著者
児玉 恵理 橋爪 孝介 落合 李愉 堀江 瑶子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.2, 2014 (Released:2014-10-01)

長野県佐久市では水田養魚という特徴的な内水面養殖業が行われ、養殖対象魚種は主にコイであった。戦後は米の収量が重視され、コイについても大型の切鯉が好まれるようになり、水田と養殖池は次第に分離した。生産面でも米は農家、コイは養殖事業者に分化した。こうした中、フナは水田での養殖(水田養鮒)が現在も行われており、農家の副業として継続されている。本研究ではフナに着目し、水田養魚の変容を明らかにすることを目的とする。
著者
石川 智 鹿島 薫 七山 太
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100124, 2012 (Released:2013-03-08)

はじめに東北地方太平洋沖地震による津波発生以降、各地の陸上・海底における津波堆積物の記載が行われている(たとえば、Goto et al., 2011;Abe et al., 2012など)。陸上に残された堆積物については、遡上方向に向かって層厚と粒径の変化が確認されている。津波堆積物は、陸上では風雨や人為によって消失してしまうが、水に覆われる湖沼や湿地ではよく保存される。湖沼流入型の古津波堆積物についてはBondevik (1997)によって記載され堆積ユニットが明らかにされている。現世の湖沼流入型の津波堆積物の特徴を明らかにすることによって、北海道東部太平洋側などの沿岸湖沼で認められる津波痕跡への応用が可能となる。本研究では宮城県七ヶ浜町に位置する阿川沼とその周辺に遡上した津波堆積物を扱う。阿川沼は宮城県七ヶ浜町に位置し海岸線に直行する方向に細長い形状の堰止湖である。東北地方太平洋沖地震による津波発生時には、阿川沼周辺においては海岸付近で浸水高10 mを記録し、内陸2 km地点まで到達した。この沼に関する研究例は非常に少なく、水質分析とプランクトン調査報告があるのみである(田中 1993など)。この阿川沼において湖沼の存在が津波堆積物の分布とどう関わるのか検討する。研究手法海岸から阿川沼を通り、浸水域最奥部までの測線を設定する。阿川沼の海側湖岸・沼中・内陸側湖岸と最奥部でそれぞれ柱状試料を採取し、層相観察と帯磁率測定、測色、珪藻分析を行う。観察の結果と今後海側湖岸と内陸側湖岸、浸水域最奥部における柱状試料を観察したところ、これまでの研究と同じく海側ほど砂層が厚く、内陸に向かって細粒化し薄くなっていく傾向が見られた。表層は植生が繁茂しており土壌化も見られた。現在各試料の層相ごとに珪藻分析を進めており、津波が淡水湖に流入した際にその周辺に残される珪藻種構成の変化や珪藻殻の破片化について考察予定である。謝辞GPS測量は産業技術総合研究所の機器をお借りし、渡辺和明氏にデータ解析していただいた。ここに記して感謝いたします。
著者
木庭 元晴
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100344, 2014 (Released:2014-03-31)

福島第一原発事故以来3年を経た現在も,福島経済の中軸部である中通り地方の空間線量は5mSv/yをはるかに越えている。人の動線沿いの除染活動は比較的進んではいるが,動線から少し離れると高い空間線量を記録している。中通り地方の多くが5mSv/y,つまり放射線管理区域を脱するのは,広域のホットスポットを除いても,20年後である。 これは,航空機モニタリングと現地調査によって得られた土壌中のセシウム-134,-137濃度分布(Bq/m2)(文科省測定,農林水産省2012.12.28現在)から初期値を逆算し,原発事故から60年間についての自然減衰を計算した結果である。2013年終わりの四半期の測定は現在終了しておりこの3月には新たな測定結果がマスコミに発表される筈で,できれば再計算したい。 JA福島は,国・県・市に圃場単位の線量測定を依頼したが受け入れられず,全国生協の協力を得て,どじょスクと呼ばれる何万筆もの土壌汚染計測を実施してきた。どじょスクでは,筆毎に3点で測定器を接地して計測している。これでは農家の外部被曝量を評価できず,農家毎への適正な助言もすることはできない。つまり,疫学的な評価の基礎資料にならない。 この問題点をクリアするのは空間線量の利用である。耕地をカバーしうる地点(1点あたり半径50mの範囲)で,地上高1mの空間線量を計測することで,各耕地のいわば平均的なガンマ線線量率を得ることができる。地上高1mは3次元的な情報を得ることができるし,農家の被曝量μSv/hも求めることができる。なお,当然のことながら,農家の被曝は農作業対象の耕地だけでなくその周辺からの放射線からも被曝しており,耕地の土壌汚染よりも空間線量が農家の被曝評価には有効である。サーベイメータはPM1703MO-1(Polimaster製 高感度, CsI放射線測定器, 積算線量,探索メーター)を使用する。この調査では耕地内外のホットスポットの探索も重要である。 現地での空間線量測定値は天候に左右される可能性があり,空間線量値として地上高1mとともに地上高25cmでも計測する。無風の場合,理論的には後者は前者の1.3倍値となる。なお,中通りには多数の定点観測所が設置されている。このうち連続観測データのある7方部の測定値(2分毎の計測で1時間平均値)と風の関係をみると,0.01μSv/hほどである。
著者
青木 邦勲
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100021, 2013 (Released:2014-03-14)

1.はじめに 地理Bの学習内容について,教科書で取り扱う内容の順番と各社発行の受験問題集が取り扱う内容の順番が異なっていることは周知の通りである.昨年度より,発表者が担当している授業では受験参考書の順番を採用して授業計画を立てている.この理由は高校2年生では週4時間で授業を行っているが,学習内容が系統地理学の部分で終わってしまうため,地誌学の学習までたどり着かない問題を抱えていたためである. そこで,受験問題集数冊の項目立てから授業の流れが崩れない方法を考え,前半の系統地理学と後半の地誌学を合わせて「系統地誌学」という概念を思いついた(ただ,この概念は発表者が初めて提唱するものではなく,以前からこのような教育方法が提唱されていたのではないかと考えている).この方法で授業を進めると地誌の内容を扱うことも可能になるので生徒が興味を持ち自主的な取り組みが見られ,履修者の減少に歯止めがかかった.また,授業内容や授業回数の短縮にもつながり,3年生の11月に行なわれる日本大学付属学校等統一テストや各大学で実施している推薦入試に対応できると考えている.2.今回の発表内容 5月に行なわれた日本地球惑星科学連合大会では上記の2年生の授業の前半部分について,「特に地形学の授業の進め方を工夫することで,世界の鉱工業の理解が深まり,各地域の特色が明らかになるので生徒が興味を持ち,生徒自らが思考を深めてくれる」という内容で発表を行った.今回は視点を地理B全体に向けて「地理教育」としての観点から発表を行う. 3.発表の具体的な中身と構成 具体的には昨年度2年生の授業(週4時間)では「地形学・世界の鉱工業とエネルギー資源・気候学・世界の農牧業」という流れで授業を進め,今年度3年生の授業(週6時間)では「村落・都市・国家間の結びつき・現代世界の諸課題(民族・人口・環境問題)・林業・水産業・地図の図法・統計演習」で授業計画を立て,現在は現代世界の諸課題まで終了している. このような形で授業を行ったところ,以下のような結果(良い方向への変化)が見られた.①2年生のうちから各地の様子を詳しく見ることができるため,生徒の授業中の活動が積極的になった.②系統地理と地誌の関係が明確になり,各単元で何を学習してどこへ到達させるのか?が生徒自身で理解できるようになった.③生徒の思考が深くなり,各地域の特色について生徒自らがまとめる作業を行なうようになった.よって,従来の地誌学の考え方である各地域の総合的な特色については生徒自身でまとめる作業をしている.④2年生から3年生への地理継続履修者に減少の歯止めが掛かった. 教える側が先に全体の概要を示すことが大前提となるが,生徒自らが進んで地理を選択してくれる状況は整えたと考えている.また,受験のために授業をしている訳ではないが,各種実力テストでも偏差値50を確実に超えてくれている.成果が上がっているが,この方法にはまだ改善の余地があると考えているので,ご意見を賜りたい. 残念なのはこのような状況にあって大学入試で地理が受験教科にないこと,地理学科を持っている大学の入試制度が多様化していないことが残念である.
著者
新名 阿津子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100131, 2012 (Released:2013-03-08)

山陰海岸ジオパーク(以下,山陰海岸)では,ジオパークやジオツーリズムの導入によって新たなる観光客や来訪者を獲得し,国立公園の活動や地域資源の活用が推進されるようになった.既存ガイド団体や民間事業者のジオパーク参入,ガイド団体の新規設立等を通じ,地域経済への貢献も見られるようになってきている.その一方で,ジオガイド養成面では,制度的および実践上の課題が明らかになりつつある.さらに,民間事業者においてはジオパーク向けに開発された商品や体験メニューと「ジオ」との結びつきについて十分な説明がなされていないといった課題が生じつつある. 山陰海岸ではジオガイド確保の必要性から,これまで増員をめざし、各地でジオガイド養成講座を開催してきた.ジオガイド養成にあたっては,市町や各ガイド団体,観光協会,NPO等がガイド養成を担っているため,その運営も市町,団体ごとに異なる.さらに,現在のジオガイド養成システムでは,開講する講座の内容や定期講習会が団体ごとに異なるため,一定の質を保ったガイド育成にはつながっておらず,これがガイドの質のばらつきを生み出している. 山陰海岸におけるジオパーク商品は,既存商品へのロゴ使用,ジオパーク用に開発された商品へのロゴ使用,地場産品へのロゴ使用等がみられる.望ましいのは地域で生産される商品への活用であるが,”made in China”と書かれた携帯ストラップや単純に「ジオ」という文字を冠しただけで,そこに「ジオ」とのつながりを示す解説等は記載されていないものが多い.ジオパーク品質の管理という点からみると,これらは望ましい状況ではないが,現時点では商品開発における明確なガイドラインは示されておらず,これを指導する運営体制になっていない.山陰海岸では世界ジオパーク認定を受けて,ガイド団体や民間事業者がジオパークを活用するようになった.これ自体はジオパーク活用の量的拡大につながっているが,ジオパークとして品質を保証するところに至っていない.また,持続性の観点からみると,ジオガイドの安定雇用もしくは起業に対する支援も整備されていない.収入面での将来的な見通しが立たないため,退職者がジオガイドを担う状態となっている.ジオパークが地域経済への貢献を目指すのであれば,これら運営上の課題,経済的課題を解決してく必要がある.
著者
田村 俊和 氷見山 幸夫 田辺 裕 漆原 和子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.179, 2003 (Released:2004-04-01)

地理学の特性としてしばしば語られる4つのキイワード(学際性,環境,地域,空間)を手がかりに,最近の日本の地理学研究の動向を,地理学の内外および国の内外から点検して,地理学はこれからどのようにしていくのがよいか,参加者とともに考えてみたい. 地理学の研究はほんとうに学際的か? たとえば変動地形の研究からジェンダーの地理学まで並べてみれば,その対象はきわめて多岐にわたり,個々の研究にとっての隣接分野は,全体としてはきわめて広い.しかし,本来多面的な地理学の個々の研究対象を,地理学(内の各分野)の研究において真に多面的視点から分析しているかというと,かなり心もとない.たとえば都市の緑地の配置やその評価・活用について,都市地理学,植生地理学,気候学等の研究者が共同で,あるいはその誰かが他方から知見や方法の教示を得て研究するよりも,都市計画や造園学などの研究者が,大胆に結論を出し,方策を提示している例が目につく.これら応用的とされる学問分野では,社会の要請する問題の構造を敏感に感じ取り,ときに自らの蓄積の少なさや手法の不十分さをも省みず,その要請に応える(かの)ような答を用意しようとしている.一方,地理学内部の個別の研究は,地理学が全体としては何とか保持している多面的視点をうまく活用できず,むしろ自らの視野を狭めているようにみえる. 地理学では環境の問題を正面から扱っているか? 環境への関心は,大小の波を経ながらも,1970年ころからは,社会において,したがって科学研究においても,高まってきた.古来,自然環境と人間活動との関係を重要な研究対象としてきたはずの地理学は,全体としてはこの波に乗れなかった.自然地理学のいくつかの分野では,個別の人為的環境悪化の発端となる現象のメカニズム研究で成果を上げたが,それを,問題発生の抑制に向けた人間(社会,企業,etc.)活動の規制にまで発展させて議論することは少なかった.人文地理学者の多くは,環境決定論批判の後遺症に陥っていて,人間-環境関係の研究に的確に取り組むすべを失っていたようにみえる.70年代後半ころから,大学その他で環境という語を冠した研究組織に地理学的発想をもった研究者が多少とも進出し,あるいはそのような組織の結成に積極的に関与して,関連する教育にも携わる例が増えてはきたが,一方で「地理学でも環境をやるのですか」という素朴な疑問が隣接分野から聞こえる状況は変わっていない.その原因の一つは,大学の教育体制にあると考えられる. 地理学では地域を深く認識しているか? 「環境」の場合と同様,「地域の科学」を自称することの多い地理学を置き去りにして,地理学の外の多くの分野で「地域(の)研究」が盛行している.しかしその中には,空間性を捨象した人間関係だけで地域をとらえているようなものもみられ,地理学が強みをもって地域の研究に(再)参入し,成果を上げる余地は,まだあるように思われる. 地理学は空間を扱う手法を発展させたか? いわゆる計量地理学の後で登場したGISは,地理学も学んだ地理学外の研究者・技術者により主として考案されたが,ある段階からは地理学出身者の寄与も小さくない.そして地理学研究・教育の強力な手法として,今までは概念的にしか論じられなかった空間現象を,具体的なデータに基づいて図示し,解析することが可能になってきている.地理学が伝統的に蓄積してきた空間解析の手法と知見を生かしつつ,この新しい手法の活用法や適用範囲の拡大を図り,新たな概念の展開にもつなげる可能性が,今までの実践の外にある. これからどのような方向をめざすのがよいか? たとえば,そろそろ時限の来るIGBPのような環境研究計画は,広範囲の学問分野を結集して初めてその推進が可能になるものではあるが,その一部を分担しつつ,各分野での成果をその都度結びつけ(できれば統合し)て全体像を示し,それが人間生活においてもつ意味を多面的に考え続け,公表していくということは,地理学諸分野の共通の目標になり得る.これにより,地理学内の少なくともいくつかの分野での研究は進展し,その他の分野にとっても波及効果があり,地理学全体として活性化し,その特性を外に向かってアピールできる.このような次の大きな研究課題を地理学から提案し,中心的に推進して行けないであろうか.
著者
相馬 拓也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100122, 2014 (Released:2014-03-31)

モンゴル西部バヤン・ウルギー県の少数民族アルタイ系カザフ人の牧畜社会では、イヌワシを用いた鷹狩技法がいまも存続し、同県内には150名程度の鷹匠(鷲使い)が現存すると考えられる。発表者は2006年9月より同地域で調査研究を断続的に行っており、2011~2011年度の2カ年は、財団法人髙梨学術奨励基金「調査研究助成」(平成23年度および24年度)の資金的サポートにより長期滞在型の民族誌記録、生態人類学、民族鳥類学フィールドワークを行った。本発表は2011年7月より実施している、アルタイ地域に根づく特殊な鷹狩技法と鷹匠の民族誌記録と文化保存活動についての成果報告である。 【現状】 現地カザフ人の鷹匠たちは、鷹狩全般で用いられるハヤブサやタカなどは用いず、メスのイヌワシのみを馴化・訓練して狩猟に用いる。鷹狩は冬季のみに行われ、キツネがおもな捕獲対象とされている。また出猟は必ず騎馬によって行われる騎馬猟である。アルタイ地域の鷹狩文化は、毛皮材の獲得と、それらを用いた民族衣装の製作を目的とした「生業実猟」「民族表象」として牧畜社会に定着してきた背景がある。この「騎馬鷹狩猟」の伝統知と技法は現在、同地域のみで伝承・継続されている。その独自性や希少性は2010年11月、UNESCOの「世界無形文化遺産」に正式に登記され、近年国内外の注目を集めるようにもなっている。しかし、数世紀にわたる伝統技法や特殊な文化形態を育んだにもかかわらず、同地域とテーマの先行研究は寡少であり、鷹匠と鷹狩についての基本的な知見もほとんど把握されていない現状がある。 【目的】 そのため本研究では、無形文化遺産でもある同地の鷹狩技法に科学的知見を確立するとともに、その文化持続性・継承性に向けて生態人類学の立場から以下の貢献を試みるものである。①考古学的・歴史的情報を用いた広域アジアの鷹狩技法の文化的深度の特定、②民族誌記録活動、鷹匠たちの現状、生活実態、イヌワシ飼養方法の網羅的・民族学的把握、③文化遺産として持続可能な文化保護計画の学術的定義、施策の方向性、マスタープラン策定の提言、の現地社会でも特に要請度の高い3つの調査対象に設定した。 【方法】 本調査は2011年7月29日から2013年1月10日の期間でおよそ310日間、モンゴル国内およびバヤン・ウルギー県サグサイ村の鷹匠家庭への住み込み滞在により実施した。情報収集はアンケートによらず、近隣に生活する鷹匠との生活参与観察、日常の会話、半構成インタビューにより行った。縦断調査として、滞在先の鷹匠の生活誌全般を把握した。また横断調査として県内各村へ巡検し、鷹匠の現存数・生活実態の把握、イヌワシの飼養技術と鷹狩技法の地域性を網羅的に把握し、民族資料の収集も合わせて実施した。 【結果・考察】 集中的な民族誌調査により、(1)アルタイ、サグサイ、トルボ、ウランフス各村域内の鷹匠の実数、サグサイ村周辺の鷹匠たちの具体的な生活形態(定住型/移牧型)、イヌワシの飼養方法が明らかとなった。また冬季の狩猟技術(キツネ狩り)の手法および実猟活動の実践者の減少が明らかとなった。(2)生態面として、鷹狩(冬季)と牧畜活動(夏季)が相互の活動を補助しあう相業依存の成立基盤が明らかとなった。また、一度馴化したイヌワシを4~5歳で再び野生へと帰す文化的慣例により、人的介入がもたらすイヌワシ個体数維持への貢献が推察された。(3)文化保護面の課題としては、イヌワシを飼養・馴化する伝統が維持されている反面、その伝統知と出猟活動は失われつつあり、イヌワシ死亡率の増加、観光客相手のデモンストレーションへの特化など、脱文脈化の著しい傾向が判明した。 【結論】 以上の知見から、カザフ鷹狩文化は(1)天然資源の保全、(2)牧畜経済の生産活動、(3)伝統知の継承、に依存的に成立しており、これらの持続的発展が文化遺産としての本質的な存続につながると定義される。(1)天然資源の保全:捕獲対象獣であるキツネおよびイヌワシの生息数など、天然資源の保全はその前提条件である。(2)季節移動型牧畜の持続的開発:鷹狩文化の生態学的基盤を概観すると、単純な金銭・資源供与型の文化保護ではその文脈の維持・継承は難しく、貧困世帯の経済状況の底上げに通ずる、牧畜社会への間接的開発支援が求められる。(3)鷹狩の伝統知と技法の保護:狩猟活動の継続にともなう「伝統的知と技法」の継承が、鷹狩文化の継承を安定化する直接的保護と考えられる。こうした文化保護や生態基盤の解明は、「鷹狩文化」全般の持続可能性にとって普遍的価値が見いだされる。アルタイ系カザフ人の騎馬鷹狩猟とは、鷹匠とイヌワシが数世紀にわたり共生に根ざして行われてきた、「ヒトと動物の調和遺産」と定義することも可能である。
著者
大八木 英夫 濱田 浩美
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.1, 2013 (Released:2013-09-04)

湖沼における水質の汚濁を知る指標として,透明度の経年変化が簡便に使用されており,栄養塩類の増加に伴う富士五湖の富栄養化(汚濁)の進展過程を知ることができる。さらには,環境省は,望ましい水環境及び利水障害との関係を整理しつつ透明度を指標とする検討しており(2010年1月報道あり),今後,透明度の変遷についてもより注目する必要があるといえる。透明度に関して全国的に整理されている資料は,『自然環境保全基礎調査』など第4回(1991年)までの調査結果が環境庁(現環境省)によって実施されている。その結果,透明度10m以上の湖沼は全国で13湖沼、圧倒的多数の湖沼は透明度5m以下となっていたと報告されている。本研究では,富士五湖を中心として,多くの湖沼における近年の透明度の変化について考察をする。
著者
西崎 伸子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100016, 2013 (Released:2014-03-14)

1.  はじめに 2011年3月の原子力災害によって、広範囲の自然環境が放射能によって汚染された。このことは、環境汚染とともに、原発労働者や一般公衆の被曝問題を長期にわたって考えなければならない社会が日本に誕生したことを意味している。本報告の目的は、原子力災害後の社会のあり方を考えるために、1)子どもの被ばくリスク軽減の観点から、これまで実施されてきた国、行政、原因企業および市民団体の施策や取り組みを整理すること、2)市民団体がとりくむ草の根の保養支援活動の実態と意義を明らかにすること、3)地理学が対象としてきた「人と自然のかかわりと断絶」を考察することとする。   2.  対象と方法 子どもを対象とするのは、若年者の放射線感受性が高いことが、広島、長崎の原爆被曝者やチェルノブイリの原子力災害の調査から明らかにされてきたからである。福島県内外に今も15万人が避難をし、県外避難者6万人の多くが、子どもとその保護者による避難であるといわれている。避難区域が解除されても、もとの自治体に戻らない/戻れない人々が数多く存在するのは、インフラの未整備や就労の問題だけでなく、放射線による子どもへの健康影響に対する不安が未だ消えないことが原因である。 本報告は、国・行政の施策や市民による支援の取り組みに関する資料、および、報告者による参与観察と聞き取り調査によって得られた資料にもとづく。   3.  結果と考察 ①   政府は、避難を指示する区域を政治的判断で限定的に設定し、被曝線量が年1ミリシーベルト以上になる地域では除染を優先する方針を打ち出した。しかし、除染は計画通りに進まず、一度の除染作業では放射線量が十分には下がらない場所が生じている。この間、若年層の被曝リスクの回避を目的とした公的な施策は十分ではなく、低線量被曝は、不安感を抱く側の「心の問題」とされる傾向にある。 ②   保養に関する支援活動の現状は、1)被曝の低減、子どもの遊び支援に加えて、移住支援、健康診断、学習支援など多様化している。2)これらの支援活動は市民団体が主におこない、行政は、福島県内での活動には予算をつけるが、県外での活動への財政的支援には消極的である。3)2)の背景には、放射線被曝についての構造的問題があると考えられる。 ③   人と自然のかかわりの断絶は、人々の選択ではなく、原子力災害による被害として位置づける必要がある。また、保養支援は、「かかわり」の再構築につながる可能性があるだろう。   西﨑伸子「原発災害の「見えない被害」と支援活動」『東北発・災害復興学入門―巨大災害と向き合う、あなたへ』清水・下平・松岡編著, 山形大学出版会, 2013年9月出版予定
著者
青山 雅史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100014, 2013 (Released:2014-03-14)

1.はじめに 2013年4月13日に淡路島付近を震源とするマグニチュード6.3の地震が発生した.この地震により,兵庫県淡路市で震度6弱,南あわじ市で5強を観測し,淡路市では液状化の発生が確認された.本発表では,この地震による液状化発生地点の分布を示し,液状化発生地点の土地条件(特に,液状化が発生した埋立地の造成(埋立)年代)に関する検討結果を述べる. 2.調査方法 現地踏査により,液状化発生地点を明らかにした.現地踏査では,目視による観察に基づいて液状化(被害)発生地点のマッピング,被害形態の記載をおこなった.現地踏査は2013年4月19~20日におこなった.現地踏査時には既に噴砂が除去され,噴砂の痕跡も消失していた地点も存在すると思われる.現地踏査で立ち入ることができなかった領域に関しては,新聞・テレビニュース等の画像を用いて,噴砂発生地点の抽出・地図上へのプロットをおこなった.また,現地踏査で立ち入ることができず,上記のような画像情報もない領域においても液状化が発生していた可能性はある. 液状化が発生した淡路市の埋立地の造成年代に関しては,国土地理院撮影・発行の空中写真,旧版地形図に加え,津名町史(津名町史編集委員会 1988)などに基づいて検討した.3.液状化発生地点の分布と土地条件 液状化は,淡路市の埋立地(生穂新島,志筑新島,塩田新島,津名港ターミナル付近)において発生し,埋立地以外の領域では確認されなかった.淡路市(旧津名町)では,1950年代末から60年代前半にかけて志筑港湾地区の埋め立てがおこなわれ,1971年度に兵庫県企業庁により津名港地区周辺における埋め立て事業(津名港地区臨海土地造成事業)が着手され,90年代末にかけて上記の埋立地が造成されていった.液状化発生の確実な指標となる噴砂(または噴砂の痕跡)は,それらの埋立地の多数の地点で確認された.特に,1970年代に造成された志筑新島と,1980年代前半に造成された塩田新島において,噴砂が多くの地点で生じていた.志筑新島と塩田新島では,グラウンド,空き地,太陽光発電所の敷地,住宅地,駐車場や道路のアスファルト路面のすき間などにおいて,噴砂が生じていた.噴砂の層厚は,ほとんどの地点で5 cm以下であった.空き地や緑地等でみられた噴砂孔の直径は10 cm以下であった.津名港ターミナルの駐車場アスファルト路面においても,噴砂が散見された.生穂新島では,淡路市役所周辺の駐車場,道路アスファルト路面のすき間や空き地などにおいて,噴砂がみられた.液状化に起因すると思われる構造物の沈下・傾斜は,志筑新島の住宅地の1地点においてのみ確認された.この他にも,液状化との関連は不明であるが,津名港ターミナルの岸壁付近において人工地盤(構造物間)にすき間や沈下が生じ,志筑新島のショッピングセンター周辺では地盤の変状(軽微な段差や波打ち)が生じていた.生穂新島では,噴砂が生じた地点周辺のアスファルト路面に軽微な変状が生じていた.
著者
渡辺 満久 中田 高 後藤 秀昭 鈴木 康弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100137, 2011 (Released:2011-11-22)

1.日本海溝沿いの活断層の特徴と地震・津波との関係を検討する。立体視可能なアナグリフ画像は、海上保安庁海洋情報部とJAMSTECの統合測深データ(0.002°間隔のGMT grd format、東経138-147°・北緯34-42°)と、250mグリッド地形DEM(岸本、2000)を用いて作成した。本研究では、平成23年~25年度科学研究費補助金(基盤研究(B)研究代表者:中田 高)、平成21~24年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)を使用した。2 海底活断層は、以下の3種類に区分できる。(1) アウターライズの正断層群は、三陸沖から牡鹿半島南東沖にかけてはほぼ南北走行に延びるが、それ以南では海溝軸と斜交するように北東-南西走行となり、房総半島沖においては再び海溝軸と並走するようになる。正断層は、日本海溝軸から東側50~60km程度の範囲内に分布している。断層崖の比高には変位の累積性が認められ、海溝軸に近いものほど大きい(最大で500m以上)。(2) 三陸沖や房総半島沖の海溝陸側斜面の基部では、長さ200km程度の逆断層が複数認定できるが、連続性は良好ではない。その西側では、三陸北部沖から茨城県沖にかけて400km程度連続する長大な逆断層が認められ、隆起側には大きな垂直変位が生じていることを示す背斜構造がある。さらに陸側には、一回り小規模な逆断層(延長50km程度)がある。三陸沖以北の日本海溝斜面基部には、アウターライズより密に正断層が分布する可能性が高い3 日本海溝沿いの活断層と地震・津波との関係は、以下のように整理できる。(1) アウターライズには、鉛直変位速度が1mm/y程度の正断層が10程度並走する。正断層帯における伸長量は2cm/yに達する可能性もある。アウターライズの正断層起源とされる1933年三陸津波地震の起震断層は特定できない。(2) 延長400kmに達する連続性の良い逆断層は、その位置・形状から、2011年東北地方太平洋沖地震に関連する活断層であると判断される。今回の地震は複数の活断層が連動したものではなく、長大な活断層から発生する固有地震であった可能性が高い。同様の地震は、869年と1611年にも発生した可能性がある。1793年の地震時の津波は、分布は広いがあまり高くはないため、他の活断層が引き起こしたものであろう。海溝の陸側に分布する正断層に関しては、不明な点が多い。(3) 長さ200km程度の活断層はM8クラスの地震に、陸側の数10km程度の活断層はM7クラスの地震に関連するであろう。歴史地震との対応も比較的良好である
著者
新名 朋子 野上 道男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.209, 2004 (Released:2004-07-29)

1.研究目的 大都市圏において発生するヒートアイランドやクールアイランド現象は、人口集中域の拡大によって広域化し,都市域内部の土地利用のパターンによって、複雑にモザイク状になっていることが予想される。新版の気象庁気候値メッシュデータ(気候値2000)でも、土地の特性を都市域の気候値推定の要素に加えている。日本人の多くは都市生活者であり、都市域の温度環境を知ることは重要である。 広域都市圏の気候の実態を知るためには、リモートセンシングデータは好都合である。とくに衛星画像の昼・夜画像間の放射温度の「差」を用いることで、可視的な土地利用とその定常的な熱特性(不可視的)との関係を見ることができる。 また、種々に土地利用された地表面の熱特性が都市域の気温形成に影響していることから、都市域の気温分布特性を把握するために、地表面の熱特性を知っておくことが必要である。そこで本研究では土地利用(区分)ごとに地表面放射温度差(今後Radiation Temperature Difference=RTDと呼ぶ)の値が異なる場合があることに着目し、東京首都圏における土地利用ごとのRTD値とその季節変化を明らかにする。2.研究対象地域 本研究では「細密数値情報(10mメッシュ土地利用)首都圏」1994年版に収録されている行政区域内を首都圏として扱う。この対象地域を含む、ランドサットTM band6(解像度:120m×120mメッシュ)における、1050×1091ピクセル(約126km×131km)の範囲を解析対象とした。ランドサットTMデータは、昼夜間の放射温度差(RTD)の季節変化を見るために、夏と冬でそれぞれ昼夜の画像を用意した。尚、いずれの画像でも撮影時に降水や厚い雲はなかった。3.結果 RTD値の分布と土地利用分布との対応を明らかにするため、夏・冬のRTD画像と10mメッシュ値から作成した120mメッシュ土地利用画像を幾何学的に重ね合わせ、土地利用ごとにRTD値を集計し、平均値と標準偏差を計算した。 土地利用ごとのRTD値の差異からみると、田や畑などの自然的な土地利用では土地の被覆状態の季節変化(耕作など)がRTD値に影響を与えていることが数値的に示された。人工的な土地利用においては冬のRTD値は小さく、夏よりもヒートアイランドが強くなっていることが明らかになった。また、RTDの標準偏差からみると、郊外に多く分布する土地利用についてRTD値の広がりが小さいことが分かった。 都市気候の形成にかかわる土地利用としては,田や畑など自然的なものがまだ残る土地利用と,市街地・工場など高度に人工的な土地利用とが考えられる。しかし客観的な基準によって土地利用をみるために、クラスター分析を行ってみた。その結果として、自然的な土地利用については容易にまとまったクラスターとして抽出されたが、人工的な土地利用はなかなか同じクラスターになることはなかった。その理由としては、人工的な土地利用は細かいモザイク状になっており、RTD値がその土地利用特有の被覆状態よりもその土地利用が存在する場の影響を受けるためであるらしい。一方、自然的な土地利用では、その逆で近隣の場の影響よりも、その土地利用特有の被覆状態の方がRTD値を決め、またその値のバラツキも小さくなった(すなわち対応が鮮明である)と解釈された。