著者
細野 智美
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、副腎皮質刺激ホルモン受容体の遺伝子多型の違いによるコルチゾール分泌の違いが睡眠薬の効果に及ぼす影響を調べ、効果的な睡眠薬の選択へ応用することを目的とした。筑波大学附属病院に入院中の患者を対象に、セントマリー病院睡眠質問票を用いた聞き取り調査を行った。対象は、ゾルピデム(ZOL)服用172名およびブロチゾラム(BRO)服用157名である。ZOL群およびBRO群について、さらにそれぞれの群を患者の満足感(不満あり・不満なし)で2群に分類して、患者背景、総睡眠時間、中途覚醒回数および睡眠に影響をおよぼす薬剤の併用割合を調べた。ロジスティック回帰分析は、男性、65歳未満、総睡眠時間6時間未満、中途覚醒回数、副腎皮質ステロイド剤の併用を独立変数、不満ありを従属変数としてオッズ比と95%信頼区間を求めた。その結果、ZOL群とBRO群に共通した不満要因は、総睡眠時間6時間未満であることと中途覚醒回数の多いことであった。また、ZOL群では男性であること、BRO群では65歳未満であることと副腎皮質ステロイド剤の併用が不満要因であった。これより、睡眠薬の種類によって、患者の満足感に副腎皮質ステロイドが影響を及ぼすことが示された。睡眠薬服用によるコルチゾールの分泌変動について健常成人を対象に検討を行った。尿中17-ハイドロキシコルチコステロイド(17-OHCS)濃度はPorter-Silber反応を、尿中コルチゾール濃度はHPLCを用いて測定した。その結果、ゾルピデム服用において尿中コルチゾール/17-OHCSの低下がみられた。これより、睡眠薬服用時のコルチゾールの分泌低下が睡眠薬の効果に影響を及ぼしている可能性が示され、副腎皮質刺激ホルモン受容体の遺伝子多型の違いにより、睡眠薬の効果が異なる可能性が考えられた。
著者
鷹栖 雅峰
出版者
那須野ヶ原アニマルクリニック
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

本研究では、盲導犬として使用されるラブラドール・レトリーバーの遺伝性疾患の頻度調査を行った。盲導犬集団での遺伝性疾患の頻度と交配個体の遺伝子型が明らかになり、調査した遺伝性疾患について出産を抑制する交配コントロールが可能となった。・運動誘発性虚脱1強い運動によって誘発される神経疾患である。174頭の盲導犬を調査して、発症犬が13頭(7.45%)、キャリアが58頭(33.3%)、野生型が103頭(59.2%)であった。運動誘発性虚脱の遺伝子頻度は24.1%で、野生型の遺伝子頻度は75.9%と算出され、運動誘発性虚脱は盲導犬集団に非常に広く浸透していることが明らかになった。遺伝子検査が可能となり、交配コントロールができる目処が付いた。・中心核ミオパチー:主に欧米で発症が認められる疾患である。149頭の盲導犬を調査して、発症犬が0頭、キャリアが1頭(0.68%)、野生型が148頭(99.3%)であった。盲導犬集団内にはほとんど浸透していないと考えられた。発症犬の期待値頻度は0.0011%であり、母集団が2,000頭余りの盲導犬集団には発症犬はいないことが明らかになった。・進行性網膜萎縮症:遅発性の網膜症で、発症犬は6~8歳で視力を失う。170頭の盲導犬を調査して、発症犬が0頭、キャリアが9頭(5.3%)、野生型が161頭(94.7%)であった。盲導犬協会では眼科検査(表現型の検査)によって、発症犬を選別し交配コントロールを実施している。その結果が顕著に現れていることが明らかになった。発症犬の期待値頻度は0.07%であり、盲導犬集団内からは進行性網膜萎縮症の変異遺伝子はほぼ排除されていると考えられた。・ナルコレプシー:発作性睡眠と呼ばれる神経疾患で、アメリカでの発症が報告されている。148頭の盲導犬を調査し、発症犬およびキャリアともに0頭であった。148頭全てが野生型で、盲導犬集団内には変異遺伝子が無いと考えられた。
著者
西島 太郎
出版者
松江市観光振興部歴史資料館整備室
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

室町幕府の将軍権力を支えた、守護の統率下にない、将軍が直轄した御家人で、親衛隊的存在である「奉公衆」と呼ばれる家は、全国に分布し、最大時、約180家、350名を数えた。彼らの支配する所領は、全国の地域支配を国単位で任された守護の領国内に多く存在し、守護の関与が及ぼせない守護不入地として、独自の地域支配を展開し、守護の権力増大を規制する役割をもっていた。奉公衆については、これまで奉公衆名簿(「番帳」)のうち、番に編成された部分のみ分析が行われていた。本研究では、奉公衆名簿の原本確認および、番に編成された部分以外の人物について一覧を作成し、分析を加えた。また奉公衆名簿には、人名の実名の記載なく、その家が代々称する官途や通称・幼名で記されているため、記載されている人物が、当時の誰であるのかを確定する作業が必要で、諸史料や研究論文などから確定した。その結果、新たな全国の奉公衆一覧表を作成することができた。また外様衆とよばれる一群についても分析を加え、番衆に限定されない、将軍直轄の御家人について検討した。室町時代後期から明確化する、将軍直轄の御家人である奉公衆は、室町幕府体制における将軍家「家中」の形成として捉えることができるとの見通しを得ることができた。
著者
八重樫 陵
出版者
学校法人立正大学学園 立正大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

【研究目的】大学入学者選抜において、アドミッション・オフィサーの活用が可能か検証する。【研究方法】【1】大学の教職員を対象として、質問紙調査を行った。(回答数 : 教員120事務職員276)質問項目として、書類選考、面接試験、合否判定をアドミッション・オフィサー(事務職員)が行うことに対して賛成か反対か、無記名で行った。【2】過去に書類選考、合否判定等に関わった経験のある事務職員に取材を行った。また、アドミッション・オフィサーの活用及び大学入学者選抜について、文部科学省の職員へ取材を行った。【研究成果】質問紙調査の結果として、合否判定をアドミッション・オフィサー(事務職員)が行うことに対して、「アドミッション・オフィサー(事務職員)のみで行うことに賛成+教員と一緒に行うことに賛成」の割合が約66-69%と、反対(どちらかというと反対を含む)の割合(約25-31%)を上回ったことが明らかとなった。しかし、アドミッション・オフィサー(事務職員)のみで行うことに賛成の割合は、約9-18%と低かった。アドミッション・オフィサー(事務職員)が合否判定を行うことに「反対+どちらかという反対」の割合は、教員が約28-31%、事務職員が約25-26%と教員がやや高く、反対も一定数の割合を占めた。(割合の数値は小数点第1位を四捨五入・試験制度によって異なる)【今後の課題】質問紙調査の結果、アドミッション・オフィサー(事務職員)の活用については、反対よりも賛成(アドミッション・オフィサーのみ+教員と一緒に行うこと)の割合が高かったが、育成は日本では殆ど進んでいないのが実情である。また、アドミッション・オフィサーの活用が進んでいるアメリカと違い、日本では、多くの大学で最終的な合否判定の権限は大学教員にある。今後、合否判定にアドミッション・オフィサーを活用するためには、教員の同意を得ることが大きな課題として挙げられる。
著者
長谷川 紀幸
出版者
国立大学法人 横浜国立大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

2012年中教審答申では「生涯学び続け主体的に考える力を育成する」ために「学修時間の増加・確保する」ことが重要であると強調されている。一方、大学教員が、担当する授業科目を対象にした教育活動を記録する「コース・ポートフォリオ(以下CPf)」は授業実施のリフレクションを促し、授業改善に有効なツールである。(Cerbin W. 1994、酒井ら2012)CFfは授業デザイン、教授プロセスと共に学生の「書く・話す・発表する等の活動」も記録・蓄積することから、「書く・話す・発表する等」の学習活動を促進・深化するアクティブラーニング(以下AL)の支援に応用することも考えられる。本研究ではCPfが教員の授業改善だけでなく、ALへの援用によって「学修時間の増加・確保する」こともできることを明らかにすることを目的とする。本研究では、(1)当該補助金で出張した「大学教育学会」「金沢大・大学教育開発・支援センター」「東北大・大学教育支援センター」「大学プロフェッショナルセンター」での調査によりALおよびCPfの事例について情報収集を行った。(2)当該補助金で購入した物品を以下のように使用してCPf作成用の授業記録データの収集、映像取得・編集・蓄積し、教材を作成した。またUSBメモリ等に講義の音声・映像を記録し、「音声認識SW」により講義録を作成した。とれらの授業記録データから作成した簡易的なCPfを参照し、HDDに保存した高精細画質の講義録画データを「映像編集SW」等によりALに活用できる教材を作成した。(3)既存の学習支援システム上で作成した教材をAL型の授業に援用し、昨年度の比較によって効果を検証した。その結果、CPfから作成した教材を援用した授業では昨年、一昨年よりも学生の出席率および授業時間外学習の時間が向上した。これは学生の授業への参加の動機づけと学習意欲の向上に対し、CPfから作成した教材が授業内容を以前よりもより反映したものとなったことで影響を与えたためである。このようにCPfは教員の授業改善に有効であるだけでなく「学修時間の増加・確保する」(中教審)など学生の学習への動機づけと学習意欲の向上にも有効であることが言える。
著者
杉田 正道
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

【目的】頚椎症の関連痛型症例に対し鍼治療を行い、その治療成績について検討した。【方法】症例を発症から当治療室での鍼治療開始までの期間別に分け、その治療成績を検討した。症例は43例で、男12例・女31例、平均年齢は51.0歳であった。発症から1ヶ月までと3ヶ月の者は各5例・6ヶ月と1年が各4例・2年5例で、2年以上は20例で、平均63.1ヶ月であった。ジャクソンの過伸展圧迫テスト陽性は43例中33例、スパーリングの椎間孔圧迫テスト陽性は25例であった。また頚椎の骨変形の程度評価基準(I型がその程度が最も軽度で、II・III・IV型と強くなる)に基づく内訳は、43例中I型が13例・II型17例・III型13例であった。鍼治療は頚肩・肩甲間部への単刺・雀啄・置鍼、低周波鍼通電療法、円皮鍼等を適宜行い、治療頻度は週1回、期間は一般的に物理療法の効果判定に必要とされる3ヶ月とし、治療効果の判定は各症例の自覚症状と他覚的所見の改善度をもとに、著効・有効・やや有効・無効の4段階とした。【結果】発症から鍼治療開始までの期間からみた治療成績は発症から1ヶ月が著効1例・有効2例・やや有効1例・無効1例・3ヶ月では5例全て有効・6ヶ月では著効1例・有効2例・やや有効1例であった。発症から1年では著効2例・有効と無効が各1例で、2年では、有効3例・やや有効2例で、2年以上では著効3例・有効9例・やや有効6例・無効2例であった。今回は発症から治療開始までの期間別の症例数にばらつきが高かったこともあり、一定の傾向は得られなかった。やはり本症は頚椎変形がベースとなる疾患であることから、頚椎骨変形の程度が軽度な者の方に治療成績が良い、という傾向がみられた。また全体としての治療成績は、著効は43例中7例(16.3%)・有効22例(51.1%)・やや有効10例(23.3%)・無効4例(9.3%)であったことから、本症に対する鍼治療の有効性や有用性が示唆されたものと考える。
著者
久保 憲昭
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】蟯虫の感染経路については、感染マウスとの接触および感染マウス飼育ケージ内の床敷きを介して感染することは知られているが、それ以外の感染経路が存在するか否かは未だ不明である。今回、長崎大学先導生命科学研究支援センター動物実験施設において、ネズミ盲腸蟯虫の駆虫薬による駆虫後に再発を経験したこともあり、再発を防止するためには蟯虫卵の飼育室内分布状況を明らかにし、感染経路を探し出すことが必要と考え、実験を行うこととした。【方法】ネズミ盲腸蟯虫の感染を粘着テープ法により確認したAKRマウス♂9匹を実験に使用した。飼育方法は、木製チップを入れたプラスチックケージに給餌器兼用のステンレス製フタに飼料と給水瓶をセットして3匹ずつ3ケージに分けて入れ、一方向気流方式飼育ラック内で1週間飼育した。蟯虫卵分布の観察ポイントとして、ケージ本体、フタ、給水瓶、床敷き、給餌後残飼料、飼育棚、排気ダクト内粉塵、ケージ交換時着用手袋と実験着及び実験台、マウス固定器、電子天秤用体重測定カップの12カ所を設定した。蟯虫卵の検出は対象物により飽和庶糖液による浮遊法または粘着テープ法で行った。今回実験着以外は浮遊法で検査を行ったが、前処理として対象物を0.05%Tween20液1Lで洗浄後、その洗浄液を金網製ザルで濾した後、遠心分離機にて3000rpm10分間遠心して沈渣を検査に供した。【結果及び考察】今回の実験で蟯虫卵が検出されたのは、検出個数が多い順に、床敷き462個、ケージフタ33個、ケージ15個、飼育棚8個、マウス固定器・給水瓶3個、排気ダクト内粉塵2個、手袋・体重測定カップ・実験台1個で、実験着と給餌後残飼料は0個であった。今回の実験の結果から感染経路を推測すると、使用済みの床敷き、ケージ、フタを介して感染している可能性が高く、また、飼育棚、マウス固定器、給水瓶、排気ダクト内粉塵、手袋、体重測定カップからの感染も少なからずあることが示唆された。
著者
本橋 一浩
出版者
東京都立青梅総合高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

農業高校では、林業科を中心に食品科、園芸科が教育課程の中で、きのこの栽培が取り上げられているが実際のところ、きのこ栽培は授業にはなかなか取り上げられていないのが現状である。以前おこなったアンケート調査によると、施設設備の問題と、教員がきのこ栽培の経験不足の場合が多くみられ、このことが大きな要因となっている。勤務校である東京都立青梅総合高等学校の場合、総合学科であるが教科「グリーンライフ」「生物活用」「発酵学入門」「自然と農業」などでも、きのこ栽培とその加工を取り上げていないのが現状である。よって教科書に掲載されているきのこ栽培の参考資料的な位置づけとなる、生物実験室レベル程度の環境でも行えることに配慮したテキストを作成することと、生徒の実習も可能なきのこの加工方法を開発することを目標とした。初めにきのこ培養・栽培に必要な環境をつくる方法の研究として、簡易栽培室を暖房機、送風機、扇風機を組み合わせ作った。一室の中にビニールで覆う空間を作り空調を行うが、園芸に使われている温室機器が適していた。常に排気を行わなければCO2濃度の上昇と共にきのこの生育が悪くなるため、換気が必要である。栽培実験では、きのこ菌培養のための培地の研究をおこなったが、かび用培地では栄養素の不足が問題点であったため、いろいろ添加してはみたものの、コンタミネーションが多く発生して思うような培地作成は道半ばである。現時点では、白アワビタケでは、おから、米ぬか。ヒラタケではコーンミール、おから。ハナビラタケではバナナが比較的よい結果となっている。また植物用無機液体肥料も有効である。シイタケは桜、ならの原木栽培をおこなってみたがコンタミネーションが多く発生し、結果を残せなかった。子実体から一次菌糸の培養方法の研究では、子実体の使用部位、使用培地、培養条件などを変えてみて、一次菌糸から二次菌糸への変換の観察方法の研究と菌糸の観察法、二次菌糸から子実体形成への発生条件、発生後の管理などの比較試験を行いデータを収集することができた。栽培したきのこの加工方法の研究では、加工したきのこを真空包装しても、十分な加熱を行わないと異常発酵が発生しやすく、殺菌の温度、時間の管理が重要であり、製造業者は加圧殺菌で安全性を確保している。この点に留意すれば製品化は可能とわかった。産地への訪問と調査では、きのこの各種製品と製造方法、栽培現場、培地材料等参考になった。
著者
竹内 重雄
出版者
東京都立成瀬高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

7月21日実施「6月ウマチー」を調査、記録(ビデオ撮影)した。また、平成27年2月26日から3月2日に沖縄、久米島を訪れて関係者から君南風あむしられに関わる行事、組織、現状について取材した。1 「6月ウマチー」当日の行事内容 : 9時、君南風殿内に全員集合、君南風は黄色が基調の紅型神衣装、勾玉、ミチャブイ着用。神棚に祈願→玉那覇蔵下のローカーヤ(6月ウマチー用に設置された拝所)→仲地蔵下のローカーヤで儀礼実施。午後、宇江城城跡に車で移動。城跡に設置したローカーヤで儀礼実施。男神の担当者が行事進行を主導した。オモロは歌われずウムイ等がカセットテープで流された。2 君南風6月ウマチー行事の特長(君南風あむしられ、男神担当者に直接取材をして判ったこと)① 衣装が紅型であり、勾玉着用。通常の祭祀ではノロは白の神衣装を着用。特異であり華やかである。② 3カ所のローカーヤでは、君南風は神拝みはせず、下級の神女が行っていた。君南風はローカーヤの奥に民衆の側に向かって着席したまま。君南風は神で、拝まれる対象のため一切行為は行わなかった。③ 付近には村落の拝所(神あしゃげ)があったが、そこは使わずローカーヤを設置し、拝所とした。④ かつての君南風は10名のノロを従え、君南風殿内の管理から行事一切を下級神女に行わせていたというが、現在はその作業は君南風あむしられとそのご主人が行っているということで、隔世の感がある。3 まとめ : 沖縄の他の祭祀とは、明らかに異なる特長がある。その本質は、琉球王朝時代、聞得大君が現人神として祭場に登場し、オモロに歌われたということを物語る。これまで聞得大君は、オモロを歌う主体と考えられていたが、訂正が必要になった。『おもろさうし』解明の一助となると判断される。
著者
端崎 圭一
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

最近のパソコンでは,DVDの映画を英語字幕を出しながら容易に視聴でき,また,映像に合わせてその字幕を読みながら音声を録音することができるようになった。この方法を用いると,英語の音読指導がより効果的にできるのではないかと考えた。本研究の目的は,実際に映画を用いて音読を生徒に試みさせ,初期の音読から終期の音読の変化を生徒の自己評価をもとに検証することであった。授業は,2年の選択授業で実施した。生徒数は,前期34名,後期30名であった。場所はコンピュータ教室。Windows XP搭載のパソコンを使用。使用したソフトは,Windows標準のサウンドレコーダとパソコン附属のDVD再生ソフト。授業回数は14回。映画は『ハリーポター(賢者の石)』を使用。最初の2回で,生徒は,読んでみたいセリフのある場面を8つ選んだ。3回目以降は,1回の授業につき自分で選んだ一つの場面をDVDを観ながら録音を何度も試みた。音声をファイルとしてポートフォリオ化し,いつでも聞き直せるようにした。毎回,表計算ソフトを用いて自己評価に取り組ませ,時系列で評価を見渡せるようにした。最終3回は全員に同じ場面に取組ませ,友人同士協力して行わせた。生徒の自己評価を通して言えることは,初期の音読では,何よりも教科書の学習では経験できない速さに難しさや戸惑いを感じている生徒がほとんどであるどいうことである。しかしながら,それでやる気をなくすことはなく,むしろ生徒意欲の高まりをひしひしと感じることができた。それは,映画の中にある本物の力,自分でやってみたい場面を選べた喜びに起因すると考える。回を重ねるに従って,スピードや英語らしい音に慣れてくると同時に,より上手になりたいという思いも強く感じることもできた。最終段階では,「どうやって本物に近いものになるか」「今は少しだけはっきりと,英語らしい発音で話せるような気がする」「他の場面でのセリフの成果もあった」など自己学習の成果がはっきりと見て取れた。
著者
出川 強志
出版者
小山工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

申請者は学生実験で、環境負荷を考える人材育成を目指してきた。しかし基礎的な実験では、製品をもって環境負荷を考える機会がなかった。そこで防食のためにクロメート処理されたボルト・ナット等の金属製品に着目した。かつてクロメート処理にはCr(VI)を含む溶液が用いられたが、EUで発効されたRoHS/ELV指令によりCr(VI)を使用しない方法で製造されつつある。しかし現在も製品によってはCr(VI)が検出され、検査業務は必須である。これら製品の有害物質測定は、環境負荷の理解に好適である。本研究は、学生に製品中の有害物質の含有率の測定を軸とした勉強会を行い、環境負荷を念頭に入れた開発・製造を自発的に行う人材の育成を目指した。勉強会は興味のある学生を募集後班分けし、科学技術と人間の関わり、環境問題、RoHS/ELV指令、Cr(VI)の有害性、処理法などの内容をテーマ毎に複数回行った。勉強会では毎回、申請者が講義で理解してもらいたい内容を課題として提起し、それを、班内討議し、その後実験を行うことにより学生自身が自発的に内容理解に深めるアクティブラーニング的手法を用いた。Cr(VI)の測定は製品を蒸留水中にて加熱抽出し、抽出液をジフェニルカルバジド法により測定し製品のCr(VI)の含有率を学生自身が知ることができた。最後に学生には、勉強会にて理解したことについて、公開発表会にて発表し聴講者との討議を経て、理解を深化させその内容をレポートにて報告させた。このレポートと勉強会の前後に行ったアンケートをあわせて評価した。この有害物質教育により、学生は、工業製品中のCr(VI)測定を通して工業製品中の有害物質が環境に与える負荷について考察することができた。またその際、提起された様々な課題については、学生自身が班内討議、実験及び全体討議を経ることにより、自発的にその内容の理解を深めることができた。
著者
古川 猛
出版者
茨城県警察本部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014

この研究は、機器による筆跡画線の質の測定、及び定量的な評価方法の開発を目的とした。筆跡には、画線の幅、濃淡、曲率、筆圧痕の深さ等のさまざまな指標が含まれている。しかし、実際の法科学における筆跡鑑定ではそれらを定量的に評価する手法、機材が開発されておらず、鑑定人の感覚に頼った状態が続いている。そこで、筆跡の輪郭線を信号と捕らえて、ウェーブレット分解により高次から低次に渡る周波数成分を検出した。その後、得た特徴量を指標として筆跡の輪郭線の滑らかさ、粗雑さを評価した。まず、被験者10名により縦、横、右下がり、左下がりの4方向別の短い線分をタブレット上に置かれた用紙に10回繰り返して記載する実験を行った。次に、筆跡画像を光学解像度5400dpiでフラットベッド型イメージスキャナにより撮影した。その画像に対して前処理として二値化、輪郭線抽出を行った。以上の輪郭線の差分を計算し、波状のプロファイルを得た。同プロファイルを5段階のスケールを使用したウェーブレットにより処理して分解プロファイルを得た。10名の被験者が10回繰り返して記載した4方向別の線分から得られた5段階の分解プロファイル、計2000個を評価するために、主成分分析を用いてデータの次元を圧縮した。識別には、部分空間法を用いた。特徴量(固有値)の分布の線形性、及び非線型性を考慮した筆者機別実験を行った結果、半数のデータで正しい識別結果を得た。
著者
川上 麻世
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

【研究目的】健康な勤労者では、仕事による活動や緊張状態が続くことから、眠気の自覚が少なく、睡眠不足の蓄積によってもたらされる作業効率の低下を自覚していない可能性もある。本研究では勤労者を対象に、検査値から得られる“客観的な眠気”ならびに、質問票より得られた“主観的な眠気”も合わせて解析し、眠気が脳機能に及ぼす影響を解析することを目的とした。【研究方法】本研究参加の同意が得られた勤労者26名(男性10名、女性16名)を解析対象とした。昼間の眠気の調査には「エプワス眠気尺度日本語版」、検査時の眠気の調査には「カロリンスカ眠気尺度」を使用した。認知機能の調査には「注意機能スクリーニング検査 : D-CAT」を使用した。客観的な眠気の評価として短時間ポリソムノグラフィ検査を行って入眠までの睡眠潜時を測定し、また、「精神運動覚醒検査 : PVT」では反応時間の測定を行った。これらと認知機能との関連を評価し、勤務や睡眠習慣との関連を統計学的に解析した。【研究成果と考察】対象者の年齢、勤務時間、睡眠時間、エプワススコアはそれぞれ33.7±12.2歳、8.0±0.6時間、6.2±1.0時間、8.7±3.5点(平均±標準偏差)であった。睡眠潜時は3.5±2.0分(平均±標準偏差)で、すべての対象者が10分以内に入眠し、就寝時刻が遅い者ほど有意に睡眠潜時が短かった(β=-0.18, p<0.05)。認知機能との相関では、検査時のカロリンスカ眠気尺度が高いほどD-CATでの見落とし率が高かった(β=-2.63, p<0.05)。エプワススコアでの眠気がある群(11点以上)と眠気がない群(10点以下)との比較では、睡眠潜時もPVTも差を認めなかった。眠気の自覚がある、なしに関わらず入眠していることから、客観的な眠気と主観的な眠気が乖離していることが示された。本研究では解析症例数が充分でない事から、眠気と認知機能との相関について確定的なエビデンスは得られなかったが、今後、交代制勤務従事者や過重労働従事者を対象に含めた、より大規模な検討が必要と思われる。
著者
沢田 有香
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

生徒の人間関係力を向上するねらいで,選択理論心理学を用いた教材を開発活用し,あらゆる機会を通じ,コミュニケーションスキルを向上させる支援を行い,その効果を検証した。2年生に実施した薬物乱用防止講座の中で,タバコを吸うか吸わないかは自己の欲求からの選択であるというプレゼンテーションを行った後,グループでタバコを吸わない宣言のキャッチコピーを作るワークを行った。この感想の内容をまとめてみたところ,これからの選択への責任,決意,達成感などが多く見られた。このことから,自分たちが作り出した喫煙防止キャッチコピーを自分たち自身のこれからの選択への宣言として取り入れるという効果がみられたと考察する。3年生に実施した思春期講座では,オリジナル教材として「人間関係を『ぴと』で考えると」を開発した。これは人間関係をより良くしていくための教材であり,友人関係や異性関係に役立つようにと考えたものである。人間関係の距離感を「ぴと」という単位で概念化した。いずれの距離においても役立つ人間関係の持ち方としてレクチャーした。この講座への生徒の評価は,おおむね良好なものであった。また,「Happy Cakeをつくろう!」というコミュニケーションワークを開発し,全校生徒の中から希望者に行った。このワークをすることで,相互の関係の距離感が縮まったり,自己の内的統制感が高まったりする効果も期待できるということが調査から若干みることができた。「心の授業」として過年度から実施していた2年生対象の選択理論心理学をレクチャーする授業では,高野和子氏とともにTTで行った。内容は,心の宝石箱「上質世界」を公開し共有するワーク,「基本的欲求」との関連づけ,そしてその中から自分自身の目標への「全行動」のプランニングのワークで構成した。これについての生徒の評価および内的統制感との関連は現在分析中であり,選択理論心理学研究に論文として投稿予定である。
著者
尾場 友和
出版者
大阪市立東淀工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

就職氷河期から一転し、就職戦線はバブル期に匹敵する売り手市場で活況を帯びている。高卒労働市場においても求人倍率の点からは同じく好況には違いないが、高校教育が産業界を支える質の高い人材を輩出しているのかという点については等閑視されてきた。本研究ではまず近年の高校教育を取り巻く状況について、学校・生徒・社会のそれぞれの視点より文献に基づき分析をおこない現状認識を深めた。つぎに高卒労働者の質について評価する指標づくりとして、全国1020の事業所高卒採用人事担当者を対象に「高校生の採用と企業が求める教育像に関する調査」を郵送法にておこなった。調査は「採用時に重視したポイント」と「企業が高校教育に望む教育活動」の2つから構成し企業側の視点による高卒採用の実態について迫った。その結果、高等教育機関への進学率の上昇や学力低下を主因に、企業の高卒採用は決して順調に進んでおらず、「人手は足らないし、質も確保できない」という高卒労働市場が危機的な状況にあることがわかった。詳細については「専門高校と企業との接続に関する研究」(『教職教育研究-教職教育研究センター紀要』、関西学院大学教職教育研究センター、第13号、2008年3月)に小論としてまとめた。さらに、そうした状況を打開するためにはどういった方策が必要であるか。その手かがりを探るため「新規高卒若年社員(事務職以外)における職場適応に関する調査」を全国139の事業所高卒採用人事担当者を対象におこなった。内容は「社内研修の内容」と「早期離職の要因」を中心に構成し、就職後の高卒生の課題について考察を深めた。以上2つの調査結果に基づき、専門高校でのキャリア教育を企業との接続の観点から検討し、産業界を支える専門高校のあり方について明らかにした。
著者
外山 美奈
出版者
浜松医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

研究目的:生命科学の教育現場において、生物材料を扱う能力が低下し生命現象そのものを理解できないことが問題になっている。我々の教育現場でも同様の状況であり、現状打破を目指し学生に生物に触れる機会を増やしたところ大きな改善を得た。また地域貢献事業を通して、初等中等の生徒に生物に触れる機会を与えると、青少年期教育より効果が絶大であることを体験した。そこで大学と地域中学との連携を確立し、「ニホンミツバチ」を材料として生物に触れる機会を与え科学への興味を増大させる教材開発を目的とした。研究方法:プレゼンテーションソフトによる、ニホンミツバチの紹介、飼育法および実験法のテキストを作成し、近隣中学校科学部の生徒達を対象に講義と実習を行い、個体の行動と社会性を学ばせた。その後、生徒達に実習で学んだこと、考察、感想についてまとめさせた。このフィードバック結果を基に、本教育法をより効果的に行うための方法を検討し、本年度作成した教育材料を改善した。研究成果:講義を聴講した段階ではハチは恐ろしいと思っていた生徒達が多かったが、実際に近くで観察させると、「ニホンミツバチ」はおとなしくて可愛いと感じるようになった。また天敵であるスズメバチを集団で熱殺することや、働き蜂の寿命は約30日であり日齢で仕事の役割が変わることを伝えることで、命の大切さを学んだ。生徒達の自然や生命への認識が変化したと思われる。比較的扱い安い「ニホンミツバチ」は理科的思考力を養う理科教育に適していることを実感した。ただ、中高生は学業や部活動で忙しく、なかなか時間が取れないという問題がある。理科的思考力向上という目的を達成するためには、継続的な観察実施も重要である。今後は、ウェブカメラを巣箱内外に設置し情報を自動記録し、離れた場所や後からでも観察ができる装置を構築し、生物に触れる現場教育と併用することでより効率的な教育法を確立したい。
著者
藤原 英史
出版者
ドキュメンタリーチャンネル
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究計画に基づき、平成25年の夏期から秋期にかけて、ヒメイカの飼育・観察を行った。ヒメイカが水槽内で産卵する様子をハイビジョンカメラと特殊なマクロレンズで、超拡大撮影し、それに成功した。これまで、イカの産卵行動において、メスが産卵の過程のどのタイミングで卵と精子を受精させているのかは不明であったが、本研究で得られた映像から、卵を保護するための卵ゼリーの中に卵を産み込んだ直後に、メスの口部周辺にある貯精嚢を卵ゼリーに押しつけるような行動をとり、この時に卵ゼリー内に精子を注入し、最後に、口でゼリーの穴を閉じることが明らかになった。このような行動をとることで、体内に貯めた限られた量の精子でも、確実に受精させることが可能になると考えられた。また、受精卵にヘキスト染色を施し、卵割する様子を微分干渉顕微鏡および蛍光顕微鏡でライブセルイメージングを行った。これまで、イカ類において、一つの卵の卵割の様子を連続的に記録し、細胞運命を追った研究はほとんどなかった。そのため、卵割で殖える細胞がどのような過程を経て組織や器官になるのかを詳しく知ることはできなかった。今回、受精直後のヒメイカ卵のヘキスト染色の方法を確立することができた。そして、8細胞期から覆い被せが始まる、2日後くらいまで、細胞の核の位置を映像で追跡することができるようになった。その結果、細胞の移動は、予想していたよりも少ないことが明らかとなった。平成25年7月に行ったアオリイカの産卵行動の観察は、産卵期のアオリイカが隠岐ノ島周辺の海域に現れる個体が例年よりも少なかったため、産卵行動を撮影することができなかった。
著者
榎本 百利子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、ハスを使った工芸品作りの現状を調査し、関連するハスの利用法、加工法を整理して体系化するとともに、児童など工作、加工の経験の少ない者でも利用できるような形で情報の公開を進めることを目指した。児童や未経験の市民でも参加できるような体験学習への応用を念頭に置き、工芸品の中でも比較的制作の容易なものを選び、その作業手順を整理して提示することとした。従来、ハスを材料とした工芸品といえば、ハスの生きた植物体の利用が主で、枯れた植物体はほとんど利用されていなかった。実際にハブの栽培を行っている現場では、生のハスの葉や花を採取することは時に生育への影響もあり得るためになかなか行えないが、逆に枯死体は秋から冬に多量に発生して処分に困るくらいである。このハスの枯死体に着目し、工芸品への加工に役立てることを考えた。まず花蓮の既存の利用法について、インターネットや文献等により調査を行った。その中で実施が容易と判断されたものについて、現地に赴き作成過程を検分し、さらに自ら実際に作成することによって、実施可能性を評価した。ハスの既存の工芸品としては、ハスの葉柄の繊維を利用した織物、花托を利用した人形やランプ作り、ハスの葉や花托を利用した染色加工、花托や茎を利用した衝立や置物などがあった。ほかに食品や入浴剤、香料などへの利用もあったが、それらは工芸品としての範疇を超えると考えられたため、ここでは取り上げなかった。これらのハスの利用が盛んな土地として、花ハスの栽培で有名な南越前市〓旧、南条町)に着目した。同町では工業的に、蓮の葉を練りこんだうどん、蓮の葉茶、入浴剤が作られており、町内の温泉施設でハスを利用した他の加工品とともに販売されている。ここを訪問して、織物および染色の工程や施設、その他作業に必要な事項について視察させていただいた。織物は、7月下旬から9月にかけて蓮の葉柄を収穫し、加熱薬品処理、乾燥、繊維をよる等様々な過程を経て得られた糸を材料として作られていた。染色には、花托と葉が用いられていた。葉については、夏に収穫した葉を冷凍保存し、染色に用いると説明を受けた。視察の結果、糸を取り出すことは未経験者にとっては容易ではないと考えられたため、本研究の目的にかなう工芸品として、布の染色に注目した。夏の間にハスの紅色の花弁を集めて乾燥保存しておくとともに、秋から冬にかけて花托と、枯葉を葉柄をつけたまま採取した。また、夏に葉を採取してハスの葉茶を作っておいた。これらから色素を抽出した。花弁は食用酢でもんでから、他のものは特に何の前処理もせずに煎じ、染色液を得た。媒染液には焼きミョウバン液を使用した。染色の対象となる布としては、一般的によく染まるといわれている絹(オーガンジー)のほか、ウール、綿(ガーゼ、シーチング)、麻、さらに対照としてポリエステルのオーガンジーを準備した。綿と麻に関しては、豆乳で漬け込む前処理を実施したものも準備した。染色を行った結果、絹、ウールがよく染まり、続いて前処理をした綿、麻、未処理の綿、麻の順に成績がよかった。ポリエステルは染まらなかった。染色液としては、花托が一番濃く染まったが、染色への使用が難しいとこれまでいわれてきた花弁も、酢を使用することで染色材料として利用できることが確認された。児童・生徒を含む一般の市民のかたがたを対象として、ハスを利用した工芸品づくりの体験学習を行う場合、染色はそれほど複雑な作業を必要とせず、また特別な機器もいらないため、比較的実施が容易である。ただし、個々の工程に比較的長い時間を要することと、熱湯の取り扱いを伴うことから、児童を対象として行う場合には実施の上でこれらの問題点を解消するための工夫が必要であると考えられた。ハスに関心をお持ちの、比較的年配のかたがたを対象とした体験学習には適した題材であろうと思われる。
著者
久野 真矢
出版者
リハビリテーションカレッジ島根
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

【目的】本研究の目的は,認知症高齢者の主観的QOL評価尺度としてLawtonらが開発したApparent Affect Rating Scale(AARS)が,わが国の認知症高齢者にも使用可能であるのか,日本語訳の判断基準を使用して評価を行った場合の信頼性を検討することである.研究疑問は,「わが国の認知症高齢者に対するAARSの信頼性は高いのか」である.【方法】1.対象:認知症高齢者を改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)20点以下の65歳以上の者,HDS-R10〜20点を軽度認知症,HDS-R9点以下を重度認知症と操作的に定義した.家族より研究参加への承諾が文書にて得られた某介護老人保健施設入所者15名を対象とした。対象の属性は平均年齢86(SD6.3)歳,女性11名・男性4名,血管性認知症9名・アルツハイマー型老年認知症5名・パーキンソン病1名,HDS-R平均10.1(SD7.35)点,NMスケール平均22.9(SD12.92)点,障害老人の日常生活自立度ランクA:1名・B:12名・C:2名,痴呆性老人(認知症高齢者)の日常生活自立度ランクI:4名・II:2名・III:7名・IV=2名であった.2.方法:対象が施設共用空間で過ごす様子を1回あたり5分間のビデオ撮影を複数回行った.2名の評価者がビデオ記録を観察しAARSを用いて評価を行い,うち1名の評価者は再度AARSを用いて2〜3週間後に評価を行った.3.データ分析:AARS得点の±1点差までを一致とみなし,評価者間一致率とテスト-再テスト一致率を求めた.また,不一致率について母不良率の検定を危険率5%で行った.【結果】評価対象ビデオ記録は67回分(重度認知症34回分,軽度認知症33回分)であった.1.評価者間一致率;満足45,興味0.75,楽しみ0.33,不安0.85,怒り0.94,悲哀0.82を示し,母不良率の検定では満足,楽しみに有意差を認めず他の項目は有意差を認めた.重症度別では,重度群は満足0.62,興味0.77,楽しみ0.44,不安0.74,怒り0.88,悲哀0.68を示し,軽度群は満足0.27,興味0.73,楽しみ0.21,不安0.97,怒り1.00,悲哀0.97を示した.母不良率の検定では重度群,軽度群ともに満足,楽しみに有意差を認めず他の項目は有意差を認めた.2.テスト-再テスト間一致率;満足0.75,興味0.69,楽しみ0.76,不安0.91,怒り0.96,悲哀0.94を示し,それぞれ母不良率の検定で有意差を認めた.重症度別では,重度群は満足0.76,興味0.74,楽しみ0.91,不安0.85,怒り0.91,悲哀0.88を示し,軽度群は満足0.73,興味0.64,楽しみ0.61,不安0.97,怒り1.00,悲哀1.00を示した.母不良率の検定ではすべての項目に有意差を認めた.【考察】主観的QOLとして重視される感情の評価尺度としてLawtonらが開発したAARSは,わが国の認知症高齢者を対象とした場合では評価者間一致率,テスト-再テスト一致率ともに興味,不安,怒り,悲哀の項目では有意に高い値を示し,臨床応用の可能性が高いことが示唆された.しかし,満足,楽しみの項目については評価者間一致率が有意に低く,判断基準の検討が今後の課題と考えられた.
著者
山根 基秀
出版者
山口県田布施町立田布施西小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

「研究目的」:地域の自然や歴史・文化を素材に、それらにふれあい、新たなものを創り出していく学習を行う。活動の過程で、地域の人との交流や地域への情報発信の仕方も学び、体験による生きる力と学力向上を連動させ、今後に活用する力を養う授業作りの研究を行う。「研究方法」:地域の自然や歴史・文化を体験する活動を仕組み、そこで学んだ知識や感性を、地域発信という形で表現するとともに、活動過程での基幹学力の定着をねらう学習を展開する。(1) テーマ:「今よみがえる!田布施2000年の歴史~昔のかおゆただようドリームランドの実現をめざして」(1) 田布施町の歴史を調べる~古墳調査、古代米の栽培・収穫・試食(ポンポラ飯、餅つき)他(2) 生活文化の体験~ハゼの実ロウの絞り・絵付け、地元俳人「江良碧松」の研究、昔の遊び他(3) 古代のむらを再現~埴輪や土器、里山体験場作り(学校林活用)(2) テーマ:「ニューカルチャーワールドin田布施~古代から新しい文化の創造をめざして」(1) 古代文化・田布施文化の調査~弥生・古墳時代から中世までの研究(2) 新田布施文化の創造~ハゼの実ロウソクの復活、休耕田を利用したカブト虫飼育他(3) 学習したことを地域の発信!!(1) 西小文化祭の開催~「田布施文化がこだまするin学校林-一人一文化一俳句」→県総合芸術文化祭参加※体験して学んだことを俳句で発表、田布施の生活文化の再現、体験コーナー(そば打ち、自然体験他)の設置(2) 「新聞を教育に」~新聞活用によるかべ新聞作り→全国かべ新聞コンクール発表(入選)「研究成果」:地域の宝「ひと、もの、こと」と積極的に交流することにより、自然や文化の恵みを感じる心や地域や友だちへの感謝の心が育った。また、自分なりのふるさと観を構築し、町の発展への意欲や実践力が高まり、地域創造の態度が培われた。そこから自分たちの町の自然や文化を継承し、創造する活動へ発展し、地域に発信する力やコミュニケーション力などの社会性を身に付け、進んで将来の自分に生きてはたらく活用力を身に付けようとする意識が芽生えた。さらに、教科などとの横断的な活動によって、基幹学力の向上が見られた。また、様々な体験で学んだことを俳句や日記に表したり新聞にまとめたりすることで、感受性や表現力が豊かになり、書く・聞く・話すといった言語活動の充実につながり、確かな学力が身に付いてきたと確信する。