著者
高村 弘毅 小玉 浩
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.4, 2006

1.降雨・地下浸透蒸発観測システムの概要<BR> この装置は、降雨による雨水の蒸発量、浸透量を計るライシメータおよび気象観測システムで構成されている。<BR> 立正大学熊谷キャンパス内林地に、縦2.5m、横1.2m、深さ1.6mの穴を掘り、そこにステンレス製のライシメータカラム(1m×1m×1.4m)を電子天秤上に設置し、現場の関東ローム層土壌を充填した。電子天秤の最大計量可能重量は3000kgで、分解能(最小目盛り)は降水量1mmに相当する1kgである。ライシメータの表面積が1m<SUP>2</SUP>であるので、1kgの重量減少は、カラムの底からの排水がみられない場合蒸発高は1mmとなる。 <BR>ライシメータカラムには、上部より200mm間隔に、水分センサー(TDR)、地温センサー(サーミスタ)、EC(電気伝導度)センサー、pHセンサーの4種類、各6本を挿入した。ライシメータカラムの底には浸透量観測用として、内径20mmのパイプの中心が底より40mmの位置に横向きに取り付けてある。 気象観測システムは、2.5mのポールに、風向・風速計、純放射計、温度計、湿度計、雨量計が取り付けてある。上記の各種データをデータロガにより任意の時間間隔でデータを記録することができる。解析に用いたデータは1時間間隔である。<BR>2.観測結果<BR> 2004年3月30日午後4時から31日午前3時までに降った計34mmの雨について、ライシメータカラム内の土壌水分の変化をみると、深度の浅いところから変化し、深度120cmではほとんど変化が認められなかった。pHは、深度40cmではpH6.4から6.8の間で変化。深度80cmではpH7.4前後を示し、各深度のなかで最も高かった。深度100cmではpH6.4から6.8の間で変化し、深度120cmではpH6.0前後で変化した。電気伝導度も深度80cmが最も高くなっており、この深度に水質の変換点が存在している。地温は、深度の深いところが低く、深度の浅いところが高くなっている。また深度20cmでは、地温の日変化がみられる。深いところでは、上昇傾向ではあるが、顕著な日変化はみられない。 <BR> 台風接近による大雨時の観測データの分析結果について述べる。2004年10月8日午前11時から9日午後7時までの降雨191.5mm(台風22号)と、2004年10月19日午前11時から21日午前7時までの降雨121.5mm(台風23号)について解析した。電気伝導度は、深度60cm以外、雨量が増えると増加し、その後減少、ある一定以上の雨量になると変化がなくなり約100μS/cmに集まる。台風22号では降り始めからの降水量が115.5mmに達した時点で、台風23号では降り始めからの降水量が117.0mmに達した時点で集束状態みられる。深度100cmのみ電気伝導度がやや低い傾向にあった。<BR> 地温についてみると、台風22号と23号接近時ではかなり違う傾向を示した。台風22号接近時では、地温は日射が遮られるとともに減少し、降雨が止むと上昇に転じた。深度20cmでは、興味深い温度変化があらわれている。降雨強度が時間あたり10mmを超えると、減温傾向から反転し一時的に上昇する。台風23号接近時は、全体として増加傾向を示すが、深度20cmでは降雨強度の増加とともに急激に温度が上昇した。それ以外の深度では降雨にはあまり関係なく一定の増加率で温度が上昇した。<BR> 土壌水分の変化は、台風22・23号接近時とも類似の傾向を示した。深度が浅いところほど速く、また変化率も浅いところほど降雨に速やかに反応する傾向にあった。しかし、深度80cmと100cmの観測値に着目すると、反応の早さ、変化率の激しさが深度順とは逆転する現象がみられた。 <BR> 本研究は、立正大学大学院地球環境科学研究科オープンリサーチセンター(ORC)「プロジェクト3『環境共生手法による地下水再生に関する研究』」の一環として実施したものである。
著者
茗荷 傑
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.134, 2008

<B>はじめに</B><BR><BR>茗荷・渡邊(2008)では有田郡広川町と函館市椴法華地区の事例から両者を比較しつつ災害と土地機能の回復について考察した。土地の機能とは土地の有用性である。そして有用性は有為転変するという特徴を持つ。全滅に近い状態となった土地のその後の過程がその地域の持つポテンシャルを推し量る便となるのではないかと考えられる。今回は絶海の孤島である青ヶ島のたどった状況から考察していきたい。<BR><BR><B>青ヶ島事情</B><BR><BR>八丈島から60km、都心から360km離れた青ヶ島は古来流刑地として知られ、東京最後の秘境と呼ばれる絶海の火山島である。本土から青ヶ島への直行便は無く八丈島からの連絡となる。八丈島までは東京から12時間の船旅、あるいは航空便を利用する。青ヶ島に入る方法は2つある。八丈島からの連絡船「還住丸」(111t、所要3時間、1日1往復)か、または八丈島からのヘリコミューター(所要20分・1日1往復)を利用する。しかし環住丸は欠航率5割とも6割とも言われ、安定した便とは言いがたい。一方ヘリは9人乗りで重量物を搭載する余裕があまり無い。さらに周囲を絶壁に囲まれた青ヶ島には港が無い。桟橋が外海に直接に突き出ているだけである。したがって外海のうねりの影響をまともに受け、接岸が極めて困難である。(写真)少しでも海が荒れると欠航になる理由がここにある。桟橋を目の前に見ながら接岸する事ができず、八丈島に戻ることも珍しいことではない。<BR>島には産業がなく物資のほとんどを島外に頼っているため、島の生活はしばしば天候に左右されているのである。<BR><BR><B>青ヶ島の災難</B><BR><BR>天明3年3月10日(1783年4月11日)この島の運命を変えることになる大爆発が起こった。池の沢より噴火し、その噴火口は直径300mを越す巨大なものであったともいわれている。ここから50年にわたる青ヶ島の苦難の歴史が始まった。<BR>天明3年2月24日、突然の地鳴りとともに島の北端、神子の浦の断崖が崩壊を始めた。このときおびただしい量の赤砂が吹き上がり島中に降り注いだと言われる。<BR>同年3月9日未明より地震が8回起こり、池の沢に噴火口が出来てそこから火石が噴出した。当時池の沢は温泉があり14名が湯治に来ていたが、たちまち焼死したと言う。<BR>このときの噴火の様子は八丈島からも観測され、記録が残されている。それによると、困窮する青ヶ島の島民を少しでも八丈島に移すよう便宜を図ったとの記述があり、すでに天明3年の噴火で島民の八丈島脱出が始まっていたことがうかがえる。<BR>家屋は大半が焼失し農地は荒れ放題、更に池の沢は青ヶ島の水源であったためいよいよ生活は困窮し、飢饉が発生しつつあった。天明5年3月10日(1785年4月18日)、再び未曾有の噴火が始まり青ヶ島は完全に息の根を止められた。<BR>同年4月27日、八丈島からの救助船が青ヶ島の船着場である御子の浦に到着したが、驚いたことに島民全部を収容するにはとても足りない3艘の小舟だけであった。舟に乗り込めなかった130~140名の島民の最期は悲惨なもので、その多くは飢えで体力を消耗した老人と幼児であったと言う。彼らは救助船に取りすがって乗船を懇願したが、舟縁にかけた腕を鉈で切断され、頭を割られ海に沈んで行った。<BR>なぜ八丈島は充分な数の救助船を派遣しなかったのか記録は残っていないが、八丈島も慢性的に食糧事情が悪く、青ヶ島島民を全て引き受ける余力がなかったためではないかと思われる。<BR>こうして青ヶ島は島の3分の2が焼き尽くされ無人島となった。以後還往と称える帰島までの半世紀は生き残った者にも言語を絶する苦難の道程であったと伝えられる。その後青ヶ島に噴火は発生していない。<BR><BR>このように青ヶ島はきわめて生活に困難な環境である。<BR>しかし逆に言えば青ヶ島の唯一のメリットといえばその孤立性にある。つまり外部からの人口の流入が少なく、島民全員が顔見知りで家族同然というわけなのである。<BR>青ヶ島は無人化の後、半世紀の時を経ても住民が帰島して復興の過程を進むことになり、現在に至っている。この島の復興を可能にした要因は何なのか、多様な項目にわたって青が島全体の環境を俯瞰できるよう、文献や現地調査等に基づき考察する。
著者
内山 庄一郎 堀田 弥生 折中 新 半田 信之 田口 仁 鈴木 比奈子 臼田 裕一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

クライシスレスポンスWebサイトの目指すところは、自然災害発生時における、あらゆる災害情報の自動アーカイブと、これらのオンデマンドな災害情報・災害資料の提供である。しかしながら、技術的にも著作権的にも多数の課題があることは自明である。そこで、現在は多様で広範、かつ動きの早い災害情報のアーカイブに関する実証実験として実施している。具体的には、1)迅速対応の実践として、災害発生後ゼロ日以内に第一報を提供すること。また発災からしばらくの期間、継続的に更新を行うこと、2)情報の整理として、災害発生直後から泡のように現れては消えてゆく災害情報の検索と整理を行い、3)情報の提供として、それら災害情報への簡便な一元的アクセスの提供を目指している。並行して4)これらをドライブするシステム開発を推進している。
著者
秋本 弘章 秋本 洋子 伊藤 悟 鵜川 義弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>フィールドワークにおけるARシステム活用の意義 </b>高校地理教育においてフィールドワークは重要であることは言うまでもない.しかし,効果的な実施ができていないという報告がある.10人程度の少人数であればともかく,クラス単位や学年行事として実施をする場合,フィールドで適切な指示が難しいからである.スマートフォンによるARシステムは,フィールドで,実際の地理的事象を観察しながら,その地理的背景の探求や理解を助ける情報を提供するものである.このようなAR機能をもつGISが教育現場に提供できれば,野外観察をより効果的に実施することができる.<b></b> そもそもARシステムは,スマートフォンやタブレット端末での利用を前提に開発されてきた技術である.これらの端末が広く普及すれば,ARは容易に利用できることになる.ここ数年におけるスマートフォンの急速な普及は誰もが認識している通りである.実践を行った早稲田高校においてもほとんどの生徒が所有し,日常的に利用していため,新たなアプリを使うことに対しても抵抗感はほとんどななかった.なお,校内においては通常スマートフォンの利用は禁止している.学習活動に利用するという目的で時間と場所を限って許可を与えて行った. <b>教材の開発と実践 </b>教材の開発は,昨年の春から行った.グループ学習という前提であるため,グループで見学コースを決めてまわることができるように,多数の観察ポイントを用意した.具体的には都内の100個所以上の見学個所として,質問項目を作成した.これらの質問項目は,Google Mapsのマイマップの機能を使って登録したうえで、AR機能を持つアプリであるWikitudeに書き込んだ. 授業実践は,早稲田高校1年生を対象に行った。従来関西研修旅行の予行として都内近郊でグループ学習を行っていた時間を使った.全体集会においてスマートフォンのアプリの利用方法等を伝えるとともにHRの時間を使ってグループワークのコースを作成させた。そのうえでフィールドワークではARシステム等を使って,スマートフォン上に提示される観察ポイントをめぐり,観察ポイントごとに示された課題を回答する.フィールドワーク終了後,江戸から東京への変遷、地形的特色などをまとめたレポートを提出させた. <b>授業実践の効果 </b>早稲田高校の生徒は,中学校の社会科地理の時間に学校周辺の引率型のフィールドワークを経験している.また,理科の授業でも野外観察も行っている.そのため,「教室の外」での学習が効果的なことを理解していたようである.また,スマートフォンを使って観察ポイントを探すという方法は「ゲーム感覚があり,楽しかった.」と好評であった.しかし,生徒は東京およびその周辺在住していながら,観察ポイントのほとんどを訪れたことなかったと回答している.その意味でも大きな意義があったと思われる.また,引率を担当した学年の先生方からも,生徒がグループで協力しながら学習を進めている姿に好意的な感想が寄せられた.観察ポイントについても,新たな東京の姿を発見できたなど高い評価を得た.もちろん,改善点もある.システム上の問題としてはWikitudeが古い機種のスマートフォンでは作動しないことである.また,当時の我々の技術では写真等を載せることができなかった.実践上の問題としては、時間内の回ることができなかったグループが多かったことである。見学範囲,見学個所の整理が必要かもしれない.
著者
一 広志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.5, 2005

1.はじめに 2004年、愛媛県地方は台風の相次ぐ接近・上陸によって各地で風水害や土砂災害が多発した。これらのうち、9月29日の午後に四国南岸を東北東に進んだ台風21号(T0421)による東予地方の大雨の事例を採り挙げ、降水の成因を擾乱の構造の視点から解明することを試みる。2.考察東予地方の降水は、以下に示す3回の極大が認められる。 (1) 7時から9時頃にかけての新居浜、富郷、三島におけるピーク (2) 正午頃の成就社、丹原(石鎚山麓)におけるピーク (3) 15時頃から19時前にかけての東予地方のほぼ全域におけるピーク (1)は台風が九州に上陸する前後で、気圧場の風によって四国南岸から流入する暖湿気塊が、中国地方から瀬戸内海中部にかけての相対的に低温である気塊と衝突することによって相当温位傾度が大きくなっている領域に発生している。 (2)における台風の位置は宮崎県北部で、降水の成因は地上風の地形による強制上昇を主因とする収束の持続と考えられる。 (3)は台風が四国西南部に上陸し、南岸部を東北東に進んで紀伊水道に達するまでの時間帯であり、三者の中で最も多い降水量を記録している。この時間帯の降水の特徴として、降雨強度の極大時付近に南風成分の減少と西風成分の増加で表される地上風の急変が認められ、気温が急激に低下している(2_から_3℃/30min程度)ことが挙げられる。四国とその周辺における地上相当温位分布とその変化に着目すると、極大域は台風中心の東側にあり、中心を経てほぼ北東から南西の方向に延びる急傾度の領域が形成され、台風とともに東進している。地上風の急変はこの領域の通過後、等相当温位線にほぼ直交する方向に生じており、相当温位の低い気塊が流入したことを示している。 以上より、解析された相当温位の急変帯は寒冷前線の性質を持っており、降水の極大は低相当温位気塊の流入によって発生したことがわかる。AMeDAS観測地点毎の降水ピーク時における10分間降水量の値を比較すると、山間部や東部における値は北西部・島嶼部の2から3倍に及んでおり、四国脊梁山地の地形による増幅が認められる。3.類似事例との比較 経路および降水分布が類似している事例として、T9916とT0423が挙げられる。T9916は降水のピーク時に南風成分の減少と西風成分の増加で表される地上風の急変と気温の低下を伴なっている。この時の中心位置は四国のほぼ中央部であり、松山付近が地上相当温位の極小域となっている。地上相当温位傾度はT0421と比較すると緩やかであるが、降水の極大は低相当温位気塊の流入によって発生しており、前述の(3)と同じメカニズムによってもたらされたものと言える。T0423による降水は、ピーク時における強度(10分間降水量)はT0421の約1/2であるが、強雨の持続によって総量が多くなっている。新居浜や丹原では降水が継続している間は北東寄りの風が卓越しており、気温の急激な変化は認められない。降水のピーク時においては紀伊水道から四国を経て日向灘に至る領域で南北方向の相当温位傾度が大きくなっており、これの解消とともに強雨は終息している。
著者
近藤 暁夫 鈴木 晶子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1.</b><b> 研究の目的</b><br><br> 経済循環が,大きく生産分野,流通分野,消費分野の連携で成り立っている以上,経済地理学においても,この三者三態の空間的特徴の総体的な把握が望まれる。この中で,近年農業分野において六次産業化の掛け声のもと,生産・加工・流通・消費を一連のまとまりとして議論,実践する動きが顕在化していることが注目されよう。現実に,各地で生産者と消費者を架橋する施設として直売所が急増している。今回はその中でも既往研究のほとんどない「インショップ形式の農産物直売所」を取り上げる。<br> インショップ形式の農産物直売所とは,スーパー等の量販店や生協の店内に開設し,少量多品目の農産物やその加工品を周年販売する半独立のコーナーを指す。近年,全国的にインショップが急速に売上額を増やしているが,その小規模性と店舗内の一コーナーという位置から,インショップの全国的な実態や実績をまとめた資料は未整備で,売上額の調査などもなされていない。<br> 本研究は,静岡県磐田市内のJA系列のスーパーマーケット「A店」とその中に設置されているインショップ形式の農産物直売所を取り上げ,店舗,生産者,消費者の検討から,インショップの存立を支える地域的な基盤の抽出を目的とした。<br>&nbsp;<br><br><b>2.</b><b> 研究の方法</b><br><br> 生産者としてインショップへの農産物出荷者34名,流通者としてA店の関係者,消費者として来店者397名に聞き取りとアンケート調査を実施した。なお,生産者には営農の実態と直売組織に参加した理由,インショップに出荷する作物と他の流通形態の作物の使い分け等を,流通者にはインショップの設立背景や運営方法,店舗経営全体の中でのインショップの役割等を,消費者には購買実態とどのような時に競合店舗ではなくA店とインショップを選択・利用するのかを訪ねた。そして,これら3者の動向をもとに,インショップ型の農産物直売所の存立を可能とする地域的な基盤の検討を行った。<br><br> <br><b>3.</b><b> 研究の結果</b><br><br> A店内の直売所への農産物の納入者は,店舗から3㎞圏内に位置する農家である。このような圏的な囲い込みが成しえたのは,A店がJA系列の店舗であり,地域の農家とのつながりがもともとあったことと関係している。しかしながら,A店が属する地域農協に所属する農家自体は3㎞より遠方にも多く居住していることから,日常的に店舗まで農産物を納入可能な範囲として3㎞がひとつの目安になっているといえよう。多くの場合,彼らは,友人や農協等による勧誘をきっかけに,通常の農協への出荷以外の副次的な農業収入を得たいと考えて,産直に参加した。農家の多くは高齢層で,売れ残った商品は自家で処理する。また,農産物の納入等でA店に来訪する折に店内で購買を行うこともまれではない。<br> A店の側は,農産物直売所自体の収益は売り場面積の割に高くないものの,競合する店舗に対して絶対的に差別化できる商品であること,来店者が同時に食料品等の他の売り場の商品の購買を期待できることから,直売所の充実に積極的である。<br> 消費者は,店舗から半径2㎞程度の圏内を中心に来店している。その多くは,食料品全般の購入のために来店する主婦層であるが,多くの場合,インショップの商品も同時購入しており,直売所の存在が店舗選択において一定のウェイトを占めている。<br> このように,A店をめぐり,生産者は自家消費の余裕分を出荷することで無理なく副収入を得る道が開け,流通者は集客の目玉を得ながら売れ残りのリスクを回避できる。消費者は農家が食べるのと同じ新鮮で安心な野菜を手軽に入手できる。このような,インショップを中心としたごく近距離間の「地産池消」の構図により,当地の農産物直売所は存立している。これには,工業地帯に位置し,混住化が進行している磐田の地域的条件が大きく関係している。他地域においても,一律横並びの整備ではなく,インショップ,独立店,道の駅など,その地域性に最も合致するような,柔軟な農産物流通の形態を探る議論が求められる。
著者
竹内 裕希子 廣内 大助 西村 雄一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b><u>はじめに</u></b><b><u></u></b> 東日本大震災の「釜石の奇跡」が例に挙げられるように,防災教育を実施する重要性とその効果が認識されている。しかし,防災教育の実施は未だ手探りである場合が多く,体系化したプログラムが提供されていないため,学校防災では現場教員の意識・知識に頼らざるを得ない状況であり,実施内容や頻度は学校において違いが生じている。 本報告では,愛媛県西条市において2006年度から取り組まれ続けてきた防災に関する「12歳教育」の現状と課題を考察する。ヒアリング調査・アンケート調査から「12歳教育」の効果と継続性の要素を整理し,地理的要素である空間認識と地域特性の理解を取り入れた総合的防災教育プログラムである「新12歳教育」の提案を行うことを目的としている。 <b>2.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b><u>愛媛県西条市</u></b><b><u></u></b> 愛媛県西条市は瀬戸内海・豊後水道に面し,背後に石鎚山を最高峰とする四国山地に囲まれた愛媛県の東部に位置する。2004年に来襲した台風21号・23号により市内の河川が氾濫し,荒廃した山地からの流木により大きな被害が発生した。この災害を教訓として西条市は,大人に近い体力・判断能力が備わってくる12歳という年齢に着目し,防災教育や福祉や環境に関する活動などを行うことによって社会性を育て,子供たちが災害時には家庭や地域で大きな働きをなせるような力を身につけていくことを目的として2006年度から「12歳教育」に取り組んでいる。 「12歳教育」は,西条市内の小学校6年生児童を対象に総合学習の時間を用いて実施されている。各学校は4月に1年間の防災教育課題を決定し,夏休みに代表児童が西条市が実施する「防災キャンプ」に参加し,防災に関して学ぶ。その後各学校で防災教育活動を行い,2月に西条市内の全6年生が集まり「こども防災サミット」と題した発表会を行う。 <b>3.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b><u>調査概要</u></b><b><u></u></b> 西条市教育委員会へのヒアリング調査並びに,西条市内に立地する小学校25校・中学校10校の校長・教頭にアンケート調査を実施した。ヒアリング調査は2013年12月,2014年5月に実施し,アンケート調査は2014年7月に実施した。アンケート調査は,①2006年度から実施されている12歳教育の取り組み内容,②12歳教育の防災教育効果,③総合学習の時間以外の各教科科目内での防災教育の取り扱い状況,④学校管理上の防災の課題の4つの大項目で設計した。 <b>4.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b><u>12</u></b><b><u>歳教育の防災教育効果</u></b><b><u></u></b> 12歳教育の防災教育効果を西条市が掲げる教育理念23項目ごとに4件法で回答を求めた。 全ての学校で23. 「防災教育の充実・発展」の理念向上に12歳教育が影響を与えていると回答した。また,11.「西条市の特色ある教育」として捉えられており,17.「ふるさとを愛す態度を養う」21.「コミュニケーション能力の育成」に影響を与えていると回答した。「12歳教育」では,地域住民に話を聞き地図を作成する「防災タウンウオッチング」や学習成果を地域に広める取り組みを行っている学校が多く,それらの地域学習を通じた効果であることが推測される。
著者
埴淵 知哉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100014, 2011 (Released:2011-11-22)

本研究では、不動産広告に表現される情報を材料として、軍港都市・横須賀の場所イメージの構造とその変遷を「住」の側面から明らかにする。広告内に表現される場所イメージは、特定の目的に沿って生産された選択性の高い情報と考えられるため、そこに含まれる「偏り」の中に、価値や評価の構造を読み取ることができる。そこで本研究では、場所イメージの生産者が、消費者に対してどのような情報を提示してきたのかを分析し、その中で軍港都市の諸要素がいかにかかわっていたのか、あるいはいなかったのかを検討する。不動産広告を収集する資料としては、『朝日新聞縮刷版』の朝刊を用い、1940~2009年の70年間を対象期間とした。季節性と曜日を考慮しながら、一定の基準に従ってサンプリング(抽出率約10%)をおこなったうえで、抽出した新聞記事の中から、横須賀市内に立地する物件の不動産広告を収集した。作業の結果、合計で150件の広告が資料として得られた。分析においては、まず、不動産広告における文字情報に着目し、場所イメージが言語的表現を通じてどのように書かれているのかを探った。具体的には、キーワードの出現頻度を集計し、場所イメージに関する内容分析をおこなった。その結果、横須賀市内に立地する住宅地の不動産広告からは、基本的に「軍港都市」と関連する場所イメージは、少なくとも直接的には抽出されなかった。出現頻度の高かった「海」「高台」「丘陵」といったキーワードは、横須賀が港湾都市として発展してきた地形条件を表現しているともいえるが、それはむしろ「景観・風景」「眺望・見晴らし」といった一般的に好ましいイメージに結び付けられており、抽象的な自然物として表現されていると考えられた。次に、広告内の視覚的表現として地図・図像データを取り上げ、軍港都市の各種施設や地物がどのように描かれるのか/描かれないのかに注目しながら、場所イメージの描かれ方を分析した。その結果、文字情報と同様に、地図・図像においても軍港都市の要素は基本的に描かれていなかった。例えば、イラストとして表現された海や港も、軍港としてではなく、レジャーを連想させるものとして描かれていた。このように、不動産広告において表現される横須賀の場所イメージには、軍港都市の要素はほとんどみられず、それは住宅地のイメージを商品化するうえで意図的に除外されていたものと推察される。
著者
天野 宏司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

2011年第2四半期に放映されたアニメ『あの花の名前を僕達はまだ知らない』は,秩父市を舞台設定の参考にした作品である。秩父アニメツーリズム実行委員会はこの作品を観光資源化し,8万人・3.2億円の集客効果をあげ,コンテンツ・ツーリズムの成功を収めた。しかし,苦悩も生じる。2012年以降も引き続き誘客を図ることが期待される。制作サイドとの良好な関係のもと,さまざまな誘客イベント・PRが展開されていくが,本報告ではその効果の検証を行う。
著者
土'谷 敏治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.102, 2005

1.はじめに 公共交通機関の経営状況が悪化する中で,規制緩和政策にともなう交通事業者の退出の自由が認められたことを受けて,多数のバス路線はもとより,鉄道・軌道についても存廃問題が議論され,実際に廃止される路線がみられるようになった.その中で,富山県の加越能鉄道は,通称「万葉線」の軌道事業からの撤退を表明した.しかし,地元自治体の存続に向けての意志表示や市民の存続運動の結果廃止を免れ,第三セクター万葉線株式会社として再出発することになった. ところで,万葉線の第三セクター化の過程で,採算性の検討や今後の需要予測は行われてきたが,利用者側の実態調査,すなわち,利用者の属性,利用頻度,利用目的,利用者の特性などの調査は,ほとんど実施されていないのが現状である.また,詳細な旅客流動調査も行われておらず,運賃収入にもとづく乗客数の予測値が,唯一の利用実態を示すデータといって過言ではない.もちろん,経営の危機に瀕している事業者としては,利用状況の把握もままならない事態は理解できるが,旅客流動状況や利用者特性の把握は,当該事業者の現状を理解し,今後を展望するためには必要不可欠な情報であるといえる. 本報告では,既存の路面電車を第三セクター化して存続することに成功した万葉線株式会社を取り上げ,旅客流動調査,アンケート調査を実施して,その旅客輸送パターン,利用者の特性について分析を行った.2.調査の方法 調査は,できるだけ多くの調査日を設定して実施することが好ましいが,調査員の確保,調査対象利用者や事業者側の負担などから,限られた日に実施せざるをえない.今回は,平日と休日の各1日ずつの調査とし,前者は2004年11月2日(火),後者は11月3日(水)の文化の日に実施した. 両日の調査にあたっては,始発から終発までのすべての電車の乗客に対して,居住地,性別,年齢などの利用者の属性,利用目的,利用頻度,乗り継ぎ利用の有無などの利用者の特性,万葉線についての評価などのアンケート調査を実施するとともに,現金払い,通勤・通学定期,回数券などの運賃支払い区分別旅客流動調査を行った.その結果,870人からアンケート調査の回答がえられた.また,のべ乗車人員は,11月2日が2,426人,11月3日が1,518人であった.3.万葉線の旅客輸送パターン 万葉線は,高岡市と新湊市にまたがる12.8kmの路線を有しているが,法的には高岡駅前・六渡寺間の軌道線と,六渡寺・越ノ潟間の鉄道線からなっている.しかし,両者は路面電車タイプの車両で一体として運行されており,実質的な区別はない. 旅客流動調査の結果から,万葉線の旅客輸送パターンは,大きく分けて,高岡駅前を最大の発着地とする高岡市内の近距離輸送,新湊市役所前を中心とする新湊市内の近距離輸送,高岡・新湊両都市間の輸送からなっている.これらの旅客輸送パターンには,高岡市内,新湊市内に立地する高等学校への通学利用,高岡市内のショッピングセンターへの買い物利用による輸送が含まれる.通勤・通学客が少なくなる休日では,高岡駅前を発着地とする輸送の割合が高まる傾向がみられる. 運賃支払い区分では,平日の通勤・通学定期利用者は約31%,休日は約19%で,定期旅客の割合が低く,都市内部の公共交通機関の性格を有しているといえる.また,沿線に立地する幼稚園の遠足による団体利用があるなど,地域に密着した交通機関であることが窺われる.4.利用者の特性 利用者に対するアンケート調査の結果から,半数近くが高岡市在住者,約30%が新湊市在住者である.年齢別にみると,10歳代と60歳以上がそれぞれ約30%で,高校生の通学と高齢者の利用が中心であるという構造は,万葉線にもあてはまる.しかし,20_から_50歳代の利用者も40%近くを占める.このことは,通勤利用者率の高さにも反映されており,最大の利用目的である通学利用についで通勤利用が多く,両者の差は小さい.買い物利用,余暇活動による利用,通院がこれらにつづく利用目的であるが,通学や通勤利用の半分程度である. 万葉線についての評価では,運転本数の評価が高く,ついで運賃や乗務員の応対など,第三セクター化後の営業努力が比較的高い評価をえている.他方,設備面や終電時刻については,改善の希望が多く見うけられた.
著者
佐藤 浩 八木 浩司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.207, 2011

ネパール東部では1934年にM8.2の地震が発生したが,地震空白域に当たる西部では,今後の地震による斜面崩壊の多発と住民への被害が懸念されている.そこで,先行研究の活断層図を用いてネパール西部における地震時の斜面崩壊の脆弱性をマッピングした。その結果を報告する。
著者
佐竹 泰和 荒井 良雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.24, 2014 (Released:2014-10-01)

1.背景と目的2000年代以降,全国的に整備が進むブロードバンドは,高速・大容量通信を可能とした情報通信基盤である.音声や文字だけでなく静止画や動画の流通が一般的となった現在では,ブロードバンドはインターネット接続に必要な基盤として広く普及している.インターネットの特徴の一つは,距離的なコストを削減できることから,地理的に隔絶性の高い地域ほど利用価値が高いことにあり,こうした地域に対するブロードバンド整備の影響が着目される. 離島は,地理的隔絶性の高い地域の典型的な例であるが,それ故に本土との格差が生じ,その対策として港湾・道路などのインフラ整備に多額の公費が投入されてきた.しかし,高度経済成長期以降強まった若年層の流出は続き,多くの離島で過疎化・高齢化が進行するなど,離島のかかえる問題は現在もなお解消されていない. それでは,離島におけるインターネットの基盤整備は,どのような地域問題に貢献しうるのだろうか.本研究では,離島におけるインターネットの利用実態を把握し,その利用者と利用形態の特徴を明らかにすることを通じて,インターネットが離島に与える影響を検討することを目的とする.なお,本発表では住民のインターネット利用について報告する. 2.対象地域と調査方法 東京都小笠原村および島根県海士町を研究事例地域としてとり上げる.本研究では,島民のインターネット利用実態を把握するために,両町村の全世帯に対して世帯内でのインターネット利用状況についてアンケート調査を実施した.小笠原村に対しては,2013年5月に父島および母島全域にアンケート票を送付した.回収数は403,国勢調査の世帯数ベースでの回収率は29.9%である.また海士町に対しては,2013年12月に町内全域にアンケート票を郵送し,394の回答を得た.2010年国勢調査によると,海士町における世帯数は 1,052(人口2,374)であるため,国勢調査ベースで回収率は37.5%である. 3.結果の概要 総務省が毎年実施している通信利用動向調査によれば,2012年の世帯内インターネット利用率の全国平均は86.2%だが,小笠原村は,82.1%と全国平均に近い一方で,海士町は54.2%と低い.海士町を例に回答者年齢別のインターネット利用状況を分析した結果,離島も全国的な傾向と同様に年齢の影響を強く受けることが明らかになった.一方,コンテンツの利用状況をみると,小笠原村と海士町共にインターネット通販の利用率が最も高く,次いで電子メールとなっており,電子メールの利用率が最も高い全国平均と異なる結果を示した.このように,インターネットの利用有無は回答者属性に依存するものの,利用内容については離島という地域性が現れたと考えられる.たとえば小笠原村では,観光業が盛んなことから自営業の仕入れにインターネット通販を使う例もみられた. 次に,居住者属性として移住の有無に着目し,海士町においてIターン者のインターネット利用状況を分析した.海士町のIターン者は若年層が多いため,インターネット利用率は約66%と隠岐出身者よりも高い値を示した.また,品目別にインターネット通販の利用状況をみても,Iターン者のほうが多品目を購入していることが明らかになった. 以上から,年齢の影響は無視できないものの,離島生活におけるネット通販の必要性,特に Iターン者に対する影響は大きく,ブロードバンド整備は移住者の受け入れに必要な事業であるといえよう.しかし,この結論は限定的であり,より対象を広げて議論する必要がある. 付記 本発表は,平成24-26年度科学研究費補助金基盤研究(B)「離島地域におけるブロードバンド整備の地域的影響に関する総合的研究」(研究代表者:荒井良雄,課題番号24320166)による成果の一部である.
著者
曽根 敏雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100298, 2016 (Released:2016-04-08)

大雪山の永久凍土分布の下限高度付近の風衝砂礫において、2013年秋から地表面温度および気温を1年間以上測定し永久凍土の存在の可能性を推定した。その結果1755m地点以上の標高の風衝砂礫地では永久凍土が分布する可能性があることが判った。1655m地点と1710m地点では地表面温度の年平均値が0℃を越えており、永久凍土が存在する可能性は低い。
著者
上村 博昭 箸本 健二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>1.はじめに</b><br> これまで,流通地理学,農業地理学,漁業地理学などの研究において,小売業・卸売業の流通・配送システム,製造業における部品の供給体制,第一次産業での農水産物の出荷・流通システム等が明らかとなってきた.このような大規模流通システムの一方で,小規模な事業体は直売所などローカルレベルでの流通・販売を行う傾向にある.しかし,ローカルな市場は相対的に小規模であるから,事業規模を拡大するには,近在の都市部,あるいは大都市圏への流通・販売の展開が模索される.この際,都市部へ進出する事業者には,大規模流通への対応,ないしは大都市圏で独自のマーケティング活動を行うことが必要となる. <br> 実際,近年では農商工連携など行政施策の展開もあって,離島や農山村など,経済活動に関して条件不利性を持つ地域の主体が,都市部への流通・販売を模索する動きがみられる.離島には本土と比べて流通面での不利性があるため,大規模流通システムへの対応,ないしは都市部でのマーケティング活動への障壁は大きいと考えられる.しかし,こうした事業活動のなかには,都市部に一定の販路を確保し,継続的な取引(流通・販売)に至った事例がみられる.そこで本報告では,こうした事例を採りあげて,条件不利地の中小事業者が,如何にして都市部への流通・販売を行い得たのかという点を,事業モデルをふまえながら議論する.本研究の分析にあたり,2013年6月と9月にヒアリング調査を実施したほか,事例事業の資料分析を行った. <br><b>2.対象事例の概要 </b><br> 本報告の事例は,島根県隠岐郡海士町のCAS事業である.海士町は,松江から約60km北方にある離島であり,島内に空港はなく,フェリーで3時間程度を要する.海士町では,2000年代初頭から地域振興政策が展開されてきた.本報告の事例であるCAS事業は,その一環として2005年度から開始された.海士町では,以前から鮮度の低下による魚価低迷を課題とし,食品冷凍技術であるCAS(Cell Alive System)を導入して流通圏を拡大することが試みられた. <br> このCAS事業は,発行済株式の9割以上を海士町役場が保有する(株)ふるさと海士が担っている.CAS事業の事業内容は,海士町内の漁業者,養殖業者から仕入れた水産物(主にケンサキイカと岩ガキ)のCAS凍結加工,ならびにCAS加工品の販売である.行政施策とリンクした事業活動であるため,海士町外での委託製造や,海外産,島外産の安価な加工原料の仕入れなどはみられず,海士町産の原料,海士町内での加工が原則となっている. <br> CAS事業の2012年度における年間販売額は,約1億2千万円である.このうち,レストランや直売所など,(株)ふるさと海士内の部門間移転を除く対外的な販売額は,約1億620万円(88.5%)で,CAS事業を開始した2005年度の約4倍にあたる.こうした事業拡大の背景にあるのが,都市部への流通・販売である.2012年度の販売金額(社内の部門間移転を含む)でみると,総販売額の6割強(約7,200万円)を関東で販売するなど,島根県外での販売額が全体の82.2%を占めている. <br><b>3.本研究の知見</b> <br> CAS事業は,離島でCAS凍結加工を行っているため,大都市に向けて流通・販売する際,フェリーの欠航リスク,輸送コストが課題となる.前者の欠航リスクについては,鳥取県境港市に大口取引先へ供給する加工品を保管する倉庫を確保することで対応するとともに,後者の輸送費には,大手運送業者のY社を使うことで対応した.Y社は,離島料金を取っていないため,輸送コストは島根県内の本土と同一であるため,課題は克服できた.ただし,Y社も海士町からの輸送にフェリーを使うため,欠航リスクは避けられず,(株)ふるさと海士は本土側に倉庫を必要とした.<br>都市部での流通・販売に向けたマーケティング戦略としては,大手のスーパーマーケット・チェーンなど低い仕入価格,大ロットかつ安定的な供給を求める小売主体はマーケティングの対象とせず,相対的に高い卸売価格を許容し,大量供給を求めない中小の飲食店や高級スーパーとの取引を戦略的に模索した点に特徴がある.さらに,(株)ふるさと海士の経営幹部が取引関係にある飲食店のイベントに参加するなど,人的関係の構築を含めたマーケティング活動を展開してきた. <br> 一方で,(株)ふるさと海士の経営は,海士町役場の支援を前提としている.加工施設・設備は町役場の所有で,指定管理者制度で委託されているほか,毎年の補助金投入によって,黒字経営が維持されている.そのため,民間資本による事業活動と本事例とを.同列で論じることはできない.しかし,公的資本による事業活動であっても,事業活動である以上,マーケティング,流通・販売への対応が必要となる.
著者
畑中 健一郎 陸 斉 富樫 均
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.197, 2007

<BR><B>1.はじめに</B><BR> 近年、里山の環境保全に対する関心が高まっているが、里山という言葉そのものにもさまざまな解釈があり、人により受け止め方にも違いがみられる。里山の環境保全をすすめるにあたっては、地域の人々が、里山に対して現在どういうかかわりをもち、また里山に対してどういう意識をもっているかを把握することが重要である。そこで本研究では、長野県民を対象に実施したアンケート調査をもとに、里山に対する住民の意識を明らかにすることを試みた。<BR><B>2.アンケート調査の方法</B><BR> アンケート調査は、2004年2月から3月にかけて、長野県内の84市町村(当時)の住民を対象に郵送により実施した。対象者は各市町村の選挙人名簿から層化3段無作為抽出により抽出し、有効回答数は1120人(有効回答率56%)であった。<BR> 調査項目は大きく分けて、(1)長野県の自然と自然保護に対する意識、(2)里山とのかかわり、(3)里山の生き物に対する意識、(4)地域の伝統行事や組織へのかかわり、(5)今後の里山利用と保全への意識、および回答者の属性である。<BR><B>3.調査結果の概要</B><BR>(1)長野県の自然と自然保護に対する意識<BR> 長野県の自然環境に「満足している」人の割合は66%で、市部よりも郡(町村)部で高い。また年齢別では、50代や60代の高年層よりも20代や30代の若年層で高い割合となっている。県内の自然保護対策については、「もっと推進するべき」が55%、「今のままでよい」が19%、「もっと緩和するべき」が5%であった。<BR>(2)里山とのかかわり<BR> 里山に「親近感を感じる」人の割合は87%と高く、市・郡部での違いはほとんどないが、里山とのかかわりの頻度が高い人の方が「親近感を感じる」割合が高くなっている。<BR>(3)里山の生き物に対する意識<BR> ツキノワグマ、サル、カモシカなどの中・大型動物が、最近、数を回復させはじめていることに対しては、「良いことだと思う」が33%、「困ったことだと思う」が31%、「なんともいえない」が36%と判断が分かれている。市部では「良いことだと思う」、郡部では「困ったことだと思う」の割合が高く、年代別では若年層より高年層で「困ったことだと思う」の割合が高くなっている。<BR>(4)地域の伝統行事や組織へのかかわり<BR> 最近の1年間に参加した行事としては、「初詣」が75%、「お盆の迎え火・送り火」が73%、「お祭り」が69%であった。また、残しておきたい行事としては、「お祭り」が89%でもっとも高い割合となっている。最近の1年間に日常生活の中で参加した組織や作業としては、「地域の共同作業」が62%、「寄合い」が53%であった。<BR>(5)今後の里山利用と保全への意識<BR> 里山で暮らすことを「魅力的だと感じる」人の割合は79%と高く、市・郡部での違いはほとんどないが、高年層ほど高い割合となっている。また、里山での活動に「関心がある」人の割合は63%で、女性より男性、若年層より高年層の方が高い割合となっている。関心がある活動としては、市部では「自然観察会等の実施、郡部では「農業に関連した作業」が多い。今後の里山の利用策としては、「地域住民の憩いの場・癒しの場」が69%、「生活物資を得る場」が41%、「野生生物の保護区」が27%と続いている。<BR><B>4.おわりに</B><BR> 里山に対しては多くの人が親近感を感じており、里山で暮らすことも魅力的だと感じている。しかし、市部と郡部、あるいは若年層と高年層での里山に対する認識の違いも明らかとなった。例えば、自然環境への満足度は郡部の方が高いが、中・大型動物の生息に対しては郡部の方が否定的な考えを持っている。また、若年層より高年層の方が里山により高い関心をもっている傾向もわかった。ただし、里山での活動内容としては、これまで営まれてきた農林業に関わる活動ばかりでなく、自然観察や憩いの場・癒しの場としての里山の利用など、関わり方に対するニーズも多様化している状況がうかがわれる。<BR>
著者
渡辺 満久
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.41, 2006 (Released:2006-05-18)

関東南部では,4つのプレートが衝突しているため,これまでにも多数の大きな被害地震が発生してきた.江戸時代以降,関東南部から発生したやや大振り(M8クラス)な海溝型地震は,1703年元禄地震・1923年関東地震である.これらの巨大地震の発生前には,ほとんど地震が発生しない静穏期と東京湾周辺における小振り(M7クラス)な直下地震の多発時期があった.その繰り返しをもとに,政府中央防災会議は,埼玉県を含む首都直下地震発生の危険性と被害想定結果を公表した.1923年以後の静穏期が終了し,活動期に入ったと判断したのである.これによって,地震防災全般への関心は高まった.しかし,そこでの議論をみると,地震は「どこでも起きる」ことがあまりに強調されすぎており,我々には理解し得ない内容もあることに危惧を抱く.「関東ローム層が厚い地域では活断層は発見されにくい」,「地震は既知の活断層だけで発生するわけではなく,2004年中越地震はその典型である」といった記述は,いずれも事実と異なり,防災対策を講ずる上で大きな障害となる.未知の活断層が伏在している可能性が高いのは,ローム層の分布域(古い土地)ではなく,ローム層のない「新しい土地」である.中越地震は既知であった活断層が引き起こした直下地震であり,一定規模以上の地震は,起こるべき場所(活断層分布域)に起きているのである.文科省地震調査研究推進本部は,今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図を公表した.中越地震がこの図の発生確率が小さい地域で発生していることも,「どこでも起こる」ことを強調する根拠となっている.しかしながら,この図には,確率計算に必要な資料が不足地域であっても,何らかの数値が示されていることに注意が必要である.中越地震の震源域では,「発生確率」に関わる基礎的な資料はほとんど何もない.「発生確率が低い」ことが明らかであったわけではない.地震被害は,揺れによる被害と,土地の食違いによる被害に分けて考えるべきである.震源域では揺れが激しいので,それによる被害も大きくなる.しかし,やや遠くで発生した地震であっても,地盤が悪い地域では揺れが大きくなるので,居住地以外で発生する地震にも注意を払わなければならない.まさに,地震は「どこでも起こる」と考えておく必要がある.後者の被害は,活断層のずれによって,周辺の建造物が倒壊するものである.1999年台湾の集集地震においては,この被害が際立っていた.土地の食違いによる被害は,震源域以外では発生しない.地震防災に対する意識を高める上においては,「どこでも起こる」という指摘にはある一定の意味がある.しかし,阪神淡路大震災や中越地震時の被害のような大きな地震被害は,大きな揺れと土地の食い違いによって,震源域に発生するのである.巨大な地震被害に備えるためには,地域を特定した対策が必要となる.そのためには,どこに,どのような活断層が存在するのか,活断層を特定した政策レベルでの防災対策が必要となる.そこに目を向けず,「どこでも起こる」という理解だけに立脚していては,間違いなく,巨大な惨劇が繰り返される.政府中央防災会議や文部科学省地震調査研究推進本部の研究成果のうち,埼玉県に関わる部分は,基本的には「どこでも起こる」地震を想定したものである.唯一,埼玉県北西部の「深谷断層」の活動性を考慮した内容があるものの,この活断層の活動履歴等はほとんど不明である.また,埼玉県南東部の「綾瀬川断層」は深谷断層の南東方向延長部にあり,一連の活断層帯となっている可能性が高いものの,綾瀬川断層の活動性は全く考慮されてない.このため,「被害予測」も「確率分布図」も,リアリティを欠くものとなっていると言わざるを得ない.深谷断層は,群馬県高崎付近から連続してくる大活断層(関東平野北西縁断層帯)である.また,その南東への延長部,東京都江戸川区・千葉県浦安市周辺にも,深谷断層と同様のずれが確認されている.綾瀬川断層はこれらの活断層をつなぐ位置にあり,ずれ方も同じである.調査未了地域があるものの,高崎から東京まで,長さ約120kmの長大な活断層が首都圏直下に存在する可能性が提示されている.これが見落とされているとすれば,大変大きな問題である.政府中央防災会議は「東京湾北部」を震源域とする地震も想定し,被害を予測している.上記の長大な活断層は,この想定震源域に達するものであるが,その地震像は想定を大きく上回る可能性がある.「どこでも起こる」地震に備えることも重要ではあるが,それだけでは活断層周辺における巨大な地震被害を軽減することはできない.綾瀬川断層の活動性(活動様式,最新活動時期,平均的活動間隔など)を明らかにすることが非常に重要である.
著者
中田 高 徳山 英一 隈元 崇 室井 翔太 渡辺 満久 鈴木 康弘 後藤 秀昭 西澤 あずさ 松浦 律子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.240, 2013 (Released:2013-09-04)

2011年東北地方太平洋沖地震以降,中央防災会議によって,南海トラフ沿いの巨大地震と津波の想定がなされているが,トラフ外れた海底活断層については詳しい検討は行われていない.縁者らは,詳細な数値標高モデルから作成した立体視可能な画像を判読し,南海トラフ東部の南方に位置する銭洲断層系活断層の位置・形状を明らかしたうえで.その特徴および歴史地震との関連を検討する.
著者
吉水 裕也 齋藤 清嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.270, 2011

地理的技能や地理的な見方・考え方を授業で扱うことの重要性が指摘されている。その一方で,地理に関わる専門的な訓練を十分に受けていない教員が地理を担当することが増えている。また,長年地理を担当してきたベテラン教員の多くが定年に近づき,世代交代が進行しつつある。このような状況から,地理教育に関わる教員研修の需要は年々増大している。 しかし,学校現場では,以下の状況等により研修等に割く時間が捻出されにくい現状となっている。(a) 教員は多忙化しているうえ,部活動等の業務があるため,かつてのように休日に自らのスキルアップのための時間を捻出しづらい。(b) 中高では,授業を自習にして勤務時間に学校を離れることは,公的な出張でもかなり困難(原則として担任が全ての授業を行う小学校ではさらに困難)。(c) 長期休業中の平日は,勤務日であるという位置付けが厳しくなり,授業が無くとも出勤するか,休暇届が求められるようになっている。(d) 所属長(校長等)や設置者(教育委員会等)から出張命令が下されるのは,基本的には勤務時間内であるため,休日の研究会などは公的なものでも出張扱いとはならず,私的な参加にされることがある。(e) 夏季休業期間は短縮される傾向にあり,7月末や8月末は学校を離れにくくなっている。特に高校の場合,部活動や補習授業等で多くの教員にとって融通がきく期間は,8月上旬からお盆休みまでである。(f) 教員側の立場からすると,多忙であるが地理的な分野に関わる研修を行いたいという需要は一定あるものと思われる。特に地歴科の免許を持った若手教員は史学専攻であっても,地理の授業を担当することがあり,駆け込み寺的な研修を求める声が聞かれる。 以上のような現状を踏まえ,小中高の教員が参加しやすい形態として,次のような条件を備えた研修会を計画すれば,一定の参加者が得られ,且つ,一定の満足度が得られるのではないかという仮説を設定し,実施することにした。(1) 実施時期は教員が参加しやすい8月上旬または下旬頃の平日に実施する。(2) 教員が出張または研修扱いで参加しやすいよう,近畿の各府県教育委員会から後援をとりつける。(3) 夏休みの動静が定まる前(6月頃)に告知を行う。(4) 現場ですぐに役立つような,地域の見方を学べるような巡検を行う。(5) 非学会員でも参加できるようにする。(6) 様々な手段を工夫して,広く広報する。 これらの条件を満たす形で,これまでに以下の研修会を実施した。第1回 地域事例の教材化(2005.8.22)京田辺市 35名第2回 地域素材の発見と活用(2006.8.18)西宮市 51名第3回 地域学習の実践と課題(2007.8.10)岸和田市 76名第4回 地理教育における基礎基本(2008.8.1)池田市 54名第5回 地理教育の刷新を考える(2009.8.21)岡山市 48名第6回 地域の歴史的環境を活かした地理教育(2010.8.10)奈良市 55名 第1回の参加者は35名であったが,その後毎年50名程度の参加がある。 第1回の参加者アンケート等による評価を見ると,炎天下での巡検はハードではあるもののおおむね好評であったこと,特に校種の異なる者同士で地理教育についての情報交換を行ったワークショップができたことに意義を感じる声が大きかった。この回の取り組みをもとに,以後の研修会では小学校の先生方とつながる組織へのPRを強化したり,炎天下での巡検のコース面での配慮などについての改善を行い,現在に至っている。 現在は,巡検,講演や実践報告,ワークショップという3つの要素を組み込んだ形に落ち着きつつある。 今後の課題は以下の点に集約される。ア 実施時期が8月のため,巡検の熱中症対策が必要であること。イ ワークショップでの情報交換が好評で,さらなる時間確保を望む声があるが,これにどう対処するのかということ。ウ 参加者数と実施内容から適正規模をどの程度に設定するのかということ。エ 教員免許更新研修や各教育委員会実施の必修研修への読み替えについて検討していくこと。
著者
杉本 興運 小池 拓矢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

空間現象を扱う地理学では、観光者の行動に関する理論的・実証的研究として、とりわけ移動や流動といった観光者の空間行動の諸側面を関心の中心でとしており、これまで観光者の行動パターンの探索や類型および規定要因の解明などを通して、理論構築や実証分析が積み重ねられてきた。特に観光者(発地)と観光対象(目的地)双方の空間関係に着目し、「距離」による影響を明示的に分析基軸やモデルに取り入れることが多い。その場合、マクロ視点では「居住地と目的地との距離(以後、旅行距離と呼ぶ)」が主な着眼点となり、これまで旅行距離によって観光者の性格や旅行形態が変化するという同心円性の存在が仮定・実証されている他、観光行動の周遊パターンの様々なモデルが開発されている。本研究は、2013年6月の世界遺産登録を受け、今や国際的な観光地としての認知度が高まった富士山麓地域を事例に、着地ベースで観光者の旅行距離と観光行動との関係を検討する。より具体的には、富士山麓地域での観光の核である富士北麓を中心とした観光者の旅行形態や空間行動の特徴を、旅行距離の違いから明らかにする。また、世界遺産登録という大きな社会的インパクトが、観光行動に与えた影響についても検討する。<br> 本研究では、富士山麓地域の観光において圧倒的多数の国内個人旅行者の行動データを取得するために、現地での質問紙調査を行った。この質問紙には観光者の旅行形態および活動(訪問順序など)についての項目が含まれる。さらに、昨今重要な話題である世界遺産登録に関する項目も追加した。調査場所は道の駅富士吉田で、調査日は2014年8月12、13、14日のお盆休み(観光者が年間を通して最も多く来訪する8月の休日)の期間である。調査の結果、194グループ分の有効回答を得られた(ただし活動データに関しては93グループ分)。今回は大きく旅行形態と空間行動の2種類に関する分析を行った。旅行形態に関しては、各項目を旅行距離帯別にクロス集計し、旅行距離によって項目内の各カテゴリー出現頻度がどのくらい異なるのかを分析した。本研究では旅行距離を居住地から河口湖までの距離として算出している。さらに、各カテゴリー間の関係を、距離を含めて数量化するために、多重対応分析によるパターン分類を行った。空間行動に関しては、各距離帯におけるトリップの空間分布、トリップ数に関する基本統計量の算出、観光対象分布の標準偏差楕円の算出、代表的な周遊ルート事例の抽出の、計4種類の分析を行い、その結果を総合した。世界遺産登録の観光行動への影響に関しては、調査データから得られた構成遺産を巡る周遊ルートの事例や既存の調査報告書の結果を組み合わせ、検証した。<br> 富士山麓地域での開発と観光の歴史をふまえ、本研究の結果について、以下に簡潔に述べる。富士山麓地域での観光は、江戸時代の富士登拝から始まり、その後の交通整備や観光開発の進展によって大衆化した。現在では、富士五湖を中心とした回遊・滞在型観光や観光施設でのレジャー活動など、主に首都圏の大都市居住者の多様なニーズに応える観光地域として機能している。現在の顧客層の中心であるマイカーを利用した国内個人旅行者は、自然景観の体験を富士山麓観光における共通の目的としながらも、旅行距離によって属性や旅行形態および空間行動が特徴づけられている。例えば、近隣居住者では日常的余暇活動を目的とした日帰り旅行が多く、遠方から来訪した観光者には定番の観光スポットを巡る宿泊型の旅行が卓越する。さらに、最近では世界遺産登録という社会的インパクトによって、より遠方の地域、つまり国外に住む外国人からの観光需要が一層高まると共に、構成遺産を中心とした観光圏の整備や周遊ルートの開発などが行われ、富士山麓地域における観光者の属性や行動がさらなる変化を遂げる兆しをみせている。
著者
藤本 修
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.175, 2006

実践の概要 『地区マップ』というと今までは、模造紙など紙面を利用したものや大きな板を活用したもの等があった。しかし、情報の更新や写真等の貼り付けなどに限界があり、継続的な地域教材としては活用が難しい面があった。 そこで、Webページ形式を用いた『デジタル地区マップ』の作成を前任校で行った。これにより、たくさんの画像などやカテゴリーなど情報量を増やすことができたことと児童のパソコンに対しての取組の良さが重なり、児童の地区に対する興味関心を高めることにつながっていった。 今年度、この環境マップに地図の学習がプラスすることができるのでGISを活用することを試みた。具体的な内容は、次の2点とした。(1)桃井小の近くの施設や児童の活動の場になっている場所の紹介(図1)(2)県内等で、校外学習の場になっている施設の紹介その際、作成したGIS環境マップを本校webページの1カテゴリーに加えることで保護者等にも閲覧可能とした。 桃井小学校Webページ http://www.momonoi-es.menet.ed.jp/教材の活用例 環境マップは、以下の学年、教科で利用できる。・小学校第2学年 生活科『まちたんけん』・小学校第3学年 社会科『地域めぐり』『市内めぐり』・小学校第5学年 国語・社会科『地域のニュースの発信』・全学年 校外学習事前学習 また、授業の中での活用例として2点あげる。(1)導入での活用・生活科や社会科における地区学習・校外学習事前ガイダンス(2)まとめでの活用・身近な地域のことやニュースにしたことを「GIS環境マップ」上にアップする。研究の成果 以下の2点を考えた。(1)自分の地区をより正確な地図でみることができたので、児童の興味・関心が高まった。また、本校児童の活動写真もあるということでやる気もわいてきたようだ。(2)調べたことがインターネットを通して発表できたことで、充実感が味わえたとともに、地図上にアップできたことで地区に対する愛着も感じられたようである。今後の課題 実践を終えてみての課題を以下にあげる。(1)小学生にとって複雑な操作もあるので、児童向けマニュアルなどがあるとより効果的な使い道がでてくると思われる。(2)Webカテゴリーということで、保護者への地区情報の提供にもなるので、保護者からもアップした方がよい情報を聞き、ツーウェイ化を図っていきたい。(3)今回作成した「GIS環境マップ」は、様々な教科・学年での活用も考えられるのでこれからも情報の更新をしていくなどして充実を図っていきたい。