著者
井ノ口 伸人 大杉 直樹 伏田 享平 渡辺 絢子 吉野 順 藤貫 美佐 渡辺 真太郎 戸村 元久 木谷 強
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.637-648, 2015-02-15

本稿では,アプリケーションソフトウェアを稼働させるための土台であるシステム基盤構築の工数見積りモデルの継続的な改善と普及展開について述べる.アプリケーションソフトウェア開発の工数見積りモデルについては多くの研究で有効性が報告されているが,企業のITシステム開発実務で広く利用されているとはいいにくい.システム基盤構築については工数見積りモデルの研究は少なく,利用事例も多くない.本稿では,NTTデータにおけるシステム基盤構築工数見積りモデルの継続的な改善と利用範囲の拡大について事例を報告する.規模を表すパラメータ8種類,基盤構築の難易度や能力を表すパラメータ12種類を,プロジェクトマネージャからアンケート調査でデータを収集した.重回帰分析で予測モデルを作成し,社内,国内グループ会社へ普及展開を行った.2008年度2つの部署のプロジェクト10件のデータから作成した見積りモデルを文書化して当該部署に提供していた取り組みは,2012年度20の部署から収集したデータ43件から作成した予測モデルをWebアプリケーションに組み込んで全国内グループ会社へ提供するに至った.2008年度に0.31であったモデルの相対誤差中央値は,2012年度に0.34に多少悪化した.一方,見積りモデル作成に利用したデータに基づき,2008年度はサーバ台数が3~15台の小規模システムのみを適用可能プロジェクトとしていたが,2012年度にサーバ台数3~70台の中大規模システムまで適用可能範囲を拡大した.2008年度5名であったモデルの年間利用者数は,2012年度には479名まで増加した.
著者
後藤 真孝 村上 瑛美 秋山 晴彦 村井 信哉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.525-533, 2015-02-15

本稿は,Webシステム等で用いられるメモリキャッシュサーバを大容量化するため,SSDを記憶領域として用いたSSDキャッシュサーバについて述べる.ストレージ上のデータを,TCP/IPネットワークにCPU処理を介すことなく直接転送できるハードウェアエンジンを用い,低応答遅延のSSDキャッシュサーバを試作し評価した.メモリキャッシュサーバの概要,ハードウェアエンジンの概要について述べ,試作したキャッシュサーバの構造について述べる.また,実機評価について述べる.SSDを4台使用することにより,4KBのサイズのデータ参照への応答を,1秒間に6万5千回実施することができた.また,そのときの応答時間は,約500μ秒であった.
著者
高林 哲 小松 弘幸 増井 俊之
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.3698-3705, 2002-12-15

インクリメンタル検索は情報検索やテキスト編集などの用途に広く用いられている.しかし,日本語の入力にはかな漢字変換という障壁があるため,キーボードから1文字入力するごとに検索を進めていくスムーズなインクリメンタル検索は従来,行うことができなかった.本論文では,指定された読みで始まる単語をコンパクトな正規表現に動的に展開してインクリメンタル検索を行う手法Migemoを提案する.我々はMigemoの実装および評価を行い,これまで困難であったスムーズな日本語のインクリメンタル検索が実現できることを示す.最後に各種の応用例を紹介する.
著者
井垣 宏 福安 直樹 佐伯 幸郎 柗本 真佑 楠本 真二
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.701-713, 2015-02-15

ソフトウェア開発教育の一環として,ScrumやXPといったアジャイルソフトウェア開発を採り入れたチームによるソフトウェア開発演習を実施する大学が増加しつつある.一方で,演習によるアジャイルソフトウェア開発教育には複数の課題が存在する.代表的なアジャイル開発フレームワークの1つとして知られるScrumでは,プロジェクトを検査し,自己組織的にプロジェクトの状況に適応し続けることが求められる.しかしながら,チームでの開発経験が少ない受講生には,プロジェクトの状況がどうであるかを検査すること自体が困難である.また,受講生によるチーム開発では,担当するタスクの種類や量が偏りがちである.我々はこれらの課題の解決を目指し,チケット駆動開発と呼ばれる開発手法とScrumフレームワークを組み合わせることにより,プロジェクトを定量的に評価する枠組みを構築した.実際に我々のプロジェクト定量評価の枠組みを用いてチームによるソフトウェア開発演習を実施し,複数の定量評価基準に基づいて,チームごとのプロジェクト評価を実施した.The universities which teach agile software development, such as Scrum and XP are increasing in number. On the other hand, there are some problems in agile software development exercise. The Scrum known as one of the leading agile software development framework requires inspection and adaptation of projects. However, it is difficult for students with few team software development experiences to inspect their projects. Moreover, the kind and quantity of the tasks which each student takes charge of tend to become imbalanced. In this paper, we propose a framework which combines a ticket management system and the Scrum for quantitative evaluation in team software development exercise. We conducted practical software development exercise with using our framework as a case study.
著者
長澤 勲 手越 義昭 牧野 稔
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.30, no.8, pp.1058-1067, 1989-08-15
被引用文献数
14

近年建築設計の分野では パーソナルコンピュータ上に実現されたCADシステムが普及し 設計作業の合理化に貢献している.しかし これらのCADシステムは 建築設計の幾っかの側面である設計図書の編集 構造計算 積算等の作業を個別的に支援しているのが現状であり 次のような問題点がある建築設計では 設計が完了した後で発注者の要求や施工上の問題点を解決するために頻繁に再設計が行われる.設計条件が変化した場合の再設計は 従来から行われている手作業と 個別作業の支援のシステムを併用する方法では 図面の変更や構造計算の基礎データを設計者自身が修正しなければならず十分な効果を上げることが因難である.本研究では 設計の個別的な支援による問題点を解決するため 次の特徴をもつCADシステムを開発した.(1)建築物の設計情報を一元的に表現した建築物モデルを中心として 意匠設計 構造設計 積算などの設計作業を支援するモジュールを醒置した・このことによって設計者は 設計データの変換にわずらわされることなく一貫して設計作業を進めることができる.(2)建築物モデルの一貫性を管理する建築物モデル管理機構を設け システムの保守を容易にした.(3)段計者が行う標準的な設計作業の流れを想定し これを一貫して支援できるように配慮した.実際の設計例に適用した結果 従来の方法に比べて設計期間を約1/20に短縮できた.
著者
橋本 正明
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.29, no.12, pp.1141-1150, 1988-12-15
被引用文献数
6

プログラムの入出力データのあいだの構造不一致が非手続き型言語へ及ぼす影響について議論する。さらに 筆者がすでに提案したプログラム仕様記述法PSDMにおける構造不一致の取扱いについて報告する.さて 非手続き型言語には利用者が構造不一致を意識しなければならないものがある・しかし 不一致はプログラム構造の決定要因であり プログラム仕様の決定要因ではないので 利用者が不一致を意識するのは望ましくない.そこで 利用者が不一致を意識しなくてよい言語もある.ところが 不一致を意識することを不要としたのに起因して 言語の理解性や記述性の問題が指摘されている.また このような書籍からプログラムを生成するには プログラム・ジェネレータが不一致を検出して解決しなければならないところで PSDMで規定された言語でも利用者は不一致を意識しなくてよい.しかも データが表している情報に着目した仕様も記述するので 言語の理解性や記述性の問題が緩和されている.この言梧からプログラムを生成するには プログラム仕様に基づいて作成された有向グラフを解析して 構造不一致を検出し解決する.この方法は まだ構造不一致の検出対象が脈絡不一致に限定され しかも検出精度に向上の余地は残ってるが ジェネレータを作成した実験の結果 実用的な性能を持つプログラムを生成することについて見通しを得ることができた.
著者
椎尾 一郎 辻田 眸
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.1221-1228, 2007-03-15
被引用文献数
4

PDA や携帯電話などの表示画面が小さな小型情報機器では,大きなサイズのWWW ページなどを閲覧する場合に,スクロール操作と閲覧操作を頻繁に繰り返す必要がある.本論文では,表示コンテンツのスクロール操作と編集操作を直感的に切り替える手段として,文鎮メタファに基づくインタフェース手法を提案する.平滑な机の上に紙片を置き,片手で紙片に文字を書き込もうとする場合,筆記具の先だけを紙の上において動かすと,文字を書くことができず紙が滑ってしまうことがある.このような状況では,人は,手のひらを使って,紙を押さえて固定して文字を書こうとする.手を使って文鎮のように紙を押さえるこの動作をメタファとして利用すれば,スクロールと編集操作をスムーズに切り替えるインタフェースが実現可能である.そこで,本論文では,ペン入力が可能なPDAなどの手のひらが当たる部分にタッチセンサを取り付けたデバイスを提案する.これにより,手のひらがタッチセンサに触れていないときに,ペンでドラッグするとコンテンツがスクロールするインタフェースを実現できる.本論文では,このインタフェースを実装し,地図,WWW ページ,写真を閲覧するアプリケーションを試作し評価した.Conventional scrolling methods for small sized display in PDAs or mobile phones are difficult to use when frequent switching of scrolling and editing operations are required, for example, browsing and operating large sized WWW pages. In this paper, we propose a new user-interface method to provide seamless switching between scrolling and other operations such as editing, based on "Paperweight Metaphor". A sheet of paper that has been placed on a slippery table is difficult to draw on. Therefore, in order to write or draw something on the sheet of paper, a person must secure the paper with his/her palm to avoid the paper from moving. This will be a good metaphor to design switching operation of scroll and editing modes. We have made prototype systems by placing a touch sensor under each PDA display where user's palm will be hit. We also have developed application programs to browse maps, WWWpages and photographs, which switch scrolling and other operation mode by the sensor output, and have evaluated them.
著者
根本 啓一 ピーター グロア ロバート ローバッカー 岡田 謙一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.83-96, 2015-01-15

本稿では,日本語版と英語版のウィキペディアを対象とし,ウィキペディアの記事を編集するユーザ間に存在する社会ネットワークが,記事編集という協調作業においてどのような影響があるかを分析した.記事編集に関わるユーザ間の社会ネットワークを計測するために,個々のユーザが持つユーザ会話ページへの書き込みによるインタラクションに着目した.英語版のウィキペディアでは,記事の質が最も高い3085の秀逸な記事と,比較的質の高い良質な記事を含む80154の記事での記事編集に関わるユーザのインタラクションを取得した.日本語版ウィキペディアでは,69の秀逸な記事と873の良質な記事における記事編集に関わるユーザのインタラクションを取得した.協調作業のパフォーマンス指標として,記事の質があるレベルから1段階向上し,秀逸な記事や良質な記事と評価されるまでに要した時間を利用した.その結果,記事編集に関わるユーザ間に社会ネットワークが事前に構築されていると,記事の質の向上に要する時間が短くなることが示された.さらに,ユーザ間のインタラクション関係を見ると,ユーザ間の関係構造がより密なネットワークを形成しており,中心性の高いネットワークであると,記事の質を高める協調作業のパフォーマンスが高いことが分かった.これらの結果からユーザ間の社会ネットワークが編集コラボレーションのパフォーマンスに寄与することが示唆された.In this study we measure the impact of pre-existing social network on the efficiency of collaboration among Wikipedia editors in the Japanese and English Wikipedias. To construct a social network among Wikipedians we look to mutual interaction on the user talk pages of Wikipedia editors. As our data set, we analyze the communication networks associated with 3085 and 69 featured articles ― the articles of highest quality in the English and Japanese Wikipedia, comparing it to the networks of 80154 and 873 articles of lower quality from the English and Japanese Wikipedia, respectively. As the metric to assess the quality of collaboration, we measure the time of quality promotion from when an article is previously promoted until it is promoted to the next level. The study finds that the higher pre-existing social network of editors working on an article is, the faster the articles they work on reach higher quality status, such as featured articles. The more cohesive and more centralized the collaboration network, and the more network members were already collaborating before starting to work together on an article, the faster the article they work on will be promoted or featured.
著者
本間 茂 山階 正樹 小橋 史彦
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.27, no.11, pp.1062-1068, 1986-11-15
被引用文献数
18

べた書き文のかな漢字変換では 文節分かち書きの場合に比較して同音語によるあいまいさがあるばかりでなく 分かち書き処理を自動的に行うことによるあいまいさも生じ 膨大な数の文解釈候補が発生する.このため文節内に閉じた形態素情報を利用した従来の解析法だけでは文解釈候補を十分には絞り込めないという問題があった.本論文では こうした問題を解決する手段として 単語単体の属性だけでなく単語間の関係を用いる連語解析を提案し その方法を用いたかな漢字変換法について述べる.本方式ではべた書きかな文から漢字かな混じり文への変換の基本処理に文節数最小法を用い さらに 単語数最小という条件から候補を絞り込んだ上で連語解析を行い 最終候補の絞り込みを行う.また 連語解析に用いる連語辞書を自動生成する方法を実現し 国語辞典などの用例約30万件から係り受け関係にある単語の組を約30万5千件自動抽出した.これらを適用したべた書き文のかな漢字変換プログラムを作成し 実験を行った結果 新聞社説(約5 500字)を対象に平均文解釈候補数を文節数最小法の約1/7?1/10まで絞り込むことができ 本方式が有効であることがわかった.
著者
西垣 正勝 安倍 史江 山本 匠 藤川 真樹 加藤 康男
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.2182-2193, 2012-09-15

近年,事故・災害現場で行われるトリアージを電子的に支援する電子トリアージシステムの開発が進められている.その中で,トリアージ実施者が判断した優先順位等のタグ情報を電子トリアージタグへ入力する方式の検討は重要な課題の1つである.本論文では,医療スタッフの作業負荷・感染症予防等といった現場の状況を考慮し,人体通信と音声入出力を利用したタグ情報入力方式を提案し,その有用性の評価を行った.An electronic triage system, which electronically supports medical triage conducted at accident or disaster sites, has been focused recently. One of the biggest issues in the electronic triage system is how to input data into electronic triage tags. In accident or disaster, medical staff shortage is expected and the areas must be in a mess and panic. Therefore it is strongly desired that the operations of the triage devices and tags are as simple as possible. Plus, the data transmission should be robust against stains (e.g., dirt or blood etc), which assures the availability of the electronic triage even in such a terrible circumstances. This paper proposes and evaluates that data input to electronic triage tag using intra-body communication and voice input/output could be an efficient way to satisfy the requirements.
著者
北原 圭吾 井上 智雄 重野 寛 岡田 謙一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.3054-3062, 2006-11-15
被引用文献数
9

情報通信技術の発達により,初等教育などでは,野外での学習活動にも情報機器が利用されるようになってきているが,学習を深めるためには,野外での活動はもちろん,それと対となる事前事後の学習が重要であると考えられる.本論文では,野外で集めた動植物のデータを使って協調的に復習を行うためのテーブルトップインタフェースについて報告する.写真や草花といった実物体の周りに動植物の成長や周辺の関連データといった電子データを表示させるなどして,現実空間における学習と情報空間における学習を組み合わせることで,両者の利点を活かした学習を行える.協調学習という観点から考えると,効率的なデータの受け渡し手法が必要であると考えられるため,数種類のデータ受け渡し機能を実装した.評価実験の結果,情報空間における学習を取り入れることで,より短時間で必要な情報を把握できること,実装した情報の受け渡し手法が有用であることが分かった.We focused on face-to-face collaborative learning in a classroom using spatio-tempral contents, which is typically conduted after outdoor class in an elementary school. We have developed a tangible collaborative learning support system that uses real objects and associating spatio-temporal contents. Temporal data sequence that shows growth of a plant and geographic data collection are presented by the system. Methods for exchanging contents on the system that are thought to be suitable for face-to-face collaborative learning have been also implemented. Better information accesibility is proved to be provided by the system than conventional pen and paper method.
著者
吉野 幸一郎 森 信介 河原 達也
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.3386-3397, 2011-12-15

日々更新されるWebニュースなどのテキストに対して,述語項構造に着目した情報抽出を行い,それに基づいて情報検索・推薦を行う音声対話システムについて述べる.まず,ドメインごとに有用な述語項構造パターンの抽出を行う指標を検討し,Naive Bayes法に基づく抽出が有効であることを示した.また,抽出された述語項構造に完全に一致するものがない場合でも情報推薦ができるように,前述の指標に基づいて述語項の優先度を決定し,さらに,要素・用言に関して関連度を定義することによって述語項どうしの類似度を計算する.評価実験において,音声情報検索における典型的な従来手法であるBag-Of-Words(BOW)モデルと比較して,本手法がより的確に応答生成を行えることが示された.上記に加えて,ユーザからの情報要求・発話がなくなった場合に,対話履歴中の述語項との類似度を利用してプロアクティブに情報提示を行う手法を提案する.本研究で提案する対話システムの枠組みは,述語項構造という普遍的な情報構造と,コーパスから獲得される類似度を利用しているので,高いドメイン移植性を有している.
著者
垂水 浩幸 田渕 篤 吉府 研治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.1322-1331, 1995-06-15
参考文献数
16
被引用文献数
14

本論文では、著者らの開発したグループウェア開発支援環境「育組」(いくみ)と、UNIX上のルールベース電子メール基盤「め組」(めぐみ)によるワークフロー定義、制御、監視の方式について述べる。このシステムでは・め組のルールによる制御機能を利用して、ルールによる帳票回覧を実現し、それによって業務の運携を図ってワークフローの運用を実現する。ワークフローの進捗は各作業者の着信、開封、受理、送信の各タイミングで記録され、監視・報告される。ワークフローは育組によってチャート形式で定義できる血育組ではワークフローの分岐条件等もほとんどマウス操作だけで定義できるので、エンドユーザの力で定義できる範囲は広くなっている。このように定義されたワークフローはルールに変換され、め組に提供される。本システムの特徴は、ワークフローを集中制御するサーバを持たず、また組織間のリンクは電子メールのみで良い点にあり、これによって組織をまたいだワークフローの運用も容易になる。
著者
河野 慎 米澤 拓郎 中澤 仁 川崎 仁嗣 太田 賢 稲村 浩 徳田 英幸
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.72-82, 2015-01-15

近年,GPSを搭載したスマートフォンとSNSの普及によって,リアルタイムに位置情報を付加させた発言をユーザが投稿する機会が増加している.この機会によって投稿された発言の中には実世界イベントに関する情報が含まれており,その一部はユーザが体験したり,目撃したりしたことに関するものであることが多い.これらの発言を収集し,解析することで実世界で実際に起きている社会イベントを検出することが可能となる.イベントを検出するために必要な発見と分類という2つの工程のうち,本研究ではイベントの分類に着目し,イベント参加者を利用したイベント分類手法を提案する.イベント参加者の多様性を意味する大衆性という新しい分類軸を定義し,イベント参加者がフォローしているユーザの解析によるイベントの分類を目指す.本研究では解析ツールの設計と実装をし,ツールを用いてあらかじめ実際のデータをもとに発見された社会イベントの解析を行い,分類を行った.Yahoo!クラウドソーシングにおいて一対比較法を用いて大衆性に基づき分類した結果を取得し,本手法を適用した解析結果と比較・考察を行った.その結果,大衆性に関してクラウドソーシングを用いた調査結果と回帰分析による提案手法の分析結果に一定の相関性があることを示した.
著者
根本 啓一 ピーター グロア ロバート ローバッカー 岡田 謙一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.83-96, 2015-01-15

本稿では,日本語版と英語版のウィキペディアを対象とし,ウィキペディアの記事を編集するユーザ間に存在する社会ネットワークが,記事編集という協調作業においてどのような影響があるかを分析した.記事編集に関わるユーザ間の社会ネットワークを計測するために,個々のユーザが持つユーザ会話ページへの書き込みによるインタラクションに着目した.英語版のウィキペディアでは,記事の質が最も高い3085の秀逸な記事と,比較的質の高い良質な記事を含む80154の記事での記事編集に関わるユーザのインタラクションを取得した.日本語版ウィキペディアでは,69の秀逸な記事と873の良質な記事における記事編集に関わるユーザのインタラクションを取得した.協調作業のパフォーマンス指標として,記事の質があるレベルから1段階向上し,秀逸な記事や良質な記事と評価されるまでに要した時間を利用した.その結果,記事編集に関わるユーザ間に社会ネットワークが事前に構築されていると,記事の質の向上に要する時間が短くなることが示された.さらに,ユーザ間のインタラクション関係を見ると,ユーザ間の関係構造がより密なネットワークを形成しており,中心性の高いネットワークであると,記事の質を高める協調作業のパフォーマンスが高いことが分かった.これらの結果からユーザ間の社会ネットワークが編集コラボレーションのパフォーマンスに寄与することが示唆された.
著者
伊藤 敏彦 小暮 悟 中川 聖一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.1248-1257, 1998-05-15
被引用文献数
22

自然言語による音声対話システムにおいては,システムがユーザと協調的に対話を進めていくことは重要である.この考えを基に我々は音声対話システムにおける協調的応答生成システムを開発した.応答生成システムは対話制御部,問題解決器,知識データベース,応答文生成部から構成され,対話システムの意味理解システムによって生成された意味表現を受け取り,可能なかぎり協調的応答をする.たとえば,ユーザの質問文に検索に必要な情報を含まれていなかったり,検索結果の数が多い場合などはユーザへの質問を行う.また,ユーザの望む検索結果が得られなかった場合,それに代わる代案を提案する.本論文では音声対話システムの評価実験であげられたいくつかの応答生成システムの問題点を改良し,ユーザの対話の焦点を抽出し,協調的な応答を行う応答機能を持った応答生成システムについて述べる.また,「システムの使い勝手の良さ」が協調的応答生成の導入によってどのように向上するのかに着目して行った評価実験について述べる.We have developed a robust dialogue system which aids users in information retrieval through spontaneous speech.Dialog system through natural language must be designed so that it can cooperatively response to users.Based on this consideration,we developed a cooperative response generator in the dialogue system.The response generator is composed of dialog manager,problem solver,knowledge databases,and response sentence generator.The response generator receives a semantic representation (that is,semantic network) which the interpreter builds for the user's utterance and generates as cooperative response sentences as possible.For example,if a user's query doesn't have enough conditions/information to answer the question by the system,and if there are many information retrieval candidates from the knowledge database for user's question,the dialog manger queries the user to get necessary conditions and to select the information.Further,if the system can't retrieve any information related to the user's question,the generator proposes an alternative plan.And evaluation experiments are described how the above improvement increses "convenience of the system".
著者
山谷 陽亮 大平 雅雄 パサコーン パンナチッタ 伊原 彰紀
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.59-71, 2015-01-15

オープンソースソフトウェア(OSS)を活用したシステム開発が一般的になりつつある一方,「サポートが得られるかどうか分からない」などの理由から,依然としてOSSの活用に躊躇するシステム開発企業は少なくない.本研究では,OSSシステムとコミュニティの共進化のプロセスを定量的に分析するためのデータマイニング手法を提案する.本手法は,時間的順序関係を考慮した相関分析を行うためのものであり,一方の系統の進化が一定時間後に他方の系統の進化に影響を与えるという関係の抽出を支援する.Eclipse Platformプロジェクトを対象に131種類のメトリクスを用いてケーススタディを行った結果,従来の相関分析では抽出できない31件の関係を提案手法により抽出できた.また,抽出された関係を追加分析することで,Eclipse Platformにおける共進化のプロセスをより正確に観察できることを確かめた.
著者
渡辺 富夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.272-277, 1985-03-15
被引用文献数
6

生体リズムが相互に同期化する現象をエントレインメントと呼ぶ.人間同士のコミュニケーションにおいても 音声と動作・表情が同期する現象 すなわちコミュニケーションにおけるエントレインメントが存在し 円滑な情報変換に重要な役割を果たしている.しかしながら 従来この現象に対しては定性的研究の色彩が強く 定量的・客観的評価が困難であった.本論文では このコミュニケーションにおけるエントレインメントを客観的に定量化する分析手法を提案し 成人同士の会話におけるエントレインメントを分析評価した.その分析の結果 コミュニケーションにおいて 話し手の音声に対する聞き手のうなずく動作の相互相関係数上の時間遅れは 0.7秒から1.4秒の範囲に また聞き手のうなずく動作に対する話し手の音声の相互相関係数上の時間遅れは 0.8秒から2.0秒の範囲に 話し手と聞き手が相互に同期化するエントレインメントが存在することが明らかになった.さらに 官能検査を通して 本分析手法の有効性を検証した.
著者
西山 勇毅 大越 匡 米澤 拓郎 中澤 仁 高汐 一紀 徳田 英幸
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.349-361, 2015-01-15

近年,携帯端末の普及にともない誰もが日常生活中の活動情報を検知・蓄積可能なライフログ環境が整ってきた.これまでライフログデータは,個人を対象として行動変容の促進に活用されてきたが,今後は研究室やスポーツチーム,企業といった集団を対象とした行動変容の促進が可能になると考えられる.しかし,集団は個人とは異なり内部に様々な人間関係が存在するため,これまでの個人を対象とした行動変容促進手法が集団に対して効果的であるかは明らかではない.本研究では,集団の行動変容を促進するモデルとして,既存手法の「競争」と「協力」の要素を組み合わせた6種類の集団の行動変容促進モデルの提案し,効果の検証を行った.提案モデルに基づいた行動変容促進を行うAaron2を実装し,2つの集団(64名)を対象に3週間の実験を行った.1週間ごとの行動変容について考察した結果,チーム目標と直接的に関係ない活動では行動変容への効果が低く,日頃からチーム単位で競争を行っているチームでは「チーム間での競争要素」用いたモデルが最も行動変容への効果が高くなる可能性が示された.
著者
伊志嶺拓人 赤嶺 有平 遠藤 聡志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.1986-1994, 2010-10-15

地方都市では,自家用車が主要な交通手段となっており,それによる交通渋滞・環境汚染が深刻化している.そのため,時差通勤やロードプライシングなど渋滞緩和,公共交通利用を促す施策が検討されているが,利用者への負担や社会的コストが大きく,普及するに至っていない.そこで本研究では,低コストで導入可能なモーダルシフト政策として,昼間時に遊休化している通勤車両を共同利用する新しい交通システム「通勤車利用型カーシェアリング(CSCC)」を提案する.本論文では,マルチモーダル交通シミュレータを用いて提案交通システムによるモーダルシフト効果の検証結果について述べる.交通シミュレータの現況再現性評価では,自家用車のみの経路配分,交通手段選択を含んだ経路配分のシミュレーションを行い,高い相関が得られた.CSCCのモーダルシフト効果のシミュレーション分析では,沖縄県那覇市と周辺地域においてモノレールと連携したCSCCの車両提供,利用需要を算出し実現可能性を検討した.次に,モノレール利用者数の算出を行い,モノレール利用の増加,自動車利用の減少が確認でき,CSCCによってモーダルシフト効果が期待できることを示した.In provincial city, people use private cars as the primary mode of transportation. it causes traffic congestion and environmental pollution. Staggered working hours and road pricing has been suggested to promote using the public transportation as the countermeasures. however, it has not spread since a user's burden and social cost are large. In this study, we propose a new transport system "Car Sharing System Using Commuter's Car" that share the commuter's car which is not used at the daytime as modal shift policy this paper describes the verification result of the modal shift effect by a proposal traffic system using multimodal traffic simulator. High reproducibility of traffic conditions has been resulted from both simulations that runs under only car distribution and distribution of various type of transportation. As preliminary experiment of simulation analysis of the modal shift effect by CSCC, we discuss feasibility study of CSCC cooperating with a monorail in the Naha city, Okinawa and the surrounding area by calcuclation of demand to provide commuter's car and to use car sharing. Finally, we estimated that the modal shift effect by CSCC is expectable by calculating monorail ridership using the simulator. The result shows that monorail user increased and private car user decreased.