著者
神山 真一
出版者
神戸市立星和台小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

教師がアーギュメント構成能力の育成に自信をもって取り組むには, 自らアーギュメントの指導法を具体的に立案したり実践したりする活動が必要である(McNeillら, 2016)。山本・神山(2017)の研究によって, アーギュメントを構成, 評価する教師の能力向上が報告されているが, そのプログラムは主に講義とワークショップで構成されており, 授業実践を伴う教師教育方略は未開発であった。そこで, 本研究では, アーギュメントを小学校理科授業に導入するための授業実践を伴う教師教育方略を開発した。対象は, アーギュメントを指導した経験のない現職小学校教員Mの1名であった。プログラムの概要は, 以下の通りであった。授業準備段階では, 4つの活動を設定した。まず, アーギュメントに関する研修会(90分)を行い, ①理科教育におけるアーギュメントの定義や意義が理解できるような講義とワークショップ(90分)を行った。次に, 単元の検討会(90分)において, ②指導するアーギュメント構造を決定した。構造は, 主張・証拠・理由付けからなる単純なバリエーションとした。その際は, ③アーギュメント各構成要素の内容を決定した。具体的には, 「主張」に対する適切な学習問題, 「証拠」で児童が収集するデータの量や質, 「理由付け」として位置付く科学的原理をそれぞれ学習内容と具体的に照らし合わせて検討することであった。単元の検討会では, さらに, ④アーギュメントを単元や1時間の授業の中に導入するタイミングの吟味を行った。授業実施段階では, 授業(45分)についてリフレクション(120分)を行った。その際は, 3つの活動を設定した。活動は, ⑤授業の動画記録を視聴してアーギュメントの指導場面を特定し, ⑥考察場面でなされた児童の発言をアーギュメントの構成要素に分類することであった。さらに, リフレクションでは, ⑦授業記録を基に, 板書やワークシートでの支援方法の吟味を行った。
著者
能美 佳央
出版者
秋田県教育庁高校教育課
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究の主目的は, システム思考力の育成である。生徒の学習過程と成果について, 形成的アセスメント視点もって評価を行った。今年度を, 平成27年度から29年度の3カ年研究の最終年次と位置付けた。対象教科科目は高等学校「生物」および「総合的な学習の時間」で, 単元は「生態系と生物の多様性」である。総合的な学習の時間の内容と連動させ, 教科横断的な教材となるようにした。システム思考力の育成を図るアセスメントツールとして, 因果ループ図(CLD)を取り入れた。個人による活動, グループによるピア・アセスメント, さらにグループによるCLDの作成活動がアセスメントサイクルである。学習過程における自己・相互評価は学習意欲の向上に大きく影響を及ぼしていることが事後の質問紙調査, インタビューの内容から確認された。CLDを学習に取り入れることで, 現在学校現場に求められている「深い学び」に繋がる可能性があると考える。今後も他教科でも活用できるような汎用性の高い本質的な問いの設定及びCLDの活用方法の改善に取り組んでいく必要がある。
著者
金子 俊明
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

聴覚障害生徒を対象とした聴こえと音声について考える学習において、生徒が主体的に音声ペンを活用するための授業デザインについて実践を通した検討を行った。音声ペンの利点は学習の題材とする音声を容易に録音できること、録音から音声の聴き取りまでの学習をアクティブラーニングの要素を加えて展開できること等である。実践では、はじめに生徒2人1組で音声ペンを活用して音声を録音し、ドットコードのシールとリンクさせ、さらに聴き取りのヒントも加えて実習用の音声カードを作成した。ワークシートにイラストやヒントの文を書き、音声ペンにリンクするシールを貼った上で切り抜き、ラミネートして音声カードを作る作業への生徒の取り組みは良好であった。次に、このカードを用いて音声の特徴を考える学習を展開した。録音した音声は、音声ペンの外部出力端子から外部スピーカーを通して再生し、発話者の特徴・音声の内容等について推測する学習を行った。学習後には、興味・関心、取り組みの態度、音声の区別、部分的把握、内容の推測等の評価項目について、生徒の主観的評価を調べた。その結果、音声ペンを用いて音声について考える学習に対する生徒の評価は良好であった。また、音声ペンを活用した主体的な学習と従来のサンプル音を用いた学習とで、客観テストに対する聴取正答率を比較した。その結果、5%水準で有意差が認められ、音声ペンを用いた学習には効果が見込めることがわかった。生徒の補聴の実態には個人差が大きいが、音声ペンを用いたアクティブラーニングのデザインを検討することで、聴こえと音声について考える学習をさらに推進できる可能性があることが示唆された。
著者
堀部 要子
出版者
春日井市立西山小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究は、校長のマネジメントのもとに児童の学習面及び行動面の困難さへの支援方法を検討し、効果的な学校経営モデルを作成することを目的とした。米国のRTIモデルを応用した3層の支援システムを組み、全校児童を対象とする支援を実施した。学習面では、①ステップ1 : 授業のユニバーサルデザイン化による授業内での学習支援、②ステップ2 : 対象児童を絞り込みながらの読み書き計算の取り出し学習支援、③ステップ3 : 通級指導教室における個別の教科の補充指導を実施した。行動面では、①ステップ1 : クラスワイドのソーシャルスキル・トレーニング(以後、SST)、②ステップ2 : 取り出し少人数SST、③ステップ3 : 通級指導教室における個別のSSTを実施した。全校スクリーニングテスト、アンケートQ-U(以後、Q-U)(河村, 1999)、行動観察、児童・教員アンケートから効果の検証を行った。学習面のステップ1では、教員が学級児童のアセスメントに基づいた焦点化・視覚化・共有化を意識した授業づくりに取り組むようになるとともに、児童の授業への参加度が高まった。ステップ2では、在籍数の約10%の児童を対象に学習支援を実施した結果、対象児童の基礎的な学力が向上した。行動面のステップ1では、児童全体のソーシャルスキルの向上が観察され、Q-U得点のt検定による分析の結果、教育的な効果のある有意差が認められた。ステップ2では、在籍数の約3%の児童を対象に少人数SSTを実施した結果、学級での般化がみられるようになった。その後、学習面・行動面で改善の少ない児童が、ステップ3で個別の集中的な指導を受け、課題の改善に向かっている。本研究実践により、対象を絞り込みながら段階的に支援を進める多層指導モデルを導入した校内支援システムの有効性が示された。今後は、校長の機能的な関わり方を見直し、学校経営モデルとして整理していきたい。
著者
卯川 久美
出版者
社会医療法人生長会府中病院
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

目的 : プロアクティブ行動は先行研究において適応に影響することが明らかになっている。看護学分野において、職場適応に関連した研究は蓄積されつつあるが、プロアクティブ行動のように新人看護師を積極的に自身の適応を促す主体としてとらえた研究は少ない。したがって、本研究では新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応に及ぼす影響を検討する。方法 : 全国の病床数200床以上の病院に勤務する、就職後一部署にとどまっている社会人経験のない新人看護師1349名を対象に、①新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度、②職場適応状態尺度、③個人属性からなる質問紙調査を実施した(2017年9月~2017年10月)。新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度は信頼性・妥当性の確保が検討されており、〈看護技術習熟行動〉〈人間関係構築行動〉〈積極的学習行動〉〈他者からのフィードバック探索行動〉の4つの構成要素、20項目からなる。職場適応状態尺度は〈看護実践への効力感〉〈仕事への肯定感〉〈チームへの所属感〉〈独り立ちした自覚〉の4つの構成要素、26項目からなる信頼性・妥当性が検討された尺度である。倫理的配慮 : 大阪府立大学看護学研究科研究倫理委員会の承認を受けて実施した。結果 : 293名(回収率21.7%)から回収し、272名(有効回答率20.2%)を分析対象とした。新人看護師のプロアクティブ行動が職場適応に影響を及ぼすという概念枠組みに基づき、共分散構造モデルを構成し分析を行った。結果、1回目の分析ではRMSEAが基準値を超えていたため、修正指数と改善度を参考に[職場適応]の〈看護実践への効力感〉と〈チームへの所属感〉および〈看護実践への効力感〉と〈独り立ちした自覚〉の誤差変数間にそれぞれ共分散を設定し再分析を行った。結果、モデルの適合度は、GFI=0.963、AGFI=0.922、CFI=0.965、RMSEA=0.074であった。[プロアクティブ行動]から[職場適応]へのパス係数は0.77、決定係数は0.59を示した。考察 : 新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は職場適応に影響を及ぼすことが確認された。新人看護師のプロアクティブ行動を育成することは、新人看護師の職場適応を促進することに繋がるのではないかと考える。
著者
天野 由貴
出版者
椙山女学園大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究の目的は、高大を接続する「確かな学力」における知識・技能を活用して、自ら課題を発見しその解決に向けて探究するために必要な思考力の育成と、その探究過程で学生が主体的に取り組むために重要な学習意欲を引き出す学習支援モデルの枠組みを設計することによって、学生の深い学びを促進することにある。本研究ではまず、1)ARCSモデルとそれに関連するインストラクショナルデザインに関する文献調査を行う。そのうえで、2)問いをつくるスパイラルモデルを基に、ARCSモデルを用いてインストラクショナルデザインを試みる。そして、3)2)の試作結果について、IFLA大会でのポスター参加、日本図書館情報学会などへの報告を行うことで、専門的な知見からの意見やアドバイスをもらい、モチベーション(学習意欲)を引き出し維持するための学習モデルとその枠組みへの改良を試みる。本研究は、図書館における情報リテラシー教育や学習支援において、モチベーション(学習意欲)という視点から現行の「問いをつくるスパイラル」モデルの再構成を行うと共に、高校では探究学習のテキストとして、大学では、大学に入学した学生のためのテキストとして使用されていることから、学習者が学習の意欲を向上させるためのカリキュラムを設計する枠組みを検討した。そこで、ARCSモデルアプローチ(John M. Keller)でのインストラクショナルデザインを行った結果、スパイラルモデルをカリキュラムに統合し、学習のモチベーションを向上させるための新しいフレームワークを試作した。このモデルでは、学習のモチベーションを設計するためのワークシート10枚と動機づけチェックリストを新たに追加し、そのフレームワークを8月20日、21日にポーランド、ブロツワフで開催されたIFLA World Library and Information Congress : 83rd IFLA General Conference and Assemblyでポスター発表した。ここで各国の図書館員や大学教員、図書館情報学に関連する専門職約30名から、枠組みを改良するための意見を収集し、その結果を反映した「深い学びを促進する学習支援フレームワーク」を再構築した。新しいフレームワークでは、学習意欲をひき出すために重要な、注意を引きつけ、関連性を理解し、満足感を自信につなげることに特化したワークシートの作成や授業設計を行うことを可能とした。
著者
篠田 隆行
出版者
國學院大學
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

【研究目的】学校法人会計基準の過渡期となる平成26年度(旧会計基準)と平成27年度(新会計基準)において、内部留保と収益性の開示による各大学の財務面における経営行動の変化を比較検証し、その影響を明らかにすることは、大学の財務運営研究における喫緊の課題である。そこで本研究では、「予算編成プロセス」という財務的側面にアプローチした。【研究方法】文部科学省による「学校法人の財務情報等の公開状況に関する調査結果について」を基に、大学を設置している学校法人合計666法人のうち660法人のHPを参照し、そこから得られる平成26年度と平成27年度の予算・決算数値を調査し、データ化して検証を行った。【研究成果】会計基準の変更という政策の影響と各学校法人が財務的視点においてどのように意思決定を変化させたかを事業活動収支計算書をもとに分析した。その中で以下の3点が主な成果として得られた。①666法人の財務データを調査するなかで、開示フォーマットを統一化すべきであることがわかった。これは、本研究の対象とできる法人数が303法人と約50%にしか至らなかった点から明白である。②予算に対して、決算の数値が好転する学校法人が多くあるが、一方で大幅に乖離していることもわかった。本来、予算は計画機能・統制機能・調整機能の3つの機能を有しており、その「計画機能」が著しく機能していないことがわかった。今後の経営を行う上で、改めて予算の「計画機能」を有効化する必要性が判明した。③会計基準の様式や学校の商慣行の関係で決算数値の経年検証が著しく欠如していることがわかった。これは、予算の視点が単年度となり、中長期的な計画との連関性が低くなり整合性がとれていないことも判明した。中期的視点での計画を予算に反映させ、単年度での財務コントロールをし、決算において大きな乖離を生じさせないように運営することが結果として安定した運営に繋がることが検証できた。
著者
鈴木 弘道
出版者
駒澤大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

【研究目的】2016年度、岩崎保道氏(高知大学)と共同で、IR組織の活動状況や成果等を問うアンケート調査を実施し、「どのような要素が、教育・研究・社会貢献・経営それぞれに対する貢献度向上に寄与し得るのか」を、私立大学の調査結果(79/116大学、回答率68.1%)から分析したところ、一部の業務や実態が複合的に影響を与えていることが明らかとなった。ただし、同調査では、「IR」の名称を冠する組織のみを対象にしていたため、IRを取り巻く環境の全容解明にまで至らなかったことが課題として残された。そこで、本研究では、(1)IR組織の貢献に繋がる規定要因を明らかにすること、(2)各大学のIR組織の整備に寄与すること、(3)大学職員の立場から実践的研究を行うこと、以上3つの目的を掲げ、IR名称の有無に関わらず、調査対象を全国の国公私立大学に拡大したアンケート調査の実施、及び分析を行った。【研究方法】全国の国公私立779大学のIR組織・部門等を対象に文書で依頼を行い、Web(Googleフォーム)回答方式によるアンケート調査を実施した。【研究成果】今回の調査では、257大学(回答率33.0%)から回答を得ることができた。その結果、①規模や地域によって、IR活動の実施状況に差がある点、②設置形態(国公私立)によって、貢献領域(教育・研究・社会貢献・経営)のみならず、IRの名称を関する組織の設置状況や、業務の取り組み状況が異なる傾向を示す点、などが明らかになった。さらに、本研究の柱となる貢献度の規定要因に目を向けると、IR活動としての“執行部への情報提供”“教員の研究状況に係る分析”“自己点検・評価におけるデータ活用”などの取り組みが、複数の貢献領域に渡って寄与し得る傾向が認められた。他方、IR組織が貢献するためには活動状況のみならず、本調査の項目に含まない、担当者個人のスキル向上なども重要であることから、他の研究者と連携しながら本研究をさらに掘り下げていきたい。
著者
前田 一之
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

わが国に限らず, 近年の大学ガバナンス改革は, 上意下達型の官僚制モデルを組織の調整メカニズムとして用いる点に特徴がある. しかし, 組織の形態は多種多様でありヒューマンサービス組織である大学において官僚制モデルが有効に機能し得る根拠はない. かかる問題意識に基づき筆者が先に行った研究(奨励研究 課題番号16H00084)では, 選抜性で統制してもなお, 柔軟性と革新性を志向する組織文化が組織の運営効率に好影響を及ぼしている実態が明らかとなった. あわせて, この研究では, 集権型の組織構造が, 運営効率に対して効果を有していない事実も明らかとなった. 一方, この研究では, 単一の個人による認知を組織文化一般として, 取り扱っている点に限界があった. そこで, 本研究ではマルチレベル分析を用いることによって, 大学の運営効率を高めるメカニズムを解明することを目的として実施された. 設定した課題は二つある. 第一の課題は, 大学レベルでの組織文化及び学長リーダーシップが個人レベルの組織コミットメントや集団の協働意識に影響力を持ち得るのか否か検証を行うことである。第二の課題は, 形成された協働意識が運営効率に対して影響力を持ち得るのか否か検証を行うことである.本研究を実施するうえで, 分析の対象は私立大学, 専門領域は人文系学部に限定し, 調査方法としてWebのアンケートフォームを用いることとした. アンケート送付対象者は, 教員に関しては, 全私立大学のHPを閲覧し, 公表されているメールアドレスを収集した. 最終的に収集したデータ数は178大学, 4831人である. また, 職員に関しては公表されている全私立大学の担当者メールアドレス一覧を利用し, データを収集することとした. 大学の組織文化やリーダーシップの定量的調査において, マルチレベル分析がなされたことはなく, 本研究はその点に意義を有する. 現在, 調査は完了していないが, 解析が完了次第, 成果を公表する予定である.
著者
谷口 亜紀子
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

近年、技術系女子学生が卒業後専門職についたとしても就労を断念するケースが半数以上にものぼり、社会的な損失になっている。これは女子学生が在学時に技術系専門職への展望をもてず、キャリアの見通しを立てることができないことが一因ではないかと考えられる。そこで技術系女子学生向けキャリア教育において、ロールモデル供給のあり方がカギになるのではないかという仮説を立て、高専を事例として技術職員の立場から効果のあるキャリア教育方法を模索することを目的とした。まずこれまで断片的に観察されてきた女子学生のキャリア形成・構想上のつまずき事例および技術系専門職としてのロールモデル獲得の成功・失敗事例を網羅的に収集した。女性はライフイベントの影響を受けやすいことや高専の多様性などを考慮し、対象者を30代後半以上の津山高専女性卒業者に限定した。今年度は正職員・パート勤務・主婦など調査協力者10名に対して聞き取り調査を行った。聞き取り調査後、収集された事例の分析を行った。初職を継続しているのは4名であり、長期的な正規職は6名と就労意欲は高かったものの、正規技術系専門職への就労はそのうち2名であることがわかった。これは専門職としての就労を不可能にする社会環境と卒業生個人に内面化されたジェンダー意識(性別役割意識)が原因と考えられる。このうち性別役割意識はキャリア教育の課題であると考えられる。また正規技術系専門職への就労は少なかったものの、津山高専での被教育経験に対して当事者としての満足度は高いことがわかった。そのため、津山高専のもつ機能として「技術系専門職」の教育機能だけではなくカリキュラム外教育を含めた教養教育機能が大きい役割を果たしている可能性が考えられる。ただし、これ自体は津山高専の独自な性質かもしれない。本研究の成果を2017年度日本高専学会第23回年会において報告し、その際に立高専の教職員と広く成果共有を図ることができた。また津山高専校内の発表会においても副校長や主事、教員と成果共有を図ることができた。今後はこうした事例の蓄積を積み上げ、長期的・継続的に調査を行うことが大切である。
著者
後藤 悠里
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

障害者差別禁止法が施行された今、障害学生に対して学ぶ機会を保障することは大学にとって喫緊の課題であり、そのためには、情報アクセシビリティにおけるバリアフリー化が欠かせない。その中でも、授業の情報を伝えるシラバスをアクセシブルなものにすることが重要である。本研究の目的は、障害学生の学ぶ権利を保障することができるシラバスの作成指針を提案することである。そのために、障害学生に、現行のシラバスの問題点や改善点を示してもらい、シラバス作成指針を提案する。本研究においては、以下の手続きを取った。調査は、障害学生4人を含む10人の学生を対象とし、大学で実際に使われている、ランダムに抽出された75のシラバスを評定してもらった。対象者は、それぞれのシラバスに4段階で評価をし、評価が高いシラバス、評価が低いシラバスをそれぞれ5つずつ選ぶ。その後、調査者が対象者に対し、半構造化面接を行った。得られた結果は「シラバスの見やすさ」と「シラバスに必要な情報」の2つにまとめられる。第1の、「シラバスの見やすさ」については、視覚障害学生から意見があった。第2の、「シラバスに必要な情報」は半数以上の学生から意見があった。具体的には、文言の曖昧さや、情報の不十分さについて指摘がされた。以上の結果から、以下の2点が提言できる。第1に、「シラバスの見やすさ」について、インデントを使用する、英字のフォントサイズはやや大きめにするなどの指示が必要である。第2に、「シラバスに必要な情報」について、評価については割合を提示することや学外活動やグループワークについてはより具体的に情報を提示することである。本研究では、障害のあるなしにかかわらず、対象者からシラバス改善の要求が挙げられた。シラバスの改善は障害のあるなしにかかわらず、学生の学ぶ機会の確保に繋がるユニバーサルな取り組みであるといえるのではないだろうか。
著者
田子 澄子
出版者
東京学芸大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究目的は、教職専門性向上と教員支援体制を模索し、効果的な教員支援システム構築を推進することにある。つまり、国立大学と附属学校との連携・協働による研修システムを検討するものである。近年の国立大学附属学校では、法人化後の人件費削減、労働時間増加、中間世代教員の減少等から、教員採用人事において困難な状況が継続し、初任者教員採用を余儀なくされる実情を耳にする。本研究が目指す初任者研修システムは、従来型の職場内徒弟制研修やトップダウン型伝達研修ではなく、国内外の人的・知的資源を活用した機能的・融合的なシステムを目指すものである。平成29年度は、平成25年度からの継続研究を踏まえて、下記に示す全国的な基礎調査を実施した。1. 研究目的 : 国立大学附属学校における教員採用人事、教員組織・環境、教員研修体制、等を調査し、初任者教員採用と初任者研修の実際、現職教員環境の実情等を検討。2. 研究方法 : 全国国立大学附属学校へのアンケート調査と事例調査を実施。(1) アンケート調査…平成28年度実施の附属幼稚園調査を基に、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校など209校(今年度は幼稚園51園舎を除く)を対象に、自記式記述回答調査を実施。(2) 事例調査…実地調査として全国より数校を抽出。教育改革事例・教育活動の特色等を現地調査。3. 研究成果 : アンケート調査より計量的傾向を、事例調査より質的特徴を検討。(1) 基礎調査…平成29年度附属学校209校対象の調査回答率は、平成30年度末約43%。アンケート集計結果による計量分析、及び、知見等を総括して研究発表予定。(2) 事例調査…調査対象抽出校は、岩手大学附属小学校・同中学校、茨城大学附属幼稚園、奈良教育大学附属中学校、神戸大学附属幼稚園・同中等教育学校、大分大学附属幼稚園・同小学校、以上8校。(3) 研究発表…平成29年6月 : 日本教育経営学会茨城大会にて、これまでの調査結果等の知見を研究発表。
著者
田沼 伸久
出版者
明星大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究は、特許データに基づき企業のイノベーション活動についての計量分析を行い、その結果を可視化することで、視覚的に地域の産業構造を分析することを支援するシステムを開発することを目的とする。本研究で提案する手法により地域企業のイノベーション活動を可視化することは、地方行政の地域産業に対する理解度を高めることを支援するものであり、地方行政の産業振興政策の立案に大いに役立つものであり、産学官連携によるオープンイノベーション型の地域産業基盤の形成にも寄与するものと考えている。分析対象地域を東京都日野市、府中市、八王子市とし、当該地域におけるイノベーション活動の可視化を試みた。3市は、大手企業の本社機能や研究開発拠点が数多くあり、それらを中心とした中小企業の産業基盤が形成された国内有数の産業集積地域である。出願時期が2004年から2014年の公開特許公報を対象とし、発明者の住所から研究開発が行われている事業所を推定し、①地域別特許出願数の推移、②1事業所あたりの出願数、③ツリーマップによる地域別の事業者の多様性分析を行った。これらの分析の結果、地域別の出願推移(イノベーション活動の推移)とその特性が明らかとなり、どの地域においても減少方向であることが明らかとなった。また、1事業所当たりの特許出願数を地域別に比較したところ、他の2市に比べて、日野市が飛躍的に高い値を示していることが分かった。ツリーマップによる3市の事業所の多様性を分析したことにより、地域産業のイノベーション活動という視点になった各地域の産業構造を明らかにすることができた。また、それらの3市における2004年と2014年の比較を行った結果、年代の違いによる産業構造の変化を視覚的に明らかにすることができた。
著者
山口 光男
出版者
国立大学法人福井大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

1. 研究目的大学と企業が行う共同研究のマッチング活動を行うにあたり, 大学側の研究テーマの成熟度(完成度)と, 企業側の研究吸収能力(大学の研究成果を理解して応用する能力)とのギャップをカバーするため, 本研究では企業側の研究吸収能力を可視化するための指標開発を目的に, 産学共同研究推進に寄与する企業側要因の分析を行った。URAやコーディネーター等は, 大学側の研究テーマ内容に加えて, 企業側の研究吸収能力を把握することにより, 効果的なアドバイスを行うことが期待できる。2. 研究方法先行文献調査を行った後, 企業側の研究吸収能力と共同研究実績に関する因果メカニズムを明らかにするため, 福井大学研究戦略支援データベースに蓄積されている企業データ(東京商工リサーチTSRデータ含む)及び特許保有公開データ等から得られたデータを基に定量分析を行った。RA協議会年次大会での中間発表のほか, 産学連携研究者, 銀行関係者, 企業関係者からの意見等も参考とした。(1) 対象企業 : 福井大学産学官連携本部協力会企業のうち207社(中小企業のうち主に製造業を抽出)(2) 分析手法 : 平均比較検定(t検定), 回帰分析等【被説明変数】共同研究実績, 共同研究規模【説明変数】企業評価(TSR企業評点・4視点), 卒業生の就職状況, 特許出願状況, 研究開発費状況3. 分析結果指標として, 卒業生の就職実績, 特許出願実績, 研究開発費割合, 企業の成長性評価が有力となった。(1) 卒業生・修了生が就職している企業との共同研究は成立しやすい傾向がある。(2) 特許出願の実績がある企業との共同研究は成立しやすい傾向がある。(3) 研究開発費の割合(研究開発費÷売上高)が高いほど共同研究受入額が大きい傾向にある。(4) 企業評価のうち成長性の評価が高いほど共同研究受入額が大きい傾向にある。
著者
茅野 政徳
出版者
横浜国立大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、PISA型読解力育成をふまえ、「主観的読みと客観的読みの融合」をめざし、小学校における文学的文章及び説明的文章の新たな教材と指導法を開発することを目的とした。「主観的な読み」とは、児童が自己を投影し、登場人物の心情を探り、内容理解に役立つ読みといえる。「客観的な読み」とは、作品世界から一歩外に出た視点から作品を捉え、作者の意図をふまえ、解釈・評価に結びつく読みである。この2つが融合し、児童が新たな読みを構築するために取り組んだのが、コンピュータソフトを活用したテキストの加工・編集である。説明的文章では、文章の結末部を削除したテキストを作成し、児童が論の展開をふまえて結末部を書く。それを作者のものと比較することで作者の結末部の妥当性を見出した。また、問いかけや投げかけ、筆者特有の言い回しを抜粋したテキストと本来のテキストを比較し、表現効果について学んだ。これらの学習では、作者と対等の位置に児童がおり、自らの考えを述べるために深く文章を読み込む姿が見られた。また、これまで以上に作者の表現技法の巧みさや論の組み立て方の工夫に目を向けることができた。文学的文章では、推理小説や二人称の作品などを教材化した。このような教材を用いることは、本研究のもう一つのねらいである「受動的な読みから能動的な読みへの転換」に役立った。児童が積極的に文章にかかわり、作者の言葉の使い方や話の進め方に対して意見を述べる姿が数多く見られた。児童の主観的な読みは大切である。そこに言葉を媒介にした客観的な読みが加わることで児童の読みの世界は大きく広がった。受信から思考し、それを発信まで結びつけるためには児童の能動性を喚起する指導法やそれに合致した教材の開発が必要であり、それが着実にPISA型読解力の育成に繋がることを明らかすることができた。
著者
宮田 優希
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

腹膜透析(PD)導入患者にバンコマイシン(VCM)が投与されることも多いが、VCMはPDによつて除去されるため、PDによるVCM除去の影響を考慮した投与量設定が必要である。しかし、一般的なガイドライン等に記載された推奨投与量は用量幅が大きいにも拘わらず、その変動要因に関する情報はほとんど記載されていない。加えて、適切な薬物動態モデルが構築されていないことから、患者毎に大きく異なるPD実施条件とVCMのクリアランス(CLvcm)との定量的関係については検討が進んでおらず、PD導入患者に対するVCMの最適投与量設計は困難である。そこで、本研究ではPD実施条件を定量的に組み入れることが可能な薬物動態モデルであるPDモデルを構築し、PD導入中にVCMの投与を受けた患者の薬物動態解析に適用することで、その臨床的有用性を評価することを目的とした。まず、解析対象患者11名のうち2点以上の血清中VCM濃度測定値が入手可能であった5症例を対象に、初回測定値に基づくPDモデルを用いたフィッティングによる血清中VCM濃度予測値と実測値を比較したところ、実測値の85.7%を0.67~1.5倍の範囲内で予測することが可能であった。さらに対象患者11名のPD実施条件および背景情報を基に算出したCLvcm予測値と対応する実測値を比較したところ、11名全てを0.5~2.0倍の範囲で予測可能であった。さらに、CLvcm予測値に基づきPD実施条件に応じたVCMの推奨投与量一覧表を構築したところ、一般的なガイドラインでは大きな幅を持って示されている推奨投与量を、PD実施条件に応じて明確に区分することが可能となった。これらの結果から、本研究で構築したPDモデルを上述のVCM推奨投与量一覧表と合わせて利用することで、PD導入患者における適切な血清中VCM濃度コントロールが可能となると考えられた。
著者
笠原 諭
出版者
福島県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的:トップレベルのラグビー選手が知能検査の積木課題(空間認識能力を反映する)で高得点を示すことが報告されている(2008.Kasahara)。そこで本研究ではトップレベルのラグビー選手に特徴的な認知能力の脳内基盤を解明する。また各種心理検査も行いアスリートの心理発達面についても調査する。○研究方法:対象はtop群(秋田ノーザンブレッツ選手)20名と、novice群(ラグビー未経験者)20名に対して、知能検査(WAIS-III)、MRI形態画像、fMRI機能画像検査(メンタルローテーション課題など、約3分のセッションを11通り)、心理検査(STAI, Self efficacy, EQ/SQ, NEO-FFI)を行った。○研究成果:多数の項目について検査を行ったため、解析が終了し空間認識能力と関連のある項目に焦点を絞り報告する。top群とnovice群において、知能指数、積木課題の得点、メンタルローテーション課題における正答率、反応時間いずれにおいても有意差は認められなかった。メンタルローテーション課題時の脳活動は、右上頭頂小葉、右背外側後頭皮質、左中側頭回においてtop>noviceで、右内側眼窩前頭皮質ではtop<noviceであった。これらの脳活動の差は、課題施行の方略の違いを反映している可能性があると考えられた。右背外側後頭~頭頂領域の脳活動がtop群で高いことから、top群はより俯瞰的かつ想像的に課題を遂行している可能性が示唆された。またメンタルローテーション課題における正答率と積木課題の得点は、top群、novice群いずれにおいても有意な正の相関を示した。