著者
藤森 孝俊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.665-696, 1991-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
9 16

糸静線中央部に位置する諏訪盆地の活断層は,変位様式と活動度,分布に基づいてA~Cの3タイプに分類できる.タイプAの断層は盆地の南東端および北西端にみられるもので,大きな左横ずれ成分 (8~10m/kyr) をもつ.タイプBは盆地底と周辺山地の境界部に位置し,盆地側を低下させるもので,約1~3m/kyrの上下変位速度をもつ.タイプCは周辺山地内に位置し盆地側を低下させるもので,いくつかは並行し盆地側への階段断層となっている.平均変位速度は最大でも0.5m/kyr程度である.これらの活断層の分布・分類は,プルアパートベイズンとしての諏訪盆地の形成過程を示すモデルで説明される.諏訪盆地を開口させる主断層にあたるものがタイプA,開口した地殻の盆地側の面(開口壁)にあたるものがタイプB,開口壁の背後の地殻に発達した重力性の正断層がタイプCの断層である.また,古水系や諏訪盆地の形態から,水平圧縮応力により屈曲した主断層(糸静線)が左横ずれし,屈曲部の地殻が徐々に開口していくモデルが諏訪盆地の形成をよく説明できる.諏訪盆地の長辺方向への弘大速度は約8~10m/kyrであり,形成開始期は約120~150万年前と推定される.
著者
平野 勝也 森 孝宏 奥村 雄三 林 純 野村 秀幸 宮永 修 吉松 博信 石橋 大海 柏木 征三郎 稲葉 頌一
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.388-392, 1988-04-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
14

27歳の健康な女性がB型肝炎ウイルスによる劇症肝炎を発症したが, 血漿交換を含む治療により救命し得た. 患者の過去3回の献血時の検査ではHBs抗原は陰性で, 輸血歴およびキャリアーの家族歴はないが, HBe抗原陽性のB型慢性肝炎患者の婚約者と発症2ヵ月前から親密な交際があったことから, 婚約者が感染源と考えられた.性行為に伴うB型急性肝炎の発症の報告はみられるが, 劇症肝炎の報告は稀であり, 将来も本例のような劇症肝炎の発症をみることが予想される. B型肝炎の予防対策の一環としてのキャリアーに対する教育上示唆に富む症例と思われたので報告する.
著者
兵頭 政光 弘瀬 かほり 長尾 明日香 吉田 真夏 大森 孝一 城本 修 西澤 典子 久 育男 湯本 英二
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-6, 2016 (Released:2016-02-23)
参考文献数
11
被引用文献数
1 4

本邦における痙攣性発声障害患者数や臨床像を明らかにすることを目的として,アンケート方式による疫学調査を実施した.本疾患の音声所見を収録したサンプルCDを作成したうえで,全国の主要な耳鼻咽喉科医療機関655施設に調査表を送付した.その結果,過去2年間にこれらの医療機関を受診した患者は1,534例あり,このうち新規患者は887例(0.70人/10万人)いることが確認できた.これにより,有病率は3.5~7.0人/10万人以上になることが推測された.臨床像としては,年齢は20および30歳代が59.0%を占め,男女比は1:4.1と女性が多かった.病型は内転型が約93.2%を占め,症状は内転型では声のつまりや努力性発声,外転型では失声や声が抜けるなどが特徴的であった.症状発現から医療機関受診までの期間の中央値は3.0年であった.治療はA型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法や甲状軟骨形成術Ⅱ型などが,一部の医療機関で集約的に行われていた.今回の調査を通して,痙攣性発声障害は耳鼻咽喉科医においてもまだ十分に認識されていないことが推測された.調査結果などを基にして,診断基準の作成や治療指針の確立が望まれる.
著者
紅粉 睦男 井川 裕之 森 孝之 山口 美香 北口 一也 島崎 洋 赤池 淳 真尾 泰生 川崎 君王
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.32-39, 2021 (Released:2021-07-01)
参考文献数
19

目的:当院人間ドック健診では,2010年より頚部超音波検査を導入し,動脈硬化性病変評価と同時に甲状腺スクリーニング検査も実施している.2010年~2013年度の4年間の甲状腺超音波検診の成績と課題について報告する.対象と方法:オプション検診として12,827例に実施.男女ほぼ同数,平均年齢56.8±11.0歳であり,50歳代,60歳代が多かった.甲状腺には治療対象にならない軽微な病変も高頻度にみられ,受診者に過剰な不安・負担を与えないように当院独自の判定基準を作成した.5mm以上の悪性を疑う病変,10mm以上の濾胞性腫瘍,びまん性の甲状腺病変を精密検査の対象とした.結果:①何らかの超音波所見を有する頻度は,男性42.1%,女性61.6%で,その多くは嚢胞や腺腫様結節,小さな濾胞性腫瘍であった.②精査を要するC判定は359例:2.8%で,そのうち腫瘍性病変は205例:1.6%であった.当院での精査受診率は57.1%であった.③4年間の甲状腺がん発見数は54例(濾胞癌,髄様癌が各1例,乳頭癌52例)であった.甲状腺微小乳頭癌18例で,手術13例,経過観察5例であった.④甲状腺がん発見率は0.42%で,精査を要する全例が当院受診したと仮定した場合の甲状腺がん推定発見率(罹患率)は0.74%であった.結論:当院独自の精査基準により,要精査率を多くせず効率よく甲状腺がんが診断され,人間ドック健診での甲状腺超音波検査の有用性が示唆された.さらなる甲状腺検診の精度向上は必要と思われ,特に甲状腺微小乳頭癌への対応が重要と思われた.
著者
宮森 孝子
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.94-102, 2020-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
21

アロマテラピーで使用する精油は、植物が病原性微生物や環境から身を守るため、光合成の過程でつくる炭化水素と官能基から成る有機化合物である。19世紀までの薬のない時代において人類が感染症と闘った歴史の陰には常に精油があり、現代の治療薬も精油の芳香分子の構造を模倣し創薬されてきた経緯がある。特にオレガノ精油は西欧において天然の抗生剤ともいわれ重宝されてきた。フランスのメディカルアロマテラピーにおいて、オレガノ精油に含有される分子に抗ウイルス作用、抗菌作用、抗真菌作用、抗原虫/抗寄生虫作用、また免疫調整作用があるとされる。COVID-19に対する確たる治療薬やワクチンがいまだない状況において、精油使用は感染症に対するセルフケアの方略の一つとして見直し活用するに値すると思われる。また嗅覚の機序とストレスの発症機序がほぼ同じであることから、香りはストレス緩和に有用である。したがって心身の些細な違和感を知覚したとき、不安感や恐怖感が生じたときに精油を用いてセルフケアすることにより感染症の予防や緩和、ストレス軽減が期待できると考える。ここでは感染経路に応じた具体的な精油使用法とその根拠を述べる。
著者
岡野 高之 大森 孝一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.5, pp.715-723, 2021-05-20 (Released:2021-06-02)
参考文献数
59

超高齢社会を迎えた日本では介護予防プログラムとして認知症予防が挙げられており, 介入方法の探索や有効性の検証が社会的急務となっている. 難聴と認知症の関連は以前から調査が行われており, Livingston らによるメタアナリシスでは, 中年期の難聴をほかの8つの因子とともに認知症のリスク因子として挙げている. 今後難聴に対する早期介入による認知症の予防効果の評価が待望されている. 本稿では補聴器装用による認知機能への影響を検討した従来の報告の概要をまとめるとともに, 臨床研究を行う上で特に臨床試験デザイン, 難聴や介入する対象の定義,用いる認知機能評価尺度の問題点について示した. また難聴の存在が認知機能評価の結果に与える影響を現在頻用される評価尺度の特徴とともに解説し, 今後行われるべき補聴器装用等の介入による認知症予防効果の検証の際に想定される留意点を述べた. さらに認知症に伴う聴覚や音声の変化についても記載した. 最後に聴覚や音声に依存しない認知機能評価について従来の報告と著者らの開発した ReaCT Kyoto について紹介した. 今後 ReaCT Kyoto を検者の技量や習熟度に依存しない認知機能の評価方法として活用し, 難聴者を含めた簡便な認知症患者のスクリーニング方法の一つになることが期待される.
著者
中山 哲夫 山口 真也 森 孝之
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.5-13, 1997-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
35
著者
小松原 秀紀 武田 大介 藤林 淳子 古森 孝英
出版者
日本口腔診断学会
雑誌
日本口腔診断学会雑誌 (ISSN:09149694)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.18-22, 2017-02-20 (Released:2017-05-23)
参考文献数
27

We have occasionally experienced cases with aberrant foreign bodies, such as fish bones or metal fragments of dental materials, in the oral region. Recently, there have been cases of serious injury due to piercing of the nose, lips, and other body parts. We report the case of a 49-year-old man with a needle in the floor of his mouth that had been used to pierce the tongue.The patient visited our department because of difficulty in swallowing and speaking. Macroscopically, only a slight redness on the right side of the oral floor was seen; the foreign body could not be felt on palpation. Panoramic radiography and computed tomography showed a sharp, straight metallic object extending from the floor of the mouth to the submental region. The object was located in the deep submucosal layer of the oral floor into the right suprahyoid muscles and was surgically removed from the inside of the right anterior belly of the digastric muscle using an extraoral approach. We chose to use general anesthesia because of the risk of bleeding and airway obstruction. The object was a metal needle 5 mm in diameter and 50 mm in length. The postoperative course until 1 year was uneventful.
著者
森 孝仁 奥田 薫
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.29, pp.2, 2007

面積678,330平方キロメートル(日本の1.8倍)、人口約52,000千人のミャンマー連邦(The Union of Myanmar)は、宝石の産出国として世界でも類を見ない国です。<BR>西洋・東洋において、それぞれ最も人気のあるといわれるルビー・ジェイダイトの最高品質は、いずれもミャンマーで産出されます。両者の生成には、全く異なる地質条件が必要であり、それを満たす土壌が同じ国内に共存するということは、大変不思議なことです。また、ミャンマーでは、それ以外にも、ブルーサファイア、レッドスピネル、ペリドット、アイオライト、ジルコン、アクアマリン、シリマナイト、カイヤナイト、ブルーアパタイト、イエローダンビュライト等、様々な宝石が産出し、いずれも品質の高いものが見られます。また、宝石質のダイヤモンドもわずかに産出します。それぞれの宝石の簡単な特徴について紹介するとともに、このような多種の宝石を産出するミャンマーの土壌に関して、ミャンマー現地に宝石研究所を有する当社が得た情報を報告します。<BR>また、同研究所では、過去5年間に持ち込まれた全てのルビーについて、採掘された地域、外観特徴、拡大検査、可視分光吸収および成分分析のデータを蓄積しています。今回、今まで得られたデータを整理することで、ミャンマー産ルビーの特徴を明らかに、他の産地におけるルビーとの判別方法について報告します。
著者
岩田 英治 古土井 春吾 鰐渕 聡 岸本 恵実 明石 昌也 古森 孝英
出版者
社団法人 日本口腔外科学会
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.83-87, 2018-02-20 (Released:2018-04-20)
参考文献数
17

Osteonecrosis of the jaw is one of the problematic side effects observed during administration of angiogenesis inhibitors in patients receiving treatment for cancer. We report a case of osteonecrosis of the jaw in a patient receiving sunitinib. The patient was a 72-year-old man who was referred to our hospital because of exposed bone and contact pain of the tongue. After the clinical diagnosis of osteonecrosis of the jaw, observation and irrigation of the exposed bone were frequently performed. Four months later, the lesion healed. After 1 year, exposed bone was found in other sites ; however, it disappeared a month later. The present case suggests that the use of sunitinib can be associated with osteonecrosis of the jaw and indicates that invasive dental treatment and the status of the main disease should be considered when prescribing sunitinib, as is done when prescribing bisphosphonates or denosumab.
著者
大森 孝一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.118-122, 2017 (Released:2017-07-21)
参考文献数
12

気管や輪状軟骨に悪性腫瘍や狭窄性疾患を生じると,病変の切除後に気道を再建する必要がある。既存の気道再建外科として,気管端々吻合,自己組織の移植などがあるが,術後管理や合併症,複数部位や複数回の手術侵襲,移植片の移動や吸収などの課題がある。1990年代になって組織工学が登場し,臓器再生の三要素は足場,細胞,調節因子とされる。著者らはコラーゲンを足場としポリプロピレンで補強した生体内組織再生誘導型の人工気管の有効性,安全性を検証した上で,輪状軟骨と頸部気管の部分欠損の再建に臨床応用し,現在は実用化のための医師主導治験を実施している。選択基準は既存治療で気管孔を閉鎖できない患者と,悪性腫瘍などで気管切除(気管軟骨の1/2以上かつ3輪以上)が予想される患者である。人工気管は非吸収性材料を使用しているため小児に適応がない。将来的には吸収性材料からなる新規人工気管や軟骨の再生医療技術の開発が望まれる。
著者
上中 登紀子 森 孝夫 薮野 裕次郎 鷲見 桂一郎
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.651-654, 2006-12-15
被引用文献数
4

牛レバー,ミノ,センマイ,シマ腸,鶏レバー,砂肝などの家畜内臓肉を安全に生食できるようにするため,高圧処理による殺菌効果を検討すると共に,処理前後の内臓肉の官能評価を行い,以下の結果を得た.<BR>(1)6種類の家畜内臓肉に,大腸菌,サルモネラ,黄色ブドウ球菌をそれぞれ10<SUP>1</SUP>~10<SUP>7</SUP>CFU/gの菌数を接種し高圧処理した結果,最も耐圧性の高い黄色ブドウ球菌でも400MPa・10分,6回の繰り返し処理により検出されなくなった.<BR>(2)細菌を接種していない場合の3種類の細菌は,300MPa・30分の高圧処理で検出されなくなった.<BR>(3)殺菌効果の面でのより安全を見込んで,牛レバー,センマイ,鶏レバー,砂肝を400MPa以上の高圧で処理し,処理前後の内臓肉について生食での官能評価(5%有意水準での有意差検定)を行った結果,400MPaの処理では色は悪くなったが,柔らかさ,美味しさには有意の差は認められなかった.500MPaの処理では色,柔らかさ,美味しさ共に明らかに悪くなった.
著者
川越 弘就 吉位 尚 大塚 芳基 竹野々 巌 寺延 治 古森 孝英
出版者
JAPANESE SOCIETY OF ORAL THERAPEUTICS AND PHARMACOLOGY
雑誌
歯科薬物療法 (ISSN:02881012)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.139-143, 1999-12-01 (Released:2010-06-08)
参考文献数
22

Death due to gas gangrene following tooth extraction of mandibular third molar was reported. The patient was a 53-year-old female. Her mandibular left third molar was extracted 8 days before she was referred to our clinic. She did not receive any prophylactic antibiotics. After tooth extraction she developed swelling and pain of the left oral floor and the neck with severe sore throat and trismus. She had been treated with intravenous antibiotics and surgical drainage at a local hospital, however, the symptoms did not improve. The CT findings of the neck were abundant gas in the soft tissue of the neck. The diagnosis was cervical gas gangrene. The hematological tests revealed increase of white blood cells (13600/mm3), CRP (25.9mg/dl), blood sugar (332mg/dl), hypoalbuminemia (Alb ; 2.5g/dl), and liver dysfunction (GOT ; 42IU/l, GPT ; 63IU/l) .She seemed to be getting better due to drainage on Day 4 after admission, however, the neck skin became necrotic widely. On Day 8, rapid swelling and severe pain from the neck to chest were observed. The general conditions began to worsen, and she died of multi-organ failure on Day 12 (19 days after tooth extraction) . Enterococcus faecalis, Streptococcus milleri, Gemella haemolysan and Peptostreptococcus micros were isolated from the pus.It was considered that the necrotic tissues of the neck, which might cause residual infection, should have been removed completely, and the management for hyperglycemia and hypoalbuminemia was also very important to treat severe infectious gas gangrene.