著者
宇野 亨
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

【研究目的・方法】渡り鳥の越冬地の減少対策として注目される冬期湛水有機栽培水田では、雑草抑制が課題となっている。本試験では代かきの除草効果に着目し、代かき回数と雑草発生の関係を、冬期湛水有機栽培水田において明らかにすることを目的とした。コナギを優占種とする冬期湛水有機栽培転換4年目の水田1筆内に、代かき回数を異にする3処理区[2/4/6回]を3反復で設け、水稲品種ひとめぼれを栽培した。複数回代かき処理前後の土壌を採取し、発芽法により埋土雑草種子量を調べた。また、本田における雑草の発生数・乾物重、水稲の生育・収量について調査を行った。【研究成果】埋土雑草種子量は、コナギなど複数種で代かき処理後に増加する傾向がみられた。これは代かき処理後の土壌試料に含まれる米ぬか資材の影響で、発芽が促進されたためと考えられた。代かき処理前の土壌試料にも、同様に米ぬかを加えた条件で再試験を行った結果、殆どの雑草で代かき処理後に埋土雑草種子量が減少する傾向がみられた。代かき回数と埋土雑草種子量の関係は雑草種により異なり、コナギやイヌホタルイでは回数を増やすほど減少する傾向がみられた。本田の雑草発生は、機械除草を一律に行った影響もあり少なかった。収穫期に認められた雑草はコナギ、オモダカ、クログワイが主であった。コナギは発生期間が長いこと、オモダカとクログワイは地下塊茎より発生することから、それぞれ機械除草を回避した個体が残ったものと考えられた。本田の水稲は茎数と収量に有意な正の相関関係があり、代かき回数を増やすほど増加する傾向が認められた。前述した雑草の発生量は、いずれも水稲生育に影響する程ではないと考えられることから、多数回の代かきには雑草発生を抑える以外に、水稲生育を向上させる効果のあることが示唆された。水稲生育を向上させる作用としては、土壌撹拌による有機物分解(窒素無機化)の促進等が考えられた。
著者
徳永 裕輔
出版者
福岡教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

【研究目的】1,子どもが保健体育科の学習において身につけた知識や技能を他の運動場面や他の単元に発展させたり転移させたりして取り組むことの可能性を調査・分析する。【研究の方法】1,子どもの実態調査を学習の事前事後に行うことでその変容から考察する。具体的には,技能の基礎となる新体力テストによる子どもの体力に関する実態の調査と分析を行った。また,運動に対する学習目標志向測度(谷島・新井1994を一部徳永改編)運動に対する価値志向測度(酒井・山口・久野1998を徳永一部改編)の記述式アンケート調査を実施し分析を行った。2,「学習の足跡」としてポートフォリオを作成し,子ども自身が学習した内容を随時振り返り,学びを利用したり適川したりすることができるような学習活動を設定した。3,体力の高・中・低の抽出性を設定し,運動に対する志向性の関係を多面的に分析した。【研究の成果】1,集団的種目(単元)において,子どもは,過去の学習経験から,指導者が考えている以上に,個人技能と集団技能の関連を意識的にできていなかったことが分かった。つまり,習得した個人技能を用いて戦術や仲間との連携などの集団技能へ活用する意識が少ないという分析結果が得られた。2,単元の導入段階で,子どもにシラバスや学習目標の提示を行い,単元を貫く課題意識を持たせることで,「習ったことを試す」「習ったことを活かす」ような意識を持つことが期待されることが分かった。3,単元の中に,体育理論の内容(その運動の歴史等),要領や技術的なポイントなどを各自で探究活動を行い,レポートにまとめる活動を取り入れることで,運動への理解力が身に付き,自ら考え実践しようとする力が高まった。
著者
南角 学
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】人工股関節置換術(THA)において,術前の痛みがなくなった患者が,次に期待することは「きれいに歩くこと」や「杖なしで歩くこと」である.しかし,THA術後の3次元歩行解析を行った報告では,中殿筋機能不全などの股関節機能低下に起因する姿勢制御や歩行障害が指摘されており,術後早期から歩行障害に対する有用なトレーニング方法の開発が急務となっている.本研究の目的は,臨床で実施されることの多い荷重位でのトレーニングの筋電図学的分析を行い,運動機能の向上のためにより有効なトレーニング方法を検討することである.【方法】対象はTHAを施行され術後4週が経過した16名とした.測定課題は,術側を支持脚とした前方への昇段動作,側方への昇段動作,片脚立位,および快適速度での歩行の4条件とした.測定筋は術側の大腿直筋(RF),中殿筋(Gm)とし,測定には表面筋電図計を使用した.各動作課題の筋活動を二乗平均平方根により平滑化し,最大収縮時の筋活動を100%として正規化した.統計には,Friedmanの検定後に多重比較法を用いた.【結果と考察】RFの筋活動は,前方への昇段動作46.8±25.1%,側方への昇段動作59.4±34.3%,片脚立位25.0±15.8%,歩行30.7±20.5%であり,多重比較の結果から,側方への昇段動作において他の3つの動作に比べ有意に高い値を示し,前方への昇段動作では片脚立位,歩行に比べ有意に高い値を示した.また,各動作のGmの筋活動は,前方への昇段動作40.6±17.6%,側方への昇段動作55.1±24.6%,片脚立位60.7±28.2%,歩行48.5±23.9%であり,多重比較の結果から,側方への昇段動作において前方への昇段動作に比べ有意に高い値を示し,片脚立位において前方への昇段動作と歩行に比べ有意に高い値を示した.以上から,THA術後早期における荷重位での筋力トレーニングとして,側方への昇段動作は運動機能の向上のために最も有効なトレーニング方法であることが示唆された.
著者
一ノ瀬 孝恵
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

生物多様性条約第10回締約国会議(2010年10月名古屋)が開催され,SATOYAMAイニシアティブを含む持続可能な利用,バイオ燃料,農業,森林,海洋など各生態系における生物多様性の保全及び持続可能な利用に関わる決定の採択などがなされた。人と自然との共生を考える取組みが今こそ社会レベルでも生活レベルでも実践されなければならない。そこで本研究では,世界最古の薬学書「神農本草経」に記述され薬効のある食材「小豆」を切り口に,家庭科からESDへのアプローチを試みた。具体的には,コスタリカを訪問し,多様な自然環境を体験するとともに,豆を使用したコスタリカの代表料理ガジョピントの調理方法を現地の方から学ぶなど,環境に配慮した生活や食生活についての資料収集を行った。また,有志生徒と本校グランド横にある広い荒地を開墾し,小規模ではあるが有機の畑を作った後,小豆や十六ささげ,じゃがいも,だいこんなどの栽培を行なったり,農家に出向いて作物の収穫体験をすることで,都市部での生活において自然を上手に利用する方法や自給食材を使用したバリアフリーな料理を考えさせた。さらに「豆食文化と未来の食卓」と題し,切り口の小豆をはじめ,コスタリカで取材したフリーホール豆やガジョピントなどの資料を組み込み,マメ科植物に共生する根粒菌の力について荒地開墾を熱心に行う生徒に調査発表させたり,家庭とも連携を取りながら,豆を知り,豆を極め,豆を活かす授業実践を試みた。豆は乾燥することで長期の保存ができるため,世界中で利用されており,多くの個性豊かな豆料理や加工食品がある。豆を中心にした栽培を体験させ,世界のさまざまな国の人々が培ってきた豆食文化を理解させることにより,人と自然との共生とは,未来の食卓のあり方とはどうあるべきかを考えさせることができた。
著者
池田 一郎
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的近年、大学では女性研究者・女性医療従事者を中心とした処遇ならびに勤務環境改善のために学内に保育所を設置する例が増加している。その形態のほとんどが認可外保育所の事業所内保育所である。これらの保育所の経営については、開設の事例が整理されている程度で、経営手法などの調査はほとんどされていないのが現状である。本研究では、学内保育所の経営現状を調査・分析することにより、大学にとって効果的な保育所政策を実施するために行うものである。○研究方法全国国公私立大学752校の事務局に向け郵送による質問紙アンケートを実施(回答率49.4%)し、返送されてきたものに対して分析を行った。保育所の開設の有無・希望を基礎として、開設に至れない理由、開設している保育所の内容、経営上問題点、大学の子育て支援策などについて尋ねた。また、国立大学を中心に、大学直営、学童保育を設置、業者委託方式、学内に複数の保育所を設置・運営している大学6大学実地調査をした。○研究成果国公私立大学を見ると国立大学の開設割合が最も大きい、開設できない理由は、経費面の厳しさと学内から声が上がらないという理由が上位だった。開設のきっかけの上位は学内からの声である。大学の保育収入の54%が利用者の保育料で残りのほとんどは補助金である。経費面を見ると、大学からの何らかの経費補填が87%の大学であり、経費の補填額の35%の大学は10,000~40,000千円の補填額である。問題点の上位にも経費の問題が上がっている。保育料収入と補助金収入だけでは運営できる経営構造ではないことが明らかになった。子どもの体調不良に対応する機能を持つ保育所は24%であり、経費がかかる・スペースがないなどの理由により設置できない現状である。保育所設置効果は、育児を理由とする退職者の減少と、勤労意欲の向上、優秀な人材確保が見られた。
著者
石綱 史子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

花蓮は観賞用の植物として優れた特質を持つが、その利用は必ずしも盛んではない。その理由の一つに、利用者が望む時期に開花を誘導する技術が確立されていないことが挙げられる。花蓮の栽培方法自体は、これまでに概ね確立されているが、花芽分化に関する研究はほとんど行われていなかった。本研究は花蓮の花芽分化が生長過程のどの段階で起こるかを明らかにすることを目的とする。本題を実施することで、花蓮の開花調整技術を開発するための鍵となる知見を得ることができると考えた。平成20年度奨励研究費の補助を受け、光条件と花蓮の開花の関連を明らかにするための研究を行った。遮光率の異なる4種類の寒冷紗による遮光条件下ならびに非遮光条件下で、花蓮二品種(漁山紅蓮、知里の曙)を栽培し、異なる光条件の下で生育・開花状況にどの程度の差が生じるかを検討した。その結果、光量の違いにより花の数に違いが生じ、光量と開花数には、正の相関があることが明らかとなった。さらに、出蕾(水面に花蕾が現れる)から開花までの日数は、遮光率に依存しないことも示された。以上の結果は、花芽分化または花芽の休眠打破が光量に依存して決まることを示唆している。現段階では花蓮の花芽形成がどの段階で生じているか判明していない。
著者
池田 静香
出版者
長崎市遠藤周作文学館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

申請者は、主に遠藤周作が作家を志したフランス留学(昭25~28年)から『沈黙』(新潮社昭41年3月)上梓までの間に、彼が中心的な執筆意図として抱えていた「「戦中派」の戦後の生き方」という問題に考察の焦点を定め、国立国会図書館・日本近代文学館等を利用し、昭和20年~昭和30年代までの遠藤の著作を出来る限り収集することに努めた。その調査の中で、遠藤がフランス留学中に興味関心を示し帰国後はサド論を書きたいとまで考えながらその生涯のなかでもかなわなかった「サド」への興味・理解にのなかに、遠藤が戦中派として体験した第二次世界大戦を乗り越える可能性を示し、またその思想と格闘していることが具体的にわかった(「遠藤周作にとっての「悪」-昭和30年代までの戦争への態度とサド理解を中心に」(「遠藤周作研究」第3号に発表)。また一方で、遠藤の著作のなかで「第二次世界大戦」を扱ったものを収集、整理することに努めた。その成果として、フランス留学中の「フォンスの井戸体験(注、第二次世界大戦下で行われた同胞虐殺事件のあった井戸)」を元にした『青い小さな葡萄』(「文学界」昭30年1~6月号)だけでなく、遠藤が文学的回心をするきっかけとなり加えて『沈黙』を書くための母体ともなったと言われている生死の境をさまよった大患(昭35~38年)を中心的な素材とした『満潮の時刻』(「潮」昭40年1~12月号)にも、作家が「第二次世界大戦を戦後文学としてどう描くのか」という流れのなかで『沈黙』へと筆を進めていったであろう軌跡を見出し、その変遷を朧ながら明らかにした(「「呻き声」の彼方-『沈黙』への道」(「九大日文」第17号に発表(※印刷中))。一年間という限られた時間のなかでの作業ではあったが、遠藤周作という一人の作家が小説家としての出発期に抱えた「戦争をどう乗り越えるのか」という問題意識の変遷を詳らかにする土台を形成することに努めたことは、それがとても小さな第一歩だったとしても、今後遠藤文学研究に新たな視座を導入するきっかけとなるはずだと考える。
著者
片山 幹生
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

(研究目的)今年度は文体論、言語学的アプローチによる十三世紀フランスの演劇テクストの問題点についての考察を進めた。いかにして13世紀の作家たちは演劇テクストを作り出したかという問題である。初期の演劇テクストの作家たちがテクストに施した工夫を検証することによって、複数の演技者によって演じられることを前提に書かれた演劇テクストの特徴を明らかにことがこの研究の目的となる。(研究方法)13世紀の演劇作品の作者の前にモデルとしてあったのは、ファブリオ、宮廷風ロマン、武勲詩などの単独のジョングルールによる語り物文芸のテクストだ。彼らがこうした語り物のテクストのディアローグをどのようにして演劇的に書き換えていったかについて今年度は詳細に検討した。今年度の研究で主要なコーパスとして選択したのは、パリ、フランス国立図書館フランス語837写本(Paris BnF fr.837)に収録されている作品群である。この写本には単独のジョングルールによって朗唱されていたファブリオと複数の役者によって舞台上で演じられるために書かれたと考えられる演劇テクストの両方が収録されている。後者についてはリュトブフの『テオフィールの奇跡』、作者不詳『アラスのクルトワ』、そしてアダン・ド・ラ・アルの『葉陰の劇』の抜粋がこの写本に収録されている。興味深い点はこの写本に収録されている演劇テクストにはすべて、ファブリオ的な「語り」の要素が含まれていることだ。また写本のレイアウトから見ても、ファブリオとこれらの演劇作品の間には顕著な差がない。(研究成果)2010年3月に837写本を所蔵するパリの国立図書館を訪問し、写本の記述と写本に収録されたテクストの校訂を詳細に検討した。そこで明らかになったのは、これまでズムトールが指摘していた13世紀フランス文芸におけるジャンルの曖昧さ、流動性という問題がこの写本に収録されている演劇テクストでは典型的なかたちで現れているという事実である。837写本収録のテクストは演劇と語り物の間にある様々な段階の中間形態を示している。これらの調査結果については、平成22年度中に学会で発表し専門家の意見を仰いだ上で、論文の形にまとめて発表する予定である。また作成した研究書誌は平成22年4月中にウェブページ上で公開する予定である。
著者
眞柄 賢一
出版者
舞鶴工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

NCVCは申請者が10年以上も開発を続けており、すでに3軸マシニングセンタ用CAMソフトとしての地位を確立しているため、そのユーザインタフェースを崩さずにワイヤ放電加工機向けのNCプログラムが生成できるよう努めた。単純な図形や一定のテーパ角度等は、ワイヤ放電加工機用の切削条件設定を別に追加することで簡単に実現できた。ワイヤ放電加工機特有の加工では、中抜き加工と上下異形状切削の区別を、前者はAWFポイントをCAD作図時点で指示する方法、後者は2つのレイヤ情報をXY軸とUV軸に対応させる方法を考案し、解決することができた。四角形と円など線の数が違う上下異形状は、プログラム内で微細線分を計算することで対応した。どうしても線の数が合わせられない錐形状等は、一時停止点をCADで作図することを考案し、それを認識させることで解決することができた。申請時点でワイヤ放電加工機向けのシミュレーション機能は実装できていたので、生成したNCプログラムはシミュレーション機能のデバッグも兼ねて入念なチェックを行った。実機での加工実験は、本校ではまだ経験が浅いことから、NCVCの教育利用と機器の導入実績などを勘案して松江高専様を訪問した。適切なアドバイスを受けながら進めることができ、加工実験は良好な結果を得ることができた。そのスキルは本校実習工場にもフィードバックできている。今回の取り組みによって、これまでのユーザインタフェースを崩すこと無くワイヤ放電加工機特有の上下異形状切削に対応することができた。しかもそれを2次元CADで表現した図形情報からNCプログラムが生成できる意義は大きいと思われる。今後は教育機関だけではなく広く一般企業にも展開できるよう問題点を整理し開発を進めていきたい。
著者
林 剛人丸
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

1 研究目的本研究は新潟県十日町市に伝承されている玩具菓子『ちんころ』および新潟県中越地方を中心にして日本各地に伝承されているちんころに類似した玩具菓子のデザイン性について、現地調査をもとに主にデザイン的な見地から比較研究を行なうことを目的とした。2 研究方法(1) 現地調査対象地新潟県十日町市、熊本県山鹿市、秋田県湯沢市、石川県輪島市、三重県菰野町、千葉県松戸市(2) 調査項目玩具菓子の実物の入手および撮影、制作工程の取材、配布・頒布の状況取材、過去の資料の収集3 研究成果(1) 総じて米を素材としている。菰野町の事例を除き大部分は米の粉を練って造形されており、弾力性やコシなどの材料的特性から造形が導かれている。(2) 寺社を通じて配布若しぐは頒布されているものは素朴な造形であり、民間で頒布されているものほど手が込んでいて個性的な造形である傾向にある。(3) 造形には地域的な特性が認められるが、どの地域でも決まりごとが存在するわけではなく、作り手が自由に造形することが許容され複数のタイプのデザインが存在している。(4) 寺社を通さず民間で頒布を行なう地域においても、玩具菓子が信仰の対象となっているケースが見受けられた。(5) それぞれの玩具菓子が素材(米)・モチーフ(犬)・信仰の相関関係からデザインされた形態であると推測することができる。(6) 現存する犬の玩具菓子には時代によって盛衰が見られることから、各地に類似するものが比較的近年まで残されていた可能性を推測でき、今後の調査課題となった。
著者
東城 秀人
出版者
私立白梅学園高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

高校では植物が光合成に利用する光の種類(波長)と光合成色素の持つ特徴とを合わせて学習するが、その指導の中で、光と色の関係においてはスペクトルなど重要な概念は、生物分野ではきちんと教えられているとは言えない。また、光合成色素の特徴として吸収スペクトルを学習する際には、色素の抽出・分離や分光器を用いた吸収スペクトルの実験・観察を行うことが多いが、その後吸収スペクトル(曲線)へは説明だけとなり,実験的,経験的なつながりはない。上記の問題点を解決するためには、生徒が自らの手を使って実験をし、吸収(率)スペクトル(曲線)を描き、その特徴を学ぶことが有効であると考え、本研究では、吸収(率)スペクトルを描くための測定装置(透過率測定用装置(通称「葉さむ君」),反射率測定装置(通称「葉ねる君」))を、LEDとフォトセル(CdSセル)を利用して開発した。これらの装置を用いて各種の葉(ツバキ,イチョウ,ハナミズキなど)の透過率や反射率を測定し、以下の点を確認することができた。(1).緑葉では、スペクトルの青,赤領域(クロロフィルの吸収領域)の吸収率が高く、緑領域の光の吸収率は低かった。しかし、緑もかなりの率で吸収されている。(2).黄葉や紅葉では緑葉と異なり、クロロフィルの赤色吸収領域(光合成機能領域)が著しく低下し、透過率が上昇した。黄葉と比べて紅葉では、新たに合成されたアントシアニンによるものと考えられる緑色領域の吸収が見られた。また、生徒がツバキおよびイチョウの葉(緑葉,黄葉)を用いて、透過率を測定し、吸収(率)スペクトルを描く授業実践を行い、その授業効果を調べたところ以下の結果が得られた。(1).短時間で測定を終えることができ、計算も簡単にできた。実験に対する生徒の評価も良かった。(2).葉の色の変化を含まれる色素の変化と意味づけて考察することができた。以上の結果から、本研究で開発した装置は光合成の指導に十分利用できることが確認できた。
著者
尾上 清利
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

松山市西部の掘江海水浴場に流入している明神川は上流にある缶詰工場などの汚水で、河川は汚濁し、地域住民は悪臭に悩まされている。昨年愛媛県ではその苦情により「木炭による水質浄化」を行い、河川下流に木炭7.5トンの埋設を行った。しかし、木炭にヘドロが付着し匂いが増している。筆者は竹炭粉と有用微生物を混ぜ合わせた「微生物竹炭粉」を大量に作り、河川へ放流し「微生物竹炭粉」を用いた河川浄化を行う。地域ボランティアの「明神川を美しくする会」で有用微生物を、河川上流の護岸に愛媛県より了承を得た仮設建物の建築を行い、タンクを設置し米のとぎ汁と糖蜜で有用微生物の培養を行った。河川の水をポンプでくみ上げ微生物と混合し大量に培養した。このとき、秋から春にかけた低温時に微生物の繁殖が悪いので、太陽電池を用いて、培養液に適切な温度で保温し有用微生物を培養した。有用微生物の培養液500リットルを別のタンクに分け、それぞれのタンクの中に竹炭粉50kgを入れ、この竹炭粉が培養液タンク底に沈下するまで数週間放置した。この微生物竹炭粉の培養液を河川の上流より放流した。放流は月に2回程度雨上がりに実施した。この作業を繰り返すことで河川に溜まったヘドロは竹炭粉の多孔質を住処にした有用微生物により除去する。河川上流から中流にかけて河川に付着していたヘドロがはがれ、河川の透明度は良くなり悪臭も減ってきた。しかし、下流においては防潮堤があることで改善されなかった。「微生物竹炭粉」は河川の活性化には定期的に長期間投入することで有効であるがわっかった。なお、この実験の報告は「第3回みんなで地球・愛ワッショイ」豊田スタジアムのフォラムで発表を行った。
著者
海老 一郎
出版者
財団法人西成労働福祉センター
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

1.本研究では、「あいりん地域」の日雇労働市場の展開を中心として、労働市場の縮小が日雇労働者や職人層の労働・生活に与える影響を明らかにし、不安定就業層の生活保障政策において、雇用と福祉の交錯を視野に入れた施策のあり方を研究することが目的である。2.(1)リーマンショック以降の新規流入層の実態と従来の日雇労働者との相違点を明らかにするため、2008年に西成労働福祉センターが実施した「あいりん地域日雇労働者調査」のデータ再集計と分析を行った。(2)「あいりん地域」の日雇労働者を雇用する事業所の求人動向や雇用実態をとおして、1998年から2011年まで西成労働福祉センターで実施している「建設業作業員宿舎調査」の分析を行った。(3)不安定就労層(稼働層)の生活保障政策のあり方を明らかにするため生活保護受給者や労働災害被災者の就労支援策を展開している釧路市役所や宮崎県建設農林事業団への現地聞き取り調査を実施した。(4)建設労働や失業・貧困、社会的排除、ホームレス、生活保護(就労支援)に関する先行研究成果のレビューを行ない、学内外の研究会等で先行研究レビュー報告や意見交換を行った。3.(1)リーマンショック以降の新規流入層は、若年化しており、建設日雇に従事する労働者の就労経路の不明確化や社会保障の欠如が顕著となってきている。(2)90年代以降建設作業員宿舎に入る労働者の減少が続き、現場入場の手続きの厳格化(身元確認・健康管理・年齢制限など)が進み、雇用を抑制する事業所が増加している(3)就労支援プログラムでは労働条件の低位性や社会保障の欠如はあるが、当事者の社会的自立(適応)を促進するシステムが確立している。(4)本研究課題の成果をまとめて、2012年度に修士論文を執筆する。
著者
渡會 兼也
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は高校物理の実験にハイスピードカメラ(以下、HSカメラと略す)を利用し、生徒が『観察』と同時に『測定』を行う教材の開発を目的としている。CASIOのデジタルHSカメラは1秒間に最大1000コマの動画撮影が可能である。現象を撮影しておけば、ゆっくり・何度も観察できるだけでなく、コマ送りによる位置測定も可能となる。HSカメラによる位置測定は映像から直接データを取得できるため導入が容易であり、本研究が今後のICT普及に重要な役割を果たす可能性がある。本研究では生徒が実験でHSカメラを使うことを主眼に置き、その様子や実験精度を調べた。生徒実験のテーマは①「物体の自由落下による重力加速度の測定」と②「力学台車の衝突による運動量の保存」の2つを設定した。①については、記録タイマーを使った班(6班)とHSカメラを使った班(2班)との実験を比較した。結果、記録タイマーの班の重力加速度は平均が8.06m/s^2であるのに対し、HSカメラの班の平均は8.70m/s^2になった。これはHSカメラの場合はテープと記録タイマーの摩擦を考慮しなくてよいため、精度が向上したと考えられる。②については、すべての班(10班)でHSカメラを使い、衝突における運動量の保存を確認した。実験は10%以下の精度で運動量の保存を確認できた班もあれば、比較的大きな誤差(20%~30%)を出した班もあった(割合は半々)。これは実験の最初に解析方法や誤差評価について生徒に周知が不十分であったことが一因であると考えている。解析の手法やその周知は今後の課題である。生徒の感想には、本研究のねらい通り「測定が簡単にできる」「何度もくり返し観察と測定ができる」等が多く挙げられた。一方で、「4~5人の班ではカメラの液晶画面が小さい」「視差による誤差評価が難しい」などの意見もあった。今後、視差による誤差が無視できる条件の提示等(例えば、物体のサイズを小さくする)も考える必要がある。現在は生徒実験による反省を元に実験の手順等を学会誌にまとめている。
著者
淀川 雅夫
出版者
岐阜大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

情報教育が盛んに行われ、他の教科や総合的な学習の時間でも積極的に活用されている中、技術・家庭科としての特色を明確にしていく必要がある。現行の学習指導要領において技術分野は2つの領域で構成されており、情報教育を担う「B情報とコンピュータ」では、ソフトウェアの活用を中心とした操作方法の知識・技能の習得や機器の使い方の確認が学習の中心となりがちである。「B情報とコンピュータ」の発展的学習内容の中に、(6)プログラムと計測・制御があるが、これからの技術・家庭科の授業を考えた場合、「A技術とものづくり」との融合が進められていることもあり、この内容を選択していくことが益々重要なのではないかと考えた。本校では「創造的に学ぶ生徒の育成」を研究テーマに掲げており、自立型ロボットの製作と制御を通して、生徒の学習意欲を喚起し、創造力を育成するための授業について、教材と指導方法からアプローチを試み、追究してきた。制御基盤、ギヤボックスなど基本となる部品は指定して与えるものの、ロボットにどんな目的で、どんな動きをさせるかの自由度は生徒に与え設計を試みた。そして、仲間との議論を重ねていく中で、グループに1台のロボットを製作した。生徒はロボットそのものに魅力を感じたようであるが、作る難しさも味わい、お互いにアイデアを交流していく中で、自分の考えたような動きを持たせていくことに喜びも感じることができた。また、他グループの製作の様子をビデオ撮影し、それを示していくことで、お互いの製作の刺激とした。その後、できあがったロボットを、フリーソフトで制御した。願う動きをさせるために、どのようにプログラミングを試みたらよいかを考えさせ、効率のよさ、簡潔で明解であることを求めて、学習に取り組ませた。今回の試みにより、ロボットを製作すること、制御することに対して学習意欲を喚起することはできたが、その過程における困難に対して、十分なサポートをしていかなければ意欲の減退につながるため、サポートのあり方について、今後、考えていきたい。
著者
竹内 和雄
出版者
寝屋川市教育委員会
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では、小中高等学校において、携帯電話の知識が豊富でない教員でも活用できる教材開発を中心に行った。教材開発にあたり、教材化について教職員、児童生徒、保護者、弁護士等を対象に実態調査(アンケート、インタビュー)を行い、多くの小中高等学校で活用できる教材を開発し汎用性を高めることを目指した。(1)「道徳、特別活動等授業教材」生徒自身が台本を考え出演した「ケータイお助けビデオ」(載せていいの、プロフィール??)を作成した。本作は、小中学生の利用が多いプロフィールサイトの危険について、生徒目線から解説した物である。「寝屋川市ケータイ・ネット問題対策会議」中心に作成したが、小中高等学校の授業、朝礼等で広く、活用されている。(2)「保護者啓発資料作成」保護者へのわかりやすい資料作成を行った。寝屋川市内の全小中学生の保護者に配付しただけでなく、全国各地で利用されている。フィルタリングの必要性、携帯電話依存に陥らないための工夫等をわかりやすく解説している。(3)「DVD教材(ネットいじめ撲滅劇)」寝屋川市中学生サミットで、生徒の意見でネットいじめ撲滅劇を作成して,編集してDVD化した。市内の中学生から、ネットいじめについての実例を募集し、生徒自身でストーリーを考えた。劇は、日本ピア・サポート学会研究大会(奈良教育大学)で上演し、全国の教職員、研究者対象に上演したが、好評であった。以上のように、小中高校生の携帯電話使用についての授業や保護者啓発に活用できる様々な資料を作成することができた。研究成果は、一部ネット上で全国に公開しているので、調査協力校等だけでなく、広く活用されている。特に「ネットいじめ撲滅劇」については、文部科学時報に取り上げられたり、文部科学省フォーラムで取り組み紹介を筆者自身がしたりするなど、反響が大きかった。
著者
手嶋 無限
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

臨床では複数の点眼薬を併用する場合が多いにも関わらず、点眼薬併用時の眼組織膜への障害性に関する系統的な研究は少なく、安全性についての合理的な情報はほとんどない。そのため、臨床における市販点眼薬使用時の角膜障害性を予測・評価することに加え、点眼薬併用時の眼組織への障害性を低減できる処方・製剤設計の検討は重要である。本研究では、ヒトの涙のターンオーバーを再現した系として、電気生理学的実験法を考案し、角膜電気抵抗値を指標として、臨床での点眼薬適用時の各種成分をスクリーニングした。臨床において、緑内障は、長期の点眼治療が必要となる場合が多く、安全に使用していくことは重要となる。そこで、本研究では、抗緑内障点眼薬を用いて、原因となる物質の同定やtight junctionを中心とした作用機構を調べた。その結果、保存剤であるベンザルコニウム塩酸塩(benzalkonium chloride;BAC)濃度が角膜電気抵抗値に大きく影響し、低濃度の場合には主成分の種類にも影響されることを明らかにした。また、2種類の抗緑内障点眼薬を併用する場合、点眼順序を考慮することで、角膜障害を低減できることが示唆された。さらに、角膜保護点眼薬(精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム点眼液)を先行して使用することで、抗緑内障点眼薬による角膜障害が改善できることが確認された。本研究は、臨床と基礎研究を結ぶリサーチであり、点眼剤を併用する場合、点眼順序や角膜保護点眼薬の併用が、有害事象低減に有用な処方・製剤設計に繋がることを示唆しており、今後より詳細な検討は必要ではあるものの、重要な知見を得ることができた。`
著者
立石 友二
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究の目的身近にあって、比較的分かりやすいと思われている音について、中学校での音に対する理解度が低いという調査もあり「音や振動」関心興味を持たせる工夫として、小学生高学年・中学生を対象に音の出る装置を自作し、音の実験から科学の楽しさを学ぶ試みを提案する。○研究方法太さの異なる導線を用意し、巻数や直径の異なるコイルを作成し抵抗やインピーダンスの測定を行った。材質や形状の異なる磁石の表面磁束密度分布の測定を行った。振動板として、身近にあるペットボトル、空き缶、段ボールなどを用い、スピーカーの試作を行った。試作したスピーカーの音の測定を行った。可視化として、試作品に砂や砂鉄を載せ振動する様子を観察した。体験として、小学生高学年を対象とした、公開講座を実施した。○研究成果磁石とコイルの位置関係では、磁石から2mm程度離れたコイルを使用した場合や厚さ方向に浮かせる事で、音が数dB大きくなった。コイルでは、巻数を多くすると導線の長さが長くなり、インピーダンスも増え音が大きくなった。コイルの巻数を同じにして導線を細くした場合、インピーダンスが変化し、音が数dB大きくなった。振動板として、ペットボトル、空き缶、段ボール、お弁当食品トレーなどが利用できた。ラジオの種類によりイヤホン端子の出力インピーダンスが違うため、アウトプットトランスを用いることで音を数dB大きくすることができた。小学生高学年を対象とした体験では、アンケート結果から、自作のスピーカーが簡単に作れた事、自作スピーカーから音が聞こえた事、スピーカー作りを通していろいろなことを知る事ができたなど、音の出る仕組みについて興味を持たせる試みができた。
著者
今井 清利
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

研究目的:長崎県内で難病や重度障害により四肢麻痺となり、自立した生活が困難となっている人々のために病院・施設や患者さん宅を訪問し、コンピュータやメカトロニクス技術を応用して意思伝達装置や環境制御装置等の自立を支援する装置を製作、障害者の方々が日々積極的に活動を行えるようQOL向上を支援する生活支援用具を提供する。研究成果1、脳性マヒ患者の依頼により、車イスに取り付けた車イステーブル上で操作できるDSIコントローラーを製作し、提供した。本操作装置は車イステーブルの上にマジックテープで固定され、サーボモーター部(PICマイコン基板を収納)とコントローラー部からなる。サーボモーター部とDSIの電源を入れ、コントローラー部のジョイスティックで十字キーの左右、上下を選択し、AB、XYボタンでゲームを進行する。2、脳性マヒ患者のために、電動車イスに装着したジョイスティックで机上のパソコンを操作する赤外線操作装置を製作し提供した。外出時にノートパソコンを操作するために、電動車イスに取り付けたジョイスティック傾き検出装置とマウスの機能の押しボタンスイッチの情報を赤外線通信を用いて、ノートパソコンに接続しているジョイスティック用基板に送信して使用する。3、重度障害者のために、圧力センサーで操作できる意思伝達装置を製作し提供した。ALSで健常者のように話すことができなくなった方のために、コミュニケーションを支援する圧力センサーを用いた意思伝達装置を製作・提供した。使用者の現状DSIコントローラーは、「今まで、この装置を使っていて分かったことは、ボタンを連打しない限り、一日三時間は、確実に使えるという事です。」と、報告がありました。赤外線操作装置は、メンテナンスを行いながら現在使用中です。圧力センサー操作装置は、現在、重度障害者の方々に幅広く利用されております。今回の研究実績は平成22年度熊本大学総合技術研究会で報告しました。