著者
白石 和也 藤江 剛 小平 秀一 田中 聡 川真田 桂 内山 敬介
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.105-118, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
30

沿岸域の海底火山の活動性を評価するために,海底火山下の構造や物性を効果的に調査する地震探査法の確立を目的に,数値シミュレーションによる合成地震探査データを用いたフィージビリティスタディを行った。本研究では,海域と陸域を横断する測線長30 kmの調査を想定し,沿岸域にある海底火山の過去の活動痕跡あるいは現在の活動可能性を示唆する仮想的な構造を持つ深度10 kmまでの地質モデルを対象とした。このモデルでは,地殻内にマグマ溜りを模した3つの低速度体を異なる深度に設定し,その他には側方に連続的な明瞭な反射面が存在せず,一般的な反射法速度解析で地殻内の速度分布を決定するのは難しい構造とした。まず,作成した地質モデルに対して走時および弾性波伝播の数値モデリングを行い,地震探査で得られる初動走時と波形記録を合成した。そして,これらの合成地震探査データを用いて,初動走時トモグラフィと波形インバージョンによる段階的な解析により,低速度体を含む速度構造を推定した。その後,推定された速度モデルを用いてリバースタイムマイグレーションを適用し,反射波による構造イメージングを行った。また,発振点と受振点のレイアウトおよび低速度体の形状の違いについて比較実験を行った。数値データを用いた解析の結果,段階的なインバージョン解析により深度約6 kmまでの2つの低速度体を示唆する変化を含む全体的な速度構造を適切に捉え,深度領域の反射波イメージングによって3つの低速度体の形状を良好に描像することができた。速度構造の推定には探査深度と分解能について今後に改善の余地があるものの,一般的な反射法速度解析が難しい地質構造の場合には,波形インバージョンによる速度推定とリバースタイムマイグレーションによる反射波イメージングを組み合わせることで,地下構造を可視化するアプローチが効果的であることを示した。併せて,効果的な調査を計画するために,想定される地質モデルにおける最適な観測レイアウトや解析手法の適用性などについて,数値シミュレーションを用いたフィージビリティスタディにより事前検討する事の重要性も示された。
著者
堀内 茂木 上村 彩 中村 洋光 山本 俊六 呉 長江
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.399-406, 2007 (Released:2010-06-25)
参考文献数
20

緊急地震速報は,大きな揺れが到着する前に,震源とマグニチュードを配信し,地震災害の軽減を目指すものである。我々は,緊急地震速報を実用化させることを目的として,防災科学技術研究所のHi-net他約800点のリアルタイム地震観測データを利用して,P波が観測されてから数秒間で信頼性の高い震源を決定するシステムの開発を行った。このシステムは,P波到着時刻の他に,P波が到着してないという情報を不等式で表すことにより震源決定を行っている。この手法の利点は,到着時刻データの中にノイズや別の地震のデータが混入した場合,残差の小さい解が存在しなくなり,ノイズ等の混入を自動的に検出できる点である。本研究では,ノイズ等のデータが混入した場合,それを自動的に除去するアルゴリズムを開発した。また,2個の地震が同時に発生する場合の解析手法を開発した。その結果,99%の地震について,ほぼ正確な情報が即時的に決定できるようになった。このシステムは,気象庁にインストールされ,緊急地震速報配信の一部に利用されている。現在の緊急地震速報には,約30km以内の直下型地震に対応できない,震度推定の精度が低いという課題があるが,地震計を組み込んだ緊急地震速報受信装置(ホームサイスモメータ)が普及すると,これらの課題が一挙に解決されると思われる。
著者
鈴木 恭平 佐藤 浩章
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.49-67, 2019 (Released:2019-06-07)
参考文献数
24

本研究では、地震波干渉法による共通仮想震源によるグリーン関数を用いた位相速度推定法の適用性を検討するために,若狭湾地域の16 地点で連続観測を実施し,相互相関関数のシグナルが大きい正側およびシグナルが小さい負側のそれぞれを用いた場合について,位相速度を推定しその結果を比較した。共通仮想震源から観測点への伝播に対応する側の相互相関関数のシグナルが明瞭な場合,共通仮想震源によるグリーン関数から安定して位相速度を推定することが可能であり,自然地震を用いた場合の位相速度とも調和的であった。一方,共通仮想震源からの伝播に対応する側の相互相関関数のシグナルが不明瞭な場合,位相速度の推定ができなかった。そこで,遅れ時間の正負を反転させた相互相関関数を共通仮想震源によるグリーン関数として用いた結果,良好に位相速度を推定できることがわかった。さらに,本研究のように相互相関関数が正負非対称となる場合には,シグナルが強くなる方向に観測点を配置することでも,位相速度推定が可能となることを示した。
著者
小林 佑輝 成瀬 涼平 薛 自求
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.56-70, 2018 (Released:2018-09-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

近年の技術進歩により,坑内に展開した光ファイバーをジオフォンの代わりとして使用するDistributed Acoustic Sensing(DAS)計測が注目されており,将来の低コストでの長期モニタリングのツールとして大いに期待されている。二酸化炭素地中貯留技術研究組合は,2017年8月に,大深度および傾斜井で,かつ,コイルドチュービング内に展開した光ファイバーを用いてのDAS-Vertical Seismic Profile(VSP)記録の評価を目的に,国内陸域の坑井においてDAS-VSP現場実証試験を実施した。貴重なDAS計測の機会を活用し,人工震源での発震作業を行えない夜間には,バックグラウンドノイズデータ取得のため連続DAS計測を行った。計12時間の連続計測期間中,通常のバックグラウンドノイズとは明らかに異なるイベントを観測した。同イベントと他のノイズイベントとの比較から,同イベントが自然地震によるものであると結論付けられた。気象庁解析結果と比較したところ,8月27日4:15(Japan Standard Time) に調査井からの震源距離約16 kmで発生したマグニチュード2.3の地震と同定できた。周辺のHi-net観測点波形データの解析結果と比較し,本調査期間中にDAS計測の検出感度を超えていた地震は上記地震のみであると考えられる。DAS計測を用いた地震観測には依然克服されるべき課題が多いものの,従来のジオフォンによる坑内観測と比較しメリットが多い同手法による長期地震観測の可能性が示された。
著者
狐崎 長琅
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.631-642, 2005 (Released:2007-11-02)
参考文献数
14
被引用文献数
4 4

Elastic coefficients in the Biot theory (Biot coefficients) for fluid-saturated porous media are expressed by conventional elastic coefficients and porosity. Practical applicability of this theory is established by it. Derivation of Biot coefficients is generally performed by the deformation analysis in which the total stress is resolved into two components: the effective stress and the fluid (hydrostatic) stress. Use of this pair of stress components has been developed as powerful tools in soil mechanics, where soils are assumed to be the granular media whose solid parts consist of grains with point-contact. It is a problem to be considered whether the same premise underlies the expressions of Biot coefficients or not. In this point of view, we discuss the concept of this pair of stress components, and we remark that it is used in two different aspects as follows: The first aspect is evaluation of the shear resistance resulting from solid friction. In this case the effective stress is regarded as the key factor controlling the solid friction. The second aspect is utility for the deformation analysis. By converting the total stress into the above pair of components we can evaluate dilatation of the solid material and the skeleton separately. The first aspect needs the premise of granular media, but the second aspect is free from such restriction. The utility in the second aspect is demonstrated by actual evaluation of Biot coefficients. In this evaluation, we particularly assume propagation of the longitudinal plane wave as the situation of stress field. This situation is directly connected to geophysical application. Expressions of Biot coefficients as the result agree with those derived by other authors based on the situation of hydrostatic compression.
著者
岡田 真介 坂下 晋 今泉 俊文 岡田 篤正 中村 教博 福地 龍郎 松多 信尚 楮原 京子 戸田 茂 山口 覚 松原 由和 山本 正人 外處 仁 今井 幹浩 城森 明
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.103-125, 2018 (Released:2018-12-28)
参考文献数
43
被引用文献数
2

活断層の評価を行うにあたっては,断層の地下形状も重要な情報の1つである。地下数十m以深の情報は,主に物理探査の結果から得ることができる。これまでには,物理探査は横ずれ活断層にはそれほど多く適用されてこなかったが,本研究では各種の物理探査を行い,横ずれ活断層に対する物理探査の適用性について検討した。対象地域は,近畿地方北西部の花崗岩地域に分布する郷村断層帯および山田断層帯として,4つの測線において,多項目の物理探査(反射法地震探査・屈折法地震探査・CSAMT探査・重力探査)を実施した。その結果,反射法地震探査は,地表下200〜300 m程度までの地下構造を,反射面群の不連続としてよく捉えていた。しかし,活断層の変位のセンスと一致しない構造も見られ,他の物理探査の結果と比較する必要があることがわかった。屈折法地震探査は,原理的に断層の角度を限定することは難しいが,横ずれ活断層の運動による破砕の影響と考えられる低速度領域をよく捉えることができた。CSAMT探査では,深部まで連続する低比抵抗帯が認められ,地下の活断層の位置および角度をよく捉えていたが,活断層以外に起因する比抵抗構造変化も捉えていることから,他の探査との併用によって,その要因を分離することが必要である。重力探査は,反射法地震探査と同様に上下変位量の小さい横ずれ活断層に対しては適さないと考えられてきたが,測定の精度と測定点密度を高くすることにより活断層に伴う重力変化を捉えることができた。
著者
江頭 沙織 福田 真人 佐藤 啓 藤本 顕治 都築 雅年 島田 忠明
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.37-48, 2014 (Released:2017-03-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

1970年以降,我が国では地熱資源開発の促進が進められ,旧地質調査所や新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) による全国的な地熱資源調査が行われ,地熱発電所の建設が進められたが,1999年の八丈島の地熱発電所を最後に新規の発電所の建設はない。この要因として,地熱資源の多くが自然公園内に存在すること,地下に特有なリスクに起因するコスト高などがあげられる。しかしながら2011年の震災以降,地熱資源の見直しが行われ,地熱開発の促進は重要な課題のひとつとなった。   2012年8月の法律改正により,石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) に地熱資源の開発促進の機能が追加となった。この機能には,地熱開発事業者が実施する地質構造調査における助成金の交付,探査における出資,開発における債務保証などの支援,また自主的な調査による情報提供があり,さらに2013年度から技術開発事業も加わった。   本稿では,JOGMECが開始した支援事業および調査事業,ならびに技術開発の方針について紹介することとしたい。
著者
浅沼 宏
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.49-54, 2014 (Released:2017-03-02)
参考文献数
19
被引用文献数
1

地熱エネルギーは賦存量,安定性,温室効果ガス排出量などの面で優れた特徴を有する再生可能エネルギーである。特に,火山国であり,世界的にも地温勾配が高い我が国においては有望なエネルギー源であると認識されている。地熱エネルギー利用の一形態に地下の貯留層から高温の熱水や蒸気を坑井を介して取り出し,それによりタービンを回転させて発電する地熱発電がある。このためには,約200℃以上の熱水や蒸気を蓄えた貯留層の開発を行う必要があるが,このような地熱貯留層はきわめて偏在していることに加え,高透水性の亀裂は貯留層内に不均質に分布しているため,このことが地熱開発の不確定性を高め,高発電コストの遠因のひとつとなっている。この中で,地下に掘削した坑井に高圧の流体を注入する等により既存亀裂の透水性を高める,あるいは新たに亀裂を生成し,人工的に地熱貯留層を拡大・作成する技術の開発が行われてきた。このように人為的手段により作成された地熱システムはEGS (Engineered Geothermal Systems) と呼ばれ,欧米では地熱開発の中心的手段となっている。我が国においてもEGSは地熱発電量の拡大,持続性の維持のために有効であると認識されている。EGSにおいては開発ターゲットとなる岩体の性状の把握,および亀裂システム作成時のモニタリング等において物理探査技術の果たす役割は大きいが,EGSでは貯留層を形成する個々の亀裂の評価・モニタリングが必要とされるため,今後さらなる技術開発が必要である。
著者
笠松 健太郎 山中 浩明 酒井 慎一
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.265-275, 2015
被引用文献数
1

&nbsp;&nbsp;地震動評価で重要となるS波速度構造モデルの構築に資するため,深部地盤の二次元S波速度構造を推定する手法について検討した。本手法では,二次元仮定が成立する伝播経路を対象とした構造推定のため,はじめに観測記録を分析してラブ波伝播特性を調べる。次に,ラブ波がほぼ同じ方向に伝播する測線上の観測記録を用いて,ラブ波を対象とした波形インバージョンを行い,二次元S波速度構造を推定する。提案手法を2011年富士山付近の地震(<i>M</i><sub>J</sub>6.4)を対象とした地震動の三次元シミュレーションによる周期6~10秒の速度波形に適用し,手法の妥当性を確認した。この手法を同地震の相模原と世田谷を結ぶ測線上の地震観測記録に適用し,この断面の二次元速度構造を推定した。観測記録のラブ波成分は良く再現され,推定結果の速度構造は地震調査研究推進本部(2009)のモデルに比べて堆積層が薄く求められた。この結果の妥当性を確認するため,観測記録のcoda部分を用いて水平上下スペクトル比を算定し,理論によるレイリー波の基本モードの楕円率と比べた。観測されたピーク周期は推定結果の方と良く一致しており,構造モデルが妥当であると考えられることを確認した。<br>
著者
稲崎 富士
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.45-55, 2013-01-01
参考文献数
22
被引用文献数
1

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では,震源域から離れた東京湾に面した埋立て地域においても広範かつ大規模な地盤液状化・流動化被害が認められた。そのような大規模液状化被災地の一つである千葉市幕張海浜公園において,液状化メカニズムの解明を目的とした物理探査および地質学的総合調査を実施した。このサイトは地震直後に広範囲に液状化し,延長100m以上に達する数条の地割れから大量の噴砂が流れ出た。また地表が波打つ「地波」も発生したことから,地割れ部だけでなく全域的に液状化が発生したことが推定された。この公園内に長さ120mの探査測線を2本設定し,高分解能S波反射法地震探査および高精度表面波探査を適用した。さらにこの測線上の7地点においてコーン貫入試験およびサイスミックコーン貫入試験を実施した。このうち4地点ではオールコアボーリングも実施している。物理探査の結果,深さ20m程度までの浅部地質構造を明瞭にイメージングすることができた,また深さ3~5m付近の埋土層部に低S波速度ゾーンが連続していることが認められた。この深度では細粒シルト層の内部構造が乱れていることが確認され,流動化によって変形・破壊を受けたことが示唆された。一方堆積学的解析によって液状化した砂層を特定することができたが,その層準ではコーン貫入試験による過剰間隙水圧が負圧を示し,注水試験(HPT)でも相対的に注入圧が小さい区間として特徴づけられることがわかった。従来の液状化調査・判定はボーリング調査で求められたスポット的な<i>N</i>値と細粒分含有率を示標としており,液状化現象の全体像を把握することが困難であった。これに対し詳細な物理探査を適用することによって液状化層の空間的広がりとその物性を把握することが可能であることがわかった。<br>
著者
上田 匠 Zhdanov Michael S.
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.295-306, 2009-06-01
参考文献数
31
被引用文献数
1

&emsp;本論文では,近年海洋石油ガス探査に利用されている海洋人工(制御)電流(信号)源電磁探査 (Marine CSEM, MCSEM) 法の逆解析へのTikhonov正則化 (regularization) と電磁 (EM) マイグレーションの適用について詳細に検討した。MCSEM法データの3次元解析は,取得データ量の増加や解析領域の複雑化による計算コスト上昇のために非常に困難な数値計算問題の一つとなっている。<br> &emsp;この問題に対処するために,本稿では電磁マイグレーションによってヤコビアン行列を計算するTikhonov正則化法の適用を試みた。また,より安定した解を得るために正則化逆解析の解法として共役勾配法を採用した。さらに反復計算における順解析部分には,高速化のために多重格子準線形 (Multigrid Quasi-Linear, MGQL) 近似 (Ueda and Zhdanov, 2006) を使用した。本稿で開発した手法を,海底下の3次元高比抵抗異常領域を想定した数値モデルを用いて検証した。その結果, MCSEM法データの解釈へ適用可能なことがわかった。<br>
著者
笠谷 貴史
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.1-2, 2020

<p>2008年に始まった文部科学省による「海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム」(2011年度に「海洋資源利用促進技術開発プログラム」へと名称を変更,以下,基盤ツール)を契機に,日本国内における探査技術の開発が始まった。物理探査誌でも2011年の64巻4号において,基盤ツール等で開発中であった探査手法に関する特集「海底熱水鉱床探査の未来」が組まれ,会員の皆さまに当時の最新の開発動向を紹介した。2014年度からは内閣府戦略的イノベーションプログラムによる次世代海洋資源調査技術「海のジパング計画」(以下,「海のジパング計画」)が始まり,熱水鉱床のみならず,コバルトリッチクラストやレアアース泥など,様々な海洋金属資源に関する成因研究が始まると共に,様々な探査技術の開発も並行して行われた。「海のジパング計画」における探査技術開発では,大学や研究機関による研究開発のみならず,それらの技術移転あるいは民間企業が主導する技術開発が行われると共に,実海域において民間企業による調査航海が行われたことが大きな特徴であり,それらの技術的な成果は「海底熱水鉱床調査技術プロトコル」としてまとめられた。また,環境を持続的に利用するため,近年では海底資源開発に関する海底環境への影響を評価することが非常に重要になってきたため,環境影響評価に関する調査手法・評価技術の構築も課題の一つとなった。この「海のジパング計画」は2018年度で終了し,探査技術の開発の一つの大きな区切りを迎えた。</p><p>物理探査学会会誌編集委員会では,「海のジパング計画」で大きく進展した熱水鉱床に関する物理探査技術を用いた探査事例や,海洋資源開発を取り巻く状況を会員の皆さまにいち早くお届けするため,特集「海底熱水鉱床探査に向けて」を企画した。本特集は,熱水鉱床探査に関わる広い範囲をカバーする7編からなり,そのうち2編はこれからの物理探査・資源開発と切り離して考えることが出来ない環境影響評価に関するものとなっている。</p><p>簡単に本特集の紹介をしたい。中核となる探査技術に関しては,民間企業が中心となって進められた音波探査(多良ほか),電気・自然電位探査(久保田ほか),重力探査(押田ほか)の3編で,熱水域で実施された最新の興味深い観測・解析事例が紹介されている。北田ほかでは,地球深部探査船「ちきゅう」の掘削航海時に実施された高温高圧下での孔内検層技術にチャレンジングな事例について述べている。環境影響評価については,海底での資源開発と環境影響評価に関する論説(山本ほか)と,実際の調査業務に関しての技術動向についてまとめた技術報告(後藤ほか)の2編があり,これらにまとめられた環境影響評価の必要性や技術動向は,本学会の会員に大いに参考になると思われる。そのほか,「海のジパング計画」で作成された「海底熱水鉱床調査技術プロトコル」に則って概査から準精査に至る技術検証とAUVの活用に関するケーススタディ(笠谷ほか),探査技術の進展による科学的成果を中心とした解説(石橋・浦辺)も掲載されている。</p><p>本特集の著者の皆さまからは,スケジュールの厳しい中,技術開発・研究の最新の成果についてご寄稿いただき,会誌編集委員会からお礼申し上げたい。今回の特集は,気軽に読んでいただけるよう,技術報告やケーススタディ,解説を中心とした構成となっている。本特集が,海洋における物理探査技術の活躍する場を大きく広げ,今後のさらなる技術開発の方向性を考える契機となれば幸いである。</p>
著者
山下 幹也 三浦 誠一 羽角 華奈子 深尾 良夫 勝又 勝郎 小平 秀一
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.111-118, 2013-04-01
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年,マルチチャンネル反射法地震(MCS)探査は海底下のみならず海洋微細構造イメージングに適用できることが知られ,&ldquo;Seismic Oceanography&rdquo; という新しい分野として国内外で研究が進められている。しかしながら用いられるデータの多くが地下構造調査を目的としたデータの二次利用であり,必ずしも海洋微細構造を対象としたものではない。そのため様々な調査仕様のデータが存在するため,統一した評価をするのが困難である。そこで本研究では同じ測線に沿った複数のMCS 探査を行ったデータに対してイメージングを行い,調査仕様が海洋微細構造イメージングにどのような影響があるかを評価することを目的とする。仕様によって構造に与える影響を考慮して断面を評価することが可能になることにより,これまでに地下構造探査で得られた膨大なレガシーデータを有効利用することが可能になる。<br> 本研究ではこれまでに取得した既存MCS探査測線の中から海洋中の反射面が卓越している伊豆小笠原海域に着目し,共通する測線のデータで比較を行った。用いたのは同一海域において3つの調査仕様によって得られたデータ,および同一測線・同一MCS 仕様でエアガン・ストリーマー深度が異なる場合のデータである。しかしながら本研究で用いたデータは調査時期が離れているため海洋構造自体の評価は困難であるため,イメージングによって得られる反射断面の特徴にのみ着目して比較を行った。それぞれのデータを用いてイメージング比較を行うことにより,海洋微細構造イメージングに対してMCS探査仕様の違いによる影響が明らかになった。<br>
著者
楮原 京子 加野 直巳 山口 和雄 横田 俊之
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.345-357, 2011 (Released:2016-04-15)
参考文献数
23

新潟沿岸はひずみ集中帯に属し,ここでは1964年新潟地震,2007年新潟県中越沖地震が発生している。しかし,沿岸域は地質情報の乏しい領域であり,海陸境界部の地質構造の詳細は解明されていない。本研究では新潟海岸南西部において陸から海へと連続する活断層と推定されていた長岡平野西縁断層帯・角田・弥彦断層の位置・形状を明らかにするため,断層推定位置を横断する2測線での新規反射法地震探査と石油公団(現・独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)基礎物理探査「新潟~富山浅海域」の再解析を行った。データの処理は共通反射点(CMP)重合法を用いた。その結果,陸域断面,海陸接合断面,海域断面のいずれにおいても,堆積層が東へ大きく撓む構造が認められ,角田・弥彦断層が明らかに陸域から海域にのびる断層であることが示された。断層上盤側の堆積構造ならびに褶曲構造の特徴から,角田・弥彦断層がテクトニックインバージョンを背景とする逆断層で,その逆断層としての活動開始時期は西山層堆積中であると推定された。そして,西山層上面を基準とした場合,角田・弥彦断層に付帯する褶曲変形は幅約2kmにおよび,角田・弥彦断層の分布は海岸線付近において屈曲・分岐していることが明らかとなった。
著者
佐々 宏一
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.227-235, 2020 (Released:2020-12-04)
参考文献数
16

日本の研究者が実施した最初の物理探査は1915年にマーシャル諸島で京都帝国大学理学部の松山基範がエトベス重力偏差計を用いて実施した重力探査であり,その探査目的はサンゴ礁の下の岩盤面の深さである。内地で最初に実施された物理探査は1919年に京都帝国大学工学部の山田賀一がターレンティベルグ磁力計を用いて兵庫県宍粟郡高野鉱山で実施した磁気探査である。電気探査は1924年に九州帝国大学工学部の小田二三男が実施した自然電位法探査であるが,詳細は明らかでは無い。論文として最初に公表された電気探査は翌年の1925年に京都帝国大学工学部の藤田義象がSchlumberger式探鉱機を用いて柵原鉱山等で実施した自然電位法である。最初の地震探査は1931年に山形県梵字川上流渓谷で水力発電所用の堰堤建設予定地点の川底砂礫層の厚さを求るために東京帝国大学理学部の波江野清蔵が実施した屈折法探査である。我が国で作成された最初の地震波動の数値シミュレーションを行い得るプログラムは,筆者が京都大学工学部に在職中に作成し,Days2-Codeと名付けたプログラムである。本州四国連絡橋公団は南備讃瀬戸大橋建設のために世界で最初の海底無自由面発破という特殊発破を計画した。そこで筆者はこの特殊発破によって発生する全ての現象を予測するための数値シミュレーションを1974年に実施した。本州四国連絡橋公団はその結果を参考にして1975年に試験発破を実施した。試験発破によって発生した地盤振動の実測結果はシミュレーションによる予測結果と対比され,両者が良く一致していることが確認された。なお,実測された地盤振動の大きさは従来から用いられていた発破振動推定式を用いて計算された値の約7倍であった。このことからDays-2 Codeによるシミュレーションの有効性が確認された。
著者
大熊 茂雄
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.236-254, 2020 (Released:2020-12-04)
参考文献数
38

日本での物理探鑛の始まりについて,文献資料をもとに検証を行ってきた。当学会では,京都帝国大学の山田賀一が,大正8年(1919年)兵庫県高野鉱山で磁鉄鉱を調査するために磁気探鉱を実施したのが日本で最初の物理探鉱であるとされている(編輯委員会,1948)。一方,佐藤(1985)は,地質調査所の関野修蔵が明治24年(1891年)に釜石鉱山で鉄鉱床の調査のため磁気測量を行ったことを紹介し,これが日本で最初の物理探鉱であったろうと述べている。当時としては国際的にも先駆的な調査ではあったが,観測点が僅か9点で,磁気測量も伏角,偏角のみしか観測されておらず,また観測結果の表示や解釈も十分ではなかった。特に報告書に添付されているはずの観測箇所が記された地質図が図書館を通じた文献調査でも入手できなかったことは成果の評価を困難としている。ただし,当時,観測手続や観測点の環境が記された野帳は地質調査所に保管されており,関野による釜石鉱山での磁気測量の際の野帳もあったに違いない。しかし残念なことに,地質調査所の庁舎は大正12年(1923年)の関東大震災により焼失し野帳を含む多くの諸資料が失われてしまった。また,関野自身も本業の地形課の業務に忙殺されるとともに,関野が関わった第一次全国磁気測量結果に基づく恩師ナウマンの論文に係わる地質学的論争の影響を受けて,磁気測量へのさらなる関与に躊躇した可能性がある。このようなこともあり,釜石鉱山における関野の調査は忘れ去られ,日本で最初の磁気探鉱(物理探鉱)とは認定されなかったと考えられる。釜石鉱山では,関野の調査に遅れること35年後の大正15年(1926年)に京都帝国大学の藤田義象による磁気探鉱が実施され,新鉱床の発見に至ったという(藤田,1928)。奇しくも新鉱床が発見されたのは,関野の調査で偏角異常が観測された佐比内峠のすぐそばであった。
著者
楠本 成寿
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.277-287, 2015 (Released:2017-03-02)
参考文献数
58
被引用文献数
3 4

ダイクのように,一様な傾きをもつ2次元的な構造の傾斜角推定に用いられる手法を,断層や構造境界の傾斜角推定に応用した。応用に先立ち,断層あるいは構造境界の傾斜角の推定に応用できるかどうかの数値テストを行った。その結果,それらの傾斜角を推定でき,推定された傾斜角の分布から正断層と逆断層の違いを識別できることが明らかになった。実フィールドへの応用として,伊予灘から別府湾を経て豊肥火山地域に至る地域周辺の重力異常に本手法を適用し,既存研究で得られている構造傾斜角と調和的な傾斜角分布を得た。
著者
湊 翔平 辻 健 野口 尚史 白石 和也 松岡 俊文 深尾 良夫 ムーア グレゴリー
出版者
物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.509-520, 2009-10

地震波海洋学において,海水中の微細な温度構造を推定するために,高速波形計算法と焼きなまし法を組み合わせたフルウェーブフォームインバージョン手法を開発した。焼きなまし法を利用することで,初期モデル依存の少ないインバージョンが可能となった。このインバージョン手法を,紀伊半島沖黒潮流軸周辺で取得された反射法地震探査データに適用した。この反射法地震探査データは,南海トラフの内部構造の解明を目的とした3次元探査の一部であり,黒潮の流軸を横切るように取得されている。インバージョンで得られた海水中の2次元音波速度構造から,海水中に高速度層と低速度層が互層状に分布し,これらの互層構造が海岸から黒潮の流軸に向かって傾いていることが判明した。経験式を用いて音波速度を温度に変換することで,最終的に海水中の2次元温度構造を得た。しかし結果の一部では,これまで知られている観測結果よりも層厚が薄く,層間の速度変化が大きい構造が卓越した。この原因を調べるために,インバージョンに対するノイズの影響を検証した。有限差分法で計算した擬似観測記録にホワイトノイズを加えてインバージョンを実施した結果,S/N比が小さい場合,速度変化が現れる深度はほぼ正しいものの,その速度コントラストは真のモデルより大きくなる傾向が認められた。シミュレーション結果の検討から,今回の紀伊半島沖のデータをインバージョンして得られた音波速度構造が,ホワイトノイズの影響によって実際の構造よりも音波速度コントラストが大きく解析されている可能性が示唆される。
著者
淺川 栄一 ウォード ピーター
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.155-170, 2007
被引用文献数
1

マルチコンポーネント反射法地震探査技術は、近年のデータ取得・データ解析技術の進歩により著しく改良されてきた。特に海域における探査の場合は、ジオフォン3成分とハイドロフォン成分の合計4成分のOBC(Ocean Bottom Cable、海底ケーブル)が実用化されてきており、水深1000mを越える海域においてのリザーバーキャラクタリゼーションや資源探査に使われる様になってきている。マルチコンポーネント反射法地震探査技術に伴うPS変換波のデータ処理.や解釈は比較的新しいトピックであるため、世界的にもデータそのものの公表や処理・解析実績や報告が少ない。PS変換波を使った探査としては、従来、1次元解析、VSP解析やOBS(Ocean Bottom Seismometer、海底地震計)データ解析と限られた分野での適用にとどまっていた。最近になって、OBCによる2次元、3次元反射法地震探査が実用化されてきた。PS変換波を使った場合に、岩相のさらに詳しい情報が得られるため、主としてリザーバーの評価に用いられている。また、通常のP波のみでは反射が得られにくい音響インピーダンスのコントラストが小さい場所でも、PS変換波によって明瞭な反射イベントが得られることがある。PS変換波のデータ処理・解釈の情報が不足している現状で、我々が実データを用いて実際のデータ処理例を示すとともにその問題点を検証することは、本技術の今後の発展に非常に意義のあることと考えている。<br> 未だ、日本近海において本格的なマルチコンポーネント反射法地震探査を実施した例はない。そのため、本論文では、1998年にノルウェーのPGS社が取得した2次元の4成分OBCデータを用いることとする。このデータは、石油公団石油開発技術センター(現、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構)がメタンハイドレート資源探査のための研究用として2002年にPGS社から購入したものであり、その研究の一環でハイドレート賦存層やBSRの物理的特性を決定するためにPS変換波の評価を行っている。このOBCのデータは、北海のノルウェー沖で「ストレッガースライド(Storegga Slide)」と呼ばれる地滑り地域で取得されたものである。通常の2次元海上地震探査と同じ測線で取得されており、2次元海上地震探査ではBSR(Bottom Simulating Reflector)が認められている。本データの処理結果は、Andreassen et. al. (2001)で報告されている。そのなかでは、ハイドレート賦存層やBSRにおいて、PP断面図とPS断面図の著しい違いが認識された。すなわち、BSRはPP断面図では明瞭に見えるにもかかわらず、PS断面図では認識できにくい。この事実は、PS変換波が物理的に他の情報をふくんでいることを示唆している。本論文では、PGS社のデータの再処理を行い、主としてデータ処理技術の問題点を検証し、解決方法の検討をする。<br>
著者
芦谷 公稔 佐藤 新二 岩田 直泰 是永 将宏 中村 洋光
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.387-397, 2007
被引用文献数
13

鉄道における地震災害を軽減するには事前に施設の耐震性を向上させることが基本であるが,一方で,地震発生時は迅速かつ適切に列車運行を制御することにより事故を未然に防ぐことが重要となる。そこで,鉄道総研では新幹線を中心に早期地震検知・警報システム(ユレダス)を開発,実用化してきた。しかし,近年では,リアルタイム地震学の分野の研究開発が進展し,早期地震警報に関する貴重な知見が蓄積されてきた。また,気象庁など公的機関の全国ネットの地震観測網が整備され,その即時情報(緊急地震速報という)を配信する計画が進められている。こうした状況を踏まえ,鉄道総研は気象庁と共同して,緊急地震速報の処理手法やこの情報を活用した鉄道の早期地震警報システムの開発を行ってきた。<br> 本論では,まず,P波初動検知後数秒で震源の位置やマグニチュードを推定するために新たに開発した,B-&Delta;法やテリトリー法,グリッドサーチ法について紹介する。次に,緊急地震速報を活用した地震警報システムの概要を紹介する。このシステムは緊急地震速報を受信すると,線区沿線での地震の影響度合いをM-&Delta;法により推定し,影響があると判断した場合は,列車無線により自動的に走行中の列車に緊急停止の警報を発信するものである。また,最後に,鉄道におけるリアルタイム地震防災の今後の展望について述べる。<br>