著者
本間 香貴 中川 博視 堀江 武 大西 宏明 金 漢龍 大西 政夫
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.137-145, 1999-03-05
参考文献数
27
被引用文献数
4

地球環境変化に対する作物応答を明らかにするために, 高温・高CO_2濃度環境がイネ群落の蒸散とガス拡散抵抗に与える影響を調査した. CO_2濃度をそれぞれ365と700μL L^<-1>に設定した2棟の温度傾斜型CO_2濃度制御チャンバー(TGC)の各々に3温度区(実験期間内平均気温29.8, 30.4, 32.5℃)を設け, 水稲品種アキヒカリとIR36を栽培し, 実験に供試した. 各温度・CO_2濃度処理区で8月2日(幼穂形成期)から8月22日(出穂期)まで, 乾湿球温度, 群落表面温度(T_c)と純放射量を測定し, また, ミクロライシメータ法を利用して蒸発散量(E)も測定した. Eの測定値と微気象データをもとに得られた水蒸気と熱輸送に対する空気力学的拡散抵抗(r_a)は, 全処理区, 全計測期間を通じてほぼ一定値の11.7sm^<-1>で推移した. このr_a値とT_cおよび微気象データを熱収支式に代入し, Eおよび群落拡散抵抗(r_c)を求めたところ, Eの推定値とライシメータ法による実測値は, 両品種とも非常によく一致した. 両品種のr_cは全ての温度・CO_2濃度処理区において, 全天日射量が500W m^<-2>以上で最小値(r_<c,min>)に達した. 最も低い温度区では, 高CO_2濃度によって, 自然CO_2濃度環境下よりもr_<c,min>が40〜49%, T_cが1.4〜1.6℃増加し, Eが14〜16%減少した. しかし, この高CO_2濃度の影響は生育温度の上昇につれて減少した. このようなr_<c,min>の温度とCO_2濃度に対する反応は, イネのこれらの環境に対する長期の適応現象によるものと思われた。以上より, 地球の温暖化は, CO_2濃度の上昇によるイネの水利用効率の向上効果を減少させることが示唆された.
著者
坂田 雅正 鈴木 かおり 山本 由徳 宮崎 彰
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.189-196, 2004-06-05
被引用文献数
1

1998年の異常高温年に発生した極早生水稲品種とさぴかの異常(不時)出穂の発生要因を明らかにするため,夏至前後(長日)および秋分以降(短日)の自然日長下で,25℃および20℃(恒温)区を設け,株まきポットで養成した苗の幼穂分化,発育を検討した.播種からの積算温度でみた苗の幼穂分化時期は,長日区,短日区ともにとさぴかとその交配母本である高育27号が早かった.また,苗の幼穂分化後における幼穂伸長速度の日長,温度区間差は,播種からの積算温度で比較した場合より,基準温度を10℃とした有効積算温度でより小さかった.そして,とさぴかでは苗の幼穂分化,発育への日長の影響は小さく,播種からの有効積算温度が301〜348℃日で幼穂形成期(平均幼穂長1mm)に達することが判明し,この時の苗の葉齢は5.3〜5.7で,25℃条件では主稈出穂の20日前であった.さらに,とさぴかは北海道育成品種に比べ,最終主稗葉数が少ないため,早晩性を示す播種から止葉展開までの有効積算温度が低く,感光性,感温性および基本栄養生長性程度も比較的小さいことが明らかとなった.また,これらの特性は高育27号と類似することが判明した.
著者
斎藤 邦行 菊入 誠 石原 邦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.259-265, 1995-06-05

ダイズ29品種を供試し, 圃場条件下における日中の頂小葉傾斜角度(β)の品種間差異を検討した. 各品種のβは8月8日には10〜65度(平均39.8度), 9月4日には25〜80度(平均50.6度)と大きな品種間差が認められた. 8月8日にβの大きい品種が9月4日に大きいβを示すとは限らなかったが, 両日ともに三重大豆のβは最も小さかった. 三重大豆とβの大きい品種に属するエンレイを用いて, 牛育に伴うβの日変化の推移を調査した. 早朝小さかったエンレイのβは日射量の増加とともに急速に大きくなり, 9〜11時に最大となった後, タ刻になるに従い徐々に小さくなる日変化が認められた. 三重大豆のβはエンレイに比べて1日中小さく, 日変化する程度も小さかった. βの日変化で認められた最大値は, エンレイに比べ三重大豆は30〜40度小さく, 両品種ともに栄養生長期に比べ生殖生長期に大きくなった. 個体群上層部の相対光強度には日変化が認められ, 早朝小さく9〜11時に大さくなったが, その程度はエンレイに比べ三重大豆で小さかった. 木部水ポテンシャルの日変化を調査した結果, 三重大豆の木部水ポテンシャルは日中エンレイより約0.1MPa低く推移した. 以上の結果, エンレイに比べ小葉のβの変化する程度の小さい三重大豆では, 個体群内への光の透入が悪いとともに, 個体群上層の小葉は水分ス卜レスの程度が大きいことが明らかとなった.
著者
平井 儀彦 山田 稔 津田 誠
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.436-442, 2003-12-05
参考文献数
40
被引用文献数
3

登熟期の気温の違いがポット栽培したイネ個体の暗呼吸量と穂の乾物成長に及ぼす影響を定量的に検討するため,4月,5月,6月の3時期に播種することで登熟期の気温を変え,気温の差が登熟;期の暗呼吸速度と乾物生産に及ぼす影響を調査した.出穂日は4月播種では8月4日で,5月と6月播種ではそれぞれ4月播種より14日と28日遅かった.4月播種における出穂後6日目〜19日目の平均気温は,5月と6月播種より約4℃高かった.回帰法により成長呼吸と維持呼吸を推定すると,穂の暗呼吸速度は主に穂の成長に関わっており,穂の維持呼吸は4月播種と5月播種では高く,6月播種で低かった.茎葉部の暗呼吸速度は主に穂への炭水化物の転流に関わっており,茎葉部の維持呼吸は4月播種と5月播種で高く,6月播種で低いと推定された.つまり,出穂期の違いによる平均気温の上昇は必ずしも維持呼吸を増大させないことが示唆され,維持呼吸は登熟期の気温に直接影響されるだけでなく,それまでの生育前歴によっても変わると考えられた.また,穂の乾物成長は維持呼吸の増加にともなう暗呼吸量の増大によって低下することが定量的に示された.
著者
MIAH Mohammad Noor Hossain 吉田 徹志 山本 由徳 新田 洋司
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.672-685, 1996-12-05
参考文献数
31
被引用文献数
5

多収性の半矮性インド型水稲品種(桂朝2号, IR36; SDI)と日印交雑型水稲品種(アケノホシ, 水原258号; JI)の乾物生産特性と穂重に対する出穂期前後に生産された乾物の分配率などについて, 日本型水稲品種[農林22号, コガネマサリ; 穂重型(JP), 金南風, 中生新千本; 穂数型(JN)]を対照品種として, 作期を2回[移植日1992年5月15日(ET), 6月9日(LT)]設けて圃場試験を行い検討した. 多収性品種(JI, SDI)の穂揃期の葉面積指数(LAI)は両作期ともJP, JNより高かったが, 登熟期間での減少割合が大きく, 収穫期には低い値を示した. SDIとJIの穂揃期地上部乾物重は, LTのアケノホシを除いて, 両作期ともJP, JNより高かったが, 登熟期間の乾物重の増加量に有意差はみられなかった. 特にSDIでは登熟期間のLAIの減少割合が大きく, また, 登熟期後半のSPAD値が大きく低下したことと相まって, 登熟期間の個体群生長速度は最も低くなった. SDIおよびJIの収穫期の穂重はJP, JNと比較してETでは20〜30%, LTでは18〜20%高かった. また, 両作期のSDIとJIの収穫期の地上部乾物重に対する穂重の割合は, JP, JNと比較して有意に高く, この差が穂重差に反映されたものと考えられた. 穂重に対する出穂期までに茎葉に蓄積された乾物の分配率をみると, ETではJPとJNの平均値よりSDIとJIが約2倍, LTではSDIが約4倍それぞれ高い値を示した. 穂揃期の穂重(シンク容量)は収穫期の穂重と有意な相関関係を示し, シンク容量の大きい品種は登熟期間の地上部乾物重増加量が少なくなる傾向がみられた. また, 茎葉に蓄積された同化産物の穂重への分配率はシンク容量と関係が深いことが認められた.
著者
坂田 雅正 亀島 雅史 中村 幸生 古味 一洋 山本 由徳
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.446-454, 2002-12-05
被引用文献数
4

要旨 : 高知県で育成された早期栽培用・極早生水稲品種とさぴかの栽培圃場において,1998年に異常(不時)出穂が発生した.現地(県中央部)での聞き取り調査では,乾籾を100〜160g稚苗用育苗箱に播種し,硬化期はいずれも無加温育苗ハウス内で管理した22〜34日苗を3月30日から4月16日にかけて機械移植したところ,5月上旬に異常(不時)出穂の発生が確認され,その発生程度も圃場により異なった.1998年は春先から異常高温で,移植後も高温で経過し,生育が促進されたことから,温度が異常(不時)出穂の発生要因の一つと考えられた.発生時の特徴としては,通常の生育時より最終主稈葉数が4葉程度少なく,いずれも稈長,穂長が短かった.収量については現地圃場間で206〜541gm^<-2>の差がみられ,異常(不時)出穂の発生程度との因果関係が認められた.異常(不時)出穂は2001年においても確認され,その形態として穂首節間が十分に伸長せず葉鞘から穎花が抽出した個体があり,この穂首には伸長した苞葉が着生していた.また止葉が展開し,幼穂の発育・伸長が停止した出穂不能個体も観察された.発生区では播種からの有効積算温度(基準温度:10℃)が469〜543℃日で異常(不時)出穂が確認され,この時の移植まで温度は253〜351℃日で,移植苗の葉齢は3.4〜4.4であった.また発生区では未発生区に比べ正常な穂の出穂期間が長くなった.一方,未発生区については,年次,苗の種類,移植時期を違えても播種後の有効積算温度が800℃日以上に達すれば到穂することが判明した.
著者
今井 勝 COLEMAN D.F. 柳沢 健彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.413-418, 1985-12-05
被引用文献数
13

将来予想される大気の二酸化炭索(CO_2)分圧の上昇が, イネの生産過程に与える影響を知るための一助として本研究を行なった. 自然光ファイトトロンを用いて, 1/2,000aワクネルポットに土耕した材料(品種:日本晴)を長期間(39, 99, 110日)350μbarCO_2(標準)及び700μbarCO_2下におき, 生育・収量を比較した. 栄養生長期の処理では, 高CO_2により, 分げつ数, 葉面積及び全乾物重が標準区の各々60, 75, 94%増加したが, 根重の著しい増加(149%)により稲体のT-R率が低した. 成熟期まで処理を行なった試験区では, 高CO_2により早生化(主稈葉が1枚減じ, 出穂が6日以上促進された)と多収がもたらされた. 個体当り穂重は, 23〜72%増加したが,主稈の穂の調査により, 粒重よりも粒数の方が1穂重の増大には重要であることが知られた. また, 高CO_2によるイネの反応は, 昼/夜温が28/21℃よりも33/26℃の方が大であった.
著者
中野 尚夫 杉本 真一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.357-363, 1999-09-05
参考文献数
18
被引用文献数
8

緑肥作物の立毛中に不耕起播種した水稲の苗立ちを検討した. 前作緑肥作物は1994年と1995年がレンゲ, クリムソンクローバ, ヘアリーベッチ, アルサイククローバで, 1996年と1997年がこれらとアルファルファであった. いずれの年にも裸地に播種する対照区を設けた. 水稲の播種期は1994年が4月15日, 4月28日と5月13日, 1995年が5月8日, 1996年が4月23日, 4月30日と5月9日, 1997年が4月16日, 4月25日と5月12日で, 供試品種は吉備の華であった. 前作緑肥作物の被陰度は, 地際相対照度でヘアリーベッチ, アルサイククローバ, アルファルファが5〜10%, レンゲ, クリムソンクローバが約20%であった. 水稲の出芽開始は播種期が早いほど早く, 緑肥作物立毛播種で遅く, 被陰度の大きいアルサイククローバ, ヘアリーベッチで顕著に遅かった. 最終出芽数はレンゲ, クリムソンクローバでは裸地よりやや少なかったが, 裸地と同様に播種期による差がなかった. これに対し被陰度の大きい緑肥作物での最終出芽率は裸地に比べ少ないばかりでなく, 播種期が早いと少なくなった. この出芽の違いは, 前作緑肥作物の被陰度に応じて地温が低下したことに基づくと考えられた. さらに, 被陰度の大きい緑肥作物のもとではその立毛中と, 被陰の解消した入水後に枯死する水稲個体がみられた. このため, 被陰度の大きい前作緑肥作物立毛中への不耕起播種では出芽の低下, 枯死の両面から水稲の苗立ちが著しく低下した. これに対しレンゲ, クリムソンクローバの場合には裸地での苗立ちと大差なかった.
著者
露崎 浩 武田 和義 駒崎 智亮
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.345-350, 2000-09-05
参考文献数
9
被引用文献数
1

オオムギが主食として栽培されているチベット高原の東部地域(標高2670m~3550m)において, オオムギの栽培, 生育状況を収穫期に調査した.さらに, その場で収集したオオムギ在来品種333系統を日本で栽培し, 出穂期や収量関連形質などを調べた.栽培されていたオオムギのほとんど(収集系統の99%)が六条・裸性であった.粉食をするチベット民族が製粉の容易なハダカムギを好んで栽培していると推察される.穎や穎果が紫や青色を呈する系統が多数認められた.オオムギ栽培は, 河岸段丘や山腹の小規模な畑で行われていた.ヤク(牛の一種)を使う耕起の他は, 全て手作業で栽培が行われていた.元肥として, 主に有機質肥料が使われていた.播種様式は散播が最も多かった.春播き栽培されており, 播種期(3月中旬~4月上旬)と収穫期(8月上旬~下旬)が標高により異なった.収穫物は架掛けや屋根の上で乾燥された後, 踏みつぶしや唐竿により脱穀されていた.収穫時の生育状況(草高および被度)に, 大きな圃場間差が存在した.日本での出穂期に1ケ月近くの系統間変異が認められ, 標高2900~3100mから収集した系統に出穂の遅いものが多かった.このような出穂期の遺伝的分化には, 栽培標高帯の気象条件や播種, 収穫期の早晩が関わっていると思われた.収集系統の千粒重は, 世界各地の六条・裸性品種と比べ明らかに大きかった.最後に, 現地での多収化を計る上での栽培上の視点を提示した.
著者
吉田 智彦
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.698-702, 1995-12-01
被引用文献数
4

北部九州での水稲早期栽培の後作を想定し, 6種類の穀類を8月10日〜30日に播種して子実収量をみた. 比較として5月播種も行った. 子実として固定された太陽エネルギーの割合は最大0.2%前後で, キビ, アワ, ソバは5月播種より高かった. 最大葉面積指数は5月播種より小さかった. CGRや乾物生産における太陽エネルギー利用効率は生育前半で5月播種より大きく, 後半で小さくなった. 収量はソルガム, キビ, アワは8月10日播種で151〜131 gm^<-2>であり, 20日播種は低下した. 一方ソバ, オオムギは30日播種でも130, 119gm^<-2>の収量が得られた. ヒエは低収であった. アワは登熟期間の有効積算気温の減少による収量低下程度がソルガム, ヒエに比べて著しく, 一方ソバは収量の変動が少なかった. 8月播種に向く品種改良の可能性は大きいと思われる.
著者
石川 哲也 鈴木 保宏
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.350-357, 2003-09-05
被引用文献数
1 1

米粒の成分音量や物性を1粒単位で測定することが最近可能となり,これらの測定値と穂上の着生位置との関係を明らかにするための研究が進められている.そこで,イネの穂の分枝構造を模式的に図示し,個々の穎花の持つ情報を穂上の着生位置に対応させて表示するためのプログラムを作成し,その有用性について検討を行った.他の分核構造をリスト形式で記述することにより,その多様性に対応することが可能となった.描画プログラムの作成には,「パターン照合」や「単一化」などの特色を有するプログラム言語Prologを採用し,再帰的呼び出し機能を活用した.表形式で記録された既存の分析結果を有効に利用するため,それらをリスト形式のデータに変換するプログラムを作成した.さらに,穎花の現存・退化といった定性的情報の表示に加えて,新鮮重など定量的情報に対応した塗り分け機能をプログラムに追加した.描画された模式図は,枝梗の長さや穎花の形状という観点からは正確ではないが,枝梗や穎花の相対的な位置は正しく表現されており,穎花の定性的・定量的特性と着生位置との関係を直観的に把握する一助となる.さらに,この描画プログラムは,同様の分核構造を持つイネ属の穂や,イネの分げつ体系等の描画への応用も可能である.
著者
前田 英三 三宅 博
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.340-351, 1996-06-05
被引用文献数
1

イネの反足細胞は, 卵細胞から離れ珠心側壁に接して存在する. 多くの裂片をもつ巨大な異常核, 粗面小胞体, 細胞壁内向突起などが, 開花直後のイネ反足細胞内に観察された. 細胞核の裂片は核質の小さな架橋により連結しており, プラスチドやミトコンドリアや粗面小胞体を含む細胞質の一部を取り囲んでいる. 珠心細胞と接する反足細胞の細胞壁には, よく発達した内向突起が見られる. 粗面小胞体の先端が細胞壁内向突起と融合している場合も観察される. 反足細胞付近の珠心細胞は, すでに退化しはじめている. これらの細胞構造及びリボゾームを表面に伴った小胞の行動などから, 珠心細胞から胚嚢内中心細胞へのアポプラスチックな物質輸送に関する反足細胞の役割につき考察した. また, 胚嚢内の物質の移動経路についても, 簡単に述べた.
著者
川竹 基弘 西村 剛 志村 清 石田 良作
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.161-162, 1960

The methods of fertilizer application tested were as follows: 1) Subsoiling, 2) Broadcasting, 3) Drilling beside planting rows, 4) Drilling between planting rows. With corn and oats, the method of drilling beside planting rows brought the best top growth. With immature soybean and common vetch, it was superior by subsoiling. The yield in each crop was similar in tendency to the top growth, except that of common vetch which decreased owing to lodging caused by excessive growth by the subsoiling method. Drilling between rows brought about the most inferior growth and yields in all the crops. Effects of the difference of the method on the root development were recognized with common vetch and oats as differences in distribution of roots around and beneath the fertilizer placed. Subsoiling application promoted the penetration of roots in common vetch only. It was observed that the roots which distributed around the fertilizer were white and fresh. Though no data about the relation between top growth and root weight were obtained in this investigation, the authors assumed detailed studies of quality or viability of root should be important to elucidate such a relation.
著者
大井 崇生 笹川 正樹 谷口 光隆 三宅 博
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.378-385, 2013
被引用文献数
3

ローズグラスは体内に取り込んだ塩類を排出する塩腺を有し,耐塩性が高いことが知られるイネ科牧草である.本研究では,津波被災農地の土壌を用いてローズグラスの耐塩性および塩排出能力を検討した.福島県いわき市において,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う津波被災のなかった地点,あった地点の農地より土壌を採取して実験に用いた.採取地のうち四倉町の津波あり地点では,土壌EC値および土壌中交換性Na<sup>+</sup>量がともに高い値を示した.この土壌を用いてローズグラスおよびイネを人工気象室内で21日間生育させた.両作物ともに津波あり地点の土壌において生育阻害が現れたが,ローズグラスでは地上部乾物重の減少率はイネよりも小さく,また可視障害も少なく,さらに長期間の生育が可能と考えられた.葉身内のイオン含有量を測定すると,ローズグラスでは津波の有無に関わらず高いNa<sup>+</sup>含有量を示した.加えて津波あり地点の土壌において,ローズグラスでは葉身や葉鞘の表面に水滴または結晶状の排出物が観察された.1週間あたりの葉身からのイオン排出量を測定すると,葉身の含有量の4倍のNa<sup>+</sup>が排出されることが確認された.また,生育後の土壌中交換性Na<sup>+</sup>の減少量はイネよりもローズグラスの方が大きい傾向があった.以上より,ローズグラスは津波被災農地における転作利用や除塩に役立つ可能性が示唆された.
著者
原 貴洋 松井 勝弘 生駒 泰基 手塚 隆久
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.189-195, 2009-04-05
参考文献数
19
被引用文献数
1 6

西南暖地の春まき栽培向けに育成された「春のいぶき」と国内品種の収量関連形質と穂発芽の品種間差異を明らかにするために,4ヵ年にわたって熊本県合志市において4月中旬播種の作期で栽培試験を実施した.中間夏型品種の子実重は,他の生態型の品種より高かった.春のいぶきの子実重は,夏型品種や秋型品種より有意に高く,中間夏型品種と同等であった.中間夏型品種と春のいぶきは夏型品種と比べて,花房数が多く,花房当たり子実数と千粒重は同程度であった.鹿屋在来と中間秋型品種の常陸秋そばは,調査を行った7月上旬までに成熟に至らず,子実重は他の生態型の品種より低かった.鹿屋在来と常陸秋そばは他の生態型の品種と比べて,花房数は多かったが,結実率が低く花房当たり子実数が少なかった.春のいぶきの穂発芽は,全ての試験年次で,夏型品種および中間夏型品種より有意に少なかった.穂発芽と子実重の年次間相関は,千粒重や草丈の年次間相関と同程度であったため,穂発芽と子実重の品種間差異は年次の影響を受けにくいと考えられた.春のいぶきは既存品種に比べて,春まき栽培における難穂発芽性と多収性をバランスよく兼備する品種であり,実用性が高いと判断された.
著者
長谷川 清三郎 伊藤 敬一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.315-316, 1956-07-01

Experimental researches were performed on the growth and yields of kidney bean plants as affected by the treatment of pinching-off one or two of the three leaflets of every leaf at its very young stage. 1) The growth in the stem length was retarded, while the numbers of leaves and flowers were increased by the treatment. 2) The leaflets left on the treated leaves developed generally larger than those of the corresponding positions on the untouched control plants. While the areal ratio among the three leaflets on every normal leaf was nearly 1 : 1:, the ratio between the two leaflets left on every treated leaf was still found to be 1 : 1, not disturbed by the treatment, though they developed respectively larger in their absolute areas. The central leaflet however proved itself somewhat peculiar in areal growth, differing from the side leaflets. 3) There were obseved a tendency that pinching one of the leaflets of every leaf favoured the yield, while to pinch two of them reduced the yield.
著者
長戸 一雄 河野 恭広
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.181-189, 1963
被引用文献数
6

The studies reported here were undertaken to explore the relations among hardness distribution, the three dimensions of kernel and structure of endosperm tissue with reference to varietal differences of grain texture. 1. Hardness ratio. Hardness distribution of rice kernel is represented by hardness distribution along the dorsiventral line and the lateral line crossing at the central point on the cross section of kernel as reported previously. However, it is more concise and convenient to be indicated by the ratio of hardness of the middle point to that of the central point (Hardness ratio). On the cross section of the kernel of which hardness ratio is less than 1.0, the central core is hardest and hardness becomes smaller toward the peripheral region, and distinct difference can not be found between the hardness of dorsiventral line and that of lateral line. (fig. 1 Century Patna and Zenith) On the section of which hardness ratio is more 1.0, hardness is largest on the middle region and becomes smaller toward the central core and the peripheral region, moreover the dorsiventral region is softer than other region (fig. 1 Asahi, Cody and Yamadanishiki). It is assumed that the former is the characteristic of Indica and the latter characterizes Japonica. 2. Relation between hardness ratio and length-breadth ratio of rice variety. Negative correlation is found between hardness ratio and length-breadth ratio. Regression lines are Y=-0.036X+1.042 and Y=-0.303X+1.603, in Indica and Japonica varieties respectively, neverthless, some Japonica varieties of which hardness ratios are more than 1.18 distribute fairly apart from Japonica line and their length-breadth ratios are 1.7 or thereabout (fig. 2). 3. Relation between length-breadth ratio and thickness-breadth ratio. Generally speaking, positive correlation is recognized between length-breadth ratio and thickness-breadth ratio, but this correlation is scarcely applicable to Japonica varieties (Fig. 3). 4. Relation between hardness ratio and thickness-breadth ratio. There is negative correlation between hardness ratio and thickness-breadth ratio in Indica varieties, yet this correlation is ambiguous in Japonica varieties as well as the relation between length-breadth ratio and thickness-breadth ratio (fig. 4). 5. Structure of endosperm tissue on the cross section. Shapes of the cross sections of kernels vary from round to spindle-shaped according to the thickness-breadth ratios and correspond roughly to hardness ratios as above mentioned (Fig. 5). (1) Cells of the central core. Cells of the central core of A-group (hardness ratio approximately 0.93) are somewhat isodiametric and arranged radially, while those of E-group (hardness ratio approximately 1.20) are uneven and markedly flattened and arrangement of them is disordered. Shapes and arrangement of cells of other groups show intermediate figures between A-and B-groups according to the hardness of central core of each variety. Shapes and arrangement of cells of central core may be affected by the density of strarch in cells, therefore they are correlated with the hardness of central core (fig. 1). (2) Cells along the dorsiventral line. Cells along dorsiventral line are not much different from thme of other region in A-group, but those of E-group are extremely flattened along the dorsiventral direction and arrangement of them is disordered, and those of C-and D-groups are flattened to the extent according to the hardness of dorsiventral line. In Japonica varieties (C, D-and E-groups) starch accumulation in cells of several layers along the dorsiventral line is slightly or markedly insufficient, for this reason, these cells are nattened and arrangement of them is disordered by the oppression of surrounding cells. This characterisic of endosperm structure may be the making of the facts that the kernels of E-group become often white-cored during development and dry kernels of Japonica especially of E-group make frequently dorsiventral
著者
松波 寿典 児玉 徹 佐野 広伸 金 和裕
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.231-240, 2016
被引用文献数
2

米の食味は,品種,環境,栽培技術が相互に作用しながら,水稲の生育および収量形成過程に影響した後,適正な収穫および乾燥・調製が行われ,決定される.そのなかでも,極良食味米は,品種が遺伝的に備えている米の食味官能特性や理化学的特性などの食味ポテンシャルが生産者の栽培管理技術により最大限発揮された生産物であると考えられる.本総説では,美味しい米を作るための栽培技術要素に関するこれまでの知見を整理するとともに,さらなる美味しい米作りに向けた栽培学的アプローチの方向性について検討した.美味しい米を作るためには,健全な根を発達させるための土をつくり,活着が良好となる健苗の育成や高温登熟を緩和できる適期に適切な栽植密度で移植を行い,低タンパクな玄米を生産する低次位・低節位分げつを確保した後,深水管理や中干しにより速やかに過剰な分げつを抑制する.また,幼穂形成期の栄養診断に基づく穂肥施用で籾数を適正に制御し,出穂期以降は良好な登熟に向けて高温対策と根の機能維持のための水管理(掛け流し,間断灌漑)を行い,適期収穫した後は,低めの温度設定で素早く乾燥調製することが重要であるとまとめられた.そして,さらなる美味しい米作りに向けた今後の栽培学的アプローチとしては,良食味米産地の中でも極上の米を生産する地域や篤農家圃場の地理的,気候風土的な条件と食味ポテンシャルを発揮させる個々の技術要素が水稲の生育や収量形成過程,食味関連特性に及ぼす影響を解析することが重要である.
著者
吉田 智彦 Anas 小林 俊一
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.395-398, 2009-07-05
参考文献数
5
被引用文献数
1

生物種あるいは品種間の相互関係を表示するために,通常はコンピュータソフトを利用したクラスター分析により樹状図を作成しているが,教育的効果を目的としてコンピュータを用いず手動でクラスター分析をすることを試みた.オオムギ品種間のRAPD分析によるDNA多型データを用いて,品種間で異なるバンドを示したDNAマーカー数(異なるマーカー数)をその品種間での距離とした.まず,異なるマーカー数の最も少ない組合せを選び,それを最初のクラスターとした.次にそのクラスターの平均値からの距離と残りの品種との間の値を計算し直して,第2のクラスターを決定し,順次同様に行っていった.育成地の異なるオオムギの二条,六条種を含む品種間で試みたところ,ほぼ満足すべき結果が得られた.コンピュータソフトを利用した結果とも一致した.本方法では,クラスター分析を手計算で行うことにより,理解が容易であり,教育的効果が大きい.
著者
福田 直子 湯川 智行
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.505-509, 1998-12-05
被引用文献数
2

ソラマメの在来種を含む41品種を用いて積雪条件が異なる2ヵ年にわたり, 越冬前の生育特性と雪害程度を調査し, 品種の耐雪性との関連について検討した.雪害による枯死葉面積率と枯死株率をもとに供試品種は耐雪性強, 中, 弱の3品種群に分類できた.耐雪性強品種群は新潟市近郊の在来種とその突然変異品種の2品種, 耐雪性中品種群は原産地や育成地が西日本中心に分布する35品種, 耐雪性弱品種群は海外から導入された品種および鹿児島県の在来種の4品種であった.それぞれの品種群は原産地や育成地に共通性が認められ, 品種の耐雪性と育成環境との間に関連が示唆された.越冬前の生育特性と品種の耐雪性との間には密接な関係が認められた.耐雪性弱品種は花芽分化の時期が早く分化葉位が低いために越冬前に花芽の顕著な発育が認められたことから春播き型の品種であると考えられる.一方, 耐雪性強品種群は花芽分化の時期が遅く, 越冬前の花芽の発育ステージは初期段階であった.また耐雪性に関わる形態的特徴として, 耐雪性の強い品種は越冬前の草丈, 節間長, 茎葉生重が小さく, 茎葉乾物率が高い特性をもっていた.