著者
宮川 清
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.25-30, 1990-06-30 (Released:2017-10-20)
著者
田村 淳
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.103-110, 2007-12-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
33
被引用文献数
5

シカの採食圧を受けてきた丹沢山地冷温帯自然林の4タイプの林床型,すなわち短茎草本型,高茎草本型,スズタケ型,ミヤマクマザサ型の植生保護柵内外で10年間の下層植生の変化を調べ,シカの採食圧の高まる前の状態に柵内の植生が変化するかどうかを検討した。その結果,どの林床型も植生保護柵を設置して10年経過すると柵内で低木層の植被率が増加し,低木層の種数も増加した。スズタケ型では低木層でスズタケの被度が大幅に増加した。草本層の種組成の変化は林床型によって異なったが,柵内では全体として直立型の多年生草本が増加する一方で,小型の多年生草本や不嗜好性植物が減少する傾向があった。さらに,高茎草本型ではシカの採食圧により減少したとされる絶滅危惧種も出現した。一方柵外では10年経過してイネ科の一年生草本や小型の多年生草本が増加したが,植被率や種多様性は減少しなかった。以上のことから,丹沢山地の冷温帯自然林ではシカによって衰退した下層植生でも10年間シカの採食圧を排除すると以前の植生の状態に変化すると結論した。
著者
小川 眞
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.57-65, 1988-12-30 (Released:2017-10-20)

1 0 0 0 OA 森林と雪崩

著者
佐伯 正夫
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.25-32, 1981-12-30 (Released:2017-11-02)
被引用文献数
2
著者
谷本 丈夫 劉 岩 里道 知佳 大久保 達弘 二瓶 幸志
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-12, 1996-09-15
参考文献数
23
被引用文献数
5

奥日光における森林衰退の実態とその原因を明らかにする目的で,空中写真と踏査により衰退地域の確認や地形との対応,代表的な枯死域から健全域に移り変わる場所の毎木調査を行い,枯死の形態や樹形と地形,土壌などの立地環境要因との関係を検討した。衰退・枯死の発生時期と原因を特定するため,枯死木に近接する生存木の年輪成長経過を調べ,主に台風との関連を解析した。酸性雨・霧の樹木や土壌への影響についても枝葉の変色などを観察した。これらの要素から森林衰退・枯死現象と立地環境との関係,衰退をもたらした原因について考察した。その結果,調査域で観察された枯死木はいずれも小枝が枯れ落ち幹や大枝のみが残る白骨状あるいは倒木になっており,ほぼ同じ形態であった。枯死木の存在する地形は,南東斜面で風の吹き抜ける場所,あるいは北西斜面でも尾根上部で南東風の吹き抜ける位置で,環境条件が類似していた。年輪解析の結果,奥白根山のダケカンバ,赤城のカラマツでは強風域において完全枯死,やや風の弱くなった場所においては枝の折損時の成長減少,その後,枝の再生によると思われる回復が見られた。念仏平,皇海山などの亜高山性針葉樹林では上層林冠の破壊にともなう前生稚樹の成長促進時期が同調し,とりわけ1982年の台風の襲来と一致していた。これに対し山頂風衝部では矮性化したシラベ類が枯れており,旗棹のように変形した樹形から常風的な季節風が枯損の原因と判定された。薙,崩壊地の周辺では季節的な常風に加えて土壌の崩落にともなう根浮き,倒木などでの枯損がみられた。これら以外ではコメツガやシラベ類に寒風害によって葉裏が褐色に変色した個体や落葉現象が認められたが,樹木全体が枯れる現象はなかった。したがって,奥日光の森林衰退は立地環境に対応して発生する風害を引き金とする,亜高山の森林における更新形態の一つであると判定された。
著者
横尾 謙一郎
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.29-35, 2010-06-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
27
被引用文献数
2

センダン人工林において材長4m,年間直径成長量1cm(年輪編5mm)以上の通直材の生産を目標とした施業法を検討するために,3,000,5,000,7,000本ha^<-1>で植栽されたセンダン幼齢林において,植栽後5年間の成長経過と幹材の形状を調査した。樹高成長量は2年生時に2.2〜2.6m yr^<-1>と最大になり,5年生時には1m yr^<-1>であった。5年生時の平均樹高は10.1〜10.6mで植栽密度の影響は認められなかった。枝下高は植栽密度が高いほど高くなったが,5年生時にはすべての植栽密度で目標の4mを超えた。胸高直径成長量は1年生では3.2,2.9,2.5cm yr^<-1>と植栽密度が低いほど大きかった。しかし,5年生時では0.4,0.4,0.3cm yr^<-1>といずれも目標値の1cm yr^<-1>以下となり,植栽密度の影響はみられなくなった。5年生時における幹長4mの幹曲がり(最大矢高)の平均値は12.1,9.8,8.4cmと植栽密度が高いほど小さく,植栽密度を高くすることで幹曲りは小さくなった。以上の結果から,センダン人工林において目標とする用材を確保するためには,植栽密度を高くして通直性を高め,さらに枝下高4mを確保した後に,1cm yr^<-1>の直径成長量を維持するための間伐による本数管理を行うことが重要であるといえる。
著者
伊藤 江利子 吉永 秀一郎 大貫 靖浩 志知 幸治 松本 陽介 垰田 宏
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.37-43, 2002-12-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
18
被引用文献数
1

関東平野におけるスギ林衰退の原因を解明するため,34地点の固定調査地でスギ林衰退度と土壌条件(母材,堆積様式,土性,表層0-8cm・次表層8-16cmの容積重,表層土壌孔隙率,有効土層深)との関係を検討した。衰退度は砂土が卓越する低地で高く,火山灰や堆積岩を母材とする埴壌土が卓越する台地および丘陵地で低い。容積重および孔隙率は衰退度と相関が認められ,表層土壌の物理的特性がスギ林衰退に影響を与えていた。また,表層土壌の堅密化の影響が有効土層深の深さによって緩和されることが示唆された。これらの検討の結果,強度のスギ林衰退は,土層厚が浅く,堅密な土壌で発生していることが明らかにされた。また,寺社境内では踏圧のため,表層が局所的に堅密化しており,そのような場所では極度の衰退が単木的に認められた。人為による土壌の物理性の悪化が,スギ衰退を助長していると考えられた。
著者
金子 命 原 ゆかり 保原 達
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-16, 2020-06-25 (Released:2020-07-14)
参考文献数
77

シカなどの大型動物は,生態系の地上部および地下部に様々な影響を与え得る。シカの生態系影響に関する研究は,主にシカの行動圏が制限されていない開放的な生態系において行われているが,閉鎖的な生態系において行われた例は非常に少ない。本研究では,閉鎖的な生態系でエゾシカが高密度化した洞爺湖中島において,シカが土壌および植物に与える影響を解明することを目的として研究を行った。島内に設置された6ヶ所の防鹿柵を使用し,土壌については物理性と化学性,植物については化学性を調べた。その結果,シカの侵入を排除した防鹿柵内に比べて柵外では,顕著に土壌硬度が高く,土壌表層のリター堆積量が少なかった。また,土壌の窒素諸特性については,植生タイプによって傾向が大きく異なり,特にシカの利用性の高い草原では柵内に比べ柵外で硝酸態窒素濃度が顕著に高かった。植物についても,草原の柵外に生育するフッキソウにおいて窒素濃度が顕著に高かった。これらのことから,閉鎖的な洞爺湖中島においてシカの高密度化によって、土壌の物理性や土壌および植物の化学性に様々な変化が生じており,そうした変化はシカの利用性や植生のタイプにより異なることが示唆された。中島では,シカの移動可能範囲が限られているため,高密度なシカの影響が島内全域的に顕在化し,それらの影響が長期間に渡って維持されている可能性があると考えられた。
著者
花岡 創 伊東 宏樹
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.39-50, 2020-06-25 (Released:2020-07-14)
参考文献数
37

北海道における主要造林樹種の一つであるアカエゾマツを対象に,根元曲がりや幹曲がりの程度について,気象条件に差がある検定林間及び家系間変動を検証した。共通家系が植栽された9ヶ所の検定林における20年次の根元曲がりと幹曲がりの程度に関するデータ(1~5の順序カテゴリカルデータ)を供試し,検定林及び検定林内反復,検定林内の植栽プロット,家系,検定林と家系の交互作用の効果を順序ロジットモデルを用いて評価した。その結果,検定林,検定林内反復,検定林内植栽プロットの効果が相対的に大きい傾向があった。特に道北地域に設定された検定林で負の効果が,道央の検定林で正の効果が顕著な傾向があったことから,根元曲がりや幹曲がりに対して積雪に関連する環境的な効果が大きかったこと,また,植栽プロットについても正または負の効果が大きかったエリアが集中しており,局所的な地形等の環境条件の効果も大きかったことが推察された。根元曲がりや幹曲がりに対する家系の効果の大きさは環境的な効果に比べると小さかったものの,有意な正または負の効果を示した家系が存在した。一方で,検定林と家系の交互作用は検出されなかった。それゆえ,環境条件に関わらず優れた遺伝的特性を示す家系が存在し,アカエゾマツでは根元曲がりや幹曲がりへの抵抗性は育種により改良が見込まれることが考えられた。
著者
春木 雅寛
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.75-84, 2015-12-25 (Released:2016-04-15)
参考文献数
35
被引用文献数
1
著者
島田 和則 勝木 俊雄 大中 みちる 岩本 宏二郎
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.11-21, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
35

人工林の広葉樹林化により植物の多様性がどのように変化したかについて,検証を行うことを目的に以下の研究を行った。暖温帯域の針葉樹人工林が気象害を受けてから広葉樹二次林として自然再生していった林分について,再生0年目から30年目までの植物種数や種構成の長期経年変化について検討した。全体の種数は,気象害を受けた直後の3年間は急増したが,以降は減少し続けた。次に,種構成の経年変化を出現種の生態的特徴から分析するために,出現種を生育環境区分によってタイプ分けし分析した。照葉樹林タイプの種数は,調査期間を通じて増加した。一方,草原タイプなど非森林生の種数は再生初期に増加し,その後減少した。この結果,人工林跡から成立した広葉樹二次林は,攪乱後再生初期では非森林生の種の一時的な増加によって全体の種数が多くなるが,その後は減少していくことが示された。人工林跡から成立した広葉樹二次林の多様性が,攪乱によって増加した非森林生の種に大きく影響されることは,多様性保全を目的とした森林管理で考慮する必要があると考えられた。
著者
丹下 健 田村 邦子 古田 公人
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.77-81, 1999-12-15 (Released:2017-04-03)
参考文献数
19

土壌酸性化が樹木に与える影響を明らかにすることを目的に,硫酸水散布による土壌酸性化の初期段階におけるクロマツ苗の生育を調べた。外生菌根菌に自然感染しているクロマツ苗を,有機物に乏しい土壌をつめた鉢に植栽し,酸性水散布の有無と摘葉(すべての1年生葉を除去)の有無を組み合わせた4処理区を設けた。酸性水を散布した処理区の表層土壌のpHは,6から5に低下したが,下層土壌のpHはほとんど低下しなかった。酸性水を散布した処理区の土壌水には,対照区より高濃度の塩基が含まれていた。いずれの処理区でも土壌水中のマンガンとアルミニウムの濃度は非常に低かった。クロマツ苗の当年葉の養分濃度に処理区間で有意な差はなかった。クロマツ苗の成長量は,対照区と比較して摘葉した処理区で小さく,酸性水を散布した処理区で大きかった。摘葉は,菌根菌への光合成産物の供給量の減少をもたらす要因であるが,土壌酸性化に対するクロマツ苗の反応への影響はみられなかった。菌根の形成率には処理区間で差がなかったが,酸性水の散布によってクロトマヤタケの子実体発生量が有意に減少した。クロマツ苗が影響を受けないような土壌酸性化の初期段階で,菌根菌に影響が表れることが明らかになった。
著者
渡邉 仁志 井川原 弘一 横井 秀一
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.55-61, 2018-12-25 (Released:2019-02-02)
参考文献数
29

岐阜県南部のヒノキ人工林において,下層植生の植被率と優占種によって分類した従来の下層植生タイプ(シダ型,草本型,低木型,貧植生型)にササ型を追加し,これらの表土流亡の抑止効果を再序列化した。ササ型はシダ型に比べ高標高に出現し,光条件が悪化した林床にも出現する可能性が示された。表土流亡の危険性の間接的指標である土壌侵食危険度指数は,全植被率合計が高い林分で小さい傾向が認められた。一方,ササ型の林分では,全植被率合計が草本型や低木型と同程度であったが,土壌侵食危険度指数はそれらの林分より小さかった。ササ型は草本層の植被率合計が高く,葉層とリター層が重層的に地表面を被覆していることから,表土流亡が発生しにくいと推測される。したがって,ササ型をヒノキ人工林下の下層植生タイプとして独立させることは有効である。ササ型を加えると,土壌侵食危険度指数には小さい順にシダ型<ササ型<草本型≦低木型≦貧植生型の序列が認められた。この結果は,下層植生による表土移動量の評価手法の汎用性を高めることに貢献する。
著者
溝口 拓朗 伊藤 哲 光田 靖 山岸 極 平田 令子
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.63-70, 2018-12-25 (Released:2019-02-02)
参考文献数
21

人工林主伐後の土砂移動と植生発達の相互作用について,土砂移動を植生回復の抑制要因とみる考え方と,回復した植生を土砂移動の抑制要因とみる考え方の両面からとらえ,これら二つの仮説を検証することにより,スギ人工林皆伐後約1年間の土砂流出と植生回復の関係を明らかにした。100年生スギ人工林伐採後約1年間の土砂移動量,降雨量,植被率を調査した。各計測期間の平均植被率と降雨で基準化した土砂移動量(土砂移動レート)の間には,全測定期間を通して明瞭な関係は見られず,決定木分析でも土砂移動量の大小を明瞭に区分できるような植被率の閾値は検出できなかった。これに対して,各計測期間で標準化した植被率増加速度は,生育期間中は土砂移動量の絶対量が小さいときに大きい値を示す傾向が認められた。決定木分析でも,土砂移動量が22.25(g/m/day)を下回ると,標準化後の植被率増加速度が大きくなることが示された。以上のことから,皆伐直後の植被率が小さく土砂移動量が大きい段階では,土砂移動が植生発達との相互作用を支配する要因になっており,植生によって土砂移動が抑制される効果よりも,土砂移動が植生発達を抑制する効果の方が大きいことが明らかとなった。また,土砂移動および植生発達の空間的な不均一性は林道開設による不安定土砂の生成や林地の枝条残材の影響を受けることが明らかとなった。
著者
宮本 和樹 奥田 史郎 稲垣 善之 小谷 英司 野口 麻穂子 伊藤 武治
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.21-26, 2009
参考文献数
32
被引用文献数
1

四国のヒノキ人工林において本数率30〜50%の間伐を行い,5年経過後の残存木の成長と葉面積指数(LAI)を林分間で比較した。プラントキャノピーアナライザ(LAI-2000,Li-Cor社)を用いて測定した2007年における50%区のLAIは30%区と同程度の値を示し,強度間伐区において葉量が速やかに回復していることが示唆された。5年間の胸高断面積合計(BA)の増加量についても30〜50%区間で顕著な差は見られなかった。個体レベルの成長についてみると,間伐により単位BAあたりおよび個体あたりのLAIが大きくなるほど幹胸高直径の成長速度(中央値)は増加した。本調査地においては,これまでのところ強度な間伐による残存木への著しい負の影響は現れておらず,間伐率が高くても胸高断面積合計ベースの林分成長には従来の間伐と比べて差がほとんどないことが示された。またその要因として,個体あたりの葉量の増加が残存木の個体成長を促進していることが示唆された。
著者
星野 義延 笠原 聡 奥富 清 亀井 裕幸
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.62-72, 1996
参考文献数
24
被引用文献数
1

建設残土によって造成された東京湾の臨海埋立地のひとつである大井埠頭の一角にある樹木侵入期の草原において,樹木の侵入と定着についての調査を1986年に行った。調査地はヨシ,セイタカアワダチソウ,チガヤ,オギなどの地下茎で繁殖する風散布型の多年生草本植物の優占する群落が形成されており,樹木はその中に点在していた。樹木個体の分布は電線の下や排水溝がある場所で多くなる傾向が認められ,これらの構造物の存在が調査地の樹木個体を多くしている要因と考えられた。樹高3m以上の樹木の位置は,調査地に設けられている排水溝の近くに分布する傾向が認められた。出現した樹木のほとんどはヤマザクラ,エノキ,マルバシャリンバイ,ネズミモチ,アカメガシワなどの動物被食散布型の樹木であり,調査地への樹木種子の供給は鳥散布によるものが多いと考えられた。電線は鳥類の休息場所となり,電線下は周辺の公園などの植栽樹の種子が多く供給されていた。このような種子供給は都市域の埋立地にみられる特徴と考えられる。また,排水溝の掘削は植物の生育に不適な埋立地の土壌の改良と,栄養繁殖によって広がる多年生草本植物群落の分布拡大を抑制し,樹木が定着し,生育できるサイトを提供するものと考えられた。埋立地に発達する初期の森林群落としては,エノキ林やアカメガシワ林が考えられた。
著者
小野寺 弘道 田邉 裕美 梶本 卓也 大丸 裕武
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.59-66, 1995-12-30
被引用文献数
6

奥羽山脈中央部に位置する焼石岳南麓の多雪斜面における積雪動態と樹木の生態的特性との関係について調べた。低木形態をとる落葉広葉樹林の大半は厳冬期季節風に対する風背斜面に分布していた。風背斜面には積雪グライドに起因する雪ジワと雪割れ目が広範囲にわたって分布し,しばしば全層雪崩の痕跡も観察された。林地には積雪挙動による浸食地形がみられた。他方,風衝斜面には中・大径木の根返りに伴って形成されたピットとマウンドが数多く観察され,斜面形は凹凸が連続する階段状であった。風背斜面に優先する樹種は,ヒメヤシャブシ,タニウツギ,ブナなどであり,風衝斜面に優占する樹種は,ブナ,マルバマンサク,ハウチワカエデなどであった。風背斜面の森林は風衝斜面の森林と比較してサイズがきわめて小さく,傾幹幅が異常に大きい葡匐形態をとっていた。傾幹幅には樹種による違いが認められるとともに,優占順位の高い樹種の傾幹幅は風背斜面では大きく,風衝斜面では小さかった。風背斜面においては積雪移動圧に対し,風衝斜面においては積雪沈降圧に対して適応した樹種が個体維持に有利であると考えられた。いずれの斜面にも出現するブナは,積雪移動圧よりもむしろ積雪沈降圧が卓越する積雪環境に適応した,耐雪性の高い樹種であると考えられた。多雪斜面に生育する樹木の個体維持は,風背斜面においては主に萌芽・伏条による更新に,風衝斜面においては主に実生による更新に依存していると考えられた。そのような樹木の生態的な特性は積雪環境の違いを反映し,群落分布に係わる積雪環境要因としては,単に積雪の量だけではなく,積雪の変態過程の違いというような質的要素や,積雪グライド・雪崩などの積雪挙動が重要な役割を果たしていると考えられた。
著者
石田 泰成 逢沢 峰昭 大久保 達弘
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-8, 2013-06-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
33

栃木県奥日光山域において,明治期の1905年に撮影された山火事跡の古写真がデジタルアーカイブスとして公開されている。本研究は,この写真の撮影地点の探査と樹齢構造の調査から,山火事が発生した林分を特定し,そこで炭化片分析を行うことで,同分析によって山火事発生が実証可能か検討した。その上で,山火事発生に関する文献記録のない同山域の1915年の古い地形図上にみられる広域的なササ地が,山火事によって成立したものであるかを炭化片析によって明らかにすることを目的とした。踏査の結果,山火事発生林分を特定することができた。山火事発生林分は, 1915年の湯ノ湖周辺の地形図ではササ地となっている場所と,その近くの広葉樹林であった。また,文献および樹齢構造の調査,この場所では約120年前(1890年代)に山火事が発生したこと,この周囲のカンパ林およびミズナラ林の樹齢は120年以下であることがわかった。この林分での炭化片分析の結果,いずれの林分においても炭化片が検出され,同分析によって,山火事発生の実証が可能と考えられた。次に, 1915年にササ地であった別のミズナラ・シラカンバ林において同様の調査を行った結果,すべての地点から炭化片が検出され,樹齢は最大で101年であった。以上から,奥日光山域では明治期に広域的な山火事が発生しており, 1915年地形図のササ地およびその周囲の広葉樹林にみられる現在の森林植生は山火事後に成立したものと推察された。
著者
松本 陽介 小池 信哉 河原崎 里子 上村 章 原山 尚徳 伊藤 江利子 吉永 秀一郎 大貫 靖浩 志知 幸治 奥田 史郎 石田 厚 垰田 宏
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.53-62, 2002-12-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
29
被引用文献数
1

関東地方の丘陵部を含む平野部全域を対象として,スギなどの樹木について衰退の現況を,目視による樹木衰退度判定法によって調査した。その結果,スギの衰退が最も顕著であり,ヒノキなどの常緑針葉樹類,イチョウ,ケヤキなどにも衰退が認められた。いっぽう,メタセコイアおよびヒマラヤスギでは衰退個体がほとんど見いだせなかった。スギの衰退は,関東平野のほぼ全域で認められ,関東平野の北西部に位置する前橋市周辺や熊谷市周辺,および久喜市周辺,これらに隣接する群馬県下および埼玉県下の利根川沿いの地域で特に著しかった。次いで,水戸市北方の那珂川や久慈川沿いの地域,および銚子市周辺の太平洋に面した地域で衰退度が高く,千葉市周辺および町田市周辺でも比較的衰退度が高かった。