著者
安野 翔
出版者
仙台市役所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

陸域と水域の移行帯では、夏季に浮葉・抽水植物が水上葉を展開することで、クモや陸上昆虫にとっての“一時的な陸地”となる。陸域と水域から葉上に餌資源が供給されるため、食物網を通して高次捕食者のニッチが生み出されると考えられる。本研究では、浅い富栄養湖の伊豆沼(伊豆沼)において、ハス群落葉上の徘徊性クモ類の餌資源を明らかにし、葉上食物網形成におけるハスの役割の解明を試みた。2017年6月、7月、9月に、伊豆沼中央部のハス群落内と南岸において、徘徊性のニセキクヅキコモリグモとその餌候補となる水生昆虫及び陸生昆虫を採集した。炭素・窒素安定同位体比(δ^<13>C・δ^<15>N値)の測定後、ベイズ推定を用いた混合モデルにて餌資源を推定した。水生昆虫のδ^<15>N値(各月の平均 ; 7.5~8.3‰)は、陸生昆虫(3.9~5.5‰)よりも高く、餌候補として十分に区別可能な値であった。クモは、調査期間を通して餌候補の昆虫よりも概ね高いδ^<15>N値を示した。一方、9月には、ハス群落内のクモのδ^<13>C値(-26.8±0.6‰(平均±SD))は、岸際の個体(-30.8±1.7‰)よりも高く、地点間で餌資源が異なることが示唆された。混合モデルによる解析の結果、いずれの月、地点においてもクモは陸生昆虫をあまり捕食しておらず、水生昆虫に依存していたことが明らかになった。9月には、ハムシ類(-24.7±0.8‰)とその他の水生昆虫(-30.9±2.8‰)で異なるδ^<13>C値を示したので、別々の餌資源として解析した。その結果、岸際では、クモはハムシ類以外の水生昆虫に依存していたが、ハス群落内では、クモは、ハムシ類に最も依存していた。以上の結果から、ニセキクヅキコモリグモは水生昆虫を主に捕食していること、ハス群落内では、特にイネネクイハムシを含むハムシ類を主に捕食していることが明らかになった。ハス群落は、夏季にクモや昆虫にとっての一時的陸地となるだけではなく、自身がイネネクイハムシの食草となり、クモに餌を供給することで、葉上食物網の形成に寄与していると考えられる。
著者
山口 直子
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

【研究目的】CD38遺伝子はオキシトシン合成ニューロンや下垂体後葉からのオキシトシン分泌に関与している。オキシトシンは子宮収縮や母乳分泌に必須のホルモンである。CD38遺伝子多型(4693C>T)を有する遺伝子組換えを行ったCOS-7細胞は、CD38関連酵素活性が50%に低下することが報告されている。そこで総合周産期母子センターに入院した妊婦と児のCD38遺伝子多型(4693C>T)を検索し、遺伝子多型の有無による母児の臨床的背景を明らかにし、遺伝的要因から病的新生児を出生する可能性のあるハイリスク妊婦の診断と治療、および児の予後を明らかすることで、母児の予後の改善に繋げる。【研究方法】当院総合周産期母子医療センターに入院した母親と児の末梢血液リンパ球から核酸(ゲノムDNA)を抽出し、PCR法によりCD38遺伝子を増幅後、RFLP法(Restriction Fragment Length Polymorphism)により、CD38遺伝子多型(4693C>T)を解析するとともに、SNP出現率とSNPを有する母児の臨床的背景を検討する。【研究結果】奈良医大に入院した母子で250名について、CD38のSNP(rs1800561(4693C>T) : R140W)の検出数は、T/C : 16名、T/T : 1名、C/C : 233件であった。すなわち、CD38遺伝子多型頻度は、0.068であった。【考察】一般人のCD38遺伝子多型頻度は、0.003~0.035と報告されている。今回の検討で母子センターに入院する母児は、CD38遺伝子多型(4693C>T)の頻度は一般人よりも有意に高かった。CD38遺伝子多型(4693C>T)が、母子センターに入院する母児の遺伝学的要因の一つと考えられた。
著者
村瀨 陸
出版者
奈良市教育委員会文化財課埋蔵文化財調査センター
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

本研究は、近世鋳造技術の解明に繋がる近世刀装具鋳型の製作技法を明らかにすることを目的とした。これを達成するためには、まず鋳型がどのようなものであるのかを把握し、かつ第三者に図示する必要があった。これを成し得る方法としてSfMによる三次元計測が有効であると考え実験した。その結果、肉眼観察では確認できない細部の特徴を抽出することに成功し、基礎資料として提示することもできた。次にSfMによる計測で得られた基礎データをもとに、奈良町遺跡出土近世刀装具鋳型の製作技法を検討した。その結果、込型技法による鋳造を行ったとみられる痕跡を確認し、それによる鋳造工程の復元を行った。ただし、これはあくまで本研究で対象とした奈良町遺跡(HJ第688次)出土資料から得た結果であり、近世における刀装具の鋳造方法が全て込型技法であるとは言えない。この点は今後分析を継続し明らかにすべき課題である。また、本研究ではSfMを用いた計測により多くの情報を得ることができたが、この方法が埋蔵文化財行政において、どういった場合に有効であるのかを検討した。その結果、全ての資料に対して有効であるものではないことを前提としつつ、従来自分の手で図化することが困難であった大型資料や、本研究で対象としたような複雑な構造をもつ資料などを自らの手で表現することができる方法であることを明らかにした。これらの資料は委託による図化がこれまで行われてきたことや、そもそも図化を断念する場合も多くあったため、研究が進んでいない資料が多数ある。こういった資料に対して、研究者自身の手で第三者に図示する方法を得たことは、今後の研究に大きく影響を与えるものと考える。以上をふまえて、埋蔵文化財行政における実現可能な三次元計測の導入についてを検討した。
著者
田中 浩
出版者
山口県立山口博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

・研究目的ヤマネGlirulus japonicusは、ヤマネ科Gliridaeに属する1属1種の日本固有の小型哺乳類である。1975年に天然記念物に指定され、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧に指定されている。主に夜行性で、樹上をおもな生活の場とし、さらに生息密度が低いため、調査が困難であった。近年、調査機器の発達と調査方法の確立により、生態や生活史特性が明らかになりつつある。しかし、関西以西の本州・四国・九州では調査はほとんどなされておらず、依然、生態や生活史については謎のままである。本州西端山口県におけるヤマネの冬眠、繁殖、個体間関係、生息環境利用などを明らかにし、ヤマネの生活史特性を解明し、東日本個体群との生活史特性の差異を明らかにしたい。・研究方法調査地に20m間隔の格子状のグリッドを設定し、その交点近くの木の1-1.5mの高さに、出入り口直径3cm、高さ20cm×幅15cm×奥行15cmの巣箱を150個設置した。利用個体調査は原則月2回以上実施した。また、トラップによる捕獲を試みた。ヤマネ捕獲個体は、すべて体重・頭胴長・尾長・後肢長・耳長などの計測を行い、幼獣以外の個体にはマイクロチップを皮下に挿入し、個体識別を行った。巣箱利用個体が撮影されるように、赤外線センサーによる自動撮影カメラや自動撮影ビデオカメラを設置し、巣箱の利用実態調査を行った。成獣には、発信機を体表面背中側に装着した。・研究成果ヤマネの巣箱利用は、4月の巣箱設置後すぐに利用する個体があらわれた。4月~11月は巣箱利用個体の撮影ができた。幼獣は9月から11月に観察され、11月の体重が15gにも達していない個体があった。早い個体は11月には冬眠に入ったが、遅い個体は12月になり冬眠した。これまで、調査が進んでいる中部地方の長野県の個体群に比べると、冬眠期間は短がかった。ヤマネが持ち込む巣材は、スギの樹皮で、細かく引き裂き持ち込んでいた。成獣と幼獣の巣の大きさに違いがあり、幼獣は単独で越冬していた。調査地には、複数個体のヤマネが生息し、繁殖・冬眠などの生態調査の適地であることがわかった。
著者
森田 幸子
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

矯正治療時の歯根吸収には、いまだ予防法がない。ビスフォスフォネートは、破骨細胞をアポトーシスへ誘導することにより骨吸収抑制の作用を発現することが知られている。また、これまでの研究でビスフォスフォネートは矯正学的歯の移動と歯根吸収それぞれを抑制するということがわかっている。本研究では、ビスフォスフォネートの投与量等を検討することにより歯の移動を妨げることなく歯根吸収を抑制できるのではないかと考え、実験を行った。マウスの第一臼歯と前歯部を超弾性のNiTiクローズドコイルスプリングでつなぎ、歯の移動開始時から、左側第一大臼歯頬側粘膜下にそれぞれのグループで、さまざまな濃度のビスフォスフォネートを2日おきに注射で投与した。コントロールであるPBS投与の右側第一臼歯を対照群とした。12日間矯正力をかけ歯を移動させた後に歯の移動距離を測定、その後、第1臼歯を取り出し、軟組織を次亜塩素酸ナトリウムで除去後、走査型電子顕微鏡で歯根吸収の評価を行った。ビスフォスフォネート2μg投与群において、歯の移動距離はPBSのみ投与群と比較して有意に減少し、また歯根吸収もPBSのみ投与群と比較して有意に減少した。ビスフォスフォネート20ng、200ng投与群では歯の移動、歯根吸収においてPBSのみ投与群と比較して有意な差は認められなかった。他のいずれの濃度投与群においても、PBSのみ投与群と比較して歯の移動も歯根吸収も有意差を認めない、もしくは、歯の移動も歯根吸収も有意に抑制するという結果が得られた。本研究で、ビスフォスフォネートは投与量によって歯の移動および歯根吸収に同様な影響を与えることがわかった。またビスフォスフォネートは投与量により歯の動きを抑制ヘコントロールし歯根吸収を予防する可能性が示唆された。
著者
富永 浩史
出版者
関西学院高等部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究は、西日本で分布域が重複する淡水魚カマツカ種群2種(それぞれA、Bとする)が、交雑を伴いながら共存するメカニズムを明らかにすることで、種分化に重要な生殖隔離機構と近縁種の共存機構の関係についての理解を深めることを目的とする。本年度は、東海地方の3水系の計38地点から採集したカマツカ種群729個体について、ミトコンドリアDNA塩基配列とマイクロサテライトマーカー15遺伝子座を用いて各個体の遺伝的実体を明らかにすることで、2種の流程分布および交雑状況を調べた。その結果、①カマツカ種群Aは主に下流側に、カマツカ種群Bは主に上流側に出現すること、②上流側、下流側ではそれぞれの種が単独で出現する地点がある一方、その間の区間では両種ともに出現する地点があり、地点により交雑個体の出現頻度が異なること(0%~約65%)、③上流側までカマツカ種群Aのみが出現する支流があることが明らかとなった。これらの結果は、両種の間に環境選好性の違いがあり、河川の流程レベルで棲み分けがあるという仮説を強くサポートした。また、両種の間には基本的には生殖隔離が成立しているが、その強さは地点によって異なることが示唆された。今後は、各地点の環境データと2種の出現および交雑個体の出現頻度の関係を分析することで、種分化のあとに二次的接触した近縁種が生殖隔離を成立させて共存するか、どちらか片方の種が生き残る競争排除が起こるか、もしくは交雑により融合するかという動態が、環境要因により左右されるという仮説の検証が期待される。
著者
長尾 倫章
出版者
新潟県立有恒高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

2003年の地教行法第50条の削除以降,2008年度までに20都県で全日制普通科高校の通学区域が廃止された。廃止の趣旨は,私立高校への流出に対する対抗策や,市町村合併による行政区と学区の線引きの不整合の是正であったりするのだが,表向きは一様に学校の特色化や生徒の主体的な学校選択の実現を謳っている。さて,新潟県では2008年度入試から通学区域が廃止された。それまでは全県を8学区に分割し,学区毎に15~25%の割合で指定された隣接学区からの生徒を受け入れる制度であった。全県一区型公立高校入試の現状と課題を明確にするため,全県一区型初年度である2008年度入試と旧ルールによる2003年度のそれとを比較検討した結果,得られた知見は以下の通りである。全県の動向をみると,他学区への流入・他学区からの流出を総計した流動率(全志願者数における割合)は,2003年度の8.5%(1487人)から2008年度は11.8%(1628人)へと3.3pt上昇した。この数値だけをみると,全県一区化が流動を促進したようにも捉えられるが,2008年度の流動のうち,11.6%(1600人)までが旧隣接学区内での志願であり,旧非隣接学区への志願は0.2%(28人)でしかない。つまり,全県一区化が,必ずしも旧学区にとらわれない全県的流動を必ずしも促進したわけではなかったことが確認された。上記事実から,以下のことが仮説的にいえる。学区撤廃によって非隣接学区への志願が制度的に可能となったことから,改めて旧ルールが再評価され,隣接学区へ志願する行為を相対的に低いハードルであると志願者に感じさせた。そのことが,結果的に隣接学区への志願者の流動を促進する触媒となった。このことは,全県一区化には人的流動を促す一定程度の効果があったと評価することも可能ではあるが,隣接学区さえも越えて志願する動きがほとんど見られなかったのは,そうしたいと思わせるための,県が推進している「学校の特色化」の進捗が遅々たることと,面積が広く公共の交通網がそれほど発達しているとは言い難い新潟県の地域的条件に起因している。ここに流動の詳細を記す余裕はないが,報告者は,全県一区化によって「行きたい学校」へというよりは,むしろ逆に「行ける学校」を選ぶ傾向を強化する結果となってしまったと分析する。新潟県が全県一区化導入のスローガンとして掲げた「行ける学校から行きたい学校へ」というパラダイムシフトを実効化するには,流動を促進するための更なる工夫と仕掛けが必要であるといえよう。
著者
小野 麻衣子
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究目的マウス飼育法として、古くから尾を持ち上げて移動する方法が用いられてきた。近年、このハンドリング法が、マウスの不安や恐怖、ストレスを誘導し、行動学における表現型に影響を与えることが明らかとなった(Hurst et al, Nat Methods, 825-826, 2010)。実験動物はヒト疾患のモデルとして、その発症機序の解明、予防や治療法の開発に重要な役割を担っている。本研究ではハンドリングがマウスの表現型、とりわけ慢性疾患に与える影響を解析した。研究方法マウスは、慢性腎症モデルマウスICGNを用い、離乳後4週齢から、以下の4群のハンドリング方法で、週5回のハンドリングと週1回のケージ交換を行った。a)尾を掴み逆さに持ち上げて、そのまま30秒間保持した後、ケージに入れる。b)マウスを両手ですくい上げるように持ち、30秒間自由に行動させた後、ケージに入れる。c)マウスがプラスチック製トンネルの中に入るのを待ち、トンネルごとケージに入れる。d)コントロール群。ハンドリングを全く行わず、週1回のケージ交換をマウスの尾を保持する方法で行う。マウスは8週齢までハンドリングを行った後、血液学検査(ヘモグロビン濃度、BUN, クレアチニン)と腎臓の病理組織学的検査(PAS染色による糸球体硬化症の重篤度の差を判定)を行った。研究結果血液学検査の結果では、ハンドリングによる腎疾患重篤度の差は認められなかった。病理学的検査では、雌雄ともにコントロール群に比べハンドリング群において疾患の重篤度が大きくなる傾向がみられた。雌ではコントロール群に比べ尾を掴むハンドリングを行った群で重篤度が有意に高い結果となった。以上の結果から、ハンドリングによるストレスの違いが、腎症モデルマウスの疾患重篤度に影響を与える可能性があり、研究目的によって、マウスの日常の取り扱い方法に注意が必要であることが示唆された。
著者
森本 行人
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

THEやQSに代表される世界大学ランキングの評価項目の中に、論文の被引用数にもとづく評価項目があるが、これはScopus等の論文・引用データベースがもととなっている。その収録誌の多くは英語論文であり、それ以外の言語で書かれた論文についてはほとんど収録されず、評価の対象となっていない。本研究では、上記データベースに収録されていない論文も含め低コストで客観的な定量的指標について、検証を繰り返した結果、ダイバーシティ・ファクター(DF)のバージョンアップ版であるiMD(index for Measuring Diversity)を共同開発した。ここに至るまで、書誌情報より収集した数値をデータベース化、専門家へのインタビュー調査および有識者によるピアレビューを経た。iMDは、次の計算式で算出するものである。log_n(α×C+β×A)【A : 所属機関数、C : 所属機関の立地国】αとβはCとAの重み付け係数である。これにより、iMDは、学術誌等の1年ごとの多様性を著者所属とそれらが立地する国という観点から、必要に応じた重み付けで定量化することが可能となった。なお、Aの値の幅が大きすぎるため、iMDでは対数スケールを採用した。これにより、従来は、データベースを保有する会社などにアウトソースした被引用数や、どの雑誌に掲載されたとしても、1本は1とカウントされ論文の本数で評価されていた研究業績について、分野や使用言語に関係なく算出可能となり、人文社会系分野のニーズに部分的に答えうる新たな指標を開発することができた。さらに、2月15日に人文社会系分野における研究評価についてのシンポジウムを開催し、外部有識者とiMDの有効性について意見交換を行った。iMDは全てのニーズに応えられるものではないが、本研究を通じて、iMDは個人や組織の研究力をより多面的に、総合的に把握する一助となると考えられる。
著者
近藤 静香
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究目的】発達障害児および定型発達児における, 新版K式発達検査2001(新K式)の発達指数(DQ)とWISC-Ⅳの知能指数(IQ)の関連を明らかにすることを目的とした。【研究方法】愛媛大学医学部附属病院子どものこころセンターおよび小児科, 精神科を受診した5~10歳の患者のうち, DSM-5の診断基準を用いて自閉スペクトラム症(ASD)と診断され, 本研究への参加同意が得られた9名(男児:女児=8:1, 平均月齢99.7±21.3ヶ月)をASD群とした。うち5名は注意欠如・多動症の併存があった。定型発達群は通常学級に通う児童6名(男児:女児=3:3, 平均月齢86.2±16.7ヶ月)とした。両群に新K式とWISC-Ⅳを1ヶ月以内に実施し, 各指数の比較検討を行った。比較には, 全検査領域(全領域DQと全検査FSIQ), 言語性領域(言語・社会DQと言語理解, ワーキングメモリー), 非言語性領域(認知・適応DQと知覚推理, 処理速度)の3領域を用いた。統計にはSpearmanの順位相関係数を用い, 有意水準はBonferroniの補正を行った上でp<.002とした。【研究結果】① ASD群内の新K式とWISC-Ⅳの比較ASD群内の比較では, 言語・社会DQと言語理解に強い相関を認めた。ASD群9名のうち7名が言語・社会DQ>言語理解であった。他の指標においては相関を認めなかった。② 定型発達群内の新K式とWISC-Ⅳの比較定型発達群内の比較では, いずれの指標においても相関を認めなかった。【考察】ASD児においては, 言語発達面においてのみ新K式とWISC-Ⅳに相関が認められたが, 新K式DQがWISC-ⅣIQよりも高く算出されやすいことが推測された。新K式とWISC-Ⅳは異なる背景を持つ検査であり, 縦断的な評価には慎重を期す必要があることが示唆された。今後も症例数を増やし, 更に検討する予定である。
著者
谷亀 高広
出版者
高森町蘭植物園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

研究目的:本申請では、移植、栽培が困難な野生ランであるムヨウラン属植物を対象とし、(1)日本国内に自生するムヨウラン属植物全12種の菌根菌の多様性を明らかにすることでムヨウラン属植物が、どのような菌根菌と共生し、生育しているのかを明らかにし、(2)比較的個体数の多いムヨウランについて、菌根菌の分離培養および外生菌根形成試験を行い、樹木、菌根菌の共生系が確立させ、(3)そこへムヨウランの種子を播種し、種子発芽から開花に至るまで栽培することで、ムヨウラン属植物の増殖技術確立のための基礎的知見の集積を行うことを目的とするものである。研究方法:新潟県~沖縄県に至る広範囲な地域よりムヨウラン属植物の根の一部を125株分採集した。実験室に持ち帰り、菌根菌の菌糸塊を抽出し、そこからDNAを抽出し、ITS1・ITS4のプライマーを用いrDNAのITS領域を増幅した後、シーケンスを行うことでDNAの塩基配列を決定し、菌根共生する菌種を特定した。菌根菌の分離培養には、外生菌根性菌類の培養に使用するMMN培地を使用し、根から菌糸塊を抽出し培養した。研究成果:ムヨウラン属植物はベニタケ科のチチタケ属およびベニタケ属菌に特異性を持ち生育することが明らかとなった。この菌への特異性は種によって大きく異なり、エンシュウムヨウランについては採集した4地点すべての個体よりチョウジチチタケに極めて近縁な菌種が高頻度で検出された、それに対しクロムヨウラン、ムヨウラン、ホクリクムヨウランなどの種ではベニタケ属、チチタケ属の様々な菌種が分離され、菌根菌への強い特異性はみられなかった。また、南方に分布するシラヒゲムヨウラン、アワムヨウランなどはAtheliaceaeの菌種も菌根菌となることも明らかとなった。全体の結果から、南方起源のムヨウラン属が温帯地域に適応するに従い、チチタケ属植物の特定の種と共生関係が構築されるようになったことが併せて想定された。菌根菌の分離培養は、チチタケ属菌の菌根菌が10系統分離された。しかし、ベニタケ属菌やAtheloaceaeなどの菌根菌は分離培養することができなかった。その理由として、これらの菌種は樹木に外生菌根を形成することが知られていることから、特殊な栄養要求性を有しているのがその原因と考えられる。これらの菌株を外生菌根性樹種であるコナラの実生苗の根に定着させ外生菌根を形成させる実験を行ったが、現在のところ菌根形成は確認されていない。本研究ではサンプリングと実験に多大な時間を要したので菌根定着試験を行う段階にまで至らなかった。
著者
美根 大介
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:鍼灸治療においては四肢末梢部にある経穴の刺激で、疼痛の軽減だけでなく身体の柔軟性が高まることが経験される。これを利用出来れば、高齢者や運動習慣のない人、障害を持つ人々に対して、怪我の予防や運動を行ないやすい身体づくりの一助となる可能性が考えられる。本研究では、この現象を検証し客観的に測定することを目的とする。○研究方法:対象は健常成人6名(平均年齢34.2歳)とした。身体の柔軟性を評価する項目には、体幹および下肢の柔軟性評価として指床間距離と下肢伸展挙上角度を、上肢の柔軟性評価として肩関節屈曲、外旋、内旋角度を測定した。はじめに上記項目を測定し、ストレッチ効果を除外するため1時間以上の間隔を空けた後、コントロール(無刺激)ではそのまま2回目を測定、各経穴への鍼刺激では2回目測定前に30秒間の鍼刺激を行い、1回目と2回目の変化を観察した。使用した経穴は「合谷」「曲池」「足三里」「太衝」の4部位とし、それぞれの経穴ごとに1週間以上の間隔を空けて測定を行った。○研究成果:肢伸展挙上角度、肩関節屈曲、外旋、内旋角度に関しては、コントロール、各経穴刺激ともに大きな変化は認められなかった。指床間距離の前後差はコントロールにおいて平均-6.7mmの柔軟性低下傾向がみられたのに対し、各経穴刺激では「合谷」平均13.31m、「曲池」平均22.5mm、「足三里」平均22.5mm、「太衝」平均20mと柔軟性が高まる傾向がみられた。下肢伸展挙上角度および肩関節可動域に変化がみられなかったことは、対象が健常者であり元々制限が少なかったことや、これらの制限因子が主に靭帯などの伸張性の乏しい組織によることなどが考えられた。指床間距離では背筋鮮を中心とした大きな筋群の影響を受けていることから、鍼刺激による筋緊張の変化が出やすかったものと考えた。今回、部位の違いにおける特異性は見出せず、四肢への鍼刺激は一様に体幹の前屈柔軟性を高める可能性が示唆された。
著者
中村 菜穂
出版者
大東文化大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

<研究目的>本研究は、文学テキストおよび視覚資料を用いたペルシア語教授法の研究を目的として行われた。特に大学の語学教育が置かれた現状に鑑み、学習者の意欲向上および教育内容の充実化を図ることを目的とした。<研究方法>上述の目的のため、本研究はペルシア語によって構築されたイランの文化に着目し、文学テキストや視覚資料を語学教育に活用するための調査研究を行った。第一に、既存のペルシア語教材および語学関連書籍を国内外で収集し、比較分析を行った。それらの分析をもとに、教材サンプルの作成、および文学・文化を中心とするペルシア語教授法の開発に取組んだ。また写真や映像等視覚資料の収集を行い、授業において活用した。<研究成果>本研究の取組みにより、授業内では学習者の意欲を一定程度向上させることができた。特に、イランの文学および文化に関する書籍や映像資料を用いることで、当該地域の言語文化についての学習者の知識と関心の幅を広げることができた。それとともに、多様な教材・教授法の比較検討から、主にペルシア語学に関する、現時点で未解決の問題も明らかになった。これらの成果および今後の課題について、2016年3月6-7日にテヘランで行われた国際会議に出席して報告を行った。その後、現地で得られた知見を含め、2016年3月26-27日に大阪大学で開催されたイラン研究会において本研究の成果報告を行った。特に上記の国際会議で、ペルシア語学そのものに関して、イラン本国での最新の議論に触れることができた点、またペルシア語教育が抱える問題点について参加各国の教育者と情報交換ができた点は、当初の計画に含まれていなかったものの、ペルシア語教育の世界的な動向や水準を知るうえで、大きな収穫であった。また国内の研究会においてもペルシア語教育の今後のあり方をめぐって活発な議論が行われた。
著者
塩澤 彩香
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、新規抗リウマチ薬イグラチモドによるワルファリン代謝阻害の機構を明らかにすることを目的とし、解析を行った。プールドヒト肝ミクロゾーム(HLMs)および組換えCYP2C9(rCYP2C9)を酵素源として用い、S-ワルファリン7-水酸化酵素活性に対するイグラチモドの影響を検討した。イグラチモドはHLMsおよびrCYP2C9の活性を濃度依存的に阻害し、IC_<50>値はそれぞれ14.1μMおよび10.8μMであった。阻害の速度論的解析を行った結果、イグラチモドは両酵素源に対して競合型の阻害様式を示した。HLMsおよびrCYP2C9に対するK_i値はそれぞれ6.74μMおよび4.23μMであった。イグラチモドによる阻害が代謝依存性を示すか否かを明らかにするため、プレインキュベーションの影響について検討したところ、NADPH存在下で各酵素源とイグラチモドを20分間プレインキュベートしても、IC_<50>値の低下は認められなかった。Obach RSら(J. Pharmacol. Exp. Ther., 316, 336-348, 2006)の方法およびコルベット錠25mg(イグラチモド製剤)のインタビューフォームに記載された方法を用いて、本研究で得られたHLMsのK_i値と肝臓中の非結合形薬物濃度(約0.8μM)から、臨床での薬物間相互作用の可能性について推察を試みた。その結果、S-ワルファリンのAUCはイグラチモドと併用することによって約2.3倍の上昇が見込まれた。カペシタビンを併用したときのワルファリンの体内動態および薬効の変動を解析した臨床研究では、S-ワルファリンのAUCが1.57倍増加したとき、PT-INRが1.91倍上昇したことが報告されている(Camidge R et al., J. Clin. Oncol., 23, 4719-4725, 2005)。これらのことから、イグラチモドとワルファリンを併用したとき、イグラチモドがワルファリンの代謝を阻害し、プロトロンビン時間を延長する可能性が示唆された。以上の結果から、イグラチモドはそれ自体がワルファリンの代謝を阻害することが明らかとなった。臨床で報告されたイグラチモドとワルファリンの相互作用の機序の1つとして、イグラチモドによるCYP2C9活性の阻害が考えられた。
著者
中野 道彦
出版者
静岡県工業技術研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

イムノクロマト法は、簡便であるにもかかわらず、特異性が高く正確な検出方法である。そのことからベッドサイド診断に適した方法として、近年、重要性が高まっている。一般に、イムノクロマト法は、抗原-抗体反応に伴って反応試験紙上の特定の場所に金コロイドが集積し、その集積による赤紫色の呈色を目視で判断する。このとき、目視可能な呈色は、試験片のごく表層に集積した金コロイドのみを反映しているに過ぎないため、厚み方向の集積量を判断に生かすことができていないといえる。そこで、厚み方向全体にわたる金コロイドの集積を計測することで、イムノクロマト法を高感度化することを試みた。模擬試料として、C反応性タンパク質(CRP)を検出するイムノクロマト法キットを用いた。金コロイドを測定するために、試験紙上の金コロイド集積部を上下から挟み込むようにして設置する電極を作製した。異なる濃度のCRP溶液をそれぞれキットに添加したあと、金コロイド集積部を、作製した電極で挟み、その電極間の静電容量を測定した。対照実験として、金コロイドの集積を反射光強度で測定する光学測定器でも同様に測定した。その結果、反射光強度の場合は、測定下限がCRP量0.5ngであったのに対し、今回作製した電極では、0.1ngであった。反射光強度測定は目視と同程度であるため、今回作製した電極を用いることで、目視よりも高感度に測定できるようになったといえる。一方で、金コロイドの集積を測定する新しい方法として、微小電極の使用についても試みた。ガラス基板上に微小電極(電極間距離:約30μm)を作製し、その電極間に金コロイドを集積させて、電気抵抗および静電容量を測定した。金コロイド溶液を純水で希釈して、その希釈率に応じた電気抵抗/静電容量を測定したところ、いずれの値も金コロイドの希釈率に依存して変化した。
著者
北脇 義友
出版者
瀬戸内市立国府小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

岡山藩は備前地域と備中地域からなるが、現在までに備前地域では17世紀の墓が約400基、備中地域では約320基の儒教の墓を見付けることができた。備中地域の儒葬墓は、約8割方の地域の調査が終わった。これまでの調査から、藩主池田光政が進めた儒教政策によって武士や領民は儒教の墓を造った。さらに、備前国では、湊町の牛窓村・片上村にそれぞれ約20基のまとまった儒葬墓が見つかった。このことから、この二つの村では一時ではあるが、儒教が広がっていた。管見の知る限り領民の儒教としては最も古いと思われる。さらに備中地域でも、大庄屋一族が儒教の墓が造ったことがわかった。しかし、備前地域と備中地域の墓の形式は異なっている。会津藩では、儒葬の墓地として寛文4年(1664)に指定した大窪山で17世紀の儒葬墓26基を見付けた。そして、この墓地で最も古いのは1674年で藩主保科正之の死後造られ始めたことが分かった。水戸藩では、儒教の墓地として指定した酒門墓地と常盤墓地について調査した結果、17世紀の墓23基を採取した。この中で特徴的であったのは「香取氏幻心居士墓」(1684年死去)と戒名をもった墓の存在であった。これは仏教と妥協を図ったと考えられる。岡山藩と儒葬墓を比べると会津藩と水戸藩では少なく、岡山藩と比べて儒教の広がりは限定的であった。土佐藩では、家臣の儒葬墓が散在していることから、多くが未調査である。今回の調査では、岡山藩・会津藩・水戸藩と比べて古い時期から儒教の墓が造られている。儒者小倉三省の父(1654死去)の墓は棹石の下部に蓮華を刻み、ここでも仏教と妥協を図っている。さらに墓石の背後に長方形の石垣を積み、独特の墳をもっている。近世における儒教は17世紀後半に家臣を中心に広がっていった。そして、この事態の墓は、多様性をもっていることが分かった。
著者
堀江 翔
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

【研究目的】交代浴は,痔痛や浮腫の軽減,関節軟部組織の伸張性を高めるために臨床上用いられる.またNeurometer(東洋メディック)は,2000Hzと250Hz,5Hzの3種類の正弦波形の電気刺激を与え,認知可能な最小電流量である電流知覚閾値(以下CPT)を測定する末梢神経検査装置で,2000HzはAβ線維,250HzはAδ線維,5HzはC線維の評価が可能である.交代浴に関する末梢神経への影響に関する報告はないため,今回はNeurometerを用いて交代浴による各神経線維への影響を検討した.【研究方法】対象は健常女性12名12右手で年齢21.8±0.4歳であった.本研究は本大学倫理審査委員会の承認を得て,被験者に同意を得た上で実施した.交代浴の方法は40~42℃の温水と12~14℃の冷水を準備して,右手関節より遠位部を温水4分間,冷水1分間の温冷あるいは冷温の順の交代浴を各5セット行ない,その後に温冷温では温水4分間,冷温冷では冷水1分間実施した.CPT値の計測は交代浴直前と直後,交代浴30分後とした,Neurometerの電極は,右中指の遠位指節間関節に取り付け,測定は2000Hz,250Hz,5Hzの順で二重盲検法にて行った.交代浴直前と直後,直前と30分後のCPT値の比較は対応のあるt検定を,さらにボンフェローニの補正をおこない有意水準は5%とした.【研究成果】温冷温において2000Hz,5Hzの交代浴直後のCPT値は直前より有意に大きかった.冷温冷において2000Hzで直後と30分後は直前より有意に大きく,250Hzで直後は直前より有意に大きかった.両方法とも30分後の250Hz,5Hzは有意差がなく,交代浴のAδ,C線維への影響は持続しなかった.痛覚に寄与するAδ,C線維はともに交代浴直後のみのCPT値の上昇であった.つまり交代浴による痔痛軽減の持続的効果は,末梢神経への影響だけでなく,感覚受容器や発痛物質など他の要因の影響も示唆された.
著者
富田 隆
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

【目的】非定型抗精神病薬や抗てんかん薬を服用すると、肥満や糖尿病などの副作用を発症することが知られている。これらの副作用は、コンプライアンスの不良を招くなど、治療上の大きな問題になっている。特に、肥満は深刻な副作用であるにもかかわらず、その発症メカニズムは不明な点が多く、予防法も確立されていない。そこで、肥満病態との関連が示唆されているアディポネクチンに着目し、以下検討した。【方法】マウス3T3-L1細胞を刺激して分化させた8日目の脂肪細胞を対象とした。まず、脂肪細胞に非定型抗精神病薬であるオランザピンとアリピプラゾール、抗てんかん薬であるバルプロ酸を作用(12時間、24時間)させ、アディポネクチンの発現に及ぼす効果を検討した。その効果は、ウエスタンブロット法あるいはReal Time-PCR法で評価した。次に、脂肪細胞にタウリンを作用させ、アディポネクチンの発現が促進するか否かを検討した。その効果は、ウエスタンブロット法で評価した。【結果】オランザピンとアリピプラゾールは、アディポネクチンの発現に影響しないことを明らかにした。また、すでに報告されているように、バルプロ酸でアディポネクチンの発現が抑制されることを確認した。新たに、タウリンでアディポネクチンの分泌が一過性に促進されることを見出した。【考察】非定型抗精神病薬や抗てんかん薬を服用すると、血清中のアディポネクチン濃度が低下する可能性がある。本研究の結果から、脂肪細胞におけるアディポネクチンの発現抑制はこれらの薬物の短期作用ではなく、長期作用により引き起こされると考えている。現在、長期作用の影響を検討している。一方、タウリンでアディポネクチンの分泌が促進されたことから、非定型抗精神病薬や抗てんかん薬を服用している患者にタウリンを投与することで肥満などの副作用が予防できる可能性が示唆された。
著者
建部 泰尚
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究目的】小児難治性疾患である悪性腫瘍のうち白血病が最も多く、本研究対象の急性骨髄性白血病(AML)は約25%を占める。近年、染色体異常やそれに伴う遺伝子異常により予後を層別化して行う化学療法と造血幹細胞移植により予後は改善したが、一方で一部の再発・初発時治療抵抗例は予後不良であり、さらなる予後不良例の同定方法・代替治療の早期開発が望まれる。小児AMLでは、DNAプロモーター領域のメチル化によってがん抑制遺伝子の発現抑制されていることが報告されているが、その検討は十分ではない。そこで、本研究では小児AMLの予後不良群の同定するマーカーとして、また脱メチル化薬であるアザシチジンの奏効性を判断するコンパニオン診断マーカーとしてDNAメチル化が有用ではないのかと仮説をたて、その有用性について検討した。【研究方法】岡山大学病院小児科でAMLと診断された患児の初発期、寛解期、再発期それぞれから採取した骨髄よりQIAamp DNA mini kit(Qiagen社)を用いてDNAを抽出した。メチル化陽性コントロールとしてはHela細胞、陰性コントロールとしては健常小児DNAを用いた。25種類のがん抑制遺伝子中のメチル化を検出するMS-MLPA用プローブ(MRC-Holland社)を用いてPCRによって増幅後、シークエンサーにて検出を行った。さらに培養細胞とAML初代培養細胞を用いてMTSアッセイによってアザシチジンの抗腫瘍効果を検討し、リアルタイムPCRによって妥当性を検証した。【研究成果】小児AML患者21人の初発期検体よりCDKN2B, CADM1, TP73, CDH13, ESR1, APCのメチル化が検出された。一方で寛解期には全例メチル化は検出されなかった。21人中9人が再発していたが、再発期でメチル化が認められた遺伝子はCDKN2B, CADM1, ESR1, FHITであった。再発期に検出された4遺伝子のメチル化は治療抵抗性、あるいは再発に関与している可能性があり、予後不良マーカーとなる可能性が示唆された。これまでに我々はアザシチジンがAML細胞株に対して抗腫瘍活性を示し、DNA脱メチル化を引き起こすことを確認している。その再現性を確認した後、患者より得られるAML初代培養細胞で同様に得られるか評価しようと試みた。しかし、細胞の精製、腫瘍細胞数などの問題により系を確立するに至らなかった。
著者
浦井 誠
出版者
石川工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

田舎では地域住民によって公共施設周辺や道路の清掃活動が労働奉仕の形で行われ、住環境保全と地域環境の美化に寄与している。側溝には土砂、枯葉、一般ゴミが溜まりやすく、これらの除去は機能の維持、住環境保全の意味からも重要な作業であるが、高齢化社会となり、この清掃活動は重労働であり困難な場合が多い。そこで本研究では、住環境整備作業を行う上で、できるだけ少ない側溝蓋の着脱回数で軽作業化を図り、わずかの人数でいつでも側溝内の清掃除去作業ができる移動型の作業ロボットの開発を目指した。○研究実施内容(1)住環境整備作業を実施する現地調査・確認と写真による記録・側溝蓋の重さ、土砂やゴミの堆積状況、種類、量、除去に必要な労力を検討した。(2)側溝蓋取り外し器具のwebによる調査と設計・製作・軽量で扱い易く、安価で小型で簡単に準備・収納できることを基本に調査・考察し、押してやることで側溝内を移動できる蓋除去リフタを製作した。(3)清掃作業ロボットの仕様策定と設計・製作・重量は10kg以下、手動操縦により動き、移動速度は1~2km/hの目標で製作した。実機の重量は7kg、移動速度は1.3km/hとなり、ロボット本体上部にCCDカメラ、LEDライトを搭載し、作業者がモニタを通して確認でき、状況に応じた作業ができるようにした。○研究成果として以下のことが分かった。あわせて今後の課題も明らかとなった。・ロボットの防水と回収ゴミ・土砂をある程度溜められるようにしなければならないので、目標の10kg以下とすることは難しい。・人間が屈んで側溝内のロボットが回収したゴミ等を取り出さねばならず、また製作の蓋除去リフタも高齢者には負担が大きい。・側溝の底面だけでなく、側面も同時に清掃できるような機構にする。実用には程遠く、満足できるものではない。仕様から考え直して今後も継続して取り組んでいく予定である。