著者
笠 一生
出版者
福岡県教育庁北筑後教育事務所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

筆者は、数学における対話の典型を数学の発展の過程の様相(Imre Lakatos 1980)の根源にあるヘーゲルの発見の論理学(テーゼ→アンチテーゼ→ジンテーゼ)である弁証法(礒田,1999)に学び、「ずれ」に始まる対話型問題解決の指導モデルと典型的な指導事例開発を行った(笠,2005)。「ずれ」を促す発問は発展的に数学を使う契機であり、対話を促す契機である。その「ずれ」を問題解決の指導に位置づけることで、生徒自ら表現し、数学を対話的に再構成しようとする姿勢が育つことも検証した(笠,2006)。他方で、ともすれば個人研究は、特定の学校の特定の先生であればできる職人技とみなされがちである。本研究では、それを誰もが取り組める事例づくりのマニュアルとして、実践研究者の立場から共同開発研究に取り組み、次のような成果をあげるに至った。研究実績1:事例の共同開発〔数学教育2007/4〜2008/3(連載「対話型問題解決の授業づくり」)〕〔数学教育2008/3(特集「対話を生かした発展的な問題解決授業」)〕研究実績2:対話を生かした発展的な問題解決授業づくりのポイント→『4つの学び直し』の場の設定(1)『既知の確認による学び直し』の場では、本時の学習内容につながる既知の知識の確認を行う。(2)『他と比較して自己の考えを知る学び直し』の場では、既知を活用した着想に疑問を持つ子どもへの発問を重視する。(3)『新しい立場をつくる学び直し』の場では、子どもが自らの思考過程や推論の根拠・意図を表現しえる発問を重視する。(4)『新しい理解を深める学び直し』の場では、学んだことを使う場を設定する。〔思考・判断・表現による『学び直し』を求める数学の授業改善〕出版予定
著者
斯波 隆晃
出版者
千葉県香取市立東大戸小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

《研究内容と方法》①シンガポールにおいて絵本の収集(8月)。②シンガポール市内の小学校等で授業を参観、同校付属図書館での観察・調査(8月)。③英語絵本の選択基準をもとに、サンプル用絵本を段階別に10冊程度選択。④英語絵本の読み聞かせのための「CAN-DOリスト」を地区の小学校教員に配布し、アンケートにより実施。⑤絵本型CAN-DOリストの作成(3月)。《研究の成果》・Oxford Reading Treeを中心に作成した一覧表には, あらすじ・繰り返しのある表現・活動例・活動に沿ったCAN-DOリストを示した。これらの絵本を使用した活動とその活動のCAN-DOリストを一覧表に付加したことで、教師が指導する際の見通しをもつことができ、授業に使用可能かどうかの判断や絵本を使ってどのような授業を組み立てたらよいかが明確になった。・小学校教員によるアンケート調査等では、Oxford Reading Treeでも、曜日や天気の言語材料を扱った日記形式の絵本やcanを繰り返し使った絵本の採用希望が多かった。児童へのアンケート調査では低学年に読み聞かせるための紙芝居を作成することは活動の目的がはっきりしており、さらに、繰り返しのある英語表現を発表していくため、発表終了後の達成感が得られることが明らかになった。・課題として、教員のアンケート調査では、書くことを盛り込んだカリキュラムについての要望があった。日記風の絵本をもとに紙芝居を作成していくとどうしても過去形の言語材料が多くなり, 今までの活動にはなじまない表現があるのではという考え方があった。また、書くことについては現段階では小学校での指導はなされていないものの、小学校3年生から習うローマ字を皮切りにどのような段階を経て書くことのカリキュラム作成を行うか、絵本型を軸として活動内容を検討する必要がある。
著者
齋藤 弘一
出版者
宮城県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

○研究目的脱法ドラッグ等のスクリーニング分析において、IR分析は、迅速、簡便であり、GC/MSやLC/MSによる分析結果に対して相補的な情報が得られ、構造異性体の識別等にも有効である。しかし、IR分析によるスクリーニングのためには、前提条件として、薬物標準品の実測スペクトルデータが必要であるが、それらを網羅的に得ることは必ずしも容易ではない。そこで本研究では、違法薬物の化学的構造から、量子化学計算により、赤外吸収スペクトルを予測し、予測されたスペクトルにより違法ドラッグのスクリーニングが実現可能である否かを検討した。○研究方法包括指定薬物の化学構造から、非経験的分子軌道法を用いて、種々の基底関数により構造最適化を行った後、振動解析計算により、IRスペクトルを予測した。予測されたスペクトルについて、標準品の実測データとの比較を行った。赤外吸収スペクトルの予測計算には、Gaussianを用いた。○研究成果置換基の位置がo, m, pの構造異性体であるJWH-250、JWH-302、JWH-201について、基底関数としてB3LYP/6-311G (d, p)を選択して計算を行った場合、予測されたIRスペクトルは、実測されたスペクトルの違いを反映していることが認められた。しかし、ピーク波数には、振動の非調和性等に由来する系統的なずれがあり、単一のスケーリング係数では、実測スペクトルとのずれを、完全に一致させることは出来なかった。量子化学計算で求められるのは、分子1個の孤立系の場合であり、実際の試料では塩酸塩等で結晶構造を有しており、孤立系では赤外不活性であった結合が、結晶状態では赤外活性となりピークが増える場合もある。従って、赤外スペクトルの予測は、試料が気体状態の場合に、実測により一致すると考えられ、今後は、GC-IR等のように、試料中の単一成分ごとに気体状態のIRスペクトルが測定できる分析方法が望ましいことが示唆された。また、スペクトル検索アルゴリズムも、波数のずれを考慮した新たな手法の開発が望まれる。
著者
西村 充司
出版者
和歌山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

平成20年度より生活科に,保護者参加による少人数・体験型カリキュラム『附属っ子ミュニケーション"和み"大作戦!』(通称『和みカリキュラム』)を開発,展開している。実践においては,茶道や華道に関する保護者の経験や専門性を生かすことで,担任だけでは実現できなかった日本の伝統文化にリンクする子どもたちの体験の場を広げることができた。そんな中,「校庭の草花を摘んでお花を生ける体験」では,自然そのものが教材となり,その特性や生活の場面を考える学びが生まれ,必要な分だけを摘んでお花飾りをするという,いわば自然への畏敬の念,また相手の心の和みを意識して工夫する子どもの姿が見られた。また,「日本の伝統文化・生活様式にふれる体験」では,普段の生活からは少し距離のあるおもてなし,手作り生活,花・茶道などの活動の継続により,子どもの意識の中では普段の生活との距離感が縮まり,家庭生活に活かす子どもの姿が見られた。さらには,「もっとおもてなしをしたい。」という,よい意味での『自己主張』『自己顕示』も芽生え,3学期には父兄や和みカリキュラムでお世話になった保護者の方々をお招きしてのお茶会を1・2年生全学級で開催することができ,子どもたち全員が自分で抹茶を点てることができた。できる自分を見てもらいたい・認めてもらいたい,そのために,おもてなしの対象に応じ,よりよいおもてなしの方法を主体的に考える,生活科としてのスキルを身につける学びの質の高まりも生まれた。これらは30人という少人数の学級規模だからこそ実現できたと実感している。もちろん結果として,日本の伝統文化への親しみと愛着が増し,子どもたちの日常生活の立ち居振る舞いにはこれまで以上の落ち着きを感じるし,挨拶や基本的な生活習慣・マナーの面においても向上が見られるようになった。
著者
福田 祐子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

申請者はこれまで、先行研究をもとに、農園部での労働は過酷で、労働・生活環境は近年改善されつつあるものの必ずしも良好とはいえないとの考察を得た。一方、ILOとSL統計局「こどもの活動調査票」(16000世帯60000人)25%のデータから、民族の違いによりこどもたちの労働や家事従事に違いがあるのか2次分析を行ったところ、少数民族のこどもの方が労働や家事に従事していると思われてきたが、比率的には多数民族シンハラ人のこどもの方が従事しており、その差は統計的に有意であった。しかし、労働しているこどもたちの労働時間をみたところ、少数民族のこどもの方が長時間、労働に従事していた。さらに、都市・農園・農村(小規模農家以外)・小規模農家の4セクターに分け、違いをみたところ、労働に従事しているこどもの比率は農村家庭のこどもが多かったが、労働しているこどもたちの中で、長時間労働に従事しているこどもの比率が高かったのは農園部であった。先行研究及び2次分析から明らかになったのは、労働や家事に従事しているこどもの状況は民族の違いだけでなく、居住地域と経営形態(プランテーション農園、小規模農家、その他の農村)の違いに影響を受けていることであった。また、民族という視点から「こどもの在籍状況」を2次分析したところ、SL全体では民族により違いがあるが、居住地域ごとでは都市以外の3地域では民族による違いがみられず、先行研究とは異なる知見が明らかとなった。上記の2次分析に加え、2014年7月及び12月にスリランカのデニヤヤ・モロワカ地域を訪問し、働き手にインタビューするとともに、村役場職員・保健婦・学校長も訪問し、インタビューを行った。
著者
松岡 瑞樹
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

(研究目的)現在日本での生食用トマト消費量は、過去15年間、ほぼ横這いであるが、国内の生食用トマト栽培面積がH10年と比較するとH25年には11%低下している。今後、栽培面積が低下し続ける傾向にあるので必要量を供給するために、単位面積当たりの生産量を向上させる技術を持つことが必要不可欠である。本研究ではトマトの低段密植栽培をする際に、鉄の直管を組み合わせた幅0.65m×長さ13.5mの高設ベンチに、雨樋(㈱タキロン製, 幅0.2m×長さ12.0m)を乗せ、培養液をポンプでくみ上げ循環させる方式による高生産性トマトの栽培研究を実施した。現状では、品種が麗容の場合、栽植密度を6000株/10aとした上で、3段栽培で年3作収穫した結果、25.4t/10aのトマト果実収量を得ることができた。しかし作型、品種、栽植密度の更なる改善で生産性の向上が見込めることから、年間収量を30t/10a以上でBrix6%以上のトマトを生産することを目標とし、マニュアル化を進めた。(研究方法)品種については、麗容、麗夏、桃太郎ファイト、桃太郎グランテ、カリオーソ、ピノッソの6品種を使用した。栽植密度は、6000株/10aの慣行区と10000株/10aの超高密度区を設定し試験を行った。作型については、3段栽培で年3作栽培する慣行区と2段栽培で年4作栽培する夏季栽培リスク分散型の処理区を設け栽培を行った。(研究成果)栽植密度10000株/10aにおいて、麗容→カリオーソ→カリオーソ→ピノッソの順に年4作2段収穫栽培した際に、収量が30.4t/10aでBrix5.9以上であった。販売率が88.6%であり、この作付けが最も品質と収量に優れていて有効であると考えられる。同様の作型により全て麗容で栽培を行うと32.8t/10aで最も収量性が高いが、販売率が50.4%で夏季の裂果や冬至の日照不足による乱形果が多くなり販売率に問題がある。秋冬時期の密植栽培は、光環境が非常に悪く晴天の日でも0μmol/㎡/sとなる期間が長く、乱形果や小果の発生が麗容や桃太郎系統の品種に多く見られる。今後は、株元の摘葉量、摘葉時期、LED照射による光環境の改善により単位面積当たりの収量性と品質の向上に向けて研究を進める予定である。
著者
福住 英仁
出版者
京都市立朱雀中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

近年、個人情報の漏洩が大きな社会問題として取り上げられている。その大きな原因は、情報を扱う人々の個人清報やセキュリティーに関する意識の低さと、基礎的な知識の不足である。この問題を解決するためには、若年層の情報教育は必要不可欠である。そのため、義務教育における横断的な情報教育を実施することは、基礎的な知識を与え、セキュリティー意識を育てることになると考え、本研究を設定した。中学校では学級担任の子どもとの関わりが強いため、「学級活動」・「道徳」・「総合的な学習の時間」などを横断的に活用しての情報教育が可能である。「学級活動」の時間では、学級文集や卒業アルバムのデジタル化を進める中で住所録や、個人の写真の扱いについての基礎を理解させる。また、「道徳」の時間において、多くの生徒が携帯電話を持ち、インターネットに接続されたコンピュータを使える環境をふまえて、インターネットの仕組みを理解し、その上で正しいインターネット上でのルール、エチケットを学ぶ場として環境を整備した。「総合的な学習の時間」における情報教育では、文化的行事(文化祭、合唱コンクール、百人一首大会など)、体育的行事(体育祭、球技大会など)、儀式的行事(卒業式、入学式など)、宿泊行事(キャンプ、修学旅行)、部活動(試合、練習)などをビデオ、写真で撮影しDVD-VIDEO、電子アルバムを作成し、必要な時に利用できる環境を整え、必要に応じてWebでも公開した。これらの情報教育を、個々の授業として終わらせることなく、デジタル文集・デジタル卒業アルバム製作という形で、創造的活動の中で実体験として体験しながら学ぶことができるように、学習指導案、総合資料を制作した。
著者
作山 佳奈子
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究目的本研究では、腎癌分子標的薬服用患者を対象に、血中濃度及び遺伝子多型が薬効・副作用発現に与える影響を評価することを目的とした。まずSunitinib服用患者の血中濃度測定から研究を開始した。研究方法Sunitinib血中濃度測定血清中のSunitinibおよびN-desethylsunitinibはアルカリ条件下、t-butylmethyl etherで抽出し、減圧乾固後、移動相に溶解し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分離定量した。HPLCの分析はODSカラムを用い移動相として0.05Mリン酸緩衝液(pH 3.0) : アセトニトリル : PIC試薬B7 (Waters)=695:300:5の混合液を使用した。UV-VIS検出器の検出波長は0~12minが431nm、12~20minが250nmに設定した。研究成果Sunitinib服用患者1名(50mg/日内服)のSunitinib及び活性代謝物であるN-desethylsunitinibの測定を行った。その結果、内服8日目のSunitinib、N-desethylsunitinibのトラフ値はそれぞれ84.2ng/mL、20.1ng/mL、その後11日目まで内服継続されたが発熱が認められ中止、内服中止後1日目では41.4ng/mL、21.7ng/mL、中止後8日後では4.8ng/mL、5.4ng/mLであった。今後はSunitinib服用患者の血液を収集し、血中濃度及び患者の遺伝子多型が薬効・副作用発現に及ぼす影響を評価する予定である。
著者
柴田 和彦
出版者
山形県立鶴岡工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

1、研究目的環境保全の立場から地方農村住宅の変容を考察し、その中から伝統的かつ環境共生的住まいを持続してきた事例を発見し、伝統的空間や住まい方への回帰の実態を把握すること。2.研究方法1995年から調査した庄内地方農村住宅(107件)と旧由利郡の農村住宅(2005年調査96件)の中から、伝統回帰傾向にある住宅を抽出しその特徴を明らかにする。また、新旧住宅の対比及び鶴岡市の大工業を営む人達への伝統と環境共生についての意識調査からもアプローチする。3、研究成果庄内地方農村住宅の変容過程では、瓦屋根の継続需要、板張り嗜好、和室嗜好、鍵座敷回帰などの実態が明らかになった。また、旧由利地方では昭和50年頃中門総2階が発生し、南部曲屋系中門造りの影響と思われる伝統回帰現象の存在が確認できた。環境共生住宅調査から、豊かな自然環境の中、住宅そのものが自然の一部であると感じられる事項が多く見受けられた(下見板張り、セガイ造り、縁側の多用、座敷構成、瓦屋根、無垢材の使用、古材利用、自然換気重視、漆喰壁の採用)。周囲の屋敷は、防風林、沢水の敷地内への引き込み、食用植物の栽培(山椒、柿、椎茸、孟宗竹・・)など自然環境を見事に生かしていた。新旧比較では、鍵座敷や続き間の利用、仏壇位置の固定、ハレとケの明確な空間意識、外壁の下見板張りと漆喰壁嗜好、縁側の設置、三列型・四列型の継承など前住宅の強い影響が見られた。一方、環境共生のマイナス面は、過剰な車の保有、敷地内全面舗装化、ブロック塀や単管パイプによる防風柵、樹木伐採の増加などの問題があり、特に高齢化による維持管理の困難さが浮き彫りになった。最後に、大工さんへのアンケート結果からは、現代の高気密高断熱などの手法に矛盾を感じながらも、自然環境を生かした木造住宅の造り方を継承したいと考えていることがわかった。以上により、今後の農村住宅の目指すべき姿は「昭和30年代の環境と共生した伝統的木造住宅」ではないかと考えている。
著者
戸水 吉信
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

学習指導要領の改訂に伴い,数学的な活用力を育てる授業のあり方についてこれまで研究をすすめてきた。本研究の目的および意義は,日常生活における身の回りの事象を数学的にモデル化し,数学的手法を用いてそれらの問題を解決する生徒の成功体験モデルを増やし,数学的な活用力を育てる授業モデルとして,データベース化をすすめることである。また,データベース化したものを冊子にまとめ,市内中学校へ配布すると共に,本校ホームページにアップすることで,より多くの数学指導者とそれらを共有し,さらによりよい授業のあり方について検討をすすめることができると考え,実践を行った。その実践内容は以下の通りである。(*)は,研究費で購入した電子黒板を用いた実践である。また,実践全般にわたって,研究費で購入したプリンタ・スキャナ複合機を用いて,生徒が書いたレポートの電子データベース化を行った。(1)6月単元「連立方程式」での実践買い物ゲームと問題づくり(2)8月データベースづくり(昨年度までの研究実践に基づいて)(3)9月単元「1次関数」での実践ダイヤグラムのシミュレーションと問題づくり(*)(4)10月単元「平行と合同」での実践デジタルカメラでの取材と電子データベース(*)(5)11月単元「平行と合同」での実践合同な黄金三角形づくりゲーム(6)1月単元「確率」での実践確率実験とシミュレーション(*)(7)2月単元「資料の活用」での実践問題解決型の課題設定の工夫これらの実践に,昨年度までの次の5つの実践を加えて,研究の成果を「数学的活用力を育てる授業のあり方~指導事例集~」という冊子にまとめた。(8)降雨時のトンネルの点検の必要性を,その降水量から正負の数を用いて解決する(9)等式の変形を利用して,まんじゅうの詰め方を考える(10)2次方程式を利用して条件にあった牛乳パックを作る(11)作図を用いて,鉄道建設の問題を解決する(12)相似な図形の性質を用いて,地図上の所要時間の問題を解決するこの冊子は金沢市内中学校に,5月の中学校数学教育研究会で配布する予定である。また,その冊子をPDF化したファイルを,本校数学科のページにアップした。
著者
北脇 義友
出版者
備前市日生西小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

岡山県は近世最大の干拓である沖新田を初めとして多くの干拓地が造られた。それにともない多くの樋門が造られたが、ほとんど研究の対象にされず、河川改修にともない次第に消えていっている。そこで筆者は悉皆調査を行い、約100箇所の樋門を写真に記録した。それらの樋門は県南で採れる花崗岩を使ったものである。岡山県の樋門の特徴を明らかにするためにも他県の石造樋門の調査は欠かせないことから、県外の樋門を中心に踏査を行った。全国的には広島県草深の唐樋門、山口県の田島新開作南蛮樋門・高泊開作浜五艇唐樋・土手町南蛮樋・堀川南蛮・尾津町南蛮樋、福岡県の寿命の唐戸・堀川の中間唐戸・猿喰新田塩抜きの穴、熊本県の大鞘樋門・石塘樋門・百太郎樋門、佐賀県の石井樋、愛媛県の禎瑞新田の南蛮樋、神奈川県の姫小島樋門がある。今回の調査では、田島新開作南蛮樋門・土手町南蛮樋・堀川南蛮樋・尾津町南蛮樋、大鞘樋門・石塘樋門、禎瑞新田南蛮樋、石井樋の調査を行うことができた。そのなかで、岡山県には近世以降の石造樋門が百箇所程度が残っているが、県外では先に示したように非常に限られた数しか残っていないことがわかった。樋門の構造には地域によって大きな違いがあり、大きく分けると、巻き上げ式、引き上げ式、招き戸式、観音開式の四つのスタイルがある。呼び方にも南蛮樋及び唐樋の二通りの呼び方が行われているが、岡山県ではすべて唐樋と呼ばれている。また、樋門の上部に覆屋があるものとないものがある。そのほか、石の使い方、ろくろ木、水切りなどのさまざまな違いがあり、それらを詳細の違いを明らかにしていく予定である。今後は残された金沢八景の樋門・百太郎樋門の調査を行うと共に、新たな樋門を見つけていきたい。
著者
内山 博之
出版者
標茶町立虹別小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

調査地区の1つでもある春国岱では、砂嘴の先端部の付け根に当たる部分が地盤沈下、風波・侵食等の影響により予想より幅広く大きく亀裂して決壊をしていた。今回先端部分へは海水の中に入ってかろうじて対岸へ渡れたが、予想より潮流も速く、今後さらに侵食されることが予想される。護岸工事等の修復についても地理的に工事の難しい場所でもあった。今回、研究目的である風蓮湖岸の塩湿地植物群落の分布や立地環境について湖岸踏査により調査を行った。特に塩湿地植物群落の指標となるアッケシソウ群落を中心に分布状況の把握に努めた。調査地については、ヤリムカシ川、ソウサンベツ川、アッコンベツ川、厚床川、別当賀川、風蓮川等の大きな河川河口部を中心した湖岸を含め、根室海峡から海水が入り込む海の近い湖岸から湖の深部湖岸まで歩いて調査を行った。風蓮湖岸調査を通して海水の入り込む海に近い場所にアッケシソウ群落が多く見られた。また、湖の深部湖岸では、川からの真水流入と塩分濃度が下がるため、アッケシソウ群落は多く見られなかった。アッケシソウ群落は、走古丹付近の砂嘴部の湖側に数多く確認された。また春国岱の第1砂丘、第2砂丘、第3砂丘ともに先端部までアッケシソウ群落が数多く見られた。湖岸のすぐそばまでヨシが来ている地形や潮干満潮での流れの速い湖岸については、特に風蓮湖深部となる風連川左岸やヤウシュベツ川河口域左岸や木村川左岸域についてはアッケシソウ群落を確認することができなかった。その他の主な塩湿地植物群落として別当賀川左岸域はシカギクの大群落、アッコンベツ川右岸ハマシオンの大群落を確認することができた。
著者
山本 まゆみ
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

当研究は、1920年代長崎から和蘭領東インドに渡り、バタビアで旅館を経営した一般邦人男性が、1941年11月下旬最後の引き揚げ船で日本に戻りながらも、半年後に日本軍部の徴用でインドネシアに復帰し、戦後間もなくインドネシアでその生涯を閉じたその人生に焦点をあてた。男性の生涯を辿りつつ、20世紀前半のインドネシアにおける在留邦人社会および、祖国の政治に翻弄された彼らの異国での生活の軌跡を、明らかにすることを目的としている。軍部は、彼らの言語能力や文化知識を活用したい一方、人脈のある住み慣れた地に配属することで、諜報活動や軍部に抵抗される危険性を懸念するなど、協力を期待しながらも信頼しなかった。軍部からも疑われていた「復帰邦人」は、戦後オランダ及びインドネシアにおいても、戦争に関する記憶の中で、日本軍部の「スパイ」という、謂われざる汚名を受けることになったが、ディアスポーラのサバルタンの歴史を再構築し、誤解された言説を再編成することを目指した。研究方法としては、文献資料調査及び面接聞き取り調査で遂行した。国立国会図書館、早稲田大学図書館、オランダ公文書館(戦争資料研究所、国立公文書館、外務省)を中心に調査を行った。また、日本占領下インドネシアにおいて日本人軍属軍人と関係を持っていたオランダ人女性の研究で著名なオランダ戦争資料研究所のEveline Buchheim博士からもご助言をいただいた。当研究調査を通じ、現在にいたる戦争中の一般邦人に対する記憶は、日本およびオランダを問わず、両国間の政治あるいはそれぞれの国内事情により、社会に内在する偏見を顕著にした記憶となり定着する傾向があるのではないかという結論を導き出すことができた。現在なお記憶として再構築されている一般邦人の汚名は、戦後間もない時代また1990年代の戦争処理問題の言説と共に増幅されていったと考えることができた。
著者
山本 誠司
出版者
松江工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

1. 研究目的日本刀の製法は「焼入れ」が重要な工程の一部となっている。刀は硬さと靭性の両方を兼ね備えるように工夫されており、強度および匂い口に連なる刃紋は美術工芸品を志向する現代には特に重要である。実際の焼入れでは、地鉄の性質、土置、焼入れ温度等の要素が複雑に影響している。本研究では、鉧から作った鋼および市販の炭素鋼ならびに炭素工具鋼を用い、土置を施して焼入れ冷却速度の影響を調べる。また、小型炉を用いた「たたら」を行い「ものづくり教育」の一環とする。2. 研究方法たたら炉は炉内寸法を390×520mm高さ1100mmとし外側は耐火煉瓦を積み上げ、炉内は600mmまでV字型に釜土を張付けて製作し、浜砂鉄を磁気選鉱により採取して供した。たたらで製作した鉧は鍛錬後厚さ4㎜の鋼に加工した。比較のため市販のS55CおよびSK85(A)を用い焼入れ温度760℃、800℃、830℃と変え、加熱保持時間15minで行い、焼戻しは150℃×1hrの熱処理を行った。また、冷却速度の影響を調べるため厚さを変え土置をした。試料は研磨した後に5%ナイタールで腐食したのち金属顕微鏡で観察し、硬さはマイクロビッカース硬度計を用いた。3. 研究結果および考察2回の操業を行った結果それぞれ30kgの鉧を作ることができた。市販の鋼材およびたたらで製作した鋼を熱処理した結果、焼入温度を高くすると硬度は高くなり、土置した場合は厚さにより硬度が下がった。これは薄く土置した場合には組織はマルテンサイトとなり、厚くすると冷却速度が遅くなりトルースタイトになるためである。日本刀では炭素量が異なる材料の組合せ、冷却速度による組織の違いにより刃紋を作り美術工芸品としての価値を高めることができると思われる。たたら製鉄を行うことで「ものづくり」の歴史、金属学を学ぶことができた。(772字)
著者
樋口 和彦
出版者
横浜市立北綱島特別支援学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

重度重複障害時の期待感が心拍に影響し、心拍が期待感を計る尺度となり得るか検討した。本研究では実際の指導場面において、重度重複障害の子どもが「学習の状況を把握しやすい手がかりの選定と提示方法」、「状況理解の程度」等を、拍数を利用してアセスメントを試みた。方法としては、対象児に、パルスオキシメータを装着し、対象児とパルスオキシメータを同時にビデオ撮影し、教材の呈示の仕方や声かけの仕方の違いによる期待心拍反応の出現比率を比較した。本実験に先立ち、プレ実験として訪問指導場面の行動をビデオ撮影し、期待心拍反応と思われる変化を観察した。その結果、タンバリンや太鼓など、大きな音を伴う活動の始まりに心拍の低下が見られることがあった。しかし、特定の場面で必ず反応がある訳でもないことも示唆された。様のアプローチをしていると考えられる活動において、ある日は心拍の低下があり、ある日は低下が見られないことも多かった。対象児(小学2年:重度重複障害)は、かかわりがない場面においても心拍数の変化はあり、覚醒状態や気温等等が影響していた。プレ実験後、活動で使う教材を提示するときに、(1)音声によるインフォメーション、(2)音声+触覚によるインフォメーション、(3)音声+触覚+教材の出す音によるインフォメーションの3パターンを作って係わることにした。その結果、(1)>(2)>(3)のように期待心拍反応の頻度は高まっていた。しかし、期待心拍反応が見られない試行も多く、重度重複障害児の場合、期待心拍反応を、正確に見いだすことが困難であることが示唆された。これには、その日の体調等も影響を与えていると予測される。今後は、研究を一歩進めて、期待心拍反応が出たと思われる試行と出ていない試行の覚醒状態・体調等の基礎的な情報を加味して観察を行う必要性が感じられた。
著者
竹田 等
出版者
北九州工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

研究目的近年、小学校第3学年から学ぶ理科(科学)離れが問題になっている。理由の一つに、小学生にとって学校などで色々なことを学ぶ機会があるにもかかわらず、学んだ知識が、どのようなことと繋がり何に役立てることができるのか分からないことが考えられる。その小学生にとって、平成23年3月11日に発生した東日本大震災は記憶に新しい。その震災で注目された一つに、太陽の集光利用がある。そこで、小学生が興味を示す太陽の集光を利用する方法として、食べた後に捨てられるポテトチップスなどの個包装の裏面の光沢を利用して簡単に作れる太陽光集光器を製作し小学生対象の出前授業用の実験教材を作ることとした。研究方法1. 集めたポテトチップスやチョコレートなどの個包装の裏面の油汚れなどを落とし光沢を出した。2. 不要なダンボールを利用して個包装を貼り付け太陽光集光器の試作品を作った。3. 水を入れた缶を2本用意し1本は試作した太陽光集光器で照射を行い、もう1本は太陽光の直射のみとして午前9時から午後4時まで温度測定を行った。4. 文部科学省新学習指導要領に準拠した「光の性質」を知る(学ぶ)ことができるように反射・集光・光の当て方と明るさや暖かさが分かる工夫を行った。5. 出前授業の実施に向け北九州市内小学校の行事を調査した。研究成果試作した太陽光集光器は、缶の水温を早く上昇させ太陽光集光器として使用できることが分かった。この集光器を、小学生第3学年の実験教材用に透明のアクリル材にお菓子の袋を貼り付け可視化を行いお菓子の袋を利用していることが見て分かる太陽光集光器を完成させた。また、光の性質を学ぶことができるように余ったアクリル材にも貼り付けて鏡として使える教材を作った。出前授業を北九州市内小学校の土曜日授業で計画していたが小学校では全学年対象の行事などにより実施できなかった。このことについて、今後の課題とした。
著者
本庄 孝光
出版者
大島商船高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

・廃天ぷら油のろ過装置の製作と他種ろ過装置との比較検証今回の研究に於いてポンプを用いたろ過ユニット1基と自然落下式2基を製作し、廃天ぷら油で走行している民間団体の下へ実際に比較し、ろ過性能およびろ過所要時間と透明度比較などによって証明された。・廃天ぷら油を燃料とする実験車両の製作(不具合点の改善も含む)ニッサンキャラバンを廃天ぷら油で走らせるべく改造を行った。基本的な改造点は、廃天ぷら油用の燃料タンクと燃料ラインの増設、廃天ぷら油着火条件向上を主目的とした熱交換器の設置、軽油/廃天ぷら油切換用電磁弁の設置であるが複数の不具合を経て第3次改造に至った。・実験車両運用実験第1回山口→長野→東京→山口、第2回山口/福岡往復の長距離走行実験を行った。第1回は帰路、熱交換器配管破損により一時自走不能に陥った為実験終了後に不具合点を考慮して全面的に機器を再製作。第2回目では高速道路での走行は殆ど問題無いものの、渋滞など低速に於いて廃天ぷら油低温による燃料供給不足と着火条件悪化によるエンストが多くみられた。他に1ヶ月単位の短距離連続運転を複数回実施したが短距離では大きな問題は発生しなかったが異物混入や不完全燃焼による廃天ぷら油のマフラーから噴出するのが認められた。以上の実験走行で発生した不具合を実験車両再改造によって対処している。今後は燃費などのデータ採取や燃焼効率の改善など行っていきたい。民間団体所属の同種所有者と意見交換を行い、現在実験及び車両改善を継続すれば軽油を燃料とするディーゼル車と遜色無く、且つ一般ドライバーでも通常の運転と同じように運用できる将来性が確認された。
著者
平城 智恵子
出版者
呉YWCA
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

研究目的筑豊のおばあちゃんの語りを使った教材で学習した筑豊地区の子どもが、自分の郷土の歴史を知り、ふるさとを愛するようになることが目的である。研究方法筑豊のおばあちゃんたちの語りによる音声資料を、1,「いつでも、簡単に」視聴できるように整備する。2,学校などの教育現場で活用しやすいように教材として開発をする。3,継続的な実施のために、今回の取り組み全体をプログラムモデルとしてまとめる。研究成果上記方法の分類別に成果を示す。2,当初は複数の筑豊のおばちゃんによる聞き取りを対象としていたが、2011年1月に、戦前の坑内労働経験女性(橋上カヤノさん、1910年生まれ)に出会い、肉声証言保存の緊急性を考慮し、橋上さんに限定した音声資料の整備を行うことにした。取材、編集を重ね、映像制作者山本祐子氏の協力を経て、インターネット動画共有サービス(YouTube)に配信している(2012年3月20日現在2動画アクセス数合計158)。2,学校現場での教材開発については、飯塚市立大分小学校の中山雅子教諭の協力を得て、ヒアリング、指導案作成、パワーポイント教材作成と修正を行った。2012年1月24日、6年1組21人の児童に「わたしたちが暮らす『筑豊』」の単元の中で中山教諭が教材を使用して授業を行い、評価までを行った。(1)筑豊は好きですか、(2)筑豊はどんなところですか、(3)炭坑について知っていること、(4)炭坑について学習したいこと、の4項目について学習前・後の評価検証を行った。その結果、(1)については、学習前に「筑豊」が「好き」が5人、「だいたい好き」が16人だったが、学習後「筑豊について興味を持って学習することができましたか?」の問いに、「持てた」が14人、「だいたい持てた」が7人と高評価を得た。3,今回一校しか実施できず、教育現場での協力者探しに課題が残った。地域学習の必要性についての説得力と利用の簡便さが教育プログラムには要求されることが分かった。
著者
市川 貴子
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

中学校技術家庭科技術分野(以降、中学校技術科)において、身近な機構の学習内容を通して、技術的なものの見方・考え方を育てる授業について検討し、実践を行った。学習指導要領の改訂により、中学校技術科では、技術を適切に評価・活用する能力と態度を育成することが重視されるようになった。技術を評価する力を育成するためには、技術に関する基礎的な知識に加えて、技術的な評価の視点をもつことが必要である。そこで、ロボット製作など機構の学習において重要である強度設計や機能設計の学習内容を検討すると同時に、エネルギーや開発コスト、製品寿命等のトレードオフについても発展的に学習できる教材を開発することを目的とし、実践した。授業実践では、傘や文房具など身近な道具に使われている機構を予想し、解析することを通して、運動を変換する機構や、効率的に力を伝える機構の学習を行った。また、模型の製作を通して、同じ仕事をする道具にも複数の機構があることに気がつかせた。例えば、穴あけパンチの場合、紙の差し込む位置がレバーの手前からものと、向こうからのものがある。より多くの紙に穴をあけられるものは、ハンドルが長く力が増幅されやすいが、刃をまっすぐ下ろすためのパーツが多いなどである。自分の考えた機構模型と、製品とを比べることで、道具が製品化されるまでには、より効率のよい機構が検討され、材料の強度やコスト、生産性なども合わせて考えられていることを理解させた。その結果、身近な機構の学習を通して、生徒に状況に応じた最適解の概念や製品を多面的に評価する視点をもたせることができた。授業後の生徒のアンケートによると、「製品と自分たちの模型は全然違った。」「他のものも見てみたい。」のような好意的な意見もあり、生活の中に存在するいろいろな機構を評価する意欲ももたせることはできたと考える。この実践が、生徒自身の製作活動時のみならず、既製品を購入する際にも、製品の特徴や利点、欠点など技術的な視点をもって評価し、最適なものを決定する力を育てるきっかけになったと考える。
著者
西尾 敏和
出版者
群馬県立高崎工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

○研究目的群馬県の富岡製糸場を産業遺産の事例とし, 運搬・類似性という切り口で, 産業遺産が地域コミュニティに及ぼす影響を明らかにし, 産業遺産を地城活性化へ活用するための基盤となる研究を行う。○研究方法1, 富岡・横浜・海外を結ぶシルクロードの明確化2. 国内の類似遺産との比較考察○研究成果1. 富岡製糸場の操業では, 国内で原料繭を購入して生糸を生産し, 製品の多くを米国や欧州などの海外に輸出していた。1937年度には, 生糸生産量が132.9トンであったのに対し, ピークの1974年度には373.4トンと2.8倍に増加した。工女数は, 1937年度が498人に対し, 1974年度は100人と5分の1に減少した。操業開始以来, 繰糸場を使い続けながら, 繰糸機の技術改良などにより, 生産効率を格段に向上させた。そのため, 富岡製糸場の生産量が座繰を含む国内製糸場の総生産量に占める割合は, 1937年度や1941年度の0.3%と比較すると, 1984年度には2.9%にまで上昇した。2. 横須賀市博物館研究報告と旧富岡製糸場建物群調査報告書から, 横須賀製鉄所と富岡製糸場の類似性について検討を行った。結果, 建設に関わった技師, 木骨煉瓦造, フランス積の3つのキーワードを抽出した。人物の経歴・雇用形態・設計過程の観点にまとめた結果, 横須賀製鉄所のバスチャンが富岡製糸場の建築図面を完成し, 建築担当を兼任して煉瓦の目地材の性状組成などを指導していたことや, どのような履歴をもって, 煉瓦の組積法や建築構造などの技術を富岡製糸場の煉瓦建造物の設計・施工に従事して伝えたかを推察することができた。バスチャンにより横須賀製鉄所のヨーロッパ系の煉瓦建造物の技術が富岡製糸場に伝播したことは, 富岡製糸場の産業遺産的価値のうち建造物的価値を高めるまちづくりへの活用の可能性を潜在していると考える。具体的には, ヨーロッパと横須賀製鉄所の技術を伝える唯一の遺構である富岡製糸場周辺地区の施設整備や景観対策などが考えられる。