題点を踏まえて、今回の調査から得た教訓をまとめると次のとおりである。(a)被災度診断者、特殊技能者などの養成及び派遣システムの確立 被害を受けた家屋の被災度を公平に判断するオーソライズされた被災度診断者の派遣が望まれている。特に、二次災害の防止などの観点から現在一部の自治体で実施されてはいるものの、全国的な規模での展開が早急に必要である。人材の育成については、建築学会などの機関を中心に組織的な体制を整えることも必要と考えられる。また、土砂崩れ現場などでの重機操作技術者や救援物資の仕分け作業の専門家などを被災時に速やかに派遣できるシステムの確立が望まれる。(b)精神コンサルタントの養成 災害の影響が長期化すると、物資面のみでなく、被災住民に対する精神面の援助が重要である。日本では、精神コンサルタントのシステムが確立しておらず、まずは、被災者の心の相談にのれる専門家を数多く養成することが急務である。(c)復旧作業を遅滞させないための法制度の見直し 場所によっては建物の被害申請手続きや査定が終了しないと復旧作業にとりかかれない場合があり、重要度・緊急度に応じた手続きの簡素化と査定方法の見直しが望まれる。(d)伝達する情報を一元化する管理システムの確立 被災地では、地震直後から多くのマスコミ関係者が訪れ、役場の震災担当者はその対応に追われたようである。町村レベルの役場の人数では、生存者の救出・救援に追われる一方で、死傷者の人数や被害状況などに関する正確な情報を把握するのは非常に困難である。伝達する情報を一元化する管理システムが望まれる。情報収集の専門家である報道関係者が横の連携をとりつつ、震災担当者と情報を交換・管理できるシステムができれば、救援活動もよりスムーズに実施できるものと考えられる。
著者
岩本 裕次
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.2, pp.161-170, 1992-05

静岡県では、東海地震を想定した総合防災訓練を54年度から実施し、依頼様々な地震防災訓練へ展開し、実施してきている。当県の地震防災訓練の概要をお知らせするとともに、今回この中に分類される津波訓練について紹介する。平成3年度の津波避難訓練が、当県の観光地である"伊豆"-南伊豆町弓ヶ浜海岸で実施された。「8月2日(金)午後2時遠州灘沖を震源とする地震が発生し、気象庁は『津波警報』を発表した。」という想定のもと訓練は開始され、当海水場を訪れた海浜利用者約10,000人の参加のもと津波警報伝達訓練、津波監視、警戒・避難誘導等が行われた。訓練後のアンケート調査結果によれば、京浜地区方面から海水浴に来た十代から二十代の女性が回答者の多くであり、若い女性の世代に伊豆の人気が高いことが窺える。これらの人々は津波避難の指示に従い、訓練に参加してよかったと回答している。しかし、一方では、そのまま砂浜にいて様子を見る等津波の恐ろしさを知らない人がまだまだいることから、啓発活動・津波訓練の必要性を痛感した。