著者
中川 清隆
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.20-36, 1984-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
45

大気上限から宇宙空間へ射出される地球出放射を,地上気象要素から推定する公式を理論的に誘導した.その結果,地球出放射は地上気温での黒体放射に比例し,その比例定数は地上の水蒸気圧,二酸化炭素濃度,オゾン全量,雲頂高度,圏界面高度の関数であることが明らかにされた.誘導された公式によって推定される地球出放射の緯度分布は,気象衛星からの実測値とよい一致を示した.この公式の誘導によって,いわゆる熱平衡気候モデルにおいても,大気組成の変化に伴う気候変化が議論できるようになった.フィードバックを一切有さず,地上気温以外のパラメータを固定したきわめて単純化された最小エントロピー交換気候モデルにより,二酸化炭素倍増 (300PPmv→600PPmv) の影響を推定したところ,北半球平均で0.75°Cの昇温が予測された.
著者
水谷 武司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.208-224, 1989-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
3

自然災害や戦災を被った都市の人口減少の規模,被災者の他地域への移動の様式,および災害後の人口回復の時間経過を,主として年ごとの人口統計値を使用して調べた.被災都市の人口減少数は,外力の強度および破壊域の空間規模を示す値である家屋全壊・全焼数のほぼ1.25乗に比例する.関東震災による被災者の各道府県への移動数は,ほぼ入口に比例し,被災地からの距離に反比例している.すなわち重力モデルが適合する.災害後の入口変化は,災害直後の人口を初期値として人口に比例した増加率で増加する部分と,災害によって減少した人口の未回復部分に比例した増加率で増加する部分,との和で示されるものとして導いた式(粘弾性モデル)によってよく説明できる.人口回復の速度は,レオロジー等で使われている“遅延時間”によって表わすことができ,戦災後の大都市におけるそれは4-5年である.
著者
山元 貴継
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.12, pp.855-874, 2000-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
1 3

本研究は,韓国の地方.市郊外地域の日本統治時代における空間的変容を,土地利用や土地所有状況の観点から分析した.地籍資料に加えて聞き取りを活用した分析の結果は,以下のように要約される.変化の大部分は,川沿いの低地や山沿いの緩斜面に展開した田畑に限定された.近隣居住の韓国人個人の所有が多かった農地は, 1920年代中頃にはインフラ用地として一部が朝鮮総督府所有などに,1930年代末からは都市部居住の韓国人個人所有の宅地に転換された.後者の時期に日本人地主は,郊外地域にまで居住しっっ農地や一部の山林をも所有するに至った.一方で,山林の中でもとくに稜線上は,一部「国有」林の払い下げのほかは,ほぼ特定氏族の墳墓を抱いた山林として顕著に残され,現在までも細長く農地や宅地を取り囲む景観を維持している.この稜線部に対する新規地主の土地獲得は,当時からの住民に対しより強い衝撃を与えており,特別な意識の存在が指摘された.
著者
新井 祥穂
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.35-52, 2001-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
19

本稿は広域行政組織の分析を通じて,小規模町村が事務実施でどのような困難に直面しているかという点の理解を目指す.具体的には長野県日義村および四賀村を澤び,それらが加盟する広域行政組織の活動や運営を調査した.小規模町村は,課せられる事務が増大・複雑化する中,役場組織の規模の小ささと短期間での人事異動とにより,役場内では,事務実施の遂行に必要な職員の専門知識を育成することが難しくなっている.そこで事務実施のプラン設計など,より多くの専門知識が要請される過程は広域行政組織に外部化され,隣接市町村の担当職員や県地方事務所職員とともに担われている.とりわけ,技術職採用職員(県地方事務所)のイニシアティブは,広域行政組織における小規模町村の専門知識の取得に重要な役割を果たしている.以上よりこれまであまり指摘されてこなかった小規模町村の課題として,事務実施のための専門知識の取得が挙げられよう.
著者
ニザム・ ビラルディン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.19-34, 2001-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26

農村改革以降の新彊ウイグル自治区における食糧確保問題の背景を考察し,グルジャ県を事例に食糧増産対策と当面の課題について検討した.新彊ウイグル自治区では, 1980年代から綿花を中心とした換金作物の作付面積が増加してきた反面,食糧作物の作付面積は減少してきた.さらに, 1990年代半ばには,同自治区は中央政府によって中国最大の綿花生産地およびテンサイ生産地に指定され,綿花,テンサイなどの換金作物作付面積の拡大に拍車がかかった.新彊ウイグル自治区政府は食糧を確保するため,各県の食糧自給を強化する一方,食糧生産の基地となるべき県に対して食糧供給力の増大を求あた.同自治区の主な食糧生産基地県であるグルジャ県では,「五統一」政策によって食糧生産の増大が図られている.しかし,この「五統一」政策は,食糧作物の耕作地の確保に貢献し得るものの,従来からの食糧販売問題を一層深刻化させる可能性があることも否定できない.食糧販売問題の解決策としては,穀物を中心とした作目構成を改善し,野菜,果樹などの作付拡大を図りつつ,穀物を含む農産物の共同販売体制を整備することが必要である.
著者
酒川 茂
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.83-99, 2001-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
35
被引用文献数
2

横浜市のコミュニティハウスは,公立小中学校の余裕教室を活用して設置された小規模生涯学習施設である.本稿の目的は,学校との複合施設でいかに生涯学習が展開されてきたのかを,利用者の構成,施設の選択理由および評価についての調査を通して明らかにすることである.利用者の主体は中学校区内に居住する成人女性や高齢者で,施設を選択した最大の理由は自宅に近いことであった.各館ではさまざまな自主事業が実施され,事業への参加を契機にサークル活動を始めた者も多く,職員による支援事業が生涯学習活動の展開に大きな力を果たしてきた.これらの活動には学校設備も積極的に利用されている.学校側がコミュニティハウスの設備や機能を利用する事例は乏しいが,利用者と児童生徒・教員の間に連携も芽生えっっある.複合施設の利点を活かすためには,支援事業をさらに充実させ,学校との連携を進める必要があろう.
著者
佐藤 ゆきの
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.63-82, 2001-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
5

阿蘇北麓の小国町では,第二次世界大戦後かっての共有牧:野にスギ植林が積極的に行われた.それにより,多くの農家が戦前までは社会的地位の象徴であったスギを所有するようになり,「スギの町」との住民の認識が強められた.その一方で, 1960年代以降共有牧野の一部にクヌギ植林が展開されていく.クヌギが植林された背景には,まずシイタケ栽培のほだ木としての経済的価値の高まりがあった. 1960年代半ば,放置された牧野ではすでにクヌギの二次林化が進行していた.住民は,クヌギの経済的価値の高まりによって,その植林を主体的に選択したと認識している.しかしそこには,伝統的な生業の慣行と知識によって形成された広葉樹への意識や評価も大きく作用していることがうかがえる.こうした小国町の住民の生業活動選択の背景を分析するにあたっては,自然・政治・経済・社会的条件と住民の環境観との相互作用の考察が不可欠である.このよう一な小国町の住民の環境観は,近年の木材価格の下落や地域共同体の縮小などの中で,短期的な採算にとらわれずスギ・クヌギ林の維持・管理を続けさせる背景ともなっている.
著者
滕 艶
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.158-176, 2001-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
85
被引用文献数
1

本稿の目的は,中国農村地域の小城鎮を対象とした研究に関するこれまでの成果を中国の国内研究を中心に整理し,本課題に関する研究の特色と動向を明らかにすることである.方法としては, 1980年代初頭から現在までの小城鎮に関する研究文献に,小城鎮開発をめぐる動向を加味し,中国の国内研究を中心に,時期別に整理する.そして,研究の内容と特色を考察し,小城鎮研究の問題点と今後の地理学的課題を提示する. 考察の結果,小城鎮研究について時期区分をすることができた.また,小城鎮に関する概念の多様性,農村の都市化の役割,開発要因,町づくり研究ならびに政府各部門の共同研究,モデル鎮実験の研究などの動向と内容を明らかにした.今後の課題として,集落範囲と属性などに着目した小城鎮概念の整理,小城鎮における労働力資質とその教育の改善に関する研究ならびに中国全地域を対象とする小城鎮研究とその定量分析などの必要性を指摘した.
著者
高橋 日出男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.217-232, 2001-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
2

本研究では,梅雨季 (6・7月) の日本における「雨の降り方」の地域性と年乏の差異(「陰性」・「陽性」梅雨)を知るために,梅雨季総降水量に対する日降水量の階級別の寄与にっいて検討した.日本全体を大きく二分する場合,総降水量に対して上位階級(大きい日降水量の階級)の寄与が大きい地域には,九州地方,中国地方西半,四国~東海地方南岸,および中部山岳域西部が該当する.西日本であっても,南西風に対して山地風下にあたる地域では,風上側に比べて上位階級の日降水量の寄与は相対的に小さいことなど,大地形との対応が認められる.総降水量に対して下位あるいは上位階級の日降水量の寄与が大きい場合を,それぞれ「陰性」あるいは「陽性」梅雨と考えるならば,両者の判別は極端な少雨年を除き可能であると考えられ,同程度の総降水量であっても「陰性」・「陽性」それぞれの場合が認あられる.また,「陰性」・「陽性」いずれの場合であっても,平均状態に認められる「雨の降り方」の基本的な地域性は維持されている.
著者
鍬塚 賢太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.179-201, 2001-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
38
被引用文献数
1

アジアへの多国籍企業の空間的展開を企業組織の側面から明らかにする上で,製造業企業であっても非製造機能に対する分析は欠かせない.本稿では電気機械器具製造業に分類される日本の企業グループを対象として,それがシンガポールに設立した「地域オフィス」の活動特性と企業グループ内での役割を明らかにすることで上記の課題に迫る.まずアジアにおける日本の電機企業グループの立地展開を把握し,シンガポールと香港への非製造機能の集積を確認した上で,シンガポールの地域オフィスにっいて考察した.地域オフィスは管轄エリアである東南アジアに立地するグループ企業を本社に代わって一元的に統括するものではない.地域オフィスはシンガポールに移管・集約することで効率的となる機能を限定的に保持しているにすぎない.それは管轄エリアにおいて主に販売会社を展開する企業グループの場合,販売に関する管理業務であり,製造会社を展開する企業グループの場合製造会社に対する本社サービスの供給拠点としての機能である.
著者
谷口 真人
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.725-738, 1987
被引用文献数
17

新潟県長岡平野における地下水温の形成機構を解明するために,地下水温の時空間分布の観測と熱移流を考慮:した数値解析を行なった.その結果,地下水温鉛直分布の季節変化パターンは特徴的な4つのタイプに分類され,その分布域も地域的な特徴を持つことが明らかになった.また,地下水流動による熱移流を考慮した数値解析により,これらの地域的差異が,地下水の涵養・流出・移流・揚水によって生じたものであることが明らかになった。地下水流動系の涵養域および流出域に出現するタイプは,それぞれ年間を通じた0.01m/dの下向きおよび上向きのフラックスの存在により,恒温層深度が鉛直一次元の熱伝導による計算値より約5m下方および上方へ移動する.河川近傍に出現するタイプは,水平熱移流の影響を受けて全層一様に温度変化する.市街地中心部に出現するタイプは冬期の消雪用揚水により,浅層の高温な地下水が水塊状に下方へ移動することにより説明できた.
著者
横山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.287-304, 2001-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
40
被引用文献数
2

1991年に甚大な台風被害を受けた福岡県矢部村に右いて,斜面崩壊地の分布と台風災害の復旧状況に関わる,自然的要因ゲ人的要因,経済的要因を分析し,台風災害地の森林管理問題を考察した.分析地区の崩壊地は台風災害地と重なり,また大半の崩壊地は災害復旧がなされていない林分であった.崩壊地の発生要因には,自然的要因のほかに,台風災害復旧を行っていない,すなわち森林管理を放棄するという人的要因も関与していた.森林管理が放棄される傾向にある森林所有属性は不在村森林所有者であり,在村森林所有者と比較して災害復旧速度が相対的に遅い.また,復旧には,経済的要因も加わり,多くの要素が相互に関与しあって,森林管理の放棄に結びっいている状況を明らかにした.森林管理は,自然資源を活かした地域振興を試みる山村の存立基盤にも大きく影響するため,不在村森林所有者の問題をはじめとする森林の維持管理対策が山村には必要不可欠である.
著者
佐藤 大祐
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.8, pp.452-469, 2001-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1 5

海岸の観光地では,海浜別荘地や民宿地域などが大都市からの距離や利用者の社会階層などに応じて発達し,観光産業を基軸とした地域が形成された.その中にあって,近年マリーナの増大が顕著で,漁業などとの海域利用の競合が発生している.本研究では,東京を中心としたマリーナの立地と,マリーナ利用者の属性とレクリエーション行動を解明することを目的とした.1960年代に三浦半島の相模湾岸において別荘地帯の延長線上に開設されたマリーナは,充実した施設を併設している.この利用者は,東京都区部の西部に居住する高額所得者層から成り,夏季を中心にリゾートマンションなどに滞在して,沖合海域において大型のクルーザーヨットでのセーリングとモーターボートでのトローリングを,沿岸海域に密集する漁業活動とすみわけっっ行っている.一方,1973年の第1次オイルショック以降,東京湾において産業施設から転用されたマリーナは簡易な施設で構成されている.中産階級にも広がる利用者は,週末に日帰りし,波浪の静穏な東京湾内湾の中でも沿岸寄りの海域を小型モーターボートを使って行動することで,沖合の大型船の航路とすみわけている.,このようなマリーナとその海域利用の実態が明らかとなった.
著者
斉藤 由香
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.541-566, 2001-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
4

本研究では,買収によってスペインに進出した日産自動車の現地子会社・日産モトールイベリカ社(NMISA)を事例企業として,その物流システムの構築プロセスを明らかにした.さらに,サブ.ライヤーとの部品調達関係を詳細に分析することで,近年NMISAが現実的な諸条件の中で物流システムをどのように発展させているのかを考察した. NMISAでは,そのサプライヤーが広域的に分散立地しているため,ミルクラン方式や調節倉庫利用方式といったさまざまな部品調達方法を導入し,「修正ジャスト・イン・タイム」というかたちでJIT納入を実現している・スペイ.ンでこうした多様な調達方法が発展した背景には, NMISAがサプライヤーの地域的分布に対応した側面だけではなく,英国日産との部品の共同購入の進展や,サプライヤーとの取引量や力関係,部品の特性など,部品調達をめぐるさまざまな条件に適応している側面も認められた.こうした現地における物流システムの構築プロセスには,既存企業の買収という進出形態や生産の小規模性が大きな影響を与えていた.
著者
山田 周二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.11, pp.643-657, 2001-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1

人工的に改変された山地・丘陵地の地形の自然さを定量的に評価するために,大都市(東京,大阪,名古屋)近郊の宅地およびゴルフ場として改変された山地・丘陵地を対象として地形計測を行った.まず,地形改変前および後に作成された2万5千分の1地形図を用いて,起伏E(比高と面積の平方根との比),相対起伏R (垂直方向の凹凸の程度を表す指標),輪郭の等高線のフラクタル次元D (水平方向の凹凸の程度を表す指標)を計測した.地形改変前の,三つの地形量の間には有意な相関があり (r=0.79,n=69, p<0.0001), LogE=-0.31D-0.58LogR-0.56で回帰平面が表された.この回帰式および実際のRおよびDの値から, LogEの計算値を求め,これと実際のLogEとの差を地形自然度と定義した.改変前の山地の地形自然度はゼロに近い値をとり,平均値はゼロ,標準偏差が0.15になった.一方,改変後の山地では,マイナスの値が多くなり,宅地およびゴルフ場では,平均値がそれぞれ-0.20および-0.05になった.このような結果は,地形自然度という尺度が人工的に改変された地形を有効に評価し得ることを示す.
著者
安田 正次 沖津 進
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.709-719, 2001-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

上越山地平ヶ岳頂上部の湿原において乾燥化に伴う非湿原植物の侵入を明らかにするため,湿原とその周囲の植生分布を調査した.湿原の境界域にはハイマッとチシマザサが分布し,それらは湿原に侵入していた.まずハイマッが湿原内に侵入し,それがその後にチシマザサが侵入可能な環境を形成すると推察された.チシマザサは湿原の乾燥化を助長させていると考えられた.以上から,湿原に侵入したハイマッは後にチシマザサなどの植物に生育場所を奪われる先駆的植物と推定された.同時にチシマザサの侵入により非湿原植物の侵入がさらに進むと推測された.
著者
中澤 高志 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.685-708, 2001-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
61
被引用文献数
2 4

本稿では長野県出身の東京大都市圏居住世帯に対して行ったアンケート調査に基づき,ライフコース概念を取り入れて,地方出身者世帯の大都市圏内での住居経歴を分析する.住居経歴は40歳世代, 50歳世代, 60歳世代の三つの世代について収集し,住居経歴の終点が特定の地域に収敏することのない発地分散的データであるという特徴を持つ.大都市圏内の住居移動に関する一般的特徴の多くは世代を超えて安定しており,結婚後の住居移動回数はおおむね1~2回で, 20歳代後半から30歳代前半の時期に住居移動の頻度がピークに達する.世帯が持家の取得を目標とすることは世代を通じて揺るぎないが,持家を取得する時期は住宅市場の動向に左右され,取得する持家の形態も戸建住宅から集合住宅へと世代を追って急速に変化した.住居移動の空間的特徴は,短距離移動,セクター移動,外向移動が卓越していることであり,これらは郊外に向かう跳躍的移動と従前の居住地の周辺で行われる短距離の移動に大別される.世帯の持家取得欲求は大都市圏の同心円的な地価水準の下で実現されるため,外向移動はとりわけ持家を取得する移動に典型的にみられ,結果として居住の郊外化が大きく進展する.すなわち家族段階の発達とそれに伴う住居形態の変化という住居経歴の時間的軌跡は,住宅市場の動向に代表される社会経済的背景と大都市圏の同心円構造を反映した空間的軌跡として現出するのであり,それ自身が大都市圏を外延化させる原動力となっていた.
著者
斎藤 功 仁平 尊明 二村 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.661-684, 2001-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
43

本稿は,アメリカ合衆国の冬小麦地帯の中央にあるカンザス州を事例として,エレベーター社の競合と系列化に注目しながら,グレインエレベーターの地域的展開の様相を時間・空間的に明らかにした.カンザス州では,鉄道の西進に伴って19世紀後半からグレインエレベーターが建設された.エレベーター社は穀物を購入するだけでなく,農業資材や日用品を販売することによって,農家との密接な関係を保った.しかし,農協や製粉会社など,郡域の農家から穀物を集荷する地方のエレベーター社は,吸収・合併を繰り返したたあ,現在に至るまで同じ社名で存続しているのはわずかである. 1950年代後半以降,フリントヒルズ西端の旧チザムトレイルに沿った,鉄道路線の集まる都市で,ターミナルエレベーターが建設された.これは,地方のカントリーエレベーターから穀物を集荷し,国内外に出荷するための巨大エレベーターである.コーリンウッド社やガーヴェイ社は,ターミナルエレベーターを建設したり,地方のエレベーターを購入したりすることで,広域的な集荷圏を持っエレベーター社に発展した.しかし, 1980年代以降,これらのターミナルエレベーターは,カーギル社やADM社などの穀物メジャーによって次々と買収された.このように,世界の穀物市場を支配している合衆国の穀物メジャーは,郡レベルで始まったエレベーター社の競合の結果,広域的に展開したエレベーター社を系列下に収めることによって,最終的に穀物の集荷地盤を垂直的に統合 したのである.
著者
福岡 義隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.751-762, 1993
被引用文献数
1

まず始あに,最も古典的で著名ないくつかの文献と筆者自身の考えに基づいて,気候学と気象学の違いを論考する.気象学が人間不在でも成り立つ大気の科学であるのに対して,気候学は必ず人間の存在と密着した大気の科学であるとする.気候学をも含め自然地理学は,隣接の理工学の手法を取り入れるが,解析・理論的解釈の段階で人間的要素を色濃くもった地理学独自の哲学・思想が必要である.<br> それゆえに,気候学は自然地理学の一つ,あるいは地理学そのものとしての存在理由があるはずである.その存在理由は'Physical-Human Process.Response'と称するW. H. Terlungのシステム論における5番目のカテゴリーによって確信づけられる.筆者はそのようなcontrol systemの説明のために3っの具体的な気候学の研究例を紹介した.その一つはW. H. Terlungが論じているように"都市気候学"の研究である.ほかの一つは"災害気候学"に示され,そのうちの一つとして年輪に記録される干ばつの気候に関する研究を紹介した. 3つ目は"気候資源に関する研究"で,これも最も地理学的な気候学の一つと考えられる.というのは,それらの研究が自然エネルギー利用の伝統的方法における気候学的考えに拠るものであるからである.最後に,いつまでも他分野に仮住まいすべきではなく,気候学という現住所にいて地理学という本籍(本質)を全うすべきことを主張した.