著者
合田 明生 福田 寛二 上田 昌美 本田 憲胤 大城 昌平
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.102-103, 2013-04-20

【目的】本研究は,理学療法における運動処方の効果を神経細胞レベルで検討した。近年,運動が神経細胞の分化,成熟,生存の維持を促進する神経成長因子ファミリーの一種である脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor:BDNF)を増加させ,認知機能を維持改善する可能性が示唆されている。ヒトにおける運動時のBDNF分泌増加のメカニズムの要因として,有酸素運動による交感神経活動亢進がBDNFの分泌を増加させることが仮説として考えられ,本研究ではその仮説検証を行った。【方法】健常成人男性10名を対象とした。対象者は,最高酸素摂取量の60%の中強度有酸素運動を30分間実施した。運動の前後で採血を実施し,末梢血液中のBDNF,ノルアドレナリン(Noradorenaline:NA)を測定した。運動中の交感神経活動指標としてNAを用いた。以上の結果から,運動前後のBDNF変化と交感神経活動の変化(NA)の関連性を検討した。【結果】中強度の有酸素運動介入によって,10名中5名では運動後に血清BDNFが増加したが,運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=0.19)。またBDNF変化量と交感神経指標の変化の間(r=0.38,p=0.27)には有意な相関は認められなかった。【結論】健常成人男性における30分間の中強度有酸素運動は,末梢循環血流中のBDNFを有意に増加させず,運動によるBDNF変化には,交感神経活動は関連しないことが示唆された。
著者
菅原 憲一 鶴見 隆正 笠井 達哉
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.48-56, 2000-03-31

経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(Motor Evoked Potential:MEP)の変化を指標にして, 遠隔筋随意収縮および関節肢位変化により生じる促通動態を, 橈側主手伸筋(ECR)と橈側主根屈筋(FCR)を対象筋として検討した。被検者は健常男性8名であった。運動課題は咬筋の一過性の随意筋収縮で, 収縮開始から100, 200, 300, 600msecの各時間遅れ(delay)で磁気刺激を与え, それぞれの筋からMEPを誘発した。また, この条件下で前腕肢位変化を回内位と回外位の2つで行った。咬筋の収縮のないRESTの状態でのMEP記録を基準に, 各条件下で誘発されたMEPの振幅および潜時の変化を調べた。その結果, 咬筋の収縮開始からの時間経過に伴う効果は, REST時のMEPと比較して, 振幅においてはECRで回内位・回外位ともにdelay100, 200, 300にて有意(各p<0.05)に増大した。また, FCRでは回内位ですべてのdelayにおいて有意(p<0.05)な増大を示したが, 回外位ではdelay100, 200のみで有意(p<0.05)に増大した。潜時については, ECR, FCRともに回内位と回外位の両肢位delay100, 200で有意(p<0.05)に短縮した。肢位変化による特異的な変化として, FCRにおいて各delayとも回内位でより大きな促通を示した(p<0.05)。また, ECRでは, 回外位でより大きな促通傾向を示したが有意な増大ではなかった。これらの結果から, ある筋に促通効果を及ぼすこの2つの方法は, 脊髄の運動細胞のみならず, 錐体路細胞にも促通効果を生じさせることが明らかになった。特に, 遠隔筋促通に関しては, その中枢性ファシリテーションにおけるタイミングの重要性が再確認され, 肢位変化に関しては, 神経細胞の興奮性に対する肢位特異性があることが示唆された。
著者
杉原 俊一 田中 敏明 宮坂 智哉 前田 佑輔 泉 隆 伊福 部達
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【はじめに】半側空間無視(USN)の空間認知には複数の座標系の関与が考えられ,我々はHMD(Head Mounted Display)による視覚呈示方法を用い,身体を中心に対象物の方向を位置づける身体中心座標と身体以外の対象物,または参照枠を中心に位置づける物体中心座標を人工的に作り,机上検査と動作分析より空間認知の障害として捉えたUSN障害像について検討を進めている.先行研究ではHMDを用いて座標系の違いにおける無視状況の変動を報告した.本研究は異なる座標条件でのより詳細な検討を試みるため,HMDの評価に加え,眼球運動および頭部・体幹運動の同期計測を含めた新しい検査システムを開発した.そこで本システムを用いた症例検討として左USNに対する評価・治療へのHMD応用について報告する.<BR>【症例紹介】被験者は研究内容を理解し同意を得られ,右脳梗塞後遺症により左USNを有する62歳男性である.石合らによる日常生活動作・訓練場面におけるUSN評価では10項目中7全項目で無視症状を認めた.<BR>【方法】机上検査には行動性無視検査(BIT日本語版)の線分抹消試験を用いた.被験者は椅座位を基本測定肢位とし,1)通常の机上検査,2)上方に固定した小型CCDカメラで机上の検査用紙のみを撮影しHMDの眼鏡状液晶ディスプレーに投影する物体中心条件,3)小型CCDカメラ内蔵のHMDで机上の検査用紙を投影する身体中心条件,の3条件で検査を実施した.更に2)・3)に関して,(A)HMDに投影する映像を画面の両端を基準に左右方向に75%および60 %に縮小した条件,(B)映像の左側に点滅する矢印を表示する条件の画像修正で検査を実施した.分析方法は線分抹消試験の中央列4本を除き紙面を左と右に2分割し,抹消した線分の抹消率を求め,各条件について比較検討した.また,検査前には超小型CMOSカメラを搭載した重量85gのヘッドユニットで両眼球運動を撮影し,検査中はデジタルビデオカメラを用い体幹・頭部の運動を同時記録した.<BR>【結果】通常検査と物体中心の抹消率は共に左紙面は0%,右紙面は各々100%で,身体中心は左紙面抹消率89%,右紙面抹消率94%であった.物体中心(A)の右縮小60 %は同様の傾向を示し,更に(B)により左紙面の末梢率が上昇した.身体中心でも(A)に(B)を加えると左紙面の末梢率が上昇した.通常検査時の眼球運動では左側への眼球運動を認めず,物体中心条件の(A)では頭部は縮小方向への回旋位で保持し,身体中心では縮小方向に係わらず左回旋位での保持を認めた.<BR>【考察】HMD使用に加え眼球・頭部・体幹運動分析により,通常検査に比べよりUSN障害度を統合的に評価できるシステムを構築した.また,画面縮小,注意喚起用矢印などを加工してHMDによる視覚情報呈示を行うことにより無視環境を改善させ得る可能性が示唆された.<BR><BR><BR>
著者
西田 まどか 沖田 実 福田 幸子 岡本 直須美 中野 治郎 友利 幸之介 吉村 俊朗
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.304-311, 2004-08-20
参考文献数
13
被引用文献数
7

本研究では,関節固定法と後肢懸垂法を組み合わせたラットの実験モデルを用いて,持続的伸張運動と間歇的伸張運動が拘縮と筋線維におよぼす影響を検討した。Wistar系雄ラット17匹を対照群3匹と実験群14匹に分け,実験群は両側足関節を最大底面位で固定した上で後肢懸垂法を2週間行った。また,実験算は固定のみの群(固定群,4匹),固定期間中に麻酔下で毎日30分問,ヒラメ筋に持続的伸張運動を実施する群(持続群,6匹),同様に間歇的伸恨運動を実施する群(間歇群,4匹)に分け,実験終了後は足関節背面角度とヒラメ筋の組織病理学的変化を検索した。足関節背面角度は持続群,間歇群が固定群より有意に高値を示したが,この2群のヒラメ筋には著しい筋線維損傷の発生が認められた。よって,持続・間歇的伸張運動ともに本実験モデルの拘縮の進行抑制に効果的であるが,ヒラメ筋に対しては悪影響をおよぼすことが示唆された。
著者
池田 崇 増田 真希 辻 耕二 鈴木 浩次 北原 侑奈 野田 玄 平川 和男
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.453-459, 2010-12-20
参考文献数
22

【目的】本研究の目的は,低侵襲性人工股関節全置換術(MIS-THA)における術前身体活動量と術前・術後の下肢機能との関係を明らかにすることである。【方法】MIS-THAを施行した女性66例を対象に,国際標準化身体活動量問診票を用いて1週間の消費kcalを求め,高活動群と低活動群に分類した。術前から術後6ヵ月間まで理学療法介入を行い,追跡調査した。等尺性外転筋力,疼痛,10m歩行時間,関節可動域,日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA),生活状況(就業状況と環境因子)の評価を実施した。【結果】高活動群は,術前の10m歩行時間は有意に短く,JOA,立ち仕事の割合は有意に高値を示した。他の項目は差を認めなかった。身体活動量と外転筋力に相関は認めず,術前と術後2ヵ月の外転筋力に有意な正の相関を認めた。【結論】術前身体活動量は,就業状況と関係し,10m歩行時間と相互に関係する可能性が示唆された。外転筋力と疼痛は,影響を認めなかった。一方,術前の外転筋力は術後2ヵ月の外転筋力に関わることが示唆された。術前の理学療法は,身体活動量の維持よりも,筋再教育・筋力増強練習の実施が望ましいと考えられる。
著者
松尾 篤 冷水 誠 前岡 浩 森岡 周
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.138-139, 2011
参考文献数
3

我々は,経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が,健常者の上肢の運動機能を向上させるかどうかを検証した。健常若年者20名(平均年齢21.5 ± 1.2歳,男性16名,女性4名)を対象者とし,研究デザインはシングルブラインドクロスオーバーコントロール研究とした。tDCS刺激条件は,陽極tDCS条件と偽性tDCS条件とし,陽極を右運動関連領域(C4)に設置し,1 mAで20分間の刺激を実施した。測定アウトカムは,左上肢での円描画課題による軌跡長とはみ出し面積,左手握力とした。陽極tDCS後に円描画課題のはみ出し面積に有意な減少効果を認めた。他の測定項目,および偽性tDCS条件においては有意な変化を認めなかった。本結果より,陽極tDCSが健常者の非利き手での運動の巧緻性を変化させることが示唆され,tDCSによる運動関連領野の興奮性増大が関係したことが推察された。
著者
亀井 隆弘 広田 美江 梶原 秀明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.19-23, 1994-01-31

Duchenne型筋ジストロフィーに対する治療の中で, 運動療法が有効であるかどうかを明らかにするため, 週5回を原則に運動療法を行っている入所中と, ほとんど運動療法を行っていない春休み・夏休み・冬休みの長期外泊中で, 運動機能の変化の仕方に差があるか比較検討した。当院に入所した, または入所中のDMD患者のうち, 10名に3m四ばい移動時間を, 11名に3mずりばい移動時間を, 32名に握力を1年間を通して測定した。1年間の変化としては四ばい移動時間が平均9.6秒, ずりばい移動時間が平均21.5秒増加し, 運動機能の低下がみられた。しかし, 握力に関してはほぼ変化がなかった。また, 1年間を長期外泊中と, 入所中の2つに分け, 各測定項目につき, 1ヶ月当り平均変化率を計算して比較した。その結果, 四ばい移動時間・ずりばい移動時間・握力とも, 長期外泊中に悪化傾向が強まることが明らかになり, 運動療法その他, 病院内の身体活動が運動機能の維持に役立っていることが示唆された。
著者
岡田 誠 櫻井 宏明 鈴木 由佳理 才藤 栄一 武田 斉子 岡西 哲夫 加賀 順子 大塚 圭 寺西 利生 寺尾 研二 金田 嘉清
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.209-217, 2002
被引用文献数
4

現在,トレッドミル歩行は,省スペースで連続歩行が可能であるいう理由から,片麻痺患者や脊髄損傷患者などに多く利用されている評価・練習方法である。本研究の目的は,トレッドミル歩行における臨床的応用の予備的検討として,トレッドミル歩行と平地歩行の比較を運動力学的因子,特に床反力に着目して検討することにある。健常成人28名に対し,主観的な判断として「遅い」,「快適」,「速い」の3速度で平地歩行時とトレッドミル歩行時の床反力(垂直分力,前後分力,左右分力)を計測した。両歩行の床反力波形の類似性は,3分力ともに類似性の高い結果となった(r=0,76〜0,95)。床反力波形のピーク値の比較では,垂直分力第3ピーク値と前後分力第1ピーク値において3速度ともトレッドミル歩行の方が有意に低い値を示した(p<0.01)。これらの結果から,トレッドミル歩行と平地歩行には,相違点がいくつか認められたものの,床反力波形の全体としての類似性は高く,事前の予備練習や歩行速度の調整を行い環境的要因のことを考慮した上でトレッドミルを用いれば,有用な代替的手法になると考えられた。
著者
日岡 明美 沖田 学 片岡 保憲 八木 文雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.65-69, 2010-04-20
参考文献数
15

【目的】本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者に共感覚を問う課題を提示し,抽象概念を照合する能力および説明する能力を知的機能という視点から明らかにすることである。【方法】脳卒中片麻痺患者30名を対象にブーバ/キキ実験,インタビュー,知的機能検査を行った。実験手順は,ブーバ/キキ実験の回答が得られた後に,「ブーバ」および「キキ」の判断理由の説明を求める2項目のインタビューを実施した。知的機能検査としてMini-Mental State Examination,レーヴン色彩マトリックス検査,Frontal Assessment Batteryを実施した。インタビュー結果から,両方の説明が可能であった群(以下,A群),両方または片方の説明が不可能であった群(以下,B群)に分類し,2群間の各知的機能検査の評価得点を解析した。【結果】抽象概念の照合が可能であった対象者は30名中29名であり,知的機能が高い対象者と低い対象者が存在した。2群間の内訳は,A群16名,B群13名であった。2群間すべての知的機能検査の評価得点において,A群がB群に比べ有意に得点が高かった。【結論】以上のことから,抽象概念を照合する能力は知的機能とは別の能力であるということが示された。また,抽象概念の照合を説明する能力は,知的機能に依存していることが示唆された。
著者
杉元 雅晴 日高 正巳 嶋田 智明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.309-312, 2005-06-20
被引用文献数
1

褥瘡はリハビリテーション医療を遂行する上で, 大きな阻害因子となる。平成14年10月に「診療報酬改訂の対策の評価(褥瘡対策未実施減算)」という項目が組み込まれ, 褥瘡対策チームの設置が強調された。ところが, 褥瘡対策チームの構成に関する規定によれば, 専任医師1名と専任看護師1名の計2名が規定されている。ほかの職種に関する規定はないが, 薬剤師, 栄養士, 理学療法士, 作業療法士, ソーシャルワーカーなどの多くの医療関連職種が専門能力を発揮することにより, 有効なアプローチが可能になると考えられる。平成16年4月の改正で, 入院中1回のみ褥瘡管理加算(20点/入院)が新設されたが, 専任の医師または褥瘡看護に5年以上の経験を有する看護師により褥瘡診療計画書を作成し実施する。ここでも, 理学療法士が褥瘡治療にかかわる光景は認められない。褥瘡は急性の創傷などの皮膚損傷とは違って, 多くの発生要因が関与している慢性の皮膚疾患である。接触面から受ける圧