著者
上嶋 権兵衛
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-15, 1995-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
69
被引用文献数
5

救急医療体制において,速やかな対応と適切なprehospital careは最も重要であり,米国における1960~1970年代の虚血性心疾患に起因する急性心臓死や増加する交通事故死が,Emergency Medical System (EMS) Actを制定させ,AHAのEEC guidelinesに“chain of survival”の概念で示されるEMSを構築させるとともにprehospital careの専門職としてemergency medical technician (EMT)制度を導入した。わが国においてもparamedicに匹敵する救急救命士(life saving technician)が平成3(1991)年に導入されたが,まだその評価は定まっていない。そこで,世界各国の救急医療体制を紹介するとともに,救急救命士誕生のわが国の救急医療体制の背景についても触れた。米国のparamedicsの現状については,わが国の関係機関の視察報告書をも参考にして,paramedic育成への関与,一般市民を含めたCPR教育への関与を示した。paramedicは基本的にはprehospital careとして,medical controlなしにプロトコールによって,気管内挿管による気道確保,静脈路の確保と輸液,除細動が認められている。最近では急性心筋梗塞のprehospital ICT,外傷救急患者の筋弛緩薬を使用した気管内挿管,2l以上の輸液がmedical controlも認められるようになっている。しかし,paramedicsに関わる問題として肝炎ウイルスやエイズウイルス感染の危険性やparamedicsが急性心筋梗塞のprehospital careとして種々な治療を行うことが病院搬入を遅らせ,院内で行うべき治療の効果を減少させる可能性などが指摘されている。以上paramedicのprehospital careの現状に文献的考察を加え,その役割について触れ,paramedic制度に対する問題点を指摘した。さらに,paramedicが行っているprehospital careと救急救命士の基本的な相違点を指摘し,わが国の救急救命士の進むべき方向性についても触れた。
著者
唐澤 秀治 鎗田 勝
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.11-19, 2001-01-15
参考文献数
6
被引用文献数
5

いわゆる平坦脳波の定義は脳波が平らなことではなく,高感度記録で内部雑音以上の脳波がまったく認められないことである。医学的には「平坦脳波」は使用禁止用語であり,脳電気的無活動(ECI)を使用することになっている。著者らは集中治療室で脳死状態の患者に対して脳波検査を行い,アーチファクトの原因とその対策について検討した。新しく開発したシールドシステムの効果についても検討した。そして脳波検査の基本(ABC)とアーチファクト追放(artifact banish)方法を盛り込んだArtifact Banish Control Manual for ECI Recording (ABC Manual)を作成した。このマニュアルに従い脳波検査を行ったところ,集中治療室でアーチファクトは低減され,ECIの診断は十分に可能であった。
著者
盛 虹明 増田 卓 北原 孝雄 相馬 一亥 大和田 隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-22, 1993-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
28
被引用文献数
2

肺水腫を伴うクモ膜下出血患者の肺水腫液と血清の膠質浸透圧を測定し,神経原性肺水腫の成因としての肺血管透過性亢進の関与を検討した。発症24時間以内のクモ膜下出血のうち,呼吸管理を必要とした肺水腫8例を対象とし,肺水腫を有しない33症例を非肺水腫群として比較した。肺水腫群はWFNS分類でgrade Vが75%, Fisher分類では全例group 3と4であった。来院時に血圧,脈拍,意識状態,胸部レントゲン写真,動脈血液ガス分析,血漿カテコールアミン濃度を測定した。さらに肺水腫例では,肺水腫液と血清の膠質浸透圧を測定した。来院時肺水腫群では非肺水腫群に比べ収縮期血圧の低下と心拍数の増加を認めた。肺水腫群の心胸郭比は平均48±4%と心拡大は認められなかった。動脈血液ガス所見では,PaO2が非肺水腫群78±16mmHgであるのに対し肺水腫群47±12mmHgと,肺水腫群で著しい低酸素血症を呈していた。血漿ノルアドレナリン,アドレナリン濃度は,肺水腫群でそれぞれ1,800±1,300pg/ml, 1,400±630pg/ml,非肺水腫群740±690pg/ml, 340±400pg/mlであり,非肺水腫群に比べ肺水腫群で有意に高値を示した。肺水腫液の膠質浸透圧は12.4から25.0,平均16.7±4.1mmHgと肺水腫群の全例で高値を示し,血清に対する肺水腫液の膠質浸透圧比は平均0.94と血管透過性亢進を示唆する結果であった。以上により,クモ膜下出血に伴う肺水腫の発生機序のひとつとして肺血管の透過性亢進が示された。
著者
広瀬 保夫 畑 耕治郎 本多 拓 山崎 芳彦 堀 寧 大関 暢
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.125-129, 2001-03-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
9
被引用文献数
1 3

This report describes 7 victims of sodium azide poisoning caused by drinking poisoned water. Ten employees at the poisoning site developed symptoms immediately after ingesting coffee or tea made from hot water contained in a thermos bottle. Symptoms included altered consciousness, faintness, blackout, palpitation, nausea, and paresthesia of both hands and feet. Seven patients were transferred to our institution by ambulance. We assumed symptoms were caused by acute poisoning but the causative agent was unknown. We could not rule out cyanide poisoning because of the rapid emergence of symptoms suggesting circulatory failure, so we administered amyl nitrate, sodium nitrate, and sodium thiosulfate. Symptoms rapidly subsided. The causative agent was identified the next day as sodium azide. While the victims were being treated at the emergency room, 2 doctors, 3 nurses, and 1 pharmacist complained of faintness, headache, nausea, sensations of dyspnea and eye pain. These medical staff members had all either conducted gastric lavage or treated gastric contents. This strongly suggests that symptoms were caused by hydrazoic acid formed in a chemical reaction between sodium azide and gastric acid. Our experience underscores the potential hazard from hydrazoic acid faced by medical staff treating patients with oral sodium azide intoxication.
著者
上條 吉人 増田 卓 堤 邦彦 西川 隆 相馬 一亥 大和田 隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.7, pp.297-305, 1997-07-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
27

常用量のベンゾジアゼピン系薬剤によって,血中濃度が中毒域となった68歳から72歳の高齢者の3症例を経験した。各症例のベンゾジアゼピン系薬剤の体内薬物動態を分析し,高齢者の薬物動態の特徴と投薬上の問題点について検討した。症例1と症例3は食物誤飲による窒息で搬送され,症例2はうっ血性心不全の治療中に意識障害を生じて入院となった。ベンゾジアゼピン系薬剤として,症例1はロフラゼプ酸エチル(Lof) 2mg錠を1日1回とエチゾラム0.5mg錠を発症前に1回のみ服用,症例2はLof 2mg錠を1日1回,症例3はLof 1mg錠を1日3回服用していた。3症例のベンゾジアゼピン系薬剤の血中濃度は,ガスクロマトグラフィおよびベンゾジアゼピンレセプターアッセイを用いて経時的に測定した。来院時のLofの血中濃度は,症例1は256ng/ml,症例2は363ng/ml,症例3は425ng/ml,血清ベンゾジアゼピン受容体結合活性はジアゼパム当量で,症例1は1,800ng/ml,症例2は1,400ng/ml,症例3は2,200ng/mlであり,いずれも血中濃度は中毒域であった。Lofの消失半減期(T1/2)は,症例1は124時間,症例2は212時間,症例3は121時間であり,症例2においてT1/2の著明な延長を認めた。3症例はいずれも高齢者で,青壮年と比較して肝腎機能の低下から薬物クリアランス(CL)が低下し,症例2では心不全のためCLがより低下していたことが考えられる。さらに,脂肪組織の減量による分布容積(Vd)の減少も加わって,ベンゾジアゼピン系薬剤の血中濃度が上昇したものと思われた。また,多剤の服用は遊離型ベンゾジアゼピン系薬剤の濃度を上昇させるため,中毒症状が出現しやすかったものと考えられる。以上から,高齢者へのベンゾジアゼピン系薬剤の投与に際し,肝腎機能,血清蛋白濃度,体重変動,併用薬剤に注意して,ベンゾジアゼピン中毒を未然に防ぐ必要がある。
著者
古谷 良輔 岡田 保誠 稲川 博司 小島 直樹 石田 順朗 佐々木 庸郎 吉村 幸浩
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.106-112, 2008-02-15 (Released:2009-06-09)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

今回われわれはフェノバルビタール合剤を大量服用し,初期治療によりいったん意識レベルの改善を認めたものの再度意識障害が再燃するという特異な臨床経過をたどったために治療に難渋した症例を経験した。症例は31歳の男性。統合失調症で他院通院治療中であった。自室でベゲタミン®を大量服用し昏睡状態に陥っていたため当院に搬送された。到着時の意識レベルはE1V1M1/GCS,両側縮瞳・対光反射あり,努力様呼吸30/min,血圧107/60mmHg,脈拍111/min,SpO2 95%,気管挿管人工呼吸管理下で治療を開始した。服薬後,長時間が経過していたため当初活性炭投与は施行しない方針であったが,自発呼吸と脳幹反射の消失を認めたこと,カテコラミン抵抗性の遷延性低血圧が顕在化したこと,血中フェノバルビタール濃度が122.8μg/mlと致死的濃度であったこと,さらに胸腹部レントゲン写真で胃内に薬物塊様の像を認めたことから,胃洗浄,活性炭の反復投与,さらに活性炭吸着カラムによる血液吸着療法(DHP)を施行した。DHPを 3 回施行後,血中フェノバルビタール濃度は22.5μg/mlと低下,意識レベルはE3VTM6/GCSまで回復した。しかし12時間後血中濃度は101.2μg/mlと再上昇,意識レベルは再び低下し脳幹反射も消失した。この現象は,過量服用した製剤に含有されるクロルプロマジンとプロメタジンの抗コリン作用と,活性炭反復投与によって麻痺性イレウスとなり,腸管内に残存した活性炭-薬物複合体から腸管内へフェノバルビタールが遊離し,さらに腸管内と血中の濃度勾配の拡大に伴う受動拡散・再吸収が生じたことによると思われた。そのため,腸管洗浄を併用下で,DHPをさらに 4 回施行し,その後フェノバルビタール濃度は中毒域以下となった。ベゲタミン®製剤の致死的過量服用症例に対して,活性炭を反復投与する場合には,活性炭による腸管閉塞を回避するばかりでなく,活性炭-薬物複合体の排泄を促進するためにも,下剤の同時投与や,投与後12時間で活性炭便の排泄がない場合は全腸管洗浄の併用を考慮すべきである。
著者
本間 洋輔 望月 俊明 大谷 典生 青木 光広 草川 功 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.273-277, 2012-06-15 (Released:2012-08-11)
参考文献数
13

Zolpidem(マイスリー®)の過量服用による急性薬物中毒の母体から出生した児が急性薬物中毒よる無呼吸状態であった1例を経験したので報告する。症例は35歳の女性。公園内で意識障害の状態で倒れていたところを発見される。周囲に薬包が散乱していたため,急性薬物中毒疑いにて当院へ搬送された。来院時意識レベルJCS200。腹部膨満を認め,腹部エコーにて子宮内に心拍を伴う胎児を認めた。その時点で妊娠37週であること,出産の徴候が認められたためパニックとなり行方不明となっていたことが発覚した。産婦人科診察にて分娩の進行が確認されたが,意識障害が遷延していたため,緊急帝王切開を施行することとなった。出産児は男児,体重2,572gでapgar scoreは1分後4点,5分後4点であった。児は自発呼吸を認めず気管挿管下の人工呼吸管理を要した。日齢1には自発呼吸認めたため抜管,その後は薬物離脱症状や合併症を認めることなく日齢22に退院となった。母親(本人)は入院2日目に意識レベルが回復し,とくに合併症なく経過した。精神科診察にてうつの診断となり,自殺企図を伴ううつの治療目的に転院となった。後日,分娩当日の母・児の血液よりZolpidemが異常高値で検出され,母児の意識障害の原因としてZolpidem中毒の診断が確定した。うつによる薬物過量服用はよくみられるが,妊婦が薬物を過量服用し,そのまま分娩を迎える例は稀である。Zolpidemは妊婦に比較的安全とされているが,本報告のように過量服用の場合には胎児に影響がでることがある。そして母体で中毒症状が出現している場合は,児ではそれ以上の中毒症状がでる場合があると想定するべきであり,妊婦の薬物過量服用の場合は常に胎児への影響について考えるべきである。また妊娠可能な年齢の女性の意識障害で詳細不明な場合,常に妊娠の合併について考えるべきである。
著者
森脇 義弘 豊田 洋 小菅 宇之 荒田 慎寿 岩下 眞之 鈴木 範行 杉山 貢
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.272-278, 2008-05-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

出血性ショックを伴ったクローン病として転院搬送された腸結核の 1 例を報告する。患者は62歳,女性。透析導入のための近医入院中に下部消化管造影,内視鏡,生検でクローン病と診断され,ステロイド治療を開始された。感染徴候のない発熱と考え再入院となり,ステロイドと免疫抑制剤で治療されたが改善はなかった。下血と呼吸促迫を伴うショックとなり,人工呼吸管理,カテコラミン投与の後に,外科的処置を目的に当センターへ転院搬送となった。前医の下部消化管造影から必ずしも典型的クローン病とは考えにくかったが,出血性ショックのため緊急手術(右結腸切除)を余儀なくされた。術後はseptic shockから離脱できず第 6 病日に死亡した。患者の死後,切除標本の組織学的検査から,肺症状を伴わない活動性の腸結核と診断された。ステロイドを使用しているクローン病では,常時,腸結核との鑑別を念頭におくべきと思われた。また,情報に乏しい初診患者への緊急対応を余儀なくされる救急部門では,診療が終了してから結核であったと判明した場合に関係した職員の健康診断を行うなどの対策を考案しておくべきと考えられた。
著者
鮎川 勝彦 前原 潤一 上津原 甲一 島 弘志 有村 敏明 高山 隼人 藤本 昭
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.92-98, 2006
被引用文献数
2

はじめに:救急患者の予後を左右する因子として,患者要因,病院前救護体制,病院の機能がある。緊急を要する疾患において,発症から治療までの時間を短縮できれば,救命率があがると思われる。本研究では救急車搬送時間が短ければ,予後が改善するという作業仮説を立てた。この仮説を立証するために,九州の6病院に救急車で収容された患者データを検討した。方法:6病院に救急車搬送された急性心筋梗塞(AMI)及び不安定狭心症(UAP),くも膜下出血(SAH),脳梗塞(CI),脳出血(CH),消化管出血(GIB),大動脈解離(AD)の7疾患について,retrospectiveに集計し,救急車搬送時間と予後との関連を統計解析した。結果:これらの疾患5,247症例のうち,入院後30日目の生存,自宅退院が確認でき,現場から直接搬送された患者で重症度分類できたものは1,057例(AMI201例,UAP49例,SAH217例,CI405例,CH114例,GIB45例,AD26例)であった。各疾患を重症度分類し,搬送時間との関連を調べた。AMI重症例(Forrester分類IV群)においては,搬送時間と入院後30日目の自宅退院率との比率の検定で,搬送時間が短ければ自宅退院率が高いことが推測できた。搬送時間を10分刻みにして,30日目自宅退院率を解析した結果,y=2.9619e<sup>-0.07x</sup> (R<sup>2</sup>=0.9962)の指数関数曲線に高い相関で回帰した。考察:AMI重症例では入院30日目の自宅退院率と搬送時間との間に,指数関数曲線に高い相関で回帰する関係があった。搬送時間を短縮できれば,自宅退院率をあげることができることを証明できた。搬送時間短縮による自宅退院率改善を数値化できることになる。AMI軽症及び中等症,その他の疾患では,搬送時間との間に明らかな関係はみられなかった。覚知時間の遅れなどが影響した可能性が考えられた。結論:AMI重症例に於いては,救急車搬送時間が短ければ,入院後30日目の自宅退院率を改善する,という仮説が証明できた。
著者
森 美雅 柴田 孝行 梶田 泰一
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.191-196, 1996-04-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

Four cases of intracranial foreign bodies are reported. The first patient was a 58-year-old male who drove nine nails into his head while drunk. On admission the patient was drowsy, and a plain skull film revealed the nails to be embedded intracranially on both sides of the frontal and temporal regions. Carotid angiography showed no vascular injury. The second patient was a 44-year-old male. The patient had fallen from the third floor of a building under construction, to the ground and a steel rod on the ground had pierced his face. On admission the patient was semi-comatose. The rod had penetrated from the right maxilla to the ipsilateral parietal vertex. The third patient was a 9-year-old boy. He had a fallen while running and his left upper orbit had been penetrated by a wooden chopstick which he had been holding in his hand. On admission the patient wasdrowsy. His left eye was intact but blind, extraocular movement was completely impaired, and there was no sensation in the left upper quadrant of the face. Computed tomography (CT) revealed a fragment of the chopstick extending from the orbit to the middle and posterior cranial fossa through the superior orbital fissure. Carotid and vertebral angiography showed no vascular abnormalities. The fourth patient was a 48-year old male. His head had been penetrated by a nail in a nail-gun accident. On admisson he was fully alert and had no neurological deficits. Only head of the nail was seen beside the occipital midline. CT showed that the tip of the nail was located in the right cerebellar hemisphere and vertebral angiography revealed the nail piercing the right transverse sinus. In all four cases, the foreign bodies were removed by the “open and see” policy. After craniotomy and intradural exploration, the foreign bodies were removed from the injured brain and penetrated major dural sinuses under visual control. The second patient, who had been seriously injured, died of encephalo-meningitis. Good recovery was obtained in the other three cases.
著者
蕪木 友則 谷口 巧 小見 亘 野田 透 太田 圭亮 稲葉 英夫
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.9, pp.930-935, 2008-09-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
10

ハチ刺傷ではアナフィラキシーだけではなく,ハチ毒による中毒が存在し,各種臓器不全が出現する。ハチ毒による多臓器不全症例は,これまでいくつか報告されているが,心臓に対する障害で,一過性の左室収縮障害に関するものは少ない。今回我々は,オオスズメバチ刺傷による多臓器不全患者で,高度の左室収縮障害を来した症例を経験したので報告する。症例は71歳の女性。山中でオオスズメバチに約60箇所刺傷され受傷した。来院時はアナフィラキシーショック状態であり,治療により軽快した。その後,ハチ毒による多臓器不全を認め,高度の左室収縮障害が出現した。翌日には左室収縮力は改善したものの,他の臓器不全の改善はなく,第 4 病日に死亡した。今回,ハチ刺傷による高度の左室収縮障害を認めた。ハチ毒自体に関する今後更なる調査が必要である。
著者
池内 淳子
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.201-211, 2009-04-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
8
被引用文献数
1

本研究では,列車脱線事故における多数傷病者発生事例の検証に資することを目的とし,2005年JR福知山線列車脱線事故における事故発生390分後までの医療機関への搬送状況とその際の搬送手段の活用状況等に関する時刻歴分析を行った。分析結果は入手した文献等に基づく試行結果であることを前提とし,(1)傷病者の搬送された医療機関は事故発生地点から半径約20km圏内に分布し,警察・消防は事故発生地点から半径20km圏内の医療機関に事故発生情報を伝達した一方で,TVなど一般報道や兵庫県広域災害・救急医療情報システム(HYOGO-EMIS)は事故発生地点からの距離に依存せず広く伝達していたこと,(2)事故発生直後の重症者の搬送先病院は主に日常重傷者救急実績のある病院が多く,事故発生90分後までの軽症者と重症者及び中等症者の搬送手段や搬送先医療機関は異なっていたこと,(3)事故発生70分後までに傷病者搬送を行った救急車はほぼ初回搬送であり,以降, 2 回目の搬送を行う救急車が増加し,事故発生90分以降は中等症者の搬送間隔が密になったこと,等を示した。事故発生後390分頃までの時刻歴分析より,事故発生から70分間(もしくは90分間)は,事故現場近傍の災害応急対応従事者のみで災害医療活動を全面的に支え,その後,事故発生後180分程度で傷病者搬送が概ね収束に向かったと推定される。多数傷病者発生事故では迅速に災害規模を確認し応援要請を行う事故発生直後の初期対応の時間帯が最も重要であり,この時間帯をできる限り短くすることが必要である。そのためには,1)災害発生情報伝達の迅速化,2)地域の現状に合致したより具体的なシナリオによる訓練の実施,3)傷病者搬送用ヘリコプターの整備体制強化 が必要であることを示した。
著者
柴田 恵三 佐原 博之 古木 勲 吉田 豊 北 義人 石瀬 淳 相沢 芳樹
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.384-388, 1994-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1

Severe accidental hypothermia is associated with marked depression of the brain and cardiovascular function and carries a high risk of mortality. We present three such cases with core temperatures between 18 and 27°C. Two of these patients had cardiac arrest on arrival at the emergency department. Rapid rewarming and successful recovery of spontaneous circulation was accomplished by a combination of direct cardiac compression and continuous irrigation of the pericardial cavity with warm fluids (42°C) in one of the patients with cardiac arrest. The best choice of treatment for severe hypothermia complicated by cardiac arrest is partial cardiopulmonary bypass, but this modality is not readily available in many settings. In such cases, a combination of direct cardiac compression and continuous pericardial irrigation is the best available alternative. Other rewarming modalities for severe hypothermia syndrome are also reviewed.
著者
小野寺 誠 小泉 範高 藤野 靖久 菊池 哲 井上 義博 酒井 明夫 遠藤 重厚
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.307-312, 2014

症例は30代の女性。東北新幹線乗車中に下腹部痛が出現し救急要請となった。救急隊が病院選定を行う際に自分は医師であると話し前医へ搬送となったが,診察をめぐってトラブルとなったため当院紹介となった。救急隊からの連絡で身分証明書の提示を拒否していたこと,インターネット検索をした結果,氏名と所属が一致しないことを確認したために薬物依存の可能性を考え,前医に医師会への報告を依頼するとともに当院精神科医師による診察を依頼した。当院搬入時,下腹部の激痛を訴えており,一刻も早い鎮痛剤の投与を希望していた。患者によると,子宮頸管狭窄症の診断で海外の病院や都内大学病院で大腿静脈よりペンタゾシンとジアゼパムを静脈内投与していたと主張していた。精神科医師による傾聴後,痛み止めは施行できない旨を伝えていた最中に荷物より所持品が落下した。某大学病院や某研究機関研究員など多数のIDカードを所持しており名前も偽名であった。その直後に突然激高し,看護師の腹部を蹴り,当院から逃走した。30分後,当院より約10km離れた地点で救急要請した。搬送となった病院でセルシン<sup>® </sup>とソセゴン<sup>® </sup>を筋注したが10分程で再度除痛するよう訴えた。直後に岩手県医師会から「不審患者に関する情報」がFAXで届き,警察への通報を考慮していたところ突然逃走した。医師会を通じて調査したところ,前日には宮城県,翌日には秋田県の医療機関を同内容で受診していることが判明した。本症例を通して,救急医療機関においては,問題行動のある精神科救急患者を受け入れた際の対応マニュアルを,あらかじめ整備しておくことが望ましいと思われた。
著者
三宅 康史 有賀 徹 井上 健一郎 奥寺 敬 北原 孝雄 島崎 修次 鶴田 良介 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.230-244, 2010-05-15 (Released:2010-07-02)
参考文献数
5
被引用文献数
5 12

目的:2006年調査に続き,さらに大規模な熱中症に関する全国調査を行い,本邦における熱中症の実態につきより詳細に検討した。方法:日本救急医学会熱中症検討特別委員会(現 熱中症に関する委員会)から,全国の救命救急センター,指導医指定施設,大学病院および市中病院の救急部または救急科(ER)宛てに,2008年用として新規に作成した調査用紙を配布し,2008年6~9月に各施設に来院し熱中症と診断された患者の,年齢,性別,発症状況,発症日時,主訴,バイタルサイン,日常生活動作,現場と来院時の重症度,来院時の採血結果,採血結果の最悪化日とその数値,既往歴,外来/入院の別,入院日数,合併症,予後などについての記載を要請し,返送された症例データを分析した。結果:82施設より913例の症例が収集された。平均年齢44.6歳,男性:女性は670:236,I度:II度:III度は437:203:198,スポーツ:労働:日常生活は236:347:244,外来帰宅:入院は544:332で,高齢者でとくに日常生活中の発症例に重症が多かった。スポーツ群では,陸上競技,ジョギング,サイクリングに,労働群では農林作業や土木作業に重症例が多くみられた。日常生活群では,エアコン/扇風機の不使用例,活動制限のある場合に重症例がみられた。ただ,重症度にかかわらず入院日数は2日間が多く,採血結果についても初日~2日目までに最も悪化する症例が大多数であった。後遺症は21例(2.3%)にみられ,中枢神経障害が主であった。熱中症を原因とする死亡は15例(1.6%)で,2例を除き4日以内に死亡した。考察:2006年調査とほぼ同様の傾向であったが,重症例の割合が増加し,活動制限のある日常生活中の老人がその標的となっていた。最重症例は集中治療によっても死亡は免れず,熱中症では早期発見と早期治療がとくに重要であるということができる。
著者
石間 巧 南波 仁 清水 斎 角田 一真
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.12-15, 1992-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1

We report a case of rhabdomyolysis complicated by acute renal failure caused by loss of consciousness after drinking. A 46-year-old man fell asleep in his living room after drinking beer and whisky. Showing no signs of awakening by 10 a.m. the next morning, he was transferred to our emergency center. On admission his consciousness level was II-30 (Japan coma scale), and his temperature was 31.1°C. Laboratory data showed hypoglycemia; mixed acidosis; and elevation of CPK, GOT and LDH. The serum ethanol concentration was 221mg/dl. At the midnight on the first hospital day, swelling of the right hip area develope and it declined to be growing. The patient's consciousness gradually returned, however, he remained oliguric despite treatment with fluid challenge and diuretics. A diagnosis of rhabdomyolysis complicated by acute renal failure was made, and hemodialysis was performed. A triacetate membrane was selected as the dialyzer in order to eliminate serum myoglobin. The acute renal failure improved after hemodialysis 20 times in 38 days. The cause of the rhabdomyolysis is believed to have been pressure necrosis due to immobility for many hours in addition to muscle damage caused by ethanol. Hemodialysis with a triacetate membrane was useful in eliminating myoglobin in acute renal failure caused by rhabdomyolysis.
著者
森田 美琴 木村 昭夫 畑岸 悦子 宮島 衛 佐野 哲孝 宮内 雅人 冨岡 譲二
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.103-106, 2004-03-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
8

A 68-year-old man was carried by an ambulance presenting with partial traumatic amputation of both legs as a result of a railway accident. The hypovolemic shocked patient arrived at the hospital, with potential right tension pneumothorax. Immediate decompression by tube thoracotomy was performed, however the shock state did not improve. Repeated focused assessment with sonography for trauma (FAST) and careful physical examination of the patient revealed no abdominal injuries. Pelvic fracture was not identified with the pelvic X-ray. The partially amputated legs were removed in the emergency department. In spite of these procedures, the hypovolemic shock persisted. However, a wound in the region of the right humerus, which was not bleeding during the initial examination, developed hemorrhage upon later investigation. The circulatory status of the patient stabilized after the wound was packed with gauze packing for hemostasis. Polytetrafluoroethylene (PTFE) graft inter-position of the injured artery and fasciotomy of the right forearm were subsequently performed. The postoperative course was uneventful, and rehabilitation was begun on the 15th post-operative day. Thus, even in a patient with blunt trauma, arterial injuries of the extremities should never be underestimated during the initial assessment.
著者
廣瀬 智也 小倉 裕司 竹川 良介 松本 寿健 大西 光雄 鍬方 安行 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.11, pp.933-940, 2013-11-15 (Released:2014-01-07)
参考文献数
23

【背景】自転車事故は小児期外傷の要因であるが,小児の自転車ハンドルによる直接外力の危険性は一般的に知られていない。【目的】小児自転車ハンドル外傷の特徴を明らかにすること。【方法と対象】2000年1月1日から2011年12月31日に当センターに来院した自転車関連外傷(15歳以下)を検討し,ハンドル先端により受傷した群(ハンドル外傷群)とそれ以外の自転車乗車中事故例(非ハンドル外傷群)に分けて比較検討した。【結果】ハンドル外傷群9例,非ハンドル外傷群46例。ハンドル外傷群は男児7例,女児2例,平均年齢8.6±3.4歳,平均ISS 8.8±5.3,ICU滞在日数7.4±4.6日,生命予後は全例良好であった。受傷部位は頸部1例(気管損傷:1例),胸部1例(胸部打撲のみ:1例),腹部7例(肝損傷:3例,膵損傷:1例,後腹膜出血:1例,腎損傷:1例,膀胱・腹壁損傷:1例)であった。治療は緊急手術治療1例,待機手術治療1例,緊急TAE1例,保存的治療6例であった。ハンドル外傷群は,非ハンドル外傷群と比べると年齢,性別,ISS,ICU滞在日数,転帰に有意差はなかった。腹部AISスコアはハンドル外傷群で有意に高く,頭部AISスコアは非ハンドル外傷群で有意に高かった。搬送経緯では,現場からの直接救急搬送は非ハンドル外傷群で,転院搬送はハンドル外傷群で有意に多かった。【考察】自転車ハンドル外傷は外力がハンドルの先端に集中するため,外見以上に重篤な深在性内臓損傷を伴うことが多いが,受傷機転などから過小評価されるケースがしばしばある。自転車ハンドル外傷の予防としては,自転車ハンドル先端の形状を工夫する,腹部への防護服を装着するなどが挙げられる。【結語】小児自転車ハンドル外傷は深部臓器の損傷を伴いやすく,初療における慎重な診断が求められる。
著者
後藤 由和
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.11, pp.861-870, 2009-11-15 (Released:2010-02-06)
参考文献数
20

目的:自殺行為に関する研究では,主に3つの自殺企図手段分類方法が用いられている。すなわち,国際疾病分類第9版(以下International Classification of Diseases, Ninth Revision; ICD-9),飛鳥井分類(相対的危険群,絶対的危険群),そして侵襲度分類法(Non-violent群,Violent群)である。本研究は,これらの分類方法の違いが自殺企図手段と精神障害の関係に影響を与えるかを明らかにすることにある。対象と方法:救急搬送例のうち主要5精神障害(うつ病,双極性障害,統合失調症,適応障害,人格障害)と診断された169名を研究対象とした。3つの分類方法に準じた自殺企図手段と精神障害の関連について,対応分析法を用いて解析した。結果:ICD-9分類においては,E953(縊首,絞首,窒息)とうつ病およびE950(固体または液体による中毒)と適応障害は,それぞれ強い関連性があった。E957(高所墜落)は,統合失調症と弱い関係にあった。飛鳥井分類上の相対危険群は精神障害との関連性は弱かったが,絶対危険群は統合失調症と強い関係にあった。侵襲度分類においては,Non-violent群は双極性障害とViolent群は統合失調症とそれぞれ強い関係にあった。結語:自殺企図手段と精神障害の関係は手段分類法によりかなり異なっていた。
著者
清水 健太郎 小倉 裕司 後藤 美紀 朝原 崇 野本 康二 諸富 正己 平出 敦 松嶋 麻子 田崎 修 鍬方 安行 田中 裕 嶋津 岳士 杉本 壽
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.12, pp.833-844, 2006-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
53
被引用文献数
2

腸管内には多彩な細菌群がバランスを保ち共存しており,腸内環境を整えると同時に生体へ豊富なシグナルを送り続けている。腸管は,侵襲時の主要な標的臓器(target organ)であり,腸内細菌叢の維持は腸上皮におけるバリア機能の維持と感染防御の点で極めて重要と考えられる。しかしながら,急性期重症病態の腸内細菌叢や腸内環境に関する検討はほとんどされていない。われわれは,SIRS患者の腸内細菌叢と腸内環境の変化を明らかにし,近年注目されているシンバイオティクス(synbiotics)療法(“善玉”生菌+増殖物質)の有効性を評価した。研究結果を含め,侵襲時の腸管機能と腸管内治療に関して総説する。(1) SIRS患者において,腸内細菌叢および腸内環境は著しく崩れる。「善玉菌」であるBifidobacteriumとLactobacillusは健常人の1/100-1000程度に減少し,「病原性」を有するブドウ球菌数は,健常人の100倍程度に増加した。腸内細菌叢の崩壊と同時に,短鎖脂肪酸の産生は減少し,腸管内pHは上昇した。このような腸内環境の悪化は腸内細菌叢をさらに崩す(“腸内環境の悪循環”)と考えられる。(2)シンバイオティクス療法は,SIRS患者の腸内細菌叢および腸内環境を維持し,経過中の感染合併症を減少させる。シンバイオティクス投与により,BifidobacteriumとLactobacillusが高く維持され,腸管内の短鎖脂肪酸,pHも保たれた。また腸炎の発生だけでなく,肺炎や菌血症の合併を有意に減らした。シンバイオティクス療法が感染症の合併を防止するメカニズムに関しては,今後の検討を要する。(3)現在,急性期重症病態に対する標準化された腸管内治療は存在しない。シンバイオティクス療法は,腸内細菌叢を保持し,腸内環境と腸管機能を保つ点で生理的であり,重症患者の臨床経過を改善する有望な腸管内治療法と考えられる。