著者
中村 潤 玉田 春昭
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.454-473, 2020-02-15

大量のプログラムからソフトウェアの盗用を発見するために,ソフトウェアバースマークが提案されている.バースマークは,プログラム中の特徴を抽出し比較を行い盗用を発見する技術である.従来のバースマークで想定している対象のプログラム数は数百から数千程度であり,それを超えて比較する場合,現実的な時間では比較できない場合もある.そこで本稿では,対象となるプログラムの大幅なスケールアップかつ,盗用検出に要する処理時間の短縮を目的とする.そのために,対象プログラムの比較の前に,精度は高くないが高速に比較できる手法を用いて,無関係なプログラムを除外することを考える.これを絞り込み段階として,従来の抽出段階,比較段階の間に導入する.提案手法に基づき,バースマーク絞り込みシステムMitubaを構築し,実験を行った.評価項目は所要時間,絞り込み率,誤検出,検出漏れ,精度,そして,保存性の6項目である.結果は,盗用か否かを判定するための閾値が0.2のとき,所要時間は従来の40%以下に抑えられ,80%以上のプログラムが無関係と判定された.残ったプログラムのうち,誤検出は90%程度と非常に高いものの,検出漏れは0%であり,精度も70%以上となっている.また保存性評価においても,一番強力な難読化が施された場合であっても80%以上のプログラムを見つけ出せ,良好な結果を示している.これらの結果をもとに最適な閾値を議論した結果,標準的には0.6程度の閾値が最適であるが,ユーザの問題設定によっては,閾値が0.2でも本手法は有効であることを示した.
著者
中谷 多哉子 兼宗 進 御手洗 理英 福井 眞吾 久野 靖
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.1610-1624, 2002-06-15

初中等教育での情報教育の準備が進められている.オブジェクトストームとは,コンピュータへの興味を持たせつつ,楽しませながら,オブジェクト指向プログラミングを介してコンピュータの基本的な原理を理解させる情報教育コンセプトである.ドリトルは,オブジェクトストームに基づいて開発された日本語オブジェクト指向プログラミング言語である.ドリトルは,オブジェクトの効果的な見せ方の1つとして,タートルグラフィックスを含む図形環境を提供しており,簡潔で分かりやすい文法を持っている.本稿では,中高校生を対象に行った実験授業の成果を示すとともに,オブジェクトストームの概念を紹介し,ドリトルの教育効果と可能性について議論する.
著者
吉次 なぎ 阿部 真也 山本 佳世子
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2325-2329, 2019-12-15

一般に避難先や避難経路の候補は複数存在し,最適な避難先と避難経路を直感的に導くことは難しい.「安全で迅速な避難」のためには,複数の避難先への複数の避難経路を求め,それらの優先度を比較することが必要である.経路探索アルゴリズムは単一の始点と終点を結ぶ単一の経路を求めるため,複数の避難場所へ向かう複数の避難経路の優先度を定量的に求めることはできない.粘菌アルゴリズムでは始点と終点を複数設定すること,複数の避難経路の優先度を同時に計算することができる.そこで本稿では,粘菌アルゴリズムによる避難経路導出手法を提案する.提案手法により複数の避難先への複数の避難経路の優先度を定量的に比較できることが確かめられた.
著者
仁木 賢治 新谷 公朗 糠野 亜紀 金田 重郎 芳賀 博英
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.601-614, 2009-02-15

保育所では,子どもの発達状況を記録する「発達記録」の作成・保存が,厚生労働省の指導によって義務付けられている.発達記録については,作成・保存するための発達記録システムが数社から市販されている.しかし,既存の発達記録システムでは,子ども1人ひとりの発達傾向を表示するグラフ機能は持っているが,クラス全体の保育傾向を示す機能は持っていない.そこで,本論文では,保育者の保育傾向をグラフによって読み取ることのできる,発達記録システムを提案する.具体的には,ヴィゴツキーの発達の最近接領域理論を観察項目スコアの付与方法に適用する.これによって,発達記録を作成する際の項目間のスコア付与基準のバラツキを排除する.次に,発達記録データを主成分分析し,その第1主成分を保育者にフィードバックする.プロトタイプシステムを用いて評価データを取得し,その第1主成分を保育者に提示するとともに,グラウンデッド・セオリ・アプローチで分析した.その結果,第1主成分には保育者の視点が反映されることを確認できた.
著者
坂村 美奈 米澤 拓郎 伊藤 友隆 中澤 仁 徳田 英幸
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.2162-2174, 2016-10-15

市民参加型まちづくり(Participatory planning)とは,まちづくりの過程に市民を巻き込むことであり,実際の都市の中で起こっている問題を素早く発見,解決できる可能性が高い.市民参加型まちづくりを促進するためには市の職員と市民の間での日常的なコミュニケーションを活性化することが重要である.本研究の目的は,人々が日常的に持つモバイル端末やPC端末を通して情報をやりとりする参加型センシングを市民参加型まちづくりにも適用することである.既存の参加型センシングの例では,質問の内容カテゴリが限定的なものや,市民の意見収集,意見交換を行うための特定のアプリケーションのインストールが必要であるものが存在する.また,市民から提供された情報はプライバシ情報を除いたオープンな情報であることやシステムの操作が容易であることが望ましい.本研究ではこれらの課題を解決し,市民参加型まちづくりのための参加型センシングシステム,MinaQnを提案する.本研究ではMinaQnを2週間にわたって3都市(藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町)の公式ホームページに組み込み,市の職員および市民に利用してもらう実証実験を行った.全体として1,000個以上の回答データと市の職員および市民からのフィードバックを得ることで,定性的および定量的な評価を行い,将来異なる地域や多くの市民に持続的に参加してもらうためにはどうすればよいか,これからの参加型センシングシステムのデザイン指針を示した.特に災害時において今後より多くの市民に位置情報を提供してもらうためには,質問の意図説明やプッシュ通知など市からの積極性が必要なことや,市の職員が実際に自由な質問設定をするために自治体の中あるいは市全体で議論し質問内容の枠組みを増やしていけるような取り組みや制度の策定が必要なことが分かった.
著者
坂本 崇 梶川 嘉延 野村 康雄
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.1901-1909, 1999-04-15

本論文では 非線形判別分析を用いて 計算機に与えた楽譜情報からその曲の特徴や印象を自動的に抽出し 任意のグループに分割する手法を提案する. 特定の演奏者による演奏の個性や芸術性を抽出する際 情報処理的な観点からのアプローチを行うとして 演奏者がどのように楽譜を解釈し 演奏に至るかという命題の解決策は (1)楽譜に記述されている情報や音楽理論を考慮したプロダクションシステムによるルール生成法 (2)ニューラルネットワークを用いた解法 (3)重回帰分析を用いた解法などが報告されている. これらの一問題点として 演奏者は楽曲の特徴や印象に応じて奏法を変える事実が存在するにもかかわらず 処理を行ううえで明示的に考慮されたものが存在しないことがあげられる. 本論文ではその問題点を解決すべく まず 因子分析やSD法を用い 実際のリスナーの立場に立った心理聴取実験を行う. そして ニューラルネットワークによる非線形判別分析を用い その楽曲はどのような印象を持つかをコンピュータが自動的に判別し その印象にふさわしいグループに振り分ける手法を提案する. なお このシステムでは未知の楽曲においても88%の精度でその曲印象を判別させることに成功した.
著者
滝澤 修 松本 勉 中川 裕志 村瀬 一郎 牧野 京子
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.1977-1979, 2004-08-15

プライバシ保護などに利用できるステガノグラフィ(秘匿通信)は,情報の埋め込み媒体が持つ情報の冗長性を利用するため,画像や音響信号など冗長度の高い媒体について多く提案されてきた.本論文では,ディジタルドキュメントを埋め込み媒体とし,文書内に挿入された改行コードの位置を秘匿情報とするテキストステガノグラフィを提案する.提案手法はドキュメントのレイアウト情報を利用しないため,電子メールのようなプレーンテキストに対しても秘匿情報の埋め込みが可能で,文字通信においてプライバシを保つ手段として利用できる.
著者
佐藤 直之 藤木 翼 池田 心
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.2337-2353, 2016-11-15

本稿は「戦術的ターン制ストラテジ」という,チェスや将棋と似た形式でアプローチしやすく,また同時に3つの興味深い課題を含むAI設計の問題クラスを記述する.その課題とは,1つ目は行動数の組合せ爆発で,同ゲームでは1手番ごとのbranching factorがしばしば億のオーダに達する.2つ目は局面評価に関するもので,毎回異なる初期局面から生じる多様な局面群に対し,駒間の循環的相性も考慮して駒価値を適切に与えなければならない.3つ目は攻撃行動組合せの扱いが要する繊細さで,同ゲームでは攻撃行動の適切な組合せで数十体の駒ものがたった1手番で消滅することがあり,そうした影響力の行使および相手からの行使の予防が重要になる.我々はこれらの課題を,具体的状況と既存のAI手法を例に用いて論じた.複数のアプローチを提案しそれぞれの長所と短所を整理して,同問題においてAI設計者が考慮すべき課題の特徴を明らかにした.
著者
長谷川 達人 越野 亮
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.2186-2196, 2016-10-15

本研究では,スマートフォン標準搭載のセンサを複合的に用いてDNN(Deep Neural Network)で学習させることで,スマートフォンが利用者の身体上のどの位置に所持されているのかを推定するシステムを開発する.スマートフォンの所持位置が推定できることで,ポケットの中での誤動作防止や,位置に応じた通知方法の自動変更など,様々なコンシューマサポートが実現できる.本研究では,利用者がスマートフォン所持中に最もとりやすい動きである歩行を対象に,ズボン前ポケット,ズボン後ポケット,胸ポケット,内ポケット,ジャケットポケット,鞄,手という所持位置7種類の推定を行う.被験者16人に対して実験を行い,Leave-one-subject-out Cross-Validation(LOSO-CV)で推定精度を評価した結果,81.7%の精度で所持位置7種類を推定し,胸ポケットと内ポケットを区別しない6種類の推定では86.7%の推定精度を達成した.また,センサを複合的に用いることで推定精度が向上するという点や,加速度センサの値の扱い方によって推定精度が向上することを明らかにした.
著者
半田 剣一 浜田 喬
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.482-489, 1985-05-15

高級言語の使用により 信頼性の高い分散処理システムを効率的に記述できる.本論文は分散処理システム記述用の高級言語DPLと そのプログラムを目的計算機上で実行するための仮想計算機DOVEについて述べている.DPLはプロセスを単位とした分散処理プログラムを従来の並列プログラミングの手法を使って記述できるPascal系の言語である.DPLは任意のノード上に動的にプロセスを生成でき それらプロセス間の通信はノードの違いを意識せずに手続き呼出し型の形式で記述できる.またプロセスの同期にはguarded regionを採用し システム機能に必要な柔軟な処理が記述可能である.DPLシステムは システム全体を統合的に記述したDPLプログラム自身と 各ノードにあたる計算機のアーキテクチャの相違を吸収しプログラム実行をサポートする仮想計算磯とに階層が分かれる.後者はDPLシステム内のすべてのノード上に実装されるべきソフトであり DOVEはとくに親ノード上の仮想計算機としての機能をもっている.実際のノード間データ通信もDOVEがサポートするものであるが データ型式の統一によりその処理は非常に簡潔なものとなった.実行テストは単一計算機でのシミュレートであるが 十分DPLおよびDOVEの有用性を確かめられるものであった.
著者
高田 喜朗 辻野 嘉宏 都倉 信樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.290-298, 1997-02-15

ヘルプシステムやWWW(World Wide Web)など 計算機アプリケーションのいくつかの分野でハイパーテキストを利用したシステムがよく見られるようになってきている.ここでは 大量の情報(文書)が個別に提供され それらをユーザが効率良くアクセスできるように検索のためのメニューとその間のリンクを構築する問題を考える.ユーザが効率良くアクセスするためには 操作の手間が平均的に小さいことが必要になる.また キーワードとそれからアクセスできるページの集合(カテゴリ)は意味的に対応づけられ ユーザが目的のページを検索するのに途中のメニューで迷わないようにしなければならない.本論文では 与えられたキーワードとカテゴリの関係を保つリンク構造すべての中から平均アクセス時間が最小なリンク構造を求める効率の良いアルゴリズムを示す.
著者
鈴木 敏明 梶原 貴利 本橋 知子 小村 和司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2245-2258, 2019-12-15

近年,自動車等の多様な移動体が通信ネットワークに接続され,通信ネットワークを経由した管理やサービスの提供が進展している.一方,通信ネットワークにおいては,アプリケーションサービス等を提供するサーバに対して,遠隔の端末から多数の不要データを送信することにより,通信ネットワークにおける帯域不足を誘発する等のサイバー攻撃が発生している.従来は,固定端末等からのサイバー攻撃が主であった.今後は,移動体を対象としたサイバー攻撃対応が望まれる.本論文では,異常フローを送信する移動体の基地局間移動を対象とし,移動後においても遅滞なく異常フローの遮断継続が可能な方式を提案する.提案方式では,複数の基地局が存在する領域をリージョンとして管理し,リージョン単位にゲートウェイで異常フローを遮断する.特に,異常フローを送信する移動体が接続する基地局エリアに対して隣接する基地局エリアすべてに遮断を設定する.また,各リージョンに設置した管理サーバが遮断情報を共有する分散型のネットワーク管理により,隣接リージョンに対しても遮断の設定が実行される.これにより,異常フローを送信する移動体が基地局間を移動するようなモバイルネットワークに対して,遅滞のない異常フロー遮断が可能となる.
著者
松本 隆志 瀧本 栄二 齋藤 彰一 毛利 公一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2269-2278, 2019-12-15

情報漏洩インシデントの主な原因は,人為的なミスによるものであると報告されている.我々はこの問題に対して,これまでファイルごとにデータ保護ポリシを設定可能(以下,ポリシ)とし,ポリシで禁止された範囲へのプロセスによるデータの出力・送信を検出・禁止することによって人為的なミスによる情報漏洩を防止するセキュアシステムSalviaシリーズの開発を行ってきた.それぞれの差異は,主として,プロセスが扱うデータフローの追跡手法であった.本論文では,動的テイント解析機能を有するハードウェアエミュレータとOSの連携によって実現したTA-Salviaについて述べる.TA-Salviaの特徴は,(1) 1バイト単位でポリシを定義できる,(2)メモリ上において1バイト単位でデータフロー追跡が可能,(3)二次記憶装置においても同様に追跡が可能,(4) TA-Salviaどうしであればネットワークを越えたデータフローの追跡も可能な点である.本論文では,特に(4)について,その設計,実装および評価について述べる.評価では,実際にファイル共有やメール送信を行い,データを継続して追跡できていることを示した.
著者
金藤栄孝 二木厚吉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.770-784, 2004-03-15

Dijkstraのgoto文有害説とそれに引き続く構造的プログラミングの提唱以降,goto文の使用に関する問題は長く議論されてきたが,goto文の使用法に関しての理論的裏付けを持つ研究としては,逐次的プログラムの制御フローは3基本構造(順次接続,条件分岐,反復)のみで表現可能であるからgoto文を用いたプログラムは3基本構造のみによる等価なプログラムに書き換えられる,という結果に基づいたMillsらのgoto文排斥論以外は皆無であり,Dijkstra本来のプログラムの正しさを示す手段としてのプログラムの構造化という観点でのgoto文の使用の是非は,プログラム検証論の立場から考察されなかった.本論文では,プログラムの正しさを示すという検証手段としてのHoare論理に基づきgoto文の使用を再検討する.特に,多重ループの打ち切りの場合,goto文を用いて脱出するプログラミングスタイルの方が,Mills流のBoolean型変数を追加してループを打ち切るスタイルよりも,Hoare論理での証明アウトラインが簡単に構成でき,したがって,前者のgoto文を用いたプログラミングスタイルの方が,そのようなプログラムに対するHoare論理による検証上からは望ましいことを示す.
著者
増原 英彦 松岡 聡 米澤 明憲
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.1290-1298, 1996-07-15

並列自己反映言語システムは 並列アプリケーションの最適化等を簡潔に記述するメタプログラミングの機能を持つ一方 解釈実行に基づくモデルから来る効率上の問題を持つ.本論文では部分計算を用いた並列自己反映言語のコンパイル技法を提案する.この技法では 副作用について拡張された部分計算やプログラム変換を適用することで基本的に解釈実行を除去し 直接実行のみとする.並列計算機上の実験では 並列アプリケーションのメタレベルに記述された最適化が 7?17%のオーバヘッドで実行できるという結果が得られている.
著者
草野 有沙 西 由佳梨 北原 鉄朗
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.1978-1982, 2019-11-15

本稿では,テキストの順次表示機能とBGM機能により読書を促進するモバイルアプリケーションを提案する.読書に興味を持ちつつもあまり読書を行わない人々がいる.このような人々に対して,書籍の内容をゲーム風に表示できれば,読書のとっつきにくさは軽減されると予想される.本アプリでは,ロールプレイングゲームのようにテキストを1文字ずつ表示し,BGMを小見出しごとに切り替える.25名による実験の結果,よく読書をする人以外に対しては高い評価を得ることができた.
著者
斎藤 俊則 大岩 元
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.2856-2868, 2004-12-15

情報メディアとしてのインターネットの普及によって人々の情報受容のあり方が変化し,「情報内容を自分の力で批判的に吟味する力」すなわち,メディア・リテラシーの育成が教育の重要な部分を占めるようになってきた.情報教育という観点から,メディア・リテラシー教育を行う場合の「教育目標」,「教育内容」,「教育実践のモデル」を検討し,大学生への情報教育の一環として,記号学に基づくテキスト読解を行わせることを試みた.その結果,「情報の価値や信頼性」を吟味するためには,(1)メディアと自己との関係を中心に日常生活を再発見すること,(2) 社会的なコンテクストに注意を払わなければならないこと,(3) 無意識に設定している自分の視点を顕在化させること,が有効であることが分かった.
著者
徳久 悟 稲蔭正彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.1097-1112, 2007-03-15

本論文では,エンタテイメントシステムにおいてユーザが楽しさを得るための仕組みとして,ユーザのアクティブな身体動作を中心におく,創造・発見・遷移の3 つのインタラクションモデルを提案する.ここでの楽しさとは,ヒトが楽しさを覚える状態の形式的特徴をモデル化した,心理学者チクセントミハイのFlow 理論に基づく.本論文で提案する3 つのインタラクションモデルを適用した2 つのエンタテイメントシステムの評価およびモデル間の対照実験を通じて,モデルの有効性を検証する.
著者
石崎 一明 安江 俊明 川人 基弘 小松 秀昭
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.124-136, 2002-01-15
参考文献数
13
被引用文献数
1

本論文では,Java等の動的クラスローディングをともなう言語において,実装が容易な動的メソッド呼び出しの直接devirtualization手法を提案する.本手法では,動的メソッド呼び出しに対して直接devirtualizationされたコードと,メソッドがオーバライドされた場合に実行する動的メソッド呼び出しの2種類のコードをコンパイル時に生成する.最初は前者を実行し,メソッドのオーバライドが起きたときにコードを書き換えて後者を実行する.本手法では,コード書換えによって直接devirtualizationされたコードを無効化するので,脱最適化のような再コンパイルのための複雑な実装が不要である.一方,再コンパイルを不要にするためにコンパイル時に2種類のコードを用意するため,制御フロー上に合流点が生成される.一般に制御フローの合流点はコンパイラの最適化を妨げるが,本論文では合流点が存在しても十分な最適化を可能にする手法を示す.また本手法と他のdevirtualization手法を組み合わせてJavaのJust-In-Timeコンパイラに実装し評価を示す.その結果,devirtualizationを行わない場合に比べ,SPECjvm98とSPECjbb2000において0?181%(平均24%)性能を改善できることを示す.This paper presents a direct devirtualization technique for a language such as Java with dynamic class loading.The implemetation of this technique is easy. For a given dynamic method call, a compiler generates the inlined code of the method, together with the code of making the dynamic call. Only the inlined code is actually executed until our assumption about the devirtualization becomes invalidated, at which time the compiler performs code patching to make the code of dynamic call executed subsequently. This technique does not require complicated implementations such as deoptimization to recompile the method that is active on the stack. Since this technique prevents some optimizations across the merge point between the inlined code and the dynamic call, we have furthermore proposed optimization techniques effectively. We made some experiments to understand the effectiveness and characteristics of the devirtualization techniques in our Java Just-In-Time compiler. To summarize our result, we improved the execution performance of SPECjvm98 and SPECjbb2000 ranging from 0% to 181% (with the geometric mean of 24%).