著者
大羽 沢子
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

【目的】我々は、dyscalculiaリスク児をスクリーニングするためのコホート研究を実施しており、これまでに新しく開発した数的基礎力検査が、2年生学年末でのdyscalculiaリスク児を効果的に予測することを報告してきた。今回は、数的基礎力テストによって算数困難が予測される児童を早期発見し、数的基礎力の3つの領域を指導する(RTI ; Response to Intervention)介入を行い、その効果を検討することを目的とした。【方法】1年生2学期に数的基礎力検査後、カットオフ値以下の児童について学校ですでに設定されている計算習熟の為の時間(1回15分程度)を使用した介入指導を行い、3学期に再度数的基礎力検査を行う。また、1年生2月に実施される算数学力テストと数的基礎力検査との関連を検討した。【結果】介入指導として、数系列と量に関するトレーニングアプリを開発し、導入した。インフルエンザの流行と学校行事との関連で、アプリによる練習回数を目標まで達することができなかったものの、アプリによるトレーニングの内容、使い勝手や、参加意欲などについては、好意的は評価や改善点についての意見を得ることができた。また、数的基礎力検査についての事前事後評価に有意な差はなかった。【考察】本研究では、数的基礎力検査によりdyscalculiaリスク児をスクリーニングし、トレーニングアプリを使用した介入指導を実施することができた。しかしながら、介入時期が年末、年始にかかってしまったことや、インフルエンザの流行により、当該児童の練習回数が十分とれなかったため、介入の成果を十分に検証することができなかった。これまでの研究によると、1年生の学力テストが下位20%である場合で、数的基礎力検査が30点未満であると、2年生で下位20%となる可能性が91%と高いことが示されている。このため、介入時期については、1年生学力テスト終了後の1月中旬以降3月までが適切であり、数的基礎力検査から介入・効果測定に至るまでの実施時期について詳細な検討が必要であることが示唆された。また、トレーニングアプリについても、数的事実の課題を入れるなどの改良が必要であることも分かった。
著者
沼田 法子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

【背景と目的】神経性やせ症(以下AN)は、体重や体型に対する強いこだわりを持ち、進行する低体重の重大な危険性の認識が十分でないことや、体型に人としての価値が直接影響されると感じ、他の価値観を認識したり変換したりすることができないこと等の認知的特性がしばしば観察される。一方で、これらの認知的特性は、自閉症スペクトラム障害(以下ASD)における対人関係、社会性の障害、パターン化した行動や興味といった特徴と類似しており(Zucker etal., 2007)、ANの18%がASDを併存していることが報告されている(Billstedt et al., 2000)。摂食障害(ED)は、神経性やせ症(AN)、神経性過食症(BN)、過食性障害(BED)のサブタイプに大別されているが、各々の症状は多様で重複したり、長期化により同一個体でサブタイプが相互に移行したりする(Fairburn and Harrison., 2003)。従って、上記のような認知的特性の強さが病態理解の上で重要となる。これらを踏まえ、ANにおけるASD傾向の有無およびANの重症度とASD傾向との関連を調査し、重症化に関連する要因としてANにおけるASD傾向を評価・検討することを目的とした。【方法】摂食障害と診断された15-45歳の女性43名における①自己記入式質問紙「自閉症スペクトラム指標(AQ)」と「Eating Disorder Examination Questionnaire(EDE-Q)」における相関関係を数量的に判定した。さらに、②自己誘発嘔吐の有り(n=31)と無しの2群(n=12)に分け、AQスコアの差を検定した。最後に、③それぞれの群におけるAQとEDE-Qの相関関係を判定した。【結果】①全患者におけるAQとEDE-Qスコアに相関関係は認められなかった(r=-.057 ; p=0.716)。②自己誘発嘔吐なし群は、あり群に比べて、AQスコアが有位に高かった(p=0.007)。③自己誘発嘔吐あり群となし群のEDE-Qとの相関はそれぞれ(r=-.051 ; p=0.786)と(r=.58 ; p=0.05)であった。結論として、AN制限型やBEDなどの非排出型の摂食障害は、AQスコアが高い傾向があり、重症度との正の相関があった。BEDの80%が過去AN制限型からの移行型であり、AN制限型は、時間的経過を経ても排出型に移行しづらく、ASD傾向が高いことが示唆された。
著者
阿部 慶子
出版者
一関工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

コーヒーは,我々に「癒し」や「ひらめき」を与えてくれるとされる日本人にとってもはや一般的になった嗜好品である.さらに,生理的星医学的にも見直され,近年ますますその効果の研究が盛んになっている.毎日の生活の中で取り入れられている嗜好品として,コーヒーはその香味や新鮮な風味を維持しているかがしばしば問われることになるが,コーヒーが飲料の形になるまでは,生産国から輸入した生豆の状態から,選別・焙煎を経て,さらに粉砕という過程を経る.とくに,この時に発生する摩擦熱により,香味や風味が損なわれるとされていることから,本研究では,家庭用の手挽きコーヒーミルでどれほどの熱が発生し,美味しさや成分にどのような影響があるのかを解明することを目的とした.本研究では,新鮮な焙煎豆をグラインドし,その時に発生する粉砕熱を熱電対により測定したコーヒーミルにはカリタKH-3を使用し,粒度のサンプルをとった.次に,実験装置の構築のために3D-CADでミルをトレースした.なお,コーヒーメーカーにより抽出したコーヒー飲料に含まれるクロロゲン酸成分を,高速液体クロマトグラフィーを用いて測定することを予定していたが,装置の都合により,粉砕熱を測定するところまでを実施した.測定の結果,2人分のコーヒー豆26gを,特に意識しないスピードで粉砕する際に,ミルの粉砕物が堆積する底部において5℃程度の温度上昇が確認できた.なお,本研究は国内の企業から研究協力をいただき,コーヒー起源伝説に関しての研究へと繋げることができた.その研究においては,コーヒー果実にもカフェインが含まれていることが明らかになり,コーヒー果実を煮出した液体と果実を搾った液体に含まれているカフェイン量をそれぞれ調べた結果,含有量はコーヒー飲料には及ばないものの,人体に覚醒効果をもたらすことができる十分な量と推測できた.(782字)
著者
中村 貴子
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】ANKK1はSerine, threonine kinase domainを持ちDRD2遺伝子に作用し特にANKK1-rs4938012はアルコール他の依存症と関連する有力なSNPであるとの報告がある。日本においてもアルコールや薬物耐性および依存症(麻薬およびCaffeine)は大きな社会問題になっているがまだその研究は多くない。ANKK1周辺遺伝子は多くの塩基置換部位を持ち総合的ハプロタイプ解析を行う必要がある。今回は各疾患群とのCase control研究を行うとともに人種による遺伝子頻度の差異についてSSCP法とTaqMan法を用い分析を行った。【試料】日本、中国、モンゴル、ミャンマー、南米コロンビア、アメリカ、フランス、アイボリーコースト、カメルーンの一般集団DNAおよび国立久里浜アルコール研究所より提供のアルコール依存症患者DNA、筑波大学麻酔科より提供されたDNA(サンプルは筑波大学倫理委員会承認済み)【方法】ALFexpressを使用したSSCP法およびABI-7500 RT-PCR機を使用したSNP解析法【結果】1.ANKK1, Exon1, Exon2を中心とした領域:rs4938012,含む6箇所の塩基置換部位をSSCP法で分析しハプロタイプ解析を行ったこれらの領域においてそれぞれの人種に特徴的なハプロタイプを検出した。アメリカの論文にてアルコール依存症をはじめとする各種依存体質と強い相関を持つとされる塩基置換箇所はこの研究においてアフリカ黒人のサンプルに多くみられることがわかった。日本人コントロールとアルコール症患者との間には有意差は認められなかったことからアメリカにおける依存症患者の人種の問題を含んでいるかまたは別の領域による差異の可能性も示された。2.ANKK1, Exon5~Exon8 : rs1800497はこれまで多くの精神疾患との関連遺伝子と指摘されてきたがまた反証の見解も多い。今回は今までのSSCP解析とともに初めてABI社のTaqMan Probeを使ったSNP解析を行いその精度を比較検証した。両者はそのSNP領域近傍の別のSNPの有無により使い分ける必要がある。今回アルコール依存症群と一般群との間に5%以下の有意差が認められた。Exon6のrs4938016の一般とアルコール症群において遺伝子頻度では有意差は認められないがアルコール症はヘテロが多く遺伝子タイプでは1%以下の有意差があった。ANKK1の5'末端のPromoter領域にはCpGアイランドが存在する。このことと今までの結果からPromoter領域の発現抑制が関与することも考えられ、現在その領域のメチル化Primerをこの研究費により作製しDNAのバイサルファイト処理を行いメチル化解析を進めている。
著者
樋口 綾香
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

学校図書館を広く活用し、児童の読解力・表現力を向上させることのできる授業を研究するにあたり、児童の主体性を引き出すことのできる「ブックトーク」「ビブリオバトル」「ライティングワークショップ」という3つの読書活のカリキュラム化の有効性と可能性について研究したものである。1. 研究の概要(1) 「ブックトーク」「ビブリオバトル」小学生の各学年の発達段階においてどのように取り組ませることが有効かを検討するため、教材文を学習する前や後に2つの活動を取り入れた。発達段階における適切な指導法、ルール設定などを児童のワークシートや対話から考察する。(2) 「ライティングワークショップ」書くことへの苦手意識を取り除き、楽しんで書くことを継続できるように年間を通して「ライティングワークショップ」に取り組ませる。児童のアンケート調査からカリキュラム化の可能性を探る。2. 研究の結果(1) 「ブックトーク」「ビブリオバトル」教材を学習したあとに取り組む場合は、授業で獲得した知識を活用し主体的に活動に取り組むことができた。教材を読む前の場合は、例えば「やまなし」を学習する前に、宮沢賢治の本のブックトークをした6年生では「やまなし」を読んだときに「あの作品と似ているところがある」や「賢治が伝えたいことは変わっていない」など、作品と作品を結び付けて考える力がついていた。さらに、よい本と巡り合えないと、よいブックトークやビブリオバトルができないことから、多くの本に出会おうとする児童の姿が見られた。(2) 「ライティングワークショップ」3年生、4年生、6年生で実践を行った結果、すべての児童が一人一冊本を発行することができた。原稿用紙を絵本型・文庫型・幼年童話型など工夫することで、どの子も進んで書くことができていた。また、書いた作品を教室の後ろに並べることで、作者と読者が本を介してコミュニケーションをとる姿も見られた。
著者
久保 憲昭
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

【目的】遺伝子組換えマウスのほとんどがバリア区域以外で自家繁殖により系統維持されているため、免疫関連遺伝子の組換えマウスを中心に、ネズミ盲腸蟯虫の発生がたびたび見られるようになった。ネズミ盲腸蟯虫の駆虫方法について少なからず報告があり、駆虫薬による駆虫方法がほぼ確立されているが、ほとんどの場合、再発を繰り返しているのが現状である。簡便な駆虫方法としてイベルメクチン10倍希釈液の噴霧法が一般的であるが、副作用の報告が少なからずあるので、投与濃度の検討を行ってより安全で効果的な駆虫方法を探るために実験を行った。【方法】AKRマウスを購入後、ネズミ盲腸蟯虫感染マウスを1週間飼育した床敷き内で飼育、感染させた。実験用マウスの肛門周囲から粘着テープ法による検査で蟯虫卵が確認されたマウス(3匹/ケージ)に対して、駆虫薬(イベルメクチン)を水で10倍~100倍に希釈してハンドスプレーでケージ内に噴霧(1ml)した。この操作を1回/週、ケージ交換直後に3回行った。対照群として水のみを噴霧したマウスと効果を比較した。駆虫の効果を見るために、2回/週、4週間に渡り粘着テープ法にて検査を行った。また、1ヶ月目に剖検にて腸管内の成虫を確認した。【結果及び考察】今回の実験では、イベルメクチンの10倍、20倍、30倍、40倍希釈液投与群で完全に駆虫することができた。50倍希釈液については、粘着テープ法ではほとんど検出することができなかったため効果があるように思えたが、剖検で腸管内から成虫が検出された。60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、水(Control)は、粘着テープ法でほぼ毎回蟯虫卵が検出され、剖検でも腸管内から成虫が検出された。この結果から、ネズミ盲腸蟯虫は、イベルメクチン40倍希釈液を1回/週、3回行うことで駆虫できることが示唆された。また、希釈倍率が上がり薬剤の投与量が減ったことから、副作用も減少するものと推測される。
著者
赤嶺 由美子
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は,UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)1A4の遺伝子多型がラモトリギン体内動態に与える影響を明らかにし,副作用発現予測を可能とすることを目標に,以下を遂行した。はじめに,本研究ではラモトリギン服用患者を対象として,本剤と主代謝物であるN2-グルクロン酸抱合体の体内動態解析を行うため,その体内動態同時測定法の開発を行った。臨床現場でよりルーチン業務に適した高速液体クロマトグラフィーを使用し,高感度に検出を行うために最適な分析カラム,使用溶媒を決定した。また,短時間での作業を可能とするため,血漿からの抽出方法はフィルトレーションシステムを利用した直接ろ過法とカラムスイッチングを組み合わせる方法とした。これにより,迅速,簡便,かつ高感度にラモトリギンと主代謝物の同時測定を行うことが可能となった。次に,琉球大学医学部附属病院薬剤部所有の全自動遺伝子解析機器を用いて,UGT1A4の遺伝子変異検出系の構築を行った。Qprobe法を用いて,酵素活性低下を示すと考えられている142T>G変異を有するUGT1A4*3の検出系を確立した。現在,これら測定法・遺伝子変異検出系を使用して,被験者のラモトリギン体内動態をUGT1A4遺伝子多型別に比較し,副作用発現との関係を解析中である。また,本研究の成果は今年度(平成24年度)の第22回臨床精神薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会においてポスター発表する予定である。さらに,英文原著論文投稿に向けても現在準備中である。
著者
立入 直紀
出版者
宮城県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

近年若者を中心に急速に広がりをみせている大麻濃縮物は、従来の大麻よりもΔ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)の含有量が多く、さらにΔ8-THCの含有も確認されている。これらの含有量を明らかにすることは、今後予想される様々な人体への影響、違法な流通ルートを把握するため重要となる。従来のクロマトグラフによる定量では、純度既知の標準品や検量線が必要なため操作が煩雑であったが、本研究では、標準品や検量線の必要がなく純度分析に適した核磁気共鳴装置を大麻濃縮物中のΔ9-THC及びΔ8-THCの定量に適用し、迅速かつ正確な定量法の開発を目指す。
著者
原田 亜紀子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

<研究目的>本研究は若者の主体形成を促す地域連携カリキュラムとしての主権者教育の構築に当たり、市民の政策決定過程への参加が先進的なデンマークの地方自治体のユースカウンシル(Youth Council : 以下YC)の活動に着目した。前年度の研究において、3つの事例の比較により、デンマーク第二の都市オーフス市のYCは学校と地域が連携するカリキュラムモデルとして最も可能性が示唆された。しかしその実態は不明であったため、本研究ではオーフス市内のYCの下位組織、上位組織、さらに教師とYCの連携構造や、そこで実現されるメンバーの政治的主体形成の過程を明らかにすることを目的とした。<研究の方法>オーフス市は、4地域に区分される。区分された地区での各YCの下位組織の職員とメンバー、下位組織から代表として選出されたオーフス市全体のYCのメンバー、そして職員へのインタビューと、会議の参与観察を行った。データは、デンマークの政治学者Bangの「新しい政治的アイデンティティ」の概念と、北欧閣僚理事会が提示した「‘参加’の過程」を参照して分析された。<本研究の成果>本研究で明らかになったのは以下の3点である。(1)地方議会、行政、学校、若者団体の連携による、メンバーの勧誘や選挙への参加、YCの意見形成や議論の場、政策提言の実現の仕組みの組織化。(2)代表制の確保のため移民地区に独立した議席を設け、またYCの下位組織を設置することで、エリート主義的な参加ではなく、自由でアドホックな参加を受容。(3)参加に必要な情報を得るルートや大人の支援が多層的に存在。こうした活動は学校教育・社会教育の枠を超えた「民主主義の学校」とも言え、学校は、メンバーのリクルートや選挙、会議への参加のための学校欠席の承認、といった形でYCと協働していた。オーフス市の事例からは、地方自治への参加と中等教育段階の学校をつなぐことにより、生徒が「実践し」「影響力を行使する」主権者教育の構築が示唆される。
著者
岩渕 真奈美
出版者
公益財団法人キープ協会
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ヤマネは平均体重18gの小型哺乳類。日本固有種で国の天然記念物に指定されており、平成24年度までは環境省レッドデータリストにて準絶滅危惧種に位置付けられていた希少種でもある。主に森林内の樹上に棲息し花や漿果、昆虫を中心に採食していることより、森林に対する依存度が高い種の1つだと考える。しかしその生態に関してはまだ十分明らかにはなっていない。特に、非活動期の特徴である冬眠に関しては、飼育下での研究報告はあるが自然条件下での情報は少ない。小型哺乳類の越冬は生死に直結する重要課題であるため、本研究は特に冬眠に焦点を当てて調査した。その方法として、活動期と非活動期の生息環境の比較を行うべく、許可を得て一時捕獲をしたヤマネに発信機を装着し、活動期と冬眠期における環境選択の様相を比較した。また森林内の複数地点にて環境温度との関連についても検証を試みた結果、活動期は主に樹上にいるのに対し、冬眠時は地表面近くの地中にいた。様々な森林内環境温度の計測結果より、林内の大半は気温の日格差が高いのに対し、浅い地中は0℃付近で終日安定していた。冬眠期のヤマネは温度差の激しい樹洞ではなく温度が安定する地中を選択的に利用していると考えられる。一方、脂肪蓄積型冬眠を行うヤマネにとって、冬眠前の貯蔵エネルギー確保は最重要課題であると考える。この課題をクリアすべく、嗜好性が高くて栄養組成の把握が可能なヤマネ向け人工飼料の開発について試行した。結果ヤマネは甘味と湿り気に対する嗜好性が高い傾向がみられた。しかし栄養試験に耐えうる乾燥飼料に関しては今後更なる検証を必要とする。これらの研究結果は例数が少なく、まだ傾向を示したに過ぎないが、今後更に研究結果を積み重ねることにより、ヤマネ単体だけでなく、餌資源や住環境などヤマネを中心とした森林内全体の生物多様性を維持・保護していくことができると考えている。
著者
西影 裕一
出版者
兵庫県姫路市立前之庄小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

未曾有の被害をもたらした兵庫県南部地震・東北地方太平洋沖地震により、国民は地震に対して関心が高くなった。兵庫県では活断層としてよく知られている「山崎断層帯」が存在する。この断層帯は兵庫県南部地震を起こした野島断層と共役断層である。マグニチュード7(以下、M)の地震を868年に起こしてから1,145年経っており、東海・東南海・南海地震に誘発され大地震を引き起こすのではないかと心配されている。しかし、ほとんどの県民は山崎断層帯という言葉は知っていても実物は見たことがない。学校教育では小中学校とも理科の地質単元に地震について学習する項目がある。そのため、地域に存在するこの活断層について学校教育面からも社会教育面からもその実態を科学的な見地から知らせることは大切である。そこで、本研究では山崎断層帯を調査し、山崎断層帯はどこに行けば実物を観察できるのかという案内書を作成した。私は山崎断層帯を調査しだしてから33年が経つ。地表に出ている断層を「断層露頭」というが、約110箇所の断層露頭を発見した。また、収集した約1,700本のボーリングデータを基に姫路平野の標高・岩盤の深さ・砂層の厚さ等からM7の地震が起こればどのような災害が起こるかを調べた。これらの成果を調査報告書としてまとめ、市内の学校・教育機関・県及び各市町の防災担当者・大学及び自然計博物館・マスコミ等に送付したところ、問い合わせがあり、県民の防災に対する危機意識の高さに驚いている。本研究は、防災啓発資料として役立つことができ、防災に活かせるものと確信している。
著者
志摩 典明
出版者
大阪府警察本部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

睡眠薬は、強姦等の性犯罪・殺人等で悪用されることが多く、被害者を対象とした睡眠薬分析が、犯罪立件への強固な客観的証拠となる。特に、このような事案の鑑定においては、睡眠薬の検出に加えて、摂取時期や摂取量の特定が重要となる。本研究では、「薬物摂取量」の推定法について検証した。その結果、「薬物摂取量」と「頭皮近接部位から取り込まれた薬物量」は良好な比例関係を示しており、概ねの薬物摂取量を推定できることが示された。
著者
阿部 茂樹
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

研究目的 : ディジタルシステムの制御回路設計や演算アルゴリズムを短時間で実習する環境を提供することを目的とし、プログラマブルデバイスの一つであるFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いた実習システムを構築した。その例として種々のソーティングアルゴリズムをハードウェア記述言語を用いてプログラミングし、それを可視化するための表示回路を製作し、その動作確認を行った。研究実施計画 :1. 論理回路の基礎である種々の演算アルゴリズムに対しハードウェア記述言語を用いて回路記述を行い、2進数で与えられた入力の値を7Seg-LEDに10進数で表示させる2つの変換アルゴリズムについて演算速度、回路面積等の評価をする。2. ソーティングアルゴリズムを例として、簡単なアルゴリズムであるバブルソート、選択ソート、挿入ソート、高速なアルゴリズムであるクイックソート、ヒープソート、マージソートなど種々のアルゴリズムをプログラマブルデバイスで実現し性能比較をするとともに処理ステップ毎に可視化できるようなハードウェア構成とする。また、特徴などを解説できる資料の作成を行う。研究結果 :1. 2進数で与えられた値を10進数に変換する方法として、一般的に考えられる減算法と高速な計算ができるシフト演算法の2つについてプログラミングし、FPGAで動作させることによって演算速度の違いを体感できるシステムを構築することができた。また、論理シミュレーションによって2つのアルゴリズムの動作速度やハードウェアの使用面積などを評価でき、短時間で効果的な実習を可能とすることができた。2. 種々のソーティングアルゴリズムについてプログラミングし、論理シミュレーションによって演算終了までの演算速度の比較を行うことができるとともに、演算過程および3段階前までの演算履歴を可視化できるシステムを製作し、アルゴリズムだけでなく表示システムの制御と併せて学習できる実習環境を提供することができるシステムを構築できた。
著者
小村 典央
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

連歌は、短歌を五・七・五と七・七とに分け、前の句と関連性や連想性をもたせながらも世界観を展開させるよう付句を繰り返して百句(百韻)、四十四句(世吉)などと詠みつなげる文芸である。情景や思いを乗せる言葉を自分の好きに使える短歌とは異なり、課題が設定される場所や、続けて詠んではいけない素材などといった規則(式目)が定められているため、使う言葉に制限がかかるため、語彙力が大いに試される。前に出た句をよく吟味し、先に決められた課題に向けて世界観を合わせていくように使う言葉を選ばなければならない。規則を確認し合い、規定の数まで句を詠み続ける協働作業によって、詠みつなげる楽しさの中で主体的な学びの力を育むとともに、言葉の力と豊かさやコミュニケーション力も培うことができると考え、教材開発と授業実践を試みた。授業実践では、連歌についての基本的事項の学習・鑑賞から始め、連歌会(連歌の創作)では5人1座のグループを編成して、連歌(十二調)を巻かせた。その後、巻き上げた他の座の連歌作品を相互に鑑賞・評価させるとともに、自分の座の作品や、選ばれた自分の作品についても評価させた。また、授業内容についてもふりかえらせた。授業後、生徒の作品は平野区内の連歌グループや連歌の研究者に鑑賞してもらい、コメントをいただいた。また、そのいくつかは生徒に配付した。教材開発・授業実践の成果については、「大阪市立大学教育学会」や、「附属学校園教員と大学教員との研究交流会」で報告した。また、現職教員や大学生・大学院生などを対象とした「連歌授業のための指導者講習会」を2月に開催し、連歌授業の実効性についての意見を徴した。そして、年度末には連歌授業のサブテキスト「のりおさんと連歌にチャレンジ! 」を作成・発行した。
著者
孕石 泰孝
出版者
関西大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

本研究では, 「科学とは何か」「科学を学ぶ意味は何か」という科学との関わり, 科学との向き合い方を科学哲学を通して児童に注目させようとした。成果物として, 科学哲学の内容を扱う小学生向けのテキストの具体的な教材, 電子ブック『科学哲学入門』を作成した。本教材は, 抽象的な内容を扱ってはいるが, 小学生でも読みやすいよう, 対話形式で話を進めるように工夫されている。本ブックは, ブラッシュアップをかけ, 「Apple Books」より無償配信されている。
著者
居郷 哲央
出版者
岡山県警察本部刑事部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

リシンはトウゴマの種子から容易に精製可能なタンパク質性の毒素であり、バイオテロに用いられる可能性が最も高い毒素と言われている。リシンを合成するメッセンジャーRNA(mRNA)を指標とする逆転写リアルタイムPCR法によりリシンを識別する方法を開発するために、1)PCRプライマーの設計、2)RNA抽出・精製法の検討、3)増幅産物及び反応特異性の確認を行った。その結果、リシンRNAを識別するために適したRNA抽出・精製法を明らかにすることができ、設計したプライマーを用いることで、リシンmRNAを識別することが可能と考えられた。
著者
坂田 明子
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

● 研究目的リトドリン塩酸塩の添付文書には、新生児低血糖症が重要な基本的注意及び副作用として記載されているが、頻度などの詳細は不明である。そこで、リトドリン母体投与後の新生児低血糖症発現状況について調査し、リトドリン投与量・投与期間・投与中止後から分娩までの期間などとの関連性を検討した。● 研究方法母体にリトドリン持続点滴投与を受け投与中止後1週間以内に分娩となった新生児を対象とし、電子カルテを用いて調査を行った。児は正期産(37週以降)・後期早産(36週以降に限る)の正常新生児とし、出生時体重2000g未満の例は出生直後から点滴開始となるため対象から除外した。● 研究成果2013年8月~2016年7月の3年間で調査を行った。リトドリン投与群の新生児低血糖症発現率は61.5%、非投与群の低血糖症発現率は8.2%であり、母体リトドリン投与により新生児低血糖症の発現率が明らかに高くなった。リトドリン投与群の新生児低血糖症発現群における投与中止後から分娩までの期間は平均4.3時間(標準偏差7.61)、リトドリン投与群の低血糖症非発現群では平均37.7時間(標準偏差46.00)であり、有意な差が認められた。低血糖症発現群の67.2%が投与中止後から分娩まで3時間以内であった。リトドリン投与中止後から分娩までの期間が新生児低血糖症発現に関与していることから、計画的にリトドリン持続点滴投与を中止することにより新生児低血糖症を回避できる可能性を示唆した。また、リトドリン投与中止後から分娩までの期間により新生児低血糖症発現のリスクが予見でき、確実な予防対策を講じることができると考えられた。
著者
鈴木 信明 岩井 悠樹
出版者
愛知県警察本部刑事部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

国内で広く使用されており、ジェネリック医薬品を含め計16社から製造販売されている睡眠薬のエチゾラム錠を本研究の対象とし、全社のエチゾラム錠について、医薬品添加物を様々な分析手法で検出し、その配合から製薬会社を特定できるかについて検討した。その結果、14社を特定することができ、残る2社は共同開発のため、成分が全く同一で区別不能であることをつきとめた。次に、実証実験として、研究協力者がエチゾラム錠を無作為に選び、研究者がわからないように粉末化したもの及び粉末化して水に加えたものを用意した。これらを同様の分析手法で分析した結果、加えられた睡眠薬の製薬会社を特定することができた。
著者
小野 智史
出版者
香川大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

中学生の読解力(リーディングスキル)の現状を把握し, 中学校社会科における「リーディングスキルテスト(RST)作りに取り組んだ。公立中学校と附属中学校2校でサンプルデータを得, リーディングスキルの違いを数値で明らかにした。また, 本県の学習診断テスト社会科問題過去5年分(香川県進路指導研究部提供)の中から, 「イメージ同定」, 「具体例同定(辞書)」を分類し, 社会科特有の問題を分類, 整理した。そして社会科独自の読解力や思考力を問う問題を作成した。