著者
野田 諭 松谷 慎治 浅野 有香 倉田 研人 柏木 伸一郎 川尻 成美 高島 勉 小野田 尚佳 大澤 雅彦 平川 弘聖
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.139-143, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
15

症例は66歳女性。高CEA血症の精査にて甲状腺腫瘍を指摘され当院紹介。右葉に18mm大の腫瘤を認め,穿刺吸引細胞診で濾胞性腫瘍と診断された。濾胞性腫瘍として1年6カ月超音波のみで経過観察され変化を認めなかった。2年6カ月後,他院PET検査で甲状腺への異常集積を指摘され,再受診した。CEAの上昇,腫瘤の増大傾向を認め,カルシトニンが高値であり,手術を施行,術中組織検査にて髄様癌と診断,非機能性の副甲状腺過形成を伴っており,甲状腺全摘術,頸部リンパ節郭清と副甲状腺全摘術および自家移植を施行した。病期はpT2N0M0 StageⅡであった。初診時の画像および細胞診結果から濾胞性腫瘍と診断,長期超音波で経過観察された髄様癌の1例を経験した。初診時診断に反省すべき点は多いが,経過を追えた点で貴重な経験と考え,文献的考察を加えて報告する。
著者
大石 一行 田尻 淳一 深田 修司 菱沼 昭 佐藤 伸也 横井 忠郎 橘 正剛 森 祐輔 覚道 健一 山下 弘幸
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.144-149, 2014

症例は8歳女児。母親は遺伝性髄様癌と診断され甲状腺全摘術と側頸部リンパ節郭清術を受けていた。遺伝を心配した母親に連れられて当院を受診し,<i>RET</i>遺伝子検査でexon11 codon634に母親と同じmissense変異を認めた。超音波検査で甲状腺内に明らかな腫瘤は認めず,カルシトニンやCEAの上昇はなかったが,カルシウム負荷試験では陽性であった。上記の遺伝子変異は髄様癌発症のhigh risk群に分類されるため,髄様癌発症の可能性について両親と面談を繰り返した後,最終的に発症前の予防的甲状腺全摘術を希望された。術後の病理組織診断は微小髄様癌,C細胞過形成が甲状腺内に多発しており,遺伝性髄様癌に一致する所見であった。遺伝性髄様癌に対して海外では幼少時での手術を推奨する施設もあるが,本邦では予防的甲状腺全摘術の報告はほとんどない。今回われわれは予防的甲状腺全摘術を行った遺伝性髄様癌の一女児例を経験したので報告する。
著者
小川 真
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.224-227, 2016 (Released:2017-01-26)
参考文献数
24

反回神経麻痺による嗄声は,副甲状腺機能障害と並び,甲状腺摘出後に生じる主要な合併症の1つとなっている。片側反回神経麻痺により声帯の内外転運動が障害されると,発声時の声門のスリット形成が妨げられ,ベルヌーイ力と声門下圧の交互作用による声帯振動が生じにくくなる。甲状腺摘出後の反回神経麻痺の頻度は,一過性および永続的なものを含めて1~13.3%と報告されており,再手術,悪性腫瘍,頸部郭清の併施,反回神経麻痺を同定しない手術などがリスク因子とされている。反回神経麻痺による嗄声の治療に関して,麻痺が一過性である可能性があるために,発症後6カ月以内の姑息的治療とそれ以降の永久的な治療がある。姑息的治療として,音声治療および局所麻酔下声帯内注入術の有効性が報告されている。しかしながら,局所麻酔下声帯内注入術については,本邦の医療保険の事情からあまり行われていないのが現状である。永久的な治療法として,甲状腺手術後の頸部の瘢痕形成のために通常の喉頭形成手術の施行に難渋するため,甲状軟骨翼状板外側下方を開窓して行う披裂軟骨内転術,神経吻合術,神経筋移植術などの術式が選択されることがある。
著者
山下 啓子 遠山 竜也 吉本 信保 遠藤 友美
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.289-292, 2012 (Released:2013-05-01)
参考文献数
22

乳癌組織のエストロゲンレセプター(ER;estrogen receptor)の発現量は内分泌療法や化学療法の奏効性や予後などの生物学的特性に関与する。乳癌組織のERの発現調節に関しては,ER遺伝子のメチル化やER蛋白のユビキチン化による分解などの報告があるが,臨床的に重要であるものは未だ見出されていない。最近,ERのmRNA 3’末端非翻訳領域に結合してERのmRNAと蛋白発現を抑制するマイクロRNA(microRNA)が報告された。われわれは乳癌組織におけるこれらERのmRNAに直接結合するmicroRNAの発現を定量的RT-PCR法により検討して,ERの蛋白発現や予後に関与するmicroRNAを見出した。さらに最近,ER陽性乳癌の生物学的特性に関与すると考えられるmicroRNAとその標的遺伝子を同定し,これらが治療標的あるいは薬物療法の感受性のバイオマーカーとして有用であると推測している。
著者
林 慎一 木村 万里子
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.68-73, 2015 (Released:2015-09-02)
参考文献数
27

エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌ではホルモン療法が有効であるものの,およそ3分の1は再発する。再発のメカニズムは数多く研究されてきたが,完全に解明されたわけではなく,ホルモン療法耐性,特にアロマターゼ阻害剤(AI)耐性は代替的な細胞内ERシグナルの獲得が関係すると考えられている。筆者らは癌組織検体と癌細胞株でERの転写活性をモニタリングすることでそのメカニズムを研究してきた。エストロゲン応答配列(ERE-)GFPアデノウィルス試験ではAI無効例は多様なER活性を示し,抗エストロゲン剤への感受性も様々であったが,これは耐性には複数の機序が存在することを示唆している。また,ERE-GFP導入ER陽性乳癌細胞株からAI耐性を模倣する6種類の異なるタイプの耐性株を樹立し,リン酸化依存性やアンドロゲン代謝物依存性など,複数の代替的なER活性化経路がAI耐性に関わることを明らかにした。フルベストラントやmTOR阻害剤への反応も個々の耐性株で異なっていた。これらの結果はER陽性乳癌の分類をさらに細分化することが,ホルモン療法だけでなく新しい分子標的薬などの治療選択に極めて重要であることを示唆している。
著者
金城 秀俊 又吉 宣 安慶名 信也 真栄田 裕行 鈴木 幹男
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.214-218, 2018

<p>73歳,女性。当院受診1週間前にインフルエンザに罹患した。4日前に咽頭痛が出現し,近医で咽頭後壁の腫脹を認めたために,咽後膿瘍疑いで当科紹介となった。</p><p>初診時所見としては,呼吸苦や開口障害は認めなかったが,頸部腫脹・圧痛・嚥下痛を認めた。喉頭ファイバー検査では上咽頭から下咽頭にかけて後壁が全体的に腫脹し,粘膜下血腫の様な色調を認めたが,気道は開存していた。血液検査所見ではWBC:5,900/<i>μ</i>l,CRP:5.36mg/dlであり,CTでは膿瘍を疑うような所見を認めなかった。咽後部の腫脹は血腫であると判断し,保存的加療で症状は軽快した。出血源は画像結果から甲状腺左葉の腫瘤からと判断し,待機的に腫瘤を含め甲状腺左葉切除術を行った。しかし,病理結果からは副甲状腺腺腫からの出血と判明した。</p>
著者
志村 英二 杉谷 巌 戸田 和寿 井下 尚子 佐藤 由紀子 元井 紀子
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.152-155, 2013 (Released:2013-08-30)
参考文献数
14

症例は36歳女性,健康診断にて前頸部腫瘤を指摘され,甲状腺腫瘍疑いにて当科を紹介受診した。頸部超音波検査にて甲状腺左葉下極に27×22×18mm大の辺縁分葉状の低エコー結節を認めた。穿刺吸引細胞診では,細胞質内に多数の好酸性顆粒を認めた。甲状腺腫瘍あるいは甲状腺外迷入病変を考え,甲状腺左葉切除術を施行した。病理学的所見では,腫瘍は甲状腺外軟部組織を中心に存在し,甲状腺組織にも浸潤性に増殖していた。腫瘍細胞は好酸性,顆粒状の豊かな細胞質を持つ類円形細胞よりなり,核異型は認めなかった。免疫染色の結果,腫瘍細胞はS100陽性であった。以上より,顆粒細胞腫と診断した。顆粒細胞腫の大部分は良性腫瘍と考えられているが,稀に遠隔転移や悪性症例の報告もされており,経過観察に注意を要する。
著者
安慶名 信也 金城 秀俊 真栄田 裕行 鈴木 幹男
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.47-52, 2018

<p>当科にて治療を行ったStageⅣの甲状腺進行癌に関して臨床的検討を行った。25例(男性14例,女性11例)あり,病理型は乳頭癌16例,濾胞癌1例,髄様癌1例,低分化癌1例,扁平上皮癌2例,未分化癌4例であった。乳頭癌はAMES分類において全例ハイリスク群の進行癌であり,根治手術を施行した。5年疾患特異的生存率は83.3%であった。扁平上皮癌と未分化癌症例は早期に原病死しており,全25例の5年粗生存率は48.4%と低かった。乳頭癌16例中9例で反回神経を切除し,4例で神経再建を施行した。再建例はいずれも良好な発声を維持できていた。反回神経非切除例の無病生存率は反回神経切除例より有意に高かった。甲状腺乳頭癌の反回神経浸潤例は遠隔転移のリスクが高いだけでなく,局所再発の指標となりうるため,十分な治癒切除と再発・転移の早期発見・治療が重要である。</p>
著者
関 智史 茂松 直之 白石 悠 深田 淳一 伊藤 公一 高見 博
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.50-56, 2012 (Released:2013-01-31)
参考文献数
23

放射線治療は外科手術,化学療法とならぶ悪性腫瘍の治療の一つの柱である。根治治療の他,治癒不能な進行例の場合でも緩和治療として広く用いられる。ここでは甲状腺癌や甲状腺機能亢進といった甲状腺疾患の放射線治療について述べる。甲状腺癌に対する放射線治療は,131Iを用いたアイソトープ内用療法と高エネルギー放射線治療装置を用いた外照射の二つがある。アイソトープ内用療法は,ヨード摂取能のある濾胞癌や乳頭癌に治療適応がある。術後の再発予防や,残存病変の治療,若年者の多発肺転移などに特に有効とされるが,本邦では法的規制が厳しく,実施可能施設が限られる。外照射は手術不能例や術後の高リスク例,緩和的治療に適応となるが,合併症を生じないよう照射法の工夫が必要である。甲状腺機能亢進症に対する放射線治療は,抗甲状腺薬不応例などに131Iアイソトープ内用療法が適応となるほか,甲状腺眼症の緩和目的に放射線外照射が適応となる。
著者
鈴木 尚宜 竹内 靖博
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.2-4, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
9
被引用文献数
1

甲状腺手術後の副甲状腺機能低下症における臨床的問題は低カルシウム血症とその関連事象である。副甲状腺ホルモン不足による副甲状腺機能低下症に対する治療は,活性型ビタミンD3製剤の投与が主体となる。血清カルシウム濃度は,ある程度の過換気状態でも低カルシウム血症による自覚症状が生じないレベル(補正カルシウム濃度8.0mg/dL程度)を維持する。尿路結石症や腎機能低下のリスクを抑えるために,随時尿のカルシウム(mg/dL)/クレアチニン(mg/dL)比を0.3以下にする。高カルシウム尿症を生じる場合や尿路結石の合併例には,サイアザイド系利尿薬の併用を検討する。副甲状腺機能低下症患者に副甲状腺ホルモン製剤を併用した場合に,活性型ビタミンD3製剤の必要量の減少,および尿中カルシウム排泄の改善が報告されている。副甲状腺ホルモン不足による副甲状腺機能低下症を副甲状腺ホルモン製剤で治療することは今後の検討課題である。
著者
壁谷 雅之 北野 睦三 齊藤 祐毅 古川 麻世 杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.322-325, 2012 (Released:2013-05-01)
参考文献数
13

症例は,甲状腺乳頭癌の38歳,女性。甲状腺癌(T4aN0M1,stageⅡ)の診断で,34歳7カ月時点に甲状腺全摘,気管合併切除(気管輪1-5,端々吻合),中心領域郭清術が施行された。術後,多発肺転移に対し内照射療法を計4回施行しているが,肺転移巣は徐々に増多,増大した。38歳4カ月時点で軽い上気道炎を契機に呼吸苦が出現した。入院の上全身管理を行ったが呼吸不全のため永眠された。甲状腺乳頭癌は,非常に予後が良いことで知られ,特に若年で発症した場合は更に高い治癒率のため本疾患で亡くなることは稀有である。また,本疾患は腫瘍増殖速度が非常に緩徐である,疾患特異的治療として内照射療法が有効である,などの他の悪性腫瘍とは異なる特徴がある。これら本来治療する上で利点と言える特性は,がん終末期においては反対にその対策を困難にする。今回,生命予後が予測できず対応に苦慮した症例を経験したので報告した。
著者
横井 忠郎 森 祐輔 橘 正剛 佐藤 伸也 山下 弘幸
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.197-201, 2014 (Released:2014-10-31)
参考文献数
22

古典的な原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)を日常診療で診ることは相対的に少なくなっており,むしろ無症候性で発見されることが増えている。さらには正カルシウム血症であることもしばしば認められる。これらの病態はPHPTの前駆あるいは初期像と考えられているが,結論は出ていない。正確な診断についてはPTH不適合分泌を見逃さないことや,ビタミンD不足を初めとする二次性副甲状腺機能亢進症の合併を除外することが大切である。治療に当たってはNIHガイドラインを参考にする施設が多いと思われるが,ガイドライン自体にも問題点が多い。ガイドライン上の手術適応に固執すると,適切な治療時期を逸することもあり,注意が必要である。
著者
貴田岡 正史
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.2-6, 2017 (Released:2017-04-28)
参考文献数
12

超音波の臨床医学への適応は和賀井ら先人の努力によりその基礎から臨床応用まで,日本が世界に先駆けて研究を進めてきた。その中で乳腺・甲状腺をはじめとする表在臓器は比較的早い時期から超音波の臨床的有用性の検討がなされてきた。甲状腺における超音波診断の意義は結節性病変の存在診断と良悪性の鑑別診断が優先されてきた。甲状腺結節の超音波診断基準策定はその生みの苦しみを経て,より完成度の高いものへと昇華され,さらに進化しつつある。甲状腺の超音波診断への国民の関心は極めて高く,血流評価やわが国における縦横比の豊富な症例数による評価,エラストグラフィの積極的な臨床応用とこれからやるべき課題は多い。
著者
小野田 尚佳 神森 眞 岡本 高宏 中島 範昭 伊藤 研一 宮崎 眞和 吉田 明
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.110-114, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
9

甲状腺乳頭癌(PTC)に対する放射性ヨウ素内用療法の現状を把握し,意義を見出すため,多施設共同の後ろ向き研究を行った。ʼ03~ʼ12年に初発のPTCに対し全摘術を受けた患者1,324例のデータを7施設から集積した。全摘,内用療法施行とも増加傾向にありʼ12年には全初発PTC手術例の60%,25%を越えた。内用療法は480例に施行され全摘例の36%に相当,M1,Stage ⅣB,ⅣC症例の2/3に施行されていた。疾患特異的生存率は内用療法施行群で有意に不良であった。予後リスクによって層別化すると内用療法施行により生命予後に差は認めなかったが,中間リスクの施行例は非施行例に比し術後診断の進行度が有意に高かった。本研究により内用療法の現状が明らかとなり,中間リスク患者での効果が示唆されたが,適応や治療法の問題点も確認され,内用療法の意義を見出すためにはさらなる症例集積研究が必要と考えられた。
著者
赤水 尚史
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.137-141, 2013 (Released:2013-08-30)
参考文献数
11
被引用文献数
1

バセドウ病の治療に関する調査が,1980年代後半に欧日米の各甲状腺学会で実施された。その中に同一患者に対する治療法選択のアンケートがあり,国際的異同が論じられた。最近,同様な調査が欧日米で再び実施された。本稿ではこれらの調査を紹介し,バセドウ病治療の多様性やその要因に関して論じる。それによって,同治療の理解が深まり,選択の最適化につながれば幸いである。
著者
河本 泉 今村 正之
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.97-100, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
13

本邦では2015年4月に「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン 2015年第1版」が発刊された[1]。ガストリノーマの診断と治療に関してはCQ1-2「ガストリノーマをうたがう症状は何か?」,CQ3-2「ガストリノーマの手術適応と術式は?」,CQ4-2「十二指腸NETに対する内視鏡的治療の適応および推奨される手技は何か?」,CQ4-4「膵・消化管NETの内分泌症状に対して推奨される薬物療法は何か?」に記載されている。またガストリノーマは多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)に伴い発症することが多いこと,転移をきたすことが多く悪性度が高いことが知られており,ガイドラインにはMEN1に伴う膵・消化管NETの手術適応と術式,NET(G1/G2)に対して推奨される抗腫瘍薬についても記載されている。ガイドラインをもとにガストリノーマの診断と治療について解説を行う。
著者
福成 信博
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-1, 2017 (Released:2017-04-28)

甲状腺結節に対する超音波診断が,結節の検出および良性・悪性の鑑別においてFirst-Lineの検査法であることは異論のないところである。しかしながら,2000年頃よりフルデジタル化された表在臓器様高周波超音波機器の国際的な普及に伴い,超音波スクリーニングにより無症候性の低危険度微小乳頭癌が数多く検出される事態となった。甲状腺癌自体の死亡率は変わらないため,米国,韓国から過剰診断,過剰診療であると報告され,ATAガイドラインにおける大幅な改訂がなされた。このような状況のなかで,甲状腺超音波検査そのものを無用の長物とする過激な意見も聞くことがある。はたして,約20年前の触診ベースで行っていた甲状腺診療に戻るべきなのであろうか?わが国では,1970年代より積極的に超音波診断を臨床応用し,海外に先駆けて超音波ガイド下FNAやカラードプラ,エラストグラフィという技術を開発し,臨床に用いてきた。RI治療の制限もあり,不必要な甲状腺全摘を避け,甲状腺癌の生物学的特徴を考慮した加療方針が選択されてきた。更に多数例の臨床研究から微小乳頭癌に対する非手術・経過観察を世界に先駆けて発信してきたのもわが国であり,その基盤には詳細な甲状腺超音波診断と高い診断能を有するFNAの技術があったからに他ならない。本企画では,このようなわが国における甲状腺超音波検査の歴史を貴田岡正史先生に紐解いて頂き,FNAの適応とコツに関して,北川亘先生に解説をお願いした。また,諸外国では得ることの出来ない多数例の微小癌経過観察における超音波所見の特徴に関しても福島光浩先生から貴重な報告を頂けることとなった。乳頭癌と異なりFNAにて診断困難となることの多い濾胞性腫瘍に関する超音波上の知見,腫瘍内血流や組織弾性を加味した超音波診断の可能性について,多くの臨床例を経験されている村上司先生に解説をお願いした。福島原発事故後の小児甲状腺に対する超音波を用いた県民健康調査の結果およびその推移は,甲状腺疾患を専門とするものにとって未だ最大の懸案事項である。不幸な結果に終わらぬよう祈念するとともに,これまで得られなかった小児甲状腺超音波の特徴が解明されきており,鈴木眞一先生にそのご報告頂く。甲状腺結節の診断,そして治療方針決定の基盤となる超音波検査とFNAをもう一度振り返り,また将来への新たな展望が開けることを期待している。
著者
杉谷 巌 藤本 吉秀
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.18-22, 2013 (Released:2013-05-31)
参考文献数
9

一般的に予後の良い甲状腺乳頭癌に対しては可及的に甲状腺を温存する手術を行って甲状腺機能を維持し,骨密度低下の懸念もあるTSH抑制療法は積極的には行わないという治療方針は,日本では主流であったが,欧米のガイドラインとは相反する。われわれの方針の妥当性を立証するためにTSH抑制療法の乳頭癌に対する再発抑制効果についてのランダム化比較試験を行った。患者登録開始から13年を要したが,無再発生存率においてTSH抑制療法非施行群の成績は,施行群に比較して10%以上劣っていないことが証明され,5%以上劣っていないことが示された。また,ランダム化試験に並行してTSH抑制の骨密度に及ぼす影響についての前向き比較試験を施行した。その結果,とくに閉経後女性ではTSH抑制による骨密度低下が顕著となる傾向があることが示された。これらの研究を通じて気づいた,高位のエビデンスを得るための研究を日本から世界に発信するうえで必要なことについて述べる。
著者
野口 靖志
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.264-266, 2015 (Released:2016-03-04)
参考文献数
2

米国甲状腺学会の新しいガイドラインでは,ablationをriskの低い症例では推奨しないとされており,従来のようにriskを問わず,全ての甲状腺癌患者に全摘術を施行してablationを行う方針から大きな方向転換を示している。また,adjuvant therapyという新しい考え方も示されており,今後の更に変化を示そうとしている。この様なablationの考え方の変化と,我が国の現状,更には我が国とのヨード制限の差異についても解説し,今後,われわれに求められるevidenceについて述べる。
著者
菅間 博 岡本 高宏
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.65-65, 2016 (Released:2016-07-28)

甲状腺癌取扱い規約の初版の序によれば,1966年にUICC(国際対癌連合)のConference on Thyroid Cancerが契機となり甲状腺外科検討会が発足し,その後UICCのTNM分類ではあきたらず,もっと詳しい臨床所見の記載と病理組織学的な分類の統一を図ることが必要となり,「甲状腺癌取扱い規約」を作ることになったとある。1977年に初版が発刊されて以来,甲状腺外科検討会の発展と共に改訂が繰返され,2015年10月に甲状腺外科学会に移行してからは初めて,第7改訂版が発刊された。甲状腺癌取扱い規約は甲状腺癌の臨床記録事項と病理組織学的分類からなる。臨床記録事項は,手術前ならびに手術時の所見を記録する事項を標準化統一し,甲状腺癌の進行度を評価する病期(Stage)を定めるものである。また,2011年から開始されたNational Clinical Database(NCD)による全国登録の前提となる。今回の改訂では,UICC第7版(2009年)のTNM分類に準拠しつつ,これまでの取扱い規約の歴史を踏まえて妥当と思われる変更点が追加されている。甲状腺腫瘍の病理組織学的分類の世界標準はWHO分類で,2004年に第3版が刊行されてから10年以上が経過している。2005年の第6版甲状腺癌取扱い規約で,第3版のWHO分類に準拠して改訂がなされたが,乳頭癌の特殊型や低分化癌に関しては整合性が十分にとれていなかった。今回,これらの点が追加改訂されるとともに,より精確な甲状腺腫瘍の組織診断に資するように本文と図が大幅に刷新されている。さらに細胞診報告様式が,2007年の「米国国立癌研究所甲状腺穿刺吸引細胞診断学術会議」によりまとめられたべセスダシステムに沿って改訂されている。特集1では,甲状腺癌取扱い規約委員会委員長の岡本から第7版の甲状腺癌取扱い規約の臨床記録事項の変更点について,同規約病理委員会の各委員から病理組織学的分類について解説する。甲状腺癌取扱い規約が日本国内の医療施設において的確に運用され,わが国における甲状腺腫瘍診療の質向上に資するために,本稿が会員諸氏の理解の一助となれば幸いである。