著者
武地 一 山田 裕子 杉原 百合子 北 徹
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.207-216, 2006-03-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
42
被引用文献数
5 5

目的: もの忘れ外来通院中のアルツハイマー型痴呆症 (AD) 患者における行動・心理学的症候 (BPSD) として捉えられる周辺症状と中核症状である認知機能障害, および介護負担感との関連を明らかにする. 方法: もの忘れ外来通院中の46組のAD患者・家族介護者を対象とした. BPSDの調査には Cummings らにより開発された Neuropsychiatry Inventory (NPI) を用い, Teri らの研究を参考に下位領域として記憶に関する症候を加えた. 認知機能の評価にはMMSE, word fluency, 時計描画テスト等を, 介護負担感の測定には Zarit 介護負担尺度および抑うつ尺度CES-Dを用いた. 結果: BPSDとして記憶に関する症候, 無為, うつ, 妄想, 興奮, 不安が多く見られ, 特に記憶と無為に関しては幅広い症状が高頻度に見られた. BPSDは介護負担感に強い影響を与えており, 中でも不安, 興奮, 異常行動が介護負担感に強い相関を示すことが明らかとなった. MMSE以外の認知機能得点の低下およびADL低下も Zarit 介護負担尺度と有意な相関を示したが, 多変量解析ではNPIのみが有意に関連していた. 一方, 介護者の抑うつ度は患者の近時記憶低下と関連が深い可能性が示唆された. BPSDと認知機能との関連では妄想, 無為がMMSEの低下と関連すること等, 認知機能の低下とBPSD悪化に関連が示されたが, 質問項目ごとの詳細な検討により記憶, うつに関する症候についてはむしろ認知機能が高い患者に多い項目もあることが示された. 結論: もの忘れ外来通院中のAD患者のBPSDや認知機能障害の詳細な項目まで検討することにより, 介護家族負担感や抑うつとの間や患者要因相互の間に様々な関係があることが明らかになった. このような関係を把握することにより, 効果的な病態評価と援助が行えるものと思われる.
著者
高橋 晃 岩崎 鋼 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.617-621, 2010 (Released:2011-02-03)
参考文献数
8
被引用文献数
1

目的:本研究は成年被後見人が医療行為を要する際の現状を把握し,医療行為の同意に関する課題を探ることを目的とした.方法:仙台市内の介護老人福祉施設,介護老人保健施設及び介護療養型医療施設計63施設に対し,成年後見制度の利用状況と医療行為の同意に関する実態並びに意識調査を実施し(調査I,回答施設数44,回答率69.8%),また宮城県社会福祉士会所属で現在後見人の業務を受任している社会福祉士40名のうち,NPO法人ぬくもりの里せんだい・みやぎ成年後見支援ネットの相談員を介して調査に同意いただいた社会福祉士11名(全員回答)に対し医療行為の同意に関する実態及び意識調査を行った(調査II).結果:調査Iにおいて,医療行為の同意を求められた事例は5施設で8例あり,その内訳は,予防接種及び延命措置が各2例,検査,投薬,注射及び手術が各1例であった.望ましい同意権者については家族・親族が23施設(33.3%),成年後見人18施設(26.1%),医師8施設(11.6%)等であった.調査IIにおいて,医療行為に関する同意を求められたことがある者は8名で,その内訳は予防接種8例,検査4例,手術3例,延命措置2例等であった.また4名は同意が得られないため必要な医療処置を受けられない事例を経験していた.望ましい同意権者については成年後見人8名(30.8%),医師7名(26.9%),家族・親族が5名(19.2%)等であった.結論:現状では医療行為の同意が求められる場合があり,同意権がないため適切な医療を受けられない事例も存在することが明らかとなった.今後,医療行為の同意を得るための適切な制度を早急に検討する必要性が示唆された.
著者
高橋 孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.498-501, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
11

災害後の経過と発生頻度の多い感染症を考慮する場合,発生直後~3日以内(急性期)においては外傷・熱傷・骨折に伴う創部感染症(特に破傷風に注意)が多く,4日目以降~復旧(亜急性期~慢性期)までの段階ではかぜ・インフルエンザ・感染性胃腸炎・結核・麻疹が多数発生する.被災高齢者がこれらの感染症に罹患しやすい環境(避難所)に置かれている点を忘れてはならず,疾患の早期発見・早期対応および感染予防の対策が医療従事者に求められている.本稿では,東日本大震災における感染症や感染対策に関する各種報告を踏まえて概説する.
著者
小林 美亜 石川 翔吾 上野 秀樹 竹林 洋一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.248-253, 2019-07-25 (Released:2019-07-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1

近年,人工知能(AI)やロボット技術の発展に伴い,ヘルスケア領域の研究が盛んにおこなわれている.そして,高齢者の身体機能・認知機能を維持・改善するためのアプローチにも,AIが搭載されたコミュニケーションロボットなどが活用されるようになった.しかし,「意味」を理解したり,「状況」を考慮したり,「人間のように」思考することのモデル化を目指したAI研究は,依然として発展途上である.そこで,人工知能学に基づき,認知機能が低下した方々に対する「見立て知」のモデルを構造化し,介護者等がその知を習得し,活用できる環境を整えることによって,適切な治療やケアにつなげたいと考える.
著者
楠 博 新村 健
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.107-114, 2019-04-25 (Released:2019-05-16)
参考文献数
41

フレイルは高齢者において全身の生理的予備能が様々な要因により低下することで,ストレスに対する脆弱性が増加し,要介護状態におちいりやすい状態と定義されている.心不全患者では主に心拍出量の低下による筋肉量,筋力の低下から身体的フレイルの構成要素であるサルコぺニアを来たしやすいことが報告され,心不全とフレイルとの相互作用が注目されてきている.一方で,共通の病態生理学的基盤のもと認知機能低下と身体的フレイルが同時に発症する病態として,コグニティブ・フレイルという概念が提唱されている.心不全,フレイル,認知機能障害はそれぞれ独立した病態に見えるが,低栄養,炎症,神経内分泌異常などの共通した基盤の上に成り立っており,相互に影響しあいながら悪循環を形成している.その悪循環を断ち切るためには,まだ可逆的と考えられるプレフレイルや軽度認知機能障害(MCI)の段階で適切な介入をするべきである.介入方法としては心不全に対する薬剤治療のほかに,運動療法,栄養療法がフレイル,認知機能障害に対して有効であることが明らかになってきた.高齢の心不全は時に根治が望めない進行性かつ致死性の病態であるため,終末期医療を視野に入れた意思決定の支援を行う必要がある.超高齢心不全患者がさらに増加していくことが予想されるなか,プレフレイルやMCIの段階で早期に発見し,心不全に対する薬物治療の他に,適切な運動療法,栄養療法を行い,身体機能,認知機能の維持を目指すことは意義が大きい.ADLレベルの維持・向上に努めるために医療職だけでなく多職種の協力体制を構築した全人的かつ包括的な医療の提供が求められている.
著者
鈴木 みずえ 松井 陽子 大鷹 悦子 市川 智恵子 阿部 邦彦 古田 良江 内藤 智義 加藤 真由美 谷口 好美 平松 知子 丸岡 直子 小林 小百合 六角 僚子 関 由香里 泉 キヨ子 金森 雅夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.487-497, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
34

目的:本研究の目的は,パーソン・センタード・ケアを基盤とした視点から認知症高齢者の転倒の特徴を踏まえて開発した転倒予防プログラムの介護老人保健施設のケアスタッフに対する介入効果を明らかにすることである.方法:2016年5月~2017年1月まで介護老人保健施設で介入群・コントロール群を設定し,認知症高齢者に対する転倒予防プログラムを介入群に実施し,ケアスタッフは研修で学んだ知識を活用して転倒予防に取り組んだ.研究期間は,研修,実践,フォローアップの各3カ月間,合計9カ月間である.対象であるケアスタッフにベースライン(研修前),研修後,実践後,フォローアップ後の合計4回(コントロール群には同時期),転倒予防ケア質指標,学際的チームアプローチ実践評価尺度などのアンケートを実施し,割付条件(介入・コントロール)と時期を固定因子,対象者を変量因子,高齢者施設の経験年数,職種を共変量とする一般線形混合モデルを用いた共分散分析を行った.結果:本研究の対象者のケアスタッフは,介入群59名,コントロール群は70名である.転倒予防プログラム介入期間の共分散分析の結果,転倒予防ケア質指標ではベースライン63.82(±11.96)からフォローアップ後70.02(±9.88)と最も増加し,有意な差が認められた.介入効果では,認知症に関する知識尺度の効果量が0.243と有意に高かった(p<0.01).結論:介入群ではケアスタッフに対して転倒予防ケア質指標の有意な改善が得られたことから,転倒予防プログラムのケアスタッフに対する介入効果が得られたと言える.
著者
朝長 正徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.259-263, 1986-05-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
7

ヒトが他の動物とことなり長寿を獲得した背景にすぐれた脳の働きがある. 実際に, 高齢でも知的機能のよくたもたれた人もすくなくない. この様な優秀高齢者の脳について検討し, 最近の研究成果をレビューした.1. 老年者では結晶性能力はよくたもたれる.2. 脳重を体重比にすると他臓器とことなり加齢による減少が少ない.3. PETによる脳の左右半球および局所のブドウ糖利用に加齢による減少がない.4. 海馬における神経細胞の樹状突起の計測では若年者よりも老年者でよく発達していた. 老動物の神経細胞でも突起を伸す能力がある.5. 知的能力のたもたれた超高齢者では脳の老年変化は著しいが, その神経突起は同年代のものに比して極めてよくたもたれていた.6. しかし, 一般に知能のたもたれた老人では老人斑や軟化巣などはすくない.7. 視神経萎縮例 (高度の視力異常) では, そうでない例に比して脳重が軽い. したがって, 脳血管障害, 老年痴呆, 感覚器障害などの脳の老化を促進するリスクを制御することにより, 高齢まで知能はたもたれると考えられる.
著者
太田 壽城 原田 敦 徳田 治彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.483-488, 2002-09-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
51
被引用文献数
2 7

高齢化社会の進行に伴って老人医療費は急速に増加し, 新しい高齢者医療の役割として老人医療費の適正化が期待されている. 本研究の目的は, 日本における大腿骨頚部骨折の医療経済に関する文献データを収集し, 大腿骨頚部骨折の治療と介護に関わる費用と, 現在効果的と考えられている対策の医療経済的効果について検討することである. 大腿骨頚部骨折の新規発症について Orimo らは国内の50施設をモニターし, 日本全体における大腿骨頚部骨折の新規発症を89,900~94,900人 (平均92,400人) と推計している. 大腿骨頚部骨折の予後については, 大腿骨頚部骨折により歩行可能な者から寝たきりあるいは要介助となる者は36~42%と推測され, 大腿骨頚部骨折後の生命予後は平均5年程度はあると推察された. 一方, 大腿骨頚部骨折の手術・入院費用は140~180万円, 介護保険制度の単位から算出した最も介護度の低い要介護1の年間介護福祉施設サービス費用は242万円と推定された. これらの文献データを基に, 日本における大腿骨頚部骨折の医療と介護にかかる費用を推計すると, 年間の大腿骨頚部骨折にかかわる医療・介護費用は5,318.5~6,359.0億円と推計された. 大腿骨頚部骨折の予防あるいは骨粗鬆症の治療と大腿骨頚部骨折の医療費について検討した. 日本において80歳代の女性全員 (約273万人) にヒッププロテクターを適用した場合, 単純なコストベネフィットの計算では144.7~243.0億円の適正化という結果になった. ホルモン補充療法も骨折患者の発生を顕著に低下させ, 費用削減効果があるとされている. 日本において80歳代の女性 (約273万人) の半数がビスフォスフォネートを服用した場合の推計を行うと, コストの方がベネフィットを大きく上回る結果となった. しかし, 薬剤中止後も治療期間と同程度の期間効果が継続すると仮定すると, コストとベネフィットが拮抗した.
著者
町田 綾子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.463-467, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
15
被引用文献数
5 19

目的:良いケアが周辺症状を改善するならば,これを鋭敏に感知できる周辺症状の評価尺度が必要であるという問題意識に則って,Dementia Behavior Disturbance scale(DBD)の短縮版の作成を行った.方法:221名の認知症患者(平均年齢78.3歳)を対象に,初診時と平均1年後にDBD(28項目)を調査し,変化量が比較的大きな下位22項目を選定した.そのうち出現頻度の低い4項目を除いた16項目について,因子分析(主因子法,バリマックス回転)を経て,最終的に13項目の短縮版を作成した(DBD13).結果:DBD13の内的整合性はクロンバッハαが0.96と良好であった.妥当性の検証ではDBD28との相関でr=0.96,p<0.0001と高く,MMSEと有意な負の相関を認めた(r=-0.27,p<0.0001).また,基本的ADL(r=-0.307,p<0.0001)や手段的ADL(r=-0.375,p<0.0001)と有意な負の相関を,介護負担尺度Zarit Burden Interviewと正の相関が認められた(r=0.61,p<0.0001).結論:DBD13は感受性の高い周辺症状評価尺度となることが期待される.
著者
新 弘一 高崎 優 勝沼 英宇 佐藤 勝彦 渋谷 健 佐藤 成實 平山 八彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.11, pp.881-887, 1992-11-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

消炎・鎮痛薬 Alminoprofen アルミノプロフェン (ミナルフェン®錠) の高齢患者 (慢性関節リウマチ患者3例, 変形性脊椎症患者2例, 平均79±5歳) における血中濃度推移を指標とした pharmacokinetics の解析を行い, 若年健常者における調査成績 (Shibuya et al. 1989) との比較検討を行った.その結果, 最高血中濃度 (Cmax) は, 服薬第1日目が16.1±2.5μg/ml, 第3日目が25.2±1.6μg/ml, 第5日目では21.6±2.7μg/mlで, 最高血中濃度到達時間 (Tmax) は約2時間であった. また, 血中濃度曲線下面積 (AUC) は, 第1日目のAUC0-∞は58.5±6.3μg・hr/ml, 第3日目のAUC0-4はそれぞれ58.5±3.1, 58.1±8.5μg・hr/mlで極めて類似しており, 若年健常者のAUCと比較して著しい差異はなかった. 蓄積性に係わる消失相の半減期 (t1/2) は, 投与第1日目が2.45±0.35hr., 第3日目が2.09±0.82hr., 第5日目では2.49±0.63hr. であり, いずれも著しい差異はない. また, 本薬の高齢者における蓄積率は1.16±0.05で, 若年健常者での1.2と比べ差異は認められなかった. さらに, 血漿中の平均滞留時間 (MRT) は第1日目が2.31±0.03hr., 第3日目が2.15±0.09hr., 第5日目では2.15±0.07hr. であり, 分散時間 (VRT) は第1日目が0.95±0.05hr2, 第3日目が0.88±0.09hr2, 第5日目では1.06±0.07hr2であった.これらの pharmacokinetics に関する調査成績から, 本薬の高齢者におけるTmax, t1/2はやや延長するものの, AUCや蓄積率等は成人健常者と比較的類似しており, 高齢患者に連続投与しても若年成人健常者と同様に, 体内蓄積性はないか又は極めて弱いものと考えられた.
著者
西川 満則 横江 由理子 久保川 直美 福田 耕嗣 服部 英幸 洪 英在 三浦 久幸 芝崎 正崇 遠藤 英俊 武田 淳 大舘 満 千田 一嘉 中島 一光
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.491-493, 2013 (Released:2013-09-19)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

緩和ケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面した患者・家族の苦痛を和らげquality of life(QOL)を改善するプログラムである.日本の緩和ケアは,がんを中心に発展し非がんへ広がりつつある.当院では,非がんも対象に加え緩和ケアを推進すべくEnd-Of-Life Care Team(EOLCT)を立ち上げた.当初6カ月間の延べ依頼数は109件で,約4割を占める非がんの内訳は,認知症,虚弱,慢性呼吸器疾患,慢性心不全,神経難病等であった.活動内容は,オピオイド使用も含めた苦痛緩和,人工呼吸器・胃瘻・輸液の差し控え・撤退の意思決定支援(Advance Care Planning:ACP),家族ケアで,法的・倫理的問題に配慮し活動している.このEOLCTの活動は,老年医学会の立場表明,厚生労働省の終末期医療の決定プロセスに関するガイドラインに親和的であり,非がん疾患も含めた緩和ケアを推進する有用なシステムになりうる.特に胃瘻や人工呼吸器の選択に象徴される難しい意思決定を支援する働きが期待される.
著者
丸田 恭子 園田 至人 内田 裕一 高橋 利幸 福永 秀敏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.491-495, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
19
被引用文献数
4 7

症例は89歳女性である.四肢のしびれと筋力低下を訴え入院した.右視神経萎縮があり視力は手動弁,四肢・体幹の全感覚消失と四肢に中等度の筋力低下を認めた.間質性肺炎が認められ,MRIでは第2から第6頸椎レベルにかけて連続性脊髄病変があり,後索から灰白質中心にかけてガドリニウムにて造影された.抗核抗体640倍(speckled type),抗DNA抗体33.1 IU/ml,抗SS-A抗体40.4,抗SS-B抗体171.9,抗RNP抗体39.5と高値を示したことから,全身性エリテマトーデスやSjögren症候群による縦断性脊髄炎を考え,ステロイドパルス療法を施行した.症状は軽快し,頸髄の異常所見は消失した.その後,抗アクアポリン4抗体陽性が判明し,頸髄病変が再燃したためセミパルス療法を行い,プレドニゾロン10 mg/日を継続している.全身性エリテマトーデスやSjögren症候群による縦断性脊髄炎が報告されているが,視神経脊髄炎においては各種の自己抗体の上昇をともなう場合があり,視神経脊髄炎関連疾患も考察して抗アクアポリン4抗体を測定することが診断および治療の上で重要と考える.
著者
平木 潔
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.47-52, 1971-03-31 (Released:2009-11-24)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
緑川 亨 小松 泰喜 三谷 健 東郷 史治
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.184-190, 2014 (Released:2014-05-23)
参考文献数
30
被引用文献数
1 3

目的:介護施設に入所する認知機能低下者に対して発光ダイオード(LED)を用いて光を照射することによって,睡眠関連症状を含む行動・心理症状(BPSD)および介護者負担が軽減するかどうかを検討することを目的とした.方法:対象は介護老人保健施設に入所する認知機能低下者8名(男性4名,女性4名,平均年齢79.9±9.1歳)で,平均Mini-Mental State Examination(MMSE)スコアは9.8±4.6点であった.LEDによる光照射は9:00~9:30に眼前照度2,000 luxで実施した.その間,対象者は折り紙や塗り絵などの作業課題を遂行していた.照射する光の色温度は12,000 K(青空色)または2,400 K(夕暮れ色)とし,それぞれ連続6日間(月曜日から土曜日)行った.6日間の連続照射週とその前後1週間の計3週間を1セッションとして4名は12,000 K,2,400 Kの順序で,残りの4名は2,400 K,12,000 Kの順序で計2セッションの調査を実施した.なお,各セッションの間は4週間以上とした.全般的認知機能についてはMMSE,焦燥性興奮についてはコーエン・マンスフィールドagitation評価表(CMAI),精神機能と介護者負担については日本語版Neuropsychiatric Inventory施設版(NPI-NH),担当介護士の介護負担度については日本語版Zarit介護負担尺度短縮版(J-ZBI)を用いて各週の最終日に調査した.結果:12,000 Kでは,NPI-NHの重症度スコア,職業的負担度スコア,合計スコア,CMAIの非攻撃的行動スコアが照射前週と比較して照射週または照射後週に有意に(P<0.05)減少した.また,各下位項目については,NPI-NHの「睡眠」スコアおよび「無関心」スコアが照射後週に照射前週と比較して有意に(P<0.05)減少した.一方,2,400 Kではいずれの評価指標においても有意な変化は認められなかった.また,MMSEスコアとJ-ZBIスコアについては,どちらの色温度でも有意な変化は認められなかった.結論:施設入所中の認知機能低下者の睡眠関連症状を含むBPSD,またその介護者の負担は光環境と関連し,これらは認知機能低下者が作業活動をする間に短波長成分を多く含む照明光の照度を増大させることでも改善しうることが示唆された.
著者
宮崎 さやか 山田 静雄 東野 定律 渡邉 順子 水上 勝義
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.301-311, 2019-07-25 (Released:2019-07-31)
参考文献数
27

目的:高齢者の排尿障害にはポリファーマシーが関連すると言われているものの,ポリファーマシーによる排尿障害のリスクに,薬剤数あるいは種類のいずれが影響するのかは明らかではない.また薬剤と排尿障害の関連について,尿失禁のタイプ別に検討した報告はきわめて少ない.本研究では,これらの点を明らかにすることを目的とした.方法:在宅医療受療中の65歳以上で要介護1~5いずれかの認定を受け,処方薬5剤以上,抗がん剤による加療を受けていない者を対象とし,訪問看護ステーションに質問紙調査の回答を依頼した.また,排尿チェック票を用い排尿症状を判別した.結果:167名(女性97名,男性70名,平均年齢83.8歳)を分析対象とした.5~9剤処方が59.3%,10剤以上が40.7%であり,男性の10剤以上で,排尿障害のリスクに有意傾向を認めた.排尿障害と薬剤の種類の関連については,女性の場合,腹圧性尿失禁では,αアドレナリン受容体拮抗薬が,切迫性尿失禁ではベンゾジアゼピン系薬剤が有意なリスクであることが示された.機能性尿失禁では,αアドレナリン受容体拮抗薬が有意なリスク低下を認め,コリンエステラーゼ阻害薬は有意なリスクであることが示された.αアドレナリン受容体拮抗薬とベンゾジアゼピン系薬との併用で,腹圧性および切迫性尿失禁のリスクはそれぞれ単剤投与時より高値を示した.またαアドレナリン受容体拮抗薬とコリンエステラーゼ阻害薬の併用で,腹圧性尿失禁のリスクが著明に高まることが示された.男性ではいずれの排尿障害に対してもリスクとなる薬剤は抽出されなかった.結語:本研究結果より,薬剤による排尿障害には男女差がみられる,排尿障害のタイプによって関連する薬剤が異なる,リスクのある薬剤の併用によりリスクが著明に高まるなどの可能性が示唆された.
著者
文 鐘聲 三上 洋
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.232-238, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2 1

目的:高齢者における転倒は老年症候群の一つであり,QOLの低下をもたらす.一方,日本人と在日コリアン高齢者は既往歴,ADL, QOLについての差異が見られる.本研究は,都市部在住日本人高齢者及び在日コリアン高齢者の転倒に関連する因子を解析し,特徴を比較することを目的とした.方法:2004年11月∼2005年1月に在日コリアンの集住地域である,大阪市A地区在住の65歳以上の高齢者494人を対象とした.調査項目は基本属性,既往歴,基本的ADL,高次ADL,抑うつ,VASによるQOLであり,回収率は87.2%,有効回答率は98.8%であった.分析対象は,有効回答のあった日本人221人(転倒群41人,非転倒群180人),在日コリアン200人(転倒群66人,非転倒群134人)の421人とし,t検定,χ2検定,共分散分析,ロジスティック回帰分析を行った.結果:日本人の転倒発生率は18.6%,在日コリアンの転倒発生率は32.8%であった.日本人,在日コリアンともに転倒群は非転倒群に比べ平均年齢が高く,高血圧,骨折の既往が多く,閉じこもり傾向,抑うつの割合が高く,基本的ADL,高次ADL,主観的健康感,生活満足度が低いという結果がみられた.また,在日コリアン転倒群は非転倒群に比べ独居者が多く,生きがいがないと回答したものが多く,糖尿病,脳卒中,骨関節疾患の既往が高く,主観的幸福感が低いという結果が見られた.転倒に影響を及ぼす因子として有意であったものは,日本人は閉じこもり傾向,睡眠薬·安定剤の服用であり,在日コリアンはBADL及び視力の低下,高血圧,抑うつであった.結論:都市部在住高齢者について,転倒群は非転倒群に比べ,閉じこもり,抑うつの傾向が高く,ADL, QOLが低かった.また,特に在日コリアン高齢者には,疾病のコントロールや生活全般を加味したアプローチの必要性が示唆された.

2 0 0 0 睡眠物質

著者
藤谷 靖志 裏出 良博 早石 修
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.35, no.11, pp.811-816, 1998
被引用文献数
1

我々は規則正しく睡眠と覚醒のサイクルを繰り返しながら, 人生の3分の1にあたる貴重な時間を眠って過ごす. しかしながら, 睡眠に対して科学的な光があてられるようになったのは, 比較的最近のことであり, 睡眠は現代医学の中のブラックボックスであるといっても過言でない. 覚醒から睡眠への移行には, 脳内や全身においてさまざまな生理現象が多層的に関与していると考えられる. したがって睡眠に関与する物質も多種多様であり, それぞれの相互作用により睡眠を制御していると想定される.「睡眠が脳内において産生されるホルモン様の物質 (睡眠物質) により調節される」という「睡眠の液性調節」の概念は, 約1世紀前に提唱され, 現在では広く認められている. 睡眠物質 (Sleep-promoting substances) とは睡眠欲求の高まりと共に脳内や体液中に出現し, 神経活動を調節することにより, 睡眠の誘発や維持に関与する物質の総称である. 睡眠物質は自然な睡眠を誘発する内因性の物質であり, 非生理的な睡眠を起こすベンゾジアゼピン類等の睡眠薬とは異なる. その候補物質としては, プロスタグランジン類, ヌクレオシド類, サイトカイン, 生体アミン類等が挙げられている. 本稿ではこれらの代表的な睡眠物質を紹介し, これまでに明らかとなっている睡眠誘発の作用機構について解説する.