著者
村田 啓介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.367-386, 1995-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
60
被引用文献数
1 2

山形県の郵便局において実施されている「サクランボ小包」事業という,通信販売方式によるサクランボの産地直送事業は,販売業者と郵便局とが業務提携をして事業を遂行するという形態で,1985年の開始以降,一定の成長を示している. 1992年まで「サクランボ小包」事業にはさまざまな販売業者が参入しているが,そこにはサクランボの主産地において,郵便局とりわけ特定郵便局からの働きかけによって早い時期に参入した販売業者が,熱心な担当者との相互協力のもとでその事業規模を拡大させていき,それが主として郵便局という1つのネットワークを通じて技術や手法が伝播し,後に他の産地や非産地のさまざまな販売業者の参入を促したという経過がみられる.また,事業規模を拡大させている販売業者の展開過程の共通点として,第1に販売業者の事業を拡大させようとする意欲,第2に郵便局の担当者が,自ら働きかけて販売業者の参入を促したという点に対するある種の責任感,第3に地元の事情に詳しく,かつ地元の発展を願う特定局の局長という立場からのこの事業への思い入れ,といった点が指摘できる.この事例をとおして,通信販売方式による産地直送事業は小口貨物輸送業の輸送システムを活用することによって成立する事業であり,またその事業の盛衰は,中心的な役割を担う人材の実践力によるところが大きいということが指摘できる.
著者
浅野 久枝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.519-536, 1984-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
1 3

本研究は,三宅島に従来から住む住民自身の民族科学に従って,主として地形に関する民俗分類を検出し,伝統的環境観の復元をめざしたものである.その結果,以下のことが明らかになった. 住民の民俗分類は,決して単一のものではなく,いくつかの体系が重なり合っている.例えば,地形に対しての分類では,少なくとも2種類の体系が見い出せる.地形的には同一の対象に対し,一方では地形的形態からの,他方では生業形態に由来した名称が与えられている.同様に,同じ海岸地形に対し,視点の位置の違いにより,陸上からみた名称と,海底からみた名称との2種の名称が与えられている.さらに坪田においては,地形の民俗分類が主にテングサ採取の知識とともに語られることから明らかなように,生業形態の違いも異なる体系を生み出しているとみることができる.近似した環境においても,その環境の利用および認織は旧村ごとに異なる場合が少なくない.住民の価値観が環境を選択するためであり,ここに環境と文化との相互関係も見い出すことができよう.
著者
山田 浩久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.81-95, 1993

Most social and economic activities are based on land, which is included among high-dimensional goods. The balance between supply of and demand for land is maintained, by its price. However, its supply cannot be controlled. Land prices rise, not with demand, but with the increase in utility value resulting from the construction of railways and redevelopment. As the price of a plot of land is determined by the sales price of land nearby, high prices for neighboring areas due to increased utility value influences the price formation for land in outlying areas without changing their own utility value. Such a phenomenon was observed in small towns when land price in the Tokyo metropolitan area suddenly rose in the late 1980s. <br> In order to better understand the mechanism for land price fluctuations in this area, this paper aims to demonstrate the disparity between the price and use of land on the micro scale and to clarify the characteristics of the rise in land prices in the commercial area of a small town, with the area around the JR Nishifunabashi station as an example. The results of the analysis are as follows:<br> 1) The low interest rate policy and the resultant business boom in the 1980s activated transaction and finances involving land. As a result, land prices rose sharply in commercial areas around stations along the JR Sobu line over the three-year period 1985-1988. Many areas that showed a higher rate of appreciation in this period have developed as major commercial areas. On the other hand, the area around the Nishifunabashi station showed the highest rise in the 1988-1991 period, when the appreciation of land prices had eased off in all commercial areas. This belated rise was influenced by the appreciation of land prices in the area around the nearby Funabashi station and is therefore different from the phenomenon widely observed from 1985 to 1988.<br> 2) In the study area, the area of expensive land to the north of the station did not expand during the period 1985-1988, although the price difference increased. In 1991, however, the land on the south side of the station, where a number of large parking lots were located, appreciated in value, and the price became higher than in the northern area on the whole. The price difference with in the study area grew even greater.<br> 3) In contrast to the changes in the land price distribution, no remarkable changes were observed in land use in the study area. Such a precursory rise in the land price could be attributed to the inability of local commercial capital to cope with the rapid rise occurring in the area. It seems that the delay in the effective utilization of land in the northern area relatively improved the estimated value of the more promising land in the southern area. The 1991 appreciation in the southern area resulted from this situation. Concerning the relationship between the rise in land prices and changes in building height, most medium-high-rise and high-rise buildings were situated in areas where land was expensive, although some had been built within such an area in 1991. In addition to the shortage of local funds, setting the land price on the basis of the medium-and long-term forecast had led to this phenomenon. Lands assessed according to the projected value is not immediately utilized in accordance with the present circumstances.
著者
遠藤 匡俊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.79-100, 1994-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
53
被引用文献数
3

漁携・狩猟・採集生活をしていたアイヌが和人の影響を受けるようになった段階で,家の構成員が流動的に変化していた現象が確認されている.しかし,家の構成員が流動的に変化する原因とメカニズムは不明であった.天保5 (1834) ~明治4 (1871) 年の高島アイヌでは,多くの家が高島場所内にとどまっていたが,家単位の居住者を追跡した結果,個人の家間移動が激しく,家の構成員は流動的に変化していた.家間移動回数を比較すると,家構成員が流動的に変化していた高島・紋別場所では2回以上の移動者が多く,家構成員が固定的であった静内場所と樺太南西部ではほとんどが1回であった.すなわち,家構成員の流動性はおもに2回以上の移動者によって惹き起こされていた.高島アイヌで個人の家間移動が激しく生じたおもな原因は,高い死亡率と離婚である.とくに配偶者との死別・離別によって,親子・兄弟姉妹の居住する家へ移動したり,再婚のたあに他家へ移動するために2回以上の移動が生じ,家構成員は流動的に変化していた.家構成員の流動性は,必ずしも狩猟・採集という生業形態や遊動性とはかかわりなく生じていた.
著者
田村 俊和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.763-770, 1993-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2

地形学の研究とは,地表面の形態を一つの重要な手がかりとして,地表面各部分の性質およびその変化傾向を知るための,成因論的アプローチである.その対象としての地形には,「かたち」,「もの」,「うごき」,「とし」の,相互に関連した4つの属性がある.地形学研究は,主として「うごき」に着目した地形営力論あるいはプロセス研究も,主として「とし」に着目した地形発達史あるいは編年的研究も,それぞれ,地表面の環境にかかわるさまざまな学問分野と密接に関連している.それらから地形学をきわだたせている特徴は,大きさや形のある現実の地表空間としての地形を扱うことであり,また,対象とする地形が,地表面の複合的な諸性質を統合した可視的な指標となることである.これらの特徴こそ,地形学の自然地理学としての特性を如実に表わしたものではなかろうか.それは,環境とはその主体にとっては何よりも空間的実体であり,自然地理学は「自然環境を空間的に統合して捉えるたあの方法とその統合した知見の総体である」ことに存在理由をもち,その空間的統合にあたって地形の指標性とその認識を可能にする地形学の方法が大いに有効性を発揮するからである.
著者
太田 勇
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.318-339, 1985
被引用文献数
2

この論文は・マレーシアとシンガポールにおける国民統合の過程を,華語社会に焦点を当てて明らかにし,言語政策が特定の社会集団に与える影響を論述している.植民地時代に同___.の政治状況下にあった両国の華人は・今日・異なる政府の下で異なる社会的対応をせまられている.華人が絶対多数派のシンガポールでは,英語系華人が共通語に英語を指定し・華語系華人の不満をおさえて,「第三中国」でない国づくりを断行した.マレーシアにおいては,マレー人文化優位の政策に対し,華人は少数派文化の尊重を主張し,華語の存続に努力している・両者は一見すると相反する方向を目ざすようであるが,いずれの場合も,華人が現住国の国民になり切ろうとして,かつての「華僑」の性格を弱めたために生じた現象である.そして,新しい言語政策の発動の結果・華語系華人の多くが社会変革の過渡期にみられる孤立・疎外感を味わい,現在の自分の立場に不安を感じるところも両国に共通である.
著者
内藤 正典
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.749-766, 1997-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

本稿は山本健見による筆者の著書への批判に反論することを通じて,多民族・多文化の共生をめぐる諸問題に対する研究視角を検討したものである.冷戦体制の崩壊とともに,イスラムとイスラム社会を共産主義に代わる新たな脅威とする言説が西欧諸国に蔓延している.しかし,多くのムスリム移民が定住している西ヨーロッパ諸国において,この言説は多文化の共生を危機に陥れる危険をはらんでいる.宗教や民族の相違が直ちに対立や紛争をもたらすとする言説の問題点とは何であるのか.移民自身からの異議申立ては何を争点としているのか.異文化との共存をめぐるマスメディアの功罪とは何か.そして,移民によって国家の基本原理が問われていることをどのように評価すべきか.本稿では,ドイツにおけるトルコ人移民の問題を通して,これらの課題を検討する際に必要な視角を具体的に提示した.
著者
枝川 尚資
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.589-605, 1986-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
7
被引用文献数
5

これまで推定の域にとどまっでいた琵琶湖上の気候特性を解明する目的で,湖上の島(沖の白石)と湖上に・設置されたボーリング塔を利用して,長期にわたる気象観測を実施した.得られた1年分 (1982年7月~1983年7月)の資料のなかから,気温・湿度・風をとりあげて,それらの日変化・年変化の様相を解析し,また湖岸との比較も行なった.その結果,(1)湖陸の気温差は冬季の夜間と春季の昼間に大きい, (2) 湖陸の湿度差嫉春季に大きい, (3) 湖上は陸上よりも風速が大,とくに夜間の風速差が顕著である, (4) 琵琶湖の湖陸風は北西岸・北東岸・南東岸の三つの系統からなる,しかしタ刻になると湖風とは異なる風系が発達する, (5) 強風の場合.沖の白石では地峡に沿う風(東西成分)が,ボーリング塔では山地に沿う風(南北成分)が卓越する,などの知見を得た.
著者
篠原 秀一
出版者
日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.792-811, 1989
被引用文献数
2

銚子における漁港漁業の発展を,資源基盤,水揚漁船の集中と近代化,漁港整備の各要素から検討した.銚子における漁獲物の水揚地である銚子漁港では, 1973年から1984年まで,マイワシ,マサバ,サンマといった多獲性大衆魚を主要魚種として水揚量が増加した.この水揚量の増加は,回遊魚であるマイワシ、マサバなどを漁獲する近海旋網漁船が全国各地から銚子沖の漁場に集中し,その大量の漁獲物を銚子漁港に水揚げしてきたためである.近海旋網漁船はその近代化により大量漁獲を可能にした.とくに,漁船の大型化,新装備の導入を伴う1そうまき操業の一般化,カラースキャンニングソナーと気象衛星NOAA情報受画装置を中心とする主要装備の体系化は,近海旋網漁船の生産性を向上させた.銚子漁港の本格的整備は,特定第3種漁港に指定された1960年以後で,水揚漁船の安全と大型化を保障し,近海旋網漁船によるマサバとマイワシの水揚量増加に対応していた.
著者
森山 昭雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.723-744, 1994-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
4

西三河平野南部に広がる碧海面とそれを構成する碧海層は,リス氷期からヴュルム氷期前半までのデルタ性の厚い堆積物からなる.本地域は,その時期の海水準変動や古環境の変遷を明らかにしうる日本で数少ないフィールドの1つである.筆者は,碧海層の多数のボーリング資料に基づく解析により,その堆積構造と地下層序を明らかにし,化石ケイソウ群集とFeS、含有量の分析,ESR年代測定を実施し,以下の結論を得た. 1) 碧海層は,最大70mに達する厚さをもち,下位から基底礫層,下部層,中部層,上部層に分けられる.その下位には,濃尾平野の海部累層に対比される油ケ淵層が存在する.碧海層上部層の海進堆積物から採取された貝化石のESR年代は,8~9万年前の値が得られた. 2) 碧海層基底礫層は,リス氷期の低海面期、(酸素同位体比ステージ6) に堆積した碧海層の基底の砂礫層であり,上流に広がる三好層に対比される.下部層はリス氷期から最終間氷期(5e)に起こった急激な海進期の海成堆積物と考えられ,5eの高海面期に挙母面が形成された。中部層は,5dから5cの海進期に堆積したものである.上部層は5bから5aにかけての海進期に堆積したものであり,碧海面は5aの時期に形成されたと考えられる.
著者
生井 貞行 原田 敏治 松沢 正 山崎 憲治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.7, pp.472-492, 1991-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

大都市周辺の畑作農業地域は,市場への近雛をいかして野菜酸として発展してきた.しかし,近年の都吏化現象の拡大と,遠隔大規模産地による市場支配で,これらの地域の生産力は低下傾向にある. 三浦市は東京大都市圏の一角にあって,第二次世界大戦前から温暖な気候条件をいかして,東京への野菜供給地として発展してきた.とくにダイコンは大正時代に,東京市場における練馬ダイコンとの競合を経て,有力産地の1つとなった. 本研究では,三浦市の露地野菜生産の発展の条件について南下浦地区大乗集落を事例にして考察した.その結果,ダイコンとキャベツの指定産地になり,共販体制が確立し,安定した価格で販売が可能となったこと,近年,おもに夏作で保有労働力や経営面積に見合った作物や販売方法を選択し,経営が改善されつつあることが発展の条件となっていることが明らかとなった.
著者
荒川 宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.831-855, 1984-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30

大山火山北西部に発達する火山麓扇状地面群を,その形成年代にもとついて古いものから順に,古期扇状地1面,同皿面,中期扇状地面,新期扇状地1面,同皿面および最新期扇状地面の6つの地形面に大別した.それらのうち,相対的に広く分布する中期扇状地面,新期扇状地1面の一部および新期扇状地H面は,石質火砕流の放射谷への堆積,河川によるその火砕流堆積物の侵食,それによって生じた岩屑の下流域への移動・堆積,という過程を経て形成された..これらの火山麓扇状地の形成に要した時間は5千~1万年以下であり,火山全体の形成所要時間と比較すればきわめて短時間である.すなわち,調査地域における主要な火山麓扇状地は,それぞれの形成開始直前に噴出した石質火砕流堆積物の再堆積に起因して,相対的に短時間に形成されたという点で特色をもつ.
著者
山本 健兒
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.131-155, 1997-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41
被引用文献数
1

本稿の目的は,内藤 (1996) とSen and Goldberg (1994) の主張を,さまざまな文献に照らし合せて再検討し,移民問題研究のための基礎的視角を提示することにある.両者に共通する主張は,差別されるがゆえに在独トルコ人の間でイスラム主義が広がる,というものである.しかし,イスラム諸組織の性格把握と差別の内容について,無視しえない差が両者の間に認められる.本稿では,イスラム諸組織の多様性と性格の不透明性を示すとともに,在独トルコ人に占めるイスラム諸組織参加者の比率を推計した.さらに,差別がイスラム主義への傾斜をもたらすという論理に,より踏み込んだ議論を展開している内藤 (1996) の論拠を検討した.また, Sen and Goldberg (1994) は国籍が移民問題の鍵になるとみているので,在独トルコ人のドイツ国籍取得に関する動向も分析した.以上の検討から明らかなことは,在独トルコ人社会の中に多元性が認められる,ということである.他方,ドイツ社会も多元的である.それゆえ,ドイツ人と在独トルコ人との関係を分析する際には,二つの多元性に注意する必要がある.
著者
田村 均
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.216-236, 1985-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30

秩父織物業の衰退は,機械工業とくに下請工業の展開によって促進され,大企業主導による垂直的・専属的な下請構造の形成を一つの重要な背景としている.本稿では,この点に着目しながら,埼玉県秩父地方で最大の生産規模と組織をもつキャノン系A社の下請関係を取り上げ,専属的な関係を基軸に,機械工業の垂直的な下請構造がいかにして形成されてきたかについて考察し,その地域的編成と機能を明らかにした. 1960年代の後半以降,秩父地方では急速な産業交替,すなわち在来織物業の衰退と機械エ業の展開が,織物業者の業種転換による後者への下請従属化をともなって,ドラスティックなかたちで進展した.機械工業による在来織物業の地域的再編は,前者による若年男子を中心とする,織物業とは相対的に異なる労働力編成を通じて,当地方工業の賃金体系が改編される過程であった.この過程で拡大再編された低賃金は,秩父地方の他地域との賃金格差を拡大し,機械工業の下請構造を支えることになった.そこでは,A社による厳しい外注・下請管理が展開されるが,低賃金基盤の上に専属的下請企業層として育成・拡充された小零細企業群と,これを補強するべく同社の「衛星エ場」として編成された生産子会社・系列会社とが,工場群編成のうえで一定の空間的秩序をもって地域内に「合理的」に配置され,機械エ業の下方への負担転嫁を地域的に支えている.
著者
小笠原 洋子 野口 佳一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.459-467, 2000-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8

日記中の天気記録には,日記記主の主観や観測場所・時刻が明記されていないといったあいまいさが反映されている.従来,古日記を利用した気候復元では,これらのあいまいさの影響を排除して復元する方法が検討されてきた.本研究では,日記記主の主観に起因するあいまいさを包含して推定気温を示す手法を検討した.ファジィ線形回帰式を導入すると,可能性としての幅を持たせて気温の推定値を表現できる. 冬季の京都について,1カ月の降雪日数と各月の平均気温との関係を調べた.その結果, 1・2月において両者の間に高い負の相関関係が存在することが確認された.3種類の日記から得た京都の天気記録を利用して,この関係を応用した降雪日数による気温推定を行った.1856年から1865年を対象期間とし,ファジイ線形回帰式を導入して1・2月の月平均気温を推定幅を持たせて復元した.